次の日の朝、レイに連れられて村の広場までやってきた。レイが最初に降りてきた場所だな。

「少し下がっておれ」

 レイはそう言うと、その場で浮遊して俺たちから離れた。

 青い光を放ちながらどんどん体が大きくなる。

 ついには青色の巨大なドラゴンに変身した。

 やっぱり五大竜と呼ばれるだけあって風格があるな。万が一レイと戦うなんてことになったらまず命はないだろう。

「改めて見るとすごいですね……」

「この背中に乗るんだ……」

 サラもルナさんも感心している。

「何をしておる、後ろに乗るのじゃ」

 ドラゴン姿のレイがそう言ってきた。

「どうやって?」

 背中に階段がついているわけじゃないからな。どこから登ればいいのかよく分からない。

わらわが姿勢を低くするから翼の付け根から登るのじゃ」

 言われた通りにすると、レイの背中に登ることができた。

「おお……」

 それなりの高さがあるな。これがドラゴンの背中か。ファンタジーのアニメとかでよく見たけど、まさか自分が登ることになるとはな。

「今度は私が」

 サラが登り始めた。俺も手を貸してサラを引っ張り上げる。

「ちょっと怖いですね」

「ああ、俺もそう思う」

 つかまる場所があるわけじゃないからちょっと不安定だ。

 ルナさんも登ってきたところで、

「出発するぞ!!

 そう言うと、レイは頭を上げ、翼を大きく広げた。

「うわっ!!

 サラがバランスを崩し、慌ててレイの背中にしがみつく。俺も低い姿勢になって衝撃に備える。

 レイが翼を羽ばたかせながら飛び始めた。

 しがみついてなければ、振り落とされそうだ。

「高度を上げるぞ!!

 レイはどんどん上昇していく。

 ついには雲の高さまでやってきた。

 この高さまでやってくると、レイも上昇するのをやめて水平飛行へと移る。

 おかげで揺れはほとんどなくなったけど……

「寒い……!!

 かなり上空まで来たからめちゃくちゃ冷え込んでいる。

 それに、揺れなくなったが、風はもろに当たるから体感温度はさらに低かった。

「さ……寒い」

「こ……凍えます」

 サラとルナさんが抱き合いながら震えている。

「そうか……分かったぞ!!

 レイが何やら呪文を唱えると、突然吹き荒れていた風の音がピタッとやんだ。

 それに周りの空気も暖かくなる。おかげでだいぶ快適になった。

 レイは本当になんでもできるよな。

「すごい眺めですね!!

「こんな景色見たことない」

 サラ姉妹が少し身を乗り出しながら下を眺めていた。

 マイマイ村が後方にだいぶ小さく見える。レイがすごいスピードで飛んでいる証拠だよな。

 真下には豊かな自然が広がっていて、この世界の雄大さを感じられる。そして、高層ビル一つない景色を見て、改めて違う世界にやってきたんだなってことが実感できる。

 そもそも生身のままこの高さにいられること自体が元の世界じゃありえないんだけどね。

「リュウさん、鳥ですよ!!

 サラが下の方を指差した。

 十羽ほどの鳥がVの字に隊列を組んで飛んでいる。

 日本にいたとき、どこかで下から鳥の隊列を見たことはあったけど、上から見るのは初めてだ。俺たちがいるところより高度は低いけど、それでも寒い中を羽ばたいている。

 動物の力強さを感じることができるよ。

 そんなことを思っていると、

美味おいしそうですね!!

「……」

 サラが身もふたもない発言をする。

「あれをカレーに入れてもうまいと思うぞ!!

 ……ここには食い意地が張ったやつしかいないみたいだな。

 こうして俺たちは空の旅を楽しんだ。


 数時間ほど空を飛んでいると、

「リュウさん見てください!!

 サラの指差す先には巨大な山々が見えてきた。それを越えると、山々に囲まれた中心部には広大な森が広がっており、木々が生い茂っていた。

 こんなに隔絶された場所だと他の動物は入ってこられないんだろうな。

「着いたぞ!!

 ズシンという音ともに、レイが着陸した。

 滑り落ちないようにしながら三人で慎重にレイの背中から降りていく。

「ここがグラスランの森か」

 最も高い木で三メートルほどとそれほど大きな木はなかったが、色とりどりの花が咲いていてとても美しい。

 あと、ハチドリサイズの小さな鳥もいるな。おそらくだけど、ここにしか生息していないような鳥なんだと思う。

「お姉ちゃん見て!! こんなに花がたくさん」

「マイマイ村にも、故郷にもこんな場所はなかったわ」

 二人も楽しそうに花々を眺めている。

「ここには人を襲うような魔物もおらぬ。安心してよいぞ」

 幼女の姿に戻ったレイがそう言った。

「ありがとうな、連れてきてくれて」

 こんな場所、一生かかってもお目にかかれない。それに二人もとても喜んでいるみたいだし、感謝しかない。

「なに、礼には及ばぬ。お主とは竜の契約を結んだ仲なのだからな」

「そう言ってもらえるとうれしいよ。次のカレーは多めに作ってやるからな」

「なに!? 本当か!」

 レイが満面の笑みになる。やっぱりこれが一番いいみたいだな。

「リュウさん、レイ様、もっと奥に行ってみましょう!」

 サラに言われて俺たちも森の中に入っていった。

「そういえば、目的のゴームの実はどこにあるんだ?」

「ん? そこら辺に生えておるぞ」

 言われて見てみると、

「あ、これか」

 先ほど見ていた花の真ん中に丸い実が出来ていた。花の色と同じ実が出来るんだな。

「でも、これが実ってことはこれ植えると木が生えるのか?」

 見た目はスーパーボールそっくりだから、とてもそんな風には見えないけど。

「これは若い実での、もっとじゅくすと弾力のある部分が取れて中から種が出てくるのじゃ」

 それにこの花は特殊で五年ぐらいかけてゆっくり成長するらしいから、しばらくはこの実のままらしい。変わった実もあるもんだな。ちなみに、気候や土壌の関係で他の場所で木が生えたり成長することはないそうだ。

「リュウさん見てください! こんなに取れましたよ!」

 サラが両手いっぱいゴームの実を取ってきた。

「どれもれいだな。収納魔法にしまっておくよ」

「はい! お願いします」

 俺に実を預けると、また取りに戻っていった。

「ふふっ。あんなにはしゃいじゃって」

 ルナさんがサラの様子を見ながら笑っている。

「あの子、ちっちゃい頃からおてんなところがありまして」

 子供の頃、鬼ごっこをしてそのまま川に落ちたことがあるらしい。まあ、それぐらい活発なのもいいことだとは思うよ。

「サラはきちんと働けていますか? それが心配で」

「はい、サラさんにはいつも助けられてばかりです」

 ソルーンの食料危機のときも、サラがしっかりと交渉してくれたからこそうまくいったわけだからね。サラがいなかったら今の自分がないことは確実だ。

「それに他のメンバーともとても仲がいいです」

 明るい性格だからね。

「そうですか。それはよかったです」

 ルナさんが安心した表情になる。やっぱり家族のことは心配になるよな。

「リュウさん、姉に何を話していたんですか?」

「ん? いつもまかないを美味しそうに食べてますって報告してたんだよ」

「なっ!? そんなこと言わなくていいですから!?

「ふふふ。そういえばリュウさん、サラが子供のころ、夜中のつまみ食いがバレたときの話はご存じですか?」

「いえ、知らないです。教えてもらえますか?」

「あれはサラが六歳ぐらいの……」

「いい加減にしてください!!

 そんな話をしながら俺たちはゴームの実を取っていった。


 さらに森の奥に進むと、

「湖があります!」

 サラが駆け出した先には、日の光を浴びてキラキラしている数十メートル四方ほどの湖があった。湖というよりは池と言ったほうが近いかもな。

 おまけに透明度もめちゃくちゃ高くて、湖の底までよく見える。

「でも、なんでこんなところに湖が?」

 こんな標高が高いところに水がこんなにたまるのかな。

「それは、この地中に水の魔石が埋まってるからじゃろ」

 それで地面からきれいな水がたくさん湧いてきているらしい。

「そして、この環境に適応するために呼吸できるようになった魚があれじゃ」

 レイの指差す先には二十匹ほどにまとまって泳ぐベタベタの群れがいた。

 ひらひらした尾びれを振りながら優雅に漂っている。これはずっと見ていられるな。

「さ、取ることにしようかの」

 レイが宙に浮き、水面を見渡していく。そして、水面に手をつけると、水面から一メートンサイズの水の球が現れた。中ではベタベタが百五十匹ほど泳いでいる。

 あっという間だな。

「これぐらいおれば十分じゃろ?」

 確かに、あまり取りすぎるのもよくないからな。これぐらいがちょうどいいと思う。

 ちなみに、村の人が持ち帰らなかったベタベタについてはレイが大切に育ててくれるらしい。

「うん、ありがとう」

 ドラゴンにそんなことを頼めるなんて、なんだか不思議な感じだ。でも、これで必要なものは確保できたかな。

「せっかくだし、ここで試してみようか」

 俺は二つ屋台を召喚すると、どちらもフォルムチェンジですくいの屋台に変形させる。

 そして、一つにはゴームの実を、もう片方にはベタベタを入れてみた。

「はい、三人ともやってみて」

 俺はサラ、ルナさん、レイに一つずつポイを渡す。

 みんな真剣にのぞき込んでタイミングを計っていた。

「あっ!」

 ベタベタを追いかけていたサラのポイが破けてしまった。

「悔しいです」

「まあ、初めはそんなもんだって」

「どうじゃ、妾はうまくいったぞ!」

 レイのポイの上にはベタベタが三匹のっていた。

「おお!! すごいな……ってあれ? ベタベタが若干浮いてないか?」

 よく見ると、ベタベタとポイとの間にすきがある。

「い、いやそんなことはないぞ」

 とは言うもののレイの目は泳いでいる。うそがへたくそだな。

「浮かせるのは反則、ちゃんとやってね」

「む……分かったのじゃ」

 といってやり直したら五秒でポイが破れた。まあ、自業自得だな。

「あ、出来た!」

 ルナさんはうまくいったようだ。器用に尾びれの部分をポイの外側に出すことで破けないように工夫している。

 それでも三匹目を取るときには破けてしまっていたから、難易度としてはちょうど良い感じになりそうだ。

 ゴームの実のほうはベタベタを取るよりは簡単らしく、ルナさんとサラは取ることに成功していた。

「取れん、取れんのじゃ!!

 レイは相変わらずうまくいかないみたいだ。



「さて、そろそろ泊まる準備をしよう」

 辺りが暗くなってきたので湖の近くにテントを設営することにした。

 やり方は簡単だ。屋台を召喚してフォルムチェンジでテントにすれば設置完了だ。

 中は大人二人が楽に寝られるぐらいの広さがある。

 ここに寝袋を入れれば泊まる準備はOKだ。

 夕飯は簡単にパスタを作ってみんなで食べる。俺、サラ、ルナさんはシンプルにペペロンチーノにしたが、レイはでたパスタにルーをかけてカレースパゲッティを食べてもらった。これはこれでいけるのじゃ! って言いながら喜んで食べてたよ。

 みんなで夕食を食べた後は早めに就寝することにした。移動で疲れたし、また明日も飛んで戻らなきゃいけないからね。

 寝る準備を整えていると、ふと湖のそばで体育座りをしながら仲良く話しているサラ姉妹の後ろ姿が見えた。

 時折笑い声が聞こえてくる。

「何を見ているのじゃ?」

 レイが俺に話しかけてくる。

「いや、少しうらやましいなと思って」

 レイから、元の世界には帰れないという話を聞いた後だと、ああやって家族で仲良く話している光景を見ると少し寂しく感じる。

「なるほどのう。そればかりは手助けしてやれぬからな」

「いや、レイには十分すぎるぐらい良くしてもらっているから」

 確かに戻れないかもしれないけど、元の世界では決してかなえることができないようなことをさせてもらっているからね。

「そういえば、昔いた勇者はどうすごしていたんだ?」

 同じ境遇だった彼がどんなふうにしていたのかは気になる。

「あやつは、最初こそ帰れないことに絶望していたが、自分の運命を受け入れておったぞ」

 そして、周囲の仲間には自分が異世界から来たことを打ち明けていたらしい。レイもその秘密を聞いた一人のようだ。

「お主はまだ妾にしか話していないようじゃが、本当にそれでよいのか?」

「それは……」

「別に公にせよというわけではない。じゃが、身近な人にぐらいは伝えてもよいのではないか?」

 レイが俺をじっと見つめてくる。

 ……確かに、いつまでも黙っているわけにはいかないよな。特に、いつもそばで支えてくれているサラに対してこのまま後ろめたい気持ちを持ち続けるのは嫌だ。

「ありがとう。決心がついた。今度話してみることにするよ」

「うむ、それがよい。お主は強いのじゃな」

「いつまでもくよくよしていてもしかたがないし、先に進まないと」

 暗いことばかり考えていても何も面白くないからな。

 それよりも、もっとやりたいことや楽しいことに目を向けていかないと。

「そういう風に考えられる人間だからこそ、選ばれてこの世界にやってきたのかもしれぬな」

「そうだといいけどね」

「ふぁぁ……妾は先に寝ることにするぞ」

 レイが欠伸あくびをしながらテントへと消えていった。

「リュウさん! そこで何をしているんですか?」

 湖のほとりからサラが声をかけてきた。

「少しレイとしゃべってたんだ。二人はどんな話を?」

「いろいろですね……はい。まあ」

 と言いながらサラが顔をそむけた。

「実はサラは最近……」

「や、やめてってばお姉ちゃん」

 サラが慌ててルナさんの口元を押さえた。

「冗談よ、冗談。さ、私は先に横になるわ。あなたも早めに寝なさい」

 そう言い残してルナさんも先にテントの中に入っていった。

「相変わらず仲がいいな」

 楽しそうに話している様子からだけでもそれは伝わってくる。

「そう言われると恥ずかしいですが、姉とはいつも一緒にいましたから。そういえば、この前姉が昔の話をしたときに、眠れないといつも姉のベッドに行っていたと話していたことを覚えていますか?」

「確かにそんなことを言っていたな」

 かわいらしい子供のエピソードだ。

「そのとき、姉がいつも本を読み聞かせしてくれたんです。それこそ勇者の伝説をはじめとしたおとぎ話や、時には図鑑のようなものを見せてくれたこともありました。それがきっかけで自分で本を読んで勉強することが好きになったんです」

「なら、今のサラがいるのはルナさんのおかげってことだな」

「はい! 尊敬する姉です!」

「じゃあ今の言葉そのままルナさんに伝えとくよ」

「それはやめてください! 散々からかわれるのが目に見えているので!」

「分かった分かった。言うのはやめておくよ。さて、俺たちもそろそろ寝るか」

「そうですね、明日も朝早いですし……では、リュウさんおやすみなさい」

 こうして俺たちはグラスランの森の自然を満喫することができた。

 息抜きもできたことだし、また祭りの準備に向けて頑張っていこう。



 グラスランの森から帰ってきた数日後。

「屋台でやることは大体まとまったので、これから企画書を作りますね」

「ありがとう、よろしく頼む。何か分からないことがあったら言って。手伝うから」

「はい、ありがとうございます」

 ここからはサラの領分なので、お任せする。

「それじゃあ俺は今日の配達に行ってくるよ。レイはこれからどうする?」

「そうじゃのう……暇じゃしリュウについていくことにしようかの」

 というわけで、二人で村を回ることになった。


 俺たちはまずクレアの家に向かった。

「ごめんくださーい!」

 扉を少し開けて挨拶をする。

 すると中からクレアが出てきた。

「あ、リュウおじちゃんだ。きょうもたべものをとどけにきてくれたの?」

「そうだよ。はい、これが今回の分」

「ありがとう!」

 クレアに食材を渡す。

「あれ、となりのおんなのこは? もしかしてこのまえのドラゴンさん?」

 クレアがレイのほうを気にする。

「そうだよ。こっちはレイ」

「レイじゃ! よろしくのう!」

 レイが挨拶する。

「あたしはクレア! レイちゃんよろしくね!」

 クレアも笑顔で挨拶する。よかった。レイに恐怖心は抱いてないみたいだ。

 ぱっと見はほほましい女の子同士の挨拶なんだけど、片方の年齢が段違いなんだよな。

 なんならこの世界の最年長の部類だし。

「リュウ、お主余計なことを考えなかったか?」

「いや、別に」

 なかなか鋭いな。

「レイちゃんはどこからきたの?」

「隣の森じゃ」

「もりのなかにすんでるの?」

「そうじゃ、あそこは静かでいいところじゃぞ」

「なんかおばあちゃんみたいだね!」

「ま、まあそうじゃな」

 クレア節がさく裂する。子供は正直だな。

「それじゃ他のところにも行かなきゃいけないからそろそろ行くね」

 これからまだまだ行く家があるからね。

「うん分かった! レイちゃんまたね! こんどいっしょにあそぼうね」

「うむ」

 こうして俺たちは配達作業に戻った。



 それから何日か準備をして、ジャスティン様の部屋へと向かった。

「入ってください」

 ジャスティン様が書斎に招き入れてくれる。

「縁日の計画書を持ってきました」

 今までも開催日時や場所とか、準備に向けて必要な話し合いはしてきた。

 新しくやることになった企画もしっかりと盛り込んでいる。

 だから今日は最終確認だ。

 ジャスティン様が書類に目を通していく。

 いくつかの質問に答えた後、ジャスティン様が冊子を閉じた。

「了解しました。この内容でお願いします」

 ジャスティン様が笑顔で了承してくれた。

「「ありがとうございます!」」

 俺とサラは声をそろえてお礼を言う。

 よかった。これで一安心だ。

「では、これから一週間後の縁日の準備を進めていきますね」

 ここからは本格的に会場づくりを始めていくことになる。

 『魔女のつえ』の人たちと一緒に頑張っていかないと。

「はい、楽しみに待っています」

 ジャスティン様の期待には応えないとね。

 ジャスティン様の部屋を出た後、俺とサラはその足で魔女のの人たちの部屋に向かった。

 ロンドさんに部屋の中に入れてもらう。

「縁日が開催されることが正式に決まりました。皆さん、お手伝いのほどよろしくお願いします」

 開口一番にそのことを伝える。

「おめでとう。俺たちが全力でサポートしよう」

 ロンドさんが祝福の言葉をくれる。

「僕は設営のほうはあまり役には立たないと思うけど、精一杯やらせてもらうよ」

「会場の飾りは任せるですの」

 ダミアンさんもユフィさんも頼もしいことを言ってくれる。

「うちは屋台の味をチェックしたり、実際に遊具を試して不具合がないかとかを確かめるよ」

 アミルさん、聞こえはいいんだけど、完全に遊ぶ気満々だな。

「アミル?」

 ダミアンさんが静かにキレる。

「べ、別に食べ歩きをしたり遊んだりしたいなんて言ってないじゃん!」

 うん、完全に心の内を明かしたね。

 アミルさんのそういう正直なところ、俺は嫌いじゃないな。

「大丈夫ですよ、魔女のの皆さんも縁日を回る時間は確保するつもりですから」

 手伝ってもらって終わりっていうのは申し訳ないから、空き時間は作るつもりだ。

 ちなみにだけど、俺とサラ、それにレイにもそういう時間は作る。

 縁日はサート商会としての仕事でもあるけど、自分たちも楽しまないとね。

「それじゃあさっそくなんですけど、このあと広場に行って会場の設営を始めていきたいなと思うので準備をお願いします」

「了解した。準備をしておこう」

 俺とサラは部屋を出た。

「さて、次はレイに伝えないとな」

「あれ、そういえばレイ様はどこに?」

 サラが辺りを見渡す。

「そういえば、昨日今日と見てないな」

 あれだけ四六時中カレー、カレー言っていたのに来ないのはおかしいよな。

「それなら念話するか」

 俺は目をつむり、レイをイメージしながら話しかける。

(レイ、聞こえるか?)

(おお、リュウか。どうしたのじゃ?)

 すぐに返事が返ってきた。

(ああ、さっきジャスティン様のところに行って正式に開催することが決まったぞ)

 レイにもしっかり報告をする。

(やったのじゃ!)

 レイも嬉しそうにしてくれる。

(分かったぞ。何か妾の助けが欲しくなったらいつでも言うのじゃぞ)

(うん、助かるよ)

 レイにそう言ってもらえると安心できるな。

(そういえば、レイは今どこにいるんだ?)

(今か? 今は村の子供たちと一緒におるぞ)

 へえ、いつの間にか子供たちと仲良くなったんだな。

(それなら、俺も顔を出そうか?)

(いや、その必要はないぞ。なぜなら……ハッ!)

 なぜかレイが口をつぐむ。

(とにかくそういうことなのじゃ。さらばじゃ!)

 と言って念話を切ってしまった。

 ……怪しい。



 レイとの念話を終えた後、俺とサラは魔女のの人たちを連れて広場までやってきた。

「ここを中心に屋台を並べたいなと思います」

 広場の中心部に起点を置いて、その同心円上に屋台を設置する。

 中央にはステージを用意する計画だ。

 そこでジャスティン様と話し合った結果、そのステージで勇者の剣を受け取る儀式をしてもらうことになった。

 最初は教会でやるつもりだったけど、あまり人数も入れないみたいだし計画が修正された。

 そのことをロンドさんたちに伝える。

「分かった。それならば俺が中心にステージを作ろう」

 ロンドさんが了承してくれた。

「私は飾りを作りますの」

 ユフィさんはデザイン担当になってくれた。

「ありがとうございます。一時的ですけど、屋台も出しますね」

 イメージがしやすいように出しておこう。

 その他にもベンチの設置場所などを具体的に指示を出していく。

「あとのことはよろしくお願いします」

 会場設営で俺たちにできることは少ないし、説明を終えた後はロンドさんたちにお任せする。

「分かった。任せてくれ」

 こうしてロンドさんたちとも別れた。



 次の日、俺たちはジャスティン様の屋敷の庭に立った。

「えー本日は集まってもらいありがとうございます」

 ジャスティン様の屋敷に村の大人六十人を集めてもらったのだ。

「皆さんには屋台の店員をやってもらいたいと思っています」

 ちなみに、この六十人は別々の世帯の人を集めてもらっている。

 農作業で被害を受けている家庭への支援にもつながることから、公平な条件で募集したらしい。

 これだけ集まってくれて助かったよ。


 集まった人たちに、チーズ焼き、お好み焼きの作り方を説明していく。

 やっぱりチーズ焼きはみんな苦戦していたけど、最後のほうには全員うまくできるようになっていた。

 まかないとして自分で作ったものを食べてもらったけど、反応は上々だ。

 これなら本番でも村の人たちは食べてくれるな。

 そして射的の説明になると、みんなかなり真剣になって遊んでいた。

 この様子を見る限り、子供だけじゃなくて大人も楽しめそうだな。

「射的の景品を増やそうか」

「そうですね」

 サラと話し合って多めに用意することにした。

 その後も仕事の説明をしていく。そのほかにも会場にゴミ箱やベンチの設置をしたり、見回りの人の配置を説明したりして準備を進めていった。



 そしてあっという間に本番前日になった。

 今日は、本番の会場の最終確認を終えて準備がすべて終わった。

 これであとは明日の本番をやりきるだけだ。

 夜、最後まで残っていた俺とサラとレイは広場から引き上げることにした。

 ジャスティン様の屋敷に向かって歩き出したところで、

「今日、妾は一度自分の寝床に戻るぞ」

 とレイが切り出した。

 最近ジャスティン様の屋敷に泊まり込みだったレイも今日は寝床に戻るそうだ。

 レイは縁日の準備以外にも儀式の練習もしていた。

 本当に大忙しだな。

「分かった。明日はよろしくな」

 儀式については俺たちが関わることは特になかったので、明日の本番を見るのを俺たちも楽しみにしている。

「うむ、では明日の」

 そう言い残すとレイはドラゴンの姿に変身して飛び去っていった。

「じゃあ、俺たちも帰るか」

「はい」

 レイの姿が見えなくなった後、俺とサラは再び歩き出した。

「やっぱり緊張してきますね」

 サラがそんな風に切り出す。

「確かにそうだな」

「ソルーン・バーガーを開店したときのことを思い出します」

 そういえば開店の前日は俺も緊張したな。

 異世界でファストフード店を開くのは、それまで屋台でハンバーガーを売ってきたとはいえ不安があった。

 今回も楽しんでもらえるだろうなと思っていてもその姿を見るまでは安心できないな。

「でも、リュウさんがいるから大丈夫だと思っていました。だから今回も大丈夫です!」

「その言葉をそのまま返すよ」

 サート商会にサラが入ってくれたから、自分だけではできなかったことができている。

 このことには本当に感謝しないと。

 そんなことを喋っているとジャスティン様の屋敷にたどり着いた。

「それじゃあまた明日。楽しんでいこう」

「はい! それじゃおやすみなさい」

 こうしてサラと別れて自分の部屋へと戻った。

 絶対に成功させよう。

 そう思いながら俺は眠りについた。