それから二日間、『魔女のつえ』の人たちは村の復興に尽力してくれた。

 おかげで、村の浸水部分はほとんどなくなったよ。

 さらにロンドさんとダミアンさんが協力して作った新たな水路によって水害対策も万全だ。

 それにユフィさんが土砂崩れが起きそうな場所には植物を生えさせるなどして予防策も取ってくれた。

 これで大雨による水害に村が悩まされることもほぼなくなるだろう。

 もちろん、今後の農作についてすべて解決できたわけではないけど着実な一歩だ。

「俺たちはこれから調査に向かう」

 この村に来てから五日目、ついにロンドさんたちがシュッツガルの森に向かうことになった。

 晴れたので、村の多くの人が見送りにやってくる。

 村のピンチを救ったヒーローだからね。

「本当に感謝します」

 村を代表してジャスティン様がお礼を言う。

「俺たちはクエストをこなしただけだ。お礼を言われるようなことはしていない」

「ちょっとロンド。そんな言い方ないでしょ。すみません、うちのロンドちょっと硬いところがありまして……」

 アミルさんが横からロンドさんのフォローをする。

 俺は硬派な感じでカッコいいと思うけどな。

「ロンド様────! 頑張って!!

「大きくなったら冒険者になる! そして魔女ののみんなと一緒に冒険するんだ!」

 黄色い歓声だったり、子供の声援も聞こえる。

 この数日で、すっかり人気者だ。

「これが十日分の食料になります」

 俺はロンドさんたちから依頼があった、森にいる間の食料を提供する。

 量としては結構あるけど、ユフィさんがアイテムボックス持ちらしいから問題ない。

「あとのことは頼む」

「はい、精一杯頑張ります」

 俺とサラはここに残るからね。

「では行ってくる」

 こうしてロンドさんたちが出発した。


 ロンドさんたちが去った後も俺とサラは村に残って活動を続けた。

 村じゅうに配るのは三日に一回だから、それ以外の日は比較的時間がある。

 だから村の手伝いもするようになった。

 例えば村の掃除。ロンドさんたちが整備してくれたとはいえ、畑にある葉っぱや枝の処理や道の泥など掃除する箇所はたくさんある。

 サラは農村出身なこともあってそっちの手伝いもしていた。

 あとは子供たちの相手とかだな。

 雨が降ったりすると、サラがジャスティン様の屋敷で子供たち向けの勉強会を開いた。

 この世界についての常識のない俺にも参考になる話があるから、一緒に授業を受ける。

 今日の内容は勇者についてだ。

「昔むかし、まだ魔王がこの世界を支配していた頃、とある村におじいさんとおばあさんが暮らしていました。そしておじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」

 とサラが説明していく。

 ここまで桃太郎といっしょだなと思っていたら、

「おばあさんが川で洗濯していると、川上から大きな大きなオレンジが流れてきました。持ち帰ったおばあさんがおじいさんと一緒に食べようとすると、中から男の子が出てきました」

 ……ほぼ桃太郎と一緒だ。こんな偶然もあるんだな。

 その後、男の子は旅をしながら、パーティーを作り、その過程で強大な五大竜も味方につけたらしい。てことは、レインドラゴンは勇者と一緒に戦ったってことだ。

 そりゃ強いのもうなずける。

 そして、最終的に力を合わせて魔王を倒し、この世界に平和をもたらしたそうだ。

 面白いなと思って子供たちと一緒に聞いていると、

「おじちゃんおとななのに、なんでしらないの?」

 初めて訪問した家で俺のことをおじちゃん呼ばわりした、確かクレアという名前の女の子がそんな質問をぶつけてきた。

「それは……いろいろあったからだよ」

 異世界から来たなんて説明しても分からないだろうからね。

「わからないことがあったらきいてね。クレアがおしえてあげるから」

 まあ面倒見はいい子みたいだな。


「リュウ! リュウ! いっしょにあそぼ!」

 ロンドさんたちが村を出てから三日目、子供たちが屋敷に集まってきた。

 もうここに来て結構な時間がつから、村の子供たちとは大体知り合いになったかな。

「いいよ。何する?」

 子供たちはみんな小学生ぐらいの年齢だから、まだスキルは持っていない。

 そういう意味では元の世界の子供と遊ぶのと変わらないな。

「なにかあたらしいこと!」

 クレアが答えた。

 ざっくりとしたリクエストだな。

 うーん、何がいいかな。

「折り紙でもしようか」

「おりがみ? なにそれ?」

 みんな知らないみたいだな。

「じゃあ、一緒にやろう」

 収納魔法にしまっていた紙があるから、それを使おう。

「まずは鶴を折ってみよう」

 折り紙といえばまずは鶴だろう。

「おじちゃん、つるってなに?」

「鳥の名前だよ」

 そういえば俺自身も鶴は写真でしか見たことない気がするな。

 気を取り直して、俺はみんなの前でお手本として紙を折っていく。

 それを真似してもらいながら作業を進めた。

 後半は難易度が上がるから、分からない子がいたらその都度フォローしていく。

 二十分後、

「できた────!

 おのおの折り鶴が完成した。

 初めてなこともあってみんな不格好だけど、それなりによくできていると思う。

 その後は鶴を繰り返し作る子や俺から新しいものを教わる子などに分かれて自由活動になった。

 希望した子には花の折り方や、難易度は少し高いけど飛ぶカエルの折り方を教えたりする。

 中にはオリジナルの作品を作る子も現れた。

「おれ、かあちゃんをつくってみた!!

 男の子が自慢げに見せてくれた。

 大変申し訳ないが、俺にはそれがお母さんのどのパーツかは分からない。

 顔……だと思うんだけど、顔から生えているものが腕にしか見えないから自信はない。

「すごいな、きっと喜んでくれると思うぞ」

「うん!」

 それだけは間違いないな。

「見てください、私も出来ました」

 サラも折り鶴を完成させた。大人なだけあって初めてながら完成度が高い。

「おねえちゃんすごい! おれのもつくって!」

「ずるいよ! おねえちゃんあたしのほうがさき!」

 みんながサラに自分の鶴を折ってくれるようにせがむ。

「ケンカはしないで。みんな順番に作ってあげるから」

 たちまち子供たちに囲まれることになった。

 うん、ほほましい光景だ。



「いい天気ですね!」

 サラが天を仰いだ。

 ロンドさんたちが森に入ってから四日目、今までで一番の快晴となった。

 雲一つないれいな青空だ。

 いつも通り配達を終えた後、子供たちと遊ぶ時間になった。

「今日ははんごうすいさんをしよう」

 子供たちに宣言する。

 会場は村の広場、といっても噴水とかがあるわけではなくただの土のグラウンドだ。地面も乾いたみたいだし問題ないだろう。

 メニューはカレーを考えていた。

 小さいころキャンプとかでカレーを作ると楽しかったし、村人みんなに配ることができるから一石二鳥だ。

 ところが、

「おりょうり? やりたいやりたい!」

 クレアは乗り気だったけど、

「えーりょうりするのー? べつのことがしたい!」

 そりゃ料理好きの子はやりたいかもしれないけど、そうじゃない子には微妙なのかも。

 とはいえ、やらないわけにはいかないのでちょっと芝居を打とう。

「そうかーやりたくないかー。せっかく今まで食べたことない美味おいしい美味しいカレーっていうご飯をみんなで作ろうと思ったんだけどなあ」

 そう言いながら視線を外す。

 みんなうずうずし始めた。

「でもしょうがないなー、いつも通りの料理を作ろうかなー」

 残念そうな顔をしながらみんなのほうを見た。

「お、おれカレーつくるのてつだってあげてもいいぞ!」

「あたしもやるー!!

 うん、素直でいい子たちだ。ちょっと罪悪感があるけどそこは許してほしい。

「おれ、いえからまきとってくる!」

「あたしもあたしも!」

 みんな家での作業で慣れているからか、あっという間に薪を組み立てて火の準備を整えた。

「ひをつけるにはな、このかれたきのみがいちばんいいんだぜ!」

 と俺も知らないような情報まで教えてくれる。

 うん、知ったかぶりで始めなくてよかった。恥かくところだったわ。

「よし、火の番以外の子はこっちに来て調理を手伝ってくれ」

「「はーい!」」

 俺は召喚魔法でいくつも屋台を出すとフォルムチェンジで洗い場、野菜を切る作業台、コンロを作り出した。

「リュウおじちゃんそんなことできるんだね! すごい!」

 クレアが珍しく俺のことを褒めた。

 子供に意地を張るのもなんだけど、ちょっと勝った気分になる。

「でもなんでコンロがあるのにまきでひをくべるの?」

「それは、自分がやってみたいからなんだ」

 薪をくべて炊くご飯って聞いただけで美味しそうなんだよな。せっかく作るならより美味しいものを食べてもらいたいし。


 作業をしているうちに、子供たちだけでなく大人も交ざっていった。

 カレーを作るグループとご飯を炊くグループに分かれて作業をする。

 ご飯グループはこの村に来て豚汁を作ったときにみんなで一緒に炊いたから、ある程度スムーズに進んだ。

 問題はカレーのほうだな。

 今回はシンプルにジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、豚肉を使ったカレーにしよう。

 具材を食べやすいサイズに切ったら鍋で炒めていく。

 そしてある程度火が通ったら水を入れて煮込んでいく。

 その後、全員に固形のカレールーを配った。

「こんな土の塊みたいなものがあんな美味しいものに変わるってまるで魔法みたいですよね」

 以前にカレーを食べたことがあるサラがそんな感想を漏らす。

 言いたいことは分かるが、これから食べるものを土って言わないでほしいな。

 みんなが半信半疑で鍋にルーを入れると周囲にカレーの匂いが立ち込める。

「うわー! いいにおい!」

 子供たちにも好評なようだ。

「よし、これで完成だ」

 具もいい具合に柔らかくなったし、うまく出来たな。

 風に乗ってカレーの匂いが村じゅうに届いたのか多くの人が集まってきた。

 ふふ、今回はそれを見越して大量に作っているぞ。

 カレー祭りといこう。

 気づけば村の大部分の人が集まってくれた。

 元の世界でもカレーは大人気だったからね、みんな喜んで食べてくれている。

 今回は広場にジャスティン様やルナさんもやってきた。

「このカレーライスという食べ物は本当に美味しい! ほんの少し辛いがそれがまたクセになる!」

 ジャスティン様がものすごい速さで食べていく。

「私はパンと一緒に食べるほうが好きですね」

 ルナさんはドーム状のパンをちぎって食べている。

 もちろんそういう人もいるだろうなと思ったからパンも欲しい人は食べられるようにしておいた。

「リュウおじちゃん! カレーとってもおいしいね」

「おれ、もうおかわりしたんだぜ!」

 子供たちがみんな口の周りをカレーまみれにしながら報告してくる。

 調理魔法によって作られた固形のカレールーは甘口だったから、子供たちも問題なく食べられた。

 俺に感想を言ったあとは親のところまで戻って仲良く食べている。

 村の人たちが楽しそうにしているのを見て俺もうれしくなった。

「本当に感謝しています。おかげで村に活気が戻ったみたいだ」

 ジャスティン様が俺に頭を下げる。

「いえいえ、自分にやれることをしたまでです」

 やっぱり食事の力って偉大だな。

「よし、大方配り終えたから俺も食べ始めよう」

 そう考えてカレーライスを自分の皿に盛ったそのとき、

 辺りが急に暗くなった。

 太陽に雲でもかかったかなと思って見上げると……。

 一匹の竜が空から俺たちのことを見下ろしていた。


 ……え?

 体長は二十メートルぐらいで、ホバリングするようにして上空で停止している。

 体は真っ青で、太陽の光に当たって体が輝いていた。

 神々しいという言葉がとてもよく似合う竜だ。


 ってそんなこと言っている場合じゃない。どうすればいいんだ?

 あまりの出来事にみんな空を見上げた体勢で立ち尽くしていると、竜がゆっくりとその場で降下し始めた。

 落下地点にいる人たちが慌ててその場所から離れる。

 そして小さな地響きと共に着地した。

 細長い首を持ち上げると、竜は声高に叫んだ。

わらわはレインドラゴンである」

 思った通り、今回のクエストの原因となったレインドラゴンのようだ。

 そういえばしゃべることができるって言ってたよな。

「そこにある食べ物を作った者は妾の前にでよ」

 みんなが一斉に俺を見る。

 ちょっ! 俺が作ったってばれるじゃんか!

「その男だな。妾の前に来い」

 鋭い目で見つめられたからものすっごく怖かったけど、仕方がないから前に出る。

「あの……何のご用でしょうか」

 なにかやらかしてしまったのだろうか。下手すれば、俺の人生終わったかもしれない。

「その食べ物を妾に食べさせろ」

「……え?」

 今なんて言った?

「その食べ物を妾に食べさせろ」

 カレーが食べたいのか?

「そういうことなら」

 よそったままでまだ食べていなかった自分のカレーの皿を上に掲げた。

「ふむ」

 レインドラゴンが俺のカレー皿に鼻を近づける。

「やはり良い香りがするな」

 そしてなめるようにしてカレーライス一人前を平らげる。

 ドラゴンの口のサイズとしては一口分にも満たない気がするけど大丈夫かな。

「これは!! うまい、うまいではないかー!!

 レインドラゴンが小躍りするように喜ぶ。

 いやいや、そのサイズで動かれると地面が揺れるからやめて!!

「もっと食べたいのじゃが、まだあるか?」

 レインドラゴンがおかわりをご所望する。

「あるにはあるのですが、満足してもらえる量があるかというと……」

 残ってはいるが、もう村の人が大体食べちゃったからドラゴンが食べるような量はない。いや、もともとの量でもドラゴンが満足できそうな量はなかったんだけど。

「そうか、それなら小さくなってやろう」

 そう言うとレインドラゴンが輝き始めた。

 あまりのまぶしさに目を覆う。

 光が収まってから目を開けると、

「ほれ、小さくなったぞ」

 目の前には青い髪をした幼女が立っていた。

 真っ白な服装をしているが、青い髪と青い目のおかげで人間離れしたような容貌だ。

 あまりのギャップに絶句していると、

「何をしている、早く持ってこぬか!」

 いかん、急に威厳がなくなったから油断してた。

 外見からすれば八歳児がワガママを言っているだけにしか見えないからね。

 俺は慌ててカレーの入った鍋とご飯の入った鍋、レインドラゴン幼女用の皿とスプーンを持ってくる。

 すぐにカレーライスをよそうと手渡した。

 ドラゴン幼女は受け取った瞬間に食べ始める。

「これはいくらでも食べられるな!」

 その小さい体に入るとは思えないほど大量にカレーライスを食べていく。

 むしろ食べる時間より、よそう時間のほうが長いんじゃないか?

 食べ続けること十五分、

「ぷはー! 食べた食べた!」

 大鍋一つを平らげて満足したのか地面に座り込んだ。体が小さくなったから、この量で済んでいるんだろうけど、ドラゴンの大きさだといったいどれぐらいの量食べるんだろう。そもそも、なんで大きさが変わると食べる量が変わるんだろうな。魔法って不思議だ。

 いずれにしても俺は消されずに済みそうだ。

 ほっとしていると、俺の横にジャスティン様がやってきた。

 そして幼女の前に移動するとひざまずく。

「レインドラゴン様、我が村にお越しいただきありがとうございます。大変申し訳ございませんが、領民が困惑してしまうのでやかたのほうにお越しいただけませんか」

 ジャスティン様がそんな提案をする。確かに村人たちはずっと遠巻きに心配そうに見ているからな。

「うむ、いいぞ。案内しろ。それとお主」

 そう言いながら俺のことを見る。

「お主もついてこい」

 え、俺も?


 レインドラゴンの幼女はジャスティン様に連れられて館へ移動した。

「妾はレインドラゴンである。呼び方は好きにしてよいぞ」

 ジャスティン様、俺、ルナさん、サラ、レインドラゴンの五人でテーブルに座る。

 誕生日席には普段はジャスティン様が座るのだが今回はレインドラゴンに譲っていた。

「雨竜様とお呼びすればよろしいでしょうか」

 ジャスティン様が提案する。

「いや、それは古臭い。却下じゃ。もっとかわいらしいものにせよ」

 なんでもいいって言ってたのにめちゃくちゃ理不尽だな。

「そこの食べ物を作った男、名はなんという」

 レインドラゴンが俺に話を振ってきた。

「リュウです」

「リュウという名か。いい名前じゃ。よし、リュウ。お主が名前を考えろ」

 突然むちゃぶりが来た。

 そうだな……レインドラゴン、レインドラゴン……。

「レイ様はどうでしょうか」

 呼びやすいし、いいと思う。

「レイか。そういえば昔そう呼ばれていたこともあったな。それにしよう」

 よかった。役目を全うできたようだ。

「レイ様、今回はなぜいらっしゃったんですか?」

 気を取り直してジャスティン様が質問した。

「それは森でちょこっと冒険者たちと戦っていたら、いい匂いがしたからじゃ!」

 ん?

「冒険者たちとですか?」

「そうじゃ、確か人間二人、獣人一人、エルフ一人じゃったかな。人族としては強かったぞ」

 それ絶対ロンドさんたちだ。

「あの、その冒険者たちは無事なんですか」

 まさか倒されたとかないよな。

「無事じゃぞ。妾が昼寝しているところを邪魔してきたから少し遊んでやったがの」

 それならよかった。一安心だ。

「なんじゃ、知り合いなのか?」

「はい」

 レイ様本人に言うのもなんだけど、今回のクエストの事情を説明することにした。

「なるほど、妾があそこの森に移動したことでいろいろ騒ぎになったみたいじゃな」

 レイ様もクエストの事情を把握したみたいだ。

「……もしかしてじゃが、ここの村の畑が荒れているのは妾のせいか?」

 さっきの説明の中では言わないようにしていたけど、勘づいたみたいだ。

「……はい。まあそのような感じです」

 ジャスティン様が気まずそうな返事をする。

「それはすまなかったのう」

 レイ様が頭を下げて謝ってきた。

「そんな、顔を上げてください!」

 慌ててジャスティン様が制止する。

「広い森だから問題ないと思っていたのじゃが、今後は気をつけることにするぞ」

 レイ様の話によると、無意識的に雨を降らせていただけで、注意していれば雨を止めることは可能らしい。

 だから今後は水害が発生することはないだろうということだ。

 それにしても無意識的に雨を降らすって次元が違うよな。

 さすがは世界最上位の魔物だ。

 それにしても、聞いていた話からもっと横暴なドラゴンなのかとか考えていたけど優しいんだな。

 強いぶん人格も備わっているってことなのかな。ドラゴン格というほうが正しいか。

「そうなると、妾としても何かせねばならんのう。後日びの品でも渡すことにしよう」

 後日お金になりそうなものをジャスティン様に渡すということになった。

 それを売ったお金を村人に分け与えるようにということだ。

「ありがとうございます」

「よいよい。妾は争いは好かんからな。それに恨まれたまま森にむのは居心地が悪いからのう」

 よかった、これで今後はレイ様とマイマイ村の間で良好な関係を築いていけそうだ。

 今回は被害は出たけど、人的な被害は出なかったからそれもできると思う。

「さて、今度はリュウの話を聞かせてくれ!」

 レイ様とジャスティン様の真面目な話し合いが終わった後、レイ様が俺に話題を振ってきた。

 それにテンションも高い。

「あの食べ物はなんというのじゃ?」

「カレーという食べ物です」

「カレー!? そうかそうか……あの食べ物は妾が長い間生きてきた中で一番うまいと思った食べ物じゃ!」

 レイ様が少し驚いたあと、カレーの味を思い出すように言う。

「ありがとうございます」

「どうやってあんなものを作ったのか気になるのう」

「それは……秘密でお願いします」

 いかにレインドラゴンといえども教えられるものではないからね。

「そうか、なら無理には聞かぬぞ」

 引き下がってくれてよかった。

「ただ、今後もカレーは食べたいのう。そうじゃ。お主、妾の料理人にならぬか?」

 レイ様がとんでもない提案をしてきた。

「料理人ですか?」

「そうじゃ。もちろん毎日作れとは言わぬし、わざわざ森の中まで届けよというわけではない。妾自身が取りに行くからな」

 レイ様の提案は、念話で俺にカレーが欲しい日を言うからその指示に従ってカレーを作る。

 で、指定日になったらレイ様が俺のいるところに飛んでいくから渡してほしいということだ。

「もちろん無料でとは言わぬぞ。リュウと竜の契約を結んでやろう」

「それは本当ですか!?

 サラがかなり驚いたように言う。

「本当じゃぞ。妾はうそはつかぬ」

 レイ様がサラに対して返事をした。

「あなた、その契約を結んだことがあるのって……」

「ああ、あの方ぐらいだ。まさか実在するとは……」

 ジャスティン様もルナさんもかなり困惑している。

「竜の契約……?」

「ん? お主は知らないか」

 相変わらず異世界の情報については疎いからな。

「レイ様、少し席を外してもよろしいでしょうか」

「構わぬぞ」

「リュウさんちょっと来てください」

 俺はサラに連れられて廊下に出た。

「どうしたんだ?」

「リュウさん、この提案は絶対に受けてくださいね。こんなチャンスありませんからね!」

 サラが口調を強めて言う。

「そもそも竜の契約って何?」

「いいですか、よく聞いてください」

 サラは深呼吸をすると説明し始めた。


 はるか昔、世界は魔王によって支配されていた。

 人々は苦しみ、畑は荒れ、生きる希望を見失っていた。

 そんな中、現れたのが勇者だ。

 勇者はパーティーを組み、世界を救う旅に出た。

 その途中で出会ったのは五大竜と呼ばれる強力なドラゴンたち。

 勇者は激しい戦闘の末ドラゴンたちと和解し、共に魔王と戦う約束をした。

 そして勇者パーティーは五大竜や味方と共に魔王やその部下たちを討ち果たした。

 これがこの世界に伝わる勇者伝説だ。


 この前、子供たちとサラの授業で聞いた話だな。

「実はこの伝説には他にこのような言い伝えがあります」

 サラが説明を続ける。

 サラによるとこの伝説は竜の契約の起源でもあるとのことだ。

 勇者とドラゴンが共に魔王を倒すときに結んだ契約が竜の契約で、ドラゴンとの友好のあかしとなっている。

 ただ、それ以後五大竜が契約を結んだ人間は現れていないらしい。

 かつて竜の契約を結ぶために自らの財産をすべてなげうった王様もいたけど、見向きもされなかったという笑い話まで伝わっているそうだ。

「つまりそれだけすごい契約ってことで合ってるかな」

「はい。てっきりおとぎ話の中のことだと思っていました」

 うん、話はよく分かった。

 たださ、聞けば聞くほどおかしいなって思うんだよね。

 そんな大事な契約をカレーを食べたいがために結ぶってどうなのかな。

 なんか神聖なものをけがしているような気分になるのは俺だけだろうか。

 勇者が命懸けでつかんだ契約を俺はカレーで、って。

 まあ断る理由もないから結ぶけどさ。

「分かった。この話は受けることにするよ」

 今何かをしてほしいわけじゃないけど、絶対に将来の助けにはなるはずだ。


 俺とサラは部屋に戻った。

「了解しました。お受けしたいと思います」

 レイ様に俺たちの返事を伝える。

「やったのじゃ! これでたくさん食べられるのじゃ!」

 レイ様がガッツポーズをして喜んだ。

 なんか子供が欲しいおもちゃを買ってもらって喜んでいるようにしか見えないな。


 ここからの話は俺とサラとレイ様での話し合いにしたほうが都合が良さそうだから、ジャスティン様とルナさんには退席してもらった。

「さっそく契約を結ぼうかの。リュウ、右手を前に出すのじゃ」

 俺はレイ様の指示に従って右手をレイ様の前に出す。

 それをレイ様が自身の右手で握り返した。

 そして目をつむると何やら呪文を唱え始める。

 呪文を言い終えると、俺とレイ様が握手している手の間から青い光が漏れてきた。

 何本もの光が入り混じり、俺とレイ様の腕に絡んでいく。

 最後に一瞬、二人の全身が光ったあとで、レイ様が手を離した。

「これで契約は結ばれたぞ。右腕を見るのじゃ」

 レイ様に言われて自身の右腕を見てみると、上腕部分に小さくて青いドラゴンの紋章があった。

 これが契約の証かな。

「これでリュウと妾は友じゃ。もし妾が必要になったら心の中で妾の名前を呼ぶがいい。すぐに駆けつけるぞ」

 最強の竜の一角が助けてくれるのは心強いな。

「逆に妾がカレーが欲しくなったらお主の心に呼びかけるからそのつもりでな」

 うん、一気に神聖さがなくなるよね。

 あと、俺の寝ているときはやめてほしいかな。びっくりするし。

「そうだ、レイ様に屋台を一台渡しますね」

「もう友なのじゃ、レイと呼ぶがいい。それに敬語もいらぬぞ」

「わ、分かった」

 慣れないけど頑張ろう。

 レイは俺のいるところに取りに来るって言ってたけど、もしソルーンの街中にレイがドラゴンの姿で現れたら騒ぎになる予感しかしない。

 だからあらかじめ屋台を渡しておけば、そのようなトラブルは回避できるはずだ。

 俺はレイに屋台の収納魔法の使い方を説明した。

「他人と共有可能なアイテムボックス。変わったスキルを持っておるのじゃな」

 レイが感心する。

「そうか! これで森にいながらカレーが食べられるのじゃな!」

 そのことに気づいたレイがご機嫌になった。どこまでも食い意地が張っている竜だな。

 こうして俺はレイと竜の契約を結んだのだった。


 その後レイは一度寝床に戻って村の人に渡すものを考えるということだったので、今日は帰ると言い出した。

「それじゃあまた明日も来るぞ!」

 レイは広場で元の姿に戻ると、森のほうへと飛び去っていった。

「はぁ、人生で一番緊張した……」

 ジャスティン様が、レイの姿が見えなくなったところでぼやき始めた。

 まあ、王様に会うよりもはるかに大変だろうな。

「でも、これで村も元通りになって、何よりレイ様とつながりを持つことができた。これは歴史にも名を残せるぞ」

 ジャスティン様が満足そうに言う。

 領主としては村のことが一番気がかりだったと思うし、うまくいって本当によかったと思うよ。

 ジャスティン様は、今日レイとした話を村人たちに伝えに行くということだったので広場で別れた。

 村人たちもびっくりしていたはずだからね。早く真実を知りたいだろう。

 それにしてもレイはどんなものを村に渡すのかな。気になるな。