
サイケデリックな原色の青い空と、前衛芸術のような白い入道雲。
容赦なく降り注ぐ直射日光に浮かされて、セミたちの大合唱は熱を帯びるばかり。
そして──。
「天津風さん、いっくよー! えいっ!」
「あはははは! 美玖さん冷たいですーっ!」
そんな夏真っ盛りの中でも、青春バカ野郎は元気いっぱいだった。
無事、夏休みに突入して早三日。夏休みだろうが関係なく、相変わらず毎日のように顔を合わせている僕ら〈アオハル・パーティ〉の本日の活動内容は、何故かプール掃除だった。
楽しそうに水を掛け合う天津風と加賀美を横目に見ながら、僕はデッキブラシを杖代わりに、灼熱の太陽の下で途方に暮れる。
奉仕活動を目的とした我らがサークル(虚偽の申請)に命じられた、栄えある最初の依頼がこのプール掃除なのだった。
はっきり言って面倒事の押しつけだろうとは思うが、サークル代表の天津風は、大変上機嫌に依頼を受諾した。曰く、「プール掃除って一回やってみたかったんですよね! だって、どう考えても青春じゃないですか!」とのこと。青春箱入り娘は、今日も絶好調である。
ノリノリの天津風を諫められるはずもなく、そのようなわけで、僕らはこのクソ暑い夏の日に、五人という少人数でせっせとプール掃除に勤しんでいる次第なのである。
「琥太郎さん! なに黄昏れてるんですか! こっち来て一緒にお掃除しましょうよ!」
天津風が、こちらに向かって大きく手を振っているが、生憎とそこまでの元気はない。先日の林間学校の疲れが、こちらはまだ抜けきっていないのである。
「──まったく、天津風ちゃんもお子ちゃまねえ」
僕の隣で、上品に麦わら帽子を被った那珂川さんが澄まし顔で言う。ミニスカートから覗く、細く長い裸足のおみ足が目の毒だった。
「ねえ、コタくん。いっそこのままサボって、二人でどこかで楽しいことしない?」
那珂川さんはセクシィな流し目でこちらを見やる。思わず、「ハイ喜んで!」と即答したくなるほど魅力的な提案だったが、何故か視界の隅に、水の流れ出るホースの口をこちらへ向けている加賀美の姿が見えたので、僕は反射的に動く。
「きらら防壁ッッッ!」
「え、ちょっとコタくん突然なにを、ブルルルルァァァァァァ!?」
僕が那珂川さんの影に隠れたために、ホースからの鋭い水の一閃は、すべて那珂川さんの美しい顔面に吸い込まれていった。ふぅ、危ないところだった……。
「ちょっとコタくん! 女の子を盾にするとか正気!?」
顔だけでなく全身から水を滴らせながら、那珂川さんは凄んできた。びしょ濡れでもメチャクチャ美人なのはさすがだ。
「いや、那珂川さんなら未来の力で、何か斥力場みたいなものを出して防げるかな、と」
「コタくんの未来に対する熱い期待を裏切るようで悪いけど、そんなものはないわよ!?」
ないのかぁ……それはちょっと残念だな……。
「ほら、湊くんも那珂川さんも! みんなで協力してやればすぐに終わるから!」
加賀美が持ち前のリーダーシップを発揮して言う。
「内緒にしてたけど、終わったら村雨先生がガリガリ君ご馳走してくれるって!」
「バカ野郎、それを先に言え!」
僕は俄然やる気を出す。労働の後のガリガリ君とか最高かよ。
「ははっ、琥太郎くんは現金だなあ」
このクソ暑い中でも爽やかに笑う八重樫を無視して、僕は懸命にプール掃除に取り掛かる。
ちなみに本来は体操服でやるべきところを、天津風たっての希望で全員制服のままである。制服のほうが青春っぽいとか何とか。確かに、眩しいばかりのセーラ服に身を包んだ女子たちが裸足でキャッキャしているのはこの上なく青春っぽい。元来セーラ服は水兵の服なのだから、むしろこちらが正装のような気さえしてくる。暑さで脳をやられたのかもしれないけど。
滝のように流れ出る汗を拭ってから、僕はデッキブラシを握る手に力を込める。
視界の片隅では、仕返しとばかりに那珂川さんが加賀美からホースを奪い、二人に水を掛けていた。キャーキャー言いながら逃げ惑う天津風たち。賑やかな黄色い声が、耳に心地良い。
「キャーッ! 〈妖怪水掛け女〉ですぅ!」
「誰が妖怪よ! せめて〈怪奇! 水も滴る良い女〉と呼びなさい!」
「それはそれで都市伝説系の怪異だよね!? それで良いんだ!?」
「私の美しさは、すでに人類を超越しているから良いのよ! ね、コタくん!」
「僕に同意を求められても」正解がわからねえです。
一方、八重樫はマイペースに、我関せずとデッキブラシでプールの底を磨いていた。
何というか──実に平和だった。
つい先日、再び世界が消滅しかけたとはとても思えないほど、穏やかで当たり前の日常がここにはあった。
これが、僕が命懸けで手を伸ばした、本来あり得ざる世界なのか、と思うとなかなかに感慨深い。
ふと透けるような青い空を見上げれば、数日まえの出来事が今も鮮明に脳裏に蘇る。
底抜けに楽しくて、でも何故か何度も死にそうになった、宇宙存続を懸けた波乱の林間学校が──。