『戦メリ』の舞台、ラロトンガ島で体験した、

デビッド・ボウイの「ティータイム事件」。



 デビッド・ボウイも亡くなった。2016年1月の突然の訃報にはビックリしたね。亡くなったのは69歳だったけど、新曲も出したばっかりだったし、まだバリバリの現役って感じだったからさ。がんで苦しんでいたのを、それまで必死で隠していたのかな。

 オイラがデビッド・ボウイについて語るとなると、やっぱり大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』になるよね。

 あの映画は83年公開なんだけど、とにかく今じゃ考えられないことばかりでさ。当時、映画とは縁もゆかりもなかったオイラと坂本龍一と、そしてデビッド・ボウイというド素人の3人がそろって主役級のキャストをやっちまった。相当なカネがかかっていたのに平気でとんでもない暴挙をやってのけた、奇跡みたいな映画だったよ。


 まァ、この映画に関しちゃ笑える話がいっぱいあってさ。撮影終了後から「グランプリ最有力」といわれたカンヌで受賞できずにズッコケるまで、オイラはことあるごとに『オールナイトニッポン』なんかで、撮影の裏話をしゃべりまくっていたんだよな。

 もうバカバカしい話だらけなんだけど、ネタのほとんどは大島監督の話でさ。あの人は現場でとんでもないカミナリを落とすんだけど、どこか間が抜けていて愛嬌があるんで、最後には笑っちゃう。

 有名なのが「トカゲ事件」だよな。映画の冒頭に出てくるトカゲが思うような動きをしないんで大島監督がイライラしちゃって、そのトカゲに向かって「おい、お前はどこの事務所だ!」って本気で怒鳴ったという(笑)。このネタなんて、何回しゃべったかわかりゃしねぇぞ。

 あとは「よ~いスタート事件」だよ。キャスター付きの椅子に座ってた大島さんが、メガホンで「よ~いスタート!」って叫んだら、自分の声がデカ過ぎてそのまま後ろにドーンと下がっていったというね。「お前はジェット機か!」ってオチなんだよな。

 まァ、オイラはそんなくだらない話をラロトンガ島でのロケでも周りに披露していてさ。撮影の合間には、坂本龍一やジョニー大倉相手にバカばっかりやっていたんだよ。だけど、デビッド・ボウイと直接話すってことはそれほど多くなかったな。あの人はやっぱり世界でもトップクラスのスーパースターなんで、周りには外国人のスタッフやらボディガードみたいのが四六時中ついててさ。とても自由に雑談って雰囲気じゃなかったんだよな。

 だけど、当のデビッド・ボウイはオイラたちに興味津々でね。オイラが早口でギャンギャンしゃべって笑いをとっているのを覗き込むように見ていたし、ときには言葉がわからないはずなのにゲラゲラ笑ってることもあったね。あの人の音楽もそうだけど、現場で新しいものとか、未知のものを取り入れようとしてたんじゃないかって気がするよ。


 それに、誰に対しても壁を作らない人だったね。印象的だったのは、しょう軍人役のエキストラで島に来ていた外国人の身体障害者たちと、昔からの仲間のように酒盛りをやっていたときの笑顔だよ。もう、偉ぶるところはまったくない。だからこそ時代に左右されないスーパースターだったと思うんだ。


 そんなデビッド・ボウイだけど、大島さんもさすがに困ってたのは「ティータイム」だよ。イギリス紳士なんで10時と15時にお茶を飲む休憩をとらなきゃいけないっていうわけ。どんなに撮影がおしていても「ハイ! ティータイム」となっちゃうんで、もう大変でさ。デビッド・ボウイを怒鳴るわけにもいかないんで、代わりに撮影スタッフに監督のカミナリが落ちてしまうという毎日だったんだよな。

 デビッド・ボウイと坂本龍一とオイラを組み合わせた大島監督ってのは、考えれば考えるほど「狂気の人」だぞ。オイラも坂本も自分の演技が下手くそなのはわかってるんで、「フィルムを焼こう」なんて話してたぐらい。それでも結果的には、オイラはこれをきっかけに映画の世界に引きずり込まれちまったんだよな。

『戦メリ』のラストシーンのオイラの顔なんて、世間は「感動した」っていうけど、当時のオイラにとっちゃ「オレがこんな顔するのか」って思うほど意外でイヤな表情だった。そういう、若かったオイラや坂本、デビッド・ボウイが気づいていなかった「自分の本質」みたいなものが、あの人には見えていたのかもしれない。

 だから奇跡みたいなアクシデントも起こったんだ。セリアズ少佐役のデビッド・ボウイが、ヨノイ大尉役の坂本龍一に抱きつく有名なシーン、知ってるだろ? あの時に画面がカッカッカッて揺れるんだよ。どう見たって狙ってやったとしか思えないんだけど、実はアレ、カメラの不具合でたまたまフィルムが引っかかっただけだった。映像をチェックしてみんな青くなってたんだけど、映画で一番いいシーンだから、そのまま使うことにしたんだ。大失態がバツグンの演出といわれるようになったんだからすごいよな。

 大島監督だけじゃなく、ツキを持ってた人間が多かったからかな。まァ、何度も言うようにカンヌは獲れなかったんだけどさ。オイラなんて、受賞作発表前日に「受賞後に取材したんじゃ間に合わないから」ってスポーツ紙に言われるままVサインで写真を撮られて、翌日の見出しは「たけしぬか喜び」にされちまった(笑)