「ありがとうございました。また、よろしくお願いします」

 そんな受付嬢の声に軽く頭を下げ、少女──フェリシア・ラビウスがカウンターから離れていく。


「はぁ、どうにかならないのかしら」

「ラビウス侯爵家の嬢ちゃんのことか? 今の段階じゃ、俺たちにゃどうすることもできんだろ」

!? ギルマス、いらっしゃったんですか!?

「おいおい、驚き過ぎだろ。俺だってたまには部屋の外にも出るぞ」

「いや、それはそうでしょうけど……」

 フェリシアの姿が見えなくなったところで小さくつぶやきを漏らした受付嬢だったが、思いがけず返ってきた返答に驚きをあらわにする。その様子を軽くいじりつつ、驚かせた張本人であるギルドマスターが続ける。

「話を戻すが、あの嬢ちゃんのことは見守ることしかできねーよ。お前さんが思っているようにラビウス侯爵家からの返答には違和感しかなかったが、あれがラビウス侯爵家からの正式な返答である以上、俺たちにゃどうすることもできん。できるとすれば嬢ちゃんだけだが、嬢ちゃん自身もそれを受け入れてるんだろう?」

「それはそうですが……。でも、ギルマスはおかしいと思わないんですか? まだ十歳にも満たない女の子が森の中の屋敷で一人で暮らしているんですよっ!」

「んなもん、おかしいと思っているに決まっているだろうが。どう考えても、正式な貴族籍のある令嬢に対する仕打ちじゃねえ。俺の方でも一応確認したが、あの嬢ちゃんがラビウス侯爵家から除籍されたという話もないしな」

「だったら──」

「でもなあ、違和感しかなかろうとラビウス侯爵家からの正式な返答に対して辺境のギルマスごときが意見するわけにはいかんのよ。そもそも通信機による通信内容は機密だしな。だから、嬢ちゃんから要請があったのであればまだしも、俺たちから自主的に動くことはできん」

「……」

 ギルドマスターの言葉に受付嬢は言葉を返せない。

 彼女とて理解はしているのだ、一介のギルド職員が貴族相手にできることなどないと。ただ、それでもフェリシアの姿を見るたびに、どうにかならないのかという思いが湧き上がってくるのだ。

「さっきも言ったが、あの嬢ちゃんについては様子見だ。幸い、一人でもどうにかやっていけているようだしな。まあ、お前さんくらいは気にかけておいてやって、何か困っているようであれば手を貸してやればいいだろうよ。ラビウス侯爵家から、ギルドにまで放置しろという通達が来ているわけではないからな」

「っ、そうですね。確かにギルドが手助けしてはいけないとは言われていません!」

 気落ちしてうつむいていた受付嬢だったが、続くギルドマスターの言葉に顔を上げる。

 その様子にギルドマスターは苦笑しつつ、軽くくぎをさす。

「あくまでも、何かあった場合だけだぞ。ないとは思うが、あの嬢ちゃんをきっかけにギルドまで面倒ごとに巻き込まれるのはマズいからな」

「わかっています」

 力強い受付嬢の言葉を内心不安に思いつつ、ギルドマスターは自室へと戻っていく。


 こうして、町のギルドのフェリシアに対する対応は様子見ということになった。

 ラビウス侯爵家からの返答に疑問を抱きつつも、それが正式なものである以上ギルドとして積極的な行動をとることができないためだ。

 ただ、フェリシアが望めばギルドの助力も得られるかもしれない。

 彼女が屋敷でのひっそりとした暮らしを望んでいる以上、その機会が訪れることはないだろうが。