オイラのにっくき恩人・大橋巨泉さんは、

芸能界一の「負けず嫌い」だった。



 この数年で、オイラと関わりの深い人たちがたくさん亡くなった。テレビで惜別コメントを求められることも多いけど、そこでは語り尽くせないことも多い。

 ここでは、そういう人たちとの思い出を、詳しく話しておこうと思う。


 まずは、2016年7月に82歳で亡くなった大橋巨泉さんだな。晩年の闘病はさぞ辛かったんだろうね。あんなにかっぷくの良かった人なのに、最期は30台にまでやせ細ってしまったというしさ。

 巨泉さんにはいろいろ引っかき回されたけど、やっぱりオイラを世に出してくれた恩人のひとりなんで感謝しかないよ。まだオイラが売れてないときに、「コイツは面白い」といち早く認めてくれたのが、立川談志さんとこの人だった。

 オイラは『世界まるごとHOWマッチ』や『ギミア・ぶれいく』なんかで巨泉さんと共演してるんだけど、そもそも巨泉さんが『HOWマッチ』をやる条件というのが、オイラと石坂浩二が出ることだったんだよな。巨泉さんは早々にセミリタイアを決め込むつもりだったのに、「たけしとまだまだ番組をやりたい」っていうんで、引退の予定を5年も延ばしたんだ。

 巨泉さんやオイラの兄貴(北野大氏)を見ていて思うんだけど、オイラよりちょっと上の世代ってのは本当に「アメリカ」の影響が大きくてさ。戦争に負けて、さらにどの家にもデカい冷蔵庫やマイカーがあるアメリカの信じられない豊かさに圧倒されて、価値観が180度変わった人たちなんだよ。

 だから巨泉さんは英語を必死で覚えて、学生時代から「ジャズ評論家」としてアメリカ文化に関わってさ。『11PM』にしても『HOWマッチ』にしても、みんなアメリカに元ネタや原型があって、あの人はそれをうまくニッポンの文化と融合させたんだ。

 まさにテレビ界の栄華を作った業界創世記のMVPだし、とにかく一番いい時代を生きた人だよね。あの時代、『HOWマッチ』は視聴率30台が当たり前のように出ていて、20台になった時には巨泉さんが、オイラたち出演者とスタッフを呼んで怒鳴ったくらいなんだから。いまバラエティで20台が出たら提灯行列だよ(笑)


 プライベートでもよく一緒に遊んでたよ。海外にもよく行った。巨泉さんにまつわる笑えるエピソードは山ほどあるぜ。

 まずはゴルフだよ。芸能界広しといえど、この人ほどの負けず嫌いはいないからね。そもそもゴルフはすごく上手いんだけど、そのうえ負けは絶対認めないんだよな。

 序盤のホールでOBなんか打とうもんなら、「メガネの調子が悪い。ということで、たけし、もう1回最初からやり直しな」とかわけわからないことになっちゃう。あの人伊達メガネだったのにさ。往年の名プロゴルファーの中村寅吉さんと回った時も、同じことやって寅吉さんを怒らせちまったらしいからね。

 いつだったか、巨泉さんがタコツボみたいな深いバンカーにハマってなかなか出てこないから、上から覗いたら、手でボールを握ってブン投げてた(笑)

 だから巨泉さんが「たけし、俺はエージシュートをやったぞ」っていっても耳半分。「証人を出せバカヤロー」なんて言ってそんなに信じちゃいないんだよ。

 いつだったか、カナダのゴルフ場に一緒に行ったとき、巨泉さんが「たけし、ここの17番のショートはな、巨泉ホールって呼ばれてるんだよ。オレの似顔絵がデカデカ飾ってあって、ホールインワンすると経営してるOKギフトショップから景品が出るんだ。写真撮っとけよ」なんて言うんだよ。

 で、カメラを持ってそのホールまで行ったら、デッカイ巨泉さんの顔写真が間抜けな落書きされたり、アイアンでボコボコに殴られたり、もうムチャクチャにイタズラされてるんだよな。腹を抱えて笑ったぜっての。


  石坂浩二「マッドクラブ」事件


 笑い話はまだまだあるぜ。石坂浩二と一緒にあの人のオーストラリアの別荘に行ったら、巨泉さんが「お前らが食ったことないもの食わせてやる。マッドクラブっていうデカいカニで、ムチャクチャ旨いんだぞ」って言って、近くの海に餌を仕掛けたんだよ。

 で、オイラと石坂浩二でコッソリ夜中に仕掛けを見に行ったんだよ。そしたら本当に馬鹿デカいマッドクラブが釣れていてさ。

 そんで2人で盛り上がって、夜のうちに巨泉さんにナイショで料理して食ったんだよな。そしたら、石坂浩二が翌日腹を壊しちゃって、ゴルフの最中に茂みに駆け込んでウンコしまくってたというね(笑)。オイラはメシの最中に電話が掛かってきたこともあって、あんまり食わなかったんで助かったんだけど、あの日の石坂さんは地獄だよ。午後には上から下までゴルフウェアが新しいのに替わってた(笑)

 海でも色々エピソードがあってさ。「クルーザー座礁事件」は笑ったな~。

 巨泉さんがみんなをクルーザーに乗せて、「行くぞ!」って沖に出ようとしたら、浅瀬過ぎて座礁しちゃったんだよ。で、巨泉さんが「今は干潮なんだ。満潮になるまで待とう」っていうから何時間も船の上で待ったわけ。そしたら潮が満ちるどころかドンドン海水が少なくなって、最後には砂浜になっちゃった。「あ、あれが満潮だったのか」だって。それで「海の男」を気取るんじゃないってオチなんだよな。

「スキューバダイビング事件」ってのもあるよ。巨泉さんが「たけし、オレは深海魚を見てくるぞ」って背中にデカいスキューバダイビング用の酸素ボンベを背負って海に入っていったんだけど、いくら沖に行ってもその背中のボンベがいつまでも海の上に浮いてるんだよ。オーストラリアのものすごい遠浅の海で、どこまで行っても腰ぐらいの深さしかなかったというね。

 それなのに巨泉さん、オイラのところまで戻ってきて真顔で「深海魚はスゴかったぞ」なんて言っちゃってさ。またまたゲラゲラ笑ったんだっての。


 伊豆の伊東に「巨泉マンション」ってのもあってさ。巨泉さんとオイラ、石坂浩二やらで、共同でマンションを持ってたんだよな。そう、「巨泉さんが『伊東の朝は早い』っていいながらテラスでコーヒー飲んでる。ネスカフェのCMか!」ってオイラが昔サンザン笑い話にしたあのマンションだよ。

 巨泉さん、「いいか、たけし。ここはオレたちの仲間だけのマンションだからな。誰にも貸したり売ったりするんじゃねェぞ」って言いながら、あの人がいの一番に手放しちゃったんだよ(笑)。もうオイラたちは目を丸くするしかなかったというオチなんでさ。


 まァ、昔話を思い出せば出るわ出るわだけど、やっぱり愛すべき人だよな。

 もうオイラを呼び捨てにしてくれる人間も少なくなったんでちょっと寂しいけど、あの人は自分のやりたいように、思いっきり生きた人だからね。きっと後悔はないだろうし、あの世でも楽しくやってるに違いないぜっての。