
次の日、祭りの片づけを終えるといよいよソルーンに帰る日が近づいてきた。
もともと一ヶ月って約束だったからね。
相談した結果、二日後に『魔女の
もちろん、直前までやることはやるつもりだ。
「皆さん、本当にありがとうございました」
出発の前夜、夕飯を食べているときにジャスティン様が切り出した。
「私の力だけではどうすることもできないことばかりでした。それを皆さんに助けていただきました。本当にそれに見合う言葉が出てきません」
涙ながらにジャスティン様が言う。
「なに、俺たちは依頼をこなしただけだ」
ロンドさんは通常運転だな。それでいてカッコいい。
「それにサート商会の方たちも本当にありがとうございました。食料も、そして二日前の縁日も最高でした」
「いえいえ、私たちも依頼をこなしただけですから」
俺たちも自分にできることを精一杯やっただけだ。
「リュウさん、それだとロンドさんのセリフの受け売りですよ」
サラがツッコミを入れてくる。それにつられてみんなも笑っていた。
いいじゃん、俺にだってかっこつけさせてくれよ。
「サラも本当に立派になったのね。久しぶりに顔を見ることができて本当によかったわ」
ルナさんもしみじみと
「お姉ちゃんが元気そうにしてるのを見て私もよかったよ」
サラも
「そうだ、リュウさん。今後も妹のことよろしくお願いしますね」
ルナさんが俺に話を振ってくる。
「はい、任せてください」
これからもサラと頑張っていくつもりだ。
「ところで、二人は付き合っているのかしら? 縁日のときいい感じに見えたのだけど」
ルナさんがとんでもないことを聞いてきた。
「いやいやいや、そんなことないですよ!!」
サラは大事な仕事仲間だし、親友の一人だ。そんな風には考えていない。
それに、サラには俺なんかよりいい人がそのうち見つかるだろう。
「お姉ちゃん! からかうのはやめてよ! リュウさんも困ってるじゃん!」
サラも耳を真っ赤にしながら怒っている。
「ごめんごめん、そんな怒らないでよ」
ルナさんが笑いながら謝る。
「へー、二人は付き合ってないんだ。てっきりそうだと思ってたよ」
ダミアンさんもニヤニヤしている。
「やめてくださいって!」
恥ずかしすぎる!
その後もみんなにからかわれて夕飯は大変だった。
二日後の正午、とうとうマイマイ村を出発する時刻となった。
ジャスティン様の屋敷の前に六人乗りの馬車が一台停車する。
ユフィさんが橋を修復してくれたおかげで、マイマイ村の馬車も今日から復旧したみたいだ。
ありがたいことに俺たちの見送りのために村の人たちがたくさん駆けつけてくれた。
「魔女の
ありがとう──!」
「リュウさん、サラさんもありがとう!!」
いろんな人たちがねぎらいの言葉をかけてくれる。
そのうちの一人にレイもいた。
「縁日楽しかったぞ。また何か面白いことをするつもりになったら念話で呼ぶのじゃ。いつでも行くからの。ソルーンの街も飛べばすぐじゃからの」
「うん、またすぐ呼ぶよ」
レイとは特にしんみりする別れにはならなかった。直感だけど、近いうちにまた会う気がする。
子供たちも見送りに来てくれた。
「おれ、ぼうけんしゃになる!」
「うん、僕も楽しみにしてるよ」
ダミアンさんがカーセの髪の毛をくしゃくしゃとしていた。
カーセにとってダミアンさんがヒーローなんだな。
やっぱり、魔女の
の人たちが人気だなと思っていると、クレアが俺の前にやってきた。
そして、大きく息を吸い込むと、
「あたし、しょうらいしょうにんになる! そしてリュウおじちゃんとサラおねえちゃんといっしょにはたらく!」
嬉しいことを宣言してくれた。
「ありがとうな。クレアが大人になったら雇うから。な、サラ」
「はい! いつでも待ってるよ。クレアちゃん」
「ほんと!? ありがとう!!」
クレアが笑顔になった。
子供にそんな風に思ってもらえたのって、誇らしいよね。
「そのためには、私たちももっと頑張らないとですね」
「そうだな」
クレアが大人になるまで、俺たちもサート商会を着実に経営していこう。
馬車が出発する時刻になった。
「サラ、また連絡をちょうだいね」
「分かった! お姉ちゃんバイバイ!」
サラもルナさんと最後の別れを済ませた後、俺たち六人は馬車に乗り込んだ。
「皆さん、お元気で! また来ます!!」
馬車が動き始めたので、外に向かって手を振る。
俺たちはみんなが見えなくなるまで手を振り続けた。
「これからまた、いつもの日々に戻りますね」
「そうだな。でも、俺にとってはいつもの日も新鮮だよ」
異世界に来て、まだまだ知らないことがたくさんある。
そう考えるとやっぱりワクワクするな。
「それもそうですね。リュウさんがいるといつも新しいことばかりですから」
サラも横で笑う。
こうして俺たちはマイマイ村を後にした。

「リュウさん! ソルーンが見えてきました!」
マイマイ村を出て三日目、サラが馬車から身を乗り出しながら叫んだ。
「おー!! 帰ってきた!」
俺もサラの隣から身を乗り出す。異世界に初めて来た日に見たのと同じ外壁だ。
馬車は速度を落としながら、門まで移動する。
そして、馬車に乗ったまま衛兵によるチェックを受けることになった。
「Sランク冒険者!?」
行きと同じように魔女の
の人たちの身分証を見て衛兵が驚く。
ついこの前のことのように感じるけど、もう一ヶ月が経過したんだな。
俺たちも商人ギルドのカードを見せて無事に審査をクリアした。
全員のチェックを終えると、馬車は再び外壁の中へと動き出す。
外壁付近の広場まで移動したところで今回の馬車の旅は終了となった。
俺たちはそのままの足で冒険者ギルドへと向かう。
「よく戻ってきてくれた!!」
冒険者ギルドへ行くと、ギルドマスターのヘッジさんが出迎えてくれた。
「おおよその話は手紙で把握しているが、もう一度聞かせてくれ」
マスターに案内されて、部屋へと通される。
その後、ロンドさんたちが中心となって今回の事の
「リュウ、悪いんだけど腕にある竜の契約のマークを見せてくれない?」
「分かりました」
ダミアンさんに促されて俺は腕をまくる。
その腕をギルドマスターに向かって見せた。
「これが本物の竜の契約……。書物で見た通りだな」
マスターが興味深げに
「とにかく、このことは外には広めないでおこう。多分商人ギルドのほうにも伝えることになると思うが、それも極秘事項として扱うことにする」
マスターからそう説明された。歴史的に見てもそんな人物が存在しないからだ。
「ただし、セレド様にはわしのほうから報告させてもらう」
レインドラゴンの件は国の安全に関わることだから、隠すわけにはいかないということだ。
「分かりました」
確かに、それはしょうがないよね。
情報の扱いは厳重にしてくれるみたいだし、大丈夫だろう。
「最後に、ここにいる全員にギルドマスターとしてお礼を言おう。もちろん魔女の
には報酬も用意してある。サート商会の二人は商人ギルドのほうから受け取ってくれ」
こうして、ギルドマスターへの報告を終えた。
「今までありがとうございました」
ギルドを出て俺は魔女の
の人たちにお礼を言う。ここでお別れだからだ。
明日には拠点である王都に戻るらしい。
「こちらこそありがとう」
ロンドさんと握手をする。
「リュウとサラのことは忘れないよ」
ダミアンさんから肩を
「料理も本当に
「王都に来るときはぜひ教えてほしいですの。案内して差し上げますの」
アミルさんとユフィさんの二人からも嬉しい言葉をもらった。
「またソルーンに来ることがあったらぜひソルーン・バーガーに来てくださいね」
サラも寂しそうに別れを言う。
「ああ、約束しよう」
こうして、魔女の
の人たちとも別れた。
気さくで本当にいい人たちだったよ。
一ヶ月間という短い間だったけど、とても仲良くなれたと思う。
また必ず会いに行こう。
その後、俺とサラは商人ギルドへと向かった。
「リュウさん、サラさん。お疲れさまでした!」
こっちはナターシャさんが出迎えてくれた。
「冒険者ギルドの方からいろいろ聞きましたよ! さ、マスターがお待ちです」
ナターシャさんの案内でギルドマスターの部屋まで通される。
「よく来てくれた。疲れているところ申し訳ないが話を聞かせてもらいたい。重要な案件だからな」
ギルドマスターが席に座るように促す。
「分かりました」
俺たちは再び事の顛末を説明する。
「この紋章、絵本でしか見たことないですよ!!」
竜の契約の紋章を見せたときはナターシャさんもかなりびっくりしていたよ。
「このことについては冒険者ギルドに倣って、商人ギルドも極秘事項として扱おう」
とギルドマスターが約束してくれた。
すべての話を終えるとマスターが言う。
「話はおおよそ把握した。本当にクエストご苦労だった。報酬はサート商会の口座のほうに振り込んでおこう。また後日に聞くことがあるかもしれないが、今日のところはゆっくり休んでくれ」
これで、この日やらなければならないことはすべて終えた。
商人ギルドを出て、家に向かう。
「一ヶ月いないだけでも、久しぶりに帰ってきたって感じがするな」
街の風景を見ながらそんなことを思う。別に街の風景が変わったわけじゃないのにね。
「それだけリュウさんにとってこの街が大切になったってことじゃないですか?」
「サラの言う通りかもな」
もうソルーンが俺にとって生活の中心地になったんだな。
そう思うと少し嬉しく感じる。異世界の住人になれた気がするからね。
「なんか、また頑張れそうな気がするよ」
「何言ってるんですか。頑張ってくれなきゃ困りますよ」
サラがそう言って笑う。
「悪い悪い。さあ、今日は家に帰ってゆっくりしよう」
「はい。やっと自分のベッドで眠れます」
こうしてサラと別れて自分の家へと戻った。
翌々日、俺はソルーン・バーガーへと向かう。
みんなに会うのは一ヶ月ぶりだけど元気にしてるかな。
久しぶりに店の前までやってくる。この建物を見るとなんか安心するな。
「あ、師匠が来たっす!」
店の前にはカインが待っていてくれた。
「久しぶり! 元気にしてたか?」
「もちろんっす! リュウさんも元気そうでよかったっす」
カインに連れられて店の中に入る。
「会長! お久しぶりです!」
中にいたハンナが俺のほうに駆け寄ってきた。
「一ヶ月もの間、臨時店長ご苦労さま」
「いえいえ! 精一杯頑張らせてもらいました」
ハンナも元気そうだ。
俺たちがソルーンを出るときは自分に臨時店長が務まるか不安そうにしていたけど、今は自信に満ちあふれた表情をしている。
「そういえば、二階の会長室で副会長が待っています。話したいことがあるみたいです」
「サラが? 了解」
ハンナに言われたので俺は二階へと向かう。
サラは事務室に自分の机があるから、俺の部屋で待ってるって珍しいな。
俺は自分の部屋のドアを開いた。
「やあ、リュウ。久しぶり」
ドアの先にはセレド様がいた。
えっ!? どういうこと?
「作戦は成功したみたいだね」
俺の驚いた顔を見ながらセレド様が笑う。ハンナに協力してもらってこのドッキリを仕掛けたらしい。
「びっくりしましたよ!」
突然想定していない人がいたら本当に驚く。相手がここの領主様ならなおさらだ。
「あれ……セレド様もしかして。痩せました?」
セレド様の体型がほぼ元通りになっている。
「分かるかい? リュウのアドバイス通りにしたおかげだよ」
セレド様が満足げに頷く。ダイエットに成功したみたいだ。
「そして今日からフライドポテトを自由に食べられるというわけさ!」
セレド様の左手にはフライドポテトが握られていた。
「それは……よかったですね!」
リバウンドしないか心配だな。でもソフィア様もいるし、大丈夫だろう。
「ところで、今日はどうしてこちらにいらしたのですか?」
さすがに痩せましたってだけでセレド様は来ないと思う。
「さすがリュウ。鋭いね」
セレド様はまた笑う。けど、少し真面目なトーンになった。
「マイマイ村の件は冒険者ギルドや商人ギルドのギルドマスターから聞いたよ。竜の契約を結んだんだってね」
やっぱりその話か。
「はい、レイとは友達になりました」
「伝説級の魔物と友達か。やっぱりリュウは規格外だよ」
「は、はあ」
確かに強いとは思うけど、実際にあの姿を見たらね。どちらかというと子供だ。
「そして、このことなんだけど国王様に伝えてもいいかい?」
レインドラゴンが現れたことは当然王都にも伝わっているし、これ以上レイに危険はないということを伝えるためにも詳細な説明をしなければならないらしい。
やっぱりこのまま内緒にというわけにはいかないみたいだ。
「分かりました」
「でも、安心してほしい。リュウに悪いようにはならないはずだよ」
「それはどういうことですか?」
「エルランド家は勇者パーティーのメンバーの一人の子孫だ。勇者以来の契約者をきちんと扱ってくれるはずさ」
「なるほど」
「もちろん契約のことは内密にするように国王様にも伝えるし、私も持ちうる力をすべて使ってリュウを助ける。だから任せてほしい」
セレド様がフォローすると約束してくれた。
「ありがとうございます」
「いやいや、当たり前のことだよ。今となってはサート商会はこのフストリア領にとってなくてはならない存在だからね」
そこまで言ってもらえるのは嬉しいな。
「今日伝えたかったのはそれだけさ。急に悪かったね」
ソファに座っていたセレド様が腰を上げる。
わざわざそのことを言いにここまで来てくれたみたいだ。
まあ、半分くらいはフライドポテトが目的かもしれないけど。
「それじゃあ、またね」
セレド様はいつの間にか店の前に
やっぱりセレド様は読めないところがあるな。
「セレド様と話してきましたか?」
事務室のほうに行くと、サラがハンナと一緒に作業していた。
俺たちがいない間のこととかを確認していたみたいだ。
「うん。サラはセレド様と話したの?」
「はい、ハンナに言われて事務室に行ったらセレド様がいました」
どうやら俺と同じことをされたらしい。
ホントあの人は
でも、親切にしてくれるし、この世界に来て最初にやってきた街の領主がセレド様で心からよかったと思う。
「さ、店に戻ってきたことですし、また今日から頑張りましょう」
「そうだな。俺もすぐ着替えてくるよ」
制服を着て一階に戻ると、クトルとアレンが迎えてくれた。
「リュウさんおかえりなさい」
「無事で何よりです」
「二人ともありがとう。俺とサラがいない間もこの店を支えてくれてありがとう」
「当然ですよ。サート商会のメンバーですから!」
そう言ってクトルが笑う。
「さっそくですみませんがサラさんと一緒にカウンター手伝ってもらってもいいですか? そろそろお昼時なので」
そう言うとアレンは足早に戻っていった。
「了解!」
さあ、またいつもの仕事を始めよう。