一回裏 そうして夏は始まった。



 準備期間はあっという間に終わり、私たちはすぐに期末試験の時期を迎えた。

 襲い来る主要五教科は嵐のようだったが、きちんと対策を講じていた私たちには通じず。

 そう大きな苦戦をすることもなく私たちはテスト期間を乗り越えていった。

「ここは合ってる……ここも……うん、こんなところか」

 期末試験最終日の放課後。

 戦を終えた私たち四人はファストフード店に集まり、みんなで自己採点をしていた。

「ん、銀司の答案チェック終了。まあ赤点はないだろ。ちょうど平均くらいじゃないか?」

 銀司君が解答を書き込んでいた問題用紙を見ながら、採点をしていたさーやちゃんがそう告げる。

「よかったー……! いや、マジで部活もベンチ入り逃したのにテストまで赤点だったらどうしようかと思ったわ」

 さーやちゃんからのお墨付きをもらい、銀司君は深々とあんの声を漏らした。

 私も自分の解答を確認して、一つ頷く。

「私も問題なし。陸は?」

「俺も大丈夫だ。絶好調だったな」

 陸は上機嫌にそうつぶやく。

 ちなみに、さーやちゃんは中間試験で学年三位だった優等生なので、確認するまでもなく大丈夫だろう。

「とりあえず全員補習はなしだな。テスト休みをおうできそうで何よりだ」

 さーやちゃんがまるで教師のように満足げに頷くと、ようやく緊張が解れ、テストが終わった感が出てきた。

「これも陸が勉強付き合ってくれたおかげだね。ありがと」

 私は隣に座る親友に笑顔で感謝を伝える。

 さーやちゃんたち用の問題集を作った後、陸は私の勉強まで見てくれたのだ。

 自分の分の勉強もあるだろうに、ちょっと申し訳ない。

「いいって。人に教えるのって自分の知識の確認にもなるしな。いい気分転換になったよ」

 そう笑い返してくる陸。

 確かに勉強を見てもらっている時、何故か陸の手には素振りのマメが増えていた。

 何か悩みやかつとうがあると素振りで発散するのが陸の癖だけど、どうやら今回のテスト勉強には相当精神的な負荷がかかっていたらしい。

 もし、私がその気分転換の一助になれていたなら何よりだ。

「それに俺も碧とまた海に行きたかったし、みんなテストが無事に終わってよかったよ」

 さすがに赤点の人が出たら、その人だけ置いて海に行くわけにもいかないもんね。

 安堵した様子の陸に、銀司君が茶化すような笑みを見せた。

「なんだ、陸。随分熱心にテスト対策してくれたと思ってたけど、そんなに碧ちゃんの水着が見たかったのか?」

「アホか! 別にそれだけのために頑張ったんじゃねえよ!」

「巳城、今さりげなく碧の水着見たいのは否定しなかったな」

「二条さん!? ちょっと背中から刺すのやめていただけないですかね! なんだこいつら、そろって恩をあだで返しやがって!」

 わいわいと騒ぐ三人。

 それを見ながら、私の心臓はバクバクと跳ねていた。

 見たいんだ……!

 陸、私の水着見たいんだ……!

 うれしさと困惑と恥ずかしさが入り交じった感情に、私は陸の顔を見られなくなる。

「あ、あの、碧? あいつらの言うことは真に受けなくていいからな?」

 顔を赤くした陸が、ぎこちなく弁明してきた。

「う、うん。大丈夫。冗談だって分かってるから」

 私も耳まで熱くなりながら、ぎこちなく笑顔を作ってみせた。

 分かっている。こんなのただの軽口だって。

 でも……でも陸は否定しなかった……!

 その事実が徐々に私の中に浸透していき、なんだかちょっとテンションが上がってきた。

 これは、負けられない戦いが始まったかもしれない。



 ──告白するなら早いほうがいい。

 唐突で申し訳ないけど、全ての人類に私からこの言葉を贈りたい。

 距離を詰めてからとか、勇気が出ないとか、恋愛の駆け引きをしたいとか。

 そんなもので告白を先延ばしにしている人がいたら、私はこう言ってやりたい。

 ──君はもう負けている、と。

 打者との勝負から逃げて四球ばかり投げている投手は、それだけで打ち込まれているのと一緒なのだ。

 同じように、告白するべきタイミングで告白できない人間は、もう負けているようなものである。

 だから好きだと思ったらちゃんと告白するべき。押し出しの四球を出してから慌てて勝負しても、もう遅いのだから。

 ただまあ──問題は。

 既に関係の固まってしまった相手を、急に好きになってしまった場合でして。

 たとえば、小学校から付き合いのある五年来の親友を、いきなり男として意識してしまった場合なんか最悪だ。

 もはや距離を詰めようがない。だってある意味、究極まで距離が詰まってるもの。

 はっきり言って終わっている。異性として意識してもらえないというのは、スタートラインに立てないのと同じである。

 ──まあ、今の私なんだけどね。

 だからこそ、私は全人類に言いたい。

 告白できるタイミングがあるなら、相手にまだ異性として意識してもらえるタイミングがあるのなら、それを決して逃すなと。



 テストの自己採点を終えて。

 自主練をする銀司君とそれに付き合う陸とは別れ、私は以前からの約束通り、さーやちゃんと海に必要な諸々の買い出しに向かうことにした。

「とりあえず日焼け止めは新しいの買ったほうがいいよね。普段使ってるやつじゃさすがに弱いし。さーやちゃんは部活用の使うの?」

「いや、海だしウォータープルーフのものを買うつもりだ」

 ショッピングモールの一角にあるドラッグストアで、私たちは消耗品を補充する。

「なら二人で一本買わない? どうせ余るし、もったいないよ」

 棚から手に取ったクリーム状の日焼け止めを見て、私はそう提案した。

 SPF50+、PA+++、ウォータープルーフ。

 海水浴には必要なものだが、普段使いするにはオーバースペックな日焼け止め。

「構わないけど……いいのか? 持ち運びにくいだろ」

 どうせ一人じゃ使い切れないと思って提案してみたが、さーやちゃんは何故か遠慮がちな口調だった。

「別にそれくらい問題ないけど……なんで?」

 その理由が分からず首を傾げる私に、さーやちゃんは真顔で口を開いた。

「いや、常に持ち歩けるようにしておかないと、巳城に塗ってもらったりするチャンスを逃してしまうんじゃないか?」

「なっ……!?

 さーやちゃんから飛び出た素晴ら……恐ろしいアイディアに、私は衝撃を受けた。

……………………そ、そんなことしてもらうわけないじゃん!」

「その割には随分と間があったようだが」

 じとっとした目でこっちを探ってくるさーやちゃんから、私はさっと顔を逸らした。

 別に想像してない。してないから!

「と、とにかく、さすがにそこまで大胆なことはしないし!」

「そうか。ならいいけど」

 どこか意味ありげなことを言いながら、日焼け止めを一本だけ手に取るさーやちゃん。

「にしても、せっかくの海なんだし、悩殺するくらいの心意気は持ってほしいもんだな。巳城も碧の水着を楽しみにしてたようだし」

「う……そ、それは頑張るつもりだけど」

 さっきの陸の様子を思い出し、ちょっと緊張する。

 確かにちょっとハードルが上がっていたし、ここで微妙な水着を着てがっかりされたら辛い。

「ほう、ちなみにどんなのを着る気だ?」

 半ば期待してなさそうな表情でたずねてくるさーやちゃん。

 完全に侮られているが、今年の私はひと味違う。

「今年はビキニを着ようかと。その、ちょっと露出があるやつ」

 そう宣言すると、さーやちゃんは驚いたように目を見開いた。

「おいおい……いったいどういう風の吹き回しだ? どうせまた恋愛チキンこじらせて、せっかくのチャンスなのに無得点で終了だと思ってたのに、随分と冒険するじゃないか」

 割とボロカスに言われているが、完全にさーやちゃんが素であるため、悪意がないのが伝わってきて逆に辛い。というかそもそも自覚ありすぎて言い返せないけど。

「失礼な。いつまでもチャンスで凡退する私じゃないんだよ」

 覚悟を決めた私を見て、さーやちゃんはいぶかるような顔をした後、何かピンと来たようにうなずいた。

「そういえば、去年も巳城と海に行ったんだっけ? その時はどうだったんだ?」

 その質問に、私は不敵に笑ってみせた。

「ふ……ワンピースタイプの水着を着ていって無事撃沈だよ。陸は表情一つ変わらなかった」

 あの頃は陸を異性として意識し始めたばかりで、自分の気持ちの変化に戸惑っていた時期だったのだが、水着の私を見ても平常心を保っていた彼に、親友相手の恋愛がいかに難しいかを思い知らされたものである。

 遠くを見る目をする私に、さーやちゃんは深々といきを吐いた。

「やっぱりか……もう失敗してたから積極的になってたんだな。その心意気は買おう」

「うん。あの頃は陸も失恋したばっかりで他の子を見る余裕がなかっただけかもしれないからね」

 だから仕方ないのだと、この一年間自分に言い聞かせてなんとかプライドを保ってきた私である。

「なるほど。じゃあ今年の巳城は純粋に碧のことを見てくれるはずだな」

 さーやちゃんも私の言葉に同意してくれた。

 が、改めてそう言われると逆にプレッシャーがかかる。

「そ、そのはずだよ」

 今年の陸は純粋に私のことを見てくれるはず。

 ──だが、逆に言えば。

 この状態でまた去年のように私を意識しなかった場合、もう去年のような言い訳は利かない。

 本当にマジで全然私のことを純粋に異性として見ていないという、恐ろしく残酷な現実をたたきつけられることになる。

「うぅ……急に不安になってきた。やっぱり今年も無難な水着で行こうかな」

 勝負のシビアさに気付いた途端、勝つことより負けた時の言い訳作りに走る私である。

「戦う前から負けること考えてどうする。ほら、次は水着選びに行くぞ」

 が、さーやちゃんほどの強気な捕手ともなると、投手の弱気なんて許すわけもなく、勝負の場から降りることを見逃してはもらえなかった。

「そ、そうだ、さーやちゃんも同じ水着を着ていかない? あ、駄目だ……もしそれで陸がさーやちゃんのほうを意識しちゃったら、そっちのほうが言い訳できなくなる」

 自縄自縛でドツボにまる私である。もう悪い想像が止まらない。

「ソフトボールの時はピンチでも堂々と投げてたのになあ。何故恋愛だとこうもメンタルが変わるのか」

 あきれ気味のさーやちゃん。

「そう言われても……ピンチに強いからってチャンスにも強いとは限らないんだよ」

 自分が投手をやってる時はランナーを背負ったら逆に燃え上がったものだが、打者をやる時はチャンスでも普通に打てなかったらどうしようって不安が頭をよぎってたし。

「ふむ……なるほどな」

 頑なになりつつある私に、さーやちゃんは少し考え込むような仕草を見せてから口を開いた。

「まあ、どうしても嫌だというのなら、こっちとしても無理強いできないけどな。ただ、巳城はあんなに碧の水着楽しみにしてたのに、無難なもので行ったらがっかりするだろうなあ」

「う」

 改めて陸の期待値を突きつけられ、私はうめく。

「それに、忘れがちだけど海って碧以外にも若い女がたくさんいるぞ。しかも、無難な格好を選んだ碧より圧倒的に露出が多い水着を着て」

「うぅ!」

 どんどん都合の悪い事実を突きつけられ、私はたじろいでしまう。

「碧にがっかりした状態で、巳城がそんな女子を見たりしたら……」

「め、目移りされる……!」

 容易に想像できたその事態に、私はすさまじい衝撃を受けた。

 海は恋愛を進めるチャンスだと思ってたけど……むしろ陸を他の女子に奪われるピンチなのでは!?

 ぐるぐると脳内で色んな思考が駆け巡り、やがて一つの結論に達した。

「私、やっぱり攻めた水着を選ぶよ……!」

 要は陸が私の水着にがっかりしなければ、他の女子に目移りすることもないはず。

 なら根本から原因を絶つ……!

「……いやあ、ピンチに強いっていうか、単純で扱いやすいっていうか」

 ぽつりとつぶやいたさーやちゃんの言葉も、ピンチに開き直った私には馬耳東風だった。



 そうして迎えたテスト休み初日。

 特にトラブルもなく約束の日を迎えた私たちは、待ちに待った海水浴に出発した。

 駅前で待ち合わせ、電車に乗り、揺られること一時間。

 海水浴場のある駅で降りると、すぐに海風の匂いがした。

「おっ、もう海見えるじゃん! やべえ、もう泳ぎてえ」

 駅から少し歩いたところで、銀司君がハイテンションに声を上げた。

「まずはバイトからだろ。落ち着きのない奴め」

 そんな幼なじみを、さーやちゃんが溜め息交じりに窘める。

「何を言う。俺たち部活組にとっては下手したら高校最後の海だぞ? テンションくらい振り切って当然よ」

「ま、それは確かに。そう考えると楽しまなきゃもったいないか」

 さーやちゃんも表情はいつも通りクールなものの、割と浮かれているらしく、銀司君と一緒に少し早足で海のあるほうに進んでいく。

「飛ばしてるなあ、部活組は」

 そんな二人の後ろ姿を見ながら、陸が苦笑していた。

「そうだね。楽しそう」

 陸と二人、ゆっくりとさーやちゃんたちの後を追う。

「やっぱり碧も早く泳ぎたいか?」

「わ、私はもうちょっと後でいいかな」

 陸の質問に、私は少し挙動不審になりながら答える。

 その理由は一つ。

 買ってしまったのだ、あれを。

 海におけるひつ装備にして恋愛における強力アイテム──即ち、ビキニ。

 あの後、さーやちゃんに乗せられるがままに水着売り場に直行し、熱に浮かされるように普段の自分じゃ絶対に買わないような大胆なものを選んだ。

 が、少し時間が経ち、冷静になってみると改めてこれを着るのかと怖じ気づいていたりする。

 分かった上で買ったんだけど、ほぼ下着だよ……あれ。よくみんな平気で着られるよ。

 正直、相当無理しないと着られる自信がない。

「碧? どうしたんだ、顔赤いけど暑いか?」

 熱中症にでもなったと思ったのか、陸は心配そうに私の顔をのぞき込んでくる。

「そ、そんなことないよ! 身体のほうは問題ないから!」

 私は慌てて笑顔を作り、健康をアピールした。

 が、陸はまだ心配そうな顔をする。

「本当か? 無理してないよな?」

「大丈夫、まだしてないから! 無理するのはこれからだし!」

「これからする予定なの!? やめたほうがいいぞ!」

 陸に止められ、一瞬ひるむ。

「う……そうだよね。無理はよくないよね」

「お、おう。この暑さだしな。無理はよくない」

「うん……無理せず、なるべく厚着するよ」

「なんで!? 無理に拍車がかかったんだけど!」

 ビキニしか水着を持ってきてないけど、上からパーカーを着よう。

 そんな決意をしていると、一足先に浜辺にたどり着いた銀司君から声が掛かった。

「おーい、二人とも。早く来いよ! めっちゃビーチれいだぞ!」

 気付けば、だいぶ差が開いてしまっている。

 それで正気に返った私は、せきばらいをして背筋を伸ばした。

「こほん。とりあえず私は問題ないので、早く行こうか」

「お、おう。碧が大丈夫ならいいけど」

 まだ釈然としない様子の陸を伴い、私は歩く速度を上げて道を進む。

 そうして部活組に追いつくと、目の前に広がる光景を見渡した。

「わぁ……」

 思わず、私の感嘆の声が零れる。

 太陽を乱反射して輝く青い海と、白い砂浜。潮騒と海風。

 一年ぶりに味わう海の雰囲気に、自然とテンションが上がっていく。

「おお……やっぱバイト前にちょっと泳いじゃ駄目かな?」

「駄目に決まってるだろうが。先にバイト先にあいさつに行くのが筋だ。お前のしんせきなんだから、お前が案内しないと始まらんだろう」

 私以上に目を輝かせる銀司君を、さーやちゃんがたしなめた。

「むぅ……仕方ない。付いてきてくれ」

 それでなんとか理性を取り戻したらしく、銀司君は私たちを先導して歩き出す。

 彼に続いて歩いていると、数分ほどで目的地にたどり着いた。

 簡素な木組みで作られた、二階建ての海の家。

 看板には『海神わだつみ』という店名が掲げられていた。

「お邪魔しまーす。しんさんいますかー?」

 銀司君が呼びかけると、中からエプロンをかけた男性がやってきた。

 日焼けした肌に、人の良さそうな柔らかい笑みを浮かべるおじさん。

 どうやら、この人がこの店の店長さんらしい。

「おー、銀司か。よく来てくれたな。沙也香ちゃんも久しぶり」

 店長さんが銀司君に続いてさーやちゃんにも挨拶する。

 親戚ぐるみの付き合いと聞いていたが、どうやら面識があったらしい。

「はい。お久しぶりです、信吾さん。こっちの二人を紹介しますね。私たちの友人の西園寺碧と巳城陸です」

 さーやちゃんは会釈を返すと、私たちをいちべつしてから紹介してくれた。

「よろしくお願いします」

「お願いします」

 私と陸がそれぞれ挨拶すると、店長さんは気さくな笑みを浮かべた。

「ああ、よろしくね。私はこの海の家の店長をやっているくにちか信吾だ」

 そして店長さんは私たちを見回した。

「じゃあ改めて。急な話なのに、四人ともよく来てくれたね。本当に助かるよ。この前、ついうっかり腰をやってしまってね。すぐ治ったから大丈夫って言ったんだけど、妻に歳なんだから無理するなと言われてしまったよ。はは」

 腰をさすりながら、店長さんが苦笑を浮かべた。

 どうやら、それで臨時にバイトが必要になったらしい。

「それならゆっくりしてたほうがいいんじゃないですか? 作業があるなら、やり方だけ教えてくれれば俺たちがやりますよ」

 怪我と聞いて心配になったのか、陸がそう申し出る。

「ああ、助かるよ。仕事ならもう一人バイトを雇ってるから、その子から聞くといい。今は外にアイス売りに行ってるけど、もうすぐ帰ってくるはずだから」

 そんな話をしていると、店の奥からドアが開く音がした。

「ただいま戻りましたー。いやー、めっちゃ売れました。あとナンパめっちゃしつこかったです!」

 どうやら裏口があるようで、店の奥からは若い女の子の声が聞こえてきた。

 あれ、この声……どこかで聞いたことあるような。

「お、噂をしたら……ちょうどバイトの子が戻ってきたみたいだから紹介するよ。おーい、ちょっとこっち来て」

 頭の中に妙な既視感がよぎる中、店長さんがバイトの子を呼ぶ。

「はーい。どうしました?」

 ──そうして、その少女は唐突に現れた。

 天使のような明るい金髪に、同性でもついれてしまうような人形めいた整った容姿。

 そして、そこに浮かぶ人なつっこい笑み。

 それを見て、私と陸が同時に息をんだ。

 知っている。この顔を、笑みを、声を。

 だってそれは、一年前まで、ずっと私たちの隣にあったものだから。

「香乃……」

 がくぜんとした表情で呟く陸。

 無理もない。私も同じ気持ちだ。

「あれ、陸に碧? 久しぶりじゃん、こんなところで何やってるの?」

 何事もなかったかのように、彼女はフレンドリーに接してくる。

 だけど、私と陸は答えられない。

 だって彼女は、東雲香乃は──


 ──中学の時、陸に告白された女子なのだから。