
「いや、付いてくるなって。今日は友達と約束がある日なんだよ」
放課後。
学校の校門を出た俺は、当然のように隣に並ぶ奴のほうを見て渋い顔をする。
「つれないこと言うね。なら友達に私を紹介する日にしてみない?」
香乃はまるで響いた様子もなく、しれっと俺の隣をキープして歩いていた。
こいつと知り合ってから一ヶ月。
最初は死ぬほど人付き合いが悪い奴かと思っていたが、一度心を開くと必要以上に人なつっこい性格をしていた。
「さてはお前……ぼっちなせいで、他人との距離の取り方を知らないな?」
「ぼっちじゃないです。元ぼっちです。そしてこれから更に友達を増やすために行動しているところです」
俺の
「もう好きにしてくれ……」
こうなった香乃は止められない。俺は
まあ今日は碧と遊ぶだけだし、あいつも別に香乃を連れてきたくらいで嫌な顔はしないだろう。
「よしよし。いやあ、陸が前に言ってた『顔がいい親友』とやら、一度見てみたかったんだよねー。私程度じゃ心が動かなくなるほど美人って話だし」
「……もしかして、俺があの時、あいつを引き合いに出したの、地味に気にしてたのか?」
「さて、なんのことでしょう」
しれっと言うが、絶対図星だ。
香乃は顔がいいせいでトラブルに巻き込まれるのを嫌がるくせに、それはそれとして自分の見た目にはプライドを持っている。
俺が碧を引き合いに出して、その長所を鼻で笑ったのが気に食わなかったらしい。
直接目で見て、どれほどのものか確かめてやるつもりのようだ。
「付いてくるのは止めないけど、頼むからいきなり
一応、
「あはは、面白いこと言うなあ、陸は。初対面の人間に喧嘩
「あはは、確かに。そんな失礼な奴、存在するわけないよな。少なくともそんな奴と友達になるほど俺は物好きじゃねえし」
お互い笑顔を作りながらも、バチバチに火花を散らす。
そんな不毛なやりとりをしながら歩いていると、待ち合わせ場所であるバッティングセンターに着いた。
「おーい、陸!」
一足先に到着していたらしい碧が、俺を見るなり笑顔で手を振ってきた。
「悪い、待たせたな」
「ううん。日直なら仕方ないよ……って、東雲さん?」
碧は俺の隣に当然のように並ぶ香乃の存在に気付いたようで、驚いたように目を見開いていた。
「……どうも」
さっきまでの勢いはどうしたのか、香乃は何故か俺の背に隠れながら言葉少なに応じた。
「おい、無理やり付いてきたくせに、何隠れてるんだ」
「隠れてなんかないし! 誤解を招くこと言うのやめてもらえるかな!」
香乃は俺の背中をぽこぽこと
その様子に、俺はピンとくるものがあった。
「まさかお前、そんな性格してるくせに人見知りなのか?」
「む」
ちょっと
「やっぱりか。この内弁慶め」
そうだよな。クソ無愛想だって風評立ってたし、友達いないもんな。
人目を引く容姿を持ち、俺ともよく
初対面の人間と接するのが得意なわけがない。
「うるさい。それにしても……」
俺への反論は諦めたのか、じっと値踏みするように碧を見る香乃。
「な、なに?」
突然の
しかし、そんな彼女を見て、香乃は少し悔しそうに唇を
「むぅ……確かに可愛い。これなら陸の目が肥えるのも分かる」
「だろ?」
親友を褒められて少し得意げになる俺であった。
「ええと、よく分からないけど、陸って東雲さんと友達だったんだね」
どう見ても不審な香乃に対しても、優しく接する我が親友。
それに心を開いたのか、香乃も俺の背中から顔だけ出してこくりと
「まあ、そうだね。陸がどうしても友達になりたいって言うから」
「おい」
それを見て、碧が楽しそうに笑う。
「あはは。東雲さんって思ったより取っつきやすそうな人だったんだね」
「いや、それは気のせいだ。こいつほど取っつきにくい奴はいない」
「バカ陸! せっかくいい印象持たれてるのに、台無しにしようとするんじゃないの!」
「そう思うなら、人を盾にしないで自分で向き合うんだな」
香乃の肩を
「なっ」
逃げ場をなくした香乃は戸惑うように目を泳がせるも、やがて観念したように碧と向き合う。
「……お互い、陸の友達みたいだし、私とも仲良くしてくれると
消え入りそうな声で、恥ずかしそうにそう口にする香乃。
それを聞いて、碧も優しく頷いた。
「うん。こちらこそよろしくね、東雲さん」
そんな二人を見て、俺は小さく胸をなで下ろした。
まったく、手のかかる奴め。
これが、三人の時間の始まり。
楽しくて、明るくて、俺の中学時代で最も輝いていた一時。
──振り返ってみれば、この時だったのだろう。
俺と香乃の関係に、終わりが定められたのは。