特訓、金属を溶かすな!

「ううむぅ……」

ジケはフィオスを前にして腕を組んで悩ましげにうなっている。

側には使えない木片とかびた釘、硬くなったパンのカケラなんかが置いてある。

現在何をしているかといえばフィオスと特訓中なのである。

「良いかフィオス、これは食べちゃダメで、これは食べてよし」

ジケは片手にパン、もう片方の手に釘を持つ。

手に持ったものを同時にフィオスに与える。

フィオスはパンと釘を体の中に取り込む。

「いいぞ……うにゃ〜! ダメかぁ!」

パンがじわりと溶け出してジケは期待したように見ていたが少し遅れて釘も溶け出してしまう。

何度目の失敗だろうか、そのままパンも釘も溶けてしまった。

珍しくフィオスが申し訳なさそうにペチョリと潰れる。

「いいんだよ、別に責めてるわけじゃないから」

ジケは笑ってフィオスを撫でる。

他の人が見たらなんの特訓しているんだと思うことだろう。

今ジケとフィオスがしているのは食べわけの特訓だった。

フィオスは食べ物の多少の好き嫌いはあれどなんでも食べられる。

それこそ金属でも溶かして食べてしまうのだ。

普段なら別になんでも食べてくれるからいいのだけどジケには大いなる計画があった。

そのためにはフィオスに頑張ってもらわねばならないのだ。

具体的にやってもらうのは金属を食べないことである。

色んなものを同時に食べた中で金属だけを選んで食べないようになってほしいのである。

過去のフィオスはこれが出来ていた。

色んなものを同時に体の中に入れてもフィオスは金属を残して他のものだけを溶かして食べるという器用なことをしていた。

過去では教えたことはなく、いつの間にかできるようになっていたのでこんな特訓したことないのだけど。

ジケの言いたいことはなんとなく伝わっているようでフィオスも努力してくれている。

最初は同時に溶かしていたのだけど徐々に金属の方が遅れて溶けるようになってきた。

意外と食べわけするのは難しいらしい。

「だんだん出来てきてるぞ! 良い感じだフィオス!」

最初から完璧に出来るとは思っていない。

過去に出来たことでもこうして子供になると出来なくなっていることも多い。

過去のフィオスと違うとしたら出来なくて当然だし、過去のフィオスと同じだとしても出来なくても不思議ではない。

ジケはフィオスを励ます。

「出来ないなら練習すればいい! やるぞ、フィオス!」

ちょっと潰れたようなフィオスは飛び上がってまた綺麗なまん丸に戻る。

「ただもう金属ないから探しに行こうか」

貧民街にもゴミ捨て場がある。

適当に空いたところにゴミが捨てられていて、いつの間にかみんなそこに捨てるようになった場所で、ゴミを捨てに来る以外あまり人が寄り付かない。

ジケは布を顔に巻いてゴミ捨て場に来た。

過去ではゴミの臭いなんて慣れっこだったけど、子供の体は嗅覚きゅうかくもいいのか結構ゴミの臭いがキツく感じられる。

なんとなくだけど生物のゴミとそれ以外は分かれている。

ジケはそうした中で使えなくなった道具類が多く集まっているところを探す。

金属っぽければなんでもいい。

釘が刺さったままの木材とかはちょうどいい。

落ちている金属は少ない。

かき集めて鍛冶かじ屋なんかに持っていくと引き取ってくれたりするので集める人がいないこともないからだ。

ジケは使えそうなものがあると脇に寄せてまとめておく。

そしてある程度集めたところでそれらを抱えて家に帰った。

「ちゅーことでまたやるぞ!」

また食べわけから始める。

パンと木材とか、石と木材とか別々のものを与えて片方を残す特訓を繰り返していく。

「まあもっとお金稼げるようになったら美味いもん食わせてやるから頑張ってくれよ?」

今は石とか木材だけどそのうち稼げるようになったらお肉とか一緒に食べるんだとジケは意気込む。

こうして特訓を重ねていくとフィオスも慣れてきて食べわけが出来るようになった。

片方を溶かすことなく、片方だけを食べるという器用なマネを上手くやってみせる。

「釘はダメ、パンと木片はオッケーだ」

細かくちぎったパンと木片、そして釘を一本混ぜてフィオスに与える。

「……よーし」

フィオスが全てを体の中に取り込む。

まず溶け始めるのはパン。

続いて木片は溶けていくが釘に変化はない。

「よし! いいぞフィオス!」

そしてパンと木片は食べてしまったが釘だけがフィオスの青い体の中に残っている。

ぺっとフィオスが釘を吐き出した。

拾い上げてチェックしてみるがフィオスに与える前と変化はない。

ようやくフィオスの特訓が実を結んだ。

胴上げするようにフィオスをポーンと投げ上げるとフィオスは嬉しそうに震えている。

「思ってたよりも早く出来たな。これ残ってるパン食べちゃってもよし!」

釘や木片は別にいらないだろう。

フィオスに特訓用に置いていたパンを全部あげる。

少しだけどご褒美みたいなものである。

「後は本番でやってみるだけだな。まあゴミの中にお金が混じってることなんて滅多にないからあったらもうけ物ぐらいでいいしな」

ジケの最終目的はゴミの中に紛れたお金を探すことであった。

オランゼの仕事をすることになってフィオスにゴミを食べてもらうのだけどごくごく稀にゴミの中にお金を落として気づかないなんてことがある。

フィオスが全部食べてしまうとジケも気づけないのだけど過去ではなぜかフィオスがお金を残して他のものを食べるようになった。

そのおかげでその日を生きられたことも何回かあった。

今回もちょっとした期待を込めてフィオスにお金だけを残してもらえるように金属だけを食べない特訓をしていたのであった。

「ふっふっふっー、さすが天才スライム!」

「あんたずっと何やってんのよ?」

「ん? フィオスと特訓だよ」

「スライムと? ……まあいいけど、炊き出しが来てるらしいわよ。一緒に行こ」

「おっ、もうそんな時間か」

フィオスを褒めちぎっていたらエニが怪訝そうな顔で部屋を覗いていた。

ジケはフィオスを抱えてエニと一緒に家を出る。

意外とフィオスの物覚えも悪くないもんだななんてジケもフィオスもちょっぴり良い気分になっていたのであった。