第3話 幼なじみ、変装する


「──第一回! しのぶえ選手けーん!!

 ──集合した、さつぽろえき前。

 たくさんの人がうその場所で──彼女は。

 みねはなさんは、とつぜん高らかにそう宣言した──。

 完全こうちよく。全くリアクションできなくなる俺と、

「……お、お~……」

 こんわくあらわな顔で、それでもなんとかそう返すしず

 そんな二人に、それでもはなさんは不満だったようで、

「……あれ? 二人ともノリが悪い! そんなんじゃ、てきな『変装』はできないぞ!」

「え、ええ……?」

「では、もう一回!」

 俺たちのまどいを完全に置き去りにして、はなさんはこほんとせきばらいする。

 そして、こぶしにぎりそれをげると──もう一度、こわだかに宣言した。

「──第一回! しのぶえ選手けーん!!

 ──こうなれば、げられない。

 俺としずは半ばやけくそでそれに乗っかることにする。

「「お、おー!」」

 ──周囲の人たちの視線が痛い。

 スーツを着たサラリーマンが、子供を連れた母親が、制服を着た学生が、げんな顔でこっちを見ている。

 ……なんでだ。なんで俺たち、こんなことしてるんだ……。

 そもそも、はなさんは元々注目を集めやすいタイプだ。

 女性にして㎝を超える身長。あしは長くスタイルも良く、顔立ちだって女優級。

 そんな女性がこんなこうに走っているのだから、そりゃみんなおどろくだろう。

 ……したい。

 一刻も早くこの場からしたいのだけど、

「きょ、今日はよろしくお願いします……」

 ようやく歩き出したはなさんに、しずがおずおずとそう言う。

「わたしたち二人じゃどうにもできそうになかったので、すごく、助かります……」

 ──こっちから、お願いしたのだ。

 今日の買い物は、俺としずから、はなさんに頭を下げてお願いし、実現したものなのだ。

「いえいえ~、わたしも今日は楽しみにしてたよ~」

 はずむような足取りで歩きながら、はなさんは言う。

「しかもしずちゃんのたのみだからね! 今日はいつしよに、楽しんじゃおう!」

「は、はい!」

 に、こくこくとうなずいているしず

 そんな彼女をちょっと後ろで見守りながら。俺はため息交じりに、こんなことになったきっかけを思い返す──。



「──これから、どうしてこうかなあ……」

「そうだねえ……」

 リモートの翌日。集合した、しずの家で。

 ひるから目を覚ました俺たちは、夕飯だか昼ご飯だかわからないご飯を食べ終え、ダイニングで相談をしていた。

「ひとまず、をしないという方向性に持っていくのはなしだな……」

「うん、そうだね……」

 リモートのおかげで、直接並んでることが重要なのははっきりわかった。

 ただ、学校関係者に見つかるわけにはいかないことには変わりない。もうちょっと、することにきんちよう感を持たなきゃいけない。

 となると、俺たちはどうしていくべきか……。

「そのうえで……出歩くのとか、そういうのをやめるのは……やっぱりやだなあ」

 まだちょっとぼんやりした口調で、しずはそう言う。

「わたし、夜の散歩とか好きだし、そういうのを全部ひかえるのは……」

「うん、その辺は無理しない方が良さそうだな」

 しばらくまん、とかならなんとかなるだろう。

 けれど、「前は基本外出不可」とか「出かけるときは一人だけで」とか、しばりを厳しくしすぎるとやっぱり持たない気がする。

「ちなみに……俺の家でるのやめて、しずの家でるようにするのはどうだ?」

 ちょっと考えて、俺はそう提案してみる。

かざさんも、ここまではそうそう来ないだろうし……」

「それは、わたしも考えたんだけどさ……でもこの近所、結構同じ高校の生徒が住んでるのね。散歩してても、ひんぱんに制服姿の人見かけるし」

「ああ……じゃあ、こっちにしぼっても根本的な解決にはならないかあ……」

「だねえ……」

 しよくたくに、気だるいちんもくが降りる。

 そこそこがっつりひるはしたけど、やっぱりまだちょっとねむいな。

 まだ十代とは言え、やっぱりオールは予想以上に体力をけずられる……。

 と、

「……変装はどうだろ?」

 ふいに、俺はそんなことを思い付く。

「変装?」

「うん、おたがだんとは全然ちがう格好をするんだよ。もう、ぱっと見からして学校の俺たちとはちがふんの格好をな。出かけるときは、そうやって変装してれば……うっかりだれかに会っても、気付かれる可能性が減るんじゃないか?」

「……ああ、そういうこと」

 ぱっと見で気付かれなければ、別にいくらでも外を出歩けるわけで……。

 逆に俺も、夜中のみちばただんと全然ちがう印象のクラスメイトが歩いていたら……そう簡単には気付けない気がする。実際俺たち、ウィンカムでは店員の格好をしたかざさんに最初に気付けなかったわけだしな。さらにそれが暗いところだったりするとなおさらだろう。

 しずも、そのアイデアにはなつとくの行った様子で、

「ふんふん、それはいいかも……」

 なんてうなずいている。

 そして、彼女は思い付いた様子で、

「……そうだ! 実はわたしさ、買ったはいいけどあんまりわたしっぽくない気がして着てない服、結構あるのね。だから今、ためしにそういうのをまとめて着てみたら、ちょっと参考になるかも! 変装するとどんな感じになるか、わかるかも!」

「おおいいじゃん! じゃあ悪いんだけど、さっそく着てみてもらえるか?」

「うん! ちょっと待っててね!」

 うなずいて、しずは食べ終わった皿を流しにもどしつつ、自分の部屋へ向かった。

 そして、数分後、

「……どう?」

 しずが──二階から降りてきた。

 ──それまでの、だんの部屋着とはちがう服で。

「お……おおお!」

 思わず──そんな声を上げてしまった。

「だいぶ……変わるな! すげえ、印象が本当に全然ちがう!」

 しずが身にまとっているのは──全体的に、パステルカラーの服だった。

 あわい水色やピンク、むらさきで構成された、ふわっとした印象の服──。

 以前から、しずはパステルカラーの服を着ていたけれど、それよりも、なんというか……ずいぶんとファンタジックで、ファンシーな感じというか……。

「えへへ、こういうの『ゆめかわ』っていうんだけどさ」

 シャツのすそまんだりしながら、しずずかしげに言う。

「かわいいなと思って買うんだけど、家で着てみるとあんまりわたしには合わない気がして……着る機会がほとんどなかったんだ」

「ああ、これが『ゆめかわ』か……」

 その言葉は聞いたことがあったけど、現物にお目にかかるのは初めてだ。

 なるほど、確かにこれは『ゆめかわ』って言葉の印象通りだなと思う。

 そして、

「ほんとに、ここまで変わるとはなあ……」

 さっきのしずとは、別人みたいなのだ。

 下ろしていたかみを今はサイドでツインテールにしばり、さっきまでの『正統派な今風』とは全く別の印象になったしず

 確かに、だんの彼女のイメージとは大きくちがうけれど、これはこれでとても似合っているし、しんせんでおもしろい。

「これ着て街中でばったりクラスメイトに会っても、すぐにはわたしだって気付かれないんじゃない?」

「うん、そうだな。まさか、しずだとは思わないよ。へえ、すごいもんだな……」

「それからこの服、パジャマとしても着られる素材だからね。だんは家で着て、そのまま外にもー、なんてこともできるんだ」

「ふんふんふん……いいな、文句なしだ」

「よし、じゃあしのぶも、外出するときにはだんちがう格好しよう! それで二人で歩いたら、まさかだれもわたしたちだって思わないよ!」

 ──ということで。

 俺たちは、外出するときには『変装』して出かける、という作戦をためしてみることになったのだ。

 ただ、一点問題がある。

 俺は元々、私服をあまり持っていないのだ。

 タンスの服を総動員しても、用意できるのは上下二セットくらい。親に「ちょっとは身なりに気を使え」と言われてお金はわたされていたけれど、何を買えばいいのかわからなくてほぼ手つかずのままだ。

 よって、次の週末しずと買い物に行くことになったのだけど、

「アドバイザーも呼びたいな……」

 しずが、そんなことを言い出す。

「わたし、男子のファッションにはくわしくないから、そっちの知識もある人……」

「ああ、じゃありようすけとか呼ぶか? あいつ、結構おしやだし」

「ううん、実はわたし、ちょっとたのんでみたい人がいて……」

 言うとしずはちょっとうれしそうにほおをほころばせ、

「──りようすけくんの、お姉さん。はなさんと、久しぶりに会いたいなと思ってたんだ──」



 ──というけいで、その次の週末である今日。

 俺たちは、こうしてはなさんとともにさつぽろえき近辺に買い物に来たのだった。

 実ははなさん、将来はファッション関係の仕事にきたいらしい。だんからレディースに限らずメンズ服にもアンテナを立てているそうで、今回しずは彼女に意見をあおぎたいと考えたみたいだ。

 はなさんがそんな夢を持ってるなんて知らなかったし、いつのまにか二人がそんなに情報こうかんしていたのもおどろきだな……。実際に会ったのは、先月のもめ事の際、学校近くで会ったときだけらしいのだけど、やけに仲いいなこの人たち……。

「実はわたし、前からこういうことしたかったんだよね~」

 俺たちの前を歩きながら。

 はなさんは、すこぶるごげんだ。

しのぶ、スタイル最高なのに私服はいつも死ぬほどダサいからさー、え遊びしたいなってずっと思ってたの」

「死ぬほど!? そこまでダサいか!?

 確かに、全然自信はないけど!

 でも、そこまで言わなくてもよくないか!?

「まあ、しのぶ単体で見ればやぼったいなってくらいだけどー」

 言って、はなさんは俺としずの方をかえり、

しずちゃんがおしやだからさ。そうして並んで歩いてると、落差がヤバすぎて量に達してるように見えちゃうんだよねー」

「グッ……!

 言いながら、俺はちらりとしずの方を見る。

 今日も彼女はおしやな私服を着ていて、これは確かに……落差がヤバい。

 量と言われても、文句は言えないかも……。

「だから今日は、もうてつていてきしのぶをおしやボーイにしちゃいますよ! はなさんに任せておきなさい!」

「……まあ俺は、くいくなら何でもいいんだけどさ」

 はなさんの実力は、しんらいしてもいいんだろうと思う。

 確かにこの人はいつもおしやだし、服装に関係ない場面でも器用さとかぼんさをひんぱんに発揮したりもする。

 だからきっと、はなさんはなんだかんだ言ってベストな変装を考えてくれるんだろうけど……なんだろうなあ、なんか、いやな予感がするんだよなあ……。

「ということで~」

 はなさんはこちらをかえり、楽しくて仕方がない、と言った顔で俺たちに言う──。

「まずは、昔から一度しのぶに着せてみたかった服を、着てもらいに行きましょ~!」



「──おっほほほー!」

 そして、たどり着いたとある服屋さん。

 試着室から、選んでもらった服を着たしのぶが出てくると。

「やっぱり、めちゃくちゃ似合ってるじゃーん! これよこれこれ~!」

 わたしのとなりで並んでいたはなさんが──飛び上がらんばかりの喜びの声を上げた。

「元々顔立ちはうすめで、スタイルもいいからね。ひょろいだけじゃなくて、筋肉しっかりついてるし……。だから、絶対似合うと思ってたんだよ~! でもまさか……」

 言いながら、はなさんはしのぶの周囲をシュバババっと飛び回り。

 色んな確度から彼を観察してから、大満足のみをかべる。

「ここまで……ここまで似合ってくれるとは……」

「え、ええ……」

 そして、視線を全身に浴びせられ。

 しのぶは困ったような、くすぐったそうな顔をしてそこに立っている。

「そこまでか……? これ、そこまで似合ってるのかなあ……」

 ──ちなみにわたしは。

 はなさんのとなりで、そのしのぶへんぼうぶりをたりにしたわたしは──、

「な、なあ……しず……」

「……ん、何?」

「その、それ……止められねえか?」

「だから……何を……? 今集中してるから、ちょっと静かにしてくれない……?」

「いや、その……写真りまくるの……やめてもらえねえかな……」

 りまくっていた。

 はなさんの選んだ服──『スーツ』を全身にまとったしのぶの姿を、前後左右あらゆる角度から、ってってりまくっていた。

 だって──死ぬほどなのだ。

 もはや、死ぬほどレベルで似合っているのだ。

 はなさんが選び、店員さんが採寸して持ってきてくれたジャケットとパンツ。

 チャコールグレーのそれをまとったしのぶは──もはや、おしやで有能な若手社会人にしか見えない。東京のオフィス街とかを、さっそうと歩いていそうな感じ……。

 すごい。

 これは本当にすごい。

 服の力だけで、こんなにあかけるなんて。

 元々、しのぶにそういう素質があったのもあるんだろうけど……。

 とにかく、これを記録に残さないのはもったいなすぎる。

 画像はもちろん、動画でもっておかないと……。

「……というか、その」

 スマホを『ピロリン♪』と鳴らしつつ、映像記録を取り始めたところで。

 しのぶは不安げに、たずねてくる。

「変装……これでだいじようか? 着るの、これで決まりでいのかな……?」

 ……そうだった。

 わたしたち、別にしのぶの似合う服を探しに来たんじゃなくって、変装用の服を探しにきたんだった。

 危ない危ない、本来の目的を忘れかけてた……。

 そして、変装という意味で言えば──答えは決まり切っている。

「──ダメだね」

「──ダメでしょ~」

 わたしとはなさんが、ほとんど同時にそう答えた。

「え、なんでだよ!?

 しのぶが血相を変えて言う。

「二人とも、そんなにノリノリなのに……なんでこれじゃダメなんだ!?

「だって~」

 と、はなさんはうでを組み、

「似合ってるけど、別にそんな『変装』にはなってないからねー。顔丸出しだし、制服のブレザーにも近いし、体格だって丸わかりだし。遠くから見ても、一発でしのぶってわかるんじゃないかな~」

 はなさんの言う通りだ。

 確かに、スーツはしのぶに死ぬほど似合っている。

 かっこよさの数値で言えば、だんの数十倍くらいにがっている。

 それでも、だんの印象から変わったかというと、そうでもないのだ。

 いつもの格好の延長線上にあると言えてしまうし、みちばたで見かけてもつうしのぶだと気付けてしまう。

 それに、

「多分、実際は部屋着としても使うことになるでしょ?」

 わたしは、はなさんにそう続く。

「出かけるたびえるのもめんどくさいし……基本は、部屋着けんパジャマけん変装、ってことになると思うの」

「まあ、そうだな……」

「そのスーツでくつろぐのは無理でしょー。わたしも、そんなの着た人とするの、かたりそうだしね」

 想像してみるだけで、きゆうくつだ……。

 このビシッとしたスーツが、わたしのているとなりにある……。そんなの、がえりはもちろん身じろぎするのもためらっちゃいそう……。

 あと、朝起きたときにスーツの人がとなりにいたら、なんかテンション下がりそう。

 先生とちがえて、びっくりしそうだし。

「……え、それって」

 しのぶは、ぽかんとした顔でこっちを見ている。

「あらかじめ……わかっていたことでは? スーツ、実際に着る前から、使えないのはわかってたんじゃ……?

「うん」

「わかってた」

「じゃ、じゃあなんで……?」

「決まってるじゃーん」

 はなさんがうれしくてしょうがなさそうな声で言う。

「ただ、スーツ姿のしのぶが見たかったんだよ~」

「そんな理由で!? ……ていうか、はなさんはともかく、しずまで!?

「ごめんごめん、似合うのは確定だったから、どうしても見てみたくて……」

 ごめんねしのぶ……。

 これは、本当にただの、わたしとはなさんのしゆです……。

 でも、似合ってたんだから許して……?

「そんなあきれた顔しないでよ~」

 マジかよこいつら……みたいな表情のしのぶかたに、はなさんはしなだれかかるように体重をあずける。

「次からはちゃんと『変装』用の服を探すから! あと、採寸してくれたお店の人に申し訳ないし、わたしここでブラウスとかいくつか買っていくから!」

「……まあ、それならいいんだけど」

 しぶしぶ、といった様子でうなずくしのぶ

 良かった、一応はなつとくしてくれたみたい……。

 そしてわたしたちは、そんな風にがやがややりつつ、次の店に向かい始めたのだった。



「──すごい! 浴衣ゆかた、めちゃくちゃ似合う!」

「でしょ~? これも絶対しのぶいけるって思ってたんだよ~」

「いやおかしいだろ! 実用的な変装考えてくれるはずだろ!? なのになんでいきなりこれなんだよ!」

「いやいや、実用的でしょ~」

「どこが!?

「旅館とかでは、部屋着として使うじゃん。素材もやらかいし、としても問題なし!」

「あ、ああ……まあそうか……」

「変装としても、結構だんふんと変わるしね~。街中でこればっちり着こなしたら、『お、作家か何かか?』って思われてだれしのぶだって気付かない! そのうえ、注目も集めて一石二鳥だよ!」

「なるほど……って目立っちゃダメだろ! かくれたいのになんで注目集めようとするんだよ!」



「──あはは! タンクトップと短パン! めちゃくちゃ似合ってる! あはは!」

「なるほど……こんな感じになるのか……」

しのぶ、筋肉すごいからね! ハマるに決まってるんだよね~」

「……え……さすがにこれ、わたしはNGです」

「えーなんでよしずちゃん!」

「なんか、マッチョキャラ芸人みたい……。むさ苦しいというか……なんかダサいし。ていうか、しのぶいやでしょ? この格好……」

「いや……でも意外とこれは、俺的にはかんないな」

「えっ!?

「なんか気軽だし、動きやすいし。はだ出すのちょっとずかしいけど、街中ではジョギングしてるのかな、くらいに思われるんじゃないか?」

「ええ……」

「よし、これにしよう! じゃあ、さっそくレジに──」

「──ダメ! 絶対ダメ! わたし、この格好の人としたくない!」



「──さすがにふざけてるだろ! ねこの着ぐるみとか、さすがにじようだんだろ!」

「いやいや、これが意外と現実的でさ~」

「……そうか?」

「上下一体だからちやくだつが楽でしょー? しかも、動きやすく作ってあるし、やわらかくて、割とマジでにしてる人もいてさ」

「……へえ。まあ確かに、はだざわりは悪くないな……」

「しかも、外に出るときはフード外しておけば、い感じにオーバーオール着てる風にも見えるし。かんぺきじゃない?」

「……ふん、なるほど……。そうか、意外と本当にありえ──」

「──ふ、ふふ……くっ……」

「いやしず! 思いっきり笑いこらえてるじゃねえか! なあはなさん! やっぱふざけてるだろこれ!」

「……じゃあ聞くけど、ふざけちゃいけないの!?

「開き直り始めた!?



「──まあ、こんなとこかな」

 そして──やってきた海外ファストファッションのお店で。

 ようやく本気を出したはなさんに、服のコーディネートをしてもらったしのぶは、

「……ど、どうかな?」

 いまだにちょっとけいかい気味の……けれど、それまでよりはなつとくしたふんで、わたしたちにたずねてくる。

「これはかくてき、まともだと思うんだけど……」

 大きめの白Tシャツに、同じくオーバーサイズのパーカー。

 三本ラインの入った細身のジョガーパンツに、黒いキャップ──。

 ほどよかった。

 確かに、ほどよい格好をしたしのぶがいた。

「うん、い感じだと思うよ~」

 満足げにしのぶながめながら、はなさんもうんうんうなずいている。

「シルエットがこれまでと全然ちがうからね。ぱっと見は完全に別人にしか見えないはず。キャップで顔もかくせるし、わたしが夜道で会っても、すぐにしのぶだとは気付けないかも。その上で、全体的に運動着にも使えるような素材だから、や部屋着としても問題ないはずだよ」

「そっか、うん、なるほど……」

 うなずいて、しのぶは自分の身体からだを見下ろす。

「確かに、条件はかんぺきに満たしてるよな……」

 ──そして、わたしは。

 そんなやりとりを、無言でながめていたわたしは。

「……」

 正直、声も出せなくなるほど、その格好にしようげきを受けていた。

 ……好みだった。

 正直、その格好が……めちゃくちゃわたしの好みだったのだ。

 だんしのぶのちょっと無骨な印象は残したまま、全体におしや度がおおはばにアップ。

 流行を取り入れつつとがりすぎていないし、遊び心を感じさせつつも決して不真面目ではない……。

 多分、サイズ選びやせんたくが、的確なんだろうと思う。単にそれっぽいアイテムを組み合わせただけじゃない、ぜつみようなバランス感覚……。

 ……さすがはなさんだ。

 お願いして、本当に良かった……。

 自分がコーディネートしていたら、ここまでのレベルには絶対持っていけなかったと思う。

「……しずは、どう思う?」

 しのぶが、おそおそたずねてくる。

「この格好だったら……いやじゃないか? ……できるかな?」

「……うん、いと思う」

 まずは、はっきりそう言ってうなずいた。

 そして──、

「ていうか……」

「……うん」

「今すぐそれ買って……もう今日、このあとずっとそれ着てよう」

「そんなに気に入ったのかよ!?



「──ということで、今日ははなさん、協力してくれてありがとう」

 買い物を終え、大通駅近くにあるカフェ&バーで。

 俺たち三人は、今日の買い物の軽いおつかさま会を開いていた。

「そのうえしかも、おごりでコーヒーなんて……申し訳ない」

「すいません、本当にありがとうございます……」

 俺のとなりで、しずはなさんにペコペコと頭を下げていた。

「いえいえ~いいのいいの!」

 はなさんはそう言って、ひらひらと手をる。

 その顔は、入店十五分ほどにしてすでにじやつかん上気していて、

「今日はわたし、飲みたかったからさ~、付き合ってもらえるだけでうれしいよ~!」

 そう言うはなさんの前には、すでに空きかけているビールのジョッキがある。

 ……これは、ちょっと注意しないとな。

 この人は、このあとも飲み続けるだろうし、最悪帰れなくなるレベルででいすいする可能性もある。そうなったら、また俺の家にめなきゃいけなくなるかもしれない……。

 弟であるりようすけに任せても良いけど、こんな時間にさつぽろまで呼び出すのも申し訳ないしな。俺が責任を持って、適度にセーブさせるようにしないと……。

「……それにしても」

 と、しずはこちらに視線をやり、

「……本当に、いの選んでもらえたね」

 その目を、きゅーっとうれしげに細めてみせた。

「わたし、前からしのぶ、もっとおしやすればいいって思ってたから、すごくうれしい……」

「お、おう……そうだな」

「これなら、変装としてじゃなく、私服としていつも着てて欲しいくらいだよ! 逆に、そっちのイメージで周りに見られるようになったら、今までの服を変装用に使う感じで!」

「あ~それ、わたしも思ってたんだよね!」

 はなさんが、ビールジョッキを傾けつつ言う。

「せっかくしのぶは素材がいいんだからさ~日常的におしやして欲しいなって。だから、入り口になるような服っていうのも今回コンセプトとして考えててー!」

「あ、やっぱりはなさんもそう思いますか!」

「うん、りようすけともそんな話しててさー。見せ方によっては、あいつは俳優級だって言ってて。だから、今回のこれを元にして、色々アイテム買い足していけば──」

 ──そんな話を片耳で聞きながら。

 俺は、自分の身体からだを一度見下ろしてみる。

 しずの言う通り、買ってすぐに着ているこの服。

 確かに、俺の目から見てもおしやなんだろうと思う。

 大きめのTシャツにすらっとした印象のジャージズボン。キャップだって、なんだかヒップホップアーティストがかぶってそうなふんのものだ。

 おしやな男子がこういう格好しているところを、たまに見かけたりする。

 ただ……うん。

 なんというか、その……。

 どうしても、ひっかかるところがあるんだよな……。

「──だからしのぶ

 と、しずは紅茶のカップ片手にこちらに身を乗り出し、

「色々な服、これからも見に来ようね!」

 心底うれしげな顔でそう言った。

「新しいの買い足して、はばも広げていきたいし」

「あーそれ、わたしもついていきたい! わたしも選びたい!」

「そうしてもらえるならうれしいです! また三人で行きましょうね!」

「……あのさ」

 楽しげに話を続けている二人に。

 今後の話で盛り上がる二人に、俺は申し訳ない気分で小さく手を上げ──、

「俺、これ……着るの、しずと近所を出歩くときだけにしたい……」

「……ええっ!?

 しずが──ガタッとから立ち上がった。

「な、なんで!? そんなに高いものでもないし、こんなに……おしやになれるのに!」

「……なんか、落ち着かないんだよー……」

 テーブルに視線を落とし、俺は答える。

「確かに、気軽に買える額だし、おしやだけど……こうやってコーヒーとか飲むとき、落ち着かないというか。なんとなく、俺らしくないというか……」

「えええ! でももったいないよー変装のためだけなんて!」

「それも、わかるんだけどな……」

 いやもう、気持ちは本当にわかるのだ。

 どっちが正論かといえば、完全にしずはなさんの言うことが正論だと思う。

 この格好をすることで、俺にメリットこそあれデメリットはほぼないはずだ。

 けれど──、

「でもなんか、しっくりこないんだよ……。俺の着る服だと、思えないというか……」

「ええええ~……」

 こしを下ろし、不満感を全身ににじませながらしずほおづえをつく。

「なんでー……いいじゃん、ほんと似合ってるのにー……」

「ごめんって……許してくれよ……」

「そりゃ……無理は言えないけどさ……そうだ!」

 と、しずはガバッと身を起こすとはなさんの方を向き、

はなさんからも、なんか言ってやってくださいよー!」

 けれど──はなさんは、

「……ん?」

 ビールを飲み干すと、俺たちを見て首をかしげる。

 そして、

「え、なんかめんどくさそうな話だから聞いてなかったわ。なんて……?」

「いやさすがに自由過ぎだろ!」

 ──思わず、っ込んでしまった。

 静かな店内で、思わず大声でっ込んでしまった。

 あわてて自分で口元を押さえつつも……改めて、この人にこれ以上飲ませないようにしようと心にちかった。



 ──一通りおしゃべりを終え、その日は解散の流れになった。

 なんとか一人で帰れるくらいのいにおさえこむことが成功したはなさんを送るため、いまだになつとく行かない様子のしずさつぽろえきの改札までやってきた。

はなさん、今日はほんとありがと、助かったわ」

「助かりました……」

「いえいえ、お安いようだよ~!」

 表情は思いっきりゆるんでいるのに、あしもとはしっかりしているはなさん。

 これならまあ、ちゃんと家にも帰れるはずだ。

 というか、この人はそういうところで本当に取り返しのつかないミスをしないんだよな。

 どんなにてんこうに見えても、勝手気ままにっているように見えても、最後の一線は絶対にえない。めつには、どうやったって至らない。

 そういう器用さを、俺は内心本気で尊敬している。

 だから……ふと思った。

 この人に、たずねてみよう。

 気にかかっていることを、聞いてみようと。

「……あのさ」

「ん?」

 切り出すと、はなさんは首をかしげる。

「クラスの人に、俺たちが変な関係なのがバレかけたってのはこないだも話しただろ? だからその、見つからないようにするためにも変装をしようって、今日買い物に来たわけだけど……」

「うん、そうね」

「もしも、はなさんが同じ立場だったら、どうする? かくしたい秘密があって、それがバレそうになったら、はなさんだったらどうする……?」

 ──今回、変装が一つの方法として採用されそうではある。

 けれど、それだってたいしようりようほうでしかないのだ。問題を、かんぺきに解決する手段ではない。

 これからもかくす必要はあるし、みんが治らない以上、そのことにはずっと頭をなやませられることになるだろう。

 なら……他にどんなことができるのか。

 どんな問題解決の方法があるのか、考えてみたかった。

 はなさんなら、そこに新しい視点をくれそうな気がしたのだ。

 けれど、はなさんはほとんど考える様子を見せることもないまま、

「えーわたしなら、してることをそもそもかくさないね~」

「マジかよ……」

 まさかのストロングスタイル過ぎる回答に、笑ってしまった。

 適当にのがれしてかくしそうな気がしてたけど、まさかそこまでだいたんに行くとは……。

「でも……かくさなきゃ、めちゃくちゃ変な感じで受け止められるだろ。やめろって言ってくる人も、出てくるかもしれないし……」

「あー、そんなのほっときゃいいよ~、かんちがいしたい人にはさせておけばいいじゃない?」

「……色々言われるかもしれなくても?」

「わたしはそういうの、適当に受け流しちゃうね~」

「……なるほど」

 ……確かに。

 言われてみればはなさんは、そういうところでめんどうな策をめぐらせたり、かくごとをするタイプではないかもしれない。

 全部オープンにして発生しためんどうごとは受け流す。そのスタイルは、確かにはなさんらしい。

 そして──なんとなく、それで許されちゃいそうな気配もある。

 まあ、はなさんだからしかたないな、みたいな……。

 ただ、

「……でも、しのぶはそういうの、苦手だろうね~」

 にへら、と笑ってはなさんは続ける。

「何か言われたら真っ正面からそれ受け止めちゃうだろうし」

「まあ、そうだろうなあ……」

 彼女と同じことが、自分にできるとは思えなかった。

 何かてきされたら本気でそのことについて考えるし、相手にも説明しようとしてしまうだろう。

「それでも……まあためしてみるか。受け流したり、スルーしたり、そういうのができないかがんってみる」

 けれどはなさんは、軽い調子で手をって、

「いやいやー、そこは無理しない方がいいって」

「……そうか?」

「うん。自分本来のやりかたとちがうことしても、しんどいだけだったりするからね~。むしろ、しのぶなりのやりかたをつらぬいた方がいいんじゃない? 知らんけど」

「知らんのかい!」

 思わず、付け加えられた言葉にっ込んだ。

 いこと言ってるようで、必ず外してくるんだよなあこの人……。

 そこさえなければつうに説得力あるのに……。

 とは言え、

「俺なりのやりかたかあ……」

 うでを組み、考えてみる。

「どうするのが、俺に合ってるんだろうな……」

「まあ、その辺はゆっくり考えてみたまえ~」

 言って、はなさんはくるりとしずの方を向くと。

「それからそうそう! ねえしずちゃん! 最近、りようすけが学校のこと話してくれなくてさ~……。例のなんとかさん? あの子とのことも、全然教えてくれないの!」

「……ああ、のんのことですかね。ろくようのん

「そうそう! その子のこと! 姉の直感としてなんかありそうな気がするんだけど、りようすけ本人はそんな感じで……。しのぶから情報聞き出そうにも、こいつめちゃくちゃかたぶつでしょ? だから、色々かくされちゃいそうな気がしてて~……」

「いや本人目の前にいるんだぞ! もうちょい言い方考えろや!」

「だから、もし良ければあの子たちに進展あったら教えてくれないー? 他にたよれる人がいないの~……」

 言って、切なげにしずを見つめるはなさん。

 しずめずらしく困った様子のはなさんにしようすると、

「……わかりました。わたしもあの子たちがどうなってるのかよく知らないんですけど……何かあればれんらくしますよ」

「ほんと!? 助かるー! じゃあお願いね!」

 それだけ言うと、はなさんは改札の方へ向き直る。

 そして、顔だけこちらに向け手をりながら、かろやかな足取りでホームへ向かっていった。

「じゃあねー。今日は楽しかったよ。またいつしよに遊びに行こうね、わたしひましてるからー」

「おう、ありがとう!」

「ありがとうございましたー!」

 そんな彼女に、俺としずそろって手をり返したのだった──。



 ……色々あった、一日だったなあ。

 しのぶと二人、バスの後部座席に並んで座り。

 窓の外をながめながら、わたしは深く息をついた──。

 はなさんとしのぶえして遊んで、彼に似合うおしやな服を選んでもらえて……。

 いつしよにちょっとお茶して、最後にはアドバイスまでもらって……。

 本当に盛りだくさんの一日だ。

 すっかりつかれちゃったし、できれば、家に着くまでバスの中でておきたいかも。

「……しのぶ、ちょっとていい?」

「おう、いいよ」

「ありがと……」

 うなずいて、ちょっとわたしは考える。

 そういえば、こうして並んで座ってるの、初めてかも。

 いつもはベッドの中で横になってたし……これ、どうするのがいいだろ。

 シートに背中あずけるのだとごこわるすぎるし、かといって窓の方に体重かけるのも、かたくて身体からだ痛くなりそうだし……、

「……あ、あの」

 ちょっと迷ってから。

 わたしは、照れくささをころしつつしのぶたずねてみる。

「……寄っかかってもいい?」

 うん、それしかないと思う。

 バスに座ってっぽくるためには……しのぶに寄りかかるしかない。

 無防備かもしれないけれど、しのぶは今も変装用に買った服着てるし、車内にうちの学校の生徒っぽい人は見当たらないし……だいじようなはず。

「お、おう……いいよ」

 ずかしげにうなずいてくれるしのぶ

 もう一度「ありがとう」と言ってから、わたしは彼のかたに頭をもたせかけ目を閉じた。

 ゴツゴツしていて、温かくて、少しだけやわらかいしのぶかた……。

 羽織っているパーカーの素材がやわらかくて、れているほおここいい……。

「……」

 そこで、わたしはふと思い出す。

 しのぶが、この服を変装だけに使いたいと言っていたこと。

 おしやはせずに、だんはいつもの格好をしたいって言っていたこと……。

「……はぁ……」

 思わず、ため息がれた。

 なつとくできない、全然なつとくできない……。

 だって、しのぶには全然デメリットがないんだよ!?

 今着てるものとそう値段は変わらないし、ごこだって悪くない。

 なのに、めちゃくちゃおしやになれる、っていう話なのだ。

 正直言って、断る理由がわたしにはわからない……。

「……んん……」

 うっすらと目を開け、しのぶちに目をやる。

 ……うん、やっぱりいい!

 めちゃくちゃ似合ってる!

 スポーティなのに洗練されてて、ちゃんと流行も押さえている。

 そのうえ、しのぶの体格にもよく似合っているし、どろくさふんも中和されていて……はっきり言ってかんぺきだ。

 正直、こうしているだけで……ドキドキしちゃうくらい。

 なんかみように胸がざわざわして、ちょっと息が苦しくなるくらい……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ていうか……ほんとに心臓がヤバい。

 何これ、ドキドキしすぎる。

 いつもしのぶするときは、温かくて安心して幸せな気持ちになるのに……。

 今は、全然そんな感じじゃない。

 なんというか、知らない人とくっついてるみたいな……。

 出会ったばかりの男の人と密着することになっちゃったみたいな……変なきんちよう感。

 まるで、となりにいる人が、しのぶじゃないみたい……。

 ……いけないいけない。

 そういうことを考えてる場合じゃない。

 わたし、たいんだった……。

 もう一度、ぎゅっと目を閉じる。

 深めに呼吸して気持ちを落ち着かせ、ねむが来るのを待つ。

 けれど……。

 ……ダメだ。

 目が覚めちゃった……。

 完全に、目が覚めちゃった……。

 ていうか、全然気持ちが落ち着かない……。

 してる気分になれないし、むしろ……なんというか……。

 きんちよう感があって、ごこが悪い……。こんなじようきようで、ねむれるはずがない……。

 ……ふいに、いつものこいしくなる。

 リラックスしていて、ぼくで、温かくて、落ち着ける……。

 なんで……そうならないんだ。

 しのぶとなりにいて、いつも通りにくっついてるのに……なんでこんな落ち着かないんだ。

「……うぅ……」

 ……正直に言おう。

 理由はもう、わかっている。

 というか、わからないはずがない。バレバレだ……。

 でも、認めたくなかったのだ。

『それ』に問題があるなんて。

 しのぶに「こんな気持ち」をいだいてしまって、ねむれなくなるなんて。

 けれど──そうこうしているうちに、バスはわたしの自宅のりバス停に着いてしまって。

「……おいしず、着いたぞ」

 しのぶやさしく、わたしのかたすってくれる。

「起きろー。帰ろうぜ」

「う、うん……」

 あたかも「今起きた……」みたいな風をよそおって、わたしは目を開ける。

 そして、びなんてしてみちゃったりしつつ……しのぶいつしよにバスを降りた。

 ……一応、言っとかなきゃいけないよね。

 しのぶからしてみれば、わたし今も、ずっとその服着て欲しいことになってるだろうし。

 もしかしたら、がんってそれでてくれる日もあるかもしれないし……。

「……あ、あのね」

 となりを歩くしのぶに、わたしはおずおずと声をかける。

「その服、ずっと着てて欲しいって言ったけど……私服も、そういう風にして欲しいって言ったけど……」

「お? うん」

「やっぱり、変装のときだけでいいよ……」

「……どうしたよ?」

 しのぶが、げんそうにわたしの顔をのぞき込む。

「あんなに言ってたのに、なんでそんな急に……」

「……ま、まあ。しのぶに無理をさせるのも、やっぱり悪いなと思ってね」

 ねむかすむ頭を回して、わたしはなんとかそう答えた。

「ほ、ほら……はなさんも言ってたじゃない。しのぶなりのやりかたを、つらぬくのがいいって……」

「……そっか」

 なつとくした様子で、しのぶはうなずいた。

「わかったよ、ありがとな。正直、ほんと自分らしくない気がしてきつかったからさ……。そう言ってもらえると、助かるわ」

「いえいえ、どういたしまして……」

 そう返しながら、ほっと息をした。

 良かった、それ以上っ込まれなくて。しのぶが案外、あっさり引き下がってくれて……。

 ……だって。

 考えながら、わたしはちらりとしのぶぬする。

 ──しのぶがその服着てると、ドキドキしちゃってれないから。

 ……なんて、口がけても言えないもん──。