この様子ならば、カイトが家を空けても問題はなさそうである。
彼はケベルトの家を訪ねて、アルゴートに新しい入植者がやって来た事を伝えるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
人の噂の足は早いものだが、その舞台が田舎となればスピードも上がる。
領民が約百人しかいないアルゴートならば、さらにひとしお。
ケベルトにリザがアルゴートに住まいを構えたいと言っている旨を伝えてからたったの半日しか経っていないのに、カイトの家には領民が入れり替わり立ち替わりに訪れていた。
もちろん、目的はリザだ。
「おじゃまします。何か物入りじゃありませんか? オイラの家にあるもので良ければ、何なりと持って行ってくだせぇ!」
「うん。あなたでそれを言いに来たのは二十三人目ですよ。そして、ダメです。元からギリギリの状態で生きているでしょうに、みんなは。これ以上何かを失ったら生活が立ち行かなくなる。こんなこと、弱卒の身である俺に言わせないでくださいよ」
リザの人気は凄まじかった。
そもそも、アルゴートには若い娘がいない。
彼女も自分のアピールポイントとして語ったように、女性自体が少ない。
領民の八割が男であり、その男女比を土台にして、若くておまけに可愛らしく気立ても良いリザに心を躍らせる者たちが多いのも致し方ない。
実際、カイトから見てもリザは魅力的だった。
スタイルの整った体に、小さな顔に大きな瞳。
どこか気品を感じさせる佇まいなのに、活発で相手を気遣い、よく話を聞き、よく喋る。よく笑って、よく表情を変化させる彼女は、ある意味では天使のようだった。
「カイト様ぁ! リザ嬢ちゃんの歓迎会の用意が整ったぜ! がっはっは! 備蓄の食料に秘蔵の酒も用意して、今宵は盛り上がろうぜ!!」
「ヘルムートさん。一つだけ良いですか?」
大きな酒樽を肩に載せた屈強な若い衆のまとめ役に、カイトは尋ねた。
「俺がここに来た時って、やってないですよね? 歓迎会」
「そうだったかな? いやぁ、昔のことなんで忘れちまった!!」
カイトは「まだ一週間経ってないですよね!?」と言いたいところをグッと堪えて、「備蓄の食料を使い切らないようにしてくださいね」と、領主らしく釘を刺した。
「あははー。みんな良い人たちだねー! わたし、上手くやっていける気がしてきた!」
「うん。みんな良い人なんだよ。だから、リザ。パーティーは適当なところで切り上げるように言ってくれる? 絶対あの人たち、保存食を残らず使う気だ。目を見たら分かる。ウッキウキで全部使い切るね。賭けても良い」
「えー!? カイトが言えば聞いてくれるんじゃないの? 領主様なんだし!」
「……領主よりも人気のある子が、既に二人もいるんだよね」
一人はリザ。
そして、もう一人が帰って来た。
「……ただいま。……カイト、今日のご飯を獲って来た。……でも、今日は村のみんなにあげる。……リザの歓迎に使って欲しい。……私はリザの先輩だから。……ふふっ。どやぁ」
シエラが今日も巨大な魔獣を仕留めて狩りから戻る。
獲物の大きさも過去最大で、それをヘルムートの前に無造作に置いた。
「おおお! ありがてぇ!! こんだけデカいモンスターなら、領民全員で食っても食い切れねぇぞ! おい、お前ら! しけた干し肉の準備はヤメだ! こっちのシエラ様が狩ってきてくださった魔獣を
ヘルムートを先頭に、十人ほどの食料担当班がシエラに頭を下げる。
「ありがたや! ありがたや!!」
「大天使様のご加護、半端ねぇ!! これからもこの地を護ってくだせぇ!!」
「
いつの間にかシエラを崇拝する者が村に一定数存在しており、アルゴートに新たな宗教が誕生するのも時間の問題かと思われた。
その後、日暮れ前から行われたリザの歓迎パーティーは夜遅くまで続いた。
カイトも飲めない酒を飲まされ、途中からの記憶がない。
領主様としての威厳はまだまだのようである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝。
数日前から計画していた村の廃屋の処理にカイトたちは着手していた。
「カイトすごいねー! あんなに酔い潰れてたのに、顔色も良いし! お酒強いんだ?」
「いや、全然だよ。最初の一杯から先の記憶が全くない」
ならばどうしてカイトの体調が、二日酔いというバッドステータスに染まっていないのか。
当然《目覚まし》のスキルによるものである。
二日酔いにも効果のある《目覚まし》。
あれだけ外れスキルだと周りから指をさされ、自分でも嫌な顔をしていたのに、結構お世話になっているカイト。
人間、慣れてしまえば意外と何とでも上手く付き合えるようだ。
「……『ライトニングレイ』。……えいっ」
アルゴートにはまだ利用価値のある空き家と、手の施しようのない害を生み出す廃屋がある。
ここは元より毒素の強い地盤の上にある土地なので、手入れのされていない空き家はその瘴気や寄って来る毒虫たちによって
一度そうなれば、焼き捨ててしまうのが手っ取り早い。
大天使シエラ様の出番だった。
彼女の降らせる雷の雨は、毒だろうと何だろうと平等に灰に変える。
これで村にあった十四棟の廃屋の処理が終わった。
「じゃあ、後の始末はヘルムートさん。皆さんにお任せしても良いですか?」
「おう! 任せといてくれ!! ここまで綺麗に焼け焦げちまえば、後はオレらでも事足りるぜ!! おっしゃ!! お前ら、仕事だぜ!!」
頼りになる若い衆のリーダーに残りを任せると、カイトとリザは空き家の掃除に移る。
こちらは清潔な環境を保っていればまだ住む事ができる家であり、今後やって来るかもしれない入植者のためにも、良い状態の空き家はいくらあっても足りない。
「おおー! この家はなんだかちょっと雰囲気違うねー! ほらほらぁ! 見て、カイト! 天井に照明が付いてる!!」
「ええと、この家の元の住民は。なるほど。鍛冶を主な仕事にしていた人みたいだ」
よく見ればテーブルや椅子も精巧な装飾が施されている。
綺麗にすればこの村で一番の住居になるだろう。
「この家をリザに使ってもらいたいと思うんだけど」
「えっ!? わたしに!? いいよ、悪いよ! こんなお家!」
「……ふふ。……リザは後輩だから、カイトの家には住めない。……これは先輩と後輩の関係に照らし合わせてみても当然。……元気でね」
「いや、シエラとリザの二人で住んでもらおうかと思って」
「……え? ……カイト、私に飽きた? ……もう一緒に寝てくれないの?」
「ヤメてもらえるかな!? その絶妙に誤解しか生まれない言い方!!」
カイトは紳士らしく彼女たちに説明した。
「年頃の男女が一緒の家で過ごす事は色々とよろしくない」と。
貴族出身らしい、実に筋の通った理屈だった。
「……ヤダ。……私はカイトと一緒に住む」
いくら頑丈な筋が通っていても、大天使には理屈など通じない。
さらに、リザも続く。
「わたしも、独り暮らしは寂しいからちょっと嫌かなーとか、思っちゃったりしてー。だって、せっかく家族ができたんだもん!」
「いや、気持ちは嬉しいけど。俺もリザの事は新しい家族だと思っているけども。うちからたった百メートルしか離れていないじゃないか。用があればすぐに俺が来るから」
不満顔のシエラとリザ。
彼女たちはこそこそと内緒話を始めた。
「……リザ。……私に名案がある」
「おおー! さすが大天使! シエラちゃんの考えをぜひ聞きたいよ!!」
「……ここは、一度カイトに従うふりをする。……カイトは意外と頑固。……ここで押し問答をするのは時間の浪費」
「ふむふむ。確かに、カイトってちょっとマジメ過ぎるところがあるよねー」
「……理解が早くて助かる。……つまり、作戦決行は」
「お掃除の後に生まれる隙、だね!」
乙女たちの内緒話には気付いていたカイトだが、紳士たる者、婦女子の密談に聞き耳を立てるような
彼は窓を美しく磨き上げる事に集中していた。
数時間かけて、清潔な家がまた一つ新たにこの村で産声をあげる。
「よし! これで今日から二人はこっちの家に住めるよ! じゃあ、俺は家に戻って書類仕事をするから! また明日!!」
挨拶をして、カイトは空き家から出た。
ケベルトの家に寄って、書類に記載されていない領地の情報の確認をしてから彼も帰路に就く。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……おかえり。カイト。……意外と遅かったから心配した」
「おかえりなさーい! 今、ご飯作ってるからね!」
「いや!! なんで二人が俺の家にいるの!?」
カイトの叫びはもっともだった。
では、昼間に行った掃除は何のためだったのか。
「……住み慣れた家で生活したいと考えるのは至極自然なこと」
「わたしもー! 初めてアルゴートに来て見たのがこの家の天井だったからさ! 愛着が湧いちゃって! てへへー」
「分かった。じゃあ、俺があっちの空き家に住む」
シエラとリザが、彼の両腕をがっちりと掴んで離さない。
さすがは大天使と冒険者。なかなかの力である。
「なんで止めるの!? だから言ったじゃないか! 同じ家に年頃の男女が住むのは!!」
「……私たちはカイトのいる家について行く。……これは決定事項」
「えへへー。わたしもカイトと一緒の方が落ち着くから、先輩と一緒について行くんだー!」
カイト・フェルバッハは一つ賢くなった。
結託した乙女たちの前では、正論など何の役にも立たない。
こうして、三人暮らしの継続が決まった。
カイトは「領主の権限ってこんなに弱いものなのか……」としばらくの間、人知れず落ち込んだという。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「カイトー! 村はずれにある沼地に住み着いてたカエルのモンスター倒して来たよー!!」
「ああ、お疲れ様。やっぱり戦闘のできる人間が増えると助かるなぁ」
「……むぅ。……カイト。……私だってカエルくらい一瞬で焼き尽くすことができる」
「そうだね。その結果、近くにあるものが全て灰になるよね。適材適所ってヤツだよ。シエラにはシエラにしかできない事がいっぱいあるじゃないか」
「そうだよ、シエラちゃん! いや、シエラ先輩!! 大先輩!!」
「……二人がそう言うなら。……むぅ。……私としても振り上げた拳を下ろすことはできる」
リザがアルゴートにやって来てから二週間。
この地の浄化作業は順風満帆とまではいかないが、どうにか進行している。
ヘルムートたち、元からいた領民も頑張ってくれてはいるが無理はさせられない。
彼らは長年厳しい環境にさらされてきたせいで慢性的な怪我や持病を持つ者も多く、また若い者となればさらに限られる。
しかも、彼らには彼らの生きるために必要な仕事がある。
「カイト様よぉ! 今日は水汲みの日なんで! オレと三十人ほどちょっくら抜けるけどさ、人手は大丈夫か!?」
「ああ、もちろんですよ。道中はくれぐれも気を付けて。水はまた汲みに行けば良いけど、みんなの命は一つですからね。モンスターに遭遇したら何を捨てても逃げるように」
「へへっ。まったくうちの領主様はお優しいぜ! おっしゃあ! 行くぞ、野郎ども!!」
「「「おうっ!!!」」」
アルゴートに多く存在している瘴気を蓄える場所の浄化作業は進んでいるが、この地にある問題はそれだけに留まらない。
特に、飲料水をはじめとする生活に必要な水の諸問題に関しては優先度が高いと、この新領主も考えていた。
この地の井戸は枯れており、居住地で水を得る手段がない。
今は領民の若い者たちが代表して、週に二度ほど十五キロ離れた水源に水を汲みに行っている。
だが、カイトも言ったように道中は険しい。
道なき道を行く事になるし、大量の水を担いで何度も往復していると怪我をするかもしれない。
何より、アルゴートの近辺ではモンスターが頻繁に出没する。
水汲み部隊が怪我をして帰って来ることもままあり、どうにかしなければとカイトも頭を悩ませていた。
「お水は大事だよねー。お料理にも使うし、お風呂とかも。あと、飲み水がないと喉が渇いてお仕事どころじゃなくなるよぉー」
「うーん。やっぱり、もう何か所か井戸を掘ってみるかな。可能性はすごく低いけど、やってみる価値はある。やらないよりはずっと良い」
早速カイトはアルゴートの地図とにらめっこを始めた。
が、それはすぐに終わる。
オヤツと言って干し肉をモグモグ食べていた大天使が呟いたからである。
「……カイト。……水が欲しいの?」
「そうなんだよ。あ、ごめん。シエラの『ホーリーシャワー』はダメだよ? あれ、アンデッド系だけじゃなくて、人間もダメージ受けるヤツだから」
「……むぅ。……じゃあもう言わない。……水問題を解決する手立てがあったけど、もう言わない。……創造の天使ユリスがいればきっと水も生み出せるけど、もう言わない」
シエラはほとんどの情報を開示して、しかし一番重要な部分を伏せるという高度ないじけ方を見せる。
「待って! ごめん! 俺が悪かった! というか、シエラって記憶戻ったの!?」
「……戻ってはいない。……だけど、断片的に覚えている事もある」
「頼むよ、シエラ! 創造の天使ってどこにいるの!?」
「わたしからもお願いしますっ! シエラちゃんの大天使っぷりをカイトに知らしめるチャンスだよ!! きっとオヤツのバリエーションも増えるよ!!」
「……本当に? ……干し肉とシチュー以外のものも食べられるようになる?」
「なる! 水さえあれば、もっと多種多様な調理ができるから! シエラの好きな料理もいっぱいあると思うんだよなぁ!!」
大天使様は食欲に屈する。
シエラは創造の天使ユリスがかつて居た場所をカイトに伝えた。
創造の天使の能力について詳しい説明はなかったものの、「……創造の天使だから。……きっと、色々生み出せる。……多分」とシエラは胸を張った。
アルゴートから三日ほど歩く距離だったが、シエラとリザが一緒ならば問題はないだろうと判断したカイト。
領民のためにもすぐに行動に出る。
旅支度を整え、翌日には出立。
「ケベルトさん。ヘルムートさん。留守の間をお願いしますね」
「ほっほっほ。領主自らが現場に行くとはのぉ。カイト殿は相変わらず不器用じゃ」
「道中は大天使様と嬢ちゃんを頼ってくれよ! あんたに死なれちゃ、アルゴートは終わりなんだからな!! とにかく、命を守ってくれよな!!」
親愛なる仲間たちに見送られて、カイトたち三人は目的地へと向かう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ブラウゼンはアルゴートから東に六十五キロほど行った場所にある。
かつては水の都として栄え、その豊富な湧き水を求めて多くの旅人が押し寄せたと言う。
だが、あくまでもかつては、の話である。
三日かけてやって来たカイトたちを出迎えたのは、アルゴートにも負けないほど干乾び、荒れ果てた土地だった。
石造りの家々は崩れ去っており、都市全体の風化は進み、どう見ても人が住んでいるようには見えない。
「ええと。シエラ? 確認するけど、都市の名前はブラウゼンで間違いない?」
「……うん。……水の都ブラウゼン。……私の記憶にはそう残っている」
「あ、あははー。ちょっと水の都って感じではないよねー」
カイトは持参した地図に目を落とす。
そもそも、地図にブラウゼンという地名がない事に疑問を持つべきだった。
加えて、シエラが一体何年前、もっと言えば何百年前に封じられたのか分からない点も考慮するべきだった。
そもそも、今の帝国に天使がいるという話を聞いたことがないのだ。
シエラによると、今でも天使は存在するらしい。気配で何となく分かるとの事。
だが創造の天使という万能な天使がいるとなれば、カイトのこれまでの人生で一度はそんな話を聞く機会もあっただろう。
これは若さゆえの勇み足と言ってもよい失態だった。
「なんてこった。無駄足だったかぁ……」
シエラとリザは「ちょっと色々と見て来る」と言って、ブラウゼンを探索しに奥地へと進んで行ったが、カイトにはそんな体力も気力も残っていない。
旅の道中、少しずつ惜しみながら飲んで来た水を少量口に含む。
この程度では癒やせないほど、彼の心は乾いていた。
「カイト、カイトー! なんか石碑があったよ! こっち来てー!!」
「分かった。すぐに行くよ」
せめて、廃墟の観光くらいしなければ損である。
いつまでも座り込んでいても仕方がないと、カイトは立ち上がってからリザの声のする方へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほら、これ! 何か書いてあるんだけど、わたしには読めなくてさー。カイト読める?」
「古代文字だね。一応座学で習った事はあるけど……。断片的になら読み取れるな」
「ホント!? さすがカイト! じゃあ、読めるとこだけでもお願い!!」
「ええと。帝国暦五二五年……。ここからしばらくは読めないな。次は、ブラウゼンの歴史はここに途絶えた。最後の民、この碑にその足跡を記す。だってさ。……ん? 帝国暦ごひゃ、五二五年!? 二百年以上前じゃないか!!」
現在は、帝国暦七五一年。
この石碑に書かれている事を全て真実だと仮定すると、二百年以上前にブラウゼンは滅んだことになる。
そう考えると、今ではあまり見かけない、全てが石造りの街の廃墟も歴史の証人のように思えて来る。
「そっかぁー。だからこんなに荒れ果ててるんだね。だって、モンスターすらいないもん!」
「確かに。アルゴートには毒の沼地とかがあって、アンデッドが住み着いているけど。ここには毒すら遺ってないなぁ」
二人で在りし日のブラウゼンに想いを馳せていると、シエラがやって来た。
彼女は控えめに手招きをする。
「……カイト。……興味深いものを発見した。……リザと一緒に見に来て欲しい」
大天使の導きに従って、瓦礫の山を越えた先には異質な場所があった。
その区画だけ妙に綺麗であり、廃材や岩の一つも転がっていなかった。
「これは……花? こんな荒れ地で、水の一滴もないのに!?」
「すごいねー! なんだかクリスタルでコーティングされてるみたい!」
「……リザの見解は結構正しい。……これは恐らく、創造魔法の一種。……私が見たところ、数百年前に創られたものに思える。……数百年もの間、創造したものを風化させずに留めておける魔法は、人間などに使えない」
そこまで説明されて、カイトとリザもやっと納得するに至る。
「この花が、つまり墓標代わりってことか」
「お墓かどうかは分からないけど、この下に創造の天使さんがいる可能性はあるよね!」
「……そう。……つまり、カイトの出番」
《目覚まし》を使ってみたら良いと、三人の見解は一致した。
「じゃあ、やってみようか! ……ふぅんっ! うぉぉりゃあっ!!」
カイトが魔力を右手に込めて、そのまま地面に触れた。
次の瞬間には、大地が揺れ始める。
続けて地割れが発生し、カイトはリザに助けてもらわなければ口を開けた地面に呑み込まれていただろう。
シエラを目覚めさせた時の事をもっとよく思い出せばよかったと、九死に一生を得たカイトは猛省するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
地震が収まり、ブラウゼンの大地は先程までの天変地異が嘘だったかのように静かになる。
その雰囲気は何となくカイトに嫌な予感を想起させる。
パックリと割れた地面から両手が生えて来たのは、そんな予感を彼が抱いてからすぐだった。
「おわぁっ!? つ、ついにアンデッドが出た!! 二人とも、ゾンビだ! 戦おう!!」
だが、その両手はゾンビのものにしては美し過ぎた。
何やら、シエラと初めて出会った時を思い出すカイト。
だが念には念を。
アンデッド呼ばわりした者がズズズと地面から
結論から言えば、彼女はゾンビではなかった。
泥だらけでよく分からないが、背中には小さな白い翼が生えている。
その翼を羽ばたかせて彼女はふわりと浮かび上がった。
全身を見るとよく分かる、際立ったスタイルの良さ。
豊かな胸の膨らみとフワフワした髪は幻想的な雰囲気の演出に一役買っており、シエラとはまた違った意味で天使然としていた。
「やれやれ。気持ちよく寝ていたというのに。ボクを起こしたのは君で良いのかね? まったく。乙女が眠っていたらまずは声をかけるのがマナーなのだよ。だが、起こし方は悪くなかった。実に快適な目覚めなのだよ」