第4話 幼なじみ、山で添い寝を試みる


「──着いたな」

「──おう……!」

 バスを降り、ちゆうしや場から歩くこと十五分。

 とうちやくした──初日の宿しゆくはく場所である青年の家。

 目の前に広がる景色に、俺は大きく深呼吸をした。

「うん、いいとこだな……」

 ここは、さつぽろ市街地からバスで二時間ほどの山の中だ。

 うっそうとしげった木のにおいに、遠くからひびく聞き慣れない鳥の声。

 街中よりも空気は冷たくて、わずかに湿しめを帯びて感じられて──久しぶりの自然豊かなかんきように、俺はテンションが上がってしまう。

 広場の向こうにある宿しゆくはくせつも、年季が入っていて良い感じだ。初めて来たのにどこかなつかしい。

「やっぱ……こういうところが、俺のいるべき場所だって気がするな」

「……別に山育ちじゃないけどな、お前」

 思わずつぶやいた言葉に、となりりようすけが小さく笑う。

 彼の言う通り、地元の街はだだっ広い平野の真ん中にある。

 山なんて地平線の近くにうっすらと見えるくらいで、こういう景色にみがあるわけでもない。それでも。やっぱり大都会にいるよりもリラックスできる気がするのは、自分がどこまで行っても自然好きだからなのだろうと改めて実感した。

 ……ちなみに、俺たちのちょっと後ろでは。

「……うえ、まだ気持ち悪い……」

しずだいじよう? いつたん、どっかで休もうか……?」

 なんてしずろくようさんが言い合っている。

 心配になってかえると、しずだんより足取りがあやうく、みように顔色もすぐれない様子。

 ここまでずっとバスは山道を走ってきたし、くるまいしてしまったらしい。

 俺はかばんに手をっ込むと、

「……ほら、い止めの薬」

 言いながら、しずはん薬のじようざいわたした。

「一応持ってきておいて良かったよ。水は持ってるか?」

「うん、ありがと……助かる」

 無理に笑ってみせ、さっそくわたした薬を飲むしず

 そして、そのとなりろくようさんはづかわしげにしずに目をやりつつ、一度こちらをちらりと見ると、

「……くっ、やはりなかなかやるな、おおたき氏……!」

 なぜかひどくくやしそうな顔をしていた。

「さりげなくも的確な対処……ぐぅっ……せる……二人の関係……相変わらずせてしまう……!」

 なんでそうなるんだよ……別にそんなことで張り合ってもしかたないだろ。

 というかせてしまうってどういうことだよ、よくわかんねえ……。

 ……ともかく。

 俺はもう一度宿しゆくはくとうに向かって歩き出しながら、決意を新たにする。

 今回の研修を十分に楽しむためにも、健康にはできる限り気を遣うようにしよう。体調をくずしてしまえば楽しめるものも楽しめなくなるし、宿しゆくはく研修自体が苦しかった思い出になってしまう。

 それをけるためにも……ちゃんとねむろう。

 すいみん時間を、確保できるようにしよう──。

 そんな俺の気持ちを察したのか、

くいくといいな、練ってきたプラン」

 となりで、りようすけが小さくそんなことを言った。

「ああ、そうだな……」

 うなずきながら、俺は頭の中で計画をはんすうする。

 今回の宿しゆくはく研修は、二はく三日。

 初日がダム見学や飯ごうすいさん、キャンプファイヤーなどレク中心で、二日目が午前から夕方近くまでまるまるオリエンテーリング。キャンプ場で一ぱくしたあと、三日目は下山してバスで学校へもどる、という予定だ。

 その間、夜を過ごすのは二度。

 初日の宿しゆくはくせつでの一ぱくと、キャンプ場でのテントはくぱくだ。

 まずキーになるのは、初日の夜であると考えていた。

 体力的なが一番高い二日目を楽しむためには、ばんぜんの体調が必要になる。

 今夜。俺としずは、他の生徒もいる宿しゆくはくせつでなんとかをしなければならない。

 それが──非常にハードルが高い。

 ねむるのは男女別の大部屋で、クラス単位でになる予定。

 そんな中、どうやって俺たちがいつしよるのか……。

 一応、のためのプランは三つほど立ててきている。

 りようすけろくようさんの助言を得て、「いけそうだな」と思えるものを用意してきたのだ。

 そのどれかが成功すれば、最低限は朝までねむれる予定だ。

 それさえ済んでしまえば、あとはまだなんとかなるはず……。

「まあ、やれるだけがんってみるわ」

 となりりようすけにそう言うと、彼はいつものさわやかなみでうなずいてくれた。

「おう、おうえんしてる」



 ──初日のアクティビティは、何の問題もなく楽しむことができた。

 しずいも薬のおかげか早めに治まり、ジャージにえ昼食を取ってからのダム見学。研修せつでの宿しゆくはく説明を受けたあとは飯ごうすいさんと、だんできない活動を四人で存分に味わった。

 ……ていうか、ダムおもしろかった。

 きよだいで無骨で年季の入った構造物が、山の間にぽつんとある光景にはゾクゾクしたし、こくかんきようで建築されたそのけいには、先人への尊敬の念をいだいた。

 そしてなにより──はくりよくだ。

 えんていから見るその高さ、放水時のそうかんさにはとりはだが立った。

 なるほど……これはいい。最高にかっこいい。

 ダムマニアっていうものがいることを以前は理解できなかったけれど、今回で完全になつとくできた。

 これは確かに、色んなダムを見て回ってみたくなる……。

 さらに言うと、同じように大興奮のろくようさんと意気投合できたのも、意外なしゆうかくだった。

「──おおたき氏! こっちすごい! ほら、ここから見ると放水めちゃくちゃかっこいい!」

「──ほんとだ! うおーすげえ! ちょっとこえー!」

「──ね! 吸い込まれそう!」

 そんな風に言い合う俺たちを、りようすけしずはほほえましげにながめていた。

 ……うん、いいな。

 最初はなんかきんちようしていたし、今もろくようさんに品定めされている自覚はある。

 それでも、この四人で過ごすの、なんかすごく楽しい……。この班でここに来ることができて本当に良かった……。

 そして──次の飯ごうすいさんも、ダム見学と同じくらいに楽しかった。

 なんと俺たちの班、四人全員が料理を得意としていたのだ。

 ぎわよく調理する班メンバーの中で野菜の下ごしらえをするのはここかったし、完成したカレーはもちろん絶品。

 その上で、それぞれが担当した具材に各家庭のカレーのとくちようが感じられて、ほほえましかった。なるほど、もり家は具材を小さめにカットするタイプで、ろくよう家はあく取りを入念にやる感じなんだな……。

 そして──楽しい夕食を終え。

 現在俺たちは、宿しゆくはくせつそばの広場で行われているキャンプファイヤーをぼんやりながめていた。

 広場の中心で燃えさかるほのお

 その周囲に思い思いに散らばっている、同級生たち。

 この時間、特にプログラムは用意されていない。

 各自しんぼくを深めて欲しい、という教師側の計らいらしい。

 実際、キャンプファイヤーってがつしようしたりフォークダンスしたりするイメージだけど、あれ結構ずかしいからな……。

 こうやって自由行動にしてくれた方が交流しやすいし、ありがたい。

「……さあ、ここからどうなるかだな」

 燃えさかる火に視線をやったまま、となりこしけたりようすけがつぶやくように言う。

「今日は存分に楽しめたけど……今夜どうなるか。どれくらいねむれるか……」

「まあ、どれか一つくらいはくいくでしょー」

 ろくようさんが、気楽な口調でそう言う。

「あれだけ策練ってきたんだから、一個くらいはねー」

 ……うん、そうなれば良いなと思う。

 初日、十分楽しめた分体力もがっつり消費した。

 だから、明日のオリエンテーリングを楽しむためにも、今夜はぐっすりねむることができれば……。

 ──と、そんなタイミングで。

「……おっ! おおたきさんグループじゃないですか!」

 たそがれうすくらがりの向こうから、そんな声をかけられた。

「どうですか? 宿しゆくはく研修楽しんでますか!?

 見れば──そこにいたのは、案の定かざさんだ。

 彼女は現在自分の所属する班の元をはなれ、方々の知り合いに声をかけて回っているらしい。

 みようけいかい心を覚えつつも、彼女らしい活発さとじやさに俺はちょっと笑ってしまった。

 こういうことがてらいなくできるのが、この子の美点だよなと本心から思う。

「おう、おかげさまでね」

 りようすけが、軽く手を上げかざさんに答えた。

「ダムもカレー作りも楽しかったよ。特におおたきろくようさんがダムで大はしゃぎしててさ。見てておもしろかった。かざさんは?」

「わたしも最高に楽しんでますよー! 班員もそうですし、そうでない方ともお話しすることができましたし!」

「それは良かった」

「……にしても」

 と、かざさんは俺たちを見回し、

「なんだかとても……しっくり来る四人ですよね、この班は」

「そう?」

 ろくようさんが首をかしげる。

「この宿しゆくはく研修まで、このメンツで集まったことなんてなかったけどねー」

「ですよね、そのはずなんですけど……なんか、人としてってる感があるというか。まあ……特におおたきさんともりさんは、元々幼なじみだし当然なのかもしれませんが」

 ……人としてってる、か。

 確かに俺とりようすけしずろくようさん、というコンビ同士はっていると思う。

 りようすけろくようさんがしっくりくる感じも、理解できる。

 でも、俺としずは……どうなんだろうな。

 毎晩はしているけれど、その実、色んな部分でわない、というのが俺のにんしきだったんだけど……。

「……そういえば」

 と、かざさんは思い出した表情になり、

おおたきさんともりさん……入学式の日に教室で何か言い合いしてましたよね?」

 ──思わず、ぴしりと固まってしまった。

「はっきりは覚えてないんですけど、口論をしていたようなおくがあります」

 それは……その通りだ。

 高校生活の初日、入学式の前。

 俺としずは再会してすぐに──激しい言い合いになってしまった。

 内容は例の、過去の約束のこと。

 ──いつしよに牧場をやろうと言ったのか、東京で暮らそうと言ったのか、という件だ。

 確かにあのときはずいぶん目立ったし、おくに残ってしまっていてもしょうがない。

「あれって、何だったんですか?」

 かざさんは、相変わらずじやにそう聞いてくる。

「あっ……あんまり言いたくないことだったらすみません……。でも、あれからいつのまにかこんな風に自然な仲にもどったようなので、どうやって仲直りされたのかなって。友達にちゆうさいたのまれたりしたときにも、参考になるかと思いまして……」

 ……どう答えるべきか。

 かざさんのこのいつさい悪気のない問いに、どう答えるべきか……。

 全部言ってしまうことは、けた方がいいだろう。

 将来の約束についてれてしまえば、かざさんはおおさわぎすることちがいなし。

 宿しゆくはく研修中できるだけ注目されないようにしているのに、完全に逆効果になってしまう。

 とは言え……全面的にうそをつくのも、得策ではないだろう。

 どこでボロが出るかわからないし、バレたときに一層やっかいなことになる。

「あのときは……おくちがいがあってさ」

 ちょっと考えてから、俺はかざさんにそう答えた。

「小さいころに、俺たちちょっとした約束をしてたんだけど……その内容が、おたがちがう感じで覚えてて、それで言い合いになっちゃったんだ」

 ……うん、これくらいがいだろう。

 これくらいぼやかしつつ、さらっと話すのがベストだ。

 そして、それを受けたかざさんも、

「あーなるほど。そういうのって、ありますよね」

 なんてあっさりなつとくしてくれた。

「じゃあもうその疑問は解けて、問題解決したって感じなんですかね?」

 ──解決していない。

 すれちがいは今も、俺たちの中で解くことができていない。

 なんでそんなおくちがいが起きたのかはいまだにわからないし、正直に言えば、最近はおたがいあまりそのことにれなくなりつつある。せっかく安定し始めた今の関係を、あらてたくなかったのだ。

 だから──早くこの話を終えたくて。

 さっさと次の楽しい話題に行きたくて、

「……うん」

 俺は作り笑いをかべながら、そう答えてしまう。

「なんとか……解決したよ。ははは、ごめんな、心配かけて……」

「そうですかー!」

 かざさんも、それににぱーとみをかべてくれる。

「なら良かった。いつまでもケンカしてるなんて、悲しいですから──」

「……してない」

 ──しずが。

 みようおだやかな表情のしずが、静かに会話にり込んできた。

「その件、まだ解決してないよ……」

「えっ? そうなんですか? けどおおたきさんは、解決したって……」

「ううん。本当はまだだよ……」

 相変わらずおだやかに、かざさんに答えるしず

 けれど──そのおだやかさには、彼女のいらちがにじんでいるように見えて。

 問題が解決した、なんていう俺の発言に対するふんがいが、ありありとかんでいて。

しのぶ……なんでうそつくの」

 静かにこちらを見るしず

 今さら俺は……自分が失敗したことに気付いてあせり始める。

「や、その……ここでその話、かえすこともないかなと思って……」

「変にかくすこともないじゃない」

「まあ、それもそうだけど……まだなんで、あんなすれちがいが起きたかもわからないわけで、このじようきようで話題にするのも……」

「……わたしは、今もしのぶかんちがいしただけだと思ってるけどね」

「……いやいやいや」

 しずの物言いに、思わずそう言い返してしまった。

 こんな場面でそんなことすべきじゃないのに。

 ここはとにかくおん便びんに流すべきなのに……その言い草は、ちょっとスルーできない。

「それはこっちのセリフだよ。俺にとってあれは、大事な約束だったんだから……そんな、かんちがいなんてするはずないだろ」

「……どうだか。本当は、別にそんな本気の約束じゃなかったんじゃない? なんとなくふんられて言っただけで……」

「そんなわけないだろ。ふんであんな約束するわけないだろ──」

 ──言い合いが、始まってしまった。

 久しぶりの口論になってしまった。

 考えてみれば、最近この件は特に話題に出ることもなくなっていた。

 なんとなく、でおたがいの大切さを体感して、許し合うふんになっていたこともあるだろうし……かつれて、めるのをおそれていたのもあるだろう。

 けれど──、

「──じゃあなんで、あんなことになったの? わたしが、そういうこと忘れるような──」

「──でも、俺がしずの言うような約束するはずがないんだよ。なら、しずが頭の中で話をえて──」

 始まってしまったら、止まらない。

 おたがいに、一歩だって引くことができない。

 それが、それぞれにとって大事な約束だったからこそ──。

 けれど、

「──はいはいストーップ!」

 意外な声が──言い合いを止めた。

「せっかくのキャンプファイヤーなんだから、ケンカしなーい!」

 ──かざさんだった。

 かざさんが、その小さな身体からだを俺としずの間にり込ませていた。

 おどろき固まる俺たちに、

「おたがいの言い分はよくわかりました」

 かざさんは、うんうんうなずきながらそう言う。

「約束の内容に、すれちがいがある……なるほど、それは確かになつとく行かないですよね。特に、お二人にとってそれがとても大事な約束だったなら、なおさら……」

「……お、おう」

「そう、だね……」

「すみません、わたしもそういうデリケートな話に、えんりよみ込んじゃって。でも、ちょっと落ち着いて考えてみて欲しいんですけど」

 と、かざさんは俺たちの顔を順番に見ると、

もりさん。たとえ小さなころでも、おおたきさんがふんられて約束する人だと思いますか? なこのおおたきさんが、適当にそういうことを言う方だと、本心から思われますか?」

「……それは」

 と、しずは短く口ごもってから、

「……そうは思わないけど」

「でしょう? ではおおたきさんも。もりさんが、頭の中で約束を都合よくえちゃうようなことがあると、本気で思いますか?」

「……思わないな」

「でしょう?」

 満足そうに言って、かざさんはもう一度うなずいた。

「確かに、おくのすれちがいは発生しているんでしょう。それは困ったことだろうと思います。けれど、何かしかたない理由があるんじゃないでしょうか。具体的にはわからないんですが、そんなことが起きてしまう、どうしようもない理由が」

「……んん。まあそうかもな」

「だね……」

 ……実際のところ、そうなのだろうと思う。

 勢いで言い合いにはなったけれど、かざさんの言う通りだ。

 しずがいい加減だったとか俺が適当だったとか、このすれちがいの原因は、多分そういうことではない。

 何か理由があって、おたがいそういうおもちがいをしているのだ。

「だからまあ、楽しくやりましょう!」

 言って、かざさんは俺としずかたをポンポン、と順番にたたいた。

宿しゆくはく研修は始まったばかり、ケンカなんかしてたらもったいないですよ!」

「……そうだな」

「うん……」

 かざさんの言う通りだ。

 俺たちがのプランを用意したのも、宿しゆくはく研修を楽しむためなんだ。

 そのことを忘れて、他のことでめてしまっては元も子もない。

 危ないところだった……もうちょっとで、いやな空気のまま残りの二日を過ごすことになるところだった。

「ありがと、頭冷やすよ。ごめんな、しず……」

「ううん、こっちこそごめん……」

「よしよし! 仲良きことは美しきかな!」

 ……しかしまあ、まさかこの子に。

 かざさんに、こんな風にフォローされるなんてな……。

 ちょっとやっかいなところはあるけれど、やっぱりこの子、基本は善人なのだ。

 自分だけでなく、他人も楽しめるようにナチュラルに気を遣える……。

 ……うん。

 あんまり、けいかいしすぎるのも良くないかもしれない。

 色々バレたときはバレたときで、じようきよを取るのは、この子にも失礼かもしれない……。

 けれど、

「では引き続き、高校生らしく清く正しくほがらかに、宿しゆくはく研修を楽しみましょう!」

 俺たちの元を去りながら、かざさんはそう言う。

 そして、ふと思い出したような顔になり、

「……あ! ちなみに仲がいのはいいですけど、不純異性交遊はダメですからね! 発見だい、担任に報告させてもらいますから!」

 ……。

 ……。

 あ、やっぱダメだ!

 やっぱり、この子にのことバレたらダメだ!

 軽快に去っていく背中をながめながら、俺は改めて、今夜のプランの成功をいのり始めた──。



 ──初日夜のために、わたしたちはプランを三つ用意していた。

 それぞれ、プランA、プランB、プランCと呼ばれていて、順番にその実行のハードルが高くなっていく。

 大浴場でおに入り終えてあとはるだけ、となったところで、それらのプランは実行されていく予定だ。

 ということで現在、わたしとのんは大浴場にて、クラスメイトたちと入浴中だった。

 つかれた身体からだに、よくそうの広さと熱めのお湯が気持ちいい。

 あしの痛みだとかむくみだとかかたりだとかが、け出して流れていくような感覚だ……。

 ただ……、

「……ふい~生き返るねえ……」

 となりで湯船につかり、そんな声をらしているのん

 わたしの意識は……完全に彼女にくぎけになっていた。

 スタイルが──い。

 いつもは大きめサイズの服にかくされて見えないけれど、実はもうほんと……グラビアアイドルかっていうくらいスタイルがいのだ。

 長く健康的なあしにシミ一つないはだうでれたくなるほどにやわらかそうで、おなかはほっそりしていて。しかも……大きいのである。

 胸がクラス一レベルで大きい。形もい。

 ……いや、知ってた。

 中学のときも修学旅行やらおまり会やらでおたがはだかになる機会はあったし、のんがナイスバディなのは知っていた。

 けれど……数ヶ月ぶりに見たその身体からだは、以前よりも一層すこやかに育っていて、思わずわたしは目を見張り、息をんでしまう。

「え……のんちゃん……すご!」

 いつしよに湯船に入っているクラスメイトたちも、そのことに気付いておどろきの声を上げた。

「何食べればそんなになるわけ!?

「わたしも、ろくようさんくらいセクシーになりたかったです……! 実際はこんなちんちくりんですけど!」

 ……ほんと、同感です。

 のん本人はじやだとか合う服がないとか言ってるけど、わたしもそんな身体からだに生まれたかった……。

 ……なんて、そんなことを考えつつ入浴をえ。

 わたしたちはついに──のためのプランを実行に移した。

 そして、その結果……。

 わたしたちは予想よりもずっと……苦戦してしまうことになるのです。



 ──最初に実行したのは、プランA。

 題して『こっそり大部屋をして、せつのどっかでこっそりよう作戦!』である。

 その名の通り、消灯後にそれぞれの大部屋をして、この建物のどこかでかくれながらをする、というプランだ。正統派なアイデアだと思うし、個人的にはこれが一番成功率が高い気がしていた。

 なお、事前にこっそりできそうな場所は見つけてある。

 建物の最上階、もう使われていないという倉庫のそばにある、応接ゾーンだ。

 奥まったそこにはいくつかソファが並べられていて、夜中にここに来る人なんていないだろうし、二人で並んでるくらいの広さもある。

 ……けれど、消灯時間が過ぎ。

 こっそり大部屋をして、応接ゾーンにやってきたわたしとしのぶは──、

「……しっ! だれかいる!」

「ええっ……!?

 ──ソファでだれかが、大いびきをかいてているのに気が付いた。

 ジャージをまとった、ガタイのいい身体からだ

 ざっくりられた短いかみ

 ここまでにおってくる、お酒のにおい。

 どうやら、あそこで横になって、つぶれてているのは……、

「……体育の、ほし先生……?」

「そう……っぽいな」

 ……ちがいなさそうだった。

 だんよりずいぶん表情はゆるんでいるけれど、あれは厳しい生徒指導で有名な、体育のほし先生だ……。

 ……なんでこんなところでてるの!

 先生は、先生の部屋用意されてるはずでしょ!?

 なんでこんなわけのわかんないところまで来て、つぶれてるの!?

 文句を言いたい気持ちになるけれど……わたしたちだって人のことは言えない。

 それに、男女でこんな時間にここにいることをほし先生に気付かれれば、大問題になるだろう。

「……行こう」

「うん……」

 そう言ってうなずき合うと、わたしとしのぶはすごすごと応接ゾーンをあとにした。



 ──プランBはもっとあっさり失敗に終わった。

「……よし、ここだな」

「うん、そうだね……」

 応接ゾーンをはなれわたしたちがやってきたのは、救護室だ。

 このせつに用意された、けが人や病人を手当てするための、保健室のような場所。

 時間帯的にかぎがかけられていて入れないのだけど、となりにはスタッフルームがあり起きている職員さんもいるだろう。

 彼らのうちのだれかに「体調不良です」と伝え、しのぶかわたしのどちらかがベッドを使わせてもらい、タイミングを見計らってもう一人もそこにこっそり加わる、という算段だ。

 名付けて『びようでベッドをゲット作戦!』である。

 これなら、だれにも見つからず、しかもベッドでゆっくりできるはず。

 実際……わたしとしのぶが最初にしたのもこういう場所、学校の保健室だったしね……。

 ……けれど。

 くつでは、そうなんだけど──、

「……じゃあ、俺がスタッフルーム行ってくるわ」

 しのぶがそう言って、となりの部屋に向かい始める。

しずはどっかでかくれて、俺からのれんらくを待ってて──」

「──あ、あの……!」

 わたしは、声をおさえつつ、しのぶを呼び止めた、

 そして、

「……やっぱりやめない?」

「……へ。なんで?」

「だって……ここ、救護室でしょ? 本来は、本当に体調くずした人のための場所でしょ……? それを、に使っちゃうのは……」

「あ、ああ~……」

 困っている人に、めいわくをかけたくないと思うのだ。

 わたしたちがびようでベッドを使っている間に、本当に体調が悪い人が出ないとも限らない。

 そのときにわたしたちがベッドを使っているのは、じや以外の何物でもないだろう。

「……そりゃわたしたちだって、明日の体調がかかってはいるけれど、今現在病気だったり苦しかったりするわけじゃないでしょ? なのに、ベッドせんゆうするのは……申し訳ないって」

「……確かに」

 しのぶもうなずいてくれて、わたしはちょっとほっとする。

 ここで意見が割れてたらちょっとめんどうだし……しのぶがそういうことを、に気にかけてくれる人で良かったと思う。

「まあ俺たちは、もう一個プランがあるしな……」

「だね……。よし、次のプランにしよう」

「おう……」

 言いながら──わたしたちは「次の目的地」に向かって歩き出した。

 ……とは言え、ちょっと気が重いなあ。

 プランC、できればこれはけて通りたかったからなあ……。

 まあでも、しょうがない。こうなったら、最後のその策にけてみることにしよう──。



「──よし、ここだな」

「うん……」

 数分後。わたしたちは目的地であるお手洗いに着いた。

 この宿しゆくはくせつすみにあって、おそらく生徒も職員さんもあまり来ないであろう、殺風景な女子トイレ……。

 時刻はすでに、日付が変わるころになっている。

 これが最後のチャンスだし、なんとかプランC、成功させなきゃ……。

「じゃあ、行ってくるね」

「おう、またあとで」

 しのぶにそう言ってわたしはトイレの中、個室に入ると──事前に用意してあった『男装』グッズを取り出した。

 ──これが、プランCだった。

 男子の格好をして、男子の部屋でこっそりる。

 男の子のりをして真っ暗な部屋にこっそり入って、朝早くす。

 そういう──ちようストロングスタイルの方法だ。

 名付けて『男装女子になって男子と作戦!』である。

 大部屋には何十人も男子がいるわけで、一人くらい増えてもバレる可能性はほぼないだろう。

 もちろん、しのぶ以外の男子もいるところでるのは、正直ていこうがある。

 なんかこわいし、見つかったら大変なことになるのもちがいない……。

 けれど……もう、背に腹は変えられないんだ!

 このままろくにれずに明日をむかえるわけには絶対に行かない!

 だからまずは、しっかり男の子の格好をしないと──。

 ということで、わたしは胸にサラシを巻き、頭に男子っぽいかみがたのウィッグをかぶっていく。

 研修旅行の前に、しのぶのんみねくんと買いに行ってきた男装グッズだ。

 ちなみに、のんは最初この案に難色を示した。

 ──そんな……しずえたおおかみしかいない男子たちの中でるなんて……! そんなの! 断じて承服できません!

 さらに、

 ──別に、しずが男子の部屋行かなくてもいいでしょ! 逆に、おおたき氏が女子の部屋でれば良いじゃない!

 そんなことを主張し始めたこともあり──実際、ためしてみることになった。

 この男装グッズを買いに行く際、ためしにしのぶも女装してみたのだ。

 まあ……結果は、言わなくてもわかるだろう。

 ばくしようだった。

 その場に居合わせたわたし、のんみねくんや店員さんまでばくしようだった。

 もう、似合ってないとかそういう次元じゃない。

 ロングヘアーのウィッグをかぶり、胸にパッドを入れたしのぶは、ちょっと昔のメタルバンドのメンバーみたいにしか見えなかったのだ。

 こんなんで女子部屋に来たらおおさわぎになるに決まっている。

 ということで消去法で、しかたなくわたしが男装をすることになったのだった。

「……よしおっけ、できた」

 一通り、男装グッズの着用ができた。

 個室を出て、手洗い場の鏡で自分の姿をかくにんしてみる──。

「……おっ」

 これはなかなか……いいんじゃない?

 ちょっとがらで、細身の男の子くらいには見えるんじゃない……?

 胸はサラシでつぶされてへいたんになっていて、学校指定のジャージも相まって女子っぽさが完全に消えている。

 かみも……だんよりずいぶん短くてしんせんだ。

 女の子のショートヘアーとはちがってえりあしとかがざっくりしていて、へえ、こんな感じになるんだ……。

 もちろん、顔立ちをよくよく見ればつうに女だ。

 仕草や声だって、完全に男の子にはなりきれない。

 けれど──真っ暗な中、大部屋にしんにゆうする分にはバレないと思うし、その後朝までして早朝すのだって問題なさそうな予感。

「……よし、行こう!」

 鏡の向こうの自分にうなずいてみせると、わたしはしのぶの待つ女子トイレ外に向かった──。



「お、おお……」

「どうかな……?」

 ──女子トイレから出てきたしずは。

 先日買ってきた男装グッズをフル装備したしずは──、

「男子に、見える……?」

「……」

「えっ……みよう?」

「……いや……ギリギリな感じ」

 ──まあ確かに、いつもよりは男子っぽいのだ。

 短いかみふくらみのなくなった胸も、意図的に歩き方をそれっぽくしているのも、まあだんよりは男子っぽい。

 とは言え……まあ、つうに女子には見えるな。

 こうしてろうあかりの下で見ると、かみが短めの女子にしか見えない。

 なんかやっぱり……わかってしまうのだ。

 体つきとか歩くときのふんとかで、ああこの子は女子だなって……。

「……じゃ、じゃあ、やめといた方がいいかな?」

 しずが、不安げにこちらを見上げる。

「男子の部屋行くの、やめといた方がいい……?」

「や、そこはチャレンジしてみても良いと思う」

 みようではあるが、そこはやってみる価値はありそうだ。

「ほら、もうそろそろみんなしずまってるだろうし……暗い中なら、だれかとかそういうのはわかんないだろうから……」

「そっか……うん、わかった」

 決心した様子で、しずはそう言う。

「行こう、しのぶ

「……オーケー、行こう」

 うなずき合って、俺たちは男子部屋へ向かう。

 うすぐらろうはしんと静まりかえり、外から鳥の鳴く声や木々のざわめきが聞こえてくる。

 ちょっと前まで生徒たちのまる部屋からは声がしていたし、定期的にかんせいが上がったりもしたけれど……今はそれもずいぶんと落ち着いた。

 初日とは言えみんなずいぶん歩いたし、そろそろつかれでてしまったのだろう。

 ──そんな中。

 しのあししずと歩きながら──俺はなんだか、変な気分におそわれていた。

 となりを歩くしず

 だんとはちがう、短いかみがたになった彼女──。

 ……なんか、変にドキドキするのだ。

 だんよりもボーイッシュなせいか、いつもよりもおたがいのきよが近い気がして。

 逆に、なんというか……女子である部分が、強調されているような感覚もあって。

 なんか、こう……今までにない、変な気分になるというか。

 つやめくくちびるだとか丸いかただとか、白いほおだとか長いまつげだとか──。

 なんか、そういうのが……男子っぽい格好の中で、きわって見える……気がしてしまう……。

 だ、だいじようなのか俺は……。

 これ、もしかして……新しいとびらを、開いちゃう感じなんじゃないか……?



 ──そんな不安にられているうちに、男子部屋に着いた。

 中から声はしないし、やっぱりみんなもうねむってしまったらしい。

 うすとびらを開けてみると……教室の二倍ほどの広さのその空間には、くらやみが満ちている。

 そこにびっしりかれたとんと、いきを立てているクラスメイトたち……。

 ところどころに、だれかが見ているらしいスマホのあかりもれているけれど……多分だいじようだ。今から部屋に入っても、それがだれかなんてかくにんされることはないはず。

「……よし、行くぞ」

「う、うん……」

 きんちよう気味に、しずがうなずく。

 彼女が俺のジャージのすそをきゅっとつかむと同時に──俺たちは、おそおそる部屋の中にった。

 後ろ手にとびらを閉め、ころがるクラスメイトたちの間をゆっくりとうようにして歩いていく。

 案の定──こちらをかくにんしてくるものはいない。

 それもそうだろう、ときどきだれかがトイレに立ったりもするだろうし、いちいちだれかなんて聞いてこないはず。

 俺のとんは、入り口からちょっとはなれたかべぎわだ。

 そこまで十数メートルのきよを、あしもとに目をこらしながらじわじわと歩いていく。

 その数歩後ろを、おずおずとついてくるしず……。

 かえると、彼女は身をこわばらせ俺のジャージをつかみ、もうじゆうおりまぎれ込んだねこみたいな顔で一歩ずつ進んでいた。

 ……だいじようか? これ……。

 反射的に、不安感がこみ上げる……。

 もうなんか、ぱっと見からして女子だけど……。

 仕草もシルエットも完全にきやしやな女の子で、男装の効果とかもうほぼ感じないけど……。

 マジでこのままできるんだろうか……。

「……」

 ……とは言え、これに失敗したらもうあとがない。

 暴れ回るどうに必死でえながら、俺は数メートル先にある俺のとんへ向かってじわじわと前進する。

 そして──もうあと、数歩。

 きよにして一メートルほど、というところまできた。

 よし……もうここまで来ればだいじようだろう!

 あとはしずかべぎわに寄せて、それをガードする形で横になればの準備かんりようだ。

 そこまで行けば、もうバレてしまうような危険はほとんど──、

「──あれ……おおたき?」

 ──ふいに。

 かたわらのとんから、名前を呼ばれた。

 後ろでしずがビクリとふるえる。

 俺も思わずさけごえを上げそうになりつつ、ぎこちなく声の方。

 かたわらのとんに視線をやると──、

「……どっか、行ってたの?」

 ──同じクラスのやましたが。

 最近、ちょくちょく話をするようになった野球部男子が、とんの中からぼけまなこでこちらを見上げている。

 ……しまった!

 どうやら、物音で目を覚ましてしまったらしい……!

「お、おう……ちょっとな……」

 なんとか顔にみをけて、そう答えた。

 ここは、なんとか冷静にって、おん便びんにことを済ませないと……。

「なんか、トイレ行きたくなって、行ってきたわ……」

「おー、そっか……」

 なつとくした様子のやました

 よし、なんとか……ごまかせた…か?

 このまま話をしゆうりようにできるか……!?

 いつしゆん期待をいだくけれど、やましたは大きなあくびをして──、

「……あれ?」

 ──気付いてしまう。

 俺の後ろにいる、小さなひとかげ

 男子にしてはかわいすぎる、そのたたずまい。

「そこにいるのは……? だれだ……?」

 全身に、ぶわっとあせした。

 ──ヤバい。

 ──これはヤバいぞ。

 しまった、こうなったときの対処を全く考えていなかった……!

 どう答える? どうける……?

 しずが、ジャージをつかむ手にぐっと力を込める。

 必死で頭を回すけれど、いごまかしの言葉が思い付かない……。

 そうしている間にものそりと起き上がり、不思議そうにしずの顔をのぞき込むやました

 ああ……これまでか。

 のプランCも、ここで失敗か……!

 グッと手をにぎり、かくを決めたそんなタイミングで──、

「……ああ……おきか……」

 なぜか──やましたが小さく笑って、そんなことを言い出す。

「良かった、びっくりした。おきもさっき、トイレ行きたいかもって言ってたもんな……」

 ……おき

 うちのクラスの男子、おき純一のことだ。

 どうやらやましたは、しずが彼だとかんちがいしたらしい。

 確かに……おき、身長しずと同じくらいだからな。

 かみがたは割とちがうけれど、暗い場所でぼけた状態で見たら……かんちがいしてしまうかもしれない。

 実際のおきどこの辺りに目をやると──彼はすでにだらしなく口を開け、完全にねむりに落ちていた。

 ……よし、なんとかれそうだ。

 このままおきりを続けて無難にやり過ごせば、ついきゆうをかわしきることができそうだ。

 ──なんて思ったのに。

「……おう、そうだよ(低音)」

 しずが──そんなことを言い出す。

「ちょっとおおたきと、トイレ行ってきた(低音)」

 ……いやなにしてんだよ!

 今明らかに、話し終わりそうな感じだったろ!

 なんでわざわざ答えちゃったんだよ! しかもおきの演技までして!

 似てないから!

 全然似てないから!

 確かにおき、男子にしては声高い方だけど明らかに無理があるんだよ!

「だよなあ……なんかいつしゆん、女子っぽく見えたからビビってさ……」

「……そ、そんなわけねえだろ、俺だよ、おきだよ(低音)」

「……ていうか」

 と、改めてやましたげんそうな顔になり、

「なんかおき……声もかわいくね? お前、そんなに声高かったっけ……」

 ……ほらー!

 やっぱりあやしまれたじゃねえか!

 余計なことするから、おかしいって思われたじゃねえか!

 なのにしずは完全に混乱してしまったのか、無理に会話を続けようとしてしまう。

「べ、別にかわいくねえし……(低音)」

「いや、かわいいだろ」

「い、いつも通りだろ、だんの声だろこれが……(どうよう)」

「……なんか、さっきより声高くなったんだけど」

「な、なってねえよ、これがわたしの素の声だよ……(低音)」

「……わたし? 今おき、自分のことわたしって言った?」

「……」

 ……あーもう見てらんねえ!

 このままさわぎが続いたら他のクラスメイトも起きちまう!

 ……何か、いい言い訳を……。

 この場をけるような、い言い訳を俺がしてやらないと……!

「……そ、それがさ」

 なんとかしぼすようにして、俺は言葉を続ける。

「最近おき、女声を練習してるみたいで……」

「……女声?」

「そ、そう……。ほら、今ネットで、二次元キャラのYouTuberみたいなのってるだろ? バーチャルYouTuberみたいな……」

 あまりくわしくないけれど、一度だけ見たことがあるのだ。

 俺の大好きなまきばchannelとコラボしていたのをきっかけに、気になって一度かいわいをざっと見てみたことが。

「あ、ああ……あるな……」

 やましたぼけまなこのままうなずく。

おきもそういうのやりたいらしいんだけど……女の子キャラやるとなると、声も女の人にしないといけないだろ?」

「……だな」

「でも、ボイチェンとか買うお金もないし、おき元々まあまあ声高い方だし……自分で女声出す、練習してるんだって……」

「……」

 だまっているやました

 ……ちょっと苦しいか?

 自分で言い出したことだけど、このくつはさすがに無理があるか……?

 あせりで背中にあせが流れる。

 みようのどかわいて、頭の奥がジンとする。

 けれど、

「……なるほどなあ」

 やましたは完全に理解できた様子で、おだやかなみをかべている。

「そうか、そうだったんか……。俺、結構バーチャルYouTuber見るから、本当に始めたら教えてくれよ……」

「……お、おう(低音)」

「じゃあ、おやすみ……」

 それだけ言うと──やましたはあっさり布団に倒れ込み、ねむりに落ちてしまったのだった。



 ──どうなることかと思ったけれど。ようやく、俺としずとんとうちやくした。

 俺とかべで彼女をはさむ形で横になる。

 ここでやっと安心したのか、しずは「ふう……」と深く息をついた。

「……じゃあ、るか」

「うん……」

 小声で言い合うと、ずんとまぶたにねむがのしかかる。

 いつもののとき特有の、不思議と幸せなねむ……。

 ……けれど、何だろう。

 なんだか、やっぱりちょっとみような気分だな……。

 むくつけきろうどもだけが集まっている部屋に……一人男装して忍び込んだ、しず

 そんな彼女をこうしてかくしながら……こっそりしている……背徳感。

 ちらりと目を開けると、たんぱつのウィッグをかぶったまま目を閉じているしずの顔がある。

……っ!

 なんだかそれが、今の俺には──みよういんに見えていた。

 なんというか……だんよりもずっと……エロいことをしているような。

 すごくいけないことをしているような、ゾクゾクする感覚……。

 男要素ばかりの空間にいることと、本人も男の格好をしていることで……一層、女子の部分がきわつというか……。

 さらに言うと、今日俺は、だんよりもしずに近づいて横になっている。

 なんとなく、できるだけ周囲からかくしてやりたくて半ば無意識にそうしたのだけど……これがまた、思った以上にドギマギする。

 ……やっぱり、俺としず、すごいことしてるんだよな。

 男女でって……。

 こんなきよ感で、身を寄せ合って、無防備にるなんて……。

 ジャージのしの、細くて丸いかた

 やわらかくにぎられた手の、はだなめらかさ。

 そして……ときおり口元かられる、小さないきと「……ん」という声。

 いつも通りのはずのそのすべてに、俺は一人小さくどうようしてしまう……。

 ……そんな俺に気付いたのか。

「……ふふ」

 しずは目を閉じたままで、小さく笑う。

 そして、周りに聞こえないようなごく小さな声で、

「……早くよ……明日も大変なんだから……」

「……そうだな」

 彼女の落ち着いた声で──ようやくちょっと気分がおだやかになった。

 確かに、いつまでもドキドキしてるわけにはいかない。

 せっかく、こうしてに成功したんだ。しっかりすいみんを取らないと……。

 ……目を閉じると、まいみたいな強いねむを覚えた。

 意識がぼやけて、すべての感覚が遠くなって──。

 そして、いつのまにか俺は、完全に深いねむりに落ちていったのだった──。



 ──翌朝。

 他のクラスメイトたちよりも早く起き、しずを女子部屋近くまで送り届けたあと。

 男子部屋にもどったところで、やましたおきが会話しているのに出くわした。

「──しかしおき、お前さー」

 とんを片付けながら、やましたはなんだかうれしそうに──おきにこんなことを言う。

「バーチャルYouTuber、いつ始めるの?」

「……え?」

「ほら、昨日の夜言ってただろ、バーチャルYouTuberやってみたいって!」

 ……あ、やべ。

 やました、覚えてたのか。

 昨夜の俺のでまかせ、ちゃんと覚えてたのか……。

 ど、どうしよ、おきこんわく気味の顔になってるし……。

 そりゃそうだよな、あのとき話したのはしずであっておきじゃないんだ。

 当然心当たりなんてあるわけない……。

 けれど、やましたは何やらみようげんよさげで、

「あれから考えてたんだけど、おきならくやれる気がしたんだよなあ。ほらお前、声もかわいいし、実はトークもいだろ?」

「え、そ、そうかな……?」

「そうだよ! いつも周りを笑わせてるし、しかもだれも傷つけないだろ? すげえなと思ってたし、それを配信にかしたらウケるんじゃないかなって……」

 ……話、止めた方がいいだろうか。

 これ以上おきが困る前に、やましたを止めた方がいいだろうか……。

 ……けれど。

「だから、始めたら俺にも教えてくれよ! 絶対おうえんするから!」

 ほがらかに、そう言うやました

 そして、なぜかおきも──、

「……うん、わかった」

 こくりとうなずいて、そんなことを言い出す。

「ていうか、何の話かわからないけど……バーチャルYouTuber、やろうと思ったこともないけど……。やましたがそう言うなら、ちょっとためしてみる」

「おう! 楽しみにしてるわ!」

 ……なぜだか、話は丸く収まったみたいだ。

 なんかよくわからん流れだけど……無難に話が終わったならまあいいか……。

 ほっと息をつくと、俺は自分のとんの片付けに取りかかったのだった──。

 ──ちなみに。

 この会話をきっかけにして、実際におきはバーチャルYouTuberとして活動をスタート。

 数ヶ月後には『かわいすぎる男のV』として人気を得て有名になっていくのだけれど、それはまた別のお話である──。