
♠
「──ということで、わたしたち、もっと
朝日のいっぱいに差し込む俺の家、居間のローテーブルにて。
向かい合って朝ご飯を食べ始めたところで、
「
どうも、昨日の夜はよく
目元はしょぼしょぼしているし、
もしかしたら、
テーブルには、俺が作った朝食がずらっと並んでいる。
焼き魚に卵焼きという、割とオーソドックスな取り合わせ。
実家にいた
その中から、俺は
「ああ、俺も同じようなことを考えてたよ」
なんて
「さすがに、ちょっと感覚がマヒしてたわ。一回ここらで、気を
他の人で、想像してみたらわかりやすい。
例えば──
これはもう、言うまでもなく事件である。大事件だ。
そして……それがもしうっかりクラスメイトにバレたら。ゴシップとして広がったら。年単位でその事実は
さらに
説教は確実だろうし何かしらの処分が下される可能性だってある。お
高校生がクラスメイトと
危険だし見方によっては不純だし、周囲の理解を得ることなんて全然期待できない。
そのことを、俺たちはもう一度きちんと
「だから手始めに、今日はバラバラで登校しよう。最近
「うん、そうだね。少なくとも、昨日の今日で見つかるとさすがにまずいし……」
たくあんをコリコリ
「それから、あんまり
「……ああ、それもそうだね」
うなずいて、けれど
「わたし、夜にこの辺歩くの好きだったんだけどなー……。けどまあ、しょうがないか、
「だな、俺も残念だけどな……」
彼女と二人、見知らぬ場所を
そういうのが今後制限されるのは、本音を言えば
けど、
「あとは……そろそろ、他の方法を探してみてもいいかもなあ」
「……他の方法?」
「うん」
そんな彼女に、俺は一度うなずいてから──、
「──
──その言葉に。
俺が何の気なく言ったその言葉に──
あ、あれ……?
俺、なんか
「……あの、なんていうかまあ、その」
小さく
「ほら、俺たちが
「……うん」
「だからその、いつまでもこう……実際に
そういうのが、必要だと思うのだ。
ずっとこんな仲でいるわけにもいかないし、
だから、ひとまず
「それに……もうすぐ
「今月
──
俺たちの通う学校では、一年生は六月の
研修とは言いつつその内実はオリエンテーリングなどのレクリエーションが主で、新入生同士交流を深めるのが実際の目的らしい。
楽しそうではあるけれど、下手したらその間、俺たちは
「できれば、それまでに何か策も、考えておきたいだろ?」
……我ながら、まあまあ説得力のある話だと思う。
……なのに。
「……ふうん」
言って、視線をテーブルに落とす
……不満げだった。
まあ、あからさまに不満げだった。
なんでそういうリアクションになるんだ……。
「……
「
「……ううん、
そう言いつつも、
「……それで、具体的にどうするの? 何か、
「……や、それはまだないから。これから考えたいんだけど」
「そう」
短くそう答えて、
「わかった、じゃあわたしも何か思い付いたら、
「おう、
「それから、今日はわたしが先に出るから、
「お、おう……わかった……」
うなずきつつ、俺も再び朝ご飯に
テレビからは、しばらく天気が不安定そうだと話す気象予報士の声が流れている。
それを片耳で聞きながら……俺は自分の発言のどこが
♡
「──だからね!
──お昼休み。
学校の中庭にあるベンチにて。
わたしは親友である
「体調も生活も落ち着いてきたし、これまでとは
「……ふむふむ……」
すでに昼食のサンドイッチを食べ終えて。
青のインナーカラーが印象的な
そんな彼女にわたしは、
「そんなの……簡単に見つかるわけないじゃない。これまでだって、散々
こみ上げる気持ちを──
……腹が立っていた。
あんなことを提案してきた
だってなんか……あんな言い方、まるで早くわたしとの
そりゃ、いつまでもこうしてはいられないと思うけど。
あんまりよくないことだって理解もしてるけど……。
けど、この
ちょっとは、喜んでくれていると思ってたんだけど。
それを口実にしてわたしと
そんな気持ちを──
けれど、
「……ふむ」
彼女は
そして……
「……何を……考えている?」
「……へ?」
「
──くわっと目を見開いて。
「
「え、ええ……」
そ、そこまでのアレじゃないと思うけど……。
「ではなぜ
……他に理由。
いや、まあ、なんというか……多分、そういうのはないと思う。
自分で言い出しておいてあれだけど、あんなに
わたしも実際のところ、わがままにすねてるだけで……。
ただ、
「もしや! ……そろそろ、自分の肉欲に
「そ、それはないでしょう……!」
シャツを借りたときも、あんなに
むしろ、わたしの側の方がちょっと
「あるいは、心臓への負担が限界に達したのか!?
「そこまで
あいつ、血圧とかそういうの気にしてる様子は全くないし、病院にも行ってる気配ないし、それも
「じゃあ!」
と、
「一人でごにょごにょする時間が欲しいのでは……!?」
「……ご、ごにょごにょ!?」
予想外の言葉に、面食らった。
けれど、
「そう! いわゆる一つのプレジャーマイセルフですよ!
「え、ええ……?」
……まあ、何を言っているのかはわかる。
ネットか何かの記事で、男子はほぼ百パーセントそれをしてるって見たこともあるし……うん、多分
「しかも、
「そ、そんな可能性、あるかなあ……」
「むしろ、ないわけないでしょ! まさか
「そこまでは……思わないけど」
ただ、してる気配はこれまで感じたことないな……。
チャンスがあるとしたら、わたしがお
いやでも、特にお
そもそも、あれくらいの短い時間で、それって終わるものなんだろうか……。
一人考え込むわたしの横で、
「ちくしょう……わからない!」
「
……むしろ
確かに、最近
これまでもこれからも、大切な親友のままだ。
だからそんなに、気にしなくても良いと思うんだけどなあ……。
「こうなったら……調査に乗り出すしかない!」
ついに
「
「──ちょちょちょ! ちょっと待って!」
さすがに話がやっかいになりそうで、
「べ、別にわたしもそこまで疑ってるわけじゃないよ! 心配してくれてうれしいけど、ただちょっと……もやっとしただけというか。
「……あ、え、そうなの?」
「うん、ごめんね
「まあ、それならいいんだけど……」
と、
そして、意味ありげに遠い目をしてみせると、
「つまりまあ、
「の、のろけ!? そ、そんなつもりは……」
「いいのいいの、
……そんな感じに、なっちゃってたのか。
わたし、そんなつもりじゃなかったけど……のろけた感じになってたのかあ。
でも、うん……そう取られてもおかしくないか。
だって実際、わたしも本気で
気を付けよう。なんかわたし、いつのまにか……人に
と、そんな感じでしばし雑談をしてから。
話が一段落したところで、
「……わ! ヤバ!」
スマホに視線をやった
「もうこんな時間だ!」
そして──彼女はスマホを何度かタップ。
カバー裏のリングをスタンド代わりにして、わたしたちの
「……ん? 何してるの?」
言いながら、画面を
『──どうもー、みんなこんにちは!』
ディスプレイの向こうで。同世代のかわいい女の子が
『今日もお昼配信、やってこうと思いまーす。ごめんねーちょっとスタート
「これは……生配信?」
「そうそう!」
わたしの問いに、
「最近
言われて、しばし画面を
じゅのんと言うらしいその女の子は、楽屋か会議室のような場所にいるようだ。
彼女の前にはテーブルがあって、コンビニで買ってきたんだろうか、サラダパスタやヨーグルトやらの食べ物が並んでいる。
そして、
『もうみんな、お昼食べたー?』
じゅのんが、画面の向こうからこちらに
『わたしの今日の昼食は、こんな感じでーす。今日は朝早くてお弁当作れなかったから、コンビニで買ってきちゃった……。じゃあ、食べようか。いただきまーす!』
「いただきまーす!」
「
「いいんだよ! じゅのんが食べ始めるんだから、このタイミングでお昼ご飯アンコールに
言いながら、
よく食べるなあこの子は。それでも全然太らないのだからうらやましい限りだ。
『わ、これおいしー』
画面の中で、じゅのんがそんな声を上げる。
『このサラダパスタ、初めて食べたけどおいしいわー。ハマりそう……』
……思ったよりも、
なんとなく、アイドルの配信って楽しくて明るいものなのかと。歌ったり
けれど、こうして見ている限りそういうことは全くなさそうだ。
本当にただ、じゅのんがご飯を食べて、ときどき何かちょこちょこ発言するだけ……。
「……これは、おもしろいの?」
思わず、そう
「ただ、この子がご飯食べてるだけに見えるけど……それを見るのが、楽しいの?」
「え、最高に楽しいよ!」
当たり前じゃん! とでも言いたげな顔で、
「毎日やるような配信はこれくらいがいいんだよね。あんまりテンション高かったり
相変わらずちょこちょこ何かを話しながら、おいしそうにご飯を食べているじゅのん……。
「ほら、全体的に
「……確かに、そうだね」
「なんかそういう、
と、画面の中のじゅのんが、
『みんな今、どこで何食べてるのかな? コメントで教えてー』
それに答える形で、
『会社でおにぎり食べてるよー』『学校で給食食べ終わって、今昼休みです!』『お店でハンバーガー食べながら見てます!』
そしてそれに、じゅのんが『あーいいね』『わたしも食べたーい』なんて気軽に返答をしていた。
……なるほど。
確かにこれは、これでいいものなのかも。
と、
「……ん?」
ふと──わたしは思い付いた。
もしかしたら、これ使えるかも……。
これを……『
♠
「……これで、いいのかな?」
──その日の晩。
夕飯を食べ
「
久しぶりに
そのベッドの上には、
表示されているのは──
ここから少し
まだ、本人は準備中らしい。
映っているのは
──リモートで
昼休み、
実際に、二人で同じ
……朝はずいぶん
協力してもらえないだろうか、なんて不安にもなっていたけれど、まさか
そして──リモート
確かに、なかなか悪くない気がした。
これまで通り
なのに──実際に、そばにいる必要はない。
もちろん、お
そんなタイミングで、
『……もしもし、
スマホから、
『音量とか音質とか、
そして──同時に画面に表示される、パジャマ姿の
いつも通りの
「ああ、音は
こちらも同じように画面を
「割れたり小さすぎたりはしないみたいだ。ただなんか……
『ほんとだね……』
そんな風に笑い合って、
そして、なんとなくお
「……よし、こんなもんか」
『うん、できたね……』
「じゃあ、
『うん……』
準備
ここから実際に、
目を閉じると──スマホから聞こえてくる
そして、ときおりそれに混じる小さな
……なんだか、不思議な感覚だった。
そばに体温を感じない分、
けれど、リアルタイムで
なんだかそれが、改めて
「……そういえば」
ふと思い立って、俺はそんな声を上げた。
「
こんな案、なかなかぱっと
『ああ、それがね……』
スマホの向こうで、
『
「あーなるほど、配信か……」
自分もたまにそういうのは見るので、わかる気がした。
ネットの生配信って、動画やテレビ番組と比べても、配信者と身近な感覚になれたりする。
確かにこのリモート
『だから、こうやってスマホ使って
「そういうことね……」
うなずきながら、もう一度画面に目をやって──。
そこに映る
こちらを向いて横になり、小さく笑っている
その顔にスマホの光が当たり、
──いつもは、至近
手を
画面
……ああ、こんな子と。
こんな女の子と、俺はこれまで毎晩
『……そうそう、そういえば
思い出した様子で、
『
「え、う、疑い……!?」
全く予想外の話に、思わずオウム返ししてしまった。
上半身をガバッと起こして、画面の向こうの
「う、疑うって何を……? 俺、なんか変なことしてるかな……?」
『ううん、そういうことじゃなくて』
画面の向こうで、
『なんか、
「り、理由って……別に特別ないんだけどな。本当にただ、あんまり続けるのが良くないって思っただけで……」
『だよね。でも、
「へえ……どんなのを想像してたんだよ?」
『……あー、それは……』
その問いに──なぜか
何だ? それまで割と
彼女は何やら気まずげにもごもごと口ごもったあと、
『……まあ、色々だよ、色々……』
と歯切れが悪い。
「えー、色々って何だよ?」
『なんかほら……』
もう一度、
『……一人だけでしたいことが、あるんじゃないか、とか?』
なぜかひどく
しかも……なんだろ。
暗いし画面
……とは言え。
一人だけでしたいこと、か……。
「……まあ、それは確かになくはないな」
考えてみて──すぐに思い付いた。
そう、一つあるのだ。
どうしても、したいこと。
──
ここ一ヶ月くらい、ドタバタしてて
一人になれるなら、ゆっくりじっくりアレを見たい。
「うん、あるな。確かにあるな、一人でしたいこと」
けれど、
『えっ!?』
画面の向こうで、
『それは、その……もしかして、あれ? その……動画とか見る感じの……?』
「うん、そうそう」
察しが
もしかしたら、
『……そ、その動画って……胸とか映ってるやつだよね? 胸というか、
「うん、そうだな」
牛の乳の動画とかあるからな。
あと、映る動物基本
たまに服着てるのも映るけど。出演者が飼ってるペットとか。
『だよね……そうだよね……』
なぜか
『や、やっぱり
……さっきから
なんか様子がおかしいぞ?
そんなに
「ていうか、別に変なことじゃないだろ? 実家にいた
『に、日課!? そんな、毎日してたの!?』
「え? うん……」
『で、でもそうか、
「いや、十代とか男子とか関係ないだろ……。(だいぶYouTuberも市民権を得てきたし)みんなそんなもんじゃね?」
『そうなの!?』
「だと思うけど……」
『へえ……じゃあ、その……女の人とかも、そんな感じなのかな? 女の人も、毎日とか……したりするの?』
「もちろんそうだろ! 別に男性だけのものでもないだろ、あれは」
『そう……なんだ……。わ、わたし……全然そういうのしないから……
……それはちょっと意外だな。
むしろ
ファッション系のYouTuberとかもいるだろうし、見たらハマりそうだ。
「あ、じゃあそういう感じなら」
と、そこで俺はふと思い付き、
「
『見る!?
「うん。案外、
『そ、そんなこと
「え? するんじゃないか? 俺も
『ええええ!? そ、そんな感じなの……!?』
「うん。ていうか、よく考えたら
そこまで言って、俺はふとそのことに思い至る。
「なんか一人じゃなきゃダメだと思ってたけど、
『た、
「あー、もし
そこで──俺はふと思い付き、
「
『わ、わたし好み……!?』
「おう。ほら、やっぱ好みなんて人それぞれだしな。せっかくだし、俺のお
『そ、それは……』
『
「おう、そうだな」
俺は、はっきりと彼女にうなずいてみせた。
「せっかくだし、
画面の向こう、
ぷるぷる
その目には、
……え? どうした? なんか俺、変なこと言ったか……?
そして、大きく息を吸い込むと──俺にこう言ったのだった。
『
♡
──その後。
無事、わたしの中の誤解は解けました……。
良かった……
まさか本当に
……
ちなみに、
『──え、
『──気になるよ、教えてくれよー』
なんて
バレたらもう……わたし、
──そんなこんなで、その後も雑談が盛り上がってしまい。
気が付けば──、
『……わ、もう二時過ぎじゃねえか』
「あー、ほんとだね……」
もう、三時間以上もぶっつづけで話をしてしまっていた。
「なんかこれ……話、楽しくなっちゃうね」
ふうと息をつきながら、わたしは画面の向こうの
「何だろ、なんでだろ。
『ほんとだなー』
『ていうか、こんなに
「いつも、
むしろ、幼い
こんなに、二人っきりでとりとめもなく話をするなんて……。
女友達とは夜の長電話することもあるけど、男の子と電話なんて、なかなかない機会だしね……。
そしてわたしは、
「……もう、
「もう、ここから
『正直……そうだな』
言って、
『完全に目、さえちゃったな。多分朝まで
「だよねー」
『ごめんな、せっかく出してもらったアイデアだったのに……』
「ううん、いいの」
これはこれで、一つの
少なくとも、リモートでの
「これはこれで、楽しかったし。なんか、修学旅行の夜とかみたいで」
『ああ、確かに。ちょっとあれと、近い感じあるよな……』
そう言って、小さく笑ってから、
『……やっぱ、
画面の向こうで、
『今回やってみて、よくわかったよ……。実際に俺、
「……でしょー?」
わたしはなぜか得意な気分で、
「わたしは最初から、そうだと思ってたよ……」
『だよな、ごめんごめん……』
「じゃあ今晩はもう……朝までこうして話そうか? 明日、学校休みだし」
『そうだな、そうしよう』
言って、
『話すことは、いくらでもあるしな。それで、朝になったらどっちかの家に集まって、
「うん、そうだね」
と、うなずいてからわたしは、一度ベッドを出る。
「長くなると思うから飲み物取ってくる」
『おう、じゃあ俺もそうしよう』
部屋を出て階段を降り、一階に着く。
電気のついていない深夜の家の中。足早に歩いて、台所へ向かう。
──
暗さや静かさに
今日はなんだか