カイト・フェルバッハと創造の女神ユリスのアフタヌーンティー


 創造の女神ユリスは基本的にアルゴートから出ないし、用事がなければ自宅からも出ない。

 そんな彼女が、珍しく領主の家にやって来ていた。


「カイトくん。見てくれたまえよ。これを! ヘルムートくんが持っていたのだよ!」

「建築図鑑ですか。あ、すごいですね。発行元が帝国出版じゃない!」

「そうなのだよ! 検閲のせいで帝国出版以外の書物は短命で終わると言うのに! この図鑑! 二十五年も前のものなのだよ!!」

「ヘルムートさん元司書ですもんね。アルゴートに流された時に持って来たのかな?」

 いつになく興奮気味のユリス。

 聞けば、この感動を共有しようとした仲間の天使たちに冷たくあしらわれたらしい。

「カイトくん、暇かね!? ボクの家でアフタヌーンティーでも嗜みながら、この図鑑について語らおうではないか!! ……正直、カイトくんにまで断られたら。ボクはアルゴートから出ていくのも辞さない構えなのだよ」

「行きましょう! すぐに!! 俺、食堂で何かお菓子貰ってから伺いますから!!」

 お茶会は突如始まる。


 ユリスの家は装飾から家具の配置まで、創造の天使のこだわりが詰まっている。

「久しぶりにお邪魔しますけど、何度見てもすごいですね」

「ふふんっ。やはりカイトくんは違いの分かる男なのだよ。さあ、紅茶が入ったのだよ」

「俺もスコーンを持ってきましたよ」

「素晴らしいのだよ。やはり紅茶と言えばスコーン。マフィンも可!」

 まずは2人で紅茶を一口。

 甘めの味は疲れた脳と心を癒してくれる。

「そういえば、ユリス様」

「どうしたのかね」

「いえ。普段と服が違うなぁと。家では着替えるんですね」

「ふむ。……ああ。シエラやネイアを基準に考えているのかい? 彼女たちは何と言うか、興味のある事以外に無頓着過ぎるのだよ」

 ユリスは部屋着を身に纏っていた。

「でも、良くお似合いですよ。見た目も品がありますし。機能性も抜群なんでしょう?」

「君は実に見所しかない若者なのだよ。もちろん、ボクは外見も使い心地も両方妥協しないのだよ。……ただ、家から出る時は着替えねばならんのだよ」

「どうしてですか? その服でも充分、女神としての威厳は保たれると思うのですが」

「以前、一度この姿で出かけた事があるのだがね。シエラとネイアはもちろん、リザくんまで当たりが強くなったのだよ。……みんながスタイルを見せびらかすなと。そんなつもりはないのだよ!!」

 言われてみれば、ユリスの部屋着は普段の恰好に比べて体の凹凸が強調されていた。

「俺は男なのでよく分かりませんが。ご苦労はお察しします……」

「ありがとうなのだよ。リザくんまで敵に回すと、ボクは女子チームで孤立してしまうのだよ。……くすん」

 日頃から乙女たちのまとめ役を担っているユリスの苦労が垣間見えた。

「そ、それよりも! 図鑑を見ましょう! 俺、帝国暦五百年代の建築様式が好きなんですよ!」

「ほほう! 渋いところから来たのだよ! 石造りの全盛期だね。ボクも好きなのだ。災害への備えと美しさの両立。興味深い。建築士のクリエイティブな思考が見て取れる。おおっ、これを見たまえ、カイトくん! この噴水! やはり水と建築は切り離せないのだよ!!」

 それからユリスは表情をコロコロ変えながら多くを語り、カイトは笑顔で聞き役に徹した。


 すっかり日が暮れた時分になり、カイトは「お暇します」と申し出た。

「充実したひと時だったのだよ。是非また時間ができたら来てくれたまえ。歓迎するのだよ」

「はい! 楽しかったです!!」

「ボクもなのだよ。ふふんっ」

 アルゴートの知恵者たちはこのように、時折ストレス解消をしながら政務に励んでいる。