プロローグ2。



「いや、付いてくるなって。今日は友達と約束がある日なんだよ」

 放課後。

 学校の校門を出た俺は、当然のように隣に並ぶ奴のほうを見て渋い顔をする。

「つれないこと言うね。なら友達に私を紹介する日にしてみない?」

 香乃はまるで響いた様子もなく、しれっと俺の隣をキープして歩いていた。

 こいつと知り合ってから一ヶ月。

 最初は死ぬほど人付き合いが悪い奴かと思っていたが、一度心を開くと必要以上に人なつっこい性格をしていた。

「さてはお前……ぼっちなせいで、他人との距離の取り方を知らないな?」

「ぼっちじゃないです。元ぼっちです。そしてこれから更に友達を増やすために行動しているところです」

 俺のしんらつな言葉もなんのそのである。

「もう好きにしてくれ……」

 こうなった香乃は止められない。俺はいき一つ吐いてからあきらめることにした。

 まあ今日は碧と遊ぶだけだし、あいつも別に香乃を連れてきたくらいで嫌な顔はしないだろう。

「よしよし。いやあ、陸が前に言ってた『顔がいい親友』とやら、一度見てみたかったんだよねー。私程度じゃ心が動かなくなるほど美人って話だし」

「……もしかして、俺があの時、あいつを引き合いに出したの、地味に気にしてたのか?」

「さて、なんのことでしょう」

 しれっと言うが、絶対図星だ。

 香乃は顔がいいせいでトラブルに巻き込まれるのを嫌がるくせに、それはそれとして自分の見た目にはプライドを持っている。

 俺が碧を引き合いに出して、その長所を鼻で笑ったのが気に食わなかったらしい。

 直接目で見て、どれほどのものか確かめてやるつもりのようだ。

「付いてくるのは止めないけど、頼むからいきなりけん売るようなマネはやめてくれよ」

 一応、くぎを刺すと、香乃は心外なことを言われたようにむくれた。

「あはは、面白いこと言うなあ、陸は。初対面の人間に喧嘩ごしで接するようなこと、するわけないじゃん」

「あはは、確かに。そんな失礼な奴、存在するわけないよな。少なくともそんな奴と友達になるほど俺は物好きじゃねえし」

 お互い笑顔を作りながらも、バチバチに火花を散らす。

 そんな不毛なやりとりをしながら歩いていると、待ち合わせ場所であるバッティングセンターに着いた。

「おーい、陸!」

 一足先に到着していたらしい碧が、俺を見るなり笑顔で手を振ってきた。

「悪い、待たせたな」

「ううん。日直なら仕方ないよ……って、東雲さん?」

 碧は俺の隣に当然のように並ぶ香乃の存在に気付いたようで、驚いたように目を見開いていた。

「……どうも」

 さっきまでの勢いはどうしたのか、香乃は何故か俺の背に隠れながら言葉少なに応じた。

「おい、無理やり付いてきたくせに、何隠れてるんだ」

「隠れてなんかないし! 誤解を招くこと言うのやめてもらえるかな!」

 香乃は俺の背中をぽこぽことたたく。

 その様子に、俺はピンとくるものがあった。

「まさかお前、そんな性格してるくせに人見知りなのか?」

「む」

 ちょっとあおるように言ったのに、反論してこなかったのは図星だったからだろう。

「やっぱりか。この内弁慶め」

 そうだよな。クソ無愛想だって風評立ってたし、友達いないもんな。

 人目を引く容姿を持ち、俺ともよくしやべるから忘れがちだが、こいつはぼっちである。

 初対面の人間と接するのが得意なわけがない。

「うるさい。それにしても……」

 俺への反論は諦めたのか、じっと値踏みするように碧を見る香乃。

「な、なに?」

 突然のしつけな視線に困惑した様子の碧。

 しかし、そんな彼女を見て、香乃は少し悔しそうに唇をとがらせた。

「むぅ……確かに可愛い。これなら陸の目が肥えるのも分かる」

「だろ?」

 親友を褒められて少し得意げになる俺であった。

「ええと、よく分からないけど、陸って東雲さんと友達だったんだね」

 どう見ても不審な香乃に対しても、優しく接する我が親友。

 それに心を開いたのか、香乃も俺の背中から顔だけ出してこくりとうなずいた。

「まあ、そうだね。陸がどうしても友達になりたいって言うから」

「おい」

 にらんでみせるも、香乃は素知らぬ顔でふいっと視線を逸らした。

 それを見て、碧が楽しそうに笑う。

「あはは。東雲さんって思ったより取っつきやすそうな人だったんだね」

「いや、それは気のせいだ。こいつほど取っつきにくい奴はいない」

 だまされかけた碧の目を覚ますべく忠告すると、香乃が再び俺の背中を叩いてきた。

「バカ陸! せっかくいい印象持たれてるのに、台無しにしようとするんじゃないの!」

「そう思うなら、人を盾にしないで自分で向き合うんだな」

 香乃の肩をつかんで無理やり前に出す。

「なっ」

 逃げ場をなくした香乃は戸惑うように目を泳がせるも、やがて観念したように碧と向き合う。

「……お互い、陸の友達みたいだし、私とも仲良くしてくれるとうれしいです」

 消え入りそうな声で、恥ずかしそうにそう口にする香乃。

 それを聞いて、碧も優しく頷いた。

「うん。こちらこそよろしくね、東雲さん」

 そんな二人を見て、俺は小さく胸をなで下ろした。

 まったく、手のかかる奴め。



 これが、三人の時間の始まり。

 楽しくて、明るくて、俺の中学時代で最も輝いていた一時。

 ──振り返ってみれば、この時だったのだろう。

 俺と香乃の関係に、終わりが定められたのは。