
──そうして、その時はやってきた。
三年生も引退した八月の半ば。
新チームとして動き出したソフトボール部で──私の最後の夏が始まった。
「お待たせ、さーやちゃん」
職員室から出てきた私は、廊下で待ってくれていた友人に声をかける。
「碧、どうだった?」
緊張しているのか、硬い声のさーやちゃん。
そんな彼女に、私は笑顔で報告する。
「うん。ちゃんと入部届を受理してくれたよ」
私の
昨日、病院でリハビリ終了を告げられた私は、早速ソフト部に入部することにした。
とはいえ、レギュラーを目指すのは難しい怪我を抱えていること、なにより短期の入部になるであろうことから無事に入部できるかは怪しかったのだ。
「よかったな。昨日、碧が入ることを及川先輩に報告したら、残念がってたぞ。もう少し早かったら一緒にできたのにって」
「あはは、さすがにそんな大事な時期に入れないって」
いくらなんでも大会中に入部なんて真似はできない。
もちろん及川先輩にはお世話になったし、一緒にプレーしたい気持ちはあったが。
「今はさーやちゃんと一緒にプレーできるだけでも十分だよ」
もし同じ高校に進学したら、バッテリーを組んで一緒にインターハイを目指そう。
中学の頃、二人で妄想したささやかな夢。
半分だけだが、確かに
「……そうだな」
私の事情を全て知っているさーやちゃんは、少しだけ寂しそうに頷いた。
「碧!」
と、その時だった。
廊下の奥から走ってくる人影が見えた。
「陸?」
意外な人物の登場に、私は目を丸くする。
「どうしたの、こんなところで」
こっちに近づいてくる陸に訊ねると、彼は少し照れたような顔をした。
「いや……今日ソフト部に入るっていうから、ちょっと気になって」
どうやら、陸は私のことを心配してわざわざ来てくれたらしい。
「過保護だなあ、陸は」
口ではそう言いつつ、私は
「……やれやれ。私は先に行ってるぞ。後からゆっくり来い」
そのやりとりに何を思ったのか、さーやちゃんは
気を遣われたのか、
陸はその背中を
「それで、無事に入部できたのか?」
「うん、大丈夫だったよ」
私の報告に、さっきのさーやちゃん以上の
「……短い期間だけどね」
きっと、これから私を待つのはちゃんと投げられた頃の自分の影を追うだけの日々。
この挑戦は、必ず
それが分かっているのだろう、陸も硬い面持ちでこっちを見た。
「碧。ソフトができなくなっても、俺がずっとそばにいるからな」
「うん。ちゃんと分かってるよ」
だからこそ、私はこの挫折に挑むのだから。
──私が話す時、静かに見守ってくれる目が好き。
打席に立った時の真剣な表情も、私を心配する時に顔を
全部全部好き。大好き。
今までずっと、陸にフラれるのが怖いって思ってた。
だけど今は違う。
こんなに好きな気持ちを、陸に知ってもらえないまま終わってしまうのが何より怖い。
だから私は挫折する。その先にある約束を果たすために。
「じゃあ、行ってきます」
「ああ。頑張れよ」
見送る陸を背に、私は静かに歩き出す。
この先に