三回表 ノリと勢いが招いたもの。



「あ。そういえば今日、営業終わったらそのまま店で四人の歓迎会やるから」

 バイト三日目。

 フロアで客の残した食器を片付けていると、隣で床の掃除をしていた香乃が不意にそんなことを言い出した。

「なんだ、急に。そもそも短期バイトにそんなのいるか?」

 わざわざおおにやってもらうほど、俺たちはここで長く働くわけではない。

 首を傾げる俺に、香乃はもつともらしい表情で頷いた。

「いるでしょ。陸たちはみんな友達なのかもしれないけど、私は陸と碧の二人としか仲良しじゃないからね」

「いや……厳密に言うと俺たちとも仲良しではないけども」

「しゃらっぷ。とにかく、私も二条さんや有村君と仲良くなる機会が必要なわけよ。こういう小さなイベントが人間関係を築くコツだったりするの」

 したり顔で話す香乃に、俺は大きな驚きを覚えた。

「まさか香乃に人間関係について説かれる日が来るとは……まあでも、あの二人は割と心が広いし、多少の非常識なかぶき変わり者ものなら受け入れてくれるだろうからな。香乃の相手にはちょうどいいかもしれん」

「誰が非常識なかぶき変わり者ものだよ!」

 という叫びはスルーしつつも、俺は少し驚いている。

 俺も香乃のことを銀司や二条に紹介する機会は必要だと思っていたが、まさか香乃が自分からこういった企画を立ち上げるとは思わなかった。

「ま、せっかくだしありがたく歓迎してもらうことにするよ。他の三人にも俺から伝えておく」

 香乃の企画に乗ることにすると、彼女は満足そうに頷いた。

「よしよし。じゃ、ついでに店長からの許可も陸から取っといて」

「……は?」

 香乃の口から当然のように出た言葉に、俺はピタリと動きを止めた。

「は? じゃないでしょ。店長の許可取らずに営業後のお店使えないじゃん?」

 やれやれと言わんばかりに説明する香乃に、俺は思わず表情を引きつらせる。

「……おい。まさかと思うが、自分で企画したくせに、何の準備もしてないってことはないよな?」

 恐る恐る確認すると、香乃は何故か不敵な笑みを返してきた。

「ふっ、そりゃあもう。だって三分前に思いついた企画だからね!」

「見切り発車にも程があるだろうが!」

「でも陸も賛成したし! 賛成した以上は手伝ってもらうからね!」

「相変わらず俺を巻き込むことに躊躇ためらいがねえな! やっぱお前なんも変わってねえわ!」

 前言撤回。やっぱり香乃は香乃だった。



 というわけで、営業終了後。

 押し問答の末、見事に面倒ごとを半分押しつけられた俺は、なんとか歓迎会の準備を完了させた。

 よく考えたら、歓迎される側が準備をするというのは明らかにおかしいのだが、香乃に俺を歓迎する意思はないと考えると悲しいことにつじつまが合う。おのれ……いつか見てろ。

 そんな諸々の経緯はあったものの、無事に店長の許可も取り、歓迎会は開催される運びとなった。

「はい、全員飲み物行き渡った?」

 幹事の香乃が、確認するように周囲を見回した。

 店長がサービスで作ってくれた料理がテーブルに並び、俺たちはその前で各自飲み物を持って香乃を見つめている。

 そんな様子を見て、香乃は満足そうに頷くと、手に持ったオレンジジュースを掲げた。

「じゃあ、これからバイトを一緒に頑張る仲間たちに、乾杯!」

「「「「かんぱーい!」」」」

 香乃の音頭に応じて、俺たちも手に持った飲み物を掲げた。

「じゃあ俺は二階にいるから、何かあったら言ってくれ」

 歓迎会が始まると、キッチンにいた店長がそう声をかけてから階段を上っていった。

 責任者だから帰るわけにはいかないものの、俺たちが気兼ねなく楽しめるように気を遣ってくれたらしい。ありがたい話だ。

「はーい! 店長、ありがとうございました!」

 ひらひらと手を振って見送る香乃。

「銀司、二条、ちょっといいか?」

 料理を取っていた二人に声をかける。

「おう、陸。なんかお前も歓迎会の準備してくれたってな。さんきゅ」

「巳城も歓迎される側だろうに、物好きだな」

 朗らかに感謝してくる銀司と、少しあきれたような二条。

 そんな二人に苦笑を返してから、俺は香乃のほうをいちべつした。

「改めてだけど、二人を香乃に紹介したいんだ。いいかな?」

 この三日間、慣れない仕事を覚えるのに手一杯で、二人とも香乃とちゃんと話をする機会はなかったはずだ。

 香乃の希望でもあるし、俺から紹介するほうが自然だろう。

「お、いいのか? いやあ、あそこまで綺麗な子だと、こっちから話しかけるの躊躇っちゃってさ」

「助かる。私もあの子に興味あったしな」

 銀司と二条も乗り気なようでほっとした。

「おい、香乃」

「ん? おっ、なになに?」

 呼びかけると、彼女もなんとなく用件を察したのか、小走りでこっちに来た。

「改めて紹介するよ。こちら有村銀司と二条沙也香。俺と碧のクラスメイトだ」

「どうも。有村です」

「二条です。よろしく」

 あいさつをする二人に、香乃もにこやかに応じた。

「陸と碧の中学の同級生だった東雲香乃です。今日は私の我がままに付き合ってくれてありがとうね。二人とゆっくり話す機会が欲しくってさー」

「俺たちもだよ」

「仕事のフォローしてくれてる上に、こんな会まで開いてくれてうれしいよ」

 スムーズに会話が始まったのを見て、俺はそっとその場を離れる。

「陸」

 と、そこで碧に名前を呼ばれた。

 俺と同じく、香乃があの二人とうまくやれるか、緊張しながら見守っていたらしい。

「香乃、さーやちゃんたちと仲良くなれそうだね」

 少しほっとしたような碧。

 彼女も昔の香乃を知っているため、銀司たちと衝突しないか心配だったようだ。

「ああ、そうだな」

 笑顔をほころばせながら俺と碧以外の人間と会話をする香乃を見て、少し感慨深い気持ちになった。

「香乃、ちょっと変わったね」

 碧も俺と似たような感想を持ったのか、そうつぶやいた。

 他人と接することを嫌がるくせに、一度心を開いた人間にはべったり張り付く。

 そういう不器用な人間関係しか築けない奴だったのに、今は初対面の人間とも、俺や碧の助けなく適度な距離感を保てている。

「……まあ、厄介なところだけは変わってなかったけどな」

 だが、そんな旧友の変化を素直に認めるのがなんかしやくで、俺は渋面を浮かべてしまった。

「あはは。確かに」

 碧は苦笑で俺の言葉を認める。

「おーい。陸、碧、ちょっとこっち来て」

 と、二人で話していた俺たちに、香乃の呼び声がかかった。

 見れば、なにやら手には出来たてのたこ焼きが載った皿を持っている。

 ……なんか嫌な予感がするな。

「なんだよ」

 警戒心も露わに俺たちが近づいていくと、香乃はにやりと嫌な笑みを浮かべてたこ焼きを差し出してきた。

「じゃん! この店の名物、激辛ロシアンたこ焼きだよ! せっかくだからみんなでやろうと思って」

 案の定、ろくでもない提案をしてきた香乃に、俺は渋面を浮かべた。

「さらっとねつ造するな。うちの看板料理は焼きそばだろ。つーか、そんなもんやらねえって。なあ?」

 俺は銀司と二条のほうを見て同意を求める。

 初対面の二人に反対されれば、さすがの香乃もこんな無茶はしないだろう。

 そう思ったのだが、

「いや、やるね! なあ沙也香!」

「ああ。せっかくだし一勝負しよう」

 予想に反して、銀司と二条は死ぬほど乗り気だった。

「えぇ……さーやちゃん、どうしたの?」

 碧も戸惑い気味で友人にたずねる。

「いや、夏の大会に出られなくなったせいで、闘争心のやり場に困ってな。勝負事で発散したい気分なんだ」

 どこか遠い目をする二条。

 これは……顔には出していなかったが、大会に出られなかったのが相当悔しかったんだろうなあ。

「二人がそんなに乗り気なら俺はいいけど……碧はやめといたほうがいいぞ」

 一応、この海水浴は夏の大会に出られなかった二人の気晴らしが目的である。

 これで少しでも二人の気が晴れるならと俺は乗ってみたが、さすがに碧にやらせるのもどうかと思うので、やんわりと止めてみた。

「ううん。せっかくだし、仲間外れのほうが嫌だな。私もやるよ。それにちょっと楽しそうだし」

 が、意外と碧も乗り気っぽい。

 そういや、碧はバッティングセンターでの勝負にもめっちゃ燃えるタイプだし、勝負事は好きだったな。

「よし、じゃあ全員一つずつ選んで!」

 香乃の号令と同時に、俺たちはつまようの刺さったたこ焼きをそれぞれ一つずつ選んだ。

「うわ、なんか緊張するな」

「そうだね……ノーアウト満塁のピンチを思い出すよ」

 顔をしかめる俺とは対照的に、碧はどこか楽しそうだった。

「いくよ……せーの!」

 香乃の合図で、一斉にたこ焼きを口に放り込んだ。

 俺も勢いに任せるままに一息に食べて、恐る恐るむ。

 甘辛いソースの味と歯ごたえのあるたこの食感……ハズレだ。

「んぐっ!?

 俺がほっと一息吐くと同時に、すぐ近くから叫び声が聞こえた。

 声のしたほうに向くと、そこにいたのは涙目になってぷるぷると震える碧。

「か、辛い……ていうか痛い! けほっ、誰か水を……!」

「碧ー!? ちょっと待ってろ!」

 口を押さえてうめく碧を見て、俺は飲み物を探す。

 と、近くに置いてあったジュースの缶を見つけ、碧に渡した。

「ほら、これ飲め!」

「ありがと……」

 俺が差し出したジュースを、碧は一息に飲み干す。

「大丈夫か?」

 心配になって訊ねると、碧は脱力した様子で答えた。

「んん……らいじょうぶ」

 よっぽど辛かったのか、顔は真っ赤でれつも回っていない。

「おお、碧が当たったか。にしても、ちょっとタバスコ入れすぎたかな?」

 ふう、と冷や汗をぬぐいながら息を吐く香乃。

 そんな彼女を、俺はじと目でにらむ。

「お前はもうちょい加減というものをだな」

「いやあ、ついテンション上がっちゃって?」

 自分でもちょっとやりすぎたと思ったのか、気まずそうに目を逸らす香乃。

「ほんとお前は厄介なところだけは──」

 と、俺が香乃に説教を食らわせようとしたところ、ぐいっと服のすそを後ろから引っ張られた。

 振り返ると、何故か赤い顔のまま唇をとがらせた碧がこっちを見ている。

「ねえ、香乃ばっかり構ってないで、私のことももっと心配してほしいんらけど」

 まだ呂律が回っていない状態ながら、俺にそんな抗議をしてくる碧。

「あ、ああ。悪かった」

 その様子に何か違和感を覚えつつも、俺は素直にうなずく。

「よし。ならぎゅーっとして慰めて」

 バッと両手を広げ、ハグを要求してくる碧。

「いや、ちょ、それは……」

 想定外の要求に動揺する俺に、碧は悲しそうな顔を見せた。

「……嫌なの?」

「嫌では、ないですけど」

 いったいどうしたのか。

 違和感はどんどん大きくなっていく。

 と、他のメンツもさすがにこれはおかしいと思ったのか、げんな表情をした。

「あれ……碧が飲んだこれって」

 二条が、碧の持っていた缶ジュースのパッケージを見て、小首を傾げた。

 次いで、銀司もはっとしたように目を見開く。

「うわ、これジュースじゃねえぞ。お酒じゃん!」

「え」

 予想外の言葉に、俺も缶ジュースを再び見つめる。

 すると、そこにはアルコール度数五%の文字が躍っていた。

「し、しまった……!」

 慌てていたせいで、うっかりジュースと間違えてお酒を渡していたらしい。

 ということは、今の碧は酔っ払い状態ということか。

「りくー、はーやーくー」

 当の碧は酔っ払っている自覚があるのかないのか、周りの慌てる姿など目にも入っていない様子でハグの要求を続けていた。

 いったいどうしたものかとしゆんじゆんしていると、香乃が小声でささやいてくる。

「陸、とりあえず刺激しないよう言うことを聞いて。そんなに飲んでないし、酔いが覚めるまで時間稼げばなんとかなるはず」

「お、おう」

 その指示に従い、俺は碧に向き直る。

 ゆっくりと間合いを計るように近づき、手の届く距離まで来た。

「い、行くぞ……」

「うん!」

 無邪気に待ち構える碧。

 そんな彼女を、恐る恐る正面から抱きしめた。

「う……」

 やばい、アクシデントで密着したとかじゃなく、自分の意思で、しかも正面から抱きしめるって全然感覚が違うんだけど。

 いやもうあちこち柔らかいし、息づかいとか心臓の鼓動まで伝わってきそうだし、何よりちゃんとお互いに抱き合いたいという合意の下にくっついているのがこう、精神的にだいぶくるというか……。

「えへへへー。陸、すっごいドキドキしてるし」

 俺に碧の心臓の鼓動が伝わってくるということは、その逆もまた然りということ。

 碧は俺の胴に回した腕にぎゅっと力を込めつつ、胸元に耳を寄せてきた。

 やばいこれはマジでやばい俺の理性が吹っ飛ぶっていうかその前になんかしゆうとかドキドキ感で心臓が破裂しそうっていうかでもここで破裂したら碧の鼓膜も破れそうだからなんとか堪えなければいけない頑張れ俺マジで頑張れ。

「陸、陸」

 俺の思考が混迷を極めつつある中、香乃が密やかにミネラルウォーターのペットボトルを差し出してきてくれた。

 それを受け取り、碧を見る。

「碧、ほら水飲もう?」

「えー、なんでー? のど渇いてないよ」

 やはり酔っ払っている自覚がないのか、碧は不思議そうに首を傾げた。

 そういや自覚のない酔っ払いに水を飲ませるのは大変だって、親父も言ってたな。

 自分が酔っていることを意地でも認めないから、水を飲む必要はないと突っぱねるのだとか。

 ここはうまく説得しなきゃいけない。頭を使うんだ、俺!

「んふふー、陸のほうからこうやってぎゅってしてくれるの、滅多にないよねー」

 が、今まさに脳をフル回転させようとした時、碧がまた一段と密着度を上げてきて、俺の脳は見事フリーズに陥った。

 どうしよう、全く思考がまとまらない。

 ていうか、よく考えたら無理に水飲ませる必要ないような気がしてきた。碧も満足そうだし、俺もうれしいし。

 うん、碧が自然と戻るまでこのままで──。

「巳城、酔っ払い相手に調子に乗ると、素面しらふに戻った時が地獄だぞ」

 俺が現状維持に走ろうとすると、それを見抜いたように二条がぼそっとつぶやいた。

 それを聞いて、俺はすんでの所で我に返る。

 そ、そうだ。酔ってるのをいいことにくっついて喜んでるとか、道徳的によろしくない。

 碧が正気を取り戻した時にお互い気まずい思いをしないよう、全力を尽くさなければ。

「碧、とりあえず水飲もう」

「むぅ……喉渇いてないのに?」

 再び嫌がる碧に、俺はぎこちない笑みを浮かべて説得を続ける。

「でもまだ口の中ひりひりしてるだろ?」

「んー……ちょっと」

 碧の心が揺れるのが分かった。ここで一気にたたみかけよう!

「だろ? じゃあ飲もうぜ」

「ん……分かった。じゃあ陸が飲ませて」

「な、なんでさ」

「らって陸が私に水を飲んれほしいんれしょ。なら陸が飲ませるのが筋らと思います」

「なるほど……なるほど?」

 微妙に引っかかるものがあるが、なんとなく言いくるめられてしまった俺である。やっぱり頭が回ってない。

 俺は釈然としない気持ちを隅に置いてペットボトルのふたを開けると、碧の口元に運んだ。

「ほら、碧」

「りょーかい」

 碧も素直に頷くと、水を飲み始めた。

 が、さすが酔っ払いというべきか。生後三ヶ月の赤子並みに首が据わっていない碧は、飲んでいる途中に盛大に頭を動かし、水を零してしまった。

「うおっ!? 碧、大丈夫か?」

「あはは、冷たーい」

 心配する俺をよそに、何が楽しいのか大笑いする碧。

 だが、着ていた店のTシャツはびしょびしょにれ、ぴったりと肌に張り付いて身体のライン……特に胸元を強調するような形になった。

「だ、誰かタオル取ってくれ」

 その絶妙な色気にやられかけた俺は、周りに救援物資を要求する。

「任せろ、俺が取ってくる……十五分くらい待っててくれ」

 俺の言葉に反応した銀司が、ものすごくいい笑顔を見せながら、足早に二階へと上がっていく。

「おい、逃げる気満々じゃねえか! 十五分もかからねえだろ! 早く持ってこい!」

 逃げ去る背中に声をかけるが、銀司は無言で離脱してしまった。

「んー、らいじょーぶ。下は水着らし、これ脱いじゃうね」

 が、俺の気持ちを知ってか知らずか、碧はもぞもぞとTシャツを脱ぎ始めた。

「お、おい」

 下に着ているのが水着と分かってはいても、女子が服を脱いでいる光景はなんかちょっと目に毒だ。

「むー、陸も濡れてるじゃん。脱ぎなよー」

 余裕がなくて気付かなかったが、碧とほぼ密着状態で水を飲ませていた俺の服も、よく見たら濡れている。

 それを見とがめた碧は、俺のシャツに手を掛けて、脱がそうとしてきた。

「いや、俺は別にいいし」

「いいからいいから。えーい!」

「おわ!?

 拒絶する俺の意見をスルーして、碧は強引にシャツを脱がせてきた。

「えへへー、おそろーい」

 碧は上半身裸になった俺を見て、満足そうにうなずいた。

「おそろいって、お前な……」

 突拍子もない酔っ払いの行動に、二の句が継げなくなる俺である。

 と、そこで何かを思い出したかのように碧は手をぽんとたたいた。

「あ、そうら。私、海に来たら陸にひやけろめ塗ってもらおうと思ってたんらー」

「ひやけろ……ああ、日焼け止めか? いや、今塗っても意味ないだろ」

 外を見ると、もうそろそろ夕日も沈みきる頃合いだ。

「らいじょーぶ! さいなことらし!」

 が、碧はそんなこと関係ないと言わんばかりに、ビキニを脱ごうと──って、おい!

「碧!? ちょ、何脱ごうとしてんの!」

 慌てて止めるが、碧は不思議そうに小首を傾げた。

「なぁに? 脱がなきゃ塗れないれしょー」

「さすがに待て! ていうか、さっきから黙ってるそこの二人! 助けろ!」

 事ここに至っては一人で対処するのは不可能と見た俺は、何故か途中から沈黙していた二条と香乃に助けを求めた。

 が、二人は意味ありげに目を合わせてからあきれたような顔をする。

「いやあ、なんていうかね? 二条さん」

「ああ。なんかもう途中からいちゃついてるカップルの日常見せられてる感じがしてるっていうか、変に割って入ると無粋になりそうというか?」

「意味が分からんのだが!」

 生暖かい目で見つめてくる二人に抗議をするが、彼女たちは肩をすくめてきびすを返した。

「よし、二階に行って二次会をしよう」

「賛成。銀司も多分そのつもりで離脱したろうしな」

「おーい!? 何普通に見捨ててくれてんの! ヘルプ! へーるぷ!」

「りくー、じゃあこのひやけろめ背中に塗ってー」

 俺の叫びも虚しく、二人は銀司の後を追って二階に上がってしまった。


 ──その後、碧が寝落ちするまでの三十分、俺のかつとうが続いたという。