武系紋章を持つ者は剣や槍、斧など、紋章に応じた武具の扱いに長ける。更に武芸という特殊な力を閃き、扱えるようになる。

 一方で、魔法紋章は文字通り魔法が扱える紋章だ。代表的なのは火・水・土・風で、僕はその中の水属性にあたる水の紋章を授かった。

 正直言うと、僕は生まれた頃から魔力が高かった。だからきっと良い紋章を授かるはずだ、と両親からも期待されていた。しかし、僕が一二歳を迎えたとき、左手の甲に水の紋章が浮かんだ。片方しか浮かばない場合は大体利き腕が多いものの、僕は逆の手だった。

 そして、この紋章が僕の運命を決めた──。


 水の紋章は、水の属性を扱える紋章だ。だけど一般的に水属性は不遇とされていた。ガイが言っているのもこのことだろう。

「水だけは自由に出せるから補給係としてパーティーに加えていたが、それもこれまでだ」

 水だけは出せる──そう、水属性は魔力を水に変換して生み出す【給水】などが扱える。僕は魔力の量だけは多いから、この魔法で無尽蔵に水が出せる。だから、迷宮内であっても水不足だけには陥らない。

「俺たちは魔法の水筒を手に入れたからな。これでもう貴様は必要ない」

 魔法の水筒──見た目よりも多くの水を入れておける水筒だ。確かにそれがあれば僕の魔法がなくても、余裕を持って探索ができる。

「で、でも水筒だって、容量には限度があるし──」

「くどい!」

 僕が意見するも、ガイは声を張り上げ僕の言葉を制した。

「そもそもお前は戦闘で役立ったことがない。水魔法があっても、敵に水をかけてちょっとびっくりさせる程度だ。動じない相手だっている以上、意味がない。役立たず以外のなんだってんだよ!」

 ガイが眉を吊り上げ叫んだ。うぅ、それを言われると辛い──確かに、水魔法は戦闘面ではさっぱり役に立たない。水には攻撃に利用できる威力がないからだ。

「これは俺だけが決めたことじゃねぇ。そうだろうお前ら?」

「……そうね。あなたの魔法じゃ、今後は足手まといよ」

「きっとこれも神の思し召しなのでしょう」

 ガイの問いかけに、女魔法師・フィアと白ローブ姿の回復魔法師・セレナが答えた。フィアは爆属性を有し、セレナは生属性。爆は火属性の上位でその火力は凄まじい。凄まじすぎて僕の魔法で鎮火したこともあるぐらいだ。セレナの生属性は回復魔法に最適な属性だ。彼女のおかげでパーティーは安全に旅ができた。

 二人のパーティーへの貢献度は、僕とは雲泥の差だ。精々僕にできるのは、セレナの回復魔法を込めた「生命の水」を作る用の水を提供することぐらいだし。

「これが三人の総意だ。満場一致でパーティーからの追放決定だな。これでもまだ不満があるか?」

「──そう。わかったよ……」

 結局、僕は追放を受け入れることにした。最初はそれでも一緒にいられたらと思ったけど、全員が僕がいなくなることを望んでるなら仕方がない。それに──水属性が使えないのはわかっていた。だからこそ、僕は家からも追放されたんだ。冒険者として活躍できれば、少しは見返すことができるかなと頑張ったけど、一年で追放になってしまった。

 ガイに言われた通り、僕は荷物を纏めて勇者パーティーの家から出ていくことになった。ここは勇者がパーティーのために所持していた持ち家で、僕もしばらく厄介になっていた。だけど、追放された以上ここにはいられない。明日からどうしようかな──。

「じゃあみんな、さようなら。あ、部屋に魔力水は置いておくから」

「チッ、そんなものを作って。恩着せがましい奴だ」

 これまでお世話になったパーティーだし、最後に何かできればと思ったんだけどな。ガイは迷惑そうにしていた。

「……別にいらなかったら捨てていいよ。じゃあね」

「あぁ。これでやっとせいせいできる。あぁそうだ。せめてこれぐらいくれてやるよ」

 別れを告げた僕の足元に、ガイが布の袋を投げつけてきた。中を見てみると、お金が入っていた。

「手切れ金だ。後から不当な扱いを受けたなんて面倒なことを言われたくないからな。それを持って俺たちの前から消え失せろ。この町からも出ていけ。しばらくしてもまだこの町にいるようなら、全力で叩き潰すからな!」

「は? なんだよそれは。そんな条件ならいらないよ」

「黙れ! それはあくまで手切れ金だ。一度出したものを引っ込められるか! 貴様、俺に恥をかかせる気か?」

 えぇ……。返すと言っただけで文句を言われるなんて思わなかったんだけど……。

「いいから受け取って、さっさと出ていけ。たたっ切られたくなかったらな!」

 そう言ってガイが剣を抜いて恫喝してきた。な、なんだよそれ。意味がわからない。だけど、尋常じゃない殺気を感じたから、仕方なく袋を受け取ることにした。

 はぁ。それにしてもこれから一人で、どうしようかな──。

 勇者の家を出た後、しばらく僕は心がどこか遠くに旅立ったような感覚に陥っていた。

 水の紋章──不遇とされるこの紋章のおかげで、実際に僕は冒険者登録をしてからもしばらくは一人だった。冒険者とは、冒険者ギルドに登録して様々な仕事をこなす人物を指す。依頼には一人で引き受けられるものもあるけど、やっぱり一緒にいてくれる仲間がいた方が、よりレベルの高い依頼も受けやすい。だけど、不遇属性の紋章を持つ僕を受け入れてくれるような人物は、当時は本当にいなかった。そんな僕に声を掛けてくれたのがあのガイが率いる勇者パーティーだったんだ。それから一年間、自分なりに頑張ってみたけど追放か……確かに戦闘では役に立てなかった。それは事実だ。

 だけど、せめてただの水の補給係で終わらないよう、やれる範囲で工夫していた。例えば【給水】の魔法で生成される水に直接魔力を流し込み、減った魔力を回復できる魔力水を作り出せるようにした。それは、少しでも皆の役に立ちたいと思ってのことだった。

 魔力を回復するために、普通は魔力薬というのを使うんだけど、これが結構高い。僕の魔力水は魔力薬より効果も高いし、それだけ貢献できると思ったんだけどね。でも今の勇者パーティーはお金には困ってないだろうし、僕なんかに頼らなくても魔力薬ぐらい余裕で買えるんだろうな。

 はぁ、やっぱり戦闘で役に立てないのが致命的か。水じゃ精々水飛沫の魔法で嫌がらせするぐらいしかできない。威力なんてないも同然だ。せめてもう少し威力があったら……。もちろん、それが無理なのはよくわかっている。水は火みたいに燃やしてダメージを与えるなんて無理だもんね……。

「なんだ、ネロじゃないか。どうしたんだい、そんなしょぼくれた顔をして?」

「あ、神父様」

 声を掛けてきたのは、ここ、ウォルトの町で神父をしているおじさんだ。

「はは。実は僕、パーティーを追放されちゃって」

「パーティーって冒険者のかい? おやまぁ。勇者パーティーに加入できた、と喜んでいたのにねぇ」

 僕の境遇に神父は同情するような目を向けて、すぐに祈りを捧げてくれた。

「この迷える子羊に、輝ける未来が待ち受けることを望まん」

「はは、ありがとうございます」

 お礼を述べると、神父がニコッと微笑んでくれた。

「ふむ、しかし冒険者は続けるのだよね?」

「それはもう。また一人ですが」

 この神父にはよく仕事でお世話になっているから、気にかけてくれているみたいだ。

「そうかい。それなら良かった。実はまた、水を提供してもらいたくてね。ギルドには依頼を出しているのだけど」

「そうなんですか? なら、今やっていきましょうか?」

 神父の話を聞いて、僕はすぐになんとかしてあげたいと思った。

「おや? いいのかい?」

「はい。折角指名でいつもお願いしてもらってますので」

 折角だし、神父からの依頼をこの場でこなすことにした。もちろん、普通の依頼なら他の冒険者とかち合う可能性があるからできないけど、僕への指名依頼だからその心配はない。

「それならまた二四本お願いしようかな」

「喜んで! 空き瓶はありますか?」

「あるとも。じゃあ準備する間、中で待っていてもらえるかな?」

「わかりました」

「うむ。あぁ、そうだ。実は最近、庭で変わった物を見つけたんだ。用意する間ちょっと見てみるかい?」

 神父が思い出したように言った。変わった物? 一体なんだろう。神父様がここまで言うなら、ちょっとは面白い物なのかもしれない。それに、僕がパーティーを追放になったと知って、少しでも気を紛らわせることができればと気を利かせてくれているのかもしれないしね。

 僕は神父に案内されて、教会の中庭までやってきた。

「これが最近庭から出てきてね」

 庭には石造りの奇妙な物があった。円形で、木製の飾りがあるてっぺんには滑車に縄で繋がれた桶がぶら下がっていた。

「こないだちょっとした地震があっただろ? そのときにこの部分が沈んで、中から出てきたんだ」

 そういえばこないだ地震があったね。幸い怪我人は出なかったけど一部の建物が壊れたんだっけ。

「最初はダンジョン迷宮かなとも思ったけど違うみたいでね」

 ダンジョン──定期的に世界のどこかに現れる場所。中には罠が仕掛けられていたり、凶悪な魔物や魔獣がいたりと危険が一杯だけど、お宝が眠っていることが多い。ダンジョンには最深部に必ずボスと呼ばれる存在がいて、それを倒すことでより貴重なお宝も手に入るんだ。ダンジョンが出現するときには、周辺で地震が起きることが多いから、神父がもしやと思うのもわかる気がする。

「違ったんですか?」

「調べてもらったんだけどね。どうやら、昔使われていた井戸って代物らしい。古代の人間はこれで水を汲んでいたそうなんだ」

「そうなのですね」

 こんなもので水を? 話によると今は水が枯れている状態だけど、この桶で水を汲んでいたそうだ。またえらく手間がかかるね。今の時代は大体どこの町にも水道管が敷かれていて、各家庭に水が供給されるようになっている。魔導技術の発展でお湯もすぐに出るから、こういった物を使うことはないんだろうな。

「はは、興味が湧いたかい?」

 まじまじと井戸を見る僕を見て神父が言った。確かに水属性の僕としては気になるかな。本来は水が底に溜まっていたらしいし。ちなみに水属性は、近くに水があると魔法効果が上がる。これは他の魔法系の属性もそうだ。火属性は火が近ければ効果が上がるし、風は風がよく吹く場所で、土は土が特に多く見られる土地で効果が上がる。武系属性にはそういった恩恵はないけど、そもそも武系属性は属性に合った武器を使用するだけで効果が上がる。だから、後は紋章に合った武器を使い続ければ、武芸を閃くのも武系紋章の特徴。まぁ、これは魔法でも似たようなものだけどね。

「さて。瓶を持ってくるからちょっと待っててよ」

「わかりました」

 神父が空き瓶を持ってくるまでの間、井戸を見させてもらうことにした。と言っても枯れた井戸だし特に見るべきものはないかな。でも、底に水が溜まってたらどんな感じだったんだろう? ちょっと気になるかも。

 ──そうだ! 僕の魔法なら!


「水魔法・給水──」


 魔法を行使すると、手から水が放たれて、井戸の中にみるみる水が溜まっていく。ある程度溜まってきたところで、僕は給水を止めて桶を見た。多分これをおろして水を汲んだんだろうけど、一々これで水を汲むってちょっと面倒だね。まぁ所詮は水だから、繰り返す手間があるぐらいだろうけど。

 それにしてもこの車輪は何のためにあるんだろうね? こういうのって負荷を軽くするために使ったりするけど、水にそんなものが必要とは思えないな──。

 まぁいいや。僕は桶を落として水を汲んでみた。それを引っ張って持ち上げる。

 ──え?

「あれ? なんだろうこの手応え?」

 奇妙な感覚だった。何故かわからないけど、引っ張ると抵抗を感じるんだ。これが車輪の効果? でもなんでわざわざこんな重みが感じられるような仕掛けにしたんだろう。それならない方が簡単だったろうに。

 水の入った桶が井戸から上がってきた。天井でがちゃんっと音が鳴る。ふう、よくわからないけどちょっと疲れるかも。僕は水の入った桶を手にして持ってみた。縄に余裕があるから、そのまま井戸の外まで引っ張れるんだけど──。

「え? 嘘、重、い?」

 水の入った桶は重かった。

 え? でもどうして? 水に重みなんてあるわけないのに!

 単純に桶が重いだけなのかもと思い、一旦水を井戸に戻し、桶だけ持ってみた。

「か、軽い! 何これ、どういうこと?」

 水の入っていない桶は軽かった。ここから導き出される答えは、でも、そんなまさか!

「ま、まさか、水に重さがあるの?」

 それから僕は何度か桶に入れた水で、重さを確認してみた。桶に水を満タンに入れたとき、半分まで入れたとき、空のとき、それぞれ底から引っ張ってみたり、直接持ってみたりした。重さも負荷も、水の量で確かに変わった。あまりのことに僕はしばらく悩んだ。

 水が重い? そんなことがあるのか。水は無だ。そう思われていたからこそ、水属性なんて使えないとされていたのに──。

「はは。随分とその井戸が気に入ったようだね」

 神父が空き瓶を持ってきた。これに水を入れるのが僕の仕事だ。

「神父様。僕は大発見をしてしまったかもしれないのです」

「ん? 大発見?」

「は、はい。落ち着いて聞いてください。実は水には──重さがあるんです!」

 僕は今見つけた世紀の大発見を神父に伝えた。僕の話を聞いた神父の目が点になる。

「プッ、あっはっは! やれやれ、これは驚いた。ネロも冗談が言えるようになったんだね」

 神父が吹き出してしまった。どうやら信じてくれていないようだ。僕は井戸に魔法で水を溜めたことを伝えた上で、実際に水を汲んで中身の溜まった桶を神父に持ってもらった。

「どうですか?」

「ふむ。この桶は結構重いんだね」

 桶を抱えながら神父が言った。大事なのはそこじゃないのに──!!

「そうじゃないんです。それは、水の重さなんです」

「はは。まさか」

 僕が訴えると神父は怪訝そうな顔をした。もしかしておかしな子だと思われた?

「それならこれで──」

 桶の水を一旦井戸に戻し、改めて神父に持ってもらった。これで軽くなったことがわかるはずだよ。

「どうです?」

「ほう。今度は軽い。どんな手品だい?」

 神父が不思議そうに聞いてきた。だけど、疑問点が少しずれている。

「違います! 水がなくなった分、軽くなったんですよ!」

「ふむ……」

 僕が一生懸命水の重さについて伝えると、神父が顎に手を添え真顔になる。良かった。これでわかってくれたんだね。

「これは精霊の悪戯だな」

 神父は一つ頷き、僕にそう言った。

「え? 精霊の?」

「そう。ネロにも経験はないかな? 川に入ると抵抗を感じるだろう? あれは水の精霊が悪戯して、人の動きを邪魔しているからなんだ。この井戸に君が水を溜めたから、水の精霊が興味を持ってやってきたんだろう。そして悪戯しているんだ」

 疑問を感じた僕に神父が説明してくれた。精霊の悪戯──水のある場所では精霊がよく悪戯するって言われている。

 つまり重いと感じたのも精霊の仕業だったのか……でもなんだろう。妙にモヤモヤする。

「それよりこの瓶に水を溜めてもらっていいかな?」

「あ、はい」

 結局僕は水の重さについて触れるのはやめて、瓶に水を溜めて渡した。普通に考えたらそれぐらい水道の水でやればいいと思いそうだけど回復魔法の効果は普通の水には溶け込まない。僕の水だけが何故か可能なんだ。これは魔力水についても一緒なんだけどね。そして、二四本の空き瓶すべてに給水の魔法で水を注ぎ、神父に渡した。

「じゃあこれ。依頼を達成した証明書を渡しておくよ」

 僕は神父のサインが記された達成書を受け取った。これが依頼をこなした証明になる。本来ならギルドの雛形があるけどサインがあれば様式にはこだわらないんだ。

 教会を出た後、僕はその足で冒険者ギルドに向かった。結局、神父には水に重みがあることを信じてもらえなかったし、精霊の悪戯ってことになっちゃったな。

 そのまま途中の広場を抜けて、北の区画にある冒険者ギルドに向かうことにした。広場では、この町自慢の噴水が今日も涼しげに水を噴き上げていた。このあたりは水も豊富で、僕にとっては本来最適な場所なのかもしれない。もっとも、いくら水があっても、使える魔法が限定的すぎて戦闘でも扱えない──それがこれまでの水魔法の認識だった。

 広場を抜けて北に向かう。大きな車道では馬車が行き交っていた。最近は馬車に混じって魔導自動車や一角馬車というのも走り始めている。魔導自動車は馬の力がなくても魔導技術で動くようになった馬車で、一角馬車はユニコーンが引く馬車のことを言う。どちらも馬車よりスピードが出るのが特徴だけど、値が張るから庶民にはとても手が出せない代物だ。

 大きな通りはこういった馬車や自動車が走ってたりするから、渡るときはちょっと注意が必要だ。車道を渡ってしばらく歩くと、赤レンガ造りの建物が見えてきた。あれが、僕がメインで活動している冒険者ギルドだ。できてから二〇年以上経っているらしく、それなりに年季が入っている。地上二階、地下一階といった造りで、基本的な用件は一階の受付で事足りる。

 中に入ると喧騒が耳に入った。冒険者ギルドと酒場は隣接していて、普段は酒場への扉も開きっぱなしだ。ガラス張りだから向こうの様子がよく見える。これは、もし酒場で何かトラブルがあったとき、すぐにギルド側が動けるようにということらしい。

「おいおい雑魚の水野郎が一人で歩いているぜ」

「なんだ? 遂に勇者パーティーから追い出されたか」

「「「「「ギャハハハハハハ」」」」」

 酒を呑んで既に酔っ払っていそうな冒険者たちが、僕を見て大声で笑い出した。でも、これは今に始まったことじゃない。水属性は冒険者から馬鹿にされやすい。そもそも、水属性で冒険者になろうって人は少ないし、たまになろうと思ってやってくる人がいても、こんな感じで馬鹿にされて心が折れてしまうんだ。僕は見返したい相手もいるから、なんとか頑張ってこれたんだけどね。

「あの、依頼をこなしたのですが」

「あら。ネロくん」

 カウンターに行くと顔なじみの受付嬢が応対してくれた。花が開いているかのようなピンク色の髪をした受付嬢で、名前はフルールという。

「今日は一人なのね。パーティーの皆はどうしたの?」

 フルールがメガネを直しながら聞いてきた。あ、そうか。まだ追放されたばかりだから脱退処理がされてないんだ。

「あの、実は僕、栄光の軌跡から抜けることになって」

「え! 嘘! どうして!?

 フルールが随分と驚いていた。僕は事の顛末を伝える。

「そう──追放に」

 話を聞いたフルールが同情的な目を向けてきた。フルールは僕が最初にこのギルドにやってきたときに対応してくれた受付嬢だ。水属性だと知ったときから、本当に冒険者をするつもりなの? と心配してくれていた。それでもなんとか冒険者としてやってきたけどね。でも、追放されたとなるとまた心配を掛けてしまうかな。

「後でガイも届けに来ると思うけど、脱退届を出しておきます」

「仕方ないわね。でも、これからどうするの?」

「とりあえず僕ができることをやっていきます。幸い僕の力が役立つこともあるみたいで、あ、そうそう。途中で教会の神父様から聞いて、仕事してきたんですよ」

 僕はフルールに神父から預かった依頼達成書を差し出した。

「あ、確かに指名依頼を貰ってたんだ。そう、もう終わったのね。じゃあこの分の報酬も一緒に用意しちゃうね」

 フルールはテキパキと脱退届と報酬を用意してくれた。

 まず脱退届にサインをして、それから依頼の報酬を受け取る。

「えっと。水の作成が二四本分。一本につき一〇〇マリンだから二四〇〇マリンね。どうする? カードに入金しておく?」

 フルールが報酬をどうするか聞いてきた。マリンは大陸で使われているお金の共通単位だ。普通は紙幣と硬貨で支払われるけど、冒険者ギルドから提供されるギルドカードに入金しておけば、いちいち持ち歩く必要がないから楽だね。

「それでお願い。あ、それとこれも一緒にいいかな?」

 ガイから手切れ金として受け取った分も入金して貰おうと思ってフルールに手渡す。

「えっと。……。これ全部で一〇〇万マリン。凄い! これどうしたの?」

 フルールが目を丸くして聞いてきた。僕も正直びっくりだよ。

「ガイがこれまで働いてきた分だって。退職金みたいなものかな」

「へぇ。流石勇者パーティーだけあって気前がいいのね」

「あはは」

 驚くフルールを見て、笑ってごまかしておいた。あの場では金額までは確認していなかったけど、そんなに入ってたんだ。安宿で一泊だと三千マリンぐらいだ。一ヶ月三〇日で考えると、十ヶ月ぐらいは何もしなくても暮らしていける金額でもある。もっとも、手切れ金代わりだったらしいけどね。

 さて、これでギルドでやるべきことは済んだ。それから、フルールとこれからのことについてちょっとだけ話した。

「水属性ならこれから大変でしょう? 私もどこかいいパーティーがあるか探してみるけど、でも──」

 フルールがそこまで言って言葉をつまらせた。言いたいことはわかる。水属性の魔法師なんて、パーティーに加えてくれる物好きはそうはいない。勇者パーティーに加入できたことが本来奇跡みたいなものだったわけだしね……。

「僕のことは気にしないでいいよ。しばらくは一人でやるつもりだし、実はちょっと試したいことがあるんだ」

「試したいこと?」

「うん。あ、心配してくれてありがとうね。それじゃあ──」

 不思議そうにしているフルールにお礼を言って僕はギルドを出た。さて今日はまだ時間があるし──やっぱり試さずにいられないよね……。

 ギルドを出た後、僕は町を出て近くの森にやってきた。森は魔物なんかが出てきて危険なことも多いけど、僕が来た場所は凶悪な魔物がいない比較的安全な場所だ。初心者冒険者が、薬草採取のためによく来てたりもする。実際にチラホラと薬草採取に勤しむ若い冒険者の姿もあったよ。なんか初々しい。成人は一六歳だけど、冒険者には研修期間もあって一三歳から登録できる。僕もそうだった。前の家では一年ぐらい冷遇された挙句、一三歳になって追放されたからなんとか食べていく必要があったしね。二年ぐらいはずっと雑用で、三年目でガイのパーティーに加入して、それから一年間──僕も今年で一七歳か。成人もとっくに過ぎたな。

 それなのにもかかわらず、今の僕は一人じゃ何もできない、無力な魔法師だ。こんなことじゃいけない。確かに水属性は不遇だけど、今日のことで一つだけ光明を見いだせたような気がしていた。神父は精霊の悪戯だって言っていたけど、もし僕の考えが正しければ水魔法でも戦えるかもしれない。

 ただ、世界的に見ればあまりに突拍子のないことを僕は試そうとしている。だから、他の冒険者には見られない場所を探した。

「ここでいいかな」

 結構森の奥まで来た。ここは岩場があって、魔法の練習にはもってこいだと思ったんだ。

「さてと──」

 目の前に、僕より二回りは大きな岩が転がっていた。杖を向けて意識を集中させる。

「これまではただ水を流しているだけだった。もし水に重さがあるなら、それを意識すれば──」

 岩をターゲットに水の重さを意識すると──頭の中に新しい魔法の形が浮かび上がってくる。

「閃いた! 水魔法・放水!」

 水に重さと勢いを乗せるイメージ。それを言葉に乗せて発する。

 魔法の名称は閃きと同時に自然と口に出た。こういうのは属性にイメージがピッタリと重なったときによくあることだ、と聞いたことがある。基本魔法にしても武芸にしても、閃きが大事だ。これは適した属性を使い続けているときが、一番閃きやすい。僕はこれまで給水と水飛沫しか使えなかったけど、あの井戸のおかげで新たなイメージが湧いたんだ。

 そして──杖から凄い勢いで水が放出された。当たると凄まじい音がして、岩が地面に跡を残しながら後退していく。

「す、凄い──」

 思わずそんな言葉が漏れた。まさかこんなに違うなんて。

「でも、やっぱりそうだったんだ──」

 今ので僕は水に重さがあることを確信した。そう、水は重いんだ。だからこそあの重たい岩も水の勢いで押すことができた。今のも強い気はするけど、もう少しなんとかできないかな? 音も大きいし、場所によってはこのままだと使いにくい。でも、水を勢いよく出すだけだとこうなっちゃうよね。う~ん……。

 ──水は重い。重いんだ。だからこそ桶の水は重かった。

 つまり量が増えれば重たくなる。

 そうだ、それなら!


 そう思い至ったとき、右手の甲に温かい物を感じた。

『水の理を得た者に祝福を──』

 あれ? なんだろう? 今確かに頭の中に言葉が──何かと思って右手を確認すると、

「え? 嘘──紋章が浮かび上がっている?」

 僕の右手に新たな紋章が浮かび上がっていた。そして紋章を見たとき、新たに閃いた。この紋章は──。

「賢者の紋章──賢者を意味する紋章?」

 紋章は浮かぶだけで、自然と紋章の意味も理解できる。だからわかった。この紋章は賢者の紋章だって。でも、そんな紋章、僕は初めて聞いた。何より本来、紋章は儀式を通じて浮かび上がる物だ。だけどこれは儀式を必要としていない。こんなことがあるなんて──今、頭に浮かんだ言葉に何か意味が? それに、まさか両手に紋章が現れるなんて。両手の紋章持ちはかなりレアな存在なのに。

 もっともこれは聞いたこともない紋章だからどんな効果があるかはわからないけど──。

 色々と気にはなるけど改めて魔法の検証を行うことにする。

 さて、頭の中で重たい水をイメージして──魔力を乗せた。

「閃いた! 水魔法・水球!」

 岩に向かって、閃きで浮かび上がった魔法を行使。すると、巨大な水の球が杖から飛び出て岩に向かって飛んでいき、勢いよく当たったわけだけど──。

 ──ドゴォォォォォオオオン!

 派手な音を残して岩が粉々に砕け散った。

「す、凄い──」

 思わず一言が口から出た。とんでもない威力だ。あんな大きな岩が水で壊れるなんて、凄いカルチャーショックを受けたよ。あれだけ不遇と言われ続けた水属性に、こんな可能性が秘められていたなんて!

 だけどこれでもまだ満足できなかった。なぜなら、今の魔法で発射した水球はちょっと遅かったんだ。なんというか、球は大きいんだけど、ちょっと早足で歩くぐらいの速さでしかない。これじゃあ動き回る相手には当たらないね。

 う~ん、どうしてだろう。やっぱり大きな形を保ったままだとスピードが殺されるんだろうか。放水みたいに流すなら勢いも速度も十分なんだけどね。

 勢い? そうだよ、勢いを上げて発射できれば!

 でも、どうしたら──?

 そういえば、風魔法には風を圧縮して威力を上げる魔法があるんだったね。それなら水にも利用できるかも!

 僕はまず杖の先端に水を集めて、大量の水を圧縮するイメージを持った。頭にパッと完成した魔法の形が浮かび上がる。

「閃いた!」

 イメージに合わせて水がどんどん凝縮していく。最初に出した水球よりも小さく、蹴って遊ぶボールぐらいの大きさになった。よし、これをあの岩場に向かって──放つ!

「水魔法・重水弾!」

 手から放たれた水弾が猛スピードで直進し、岩場に命中し派手に爆発した。

 え? 爆発?

 いや、衝撃が凄すぎて爆発みたいに見えたんだ。と、とんでもない。

 水が霧になって視界を塞ぐ。しばらくして霧が晴れ、目の前に現れたのは球状に抉れた地面だった。岩場も消え去ってしまっている。

「いや、威力高すぎ!」

 自分で試しておいてなんだけど、これは凄い。しかも今回はスピードもある。一撃必殺と言っていい威力かもしれない。それにしてもここまでの威力があるなんて──ハッとなって右手の甲を見る。もしかして、この賢者の紋章のおかげで水の威力が上がっているとか?

 そんなことを考えていると──地面が揺れた。ダンジョンが現れるときによく起こる現象だけど、実際はそうではなかった。なんと、さっきの魔法で抉れた地面から水柱が発生していた。

 そうか……きっと今ので水脈を刺激しちゃったんだね。

 陥没した穴に、まるで泉のように水が溜まっていく。

 はは……まさか僕の魔法で泉が生まれるなんて思わなかったよ。

「スピィ~~~~~~!」

 うん? 何か上から鳴き声が聞こえてきた。見上げると、空から青い玉のような何かが降ってくる。これって──。

「スピィ~!」

「おっと、危ない!」

 僕は落下地点を見極めて、その物体──青いスライムをキャッチした。ふぅ、危なく地面に叩きつけられるところだったよ。

「お前、どっから現れたんだ?」

「スピッ?」

 受け止めた後、僕の腕の中でスライムがプルプル震えた。ぷよぷよしていて可愛らしい。このタイプのスライムは、基本的に無害な魔物として知られている。その上、雑草なんかを貪るから農地で役立つ場合もあり、場合によっては有益な魔物として見られることもあるんだ。

 ちなみにスライムにはヘドロ状のスライムもいて、こっちは毒があったり有毒ガスを発生させたりする。だから討伐対象になることが多いんだよね。

 それにしても上からか──あれ? もしかして、地下にいたけど、吹きあがった水に巻き込まれて出てきてしまったとか?

「だとしたら僕のせいなのかな? 悪いことしちゃった?」

「スピ~スピ~♪」

 スライムは僕の腕に抱かれ、胸に擦り寄ってきた。甘えているみたいに見える。

「えっと。……もしかして懐かれた?」

「スピィ~」

 頭、と言っていいかわからないけど、顔を上げたような感じになってじっと僕を見てきている気がする。う~ん。地下で暮らしていたのに、さっきの魔法で地上に出てきたとしたら僕のせいってことになるよね。だったら見捨てて行くわけにもいかないか。責任はしっかり取らないと。それになんかいい子そうだし。

「なら僕と一緒に来るかい?」

「スピ~♪」

 なんだか凄く嬉しそうだ。よし、それならこれからは、僕がこのスライムの面倒を見ていこう。まさか勇者パーティーから追放されたその日に、スライムとはいえ新たな巡り合わせがあるなんてね。

「意外とこれが運命的な出会いだったりして、なんてね」

「スピ~♪」

 僕の言葉がわかるのかな? スライムは嬉しそうに僕の胸に体を擦り寄せてきた。僕はスライムを肩に乗せ、新たな仲間と一緒に森を出ることにした。大体やってみたいことは済んだしね。それからしばらく一緒に進み、ふと思った。折角だし、名前ぐらいつけてあげないとね。

「君、名前何がいい?」

「スピィ?」

 と言っても自分で名前を決められるわけないもんね。スライムもどうすればいいの? という顔をしている、ように思える。ならやっぱり僕が名前をつけないとね。何にしようかな……青いからブルース──う~ん、もうちょっと何かあるかな。スライムだからライムス? いや、水と一緒に出てきたわけだしね。スライムで、水だから──。

「そうだ! スイム! どうかなこの名前?」

「スピィ~♪」

 やった! 名前を決めたらなんだか嬉しそうだぞ。

「よし、それなら君の名は今日からスイムだ」

「スピ~♪」

 スイムを持ち上げて名前を呼んであげる。凄くプルプルして喜んでくれているよ。見ていると、スイムが淡く光り輝いたような気がした。……気のせいかな? スイムは僕の腕の中で更にプルプルしている。

「街に戻ったら何か食べる?」

「スピィ~♪」

 何だか嬉しそうだ。お腹減っているのかな。

「スイムは何が好きなの?」

「スピィ~スピピィ~」

 スイムが可愛らしく鳴いて答えてくれた。聞いておいてなんだけど、はっきりと何を言いたいのかまではわからないな。

「町に戻ったら一緒に見て回って決めようか」

「スピッ!」

 肩の上のスイムに提案すると僕に頬ずりしてきた。ひんやりしてて気持ちいいな。

「よう。今お帰りかい?」

 スイムと一緒に森を出ようと歩いていると、突然三人組の男が姿を見せた。藪の中に潜んでいたのだろうか。そういえばこの連中、いつも僕を小馬鹿にしていた冒険者だ。さっきも酒場で馬鹿にされたのを覚えている。

「僕に何か用?」

「スピ~?」

 道を塞ぐように立ち並ぶ三人にそう聞いた。彼らはヘラヘラした顔で、僕とスイムを見ていた。

「プッ、こいつスライムなんて肩に乗せているぜ」

「流石水属性の雑魚だけあって、連れて歩いているのもクソ雑魚スライムか」

「勇者パーティーを追放されて、もう一緒にいてくれるのは弱っちぃスライムだけってか?」

 質問にも答えずに、連中は腹を抱えて笑いだした。なんだろうこいつらは。そんなことを言うためにわざわざやってきたのか?

「スピィ~、スピー!」

 スイムが頭から湯気を出して声を上げた。僕がバカにされたと察して怒ってくれているのかな。

「なんだこいつ? 生意気なスライムだな。ぶっ潰すぞ!」

「ス、スピィ……」

 男たちに恫喝されスイムがプルプルと震えだして僕の首にピッタリと引っ付いた。連中を怖がっているみたいだ。頭を撫でて落ち着かせてあげる。

「大丈夫だからね。ねぇ、スイムも怖がっているし用がないならどいてくれるかな?」

「おう。いいぜ。通行料として有り金全部置いていったらな」

 は? こいつら何を言っているんだ? ここは誰の物でもない森だ。当然、通行料なんて支払う義務がないし、領主にも黙って勝手にそんな真似できるわけがない。

「意味がわからないよ。なんでそんなの支払わないといけないんだ」

「とぼけても無駄だ。俺たちは知っているんだぜ? お前、あの栄光の軌跡を出るときにたんまり金を貰ったんだろう? 全く。こんな無能にあの連中も随分と気前がいいよな」

「全くだ。こんな役立たずによ。どんだけ儲かっているか知らねぇが、お前には過ぎた金だ」

「だから俺たちがお前の代わりに有意義に使ってやるよ」

 ……僕は開いた口が塞がらなかった。なんだよ、その自分勝手な理由。

「冒険者はいつから追い剥ぎになったんだ? お前たちのやっていることはれっきとした犯罪だぞ」

 当たり前だけど、冒険者が犯罪行為に手を染めるのは許されない。もし発覚すれば即座に除名されるし、衛兵にも捕まる。

「そんなもの、バレなきゃ犯罪でもなんでもねぇよ」

「テメェみたいなクソ雑魚、いくらでも始末できるからな」

「馬鹿はお前だな。自分からノコノコ森に入ってくれたおかげでこっちもやりやすくなったからな」

 それがこいつらの言い分だった。もはや殺すことも厭わないってことなのだろう。

 ふぅ、こうなったら仕方ない。僕も覚悟を決めないと駄目だろう。もしこれで今日あの古井戸に巡り会ってなければ僕は詰んでたかもしれない。だけど、今は違う。

 そう。今の僕の水魔法なら、この連中にも十分通じるかもしれない。

「は? おい。こいつ生意気に杖を構え始めたぞ」

 覚悟を決めた僕は連中に向けて杖をかざし、抵抗の意思を示した。杖がなくても魔法が使えるけど、基本的には持っていた方が効果が高い。特にこの青水晶の杖は水属性の装備だから魔法の効果が引き上げられる。勇者パーティーにいるときにダンジョンで見つけた物だ。水属性が僕しかいなかったから、ガイたちが使っていいとくれたんだっけ。あの頃はまだうまくいっていた気がするな──なんて物思いに耽っている場合じゃない。

「水魔法なんて怖くねぇな。ったく。大人しく金を渡しておけば、痛い目を見ずに済んだってのによ」

 男が剣を抜いた。右手の甲に紋章が見える。剣使いということは剣の紋章持ちか。

「決めるぜ、切断強化!」

 武芸アーツを発動したか。武芸は魔法の武術版みたいなものだ。魔力は消費しないけど、体力や物によっては精神力や生命力を消費するんだとか。

 さて、切断強化ってことはもう僕を切る気満々ってことだよね。こっちも流石に黙って切られてあげるわけにはいかないかな。

「水魔法・重水弾!」

 そこで僕は、今さっき練習した魔法を行使することにした。圧縮された水弾は、三人の間を抜けて地面に着弾。ちょっと狙いが外れたけど、轟音がして地面に大穴をあけてしまった。

「「「……な、なんじゃこりゃーーーーーー!」」」

 その穴を見て三人が仰天する。外れはしたけど、奴らにインパクトを残すことはできた。

「ありえねぇ! なんなんだこの魔法は!」

 三人の冒険者は一瞬目が点になったかと思うと、大げさに騒ぎ出した。よく考えたら、結構なことをしてしまったかも。これは外れて正解だったかもしれない。当たっていたら過剰防衛もいいところだ。

「さ、さてはテメェ、魔法の込められた爆弾を持ってやがったな!」

 一人が喚いた。魔法の込められた爆弾、名前はそのまま魔法爆弾だけど、使い捨ての魔導具のことだ。地面に叩きつけると内部の魔法が発動し、その多くは爆発の効果を伴うことが多い。

「今のは水魔法だよ」

「うそつけ! 水魔法でこんな攻撃できるわけないだろう!」

 冒険者がムキになって否定した。水魔法は戦闘では役に立たない。これが今までの常識だった。水に重さなんてない、そう信じられていたからだ。僕だけが水の理を知り、水の重みを知っている。だけど──。

「このままだと威力が高すぎだよな……」

「ふざけやがって。だったら俺が本物の魔法ってのを教えてやるよ。水属性なんかに、この俺の風魔法が防げるものか!」

 杖持ちの冒険者が魔法を行使しようとしている。風魔法はスピードが速いし、使われると厄介だ。

「スピィ~!」

「ぐわっ、痛! 目がぁああぁあ!」

 そのとき、スイムが体から水滴を飛ばして風使いの目に当てた。男の動きが止まる。

「ありがとう。助かったよ」

「スピィ♪」

 スイムにお礼を言うと凄くプルプルした。褒められたのが嬉しそうだ。

 だけど今の攻撃……。小さい水滴でも勢いをつけて放てば……。

 ──閃いたぞ!


「テメェ! いい加減にしやがれ!」

 僕の頭に新しい魔法の形が浮かび上がったとき、弓使いが矢を番え弓を引いた。

「武芸・狙い撃ち!」

「させないよ。水魔法・水鉄砲!」

 たった今閃いた魔法を行使し、右手を前に突き出した。五本の指から水滴を連射……いや、これはもう水弾と言っていいよね。

「ぐわぁああぁああ!」

 指から飛んでいった水弾で弓持ちが吹っ飛んだ。