インターミッション 親友二人、策をめぐらせる

「──ということで、男子二人、女子二人の四人グループを作ってください」

 LHRの時間を利用して開かれていた、宿しゆく泊はく研修の説明会で。

 壇だん上じようで担任がそう言い──小こ峰みね亮りよう祐すけは、ちらりと六ろく曜よう花か音のんの方を見る。

「メンバーは、各自気の合う相手を選んでもらえればと思います。……そういうのが難しい人や不安がある人は、言ってもらえればこちらで組みますから、遠えん慮りよなく」

 ──事前の情報の通りだった。

 先日、六ろく曜ようがこっそり教えてくれた通りの展開──。

 六ろく曜ようが小こ峰みねの方を振ふり返かえり、短く視線が交こう錯さくする。彼らは不自然にならないように、小さくうなずき合った──。

 ──彼らは、これまでもこんな感じで情報をやりとりしてきた。

 ややこしい関係にあるお互たがいの親友、忍しのぶと静しず乃のにふりかかる面めん倒どうを回かい避ひするため。

 二人がこれからも安定して添そい寝ねをし、いつか結ばれる日が来るまで健康でいられるよう、陰かげに日向ひなたにサポートをしてきた。

 そんな二人の最近の不安は──このクラスの委員長、風かざ来き頼より子こ。

 忍しのぶ、静しず乃のによると、風来は二人が一いつ緒しよにいるところに遭そう遇ぐう。特別な関係にあることを疑い始めたようなのだ。

 実際、先日は小こ峰みねと六ろく曜ようともにちょっと探さぐりまで入れられた。

「──ねえねえ、あのお二人って、本当にお付き合いしてないんですかね~……」

「──なーんかわたし、怪あやしい気がしてるんですよねえ……。何かご存じじゃないですか?」

 ──もちろん、悪意のある探さぐりではない。

 純じゆん粋すいな好こう奇き心、興味本位で聞いてきているだけだ。

 実際、そう聞いてきた風かざ来きは、ウッキウキの気分を隠かくせていないあからさまなハイテンション。多分、気分的には少女マンガや恋れん愛あい映画を見ているのとそんなに変わらないんだろう。

 さらに言えば──クラス委員として、行きすぎた関係になっていないかを探さぐっておきたいところもあるのだと思う。風かざ来きはあれで、しっかり委員長の仕事をこなすタイプだ。そのことを、小こ峰みねも六ろく曜ようも理解している。

 だからこそ──実際のところを、風かざ来きに伝えるわけにはいかない。

 付き合ってはいないけれど、添そい寝ねをしているなんて教えるわけにはいかないのだ。

 どんなに大おお騒さわぎされるかわからないし、ことを荒あら立だてられて面めん倒どうなことになってしまう可能性さえある……。

 そんな彼女と、二泊はく三日で一いつ緒しよに行動する、宿しゆく泊はく研修。

 小こ峰みねと六ろく曜ようは、このイベントを早くから警けい戒かいしていたし、早くから対策も考えていた。

「──ということで、班決めを開始してください」

 担任がそう言うと同時に、小こ峰みねは忍しのぶの元へ向かう。

 そして、

「組もうぜ」

「……おう」

 あっという間に、彼とペアを組んだ。

「……まあやっぱ、ここは外せないよな」

 言って、にかりと笑っている忍しのぶ。

 どうやら、忍しのぶも当然のように小こ峰みねと組む予定だったらしい。

「楽しみだな、宿しゆく泊はく研修」

「おう、そうだな」

 小こ峰みねも、そんな忍しのぶに笑い返してみせた。

 そして、忍しのぶは周囲を見回しながら、

「女子は誰だれと組む? なんか、亮りよう祐すけは組みたいやついる?」

 ……そこももちろん、小こ峰みねは考こう慮りよ済みだ。

 ちょうど見計らったようなタイミングで、

「──やあやあ小こ峰みね氏」

 六ろく曜ようが──静しず乃のをそばに連れて声をかけてくる。

「ということで──わたしたちと班を組みませんかね」

 その展開に──忍しのぶと静しず乃のは目を丸くしている。

「お、ま、マジか……!」

「え、忍しのぶたちと……!?」

 こういう流れになるのが予想外だったらしい。

 まあ、それも当然だろう。これまで、忍しのぶと静しず乃のの二人が教室で表立って絡からむことはほとんどなかったし……この四人がこうして一堂に会するのも初めてのことだ。

「まーまー、色々考えてさー」

 忍しのぶの席の近くに腰こし掛かけながら、六ろく曜ようは二人にそう言う。

「こうするのが、一番安全かなーって思ったんだよね」

「……安全?」

「ほら、宿しゆく泊はく研修って、体力的には結構ハードになりそうなんだよ」

 小こ峰みねが、六ろく曜ようの説明を引ひき継ついだ。

「初日はダム見学と飯ごう炊すいさん、キャンプファイヤーやって寝ねるだけなんだけど……次の日は、丸一日オリエンテーリング。しかも、そのまま到とう着ちやくしたキャンプ場でテント泊はくなんだ。で、翌日数時間かけて下山して、バスに乗って学校に戻もどる」

「これは、毎年そういうプログラムらしいんだよねー。今年も多分そうなんだと思われる」

「な、なるほど……」

「そう、なんだ……」

「つまり、睡すい眠みん不足でこなせるようなスケジュールじゃないんだよねえ」

 確かに、山歩きはかなりの体力を消しよう耗もうする。

 普ふ段だんから鍛きたえている忍しのぶはまだしも、静しず乃のが睡すい眠みん不足の状態で山歩きをするのは不可能に近いだろう。

 そうなると、当然──、

「宿しゆく泊はく研修中も、二人は添そい寝ねしないといけないわけだ」

 小こ峰みねが、声を潜ひそめてそう言った。

「で、そうなると同じ班員の協力は必ひつ須すでしょう? だから、わたしと小こ峰みね氏で相談して、この四人で班を作れるといいねって話になって」

「そっかそっか、そういうことか……」

「……うん、なるほど」

 忍しのぶも静しず乃のも、納なつ得とくの行った様子でうなずく。

「だから」

 そして、小こ峰みねは忍しのぶと静しず乃のを見回すと、

「この四人の班で、いいかな? もちろん、嫌いやだったら考え直すけど」

「……いや、お願いするよ」

 最初にそう答えたのは、忍しのぶだった。

「手間かけて申し訳ないけど、この四人で行けると助かる」

「わ、わたしもお願いします!」

 静しず乃のがそれに続いて二人にぺこりと頭を下げた。

「心配してくれて、すごく助かるよ……ありがとう! このメンバーで行こう!」

「りょうかーい」

 歌うような声で言って、六ろく曜ようがうなずいた。

「じゃあこれで、申しん請せい出しちゃおうか。しかし……」

 と、六ろく曜ようは改めて忍しのぶの方を見ると、

「大おお滝たき氏……こうやって直じかで話をするのは、初めてだね……」

「う、うん……」

 ──彼女の声に潜ひそむ低いトーンに。

 向けられた笑え顔がおにわずかに滲にじむ不ふ穏おんさに、忍しのぶはやや身じろぎする。

 そして、そんな彼に、

「わたしの推おしである……静しず乃の……。人の姿をした天使……。大おお滝たき氏が、そんな彼女にふさわしい男なのか……研修で、とくと見定めさせていただくよ……」

「ヒッ……!」

 戦おののき声を上げる忍しのぶ。

 何をそんなに、と静しず乃のは不思議そうにしているけれど、六ろく曜ようの表情には確かに忍しのぶが怯おびえても仕方がないほどの『圧』が込められていた。

「……そ、そうだ。わたしからも」

 と、気付いた様子で、静しず乃のは小こ峰みねの方を向き、

「心配してくれて、ありがとう。すごく助かるよ……よろしくね」

「いえいえ、どういたしまして」

 あくまで、軽い口調でそう返す小こ峰みね。

 さて、これで班も決まったことだし、申しん請せい用紙をもらいに行こうか、となったところで、

「……おやっ!」

 彼らの輪の外。

 少し離はなれた位置から、そんな声が上がった。

 そして──、

「こ、これは……気になる班ができているじゃないですか!」

 言いながら近づいてきたのは──案の定。

 このクラスの委員長でもあり、現在四人が絶賛警けい戒かい中の、風かざ来き頼より子こだった。

 彼女は髪かみをぴこぴこと揺ゆらしながら、

「大おお滝たきさんと、森もりさん。小こ峰みねさんと、六ろく曜ようさん……。こんな班を作っておいて、こんな意味ありげなメンバーで集まっておいて、みなさんは、まだ何にもないとおっしゃるんですか……!?」

 ──確かに、彼女が興味を持つのも当然だろう。

 ばったり遭そう遇ぐうした大おお滝たき、森もりペアと、以前から気になっていた小こ峰みね、六ろく曜ようペア。

 その四人がこうもきれいに集まって、行動を共にしようとしているのだ。

 こればっかりは、風かざ来きでなくとも疑いを抱いだく状じよう況きようだ。

 ただ──、

「何もないっていうか」

 ごく自然な口調で、小こ峰みねが彼女に答える。

「確かに、俺ら最近仲良くなり始めたからさ。せっかくだから宿しゆく泊はく研修も四人で過ごして、もっと仲良くなれたらなって」

「そうそう!」

 六ろく曜ようも、スムーズにそこに言葉を継つぐ。

「静しず乃のと小こ峰みね氏とはよく話すのに、わたし大おお滝たき氏とはそんなに話さないでいたからね。これをきっかけに……大おお滝たき氏のことも……よく知れたらと思って……」

 またもや、六ろく曜ようの声に込められる『圧』。

 小さくビクリとする忍しのぶ──。

 けれど、風かざ来きはそれには気付かなかった様子で、

「……なるほど、そこまで言うならそういうことだと思っておきましょう!」

 そう言って、からっとした笑えみを浮うかべた。

「個人的趣しゆ味みに於おいても委員長としても、清い交際はむしろ応おう援えんしたいですからね! 不純な交遊などがないよう、気を付けていただければ問題なしです!」

「不純とかないない!」

「本当に、これから仲良くなるところなんだから」

 軽い口調で返す六ろく曜よう、小こ峰みね。

 けれど──残りの二人は。

 添そい寝ねなんて、見方によってはかなり『不純』な関係にある静しず乃のと忍しのぶは、返事できないまま硬かたい顔をしている。

「じゃあ、お互たがい良き宿しゆく泊はく研修にしましょう! くれぐれも、期間中に変なこととかしたりしないでくださいねー!」

 冗じよう談だんめかしてそう言いながら、風かざ来きが去っていく。

 それを四人で見送りながら──改めて、全員が思ったのだった。

 添そい寝ねを隠かくし通さないと。

 忍しのぶと静しず乃のの関係を、悟さとられないようにしないと──。