教会で神官が祈りを捧げるように、朝早くからジケのお勤めは始まる。

大きめの濃紺のクロークに身を包んでその中にフィオスを隠すように抱えて貴族街に向かう。

日が昇る前の空気はひんやりとしているが眠気が覚めてちょうどいい。

何ヶ所かゴミ置き場を巡ってフィオスにゴミを食べてもらう。

今日はハズレの日で見つかる金属類はスプーン一本だけだった。

フィオスの中でゴミが溶けていってその中に金属が残る。

たまにそれがお金であることもある。

ちょっとした楽しみだったりするが今日は全く金属類がなかった。

「おぃーす」

「おはよう」

そして小うるさくオランゼに文句をつけてくる貴族がいる近くの集積所までやってきた。

ここがラストの集積所である。

そこにいたのは黒い執事服に身を包んだ若い男性。

ジケを見つけるとやる気もなさそうに手をヒラヒラと振って挨拶する。

この人はボーダン。

例の小うるさい貴族に雇われている使用人であった。

「朝からご苦労様だねぇ」

「そっちこそ」

「そうだね〜早起きが習慣になりそうだよ」

なんで小うるさい貴族の使用人がこんなところにいるかというと粗探しのためであった。

小うるさい貴族はゴミの収集日になるたびに粗を探してオランゼに文句をつけていたのだけど、お高く止まった貴族様が朝早く起きてゴミの監視などやるはずがない。

やるのは貴族様ご本人ではなく使用人だ。

ボーダンは朝早く起きてゴミの監視をさせられている。

落ちて残されたものや作業が遅い、臭いがするなんて少しでも苦情に出来そうなことを探してこいと命令されていた。

しかしゴミ収集の作業をしている他の人ならともかくジケの作業には文句のつけようもない。

何でもいいから見つけろと言われて、毎回ボーダンが作業を見ていたのだけどある時ふと挨拶でもしてみた。

そこから少しずつ話すようになって、今では割と普通に挨拶を交わしてフィオスの作業中軽く駄弁るのが習慣にもなっている。

ボーダンももう文句をつけられるところなんてないのは分かっているから作業の確認もしない。

貴族は小うるさいがボーダンは結構緩めの人で朝にゴミを見てこいなんていう雇い主の文句をぶつくさと言ったりしていた。

「いいよな〜」

「何が?」

「お前んとこの商会。こんだけ文句言われても怒りゃしないんだろ? こっちの貴族様は少しだらけただけでもブチギレて給料減らすって脅しかけてくるんだよ」

「転職しないのか?」

「どこにだよ? 学もねえし魔力もねえ。ようやく雇ってもらえたと思ったら貴族の奴隷みたいなもんだ。給料も安いし直ぐにクビにすることチラつかせるクソ野郎だけど生きてくためにはしょうがない……」

ケチな貴族が使用人をどんな扱いしているかなんて言われずともわかる。

どんな世界でもケチで短気な人に雇われると受ける待遇に差なんてないのだ。

ボーダンは平民出だが平民の中でも貧民に近い方の貧しい家の出身であった。

そのために勉強をしたことがなく、剣なんかも学んだこともない。

比較的体格も貧相で力仕事にも向かず、ようやく就けたのがこの貴族の使用人の職だった。

なぜこの職に就けたのかはお察しの事情だがボーダンには他に行くところもなく、使用人の仕事にしがみつくしかなかった。

「アイツら俺のこと人とも思っちゃいねーけど、こっちだってアイツらのこと貴族様だなんて思ってやんねーよ」

「大変だな」

「にしたってすげえよな。スライムってのはあんなことできんのか」

「すごいでしょ?」

次々と無くなっていくゴミを見ながらボーダンは感心していた。

スライムに何ができるか知りはしないがこんな活用法があるなんて驚きである。

おかげで貴族様がイラついているけどボーダンにはどうしようもない。

「ボーダンの魔獣は?」

「んあ? 俺の魔獣はカエルだよ、カエル。特に魔力をくれるわけでもないし毒もないただのカエルさ」

「カエル……?」

「そ、カエル。顔は可愛いんだけど特に何もできるわけじゃなくてな……」

「ちょっと見せてくれない?」

「カエルをか? いいけど……」

ボーダンは自分の魔獣を呼び出す。

子供のジケぐらいはありそうな大きなカエルが呼び出された。

結構愛嬌のある顔をしていて、なんかフィオスのことをジッと見つめていた。

「……なあ、転職してみないか?」

「だから……」

「俺が紹介してやるよ」

「どこにさ?」

「俺が働いている商会に」

「えっ、マジで?」

「マジで」

「それなら嬉しいけど何でいきなり?」

「カエルだよ」

ジケはそっとカエルの背中を触る。

指先にカエルの体から出る粘膜がついている。

「今日このまま時間あるか?」

「あー、大丈夫。どうせ屋敷の仕事は俺がいなくたって変わりゃしない」

ジケはゴミ処理を終えるとそのままボーダンをオランゼのところまで連れていく。

「オランゼさーん、お疲れ様です」

「いつも通り一番乗りだな……誰だその人?」

問題があった場合オランゼが出て行って処理せねばならないので商会でオランゼも待機している。

連れてこられたボーダンを見てオランゼは不思議そうに眉を寄せた。

「こちらはボーダンです」

「あっと、よろしくお願いします……」

「探してたあの技術に必要な人です」

「なんだと? 本当なのか?」

「はい」

「ええと、俺はよく理解できないんですけど……」

ジケが先日商人ギルドで行った特許契約。

技術をギルドに保護してもらうことが目的なのだが、オランゼのためにオランゼが利用できる契約を結んだ。

だが問題が一つあった。

ジケが保護してもらった技術はどれも特定の魔獣が必要な技術なのであった。

肝心の魔獣がいないことにはただのアイデアであって利用もできない。

なので、技術のための魔獣を探していた。

簡単に見つかるかなと軽く考えていたが、意外と探してみるとその魔獣が見つからなかった。

探していた魔獣は、何とカエルだった。

それも特定の種類で、ボーダンの魔獣はドンピシャであった。

「ということで、ボーダンをこの商会で雇ってほしいんです」

「ここで働いてくれるというならもちろん雇おう」

「何をするかはおいおい試しながらで」

「普段は普通に商会の仕事を手伝ってもらおう」

「普段の仕事ってゴミ捨て?」

「そうだ」

「俺でもいいんですか?」

「もちろんだ。それ以外に魔獣の方もやってもらうがちゃんと給料も出そう」

気変わりする前に囲い込んでしまおうとオランゼはさっさと話を進める。

仕事の説明や給料の話などをしてボーダンも納得の上で契約が交わされることになった。

「あっ、もう全然クソ貴族より良い」

契約書を取り交わしてボーダンはニンマリ顔だった。

休みもしっかりあるし条件は貴族よりも良い。

子供の従業員が連れてきた人を雇うなんて普通はできない。

ボーダンはオランゼの懐の深さを感じていた。

「ジケ……いや、ジケさん! ありがとうございます!」

ボーダンはジケに深々と頭を下げた。

「別にさん付けじゃなくても」

「仕事じゃ先輩ですからね! それに……恩人ですから」

「よくもまあ見つけてくるものだな。私が探しても見つけられなかったのに」

「ジケさんは人を見る目があるんですよ!」

「そうかもしれないな」

「ちょ……なんか恥ずかしい!」

なんだか耳が熱い。

急にボーダンとオランゼに持ち上げられてジケは気恥ずかしくなる。

それから多少の試行錯誤はあったらしいがボーダンのカエルを生かした技術を利用することに成功した。

ちなみにその後生活が安定したボーダンが付き合っていた彼女と結婚することになったり、オランゼからボーダンを紹介した特別ボーナスを貰ったりすることになった。

「お休みすることになったら言ってください! 俺が代わりに出ますよ!」

よく分からないけど仕事で頼もしい後輩も出来たのであった。