自分の魔獣を見る。
複雑な感情が伝わっているのかサンダーライトタイガーも目だけはジッとラウを見返している。
変に自慢をした自分を悔いる。
声をかけたいがどんな言葉をかけても嫌味にしかならない。
賢くて日々が苦しくても明るく振る舞ってきたジケがあんなに涙を流すところをラウは初めて見た。
いつもラウが泣いた時にはジケは側にいてくれたが今はこんな自分が側にいていいのか分からない。
「おーい、ラウ! なんだ先にやってたの?」
もうそろそろ全員が契約を終えるタイミングで追加の子供達が入ってきた。
貧民街は思いの外広いし兵士が呼んでくるように言っただけで、全ての子供が一回で集まるべくもない。
貧民街の区画も分けて何回か連れてくる予定だった。
役人は相変わらずここにいる。
最初の一回しか働く気はないようだ。
ジケやラウが集められた次に呼び出された子供達が連れてこられたのだ。
ジケに声をかけられず立ちすくんでいたラウを見つけて声をかけた女の子がいた。
燃えるような赤い髪が特徴的で汚れてはいるけれど、ちゃんとすれば綺麗な顔立ちをしていることが一目でわかる美少女だ。
ラウとジケが仲良くしているエニだった。
「えっ、それってまさか……」
「あ、ああ……」
「凄いじゃん! さっすがラウだね、これが何か分かんないけどとにかく強そうじゃん!」
逆に
エニは皆が避けているサンダーライトタイガーに近づくや腹を撫で始めた。
ラウも周りもあっけに取られサンダーライトタイガーも一瞬怪訝そうな顔はしたのだがエニは
ひとしきり撫で回してサンダーライトタイガーがプライドを捨ててノドを鳴らしそうになった時、エニは何かを思い出してキョロキョロと周りを見回す。
「そういや、ジケは? どうせあんたたちのことだから一緒に来たんでしょ?」
「ジケは……あっち」
「あっち? ……ジケ、どうしたの!」
教えるべきか一瞬迷ったがラウはジケのいる方を指さした。
ラウの指差す方でジケは相変わらずうずくまっていた。
何かあったのかとエニは慌ててジケに駆け寄る。
こういう時何も知らないというのは強い。
懐かしい声が聞こえてジケも振り返る。
赤髪を揺らして駆けてくる少女は記憶よりもかなり若い。
ジケの泣き
事情を知らないエニには隅でいじけているように見えたがまさか泣いているとは思わなかった。
サンダーライトタイガーよりも泣いているジケの姿に強く衝撃を受けた。
「エリンス……いや、エニか? あぁ……!」
「大丈夫、ジケ? どうしたの? えっ、ちょっと……ほんとにどうしたの……」
一度泣いてしまうと落ち着くまでは
エニを見てひどく驚いたような表情を浮かべたジケはゆっくりと立ち上がるとエニに向かって手を伸ばした。
指先で軽く頬に触れ、そしてまた泣き出す。
何を思ったのかは分からないがジケは感極まってエニを抱きしめた。
二人に挟まれたフィオスだったが今度はニュルンと抜け出して
出来るスライムである。
ジケにとっては久々の再会の抱擁なのだがエニにとっては昨日も会った仲なのだ。
少し痛いほどに抱きしめられてエニは顔を赤くする。
両手をパタパタとしながら抱きしめ返して
隅で起きた出来事、みな召喚に夢中で見ている人はいなかった。
ラウ以外に。
全ての胸の内をさらけ出して謝罪の言葉を述べそうになることをどうにか
いろんな想いがあるけれどそれは今のエニに伝えることじゃない、と。
「ごめん、つい気が動転して。久しぶりだね、エニ」
「う、うん、落ち着いたなら……いいけど」
いきなり抱き着かれ、一発ぶん殴ってやろうかなんて思っていたエニだったが、長いこと抱きしめられて少し寂しそうな笑顔で真っ直ぐに目を見られてそんな気も失せた。
何があったか聞きたくても聞ける雰囲気じゃなく許すしかない。
久しぶりとか変な言い方も気になったが顔を赤くして
なんとなく気まずい空気のそんな状況でも契約は進んでいき、ジケはエニを送り出してラウの横に行く。
「取り乱しちゃってごめんな」
「俺こそ、なんて声かけたらいいか分かんなくて……」
ラウは気まずそうに頭をかく。
ジケは泣き尽くして晴れやかな気分だったが泣き腫らした目を見てジケの気分がいいなんて思う人はいないだろう。
泣き腫らしているから笑顔を浮かべても寂しげに見えて、無理している感じが出てしまうのに本人は気づいていない。
すっきりはしたのだが今は自分のしでかしたことに恥ずかしい気分になってきた。
人前で大泣きした挙句感極まって女の子に抱き着いてしまった。
エニの性格上すぐに離れるか多少殴るぐらいはすると思っていたのに何もされず何も言われなかった。
ぶん殴ってくれたら収まりもついたのに気恥ずかしさだけ残っている。
(後でまた謝ろう)
「お、俺さ、きっといい仕事に就けると思うんだ。だからさいっぱい稼いでお前も養ってやる! 貧民街のみんなにももうちょい良い暮らし出来る様にしてやるからさ、元気出せよ!」
今聞けばある種の告白、プロポーズにも聞こえるラウの言葉。
その昔、記憶の中でも同じように言われたジケはラウの言葉を同情や憐れみと捉えて拒絶した。
ラウはただ恩返しがしたくて、まだ子供ゆえに言葉足らずでこんな言い方だけど親友を元気付けたかった。
ラウは本当に支援してくれた。
でもジケはそれを受け入れられなかった。
冷静に見ればラウは言葉を選んで必死に親友を慰めようとしている。
そんな必死さが愛おしくて有り難くて自然と笑顔になる。
「よろしく頼むよ、ラウ」
今回は過去と違う。
親友の純粋な善意にちゃんと向き合える。
「お、おう!」
あっさりと受け入れられて逆にラウがたじろぐ。
嘘をついたつもりはなくても変なことを言った自覚はラウにあった。
それを笑顔で頼むと言われて不思議な約束をしてしまったと気づいた。
過去は色々とラウにしてもらった。
何度も会いに来てくれて、色々と持ってきてくれた。
けれど貰っているばかりでは申し訳ない。
己も変わらなければいけない。
ラウにも何かあげられるように努力しようとジケは誓う。
「な、なんだこの光は!」
この日一番の魔獣は神獣にも格付けされる魔獣、
契約場の外からでも見えるほどの光が漏れて全員の目がようやく光から立ち直って見えたそれは魔法陣の真ん中に
大きく分類すれば鳥種の最高峰。
再生と炎の能力を持つ
魔獣でもあるし
おそらく国中の魔獣を見ても最高峰と言って過言でない。
兵士は槍を構えることすらしないでフェニックスに見入っている。
「えっと、えへへぇ〜すごい、でしょ?」
呼び出したのは困ったように笑うエニであった。
フェニックスが動くと火の粉が散る。
グッと頭を下げるとフェニックスはくちばしをエニの頬に軽く当てて頬ずりするように服従の意を示した。
エニもくちばしを撫で返す。
次に待つ子がまだまだいることをだれもが忘れた。
いつ見てもフェニックスは美しい。
伝説に近い存在が目の前にいることは二回目でも信じられない。
「ど、どう、すごいでしょ!」
全員の注目を浴びて兵士の誘導もなくて困り果てたエニが場を脱出するため冗談っぽくジケたちに駆け寄ってきた。
当然フェニックスはエニについてくる。
サンダーライトタイガーの時よりも大きな円ができる。
近づいてきたフェニックスは何故かフィオスを抱えるジケを見て、頭を下げた。
理由が分からず慌てるジケ。とりあえずジケも頭を下げ返す。
サンダーライトタイガーがラウの前に出る。
フェニックスを前にしても臆さず契約者を守ろうとしている。
勇気のあることだ。
サンダーライトタイガーの経験がどれほどの物なのかジケには分からない。
もし経験豊かなサンダーライトタイガーでフェニックスが若ければあながち敵わないものでもない。
「す、すごいな」
ラウも驚きを隠せず呆けたようにフェニックスを眺めている。
「そうでしょ~、あんたのトラとか……その、比べ物になんない…………」
あまりの出来事にエニはすっかりジケの魔獣のことを忘れていた。
安易に自慢してしまい言葉尻がすぼむ。
「スライムも悪いもんじゃないぞ」
「クルゥ」
ジケの言葉に反応したかのようなタイミングでフェニックスが鳴く。
なんだか同意してくれているみたいだ。
ついでにフィオスも腕の中で跳ねる。
泣き腫らした顔で何を言っているんだか、エニはそう思っていた。
スライムに満足した顔にはとても見えない。
申し訳なさそうな顔をするエニにジケは困って頬をかく。
魔獣としての能力や格式はフェニックスと比べて論ずるまでもない。
しかし大切なのはいかに魔獣と関係を深め、魔獣の能力をどう応用していくかだ。
仮にエニが怠けてジケが努力したとしても、逆転するのは難しいけれども。
その後はパッとしない結果が続いていた。
それでもラウやエニが飛び抜けすぎていたので目立たなかったがそれなりの人は何人かいた。
とりあえず集まった子供の契約が終わり、口頭で魔獣に関する注意や必要な知識に関する指導を受けた。
本当はちゃんと学ばなければいけない内容なのだが文字も読めない子供には口頭で簡単に説明するしかない。
良い魔獣を呼び出したラウとエニを含めた何人かはその後さらに役人に呼び出されて何か話をされていた。
内容は分かっているから心配はしていない。
ジケを含めた他の子供達は他に用もないのでまた荷台に乗せられて貧民街に帰された。
馬車で運ばれている時もジケがスライムと契約したことは皆知っているから口々に慰めの言葉を言って、ジケは笑顔でそれを受け流した。
貧民街に着くとみんな散り散りに帰っていき、ジケも自分の家に帰る。
貧民街でも比較的平民街に近い所にあり、ボロボロでも風と雨は防げる一軒家がジケの家である。
出てくる時にラウが勢いよくドアを開けっぱなしにしてくれていたから帰ってきてもドアは開いたままだった。
(鍵も壊れている上に盗むものもないから開いていても別にいいのだけど)
ずっと昔はこの辺りも普通の平民街だったが大きな戦争の時に職を失った人が多く出て貧民街となったとジケはいつだか聞いた。
この家もジケを世話し、ジケが世話していたじいさんが住んでいたものだ。
じいさんに家族はおらず、いなくなった後はジケがそのまま家に住むことになった。
家は大きいものでもないが子供の手には余るのでたまたま近くで路上暮らしをしていたラウやエニをジケは受け入れた。
この二人も毎日帰ってくるのではなく日銭を稼ぎにいったり別のところに泊まったりもしているがやはり主な活動拠点はジケの家である。
最近はほとんどジケの家にいる。
ジケは床に敷いてある布団に体を投げ出した。
ベッドの木材が部屋の隅に寄せて置いてある。
ジケはどっと疲れを感じていた。
体力的にというよりも精神的に。
契約は待ち時間が長くて外はもう日が傾いて落ちてきている。
貧民の子供を集めるのだ、飯ぐらいくれてもよいのにと文句が漏れる。
晩ご飯のことも考えなきゃいけないのに泣きすぎたせいか、はたまた子供の体で体力が少ないのか動きたくなかった。
手を動かし傍らにいるフィオスを撫でる。
それだけで喜びの感情が伝わってきてジケも嬉しくなる。
「夢じゃないのか」
走馬灯でもない。
意識はやたらとはっきりしている。
ほっぺたをつねってみても痛みはある。
そもそも目を覚ますのにラウに蹴り起こされた時も痛かった。
流れは記憶していた通りなのにフェニックスに頭を下げられた記憶はない。
大泣きもしなかったのでそうしたところも異なっている。
夢にしては反応がリアルすぎる。
これが夢でないのなら年寄りまでの記憶を持ったまま昔に戻ってきたと考えられるが何が起きてこうなったのか分からない。
ジケは目をつぶって思い出そうとしてみる。
最後にフィオスに感情があって自分にもそれが感じられることが分かったことまでは思い出せる。
それから家に帰って疲れてしまったので寝たはずでその時はもう何十年と生きた年寄りだった。
だがどうしてなのか子供時代に戻ってきている。
今が過去というべきか、それとも子供時代に戻る前を過去というべきか。
この現象がなんなのかジケには分からないからどうするべきかも分からない。
この現象の名前も知らない。
とりあえず子供時代に戻る前までの一度目の人生を過去としよう。
確かに出来るならやり直したいと思ってはいたが心の準備すらなくこのような時代に戻されるとは誰が予想できるだろうか。
ありがたいことではあるのだけれど問題もある。
もし過去の記憶が正しく、出来事が変わらないのだとしたら、この先起こるであろうことを考えジケはゾっとした。
戦争、厄災、災害。
この先平民ですら生きていくのがやっとの時代に突入する。
その日暮らしをしていては準備もできないし暗黒の時代がくれば切り捨てられて死んでいく。
小さい出来事ならともかく大きな出来事がそうそう変わるとは思えない。
もっと辛いことがこれから先に起きるなら今のうちに対策しておかなければならない。
幸い今のジケには過去の記憶がある。
この記憶を上手く使ってこの先生き残るために何が必要か考える。
まずは多少お金の余裕がなければなんの活動も出来ない。
幸い一度一生を生き抜いたのだ、知識もある。
ただ切り捨てられる者にはなるつもりはない。
やってきたことは代わり映えしないがやってきたことで稼ぐ自信はある。
まだ世の中に広まっていない、この先出てくる技術なんかも知っている。
「お前じゃなかったら困っていたかもな」
最初の一歩を踏み出すための資金稼ぎをジケは考えるまでもなく思いついている。
フィオスがいなきゃ最初の一歩すら厳しかったがジケは、ジケだけは知っているのだ。
スライムってやつがただ世の中で言われているような無能なだけの魔物ではないことを。
過去を生き抜いてこられたのにはフィオスの能力が大きく関わっていた。
きっとこの時代では誰も知らない、フィオスと一緒に生きてきたジケだけが知っているフィオスの能力があった。
それを活かしてジケはお金を稼ぐつもりであった。
頼もしい相棒を指先で突いてジケが笑う。
「よう! だいぶ機嫌は直ったようだな」
フィオスの感触を堪能しているとラウとエニが帰ってきた。
ラウは両手の指の間に大量の串焼きを挟み、エニは大きな紙袋を抱えている。
「おかえり」
「ただいま〜」
ジケは起き上がってロウソクに火をつける。
ぽわっと優しい光が周りをほんのりと照らしてくれる。
十分な光量とはいかないけれど月明かりがそれなりに明るいから無理をしなきゃ困ることはない。
「ラウもエニもそれ……」
「へへん、なんと国に兵士として来ないかと誘われたんだ。ちょっとした前払いで金を貰ったからパーっとさ。……それにお前に元気出してもらいたいって、エニが言ったから」
「ハァ!? あんたが言い出したんじゃない! なんで私が言い出したことになってんのよ! あ、いや、別に私も元気出してもらいたかったけどさ」
二人とも強力な魔獣を従えることになったのだから当然国からスカウトされる。
こう考えると国はもうこの頃から先の出来事に備えていたのかもしれない、そうも見えた。
「そっか……二人ともありがとう」
言い争う二人の様子を見て自然と笑みが
こんな風に笑うのはいつぶりだろうか。
ただ醜い感情もなく、くだらないことで笑いあえるなんてこんなに楽しいものなのか。
「へへっ、当然だろ」
「私が言い出したんだから私に感謝しなさいよ」
「何言ってんだ、俺が言い出したんだろ!」
「あんたが私が言い出したって言ったんでしょ。だから私がジケを元気付けてあげたの」
「ぬぅ……」
「はは……はははっ」
笑い合う。
以前は嫉妬にまみれ、自ら手放した友情だったが今回は手放さない。
「お皿を持ってくるよ。まだ無事なやつがあったはずだ」
いつまでも串を指に挟んだままでは辛かろう。
ジケは古びた戸棚の中から皿を探して取り出す。
普段お皿を使う習慣なんてないのでふっと息を吹きかけると
「クリーンアップ」
ジケは元からの魔力はほとんどなくフィオスから貰える魔力も微々たるものである。
それでも全くのゼロではなく、皿を綺麗にするぐらいならできる。
指先に水が集まり皿に垂れる。水面に広がる輪のように水が皿の埃を巻き込みながら広がって、皿のふちまでいくとふちを伝って水が集まる。
最初と違い皿は綺麗に、水は埃で
生活の知恵のような魔法でほとんど唯一と言っていいジケも使えた魔法だった。
汚れた水をフィオスに差し出すと体内に取り込む。
フィオスに取り込まれた水はフィオスに馴染むようになりながら消えていき、フィオスの体はまた一点の濁りもない美しい半透明になる。
「ほれ、いつまでも手に持ってんの大変だろうからこれに乗っけるといいよ」
「あんがと」
たくさんの肉の串焼きはまだ少し湯気が上がっている。
軍に引き込むための前払いといえど子供に対して役人がそれほど大きな額を渡すとは思えない。
きっと貰ったお金のほとんどを使ってしまっているはずだ。
エニが持ってきた紙袋にはパンが入っていた。
いつも食べている硬い安いパンと違って柔らかくふわふわとしたパンだった。
「それで見せてくれよ、二人の魔獣」
「……いいのか?」
ラウとエニが顔を見合わせる。
あれだけ大泣きしてみせたのだから気が引けるのも分かるが契約したばかりの魔獣は出して側に置いておくのが一番である。
「出てこい、セントス」
「おいで、シェルフィーナ」
ジケがうなずくと二人は魔獣を呼び出した。
魔獣は大小様々で不便になることも多い。
なので、逆召喚という魔獣を元にいたところに戻す方法や一時的に魔石と呼ばれる石の状態にする方法、元の大きさから小さくすることなど様々な方法で魔獣と付き合っていく。
逆召喚して戻していたサンダーライトタイガーもフェニックスもスライムと同じくらいの大きさで現れた。
ラウはサンダーライトタイガーをセントス、エニはフェニックスをシェルフィーナと名付けたらしい。
付けられた名前は過去と同じである。
意外とおしゃれな名前をつけたものだとジケは感心していた。
またしても不思議なことに呼び出されたセントスとシェルフィーナは頭を下げた。
なんとなくだがジケは自身ではなくフィオスに頭を下げているような気がしていた。
ともかく呼び出した二匹とフィオスも交えて軽く
それからはお祝いの食事会。
セントスとシェルフィーナにも串焼きを分けてやるとどちらも嬉しそうに食べ始める。
それを見たフィオスがジケの腰のあたりに控えめに体を擦り付けてアピールをする。
ジケには意図が分かった。
串焼きを一本串ごとフィオスにあげてみると体の中に串ごと取り込む。
少しフィオスの中でクルクルと回転していた串焼きだったが止まったと思ったらジワジワと溶け始めた。
溶かす速さは遅い。
これがフィオスの「食べる」であり、スライム流の味わうという行為なのかもしれない。
「二人はどうするんだ?」
「どうするって何をだ?」
「もちろん王国に誘われた件さ」
過去の経験からどうするのかは分かっている。
二人は誘われた通り王国の兵士となる。
しかし選択肢は何も国に仕えるだけじゃない。
二人の魔獣ならば冒険者という道もあるし大きな商会や貴族に仕える道もある。
特にエニは再生の癒しの能力も、強力な火の能力もあり引く手は多い。
神獣に当たるフェニックスなら宗教団体からも相当上位の立場での勧誘があってもおかしくない。
でもまだ子供の現在、そんな広い選択肢があるとは知らない。
「俺は兵士になろうと思う。別に国のためにとか興味ないけどお前とかここの知ってるやつとか……エニとかも、守れるもんは守りたいんだ。まあこんな俺にチャンスくれるならちょっとは恩返ししないとな」
「私は…………うん、冒険者ってのも憧れるけどね。でも私に魔法とか治療の力があるならそれを学びたいかな」
エニは遠回しな言い方だけど結局のところ王国に所属する道を選ぶということである。
冒険者で魔法を学ぶことは簡単なことでない。
ちゃんとした魔法を学ぶなら王国所属になるか、魔塔に所属するか、アカデミーにいくか。
アカデミーは貧民には金銭面や身分の都合で選択肢に入らず、魔塔は閉鎖的集団で研究者かつ魔塔につてもない。
よほどの運と実力がなければ魔塔に入ることは難しい。
となると一番手近で最善の選択肢は王国に所属してしまうことである。
エニなら紹介状もなく魔塔を訪ねても一も二もなく受け入れてもらえそうではあるが本当にそうなるかは分からない。
「そうか、いいと思うぞ」
ジケは優しく笑う。
ここで遥か将来不幸になるから王国のために働くのはやめておけなんて言えるはずもなし。
むしろ記憶の通り進んでくれれば分かっている問題に対処のしようもある。
国に仕えれば安定ではある。
「俺については聞いてくれないのか?」
冗談めかして言ってはみたがやはり二人はまだまだ子供だ。
気まずそうな顔をするだけでどうしていいか分からない。
気軽に聞いてくれれば気軽に答えるのに変に配慮してしまうのだ。
「そんな顔するなよ。俺にも仕事のアテはあるんだ」
想像しているほどに上手くいくかは分からない。
少なくとも働けはするだろう。
「次は俺が二人にごちそうしてやるから待ってろよ」