
ホームルームが終わった放課後。
今日はシニアの練習がないため、ゆっくりと下校準備をしていた俺の下に、隣のクラスからいつものように
「やっほー! 陸、碧。今日は暇?」
遊ぶ気満々、という顔をした香乃である。
他のクラスメイトたちが全員
「また来たな。
「むぅ……それは残念。でも陸は確かシニア休みだよね?」
「なんで知ってるんですかね……そうだけど」
なんか俺の知らないところで勝手にスケジュールを把握されていた。外堀を埋めるのがちょっとずつうまくなってきたな、こいつ。
「仕方ない。なら今日は二人で遊ぼうか。遊園地行こう、遊園地」
「この時間からそんなところ行く奴がいるか。悪いが俺も自主練するつもりだから、一人で行ってこい」
しっしっと追い払うと、香乃は不満そうな顔をする。
「なんだよー。そんなに無理しなくていいのに」
「誰が無理してるんだよ。お前といるほうが無理──」
「そうじゃなくてさ、そんなに無理して野球が好きだってアピールしなくていいのに」
「──────」
途端、フリーズした。
一瞬、世界から音が消えるような錯覚。
心身を再起動させるべく無理やりに息を吐くと、どくんどくんという心臓の鼓動とともに、世界に音が戻ってきた。
「……なんで、そんなことを」
ぎこちなく問いかけると、香乃は苦笑を浮かべた。
「そりゃ分かるよ。碧と陸、やってる競技に対する熱量が全然違うもん。だから、陸は碧に合わせてるんだろうなあって前から思ってた」
嫌な汗が背中を伝う。
見抜かれた。俺がずっと隠していた部分。俺の心の中で、一番みっともない部分。
身構える俺に、しかし香乃はいつもと変わらない態度で唇を
「陸にとってそれが大事なものなのは分かるけど、私と二人の時にまでそのキャラを通す必要はなくない?」
少し
ただそれだけで、みっともない俺の意地を、
「香乃……」
この感情をなんと呼んだらいいのだろう?
驚きと、気恥ずかしさと、喜びと、全てがない交ぜになった、泣きたくなるような感情。
「というわけで、やりたくもない自主練なんてやめて私と遊びに行こう! いやあ、今日すっごい暇でさー」
俺が自分の感情に戸惑っていると、香乃は俺の手を引いて歩き出した。
そんな彼女に、俺は無理やり仏頂面を作ってみせた。
「なんだよ。結局、自分のためじゃねえか」
「ふふっ、当然でしょ? ほらほら、行くよ」
俺の手を引いたまま、明るく笑う香乃。
それになすがままにされながら、俺は内心で焦っていた。
──やばい。これはやばい。
どうして俺の中にあった苦しさをあっさり見抜いてしまうんだ。
あっさり受け止めてしまうんだ。
そんなことされたら変わってしまう。
友達だと思っていたのに、友達でいたいと思っていたのに──もっと熱くて切ない気持ちに。
この日から、俺は香乃をただの友達とは見られなくなってしまった。