
部屋に戻って荷物をまとめ……るほどの荷物はねぇな。
お世話になった聖霊さん
うん? 聖霊さんを北都に置いてけぼりにして大丈夫なのかって? みんな自分で転移してご自宅に帰れるから特に送っていく必要はないらしいのだ。
俺の方はといえば、前日にパレードなんてして目立ちまくったので簡単な変装──そうだね、いつもの暗黒
値段相応の、それなりの宿で部屋を取った後は寝るだけ……とはならず、フィオーラ嬢に日課でもある業務連絡、日報の提出である。今日は非常に気が重いな……。色んな報告があるので書かなきゃいけない手紙の枚数が半端ではなく深夜までかかっちゃったけど、なんとか全て王都の公爵邸の俺の部屋まで転送し終わった。
ああ転送装置だけど、
Q:『地獄の業火君』ってなんぞ?
A:トイレ使用後の最終的な送り先、う○こを燃やす焼却炉だよ! もともと転送器として使ってたから焼却機能を外してそのまま再利用。もちろん使ってたヤツじゃなく新品だからね?
ちなみにこの改良版、こちらから送る時も同じ装置を使うので双方向に送り合うこともできるのだが……フィオーラ嬢に教えちゃうとむっちゃ来そうじゃん? 手紙とか苦情とか。だから送信方法も教えてないし、そもそも向こうからは送れないってことになっている。頭のいいお嬢様のことだから間違いなく
そして翌朝。目覚めて数秒でここがどこか分からなくなる……なんてこともなく、宿で軽く朝ご飯を食べていよいよ旅立ちの時である!
別に公爵家を出ていかなくても、コーネリウス様を手伝って馬鹿を排除する方がいいんじゃないか? それはそれで正解なんだろうけどね? いつかは、一度はお屋敷は出ようと思ってたからさ。
だってほら、これ以上あのお
まぁ、あれだ、元勇者ってのも無駄に色々と考えることがあるんだよ。
そもそもさ、俺の目的、『働きたくないでござる』だからね? 最近忙しすぎたと思うんだよ! うん、初期の目標と何となく違う気がするな。『そこそこのんきにそこそこ上等な暮らしを可愛い嫁さんと送る』だったかな? 近くなったようなそうでもないような? もうそれでいいや。少なくとも貴族になりたいとか、冒険者(この世界では探索者だな)として成功したいとか、そんなしち面倒臭いことじゃなかったもん。
最初から自重しないお前が悪い? だって我慢とかしたら不必要なストレスが
てなわけで改まりまして出発である!
あるのだが、昨日も言ったと思うけど、あれだけお馬で街中を練り歩いたので少々顔が知れ渡ってしまっている俺。ということで、
「
「俺もそう思う」
普段着になりつつある暗黒卿のコスプレでいざ出発!! ……お察しのとおり街を出るまでに五回も衛兵さんに引き止められました。明らかに不審者だから仕方ないね? みなさん、今日もお仕事ご苦労さまです!

さて、しんみりとした話から打って変わって俺の現在地なのだが、もちろん『キルシブリテ王国』の『北都プリメル』……を出たところである。全身を黒い布で覆った俺氏、その内側に熱がこもって中はムレムレのアチアチ状態、脱水症状を起こしそうなのでコスプレはすでに脱いだ。
さて、どこに向かうか? 南に行けば『王都キルシュバーム』。西というか西南西に行けば『西都セルメル』。東南東に行けば『東都レマメル』に至る。
ん? 南方? おじいちゃん、南のことはすでに説明したでしょ! 王都の南は『越えられない壁』である
東都
北都 王都
西都
簡単に書けば位置関係はこんな感じになるのかな?
奈良県で例えるなら北都が奈良市、王都が吉野町、東都が
ちなみに西都から
「倒れた棒が指し示すのは南……王都に帰るのもアレでソレだから……よし、東都に向かうか!」
「アレでソレってなんなのじゃ?」
「だって犯罪者でもないのに王都で見つからないように潜伏するのとか意味が分からないじゃん? 西都はブリューネ家が治めてるからリリおねぇちゃまに見つかりそうで怖いじゃん?」
「なら最初から東一択ではないのかの? お主がその棒を倒したことに意味はあったのかの?」
「旅立ちイコール棒倒しはお約束だろうが!」
別に適当に決めたわけじゃないんだよ? ほら、王国最東端を目指すとか何となくロマンじゃないですか?
まさか地球のコモドドラゴンどころか、異世界で本物のドラゴンを退治する羽目になるとは高校生時代は思いもしなかったよ……。
ついでに王国唯一の海で海水浴……は別にしたくないな。お船に乗っての観光とかも悪くないよね! いや、駄目だ、大航海時代の帆船なんて狭い、臭い、揺れる、沈むで三重苦だからな! うん? 四つある? 四天王が五人も六人もいるんだから三重苦が四つあってもよくね?
特に目的がある急ぎ旅ではないのでパッカらポッコら気ままに進む……はずだったのにやたらと元気のいいお馬さんが走る走る……。そしてここで悲しいお知らせ。
「あ、食料の補充するの忘れてた!!」
まぁ、ひと月分くらいは時空庫に残ってる食料で賄えるだろうし、飲み物は魔法で出せるし、今なら炭酸飲料も作れるし大丈夫か。香辛料と砂糖、マジ買っといてよかったよ……。
北都を出てから野を越え山越え、出発してから半月、無事に東都まで到着。
ん? 旅路が淡白すぎ? だってお馬に揺られてただけでこれといったイベントもなかったんだもん……。景色も田園風景、アップダウンのある山道、峠道、森の中の薄暗い道って感じで見るべきところもなかったし。途中でいくつか村に立ち寄ったりもしたんだよ? 当たり前だけど排他的な
おかしいな、普通なら避暑に来たお姫様と遭遇したりしてロマンスに発展するもんじゃないの? または宿泊した夜にタイミングよく村が山賊に襲われたりとか。それもう犯人はその泊まった
イベントらしいイベントといえば、幼女を連れた旅で野宿はしたくないので、そこそこ頑張って夜通し歩いたことがあったくらい? てかさ、その幼女なんだけどさ、お馬での旅に、変化のない景色に飽きると蛇になって俺の首に巻き付きやがるのさ。おんぶさせられたりするよりはいいんだよ? いいんだけどさ……。俺だって一人きりでお馬さんに乗ってるのは寂しいじゃないですか? もちろん恥ずかしいので『お話ししながら旅しようよ?』なんて俺の方からは言わない。だって負けたみたいじゃん?
ああ、この旅で気付いたことが一つあったな。ほら、これまではずっと大きな傘の下で旅をしてた──公爵家の面々と行動してた──から気に留めてなかったんだけど、あちらこちらと無駄に関所がいっぱいあるんだよね。荷物も持たない一人旅、時々二人旅だからそこまでお金がかかるわけじゃないんだけど……横柄な役人もいるわけで。相手をする回数が増えると、これがそこそこ面倒臭かった。
と、せっかく新しい都市に到着したのに気が
「特に今までの街と変わらんの」
「そうだな、北都よりかなり南方面に移動はしてるからちょっと暑さが増した気はするけど、王都からだと真東みたいなもんだしな。それほどの気候変化も感じないな」
北都も夏場は普通に暑いし、ここだって普通の大きな街だしさ。
まぁ同じ国なんだから街並みや立っている家屋なんかもそんなに変化はないし。これが西というか王都から西都方面に向かったら、なだらかな平原や広大な田園風景が広がるみたいなんだけど。
さて、街に着いたからには何をおいてもしばらく滞在するであろう宿探し……ではなく金策から始めなければいけない。ここまでの旅の途中の宿代や細々とした関所代でお財布の中身が大ピンチなのだ。
もちろん現状で俺の売れるものといえば魔水晶くらいしかないんだけどね? これって買取してもらえるのかな? いや、北都ではほら、メイドさん(Cさん)のご家族が経営する魔水晶屋さん(?)があったからそこで換金すればいいやって思ってたんだよ、一応公爵家の人間ってことで個人の信用的にはどうにかなりそうだし。パレードで目立ちもしたしね?
でもここって右も左も分からない東都じゃないですか? 王都でも分からなかったけど。当然知り合いの知り合いみたいな便利な商家があるわけでもなく、見た目ただの子供の俺が

「……詰んだ」
「
うん、それにはまったく反論できない。俺の辞書の臨機応変の説明には行き当たりばったりって書いてあるからな! ヤベェ、ホントにどうしよう?
うーん……。周りをキョロキョロと見回す俺。特に何か金策に役立ちそうなものは見当たらないや。スマホの脱出ゲームじゃないんだからそんなものいきなり目につく方がおかしんだけどさ。まだ東都の西門を
目に入るのは旅人、商人、農家のおじさん。商人の荷馬車に農家の荷車。そして探索者っぽい一団。しかしどこの街にもいるな、探索者。
……あっ!
あれだよな、『金に困ったら魔物の素材を売ればいいじゃない』ってどこかの国のお
てなわけで最初の目的地が無事決定、いざゆかん冒険者組合! ではなく探索者組合! 場所はもちろん分からないから、そのへん歩いてるそれっぽい格好の
……と、思ってたのに、そいつらは宿に向かって歩いていたらしく軽く迷子になった。まぁ普通は街に着いたらまず宿を探すわな……俺もそうしようと思ったわけだしさ。
気を取り直してその辺で物売りしている屋台のおっさんや暇そうにおしゃべりしているおばさんに聞きながら到着しました
王都にあったものより、いや北都にあったものよりもこぢんまりした建物といった印象。建物の大きさが変わっても、扉を開いて敷居を
……で、ここからどうすればいいんだ? 前の異世界の時も冒険者として活動とかしたことないぞ俺? 北都にも、そして人の多そうな王都でも居なかったのに、寂れたこのギルドに美人の受付係なんてものが居るはずもなく。相変わらず働いている人の年齢層が高い施設である。まぁいいや、適当に『新規受付』ってとこ行っとけば、だいたいどうにかなるだろう。たぶん、知らんけど。
「あー、すみません、探索者に登録? したいんですけど」
「はい、新規の方ですね。それではこちらにお名前年齢ご住所、特技、スキルなどご記入お願いします」
「我も登録するのだ」
「……申し訳ございません。王国法で定められておりまして、十五歳以下の方はご登録できないんですよ?」
「我、こう見えて三千年は生きとるぞ?」
うん、話がややこしくなるからミヅキは黙ろうな? てか蛇ってそんな長生きしてるのにボケたりとかはしないの? ふむ、ボケはしないけど昔の記憶はほとんどないのか。まぁ俺だって二歳とか三歳の時の記憶はないから同じだな!
てか俺もまだ十四歳なんだけどね? 一歳くらいごまかせばいいから大丈夫、保険証とか免許証とかパスポートとか持ち歩けるような身分証なんて誰も持ってないからさ。むしろここ(ギルド)で発行してもらうギルド証が平民にとっては代表的な身分証だったりする。
もろちん、貴族にはちゃんと国から下賜される身分証がある。指輪、腕輪、短剣なんかが代表的なモノだな! 俺もキーファー家から
てことで名前と年齢はいいとして住所、俺の現住所はどこになるんだ? あ、村の名前とかでいいんだ? とりあえず『北都プリメル』でいいか。特技、特技……『何でもできるよ!』は
「できましたー」
「はい、お預かりしますね。へぇ、格闘スキル持ちなんて
それほどでもないです! 格闘スキルを取った理由はいじめっ子に仕返ししたかったからなんでまったく誇れたもんじゃないですから! 正当防衛正当防衛。
さて、登録も終わったので次は掲示板みたいなのに貼り出されてる
「えっと、ここではお仕事はどうやって受ければいいんですかね? あと近場の迷宮なんかは現地に行けば入れます?」
「仕事の受注はあちらの『お仕事』カウンターでお受けいただけます。迷宮に関しましては各迷宮ごとに条件が変わりますね。ただ、どの迷宮も最低でも三名以上で
「……詰んだ」
「
友達くらいいるし! AさんとかCさんとか! でもAさんにはご飯をくれる人、Cさんには魔水晶を作れる人くらいにしか思われてなさそうなので面と向かって本人に確認してはいけない。思われてるだけならいいけど、目の前でそう言われたら
てかさ、今日着いたばっかりの街で知り合いなんているわけないじゃん。ん? じゃあ長く暮らしてた北都にはいたのか? ……一人いたよ! ほら、シーナちゃん! あの子とは「友達でいましょうね?」的な感じだったから完全に友達! 果たしてそれは声を大にして自慢できることなのだろうか?
ま、まぁほら? お仕事カウンターで何かいいお仕事が見つかるかもしれないし? ピンポイントに魔水晶の納品依頼とかねぇかなぁ。
受付場所からお仕事カウンターへ移動し、おっさんにファイルのようなものでペラペラとできそうな仕事を探してもらう……んだけど、希望を聞かれて「魔水晶の納品で!」って答えたら商業ギルドならぬ大きな商会に行けって言われた。こちとらそんなことは最初から百も承知なんだよ! その
飛び込みの営業とかできるような度胸があったらこの
一応登録したての人間が受けられる簡単な仕事がないかも聞いてみたんだけどね?
最初は薬草採集とかゴブリン退治とかじゃないのかって?
ゴブリンに関してというか魔物に関しても基本的には野外には居ないんだよなぁ……って説明をちょっと前にしたじゃん!
もちろん信用のある探索者にはそれなりに色々な仕事があるんだけどね? 子守とか用心棒とか。そんな仕事が登録したての
やっぱりちょっとメンタルを削られながらでも商会に飛び込み営業かけるべきかな? でもほら、こっちの世界の商人ってイメージがよろしくないんだよね。ソースは養護院時代に初エンカウントした食べ物を売ってくれなかった屋台の連中。
ピンポイントにあいつらだけドラゴンに
そもそも魔水晶を子供が持ち込みとかして買ってもらえるのか、買ってもらえても足元を見られるんじゃないのかってものあるしなぁ。最悪俺がキレて大暴れする危険がある。強盗かよ。いや、今の俺は貫頭衣で仮面を
早くしないと宿も押さえてないし……せっかく探索者登録したけどその線でいっちゃうか! 気を取り直して

教えてもらった場所にあるノルド商会の東都支店、
ちなみにおっきい商会って言われてデパートみたいな店構えで商品が大量に陳列された店舗や時代劇に出てくる
受付のおねえちゃんに魔水晶の取引希望であることを伝えたら一応個室には通されたんだけどさ? 担当者が見るからにやる気のなさそうな、性格の悪そうなおばさんだった。
「ええと、魔水晶の取引をご希望とのことですが、そちらはお買い取りでしょうか? それともご購入でしょうか? 見ていただいて分かるように当商会では小商いは一切しておりませんが、大丈夫でしょうかね?」
見ていただいただけで分かるわけねぇだろ! 担当のおばさんから早くも! 親の顔よりよく見たかもしれない
いや、飛び込みで魔水晶の取引とか言い出したらそんな対応されるのも仕方ないとは思うんだけどね? お客様は神様だろう! とかモンスタークレーマーみたいなことを言うつもりもないしさ。でもほら、その顔……ずいぶんと
「ははっ、逆に聞きますけど、その程度のことも知らないでこんな辛気臭いところにわざわざ俺が出向いてきたとでも思ってます?」
こちらも小馬鹿にした態度で鼻で笑ってやる。俺、額に青筋。おばさん、額に青筋。ミヅキ隣で大あくび。
「ふっ、これはこれは失礼いたしました。そうですよね? まさかノルド商会に魔水晶ひとつふたつを持ち込むような物知らずなどおりませんものね? それで、そのお取引希望の、大量の魔水晶はどちらにございますでしょうか? ああ、大量にございましたとしても無属性の小さなクズ魔水晶などはお取引りできかねますが」
「えっ、あなたごときに魔水晶の価値が分かるんですか? おそらくどなたか専門の方と交代されるのかと思っていたのですが……まぁいいでしょう。ああ、もちろんこれだけの規模の商会ですし、俺が並べる程度の魔水晶くらいは全部買い取れるだけの資金はあるんですよね? 疑ってはないんですよ? これだけの規模の商会ですもんね?」
「……当たり前でしょう? お望みならこの東都で一年間に商われる魔水晶であろうとも全部買い取らせていただきますよ?」
「それなら安心ですね! それでしたら入れ物を用意してもらえますかね? 机の上に並べるとコロコロと転がりそうですので」
ほぼ手ぶらの子供、小さなポケット程度しか物が入ってないだろうと勝ち誇った顔をするおばさん。日本だったらSNSで
ベルを鳴らして従業員を呼び出し、入れ物になるであろう大きな箱を持ってこさせるおばさん。
残念だったな? 俺には時空庫があるんだぞ? でも
「ああ、そういえば値段を先に聞きたいんですけど……これは一ついくらで買い取ってもらえるんですかね?」
取り出したのは俺が作れる属性付与魔水晶の中でも一番お高いと言われている光魔晶。それも五センチサイズの大玉である。
「なっ!?
「何って、最初から魔水晶の取引に来たと言ったでしょうに」
「魔水晶……光る魔水晶……そんなもの光魔晶しかないでしょうが!?」
なんだろう、某元総理大臣の息子みたいなこと言い出したぞこのおばさん。
「だからそれがいくらになるのかと聞いてるんですよ。とっとと鑑定してもらえませんかね? ああ、もちろんモノがモノですので魔水晶に何かあれば全責任はそちらで取っていただきますからね」
やっと事態を飲み込めたのかようやく慌て出すおばさん。転がりそうになりながらも部屋を出ていき、おそらく魔水晶取引の担当者であろう人間を連れて戻ってくる。
もちろんこんな気分の悪い店で取引なんかして
ババァ、とっととクビにでもなってしまえ! 悪趣味すぎる? 否定はしない。恨むなら俺じゃなく公爵家の第二夫人を恨むがいいのだ! 人、それをとばっちりと言う。
「てか、つまらないことをして無駄に時間を潰してたらもう外が暗くなってるじゃん……」
「それ、自業自得と言うんじゃぞ?」
店を出たらもう日も落ちて、遠くが赤く染まる時間になっていたという不具合。
ちらっと目についた高台にあるのは、おそらくヴァンブス公爵のお屋敷だろうか? てか……あれはなんだろう? 屋敷がある方角のお空から何か薄ぼんやりと、ずんぐりむっくりとしたシルエットの物体がこちらに向かってフヨフヨと飛んでくるんだけど……ああ、子ペンギンか!! そういえばあの子、ヴァンブス家の子だってコーネリウス様が言ってたっけ?
「いや、ペンギンがパタパタと空を飛んでくるとか、なかなかにシュールな光景だな!?」
のんびりと飛んできたのはコ○ペンちゃん……ではなく普段は
残り十メートルというところでふわっと地面に……着地はスライディングなんだ!? こちらにヨタヨタと駆け寄ってくると俺の足にキュッとしがみつく。その姿はとても可愛いし本物のペンギンとは違って生臭くないのがイイね!
『クエッ!』
「そうだね、久しぶり……ってほどでもないんじゃないかな?」
『クエッ!』
「えっ? 会わせたい人がいるから案内したいけど構わないかって? もちろん大丈夫だけど、その人はこんな時間からお邪魔しても大丈夫なのかな?」
『クエッ!』
「水に
リクエストがあったので左手でヒョイッと子ペンちゃんを、右手でミヅキを抱え上げる俺。
「……いや、ちょっと待って! 水に浸かってるってそれ入浴中──」
映画でシーンが切り替わるように景色が一転したかと思うとそこはすでに室内。壁には大量のランプが
「……エルフさん? いや、状況的には完全にエロフさんなんだけどさ。てかこれ、お風呂にプカプカ浮いてる通り越して水面から離陸して宙に浮かんでるよね?」
『クエッ!』
「ああ、子ペンちゃんのサービスなんだ? 子グマちゃんもウサギさんもそんなサービスしてくれたことないのになんていい子なんだ子ペンちゃん……じゃなくて! もちろん小高い丘の上に一つだけ置き忘れられたかのような
『クエッ……』
「あっ、別に怒ってるとかじゃないんだよ? ほら、俺としてはこんなにマジマジと美女? 美少女? の裸体をこの距離で堪能するのなんて初めてだからさ。あっ、とりあえず拝んでおいた方がいいかな? ナムー……。もちろん手は合わせても目は閉じない、むしろさっきから
『クエッ! クエッ!』
「うん、めっちゃ嬉しかったよ! ありがとう! ……じゃなくてね? 聖霊様の世界ではどうか分からないけど、こっちの世界というかこの国というか、たぶん他所の国でもだと思うんだけどさ、お風呂を
入浴中にいきなり体が浮かんだことによる驚きから覚めたのか、安物のディスプレイアームみたいな『ギギギギ』とした動きでこちらに顔を向ける美少女エロフさん。
「あっ、どうも初めましてです! 風の聖霊様にご紹介? ご招待? されてやってまいりましたハリ……いや、これ自己紹介とかしたらあとあと問題が発生しないかな? 名前がバレてるとか指名手配がむっちゃ
驚きが覚めたところですぐに状況判断ができるわけでもないのでこちらを向いたはいいものの、何と口に出せばいいのか分からず「あ」とか「え」とか母音の単音だけを発しながら口をパクパクとさせているエロフさん。俺? もちろんこんなチャンスがこの先いつ訪れるか分からないので頭の中のSSDに光速で目の前の画像を保存している。
てか思考が現実にそろそろ追いついてきたであろうエロフさん、タコやエビが
「まぁ、あれだ、とりあえず俺は全然怪しい者じゃないからね? だから君が今から取ろうとしている行動、そう、大きな声で叫ぼうとしているその行動は

ピクピクと口元を
「…………つべこべ言ってないでとっとと出ていけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そう叫ぶとともに、聖霊様の魔法が切れたのかドボンと湯船に落とされる。
浴場内で待機していた

座敷
東都に到着した→路銀が心もとないので
遠くの空から風の
エルフさんは入浴中(エロフさん)だった→浴室からメイドさんにつまみ出された
窓一つない部屋に完全武装の兵隊さん二人と一緒に押し込まれた←今ココ
聖霊様登場から意味が分からねぇ……まぁエロフさんの裸体をたっぷりと堪能できたからどうでもいいんだけどな!
「あ、ちょっとお
「我も食べるのだ!」
「図々しい不法侵入者だなお前は!? というかその幼女はどこから現れたのだ!?」
「そもそもの前提が間違ってるんだもん。だって俺が勝手にここん家に入ってきたわけじゃなくて風の聖霊様に拉致されてきたんだもん。つまり俺は何も悪くない! そして晩ご飯希望!」
「我も食べるのだ!」
「とりあえず我々では対応しかねるので、責任者が来るまで大人しくしておいてくれ……」
「しょうがないなぁ……」
コロンと椅子の上に寝転ぶ俺。態度が悪い? だってほら、変に
「この屋敷も公爵家とかいうヤツなんじゃろ? 他所の公爵家では、我が座ってたら酒くらいは出てくるのに、ここの使用人は一体どんな教育をされとるのかの?」
「自由な連中だなおい……というかそちらの子供は他領の公爵家に知り合い……キーファー家と関わりのある人間なのか?」
ちなみに『公爵家』だけでキーファー家の名が出てくる理由は、この王国に公爵家は二家しかないからである。てかガイウス様に連絡でも取られたらお嬢様(フィオーラ嬢)とお嬢様(ヘルミーナ嬢)がとても面倒臭いことになるんだからいらんことを言うなミヅキ!
小一時間……というほどは待っていないが、そこそこ時間が経過、寝転んでいた俺がうたた寝状態から本格的に寝落ちしそうになった頃、
「先ほどの少年がここに案内されているって聞いたんだけど……いきなり一人増えてるんだけど? その少女は誰なのかな?」
「はっ! それがその……いきなり現れました!」
「そんなバカなことがって言いたいけど、その少年自体がいきなり現れたからねぇ……」
先ほどの水浴びエロフさんがしっかりと身なりを整えて部屋に入ってきた。白に近い薄水色をした古代ギリシャとか古代ローマ風の布を巻き付けた感じのドレス姿の美女。
「あれだな、先ほど見た裸体を思い出しながら、キッチリとした格好をした御令嬢をこうして見つめると、下半身にグッと来るものがあるよな!」
「君が今どういう状況に置かれているのかもっと考えてから発言してほしいんだけどね?」
「状況? ……見ず知らずの人間に監禁されてる? もしも反省がない場合は全ての知人の力を使って謝罪と賠償を求めることも辞さない」
「いきなり風呂を覗かれた、いや、君の行動はそんな可愛らしいものじゃなかったよね? ガッツリと観察してたよね? そのことを振り返ってもう一度発言してごらん?」
「もう一回! もう一回! ……で、合ってるかな?」
「そろそろ処すよ? あとほら、私、これでも公爵令嬢なんだよ? どうして君はごろんと寝転んだままで話してるのかな? 一体君は何者なのかな?」
「こやつはアリシアとかいう女の前であっても、だいたいこんな感じじゃぞ?」
「待って、ちょっと待って!? えっ? 王女殿下の前でもそんな態度なの!? 想像以上に非常識、ある意味大物なんだね君!?」
だって
「お初にお目にかかりますお
「我はミヅキなのだ!」
「犯罪者が捕まって名前を明かさないなどということが通用するはずないって分かってるよね? いきなり風呂を覗いた、いや、覗いたなんて可愛らしいものじゃなく、浴場に侵入されたら百人中百人が怪しむよね? 普通、公爵令嬢の風呂を覗いた人間が解放される時は胴体と首が別れた状態にされてるって知ってるかな? というかそっちの女の子、ミヅキっていうんだ? ミヅキ、どこかで聞いたような……ああ! フィオーラの所で『美容の神様』だとかいう
「うむ、我は神なのだ! なので早く
「流石にそれは迷惑だから止めなさい」
このままだと
「……というわけなので俺は悪くないんです!」
「……いやいやいやいや、今の君の話をはいそうですかと信じる人間なんて普通はいないよね? 色々とおかしすぎるよね? あと、さっさと名前を名乗ってもらえないかな? もうだいたい分かってる……いや、普通にお互いに自己紹介したことがあるんだから抵抗しても無駄だって君も分かってるよね?」
「だって名乗ったらこのあと逃げた時に捜索隊を派遣されそうじゃないですか?」
「名乗らなくても派遣されるんだけどなぁ……あと絶対に逃がさないからね? もしこのまま名乗らないつもりならフィオーラに……いや、リリアナに言いつけるよ?」
「それだけは止めてください何でもしますから! ……ホントに俺が誰だか気付いてたんだ? 一度紹介されただけのご友人の使用人を覚えてるなんて凄いね? てか今後の参考までにお姫様が俺についてどういう話を耳にしてるのか聞かせてほしいな?」
最初は怒るけど最後には『しょうがない子ね?』と許してくれそうなフィオーラ嬢ではなく、終始笑顔でニコニコしてたはずなのに『もう二度とおねぇちゃま以外の女のもとに行けないようにしないと駄目だよね?』と手足を切り落としそうなリリおねぇちゃまに言いつけるとか、なかなかたちの悪い行動である。
「どういう……と聞かれても困るんだけどね? フィオーラの
「赤い人の純潔とかいう空中に浮かんでる地雷に手を出すはずがないんだよなぁ……。いや、リリアナ嬢の幼なじみがギリギリ
「逆にもしも君がただの不法侵入者だったとしたら、連れていかれたのはここではなく地下牢、もしくは特別な保管場所だと思うよ?」
特別な場所に連れていかれると勾留されるんじゃなくて保管されるんだ……。
「てかそれならそれでここまでの流れは一体なんだったんだよ……」
「もちろん
「ボク、まだ子供だからむずかしいことはわからないや」
「貴族家の当主は年齢に関係なく成人扱いだからね?」
「あ、でも爵位に関しては旅に出る前に返してきたから今は貴族様ではないです! なのでお風呂の件に関しては無実が確定しました!」
「貴族じゃなくただの子供になったとしても、公爵令嬢の入浴を覗いたら家族親類縁者全員の両目をえぐられるだけでは済まない重罪だと気付いて?」
「チッ、ならどうしろっていうのさ!!」
「まずは謝ってほしいかな!!」
「どうもすみませんね!!」
「それ謝罪してるんじゃなくて
「まったく……」と言いながらこちらを薄目で
「はぁ……一体何の話をしてるんだか……そもそも聖霊様のなさることに私達のような
「えっ? それで済む話だったの!? ……じゃあもしも毎回エロフさんが風呂に入ったら呼んでくれって子ペンちゃんにお願いしておけば」
「二回目からは故意とみなして責任取ってもらうからね!? いや、むしろ今回のことで十分」
「はい! 十分に反省しております! 今後このようなことが二度と再発いたしませんように聖霊様とも細かく打ち合わせを繰り返し、見つからないように何らかの対応を」
「問題は私の裸を見たことであって君が見つかったことじゃないんだけどね!?」
またまた「はぁ……」と大きくため息をつくエロフさん。
「まったく、他の御令嬢が君に夢中になる理由が何となく分かった気がするよ」
「えっ? もしかして……露出狂?」
「別に裸を晒したから気を許してるとかじゃないからね!? ただ君のそのあり方が興味深いというか貴族の令息にはいない不思議な生き物だというだけで! 公爵令嬢や侯爵令嬢、あまつさえ王女殿下にまでそんな隔意のない、それでいて
「そんなこと言い出したら俺だって転移先に全裸の痴女がいたから見ただけなんだから、勝手に見たわけでもなくね?」
「君はどうしても私が裸を見られて喜ぶ人間にしたいみたいだね!? よし、分かった、ならば……婚約だ!!」
「どうしてそうなるんだよ!!」
いや、まぁこの世界というか箱入りのお姫様の常識で考えたら、夫以外の人間に素肌を晒したんだから責任を取れっていうのは分かるんだけどね? 俺、現在は本当に、ちゃんとした、生粋のド平民だからね? それも職業旅人。言い換えれば無職DTだな! 今はDT関係ないやろ!!
そんな睨み合い(?)を続ける俺と公爵令嬢の罵り合いなど我関せずとばかりに、
「
「それは一体どういう生き物なんだよ! 縦方向じゃなく横方向にくっつけよ!」
相変わらずマイペースなミヅキであった。
俺も腹が空いていたのは同じなので公爵家──東都のヴァンブス公爵家で
そんな平民のささやかな夕餉を、
「なにそれ美味しそう……私の分も用意してくれないかな?」
「いや、お風呂入ってたってことはお姫様は絶対にもう晩ご飯は済んでますよね? まだ食べるつもりなんですか?」
「見て、もらった、とおり、私は痩せ気味なのでね! 痛っ!?」
「いや、そこそこ肉付きはよかった……脇腹を手刀で突きまくるのは止めてください」
「何なのさそれ……君は脇腹に鉄板でも仕込んでるのかな?」
レベル的なものもあるし防御力が高いからね? 俺の脇腹。大丈夫? 突き指してない? 治癒魔法使っとく?
「一体どんな鍛え方したらそんなにお腹がカチカチになるのさ……」
そんな晩飯のことはどうでもいいとして……食後、ミヅキが居眠りを始めたのでそろそろお屋敷をお
「泊めていただけるのはありがたいんですけど、どうしてこんな奥まった窓のない部屋なんです?」
「自由にできる部屋だと君が逃げそうだからだよ!! 君、公爵令嬢に
「ソレに関してはもう反省したから大丈夫! そして別にここからでも簡単に逃げられますけど? ね? 子ペンちゃん?」
『クエッ!』
「転移をお願いすれば王都にでも飛べるそうですよ?」
「どうしてヴァンブス家の守護聖霊様を君が便利使いできるのかな!? ……いや、そうじゃなくて、えっ? 君、聖霊様と意思疎通ができるの!?」
「それ、今さら?」
いや、子ペンちゃん、今回の不祥事についてちょっとだけ反省したらしいしさ。そんなに気にせんでもええんやで?
大きいお風呂があることはすでに確認済みなので、お嬢様の色んなものが溶け込んだお風呂を借り……ようとしたんだけどすでに掃除まで終わってたので新しくお湯を張り直し、借りた部屋でまったりナウな俺。てか最近聞かなくなったよな『ナウ』。そもそも異世界でそんなこと言ってる人間は俺しかいないんだけどさ。
ああ、お風呂掃除が二度手間になるので掃除担当のメイドさんには贈答品セット、タオルと
すでにだらっと液状化した猫みたいになっているミヅキを見習ってベッドに倒れ込み、この街で何か手軽に稼げる方法でもないかと久々に魔導板さんを呼び出し、スキルと時空庫内の荷物の確認を、
「ファッ!?」
「うにゅ!? ……
「ああ、悪い悪い」
いや、だってさ魔導板を開いたら一番最初に目に入るもの、そう『レベル』なんだけどさ、
『レベル38』
ちょっと意味が分からないんだけど!? えっ? 最後に確認した時には10までしか上げてなかったよね!? 俺の変化のない日々の生活に何があったっていうの!?
思い出す……思い出す……必死に思い出す……。うん、公爵家を出てから違う公爵家にお邪魔してる以外には特に何も……いやいやいや、あったじゃん!! ほら、黒竜撃墜したじゃん!! 完全に出落ち感覚で勝手に死んだみたいなイメージしかなかったけど……あいつ、普通に最終ボスクラスの強さがあったかもしれないドラゴンだったじゃん!! ちなみに得られる経験値は百体倒せばその相手と同じレベルに上がる数値……ドラゴンとか退治したらそりゃ一気にレベルも上がるわな。
ちなみにレベルが自分より上の相手を倒してもプラス補正はないけど、レベルが下の相手だとマイナス補正が掛かる。レベル差が3もあればまったく経験値が入らなくなるので、スライム相手に数万年頑張ったところで最強にはなれない。いや、それにしてもレベル10から38って……草むしり何日分の経験値になるんだよ……。
もうこれはアレだな! 久しぶりに! 全力で『やりなおし』の発動だよな!!
てことで大量に経験値を獲得したら初めにすることは『レベルを0まで落とす』こと。だって基礎ステイタスを上げる際にレベルでの補正数値を最大にしたいからね? 最後に残りの経験値と相談しながらスキルもランクアップ&新規習得。別に新規は必要な時に取れば十分だから今はいいか。そして最後に下げたレベルを再び上げられるところまで上げれば完了である!
てかさ、レベルを0に戻した時の経験値が、
『562、949、954、766点』
……数字の桁を区切るカンマが三つもあるとか、普通に桁が分からねぇ……。こんな桁の数字が一目でいくらか分かるのは、コスプレイヤーみたいな名前の闇金の人くらいではないだろうか? いや、コスプレイヤーさんが闇金の人みたいな名前なのだろうか? あの人のいい尻に埋もれたいだけの人生だったよ……。
いちじゅうひゃくせんまん……えっと、5629億4995万4766点……? 桁が分かったところで意味が分からねぇよ!! もうこれちょっとした小国の国家予算じゃね? いや、金額じゃないから何の比較にもならないけどね?
てかこれを草むしり(一日5、000経験値で換算)で稼ごうとすると、掛かる日数は約一億一千二百五十九万日。この世界は一年三百六十日(ひと月が三十日で十二ヶ月)なので約三十一万二千七百五十年になるわけだな。一億年ボタンと比べたら
しかし、こうしてみるとやっぱり戦闘での経験値効率って
うん、まぁタラレバダッテ、違うの、そうじゃないの、あなただけなの、寂しかったの、お互いに反省してやり直しましょう!! ……後半完全に浮気の言い訳になってるな。あと反省するのは浮気した人間だけだ。巨大大陸が誕生しそうなほどに地殻……ではなく話がズレてきたので元に戻して『やりなおし』での能力値変化である!
てなわけで『30』から上げた基礎能力値がこちら。というか八項目とも全部100! カンストが100なので最大まで上げた! 実にいい響きだよね、カンスト。でも俺はパンストよりガーターベルトが好き。31から100まで上げるのに必要な経験値が4、585点、それが八項目で合計が『36、680点』。誤差……圧倒的……誤差っ!! 減ったかどうかすら分からない消費である!!
てかステイタスをカンストするのに必要な経験点が少なすぎじゃない? と思われるかもしれないけど、普通の人間は『やりなおし』で他所から持ってくるなんてできないからね? 戦闘での経験値を経験点に交換ができるチートが壮絶なだけなのである! 関西弁だと壮絶(えげつない)だな! 間違ってはないけど合ってもないな。
次に現在持っているスキルも全部ランク10まで上げちゃう! 関西だとプレゼント・フォー・ユーって意味だな! なぜいきなりの関西弁押し……。
てか、それほど使ってないモノも含めて結構な数のスキルを取ってるんだよなぁ……もちろん本当に使わなそうなスキルはポイント還元しちゃったんだけどね?
てことでついでにおさらい! ってわけじゃないけどスキルの見直しから始めます!
まず最初にくるのは属性魔法のスキル。
『地、水、火、風の四属性』プラス『光と闇』で六属性全てコンプリート済み! ついでに『氷魔法』も添えて……合計で七種類。ただの大魔道士である。
魔法に続いては地味感が否めない物理戦闘系のスキル。
『体術、格闘術、威圧』の少し前に取った三種類と、『剣術、
さらにこちらは縁の下の力持ち的存在の補助魔法。
『合成魔法、植物魔法、時空魔法と(俺に)よく間違えられちゃう空間魔法、時空庫、硬化、観察眼、鑑定眼、魔眼、遠視、転移魔法』で十種類。誰だ! ほとんどトイレ関連魔法じゃねぇかって言った奴は!
そして一番多いのが生産系のスキルとなっていて、
『設計、製造、錬金術、付与、料理、陶工、木工、鍛冶、細工、冶金、農作業、採掘、織物、裁縫、薬師、魔道具師、魔法陣、調理』で十八種類。
これで将来は職人、それもケミス○リー……じゃなくてマイスターって呼ばれるような巨匠として食いっぱぐれはないな! てかマイスターのケミス〇リー要素少なすぎじゃね?
最後に残ったのは常時発動っぽい便利系スキル、
『毒耐性、聖霊の友、魔法操作、動体視力、直感、操車』の六つ。これ、他にも
てな感じで全部合わせて……四十七種類。惜しい、実に惜しい。もう一つあればSKL48とかいうユニットが組めたのに。あれだ、欲しい時に欲しいだけ取ってただけあって結構な数になっちゃってるな。これまで魔眼で見たことのある人の保有スキルの平均は三~多くて十くらいだからもの凄い数なのである。
でもね? それらを全部ランク10まで上げたところで必要な経験点は50、000程度。ステイタスを上げた時よりは消費してるけど、こちらも誤差である。
あ、一つだけランク5のままで上げてないスキルがあるんだけどね? それは……聖霊の友。なんかこう……上げすぎると怖いような気がしたから。だって
てか入った経験値に対して支出がまったくないな……もちろん良いことなんだけどね? そもそも一つのスキルをランク10まで上げるのに必要な経験値、1から10まで上げても『1、023』しか使わないんだから当然と言えば当然なんだけどさ。
てかさっきから無視してたけど、ずっと『やりなおし』スキルが点滅してるんだよなぁ……。なんだろうこれ? もしかして爆発とかする感じ? いや、何が爆発するのかはまったくの不明なんだけどさ。見た目はアプリ更新の待機中みたいな感じなんだけど……押したら説明文が出てくるのかな? 某ゾンビゲーの最終戦闘(お約束)シーンみたいに、いきなり『caution』とか『warning』とか目の前いっぱいに表示されて、ロケットランチャーでしか倒せなそうなボスが天井を突き破って登場したりしないよね? すでにロケラン(バズーカ)でボス(ドラゴン)退治はしたよね? もちろんこのまま放置するのも気になって仕方ないから……押しちゃうんだけどさ。
……ポチッ……
『やりなおしスキルを覚醒させますか?』
……なんだよ覚醒って! 不安を煽るだけ煽り倒したくせに! ちょこっとだけ拍子抜けである。
ちなみに覚醒するとどうなるんだろう?
『スキル「やりなおし」が「みんなでやりなおし」になります』
何その『全員でスタートに戻る』みたいなヤツ! てか上位互換にもほどがあるんじゃないかなそれ!? えっ? 他の人のステイタスもいじれるようになるってことだよね!? いやいやいやいや、何そのぶっ壊れ通り越して『神の奇跡』みたいなスキル!? もうそれチーター通り越してスクーターとかバラクーダーとかそんな感じじゃね!? てか使い方はどうすればいいんだろ? たぶんそのへんの他人とかじゃ駄目なんだよね?
『はい、みんなでやりなおし所持者と信頼関係のない相手には使用できません。具体的な使用方法は相手がクランメンバーとなり、使用者がメンバーの体に触れることにより相手の能力値を増減させることができるようになります。ただしクランから外れるとその相手はステイタスが元の数値に戻り、スキルランクも反映前に戻されます』
一度仲間になってもその後
てかクランって言われると街金のCMに出てた銭ゲバチワワがスラックス履いてる感じの秘密結社を一番に思い浮かべるんだけど、ギルドみたいなヤツだよね?
『金融会社のCMは何の関係もありません。緩やかな
お、おう……なるほど? でも、それってただの他人だよね? てか魔導板さんいきなりむっちゃ喋るようになったよね?
『獲得経験点量により
なるほど……てか、今までもいきなり使い勝手が良くなったことがあったのはそういうことなのか……。今ならあの幻の『ふんどしを締めた女騎士様に、嫌な顔されながらお漏らししてもらいたい』の映像化も……いや、魔導板さんとの心の距離感がまた広がるかもしれないから止めておこう。
『賢明な判断です』
てかさ、これはもう『やりなおし』を覚醒させるしかないよね? いや、現状仲間なんていないから意味ないんだけどさ? ……あ、いたわ、隣で液状化現象起こしてる幼女が! ちらっとそちらに目を向けると、
「なんじゃ? いきなり我をじっと見つめて。ああ、あれか? おっぱい触りたいんじゃろ?」
「触らねぇよ無乳!!」
ちっ、『やりなおし』の覚醒したら、いの一番にこいつのおっぱいをおっきくしてやる!!
『直接的な肉体の変化には対応しておりません』
冗談だからね? 言われなくても分かってるからね? 即レスでマジレスするの止めて?
てか『パーティーメンバー』じゃなくて『クランメンバー』か。登録の仕方は……相手の名前を登録するだけでいいのか。もちろん誰でもいいいわけじゃなくてお互いに信頼関係が必要らしいけど。それはそれでふわっとした条件だな。何だよ信頼関係って……。
とりあえず『ミヅキ』っと……うん、完了。簡単だなおい。
てかこれ、俺が仲良しさんだと思ってる相手の名前を入力したとして、もしも
さて『やりなおし』の覚醒も無事に終わり、ほくほく顔の俺である。ちなみに経験値10億取られたんだけど、それでも完全に誤差レベルなんだよなぁ。なんたって獲得経験値が5、000億なのである。小学生の言い合いで出てくる、とりあえず大きい桁を出してみた! みたいな数字だもんな。
てなわけで久々のステイタス開示。まずレベルと基礎能力値がこちら。
レベル……38
HP ……100(7、510)
MP ……100(7、510)
体格 ……100(7、510)
筋力 ……100(7、510)
知能 ……100(7、510)
魔力 ……100(7、510)
器用さ……100(7、510)
全部キレイに
そして前の能力値が30でレベル10の時の補正加算後の数値が(195)だったことを考えるとなかなか意味の分からない伸び方である。秘孔を突かなくても、小指の先でつついただけでも頭が破裂するんじゃなかろうか? もちろん普通に生活してる分には掴んだだけでドアノブが壊れたり、肩を
続いてスキル……はさっき出てきたから割愛。聖霊の友以外は全部ランク10まで上げた。そして最後に覚醒した『みんなでやりなおし』で報告終了である。いや、一応使った経験点、最終的な消費経験点も見ておくか。
『基礎能力値分、誤差』『スキル分、誤差』『やりなおし覚醒分、誤差』
かーらーの『レベル38までの必要経験値549、755、813、887点』
レベルアップだけで5、629億から5、497億持ってかれたよ……。そもそもレベル38だったのをレベル0まで下げて戻しただけだからそうなるのは当然なんだけどね? つまりレベル以外の全ての行動を端数の経験点だけで済ませたという。
ちなみに38から39にレベルを上げるのに必要な経験点は549、755、813、888点である。またドラゴン退治でもしなきゃ永遠に上がらねぇよ!! そもそもレベルアップどうこうじゃなく残ってる経験点が132億点以上ある事実……。もうこれスキルを取るだけなら細かい計算いらなくね? って感じで残ってるよね? てか俺、勇者やってた時の最終レベルが32だったんだけど……十四歳にして死ぬ直前より圧倒的に強くなってるんだよなぁ……。
ああ、『みんなでやりなおし』を試すために本人に許可を取ってからミヅキのステイタスを触ってみようとしたんだけど『神は対象外です』って言われたよ。名前と性別以外のステイタスは表示すらされないから何となくいじれなそうだなーとは思ったんだけどね? ミヅキ、一応性別が女性であることは間違いないらしい。てかこいつ……本当に神様扱いされてたんだ!? よかったな蛇!!
そんな棚ぼた的なドラゴン退治で大幅なレベルアップ、自身の大幅強化、たぶん間違いなく王国最強の強者まで登りつめた俺。いや、王国最強についてはドラゴン関係なく最強だったかもしれないんだけどさ。だって王国騎士最強格の一人とフィオーラ嬢が言っていたメルちゃんに稽古で負けたことはないからね?
メルちゃん……今日も元気に俺がプレゼントしたふんどしを締めてくれているだろうか? てか女性に下着を贈るとかそれもうプロポーズじゃね? モノはふんどしなんだけどさ。
まぁレベルが上ったからといって『一狩り行こうぜ!』などと好戦的になることもない俺。公爵家のお屋敷で武力を発揮する場面もないだろうしさ。

何となくレベルもいっぱい上がったし非常に気分のいい毎日を過ごしている今日この頃。
何が良いってこのお屋敷では雇われているわけじゃないから、あれこれ働かなくとも気を使わなくてよいのが実に良い! もしかすればこれこそ理想の生活なのではないだろうか? などと思っていたある日。
「あのさ、ちょっと聞いてほしいことというか、言いたいことがあるというか、君の行動におかしな点があるんだけどいいかな?」
「いきなりなんです? ここ数日はお風呂は覗いてませんよ?」
「それは当たり前のことだから聞いてないんだけどね? あと『ここ数日は』の部分と『お風呂は』の部分が不審すぎるんだけど……まぁそれは置いておくとしてさ、君、うちのメイドを手当たり次第口説くの止めてもらってもいいかな?」
「えっ? なんですそれ? 会えば挨拶くらいはさせてもらいますけど、口説いたことなんて……たぶんないですよ?」
「うん、おそらく君が今少し
「んー……得したラッキー?」
「あのね……普通あのようなモノ、値が張るだけじゃなく貴族でも手に入らないようなモノをプレゼントされたら、それも君のような若いうえに見目だけは良い、新進気鋭の貴族に渡されたら喜ぶを通り越して舞い上がる、簡単に言えば最低でも側室候補にはしてもらえると思うものなのだよ?」
「たかだか石鹸で?」
「他にもフワフワのタオルとかフワフワの寝間着とかフワフワ……ではないけど白い布とか配ってるらしいじゃないか! いや、それは別にいいんだけどね! どうして、どうしていまだに私には一切それらのプレゼントがないのかと思ってね! 君、私の裸を見たことを忘れちゃいないよね!?」
お、おう、長々とした話の結論が結局自分にも
「だってほら、お姫様に贈り物とかしたら公爵家に取り入ってるみたいに見えてイヤラシイ感じになるじゃないですか? 俺って上司が見てる場所では頑張らない、むしろ意識して手を抜くタイプなんですよね」
「ちょっと何を言ってるのか分からないんだけど、上役が見てるところではちゃんと仕事しようよ? あとメイドだけじゃなくうちの妹達にもヌイグルミ? という物を、母上達にはとても精巧なガラス細工を贈ってるよね? お母様が使っている石鹸とかもメイドに配っている物よりさらに高級そうな物だったしさ。そこまでしておいて公爵家に取り入っていないとはどういうことなのかな? ぶっちゃけこの際だからはっきりと言っちゃうけどさ、私にもあれらの品物をください」
「そんな可愛い顔して欲しがりさんなんだな……さすがはエロフ。いいか? 俺が取り入りたいのはヴァンブス公爵家ではない、お姉様方なのだ!」
「どうして意味もなく
「まぁこっちも商売ですので? お姫様に譲ってほしいと言われれば
「メイドにはプレゼントしてたよね!? どうして公爵令嬢である私には売りつける気満々なのさ! あと君、そろそろ私の名前覚えて? そもそもそのエロフって何なのさ!」
「エロいエルフでエロフ以外にどんな意味が? てか俺、お嬢様の名前を聞いたことってありましたっけ?」
「私は別にエロくもエルフでもないんだけどね? 名前に関しては君がこの屋敷に来て五日で二十七回も教えてるんだけどね?」
「回数数えてるとか……ちょっとキモい」
「ホントに君は私に対してだけ辛辣だね!? ……あっ、もしかして好きな人には意地悪したくなるとか特別感を出したいとかそういう? もしや、お母様に取り入ろうとしてるのも私を嫁に……」
「いえ、ただただエロフさんと深く関わり合いたくないだけですけど?」
「よし、庭に出ろ、決闘だ!!」
「面倒臭い人だなー……とりあえず石鹸あげますから部屋から出てってもらえます?」
「くっ、石鹸は貰っていくけど! 貰っていくけどもっ! 色々と覚えてろよっ!!」
いや、結局何しに来たんだよあんた……。
「ああ、そうだ、私がここに来たのは石鹸を貰いに来たわけじゃないんだった。うちの父が今夜には戻ると先触れがあったから今晩は戦勝パーティー……ではないな、特に戦闘にはならなかったらしいし。何にしても
「いや、むっちゃ大事な伝言じゃん! いや、どうして公爵家の身内の食事会に俺が参加しないといけないんですか! 帰ってくるまでにお
こいつ……わざと最後まで用件を伝えなかったな!? 初対面の公爵閣下と一緒に晩ご飯とかしたくねぇよ! 薄々何となく会ったことのあるおじさんじゃないかな? とは感じてるけど!
もちろんそんな俺の文句を背中で受け流しつつ、満足そうな笑顔だけを残して部屋から去っていく御令嬢だった。

ひと月以上に及ぶ王国軍による南方地域の魔物の氾濫の調査と対応も終わり、東都より出兵していたヴァンブス公爵家騎士団及び東方軍も無事に全員が帰郷。体調不良者こそ出たものの、死者が出なかったその帰宅に兵達の家族が父や息子、母や娘の無事を祝う……もちろんここ、ヴァンブス公爵邸でも。
「まさかとは思っていたけど……あの男、本当に信じられないことをするよね……」
久方ぶりに父と囲む食卓、むろん喜んでいてしかるべきであるヴァンブス家の長女は……困ったような、寂しそうな表情をしていた。
「ふはははははは、話を聞くに実に面白い男なのである! いや、しかし残念なのであるな! せっかくなら今日の食事はあの者に用意してもらいたかったのである! キーファー家で出された食事は実に
「ふふっ、ここ数日は引きこもりのエルフィがとても楽しそうにしておりましたので……確かに残念ではありますわね?」
「母上、私は引きこもりなどではありません、ただ雑多な他人と接触したくないだけです」
「そのような性格だから王国三大美女に選ばれぬのであるな!」
「姉さま、ハリスはどこかに行っちゃったのですか? メイドがお部屋に新しいヌイグルミとお手紙を持ってきたのですが……」
「姉ちゃま! わたしのへやにもとどきました!」
「ちょっと待って、私には何も届いていないのだけど!? マジあの男、次に会った時は絶対にシメてやるんだ……」
「あらあら、もしかすると彼のお嫁になるのはエルフィじゃなく、マルフィかデルフィになるかもしれないわね?」
「ハリスは年上好きらしいですからね? 妹達ではなく選ぶとしたら私に決まっているではないですか!!」
「あら、年上が好きだというならこの母の方がお似合いではありませんか?」
「あの男の態度から考えると冗談にならないので止めてくださいね!?」
プリプリしながら食事をするエロフさん改めエルフィ──ヴェルフィーナ嬢を生暖かい目で見つめ、食卓を囲む面々。
「しかしあのエルフィをこの短期間で籠絡するとは……ハリスという男、なかなか侮れぬのであるな! そういえば
「ええ、五日前の夜分にいきなり……エルフィが入浴中の浴室に現れたそうです」
「ブフッ、それはなんとも……」
「父上、年頃の娘が裸を見られたのですからね? 笑い事ではないのですよ? それに私は籠絡などされておりません! なんというか……屋敷に迷い込んだ猫か犬、おそらく猫ですね、ままならない動物を
「エルフィ、そのようなことをしても嫌われるだけですよ? 縁はできたのですからまた顔を見せてくれるのを気長に待てばいいのです」
「気長に待てるほど婚期が残っているかどうかは微妙なのではあるな! そうそう、そのハリスなのであるがな、まだ確認は取れてはおらぬが……王国の悪竜、北部の黒竜は知っておるよな?」
「流石にこの国の人間で黒竜を知らない人間はいないかと思いますが……まさか!? かのドラゴンが数百年ぶりに出てきたのですか!? いえ、そうではなく……ドラゴンとあの男に何か関係があるのですか?」
「ああ、そのドラゴンなのであるが……ハリスが退治したらしい」
「はぁっ!? ドラゴンを!? 王国建国前から生きているあのドラゴンを退治したですって!?」
「繰り返すが確認の取れている話ではないのであるな。だがドラゴンが
「ドラゴン退治……一体北都にはどれほどの被害が出たのでしょうか……あなたの無事のご帰宅だけを喜んではいられませんわね……」
「いや、それがであるな、退治されるまでに襲われた村々で多少の死者は出たらしいのだが、討伐軍には被害はなかったらしいのである。フィオーラ嬢の
「なんですかその眉唾ものの話は……いえ、確かに風の聖霊様に気に入られているらしい男ですし、リリアナの治療の際には光の聖霊様だけでなく大地の聖霊様にもお力を借りたと聞いておりますが」
「ほほう……その話、詳しく聞かせるのである!」

時は少しばかり遡り、こちらはもう一つの公爵家、王都のキーファー公爵邸……の中のハリスの部屋でなぜか寝起きしているフィオーラとメルティス。
「もう、なんなのかしら!? この『今日も一日歩きました』とか『大きいお風呂に入りたいです』とか一行だけの手紙は!! もっとこう何かあるでしょう? 『
「私にそんなことを言われましても……」
言われなくとも
だいたいこの四角い転送の魔道具、絶対にこちらからも手紙が送れるはずなのです! 根拠はなくただの直感なのですが、一方通行なのはおかしいと思いますもの! 帰ってきたら問い詰めてやりましょう。
はぁ……。ハリスと出会ってからこんなに長い間離れているのはいつぶりでしょうか。少し
思えば最初は『少し変わった子がいるな』という認識しかなかったのですが。いえ、最初に会った時から心
しかし、それにしてももう少しハリスは
いつもいつも油断をしている時に限って
そう、リリアナとは昔からの顔なじみなので仕方がないにしてもですよ? ミーナも妙に懐いてますし……すでにあの子、女の顔をしてますよね!? さらには王族、アリシア王女まで屋敷を出入りするようになる始末……その中でも一番危険なのはメルティスなのですけどね。そもそもこれだけ長く一緒に暮らしている
いえ、ブリューネ家のマリア様にも同じような態度らしいですから、小さい頃に親元を離れた反動で母親が恋しい、甘えたいのではないかと理解はできるのですが。……果たして本当に母親が恋しいだけなのでしょうか? お母様を見つめるその目付きが少々イヤラシイような、その言動が本気のような気もしますが……まぁ
何にしても同年代の女性の中で、
彼が居なくなり、もやもやした気持ちを抱えながら、そんな寂しい思いをしつつ彼の部屋で暮らすこと早ひと月。
『クマクマクマ、我奇襲ニ成功セリ、コクリュウ撃墜ス』
とよく分からない手紙が届きました。
……
……
……
えっ? コクリュウ……って、もしかして黒竜を倒したのですか!? キーファー家がこれまで何度も何度も煮え湯を飲まされたと伝えられる、あの北に住む黒竜ですよね? それこそ黒竜退治は公爵家だけではなく王国の悲願なのですよ?
……そんなことよりも彼に何事もなくよかった……。
為政者の娘として失格なのは理解っていますが、ハリスにはどこにも行ってほしくはなかった。ずっと
『黒竜を退治したあかつきにはその全てをハリスに与える』
よくあの強欲な女の
次は……、
『ハリスは公爵家に対する恩を全て返したものとする』
これは何でしょう? そもそも彼にはこちらがお世話になっているだけで、我が家からの恩などないはずですが? いえ、もし仮にそのようなものがあったとしても、あのバカがどうこう口出しするものではないはず。本当にどうしようもない人間ですね、バカのくせに何様のつもりなのでしょうか。
……えっ!? 待ちなさい!! これは一体どういうことですか!! 何なのです!? 何なのですかこの、
『てことで私は一人……ミヅキと二人で旅に出ます』
というのは!! それに誰なのですこのミヅキという女……ああ、蛇の神様でしたね。いえ、それはどうでもいいのです!! た、旅に出る……ですって?
『フィオーラ様のことは友人として、とてもとても大切に思っておりますが、
……ふふっ、そうですか、あの男のせいですか。確かに、確かに何もなければ彼が大切な想い人の
『じゃっ、そういう感じなので探さないでください。アディオス!』
このあでぃおす? というのがよく分かりませんが、旅立つ人間にしては少々軽すぎるのではないでしょうか? まぁ『旅に出る』つまり『そのうち愛する貴女のもとに帰りますので待っていてくださいね?』ということでしょうからいいのですが。……いえ、まったくよくありませんね。
「お嬢様、お顔があまりにも邪悪です」
「失礼ね!
「そのようなことを言っているのを聞いたことはありませんが……それに今は完全に『鬼神』のお顔でしたが?」
いくら長い付き合いとはいえ、これほどの美少女を捕まえてその

ヴァンブス公爵家だけではなく東都全域、あちらこちらのお家で飲めや歌えの宴会が開かれている頃、俺とミヅキはお馬に乗ってパカポコと一路東に向かって旅をしていた。
……エルフっぽい感じの露出癖のある公爵令嬢に夕食に誘われていた? そんな人は知らない! いいね? ちゃんと公爵家のお姉様方とおこちゃまには贈り物もしておいたし、大丈夫なはず。
くそっ、いきなりヴァンブス公が帰ってくるとかどうなってんだよ! いや、あそこのお屋敷は公爵様のお
だってさ、
ちなみに金策は全然できていない。当然のように食料も補充できてないんだよなぁ。まさか街に着いて早々公爵邸に拉致られるとか思わないじゃないですか……拉致されたのに夜逃げさせられるとかどうなってんだよあの屋敷……。それもこれも今日できることは明日でいいやの精神でダラダラしてた奴、つまり俺の責任である!
……まぁ? ないものを悔やんでも仕方がないし? そう、ハリスくんのたった一つの取り柄は前向きな性格なのだから!
てかどうせ逃げるならそのまま西方面に向かえよって話なんだけどさ。ほら、せっかくここまで来たんだし? どうせなら海、見たいじゃないですか? 相変わらず行き当たりばったりが過ぎるな。元々自由気ままな二人旅だし、細かいことを気にしてはいけないのだ。
ああ、そういえば俺が子ペンちゃんに
さて、そんなこんなで相変わらず長距離の移動をしてるだけでこれといったイベント──盗賊に襲わているお姫様を助けたり、盗賊に襲われてる大商人を助けたり、盗賊に襲われている村娘を助けたりなどのありがちな出来事に遭遇することもなく、五日後に到着したのは王国の東の果て、『港町エルドベーレ』。いや、東の果てはここからまださらに東にあるヴィーゼンって村らしいんだけどね?
「ん────っ、この世界に来て初めての海の匂い!」
「あれじゃの! 血の匂いと似たところがあって暴れたくなるの!」
「ならないけどね?」
俺、今回は街に着いたらすぐに食料の補充から始めるんだ……。この旅の後半二日は肉っけもパンもなくて野菜生活だったからね? ミヅキは特に文句もなく食べてたんだけど……蛇って肉食じゃないの? てか俺の中ではそこそこの引きこもり幼女だと思ってたんだけど、旅に出てから案外いつも表情が柔らかいというか楽しそうにしてる気がする。よく分からん蛇だ。
まぁまだ時間的には昼過ぎだしな! 買い物の前にまずは昼飯だ!
見た目だけでは北都とも東都ともそれほど変わらない石造りの雑多な街並み。港町だからなのか、日に焼けた住民が多く……いや、季節的なものだろうな、特に王都と比べてクソ暑いとかないしさ。でも通りが王都よりも
街中に入って少し、辺りの露店を冷やかしながら歩いた後に目に付いた食堂になんとなく飛び込む。うむ、店員は若い娘さんか。くすんだ感じの
「えっと、この店のオススメってか、今日のオススメって何なのかな?」
「いらっしゃい! そうだねー、今日のおすすめはサバの焼いたのかアジの焼いたのかな?」
何その『焼いたの』とかいうざっくりした名前の料理。せめて塩焼きとか言ってほしいところ。
「んー、じゃあ……牛か豚か鶏にしようかな?」
「いや、うち魚料理しかやってないんだけど……」
マジかよ! あれだぞ? おっさんが一人で飯食ってる大人気ドラマでも海沿いの町なのに肉食ってるご時世だぞ? そして日本人(今ここに居る日本人は俺だけなので俺の思い込み百%だけど)はパン食に魚はあんまり合わせないんだぞ?
「くっ……な、ならせめてアジフライとかエビフライは?」
「何それ?」
ないかー……そもそも公爵家でも俺が料理する時以外はまともな揚げ物が食卓に並んだことはないし、フライって一般的じゃなさそうだもんなぁ。
てかダークエロフ(小)な娘さんにむっちゃ『こいつ何? 冷やかし? それとも嫌がらせ?』みたいな目で見られてるんだけど? 客商売がそれでいいのかと。
「なら……サバの塩焼きでいいや。スープとパン……スープだけでいいや。ミヅキもそれで構わないか?」
「うむ、魚なら
「幼女が魚を丸呑みするのとか隣で見てたらドン引きしそうな光景だから
「な、なかなか個性的な妹さんね……お姉ちゃん! サバの焼いたのふたつねー!!」
どうして俺が塩焼きって言ってるのに『焼いたの』に言い直したんだよ! 何となくその『焼いたの』って表現が俺にそこはかとない不安と不信感を
思ったよりも長い待ち時間、特にすることもなくミヅキと二人でテーブルの上に棒を積み上げるヤツを広げて楽しむ。いや、飯屋で大量の積み木を積み上げるとか普通に迷惑このうえねぇな。
そしてようやく俺
「えっと、そこの娘さん、この店は俺に何か恨みでもあるのかな?」
「ん? 初めて来るお客さんに恨みなんてあるわけないじゃん?」
キョトンとした顔で小首をかしげるプチダークエルフ。くっ、
「だったらこの明らかな手抜き料理はなんなんだよ!! もうこれ『魚の焼いたの』ですらねぇよ!! 表面積の三分の一が炭化した魚は料理とは呼ばねぇんだよ!!」
「……あんた、やっぱり子ブタのロースト亭の嫌がらせだね!?」
なんだよその
「ほう、いいだろう、文句があるなら俺が
「うっ、いいよ! 食べてやろうじゃないか!! 後で
自分の働いてる店の料理を食べる前の反応としてそれは果たして正しいのか? そして結果であるが……。
「……ごめんなさい、勘弁してください、もう無理です、体が受け付けないです」
一皿目の三割くらい食べたところでギブアップしやがったぞ、こいつ。早すぎだろ、もう少し頑張れよ! 応援に松○修○連れてくんぞ? いや、まぁ魚のお
「ほう、ならこの料理は俺に対する嫌がらせだったと、そしてお前が妙な言いがかりをつけてきたと認めるんだな?」
「……ううう……ううううう……だ、だっで……お、おね、おねえぢゃっ……んっがっ……いっしょうけんめ、にっ……」
「お前、ここで泣くのは
もちろん入ってくる客も皆無だったりする。
「あれ? これ、もしかしてクソマズイ店に勝手に入って文句を言ってる俺の方がオカシイ感じなのかな?」
「……なんかこう、申し訳ありません……クソマズくてごめんなさい……」
「うおう!? えっと……調理担当のお姉さん?」
うん、先日会った公爵令嬢が『金髪エロフ』だとしたらこちらは『白髪ダークエロフ(ばいん)』って感じのお姉さんのご登場である。問題点はやや……かなり辛気臭い感じ、ダークエルフ版TVから出てくる悪霊姉ちゃんって感じなところか? どう見ても病んでるし。正直に言おう。むっちゃ好みであると。
「じゃあそっちの娘っ子と約束したし、俺の奢りでいいからお会計してもらえる?」
「あ、あんた、私の涙ながらの訴えを聞いてたよね!? この状況で何もなかったかのようにさらっと帰っちゃう感じなんだ!?」
「だってお前の泣き方どう見ても
好みであろうとなんだろうと厄介事に自分から足を突っ込む気はないんだよなぁ。
「あ、ついでに子豚のロースト亭の場所教えてもらっていい?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
あ、今度はホントに泣きやがった……。はぁ……。

ここは東の港町エルドベーレ……の中心くらいにある飯屋。うん、まだここに居るんだ。てか場面転換した雰囲気を出したらそのまま問題ごとも消えねぇかなって思ったんだけどね? 実生活でため息ついて目を閉じたくらいで何かが好転するはずもなく。特に興味もないダークエルフ(っぽい髪色と肌色をした人間の)姉妹の苦労話を聞かされている俺とミヅキ。
てか長いよ、とても話が長いよ……腹減ったよ……。
「分かった、分かったから! とりあえず何か食わせろ!」
「あ、じゃあ私が……」
「残念ながら『私を』じゃなく『私が』ってのは遠慮したいんだよなぁ。ちょっと自分でどうにかするから
「お、
「お、おう、食ってたのは草じゃなくて野菜だけどな? まぁいいんだけどさ」
てなわけで食堂の厨房に入っていく。想像していたよりも
「整理整頓はちゃんとできるんだな?」
「すみません……料理ができなくてすみません……」
流石にあっちとこっちの公爵邸と比べれば圧倒的に食材も調味料も調理器具も足りないものだらけだが、食材の魚だけは豊富だ。……繰り返しになるけど俺、魚って特に好きでもないんだけどね? ダーク妹がオススメしてくるだけあって、サバもアジも朝どれのピチピチだな!
あ、揚げ物するには卵とパン粉が足りねぇな。ダーク妹、大至急買ってこい。代金は俺が出すから。行きたくない? お駄賃に
てことでミヅキのリクエストにお応えして、本日の昼ご飯は『サバフライ&アジフライ』である。
「チャラチャッチャッチャッチャッチャ♪ エルドベーレ三分どころで終わるはずのないクッキングー! ……ほら、拍手だ拍手」
オロオロとしながらもまばらな拍手を送ってくる調理補助……も特にしてほしくないダーク姉。他の二人? ミヅキは向こうでテーブルにへばりついてダランとしてるし、妹の方はダッシュで買い物に行かせたのでハァハァ言ってて不快指数が高かったから厨房から追い出した。
まぁアジフライもサバフライもそんなに難しい料理じゃないしな。なぜなら俺の料理スキルはランク10だから! 面倒臭いからこのまま時空庫内で魚の下処理を……流石に手抜きすぎるか。てかダーク姉がむっちゃ後ろから
とりあえず揚げ物をするにはここにある
「まずは食材の下準備! ……の前に調理器具を用意します。はい、こちらが最新式の魔導コンロと揚げ物用の鍋、さらに植物油となりますー」
「お、おー」パチパチパチ。
「圧倒的に他の調理器具も足りないので、ついでにアルミ……はなかったので強化ガラス製のバットとボウル、さらに泡立て器や菜箸も用意しますー」
「わ、わー」パチパチパチ。
「てか真水……あ、この瓶使ってるんだ? うーん……あんまり衛生的な感じがしないなぁ……いや、そもそもこの厨房からして土間だもんなぁ」
「すみません……貧乏な食堂ですみません……」
「ちょっと待ってねー! 魔導板起動、設計──よし、こちら水を出す魔道具になりますー」
言われたとおりに拍手をしていたダーク姉であるが、流石にワイヤーフレームから魔道具が完成するのを見て、目を見開いて固まってしまったようだ。
てなわけでここからは一人寂しく静かにお料理モード。
サバは三枚に下ろして半身を三等分……いや、少し大きいし四等分でいいか。アジは背開きにして腹の骨も
「揚げていきますー………………そしてお皿に盛り付ければ『むっちゃ寂しいミックスフライ定食』の完成です!」
「お、おー」パチパチパチ。
どうやらダーク姉が再起動したらしい。
「……
魔法みたいっていうかスキルなんだけどね? 姉が驚いてたのは主に機材を
てなわけで、やっとのことでミヅキとご飯。これは遅すぎた朝飯なのだろうか? それとも早めの晩飯なのだろうか? 三時のおやつという可能性も微レ存。ちなみにかけるのは公爵家に居る時に作り置きしてあった『串カツソース風ウスターソース』……長いから串カツソースでいいか? それと細かく刻んだゆで卵にマヨネーズを混ぜただけの『なんちゃってタルタルソース』である。
「ではいただき……目を見開いた妹にむっちゃ見られてるんだけど?」
「我のはやらないからな! あと揚げ物には酒が欲しいのだ! 銀色のやつ!」
「そんなものはない! ドス黒いコーラでも飲んでろ!」
幼女が昼間っから飲むんじゃねぇよ……いや、ちょっとやそっと飲んでも酔わないのは知ってるけどさ。ほら、世間体とかね?
うん、やっぱり揚げ物はいい。
「ねぇ、あたしにも一口ちょうだい?」
「お前はサバの焼いたのでも食ってろ」
あまりにもマジマジと見つめられるので、仕方なくミヅキがサバフライを一切れ差し出した。俺も仕方なくアジフライを一枚皿に移してダーク姉妹に差し出す。案外こういうところは優しい蛇なのだ。感謝しろよ? もしここに居たのが俺だけなら普通に無視して一人で食ってたぞ? そこそこの人でなしである。そもそも一人だったらとっとと店から出ていってるか。
「んー、魚もいいがやっぱり肉が一番じゃの。まぁこのタルタロス? っていうのはイケるがな」
「そんな奈落の底みたいなソース嫌すぎるだろ……でも肉がいいってのはそのとおりだな。てか野菜は持ってるんだから串カツにすればよかったな。いや、肉類はないから野菜カツ? カツ要素皆無だなそれ」
「我、それも食べたい! 野菜カツ!
「おう、しょうがねぇな! ちょっと待ってろ。揚げ物に合いそうなのは……ナスっぽいのとじゃがいもっぽいのしかねぇな。アスパラと玉ねぎも欲しかった」
「ええー? これ、今まで食べたことないくらい
「そうよね? ……私が焼いたのと同じお魚だとは信じられない……あ、タルタロスもう少しください……」
てことで、揚げナスと揚げジャガ追加。今回は姉妹の分もちゃんとある。てか魚も作ってる時に食べたいって先に言えば、普通に用意してやったのに。
「うん、油吸ったナス最高」
「我こう思うのだ、イモは揚げるのが一番旨いのではなかろうか?」
「んー、個人的にはイモは衣つけるよりやっぱりフレンチフライかポテトチップス、いや、ガレットにハッシュドポテトもいいな!」
「なんぞその料理は!? 名前の響きだけで旨そうなんじゃが!? じゃがだけにじゃが!!」
「いや、特に旨そうな響きの名前ではないと思うが……まだ食えるのか?」
「むしろなぜ食えないと思った?」
「美味しい……お野菜って火を通すとこんなに美味しかったんだ?」
「美味しい……あ、そっちに残ってるお魚
それは残ってるんじゃなくて食う暇がなかっただけなんだよ!! まぁ食っていいけど。もしこれが魚ちゃんではなく牛くんとか豚さんなら戦争になってたからな!!
さて、ポテトチップスにはスライサー──だと思うじゃん? よく切れる包丁と料理スキルがあれば普通に市販されてるレベルで薄く切れるんだぜ? もちろん面倒臭いから俺はスライサーを使うけどな! フレンチフライは皮付きのウェッジカットより細くカットしたシューストリングが好き! でもチーズソースとかかけるなら少し太めがいいよな! ちなみにポテチは堅揚げ派なのでじっくりと二度揚げする。
「芋ばっかり普通に食いすぎたな」
「我、あの薄くて硬いのなら二トンくらい食えるぞ? あと酒が欲しい」
「お昼だからコーラにしとけっつってんだろ」
「美味しい……お姉ちゃん、うち、魚料理やめてお芋の専門店にした方がいいんじゃない?」
「美味しい……あ、私にもそのコーラっていうのください……」
大人しい雰囲気を醸し出す割に、そこそこ
「ほーん、そうなんだー」
「もう少し表面上だけでも、ちゃんと聞いてますよ的な態度示そうよ!」
飯食ってからも引き続き
二人のそんな長いだけで退屈な話をまとめると、
『お父さんが亡くなってからこの食堂を一人で切り盛りしてたお母さんが急に居なくなっちゃったの! あ、誘拐されたとか失踪したとかじゃなくて、生活に疲れて若い相手──お母さんから見れば若い、私達から見れば普通のおじさん、むしろ血縁関係的にもお父さんの弟だからおじさんなんだけど──を、作って出ていっただけなんだけどね? お金を稼がないと食べていけないからお姉ちゃんが料理担当、あたしが接客配膳で営業を再開したんだけど……お姉ちゃんのお料理が壊滅的で常連さんだったお客さんも一人減り二人減り……でも増えたものもあるんだよ! そう借金! 気が付いたらそろそろ金貨百枚の大台を突破しそう……このままだと美人姉妹二人揃って金貸しに
うん、何というか……とりあえずなぜ姉を調理担当にしてしまったのか? 妹の方も料理ができるようには見えないから仕方なさそうだけどさ。そもそも飯屋じゃなく飲み屋ならそんなに難しい料理なんて出す必要もないんだしさ、見た目だけはいい姉妹の接客でキャバクラ的な飲み屋をやれば良かったのに。
あと金貨百枚の借金とか結構な額だけど……高利貸しにでも引っかかったの? ちょっと借用書見せて? ……金利的にはそうでもないな。そもそもどうしてそんなに金がかかってるんだ? 店舗は持ち店なんだろ? 毎日の食材の仕入れに金貨一枚くらい使ってる? それってこの規模の店で普通に客が入っててもペイできる仕入れ額じゃないんじゃないのか……。
いや、そもそもさ、サバとアジしかないのにどうしてそんなに仕入額がかかってるんだ? 姉がフグを捌く練習をしている? 普通に魚の塩焼きもできないのにフグとか無理がありすぎるわ! てかツッコミどころが多すぎて交通渋滞起こしてるわ! もしも俺がアドバイスするなら店は閉めてバイトでもしろよ! だな。あと焼き魚もマトモに調理できない人間がフグ料理に挑戦するとか、ちょっとした
てか回し者がどうとか言ってた子ブタのロースト亭の話はどこにいった? ああ、少し離れたところにある魚料理屋さんなんだ? お客は入ってないけど立地の良いこの店を買い取りたいって言ってるんだ? もう素直に買ってもらえよ! そして子ブタのロースト亭は何で豚料理屋じゃなく魚料理屋にそんな名前付けちゃったんだよ!!
「よし、この姉妹は見なかったことにして宿を探そう」
「いやぁぁぁぁぁ!! 妹はどうなってもいいのっ!! せめて、せめて私だけでも助けてえぇぇぇぇぇぇ!!」
「お姉ちゃん!?」
妹を犠牲に助かろうとする姉、麗しい家族愛だなー。てか、こんなお客に完全に見切りをつけられてるであろう店を俺にどうしろと?
「だって……あなたなら……あなたの料理ならこのお店を立て直せると思うの……泊まるところなら、うちの二階で……その……一部屋しかなくて、狭くてみんなでくっついて寝ないといけないけど……泊まっていって?」
「た、確かに! あんなに美味しいもの今まで食べたことなかったもん! ね? ね?」
ね? じゃねぇよ、ね? じゃ。……いや、待て! 問題はそんな
あれだぞ? これまでは貴族のお姫様方がお相手だったから指一本舌一枚触れてないだけで、ド平民の姉妹なら手を出すことも
「……ちょっといろいろとこれからのことをかんがえたいからこんばんはここでとめてもらおうかな?」
「お主、結構なバカじゃろ?」
だってチャンスじゃないですか!! もしかしたら色々と卒業できるかもしれないんだぞ!?
あれだ、そうと決まればまずは掃除からだ! 店舗部分は
……そして翌日である。うん、
てか二階は一部屋しかないわけじゃなく使えるのが一部屋なだけであって、他に二部屋ほど荷物(という名の粗大ごみ)でいっぱいだった。整理整頓はできる姉だと思ってたのに、ただ隠してただけなのかよ!! 必要なさそうなものは全て処分することに、いらないものを時空庫に放り込んで風呂とトイレにしてやった。最初からあった便所? 俺がいなくなったらまた使うだろうからそのまま。
てかダークエルフ姉妹、当然風呂になど入ったことはなく、むっちゃはしゃぎまくって床を水浸しにしてたけど……まぁ俺の家じゃないから一階に漏水してもどうでもいいや。湯上がりにチラッと見たダーク姉妹の裸体、妹の方も脱いだら、なかなか凄かったことだけは報告しておく。
ワクワクしてたのにっ! 隣で寝てたのはミヅキってどういうことなんだよっ! なんかもう違う意味で賢者タイム突入してやっぱり出ていこうかなーとか考えながら、やる気のないセイウチみたいな顔で食堂のテーブルに朝から突っ伏していた俺にダーク姉が耳元で
「今晩は……私の隣で……」
「よし、乗りかかった船だ、とりあえず今ある借金をどうにかすることから始めるか!」
てなわけでまずは金貸しのもとまで案内してもらう。いや、どういうわけだよ。もちろん全ては、売られるかもしれない不幸な姉妹を助けてやりたい一心である! 決して夜中にトイレに起きた時、少し離れたところで寝ていた薄着の姉妹が寝乱れてるのを見て、
『隣で寝てれば抱きついてきそう。あわよくば、おっぱいくらいなら生で触れそう』
などと思いついたからではない。煩悩にまみれた理由からではないのだ。そう、繰り返すが、これは母親に捨てられたという俺と同じ境遇をたどっている姉妹を助けたい一心での、崇高なる行為なのだ!
姉妹の飯屋から港方面に向かって歩くことおよそ半時間、海沿いの高台にある頑丈そうな建物が目に入る。なんていうかこう、イカツイお家だなぁ。
「もうこれちょっとした
「ううう……こわい……」
壁はコンクリートではなく木材だし、門扉も鉄製ではなく木製だけど、どう見ても広範囲に指定されている団体の本部のようである。
別にたかが金貸しだしさ、借りたものさえ返せばそんなに怖がる必要はないんだろうけどね? いざとなればこっちの後ろには本物の怖い人(大貴族様)達がいるんだしさ。相変わらずの他力本願である。こんな時のための
てかこの姉、どうしてこんなところから金なんて借りようと思ったんだ? まともな神経をしている一般人は入り口に門衛というか見張りが立ってる時点でこんなとこで金なんか借りないと思うんだけど……。遠目で観察してても仕方がないので、姉と二人並んで本部……じゃなくて金貸しの事務所に近づいていく。
「うん? こんな朝っぱらからうちになんか用か?」
「むしろ用もなしにこんなとこ来るわけないだろ? あとお客様に対する口の聞き方を一から教えてもらってこいチンピラ。とりあえずそこそこの商談だ、一番偉い奴のとこに案内してもらえるかな?」
「このガキ、口の聞き方を覚えるのは
「同じことをもう一度繰り返し説明してほしいのか、ドサンピン? それともさっさと言ったとおりにするか?」
持っててよかった威圧スキル。てかどうしていきなり
てか奥に引っ込んだチンピラが戻ってきたのはいいんだけど、なにやら道具を持ったチンピラを一ダースくらい引き連れてきたよ……。
「おい、朝からカチコミかけてきたっていうからどんな連中かと思ったら、子供と女じゃねぇか!! ……てかそいつ、うちで金借りてるおやっさんの女だろ? こんな時間に借金の返済か?」
特に面白いことは言ってないのにドッと笑うチンピラーズ。何が琴線に触れたのかまったく分からねぇ……これがジェネレーションギャップってヤツなのだろうか?
ちなみにダークエルフ姉、生まれたての子鹿みたいにプルプル震えながら顔真っ青にしてるな。
「あ、姉はもう帰っていいよ? とりあえずその借金の証文だけ預かるから。あ、朝飯は適当に……俺が何か食材を買って帰るから自分で何か作ろうとしないように。いいか? 姉は何もしなくていいからね? 言わなくても分かってるだろうけど妹にも何もさせるなよ?」
「お魚なら……毎日仕入れてるから届いてるよ? あなたのために……焼いておきましょうか?」
「本当に俺のためを思うなら絶対に何もしないでね? もしも戻ってテーブルの上に消し炭になった焼き魚があったらそのままお
ちゃんと
「この人数に囲まれて女とイチャつくとかなかなか図太いガキだな……」
内容的にはどう考えても業務連絡だっただろうが! 姉がそそくさと帰っていくのを見送った後、チンピラ集団に向き直り、一応挨拶しておく。
「おう、出迎えご苦労だな。早速案内してもらおうか」
「なんだこの無駄に偉そうなガキは……」
てことで通されたのは……案外普通の客間である。掛け軸も日本刀も
その部屋で木製のスツールっぽい椅子に腰を下ろして待っていたのは人相の悪い……そんなに
利率が年五%くらいだもん。もちろん複利ではないし。聞いたところによるとこの組長(じゃなくて社長? 店主? 商会長?)、ダークエルフ姉の幼なじみらしい。あの姉が三十前後には見えないし、このおっさんが老け顔なだけでもしかすると兄ちゃんなのだろうか?
「んー……つまり年の離れた初恋の娘さんが困ってたから仕方なくお金を貸したけど、まったく返済される気配も返済する気持ちもなさそうなので、おっさんもほとほと困り果てていたと?」
「おう、いや、初恋とかぜってぇにねぇけどな? アレ、見てくれだけはいいけど性格とか色々問題がありすぎるからな? あと俺はまだ二十代だ! おっさんじゃねぇ!!」
「でもそんなちょっと抜けたところが可愛いと? アバタもエクボってヤツだな?」
「んなわけあるかっ!! いや、昔な、俺がまだこんなちっせぇ時にかぁちゃんが死んじまってな?
「なるほど、手を貸すついでに手も出していたと? まぁその金は全てフグを捌く練習に消えたわけだが」
「絶対に手とか出さねぇよ! いや、ちょっと待て! フグってなんだよ! フグって! あいつホントに何やってんだ!?」
俺も昨日今日知り合ったばかりなんだから、こっちが聞きたいわ。
「てか姉の話ではそろそろ身売りさせられるみたいなこと言ってたけど?」
「昔世話になった恩人の娘にそんなことするはずないだろうが! そうでなくともこの国でそんなことしてるのが見つかったら伯爵様に縛り首にされちまうだろうがよ!」
「えー、でもそこの……いや、全員人相悪いから、どいつだったかまったく見分けがつかないけど、見張りをしていた男が『姉ちゃんを○○して○○したうえで薬漬けにして他所の国に売り飛ばしてやる!!』って大声で言ってたぞ?」
「そこまでは言ってねぇよっ!?」
おお、お前がさっきの門番か。何となく見覚えがあるようなないような?
「てかなぁ、悪徳高利貸しならそのまま暴れて建物ごと吹き飛ばして借金ごと命もチャラにしてやろうと思ってたけど、普通の金貸しだとそうもいかないしなぁ」
「お前そんな恐ろしいこと考えてたのかよ!? おい、誰だこんな物騒なガキを確認なく中に入れたのは!?」
ちなみに俺の手持ちのお金は掻き集めて金貨で十枚くらい……。いや、そもそも俺があの姉妹のために借金の清算までしてやる義理なんてないんだけどさ。
「んー……ここってちょっとヤバめの品物とか捌ける感じの組なの?」
「マジ勘弁してくれ! うちは至って真っ当な建設業兼金貸しなんだよ!!」
『真っ当な建設業兼金貸し』って何だよ。日本人としては結構なパワーワードだぞそれ。いや、建築関係の会社はほぼ真っ当なんだろうけどさ、金貸しってもうそれだけでイメージがほら。ミナミの○ちゃんにしても、ウシ○マくんにしても……それ両方闇金じゃねぇか!
「チッ、悪人面の老け顔のくせに」
「てめぇそのうちぶっ飛ばしてやるからな……」
真っ当だって本人が言い張るなら魔水晶の密売は無理っぽいか。別に禁制品でもないから密売する必要もないんだけどさ。ん? いや、てかここって、
「建設業……建設業っていうと地上げとかしてるんだよな?」
「お前ぇ完全に俺の顔で仕事の判断してるだろ? ちげぇよ! 普通に建物を建てたり解体したり土地をならしたり」
「転がしたり?」
「そうだよ! 売りたい方から高く買い取って、買いたい方にお求めやすい値段で売ってるんだよ! いや、そもそも土地の売買はほとんどしてねぇんだけどな!」
「その仕事は、特に『解体とか土地をならしたり』の仕事は今もあるのか?」
「会話しろよ! 自分の言いたいことだけ言ってねぇでちゃんと会話しろよ! あるどころか近頃は建て替えも多いから大忙しなんだけどな! 最近釘も木材も不足気味だわ、なのに朝っぱらから妙なガキの相手させられるわ……今日はとんだ厄日だよ……」
ふむふむ……。
「よし、なら俺がその
「猫の手もガキの手も借りたいくらいだけど、お前一人雇ったくらいで進むような仕事じゃねぇんだけどなぁ……」
文句を言いながらも出掛ける用意を始めるおっさん。事務所を出る前にテキパキと仕事の指示まで出してるところを見ると、なかなかのやり手なのだろう。
「ふむ……ヨシ! おっさんには姉との交際と妹の面倒を見ることを許してやろう」
「お前の今のヨシ! は、どこから目線なんだよ! あとマジでそれだけは勘弁してくれ、大事な従業員が路頭に迷うことになっちまうから!」
どんだけなんだよあの姉妹……。
ヤ○ザの事務所……ではなく金貸しの事務所『マクレーレ商会』から男二人、テクテク歩いてやってきたのは一番近場の手付かずの解体現場。あれだ、何だかんだ言いながらもよく知らない子供を現地まで案内してくれるんだから。マジで良い金貸しなんだろうなおっさん。人相は悪いけど。繰り返すけどおっさんじゃなくて兄ちゃんな年齢らしいんだけどね? 老け顔だから仕方ない。大切なことなのでもう一度言っておきました。
案内された場所に立つ建物……三階建てくらいの……なんだろう? ああ、倉庫なんだ? 確かに港町といえば貸倉庫だもんな! なんでも古くなった倉庫の天井が崩れそうで危険なので早急に建て替えたいらしい。
「いや、お前が連れていけって言うから連れてきてはみたけど……これからどうするつもりなんだよ?」
「ん? ああ、もちろん取り壊しと整地だよ。ちなみにここの倉庫の取り壊しと整地、いくらで引き受けた?」
「んなこと部外者に言えるわけねぇだろうが!!」
守秘義務もちゃんとしてるらしい。あれだなこの世界の人相の悪いおっさん、案外ちゃんとしてて、好感を持てる人間が多いよな。
「んー、取り壊した後の廃材、木材とか釘とか
「この倉庫の建材なんて古すぎて
「それ、埋め立てという名の不法投棄だよね? 了解、なら鉄は全部返却、木材は……まぁ半分は返してやるか。そして瓦礫は全部俺の物……っと。崩れてくることはないだろうけど少し離れててもらっていいかな?」
「おう? ああ、いいけどホントに何する気だよ? マジでいつ崩れるか分かんねぇんだから中に入ろうとか思うなよ?
おっさんといつの間にかついてきていた取り巻きのチンピラ(商会長と社員とも言う)が、建物から離れたので倉庫ごと時空庫に取り込む。えっ? お前そんなことできたの? って? うん、時空庫がランク10になって普通に使う分にはほぼ無制限になったからね? 条件としては中に人が居ないとか自分の持ち物or持ち主の許可を得ているとかの縛りはあるけど、できるようになった。
上物(建物)がなくなれば普通に土魔法で整地して……っと、
「完了ー、一応ちゃんとできてるか確認してもらえる……なんでむさ苦しい顔のおっさんが
「……えっと、俺、寝てないよな? 起きてるよな? えっ? ボロ倉庫どこ? いきなり消えたぞ!? てか地面も勝手にウネウネ動いて真っ平らになったぞ!?」
「そりゃそんな日もあるだろ」
「絶対にねぇわ!!」
てなわけでそのままあと二カ所ほど現場を回って上物の回収と整地を行い、午前中には姉妹の借金返済を完了した。いや、最初の倉庫だけでも十分だって言われたんだけどね? 流石に
「いや、マジでお前……何もんだよ? 悪魔なのか? それとも魔王?」
「どうして神様とか使徒様とか天使様とか出てこないのかな?」
「見た目はそんな感じだけどお前の内面はどう考えても悪人寄りだろうが……。てか最初に言ってた『暴れて建物ごと吹き飛ばす』ってのも、もしかしたらマジだったのか……?」
「テヘッ☆ あれだぞ?
「おっかねぇなおい!? マジかこいつ……いや、まぁそれはそれとして随分と助かったわ。そこそこ工期に遅れが出てたから大助かりだ! あと姉妹はお前が貰ってやってくれ!」
うん、余計なことは言わないし余計なことは聞かない。なかなかできた商売人である。人相は悪いけど。
「じゃあこれで、あの姉妹の借金はチャラってことで……受け取りと原本の破棄をよろしく。腹も減ったし、表に鉄と回収した木材の半分を置いてとっとと帰るわ」
「いや、手間賃にそれは持って帰ってくんねぇか? ……これ、借金の受け取りな? てかマジでこっちが追加で工賃その他支払わなくちゃいけねぇ側だけどいいのか?」
「ふっ、口約束でも約束だろ? 最後まで契約は果たす、それがプロの仕事なのだ」
木材で事務所の出入り口を全て囲って誰も出られなくしたら面白いかもと思ったが、おっさんが途方に暮れて泣きそうなので流石に止めておいた。鉄はインゴットにして全部……っと。木材は太めの角材にしておけばいいかな? てかホント便利だよな錬金スキルと設計スキルと関連の属性魔法スキル。リサイクル率百%とかエコ超えてエコエコアザラクじゃね? 俺は魔界から何を呼び出すつもりなんだ。
さて、帰って朝飯……じゃなくて昼飯だな!
「表に出てみたら大量の
(他人の)借金の返済も終わったので一旦『閑古鳥が鳴く飯屋』こと姉妹の食堂に戻る。ああ、一応店名もあるんだよ? 『マトゥ屋』っていう。なんか牛丼とか売ってそうなのに出てくるのが炭化した魚だけってどういうことなんだよ……。もちろん帰り道に野菜やらソーセージやら色んな食材を買い集めながらな! あ、揚げ物するなら卵も大量に買わなきゃ……くっ、高いな卵。
てか店名が出たついでに姉妹の名前も一応? 姉の方は『リアーニャ』で妹の方は『リアーティ』と言うらしい。特に名前で呼ぶ予定もないのでどうでもいいんだけどな!
「ただいまー……でいいのか? 百%赤の他人の家なんだけど」
「遅いのじゃ!! 我すでに空腹で死にそうなのだ!!」
「いや、ミヅキは何百年も石の中に居て飲まず食わずでも平気だったじゃん」
「うちはうち、よそはよそって言うじゃろが?」
うん、言いたいことは分かるけど使い方は間違ってるわそれ。
「あ、あの……どうだったでしょうか……?」
「ん? ああ、とりあえず借りてた分は俺が立て替えといたから大丈夫だ」
「そうですか……あ、今から……します?」
「真っ昼間から何の話をしてるんだお前は……」
どうして借金を立て替えるイコール体で返せと迫られるみたいな認識になってんだよ……。もちろん興味がないわけではないがな! でもそれ、元勇者的にはもの凄く引っかかるんだよなぁ。ほら、そういうのは愛とか恋とかお互いの
ああ、分かってるとは思うけど、払っておいたではなく立て替えたと言ったのは美人姉妹の体が目的なわけではなくこの姉の性格を鑑みてのことである。だってほら、この姉妹ってヤ○ザのおっさん改め、幼なじみの商会長の話を聞いてるとちょっとほら……な? 見た目はいいのに性格がアレすぎるからさ。内向的な雰囲気のくせにそこそこ図々しく、なおかつ魚を普通に焼くこともできないのに
まぁそんなことはどうでもいいとして昼食である! もちろん少し考えもあるので、
「ミヅキ、昨日に続いて今日も揚げ物だけど構わないか? 今日はウインナーもあるぞ?」
「どんと来いなのだ! 肉多めで!!」
今日も油ものである。いや、肉はそんなに使えないからね? だってお客さん用だから。
「よし、姉、今から魚の捌き方、その他もろもろ教えるからついてこい!」
「えっと……二人きりで二階に?」
「魚捌くっつってんだろうが!!」
てなわけで魚を捌く、開く、下ろす!!
いや、そいつ(姉)魚下ろせないじゃん? って? ふふっ、そのへんはほら、俺にはアレがあるじゃないですか? そう、覚醒はしたものの使い道の見つからなかった『みんなでやりなおし』。実験も兼ねて姉で試してみた。相手に接触しないといけないらしいから、
「ちょっと手を出してもらっていい?」
って言ったら、
「ここでするの? もちろん嫌とかじゃないんだよ? でも声が妹に聞こえたりしたらちょっと恥ずかしいし、でもあなたがそういうの好きなんだったらもちろん全部受け入れるつもりだから」
と、今までになく
「今から料理が上達する魔法を掛ける!」
何だその使い道がピンポイントすぎる魔法は。
魔導板さんのクランリストに名前の書き込みは……特に問題なく完了。ミヅキに続き二人目のクラン登録成功である!
続きましては姉のステイタス及びスキルの確認……この子、何ヶ月もフグ捌く練習してたんだよね? なのにどうして料理スキルにほとんど経験値が入ってないのかな? 代わりに錬金スキルがランク1になってるけど……マジで何を作ってたんだろうかこいつは……。
てか俺の経験値の貸し出しとかできないのかな?
『可能です』
できるんだ!? えっ、何それ凄い……。いや、そうでもないか? だって貸し出しても俺には何のメリットもないもんな。いや、でも貸せるってことは逆もできるんだよな? つまり大量にクランメンバーを増やしてダンジョンにでも送り込んでおけば経験値ガッポリ……管理が面倒だし親しい人間じゃないとクランに登録できないから、もしその人が死んだらとか考えちゃうとメンタル面で病みそうで無理だわ。
まぁ今は目の前のダーク姉のことだな。手を繋いでからずっと目を閉じて控えめに唇をこちらに向かって突き出してるけど、こいつは地雷だと知っているので流されないように必死に我慢する。いきなりスキルを上げすぎても挙動がおかしなことになりそうなので、姉の料理スキルをランク3に、4しかなかった器用さを10まで上げておく。
「じゃあ最初は俺が手本を見せるからしっかり見ててね?」
「えっと、はい……でも……私、お料理は苦手で……」
「ならどうして調理担当なんてしてるのか……大丈夫、今は俺が魔法を掛けてあるからな!」
と、またまた適当なことを言ってごまかしつつも見学させる。だって器用さも料理スキルランクも俺以外のこの街にいるどの料理人よりも高いはずだからね? 見てればちゃんと理解できる……はず。
料理の工程を一通り見せた後は、もちろん姉が包丁を握り実践である。
「う、嘘……!? 私にもできる……お魚を……解剖できるっ!?」
「解剖じゃなく解体ね? なんかあんまり違わない気もするけど。実験感覚で料理するのは止めようね?」
てなわけでお魚の下ごしらえは姉に任せて俺は野菜とウインナーの下ごしらえ、それと揚げる役もだな。ちなみに揚げ物の匂いが外に広がるように風魔法で拡散するのも忘れない。
あ、先にメニューの看板を何枚か作っておかないと。
『王都名物クシカツテイショク、パン付き大銅貨三枚』
『キンッキンに冷やしたエール、大銅貨一枚』っと。
Q:大銅貨三枚っていくらくらい?
A:感覚では千円から千五百円くらい。店に入って食べるお昼ご飯(食事のみ)としては一般的な店の一・五倍から二倍の金額だな。
ちょっとお高いけど王都名物だからね? あと油って高いからこれでもお得価格なんだよ?
「おう、ミヅキ、そして座ってるだけの妹もお待たせ。今日のメニューは『串カツ盛り合わせ(串なし)』だぞ」
「本当にずいぶんと待ったのだ!」
「ちょっとあんた! 私に対する当たりだけキツイんじゃないの!?」
だって妹、現状ただの役立たずだし……。食ってるついでにソースのかかった揚げ物の匂いも近隣に満遍なく広げていく。そして全員が食べ終わる頃に、
「あの……私のご飯は……?」
「あっ」
「完全に忘れてましたよね……? いえ……いいんですよ? どうせ私なんて何の役にも立たないですし……」
「悪い悪い、ほら、コーラも出してやるからな? こっちに掛けたまえ、ヨシヨシしてやるから」
「私もコーラが欲しいです! あとヨシヨシも!」
「えっ? 座ってただけなのに?」
「ううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
「冗談だから! ほら!」
妹はあまりいじると泣いてしまうから要注意だな。姉が何ご飯か分からないご飯を食べ始めてから五分ほど
「お、ここか! なんかすげぇいい匂いがするんだけど、ここって一体何屋なんだ?」
「らぁぁぁあぁぁっしゃぁぁぁぁっせーっ!」
「何じゃそれは?」
「よく来たな、の上位系?」
ちなみに最上位系は『ウェーイ』らしい。
てなわけで新生姉妹食堂(響きが完全に夜のお店だなこれ)の第一号のお客である!
「ふっ、あんた達は運がいい! この店はなんと王都でも大貴族様しか食べられないと言われている『カツ』が食べられる店だよ! 調理に油を大量に使うからお値段は少しだけ高いけど値段以上の味は保証するよ!!」
「えらい威勢のいい子供だな! てか確かにちょっと高いがこの匂いは間違いなく旨いヤツのはずだ! よし、迷宮から怪我なく戻ってきた祝いだ! 四人分たのまぁ!」
「ヨロコンデー!! 定食四丁入りましたぁーっ!!」
と、奥に声を掛けてから調理場に向かう。
「奥に誰か居るんじゃなくてお前が行くのかよ!!」
だって姉、普通にまだ食べてるし? 調理を全部任せるのはまだ不安だし? 下ごしらえはほとんど終わってるからそんなに手間は掛からないんだけどさ。
ちなみに本日の盛り合わせの内容は『魚のフライ二種類、野菜三種類、ウインナー』である。仕入れ値が安いならエビを是非とも加えたいところだな。俺、
まぁそんなことはどうでもいいとして、お皿に盛り付けたら上からソースをたっぷりと。ホントは各テーブルに置きたいんだけどさ。ほら、持って帰っちゃう奴とかいそうだから。この世界、治安というか常識というか一般人のモラルに期待できるほど成熟した社会ではないのだ。世界一の治安を誇る日本にだって持って帰っちゃう奴いるからね? てか俺が転生する前の日本もかなり
そしてマヨかタルタルも添えたいけど原価が上がっちゃうから見送りってことで。現状でも原価で大銅貨一枚程度掛かってるからね?
「テイショク追加で三つお願いしますー!」「定食三丁追加あざーす!!」
店の方から妹の声、どうやらお客が増えたらしい。
「お先三番テーブル、四名様お待たせしましたー!」
「おお!! むっちゃ旨そうな匂い!! はふっ(熱っ)!? てか旨っ!? 何だこれ!?」
「ちなみにエールと一緒ならもっと旨いっすよー!!」
「おまっ、商売
「エール四つ入りましたー!!」
「だからどうして自分で行くのに叫ぶんだよ!!」
もちろんそれが
「てかなんだこのエール!? 入れ物までむっちゃ冷たいんだけど!? まだ外はくっそ暑いのにどうなってんだこれ!! ……っかぁぁあぁぁ!! てかうめぇな!! いつもと全然味がちげぇんだけど!? 冷えてるだけでこんなに旨いのかよ!!」
「テイショク二つ入りましたー!」「定食二丁ヨロコンデー!!」
あれだな、俺は(能力値のお陰で)百人いっぺんに注文されようが覚えられそうだけど、閑古鳥が鳴いていた店の接客しか経験のない妹が、パニック起こしそうだから早急に伝票が必要だな。ミヅキ? 食い終わったら二階に上がっていったから、たぶん昼寝じゃないかな?
……
……
……
てなわけで二時間足らずで本日の営業は終了である。いや、魚がね? 在庫切れになったから閉店するしかなくてさ。とりあえず最後まで待ってくれてたお客さんには野菜の揚げたのを味見してもらって帰っていただいたので、そこまでの不満はない……はず。
「いっぱい声出しすぎて喉が痛いよ……」
「うう……腕痛い……」
「そこまで言うほど働いてないと思うんだけどなぁ。今までどんな怠惰な生活送ってたんだよ……まぁいいか、妹も姉も今日は一日よく頑張ったな!」
「ていうかどうしていまだに妹なのよ、普通に名前で呼びなさいよ」
「……私も」
「だってほら、変に情を移しちゃうと捨てる時に困りそうだし?」
「犬扱い!? ていうか捨てるの前提なんだ!?」
だって俺旅人だよ? どう考えてもそんなに長居するわけないじゃん。
「まぁそれはそれとして、本日の売上発表ー」
「わー」パチパチパチ。
「わ、わー」パチ……パチ。
「……わー」ボソッ。
「本日の売上は、大銅貨で『百十三枚』でした!! ……思ったほど儲からないな飯屋。いや、まぁ材料が切れたから営業時間も短かったし仕方ないのか? 仕入れとか差し引いたら純利益は大銅貨六十枚から七十枚ってとこか」
「お客さん三十人入ったか入ってないかで大銅貨百十三枚……」
「凄い売上……」
ちなみにこの日の売上は仕入れ値を大きく下回っていました。なぜなら……昨日フグの仕入れを止め忘れていたから。慌てて仕入先の漁師──あ、一応組合みたいなのがあるんだ?──のところに行って明日からの仕入れの種類と量を変更したのは言うまでもない。もちろんフライに使うお魚さんは追加で注文しておく。
出てきたついでに晩ご飯の買い物もしていくかな。あ、エビあるじゃん!! ……でもそれほどお安くはないな。そこそこの大きさで一尾銅貨五枚くらいするもん。まぁ買っちゃうんだけどね、食べたいし。マジでそろそろ金策しとかないと財布の底が見えてきたな……。
ちなみにイカとかタコはむっちゃ安い。あ、イカもリング揚げにすればいいかな? タコは……別にいらないや。ソースがあるんだからたこ焼きも作らないのかって? そもそもあれって本当にタコが必要か? チーズとかウインナーでいいじゃん。俺のウインナーに対する根拠のない信頼感が凄い。いや、この世界というか、この街だとウインナーよりタコの方が圧倒的に安いんだけどさ。王国ではチーズも結構ビックリするようなお値段するしね。
そして野菜も追加で。玉ねぎ、カボチャにナス。あ、カボチャは串カツじゃなく天ぷらだな。ちなみにキノコ類は俺が嫌いだから……だけじゃなく、お高いので使えない。しいたけの栽培とかたぶんしてないだろうし、天然物だから都市部の平民の食卓に上がるにはお値段的に厳しいのだ。
それでもなんだかんだと好き勝手に買っていってるから食材いっぱいだけど……時空庫に入れておけば傷まないからいいよね。てか肉屋、肉屋はどこですか!!
帰宅後は、ちゃちゃっとご飯の用意。よく働いたから空腹なのだ。
「今日の晩ご飯は姉が無駄に何匹も仕入れていたフグを使った、フグの唐揚げ定食ですー」
エビフライにしようと思ったんだけどね? 姉がどうしても捌くのを見たいって言うから……。白子? もちろん捨てるのはもったいないのでミヅキの晩ご飯だ。焼いたのと揚げ物と。あ、もちろん白子に毒のない異世界トラフグだからね? てか姉の買ってたフグ、白子付きだから余計に高かったんじゃね? てかフグって何となく冬に食べる魚ってイメージなんだけど夏でも
異世界の季節感、というか地球と同じ生き物かどうかも不明だから気にしたら負けだな。そもそもこのフグって毒を持ってるのかな? 食べる餌で変わってきたりするんだよね? 色々と疑問はあるけど……そのつど魔導板さんに質問、説明してもらって事なきを得ながら料理を続行。
あ、唐揚げはとても美味しかったです! あと白子は姉と妹も涙を流しながら食べてました。
まぁ港町に住んでる人からしても白子は高級品らしいから喜んでもらえたならなにより。

『そもそも俺はここで何をしてるんだろう?』
と思わなくもないむしろ毎日思いながらも食堂を手伝うこと早二週間。いや、この国には週って単位がないんだけどさ。十日(小月)で
近所のご飯屋さんと比べてもそこそこお高いのに、
「姉も調理を覚えたので俺とミヅキはそろそろというか、これから用意でき次第ここを出ようと思っている」
「えっ?」
「……えっ?」
先に妹が、ワンテンポ遅れて姉が驚いた声を出す。
「いや、特に驚くことでもないだろうが。むしろなぜここにこんなに長期滞在しているのかの方が不思議なくらいだし」
「いや、だって私もお姉ちゃんもお嫁さんにしてくれるんじゃないの? だって借金返済してくれたうえにお店の立て直しまでしてくれたのに」
「……うん……妹はどうでもいいけど私はお嫁さんに……」
「お姉ちゃん!?」
いえ、一切そんな気はないですけど? だいたい俺が長期の客商売とかできるはずないじゃん。なおかつ魚……見るのも捌くのも飽きた。てか俺の隣にはいつもミヅキが寝てたから姉妹には指一本入れても……じゃなく触れてもいませんし? 嫁とかありえん。
「まぁ資金がそこそこ
「いや、そういう問題じゃなくてさ……ハリスは私のこと嫌いなの?」
「妹のことだけ嫌い……?」
「もちろん体に関しては大好きだけどね? それ以外はこれといって好ましい要素が……」
「最低だこいつ!?」
まぁ半月も四六時中一緒にいりゃそれなりに好意も愛着も湧くけどさ、それはそれ、これはこれなのだ。あれだけ世話になったフィオーラ嬢を振り切って出てきた俺なのである。逆に世話をした姉妹を置き去りにするくらいなんてことはないのだ!
「この近くに来ることがあればまた寄る……こともあるかもしれないような、ないかもしれないような?」
「そこはちゃんと寄りなさいよ! はぁ……そうだよね、いまだに名前ですら呼んでくれないもんね? むしろあんた、私達の名前知らないでしょ? いいわよ! どこにでも行きなさいよ!」
「妹はいい……でも私だけでも連れていって……」
「お姉ちゃん!?」
隙あらば妹を切り捨てようとする姉。
「おう、お互いに元気でまた会う日まで、だな。じゃあな、リアーニャ、リアーティ!」
「し、知ってるならもっと早く呼びなさいよバカっ!! 絶対にまた来てよっ! 約束だからねっ!! …………ありがとうハリス! 絶対、絶対また来てねっ!!」
てことで用意……といっても流石に置いていくわけにはいかないトイレ(ほら、転移魔法がさ)だけしまい込んで店を出る。一応他の魔道具にもちょこちょこっと防犯的な仕掛けはしてあるんだけどね? 流石に持ち出されて使われるのは少々問題があるシロモノだから。
後ろから二人の


「別にあそこで
「お前はノーバインだからな? んー……いや、アレは俺が求めてる生活じゃないしな。俺がしたいのは……うん、まだ特に思いつかないけど! まぁ今はこうしてミヅキと二人で旅するってのが楽しいんだからそれでいいだろ?」
「ふふっ、まぁそうじゃの」
店の裏手に
今回は暇を見て無属性の魔水晶なども
そして今回の目的地はもちろん最果ての村、いや、村というほどの規模があるかどうかも分からない開拓地みたいなところらしいんだけどさ。ここから東にまたまた約五日の距離である。そこで記念に『俺様参上!』みたいな石碑を建てたら一旦ここまで戻って……どこに行こう? 西の帝国でも見に行くか、それとも船に乗って北の皇国か南の商国でも目指すか。適当な無人島を勝手に占拠したりするのもいいかもしれないな! でも鉄でできた船ですら沈むのにエルドベーレの港で見たこの世界の船で旅はなぁ、あまりしたいとも思えん。船自体は大好きなんだよ? 帆船もフェリーも、一番好きなのは豪華客船だけど。もちろん乗ったことはない。まぁ最悪沈んでも水の上を歩いたりもできるんだけどさ。
全ての道は王都に通ずる、地の果て目指して三千里。いやそんなに距離はないな。
てかさ、出発三日目まではまぁ良かったんだよ? 村らしい村もほとんどなかったけど、道らしい道はあったから。四日目くらいからはあれだぞ? 道なのかただの荒れ地なのか分からない感じだったからな?
そして五日目の夕方……。
「うん、何となく民家が……ちらほらと見えるような見えないような? ここが目的地ってことでいいのか?」
「我に聞かれても分かるはずなかろうが……」
確かにそりゃそうだな。
「何というかこう、達成感も何もねぇな」
「見渡しても特に何があるわけでもない海辺っていうだけで、ただの寂れた土地じゃからの」
「とりあえず泊まるところ……あるとも思えねぇなこれ。まぁいいや、あそこにあるボロい体育館というか市民会館みたいなところで聞いてみるか」
「なんじゃその聞き慣れない代物は……」
丘の上に立つ体育館のような建物、いや見た目はまんま
「ちょっとしたお化け屋敷だな」
「大きなお世話よ」
「おおう!? どこから出てきた……そんなとこで
「どうしてわざわざ自分
おそらくは家庭菜園……って規模でもない広さの畑でなんらかの作業でもしていたのであろう、ちみっこに声を掛けられた。
「ふむ、顔を見る限りでは貧乏農家の娘って感じでもないけど、お嬢ちゃんはここの家の子かい?」
「色々と失礼ねあなた!? そもそもこの家は農家ではないわよ!! 聞いて驚きなさい、この屋敷はヴィーゼンを治めるヴァイデ準男爵様のお屋敷よ!!」
「あ、このボロボロの体育館、壊れかけの倉庫じゃなく人が住んでるんだ?」
「あなた本当に……いえ、まぁいいわ。私は
むっちゃキレてるじゃん、てか元気な子だなぁ。
ただなんとなく立ち寄ってみただけの最果ての村。
そこで農作業をしていた、少し生意気な少女とまさかこれから長い付き合いになろうとは……この時の俺は知る由もなかったのだった。