
セレド様がダイエットを始めてからしばらく
すると、店の入り口からサラが入ってくるのが見えた。
おかしいな。さっき営業報告に行くと言って出ていったばかりのはずだけど。
「どうしたんだ」
俺のほうに駆け寄ってきたサラに声をかける。
「リュウさん! 緊急の呼び出しが入りました。一緒に商人ギルドに来てください!」
サラが息を切らしながら俺に伝える。よっぽど急いで来たんだろう。
また何かあったのか?
「分かった。ハンナ、この場を頼む」
「わ、分かりました。頑張ってきてください」
隣にいたハンナに他のメンバーに事情を伝えるように頼むと、俺はサラと一緒に商人ギルドに向かった。
「リュウさん、来てくださりありがとうございます」
商人ギルドの職員で俺たちサート商会の担当をしてくれているナターシャさんが迎えてくれた。深刻そうな表情をしていることから今回も緊急事態なんだろうな。
「マスター室にご案内します」
ナターシャさんに連れられて、俺たちは転移魔法陣でこの建物の最上階の五階へと向かった。
「また急に呼び出してすまないな」
商人ギルドギルドマスターのドイルさんが迎えてくれた。
「いえ、今回はどのようなご用件で?」
以前呼び出されたときはソルーンの食料問題を解決するためだったけど、今回は何だろう。
「ある村を救ってほしい」
「村を救う?」
漠然としすぎてよく分からない。
「ああ、フストリア領にあるマイマイ村という場所だ」
「マイマイ村ですか?」
サラが反応した。
「サラは知ってるのか?」
「はい、姉が住んでいる村です」
「それは偶然だな」
マスターが驚いたように言う。
そこは
サラのお姉さんはその騎士の奥さんなんだってさ。
「村で何かあったんですか!? 姉は……姉は大丈夫なんですか?」
ソファから立ち上がるようにして言う。
お姉さんがいる村でのことならじっとしていられないよな。
「まず落ち着いてくれ。君のお姉さんも含めて、村人は全員無事だ」
「そうですか、それなら……よかったです」
ほっとしたのかサラがソファに座り直す。
「問題なのは、マイマイ村の近くにレインドラゴンが
「レインドラゴン!?」
サラが大きな声をあげた。
「あの、レインドラゴンってなんですか?」
ドラゴンっていうぐらいだから強いのは分かるんだけど。
「レインドラゴンというのは、ドラゴンの中でもトップレベルの力を持つドラゴンだ」
この世界にはドラゴンが生息していて、種族としては最上位に位置する。
その中でもレイン、ファイヤー、サンダー、フォレスト、ブラックの称号を持つ五体の能力は桁が違うらしい。
力はもちろん、人族以上の知能を持ち、人型に変身することもできるそうだ。
そして、何よりすごいのはその魔力。ファイヤードラゴンは魔力を放出させると新たな火山を作り出すことができる。
フォレストドラゴンは樹海。サンダードラゴンは雷。ただ、ブラックドラゴンはいる場所がはっきりせず、調査も進んでいないらしい。
「レインドラゴンは……雨ですか?」
話の流れからしてそうなるだろう。ウォーターではないんだな。
「その通りだ。レインドラゴンの気分次第で洪水を起こし、挙句の果てには巨大な湖を作ったという記録まである」
マスターがため息交じりにつぶやく。
「マイマイ村の近くにある、シュッツガルの森という場所にレインドラゴンが棲み着いた。その影響で水害が発生して育てていた作物が駄目になってしまったらしい」
人的被害は出ていなくても、農村としてはダメージが大きいな。
「そこでだ。サート商会のほうで食材の支援をしてほしい」
「どうしてサート商会なんですか?」
ソルーンにはうちの他にも食品を扱う商会はあるはずなのに。
「それはだな……」
マスターが言葉を濁す。
「どこの商会も受けたがらないんですね」
サラが言葉をつなぐように言った。
「その通りだ」
マスターが
俺にはよく分からないな。
「リュウさんに説明すると、このクエスト、危険性が高いうえに商会に利益が出ないんです」
俺の表情を見て察したのか、サラが説明してくれた。
商会にとって、運搬経路を持たない場所に村人全員分の食料を送るのにはコストがかかる。それにこのような緊急のクエストだと利益が出るほどの報酬金はもらえない。
だから商会は依頼を受けることを嫌がることもある。ギルド側が圧力をかけたら別みたいだけど。
「何しろ今回は冒険者ギルドのほうにレインドラゴンについてのクエストも出さないといけない」
ドラゴンが棲み着いた場所などの調査も行われるから、高ランクの冒険者を雇う費用が必要になる。
商人ギルドに回すお金が増えないのもやむを得ないのだろう。
「だから普通の食品系商会はこのクエストを断る。普通の商会ならな」
マスターが俺のほうを見た。
「確かに、うちの商会なら可能ですね」
俺さえその村に行けば、食料を提供することができる。輸送費はかなりおさえられるし、原価もゼロだ。
報酬金で十分おつりがくる。
「報酬はいくらなんですか?」
「二千万クローネだ」
村人千人の一ヶ月分の食料を提供してほしいとのこと。
資金は事情を聞いたセレド様が、急いで準備してくれたらしい。
それ以後のことについてはセレド様のほうで支援体制を整えてくれるようだ。
なぜ初めからセレド様のほうで動かないのかというと、領主による支援だと実行するまでにどうしても時間がかかってしまうからで、そのため初動はこのように商人ギルドによって行われることが多いとマスターが教えてくれた。
「分かりました。行きましょう」
偽善かもしれないけど、俺にしかできないのならやれることはやりたい。
それに、サラのお姉さんがいるっていうのなら助けない理由はない。
「リュウさん、本当に、本当にありがとうございます」
サラが泣きそうになりながら感謝を言ってきた。
「私のほうからもお礼を言わせてくれ。ありがとう」
マスターまで俺に頭を下げてくる。
「いえいえ、まだクエストを受けただけですから。お礼は、無事に依頼が終わってからにしてください」
「それもそうだな。またそのときにお礼を言わせてもらおう」
「はい、なるべく早く出発したほうがいいですよね」
あまり、ゆっくり準備する時間はないだろう。
「ああ、遅くとも二日後には出発してもらいたい。それとだな、サート商会の他に、冒険者にも同行してもらう」
「冒険者と?」
「君たちの護衛、および復興支援兼レインドラゴンの調査だ」
冒険者のクエストはそんな内容のようだ。
「相手はレインドラゴンだ。このことを重くみたセレド様は国王様と相談した結果、Sランクパーティーにクエストを依頼することにした。明日冒険者ギルドに行き、顔合わせをしてきてほしい」
「Sランクの冒険者ですか!?」
サラが驚いた表情をする。
どうやら状況から察するに、冒険者ギルドに所属するパーティーの中で最高ランクの人たちのようだ。
一体どんな人たちなんだろう。
その後、クエストを受けるにあたっての細かい説明を聞いたうえで、契約を結ぶことになった。
本当は他のメンバーにも相談をしたかったけど、あまり時間はかけられないからね。
会長、副会長判断ということにさせてもらおう。
「それじゃあ、今日は商会に戻ってメンバーに説明をします」
「分かった、明日の午前中に冒険者ギルドのほうに顔を出してくれ。よろしく頼む」
俺たちは店へと戻った。
「また依頼を受けるんすか? 急っすね」
その日の夜、いつもより少し早めに閉店して、メンバーみんなに今回の依頼のことを説明した。
「すまない、その場所がサラのお姉さんの住んでいる村らしいんだ」
「それならしょうがないっすね」
カインも納得してくれる。
「でも店のほうはどうするんですか? 会長、それに副会長もその村に行くんですよね」
ハンナが質問してきた。
俺は当然行くとして、事情が事情なのでサラにもついてきてもらう。
領主の妻の妹がいるなら話もしやすいからだ。
「そのことなんだけど、今回はハンナを臨時店長に任命したいと思っているんだ」
「あ、あたしをですか?」
ハンナが驚く。まあ、いきなり任命されたら驚くだろうな。
「はい、わたしとリュウさんで決定しました」
新店舗を開店してからしばらく経ち、みんなここの仕事にも慣れてきて、仕事の効率もだいぶ上がってきた。
その中でも特に活躍してくれたのがハンナだ。
持ち前のスキルで他のみんなをしっかり見てくれている。
それにサラの手伝いもしてくれていたから、会計管理も任せられるとサラのお墨付きもある。
「あたしに店長が務まるでしょうか……」
ハンナは自信なさげだ。
「絶対に大丈夫です。わたしが保証します」
サラが胸を張って答える。
「お前なら絶対に大丈夫。それに俺もついているから」
カインも横からフォローする。
これがハンナを選んだもう一つの理由だ。二人を中心に店を切り盛りしてほしい。
「あなた……」
二人が見つめ合う。
はーい、二人の世界に入るのはやめようね。
「他のみんなも大丈夫かな?」
「
とクトルが自信たっぷりに宣言した。そんな物騒なことは起きないことを祈ろう。
「みんなと力を合わせていくので、安心してください」
アレンも力強く頷いた。
うん、心強い仲間に出会えて本当によかった。
次の日、俺とサラは冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは商人ギルドのように街の中心にはない。
俺がこの街に来たときにくぐった外壁の門の近くにあった。
冒険者は街の外に行くことが多いのと、外壁付近が一番治安的に悪くなりやすい場所だからということらしい。
だから、冒険者ギルドだけ石造五階建てと、この辺りでかなり目立っていた。
俺とサラは建物の中に入った。
造りは商人ギルドとよく似ていて、銀行みたいにカウンターで冒険者がいるスペースと職員がいるスペースが区切られている。
とりあえずカウンターへと向かった。
「ようこそ冒険者ギルドへ。クエストの受注ですか? それともクエストの依頼ですか?」
「サート商会会長のリュウです。商人クエストの件で商人ギルドのマスターからこちらに来るように言われました」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付の職員の人が手元の紙をめくって確認をした後、カウンターの奥へと消えていった。
そして、一人の老人と共に戻ってきた。
「君たちがサート商会のリュウとサラだな。ドイルのほうから話は聞いている。わしはフストリア領冒険者ギルドのマスター、ヘッジだ。わしの部屋に案内しよう」
なんと現れたのはギルドマスターだった。
それだけ重要な案件ってことだ。まあ、最高峰のSランク冒険者が派遣されるんだものな。
「よろしくお願いします」
俺たちはマスターに連れられて、職員スペースの奥へと向かった。
そして商人ギルドのときと同じように、転移魔法陣を使って五階へと行く。
「さあ、わしの部屋に着いたぞ。先客がいるからよろしくな」
部屋に入ってみると、商人ギルドのマスター室とは違い、豪華というよりは
壁に掛けられているものも武器や地図だったりと冒険者色が濃い。
そして、ソファには四人が座っていた。
頑丈そうな装備をしている人もいるし、おそらく
四人は俺たちが入ってきたのを見て立ち上がった。
「リュウとサラに紹介しよう。今回君たちと同行してもらうSランクパーティー『魔女の
「俺が魔女の
のリーダー、ロンドだ。よろしく頼む」
そう言って男の人が手を伸ばしてきた。
「サート商会会長のリュウです」
握手をすると、俺の手はロンドさんの手の中に完全に包まれてしまった。
腕も筋骨隆々だし、上背があるからとても強そうだ。それに、目の下には
きっと魔物か何かにやられたんだろうな。
「副会長のサラです。魔女の
の評判は存じ上げています」
サラによると、Sランク冒険者を要するパーティーはこのエルランド国に三つしかなく、それぞれ名が広く知られているらしい。
「へえー、そういう風に言ってもらえると
男の子が軽い身のこなしで移動すると、俺の目の前に立った。
「僕はダミアン。エルフだ。サート商会はソルーン期待の新星と聞いたよ。よろしく!」
茶髪で身長は一六〇センチほどと小柄。顔にはあどけなさも残っている。見た目は中学生ぐらいかな。
肩にかけるような形で大きな水筒を持っている。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ダミアンさんと握手をする。
「私の名前はユフィですの」
ソファ越しに、ゆったりとした長いローブを着ている女性が話しかけてきた。
「最後がうち、アミルよ」
こっちの女性は頭からとんがった犬の耳が生えていた。獣人のようだ。
「これで全員把握できたな」
自己紹介が終わったところでマスターが口を開いた。
「さて、これから、今回の依頼について話すが、あくまで『冒険者側』についてだ。『商人側』についてはわしよりそこの二人のほうが詳しいだろうから、あとで聞いてみてくれ」
「了解しました。あとで説明させていただきます」
サラが頷く。
それからマスターがレインドラゴンについて説明をしてくれた。
今回レインドラゴンが棲み着いたとされるのは、フストリア領の南西部にある広大な森林、シュッツガルの森だ。
その森のそばに位置するのがマイマイ村だ。あまり雨が降らない気候だったらしいが、レインドラゴンが来てからはしょっちゅう雨が降るようになったそうだ。
「村人がかなり高い場所を青いドラゴンが飛んでいると言っていたからまず間違いないだろう」
マスターが付け加える。
そのため、魔女の
の面々はまず、マイマイ村に滞在して村の復興の手伝いをする。
その後マイマイ村を拠点としてシュッツガルの森に入り、レインドラゴンのいる場所を特定することがクエストだ。

「最悪ドラゴンと直接戦闘になるかもしれないから注意してほしい。とはいえ、目的はドラゴンの討伐ではなく、マイマイ村の平穏を取り戻すことだから、無理はしないように」
四人が真剣に頷く。
うん、俺、もらったスキルが戦闘系じゃなくて本当によかったわ。
もし強いスキルをもらってたとしても、クエストでドラゴンと戦ってこいなんて言われたら俺は断るかもしれない。
そう考えれば、神様って人のことちゃんと見てスキルを選んでいるんだろうな。
「説明は以上だ。何か質問はあるか?」
マスターが全員を見渡すが、特に誰からも異論は出なかった。
「よし、出発は明日の明け方だ。それまでに各自必要なものは準備して門の前に来てほしい」
こうして、他に商人側の話もして、この場は解散になった。
「俺たちは装備の準備をしに行くが、一緒に来るか?」
ロンドさんが俺たちにそう声をかけてきた。
「そうですね、せっかくなのでお願いします」
なんだかんだでソルーンの外に出るのは、この世界に来た日以来。つまりほぼ初めてと言ってもいい。
必要なものについてはプロに聞いたほうがいいよな。
「それでは行こう」
俺たちはみんなで街の中心部へと向かった。
俺たちは、高級商業地にある『ガーグルの冒険ショップ』という店に来た。
魔女の
の人たちが言うには、必要なものはここで大体そろうらしい。
元の世界でいうアウトドアショップみたいなところだ。
「まずは、リュウとサラのテントだな」
今回のクエストでは、道中は馬車だし、マイマイ村では俺とサラは領主様の家に泊めさせてもらう予定のため、今のところ使う予定はない。
ただ移動中に万が一があるため、持っておいたほうがいいということだ。
ロンドさんがテントコーナーに向かって歩き始めた。
「あ、テントは買わなくて大丈夫ですよ」
俺はロンドさんを後ろから呼び止めた。
「何を言っている。防水、防寒、防犯においてテントは必須だぞ」
「いえ、持ってるんです」
厳密にはスキルだけど。
俺は、屋台を召喚して、フォルムチェンジでテントを作り出した。
二人が横になれるぐらいのテントだ。これなら問題ないだろう。
増殖スキルでいくつでも作れるし。
「素晴らしいスキルだな」
「見る限り、強化魔法がかかってる。普通の攻撃なら楽にはね返せるね」
ロンドさんとダミアンさんがしげしげとテントを見つめている。
少し見ただけでそこまで判断できるんだからさすがSランク冒険者だ。
というか、攻撃防げるんだなこのテント。
もしかしたらレベルアップが進んで、そういうところも強化されてるのかもしれないね。
その後もランプとか元の世界でいうところのキャンプ用品を見ていく。
俺もサラもこういう店に来るのは初めてだったから目新しいものばかりだ。
「リュウさん見てください、ハンモックですよハンモック」
「へえ、こんなものもあるんだ」
元の世界にあったものとさほど形状は変わらないが、高価なものになると、近くの木や岩に魔法でくっつく性能を備えていた。
テントを張るには危険な場所とかで重宝されるらしい。
そのぶん高くて買えないけどね。
「よし、ここでの買い物は済んだな。移動するぞ」
キャンプセットなど、必要なものを一通り購入した後、ロンドさんに連れられて再び店巡りを始める。
今度は武器店に向かうことになった。
さっきの店と違って、一般商業地にあるこぢんまりとした店だ。
アミルさん
「点検に出してたうちの剣を回収するんだ」
アミルさんが手元に戻った剣を見せてくれた。
「うわぁ、すっごく
両刃式の剣で、一切ゆがみがない。太陽の光を反射して光り輝いている。
「あんまり近づかないでね。岩ぐらいなら簡単に切れちゃうような剣だから」
アミルさんの言葉を聞いて、サラと俺は五メートルほど距離を取った。
「アハハ、大丈夫だよ。うちが持ってるんだからそんなへまはしないって」
アミルさんが笑いながら剣を
「次は私の番ですの」
今度はユフィさんに連れられて薬草店へと向かった。
そこで、ユフィさんが様々な薬草を籠に入れていく。あと植物の種も購入するようだ。
「よく使う薬草はこういう風に店で補充しますの」
ユフィさんが店から薬草を抱えて出てきた。
緑、赤、青、カラフルなのもあれば、なんか動物みたいな形の植物まである。
というかそれホントに植物か? よく見たら微妙に動いているんだけど。
こんな風にして店巡りは終わった。
こういうことが冒険者たちの出発前のルーティーンらしい。
俺は商人としてこの異世界で頑張ってきた。
だからこんなときに言うのもなんだけど、冒険者の生活の一端を見られてちょっと楽しい。
その後、調理用具店に立ち寄り、木皿や木でできたフォーク、大きな鍋などを大量に購入していく。
直接食料を渡すだけじゃなくて炊き出しとかもやることになるだろうからね。あらかじめ準備しておかないと。
あとはパン店に移動して自分では作れないドーム状のパンも大量購入する。
食パンがあるから買わなくてもいいけど、
二人では持てないぐらいの量だったので、魔女の
の人たちにも手伝ってもらった。
「持つのはまったく構わないのだが、こんなに買ったら持っていけないのではないか?」
ロンドさんが鍋を持ちながら不思議そうに言う。
「そうですの。それにリュウとサラは食料の運搬もするはずですの」
ユフィさんも不思議そうだ。
「大丈夫です、少し広めの場所に移動したらアイテムボックスに収納しますから」
店を出て、人通りの少ない脇道の入り口で俺は屋台を召喚した。
そして買ったものをせっせと収納魔法にしまっていく。
「り、リュウ、それどれぐらい入るの?」
ダミアンさんが口をあんぐり開けている。
「どれぐらい……あまり気にしたことないですね」
最初の頃はパン何斤分とか考えながら収納してたけど、今は相当な量が収納できるんじゃないかな。
それに創造魔法で作ってるものも入っているからね。想像もつかない。
「無尽蔵の収納魔法。相当レアなスキルだ」
ロンドさんも興味深そうに見ている。
「王都でも滅多に見ないスキルですの。それにさっきテントを作るスキルも見ましたの」
ユフィさんも俺のスキルを分析してるみたいだね。
「リュウってとんでもないスキル持ちなんだな」
アミルさんも感心している。
Sランクパーティーの人たちに褒めてもらえると嬉しいな。
「収納が終わりました。お待たせしてすみません」
「大丈夫だよ。そういえば、お腹が減ってきたね」
「それ、うちも言おうと思ってた」
ダミアンさんとアミルさんが話し始めた。
「それでしたら、うちの店に来ませんか? よろしければご
せっかくの機会だし、皆さんにうちの料理を食べてもらおう。
「それはありがたい。ぜひ伺うことにしよう」
「リュウの店か! 僕も興味あるな」
魔女の
の皆さんの賛同も得たところでソルーン・バーガーへと向かった。
「あ、会長!! こちらの方々は?」
カウンターにいたハンナが声をかけてきた。
「今回の依頼でご一緒する魔女の
の皆さんだ。店を紹介しに来たんだ」
「あのSランクパーティーの!?」
ハンナも知っているみたいだな。
「リュウ、いい店だな」
ロンドさんが店を見ながら
「へえー、注文して自分の席に運ぶんだね」
ダミアンさんも楽しそうだ。
「どのメニューにするか迷いますの」
「うちは牛バーガーにしようかな~。今日はお肉を食べたい気分なんだよね」
ユフィさんとアミルさんはもうメニューを選び始めているよ。
全員が欲しいメニューを受け取ったところで、二階へと移動した。
ちなみに、ロンドさんは豚のテリヤキ、ダミアンさんは豆腐バーガー、ユフィさんは野菜バーガーを選んでいた。
「どうぞお召し上がりください」
四人が一斉にバーガーを
「!? このあふれる肉汁は……」
会ってからほとんど表情を崩さなかったロンドさんが大きく目を見開いた。
「僕のバーガーもあっさりしてるのに肉がふっくらしていて食べ応えがあるよ!」
「私の野菜バーガーもこのトマトのソースがとっても
「この牛バーガー最高! うちの胃袋ががっちり
うん、喜んでくれたみたいだね。
「こんなに美味しい店は王都でもあまりないんじゃないかな?」
ダミアンさんの言葉に他の三人が頷く。
「さっきのアイテムボックスもそうだが、さすが期待の新星と呼ばれるだけのことはあるね」
「これならマイマイ村のクエストも安心して任せられますの」
皆さんの信頼も勝ち取れたみたいだ。
「すまないが、もう一つハンバーガーをいただきたい」
冒険者なだけあって、よく食べるんだろうな。
こうして、魔女の
の四人にもハンバーガーを楽しんでもらった。
「素晴らしい料理をありがとう。明日からよろしく頼む」
ロンドさんが俺に握手を求めてきた。
「はい、できる限りのことはさせていただきます」
俺は差し出された手を握り返す。
「頼みばかりですまないが、良い宿を知っていたら紹介してもらえないだろうか」
ロンドさんによると、この街に来て泊まっていた宿が高いわりに微妙だったらしい。
だから安くていい宿を探しているそうだ。
Sランク冒険者だからお金をいっぱい持ってるんだろうけど、意外と庶民派なところもあるんだな。
「それでしたら、『アリアドネの宿』というところがおすすめですよ」
俺が異世界に来て初めて泊まった宿だ。
ここに泊まっていなかったら、ローサさんにもサラにも、カインにも、ハンナにも会えなかった。
泊まった期間は短いけど、俺にとっては大切な場所だ。
「そうか。ではその宿に行ってみよう」
「そうだ、カインはいるかな? うちの料理長、そこの宿出身なんですよ」
カインを呼んできて事情を説明する。
「そういうことなら任せてほしいっす!!」
とのことだったのでカインに案内を任せることにした。Sランクの冒険者に泊まってもらうのは名誉なことだし、おばちゃんも喜んでくれるだろうとのことだ。
「では、また明日」
「はい、冒険者ギルドの前でお会いしましょう」

次の日の午前五時、俺はいつもより早く目を覚ました。緊張もあってあまり寝つけなかったな。まあ、出発前の確認もしたいしちょうどいいか。
一通り朝の準備をしたあと、最後に家の中を点検する。
しばらく家を空けることになるから、忘れ物とかをしっかり声に出しながらチェックしていく。
まあ、この世界に来てからあまり物は買ってないし、買ったものの大半は収納魔法に入れてある。
だから点検自体はすぐに終わった。
「いってきます」
誰もいない部屋に向かってつぶやいてから俺は冒険者ギルドに向かった。
「リュウさん、おはようございます」
冒険者ギルドの前に着くと、サラが入り口のところで待っていてくれた。
「おはよう、今日からよろしくね」
「はい、二人で協力して村を助けましょう」
サラがぐっと両手の握りこぶしに力を込めた。気持ちは十二分に分かるし、俺も全力で手助けしたい。
「ちょっとちょっと、僕たちも忘れてもらったら困るよ」
後ろからダミアンさんが声をかけてきた。
魔女の
の四人だ。
みんな昨日よりもの静かで、少し緊張感が漂ってくる。
そりゃ今からドラゴンのところに行くんだもんな。
俺とサラ以上に覚悟が必要になるわけだ。
「皆さんよろしくお願いします」
「お願いします」
俺とサラは頭を下げる。
「リュウとサラを守るのも重要な任務の一つだ。何の心配もしなくていい」
そう言って俺の肩をポンポンと
だからこそ、さっきの言葉も説得力が増すんだと思う。
「みんなそろったようだな」
ギルドマスターが中から出てきた。
「マイマイ村行きの馬車は途中にある川の橋が落ちたことで運休している。だからその手前の街までになるが、馬車を手配した。それに乗っていってくれ」
マスターからの最後の指示が出る。
「では、成功を祈って君たちの帰りを待っている」
マスターの見送りの言葉と共に俺たちは出発した。
外壁まで向かい、門の近くまでやってきた。いよいよ出発か。
馬車乗り場までやってくると、見覚えのある二人が立っていた。
「師匠! お疲れさまっす!」
「お疲れさまです」
カインとハンナだ。
「朝早いのにありがとうな」
「これぐらいあたりまえっすよ」
カインが笑顔で言う。
「こちらからも定期報告をするので、そちらも何かあったらすぐに手紙をくださいね。会長と副会長が戻ってくるまであたしたちで頑張ります!」
手紙は俺のスキルを使ってやり取りをする予定だ。
実は、増殖魔法で増やした屋台の収納魔法はみんな共通でつながっている。
だから、ある屋台から入れた手紙は、離れた屋台からでも取り出せることから、遠い場所でもスピーディーなやり取りが可能だ。
これ、人の移動もできるんじゃないかと思ってサラに提案したことがあるんだけど、
「アイデアとしてはいいですけど、誰が最初に試すんですか?」
と言われてから断念している。
時間経過のないアイテムボックスに人が入ってどうなるかなんて分からないからな。
何かあってからじゃ遅いし、危険なことはやめておこう。
おっと、話が脇道に
ハンナも臨時店長として覚悟を決めてくれたみたいだし、ここからはクエストに集中していこう。
「それじゃあ、行ってくる」
二人に見送られながら馬車で出発した。
門のところでは一度馬を止めて
入るときとは違って、出るときはチェックが簡単だった。
ロンドさんたちの身分証を確認した兵士が二度見してたな。それだけ有名人ってことだろう。
それが終わるといよいよ街の外だ。
「おおー、懐かしい風景だ」
壁の外へ出ると、畑や、ところどころ森があったりと自然豊かな風景になる。
突然この世界にやってきたあの日以来の光景だ。
あの頃は来たばかりで、目の前のことにいっぱいいっぱいだった。
けど、今は自分の商会を持って仲間と一緒に旅に出ることができている。ありがたいことだよな。
そんな思いを巡らせながら森の中を抜けていると、馬が大きな鳴き声をあげながら急停止した。
何かあったのかな。
「おいお前らぁ!!」
馬車の後ろから男二人組が大きな声をあげて乗り込んできた。手には刃物を持っている。
俺はとっさにサラをかばう格好で動きを止める。
「いいか、何も返事はするな。金になりそうなものだけ全部出せ。隠すんじゃねぇぞ! 今すぐだ。さあ出せ!」
片方の男が怒鳴る。
どうしよう、俺はパニックになるのを抑えつつ、必死に頭を働かせる。
どうやったら怪我なくやりすごせるのか。どうしたら大丈夫なのか。どうやって動けばいいのか。どうやって……あれ、同じことばっかり考えてないか?
頭の中がグルグルと回っていた俺と違って魔女の
の人たちは眉一つ動かさない。
それどころかリラックスした表情までしている。
「おい、ダミアン。お前がやれ」
ロンドさんがめんどくさそうに腕を組んだままダミアンさんに言った。
「えー、自分でやればいいじゃん」
ダミアンさんもだるそうにしている。
「分かったよ、まあこんな人たちじゃ実力以前の問題だけどね」
ダミアンさんが頷いた。
「さっきからなにごちゃごちゃ
言い終えないうちに盗賊の一人は鈍い衝撃音と共に吹っ飛んでいった。
そして十メートルぐらいきれいに空中で放物線を描いたあと、地面に激突して動かなくなった。
周囲が静寂に包まれる。
「お、おい相棒!」
もう一人の盗賊が震えながら叫ぶ。
「安心して。気絶させただけだから」
動かなくなったのを見てからダミアンさんが笑顔で言った。
「ふざけんな!」
とダミアンさんに向かってとびかかろうとした瞬間に、そいつも同じような軌道できれいに飛んでいって動かなくなった。
ダミアンさん、恐ろしく強いんだな。
ダミアンさんが気絶した二人をロープで縛った後、馬車の荷台の隅に二人を並べて出発した。
「あの、その二人どうするんですか?」
ほっとした表情のサラが二人を指差しながらダミアンさんに質問をする。
「次に到着する街で衛兵にでも引き渡すよ。どうせこの辺りに出る賞金首でしょ」
衛兵に引き渡して、賞金首だった場合その報酬がもらえるみたいだ。
「実は私、この人たちを見たことあります」
詳しく聞いたところ、サラがソルーンに初めて来たときにお金を取られた盗賊らしい。
そのときからしばらく
「まあ、僕たちと出会ったことが運の尽きだったね」
ある意味サラの
「ダミアンさん、ありがとうございました。そしてリュウさんも守ってくれてありがとうございました」
サラが俺に向かってお礼を言ってきた。
「ん? 俺は何もしてないよ」
倒してくれたのはダミアンさんだしね。
「いえ、かばってくれただけでも嬉しかったです」
「ちなみに、ダミアンさんはどうやって倒したんですか?」
戦闘の素人から見て、ダミアンさんが特に何かしたようには見えなかったんだよな。
「僕の能力は簡単に言うと水を操れるんだ」
ダミアンさんは横にあった水筒を手に持つ。
すると中から水球が浮き出てきた。
「いくよ、それ!」
目の前にあった水球は十個ほどの小さな水球となり、俺たちの周りをぐるぐると回った。
「綺麗ですね!」
サラが楽しそうに水球を目で追いかける。
「攻撃にも使えるよ。僕が全力でこの水球を撃てばそれだけで十分な威力になる」
「じゃあ、さっきのは」
「うん、水筒の水を球にして飛ばしただけ。自分で水も作り出せるけど余分に魔力を消費するからね」
飛ばしただけって言ってるけど、その水球で二人を十メートルも吹っ飛ばしてるんだから恐ろしい威力だよな。
それでもまだ全力ではないのだろう。
「よし、じゃあ最後にとっておきを見せてあげるよ」
「なんですか、なんですか?」
サラは興味津々だ。
「僕の趣味は水を使ってアートをすることでね。今から僕の作品を見せてあげよう!」
目の前にある水球が瞬く間に形を変えていく。不規則に動いていく様子は見ていて飽きないな。
「さ、出来た。今回のは自信作だよ」
どうだ、とばかりに俺たちにその作品を見せる。
「……あの? これは何でしょうか?」
サラが困惑するのも無理はない。完成したものが何だかさっぱり分からないんだよな。
四本脚の動物なんだろうなとは思う。
ただ、筒状の胴体から脚が四本生えていて、顔に目と口と鼻、頭に三角形の耳がついているだけのなんとも残念な作品だった。
三歳児が積み木で作った動物といえば伝わるだろうか。
「何って馬に決まってるでしょ」
ダミアンさんが当然という感じで答える。
いや、犬でも猫でも馬でもこれならほぼ差はないだろ、と心の中で突っ込んだ。
「……ダミアンが申し訳ない」
「うちのダミアン……センスないんだよね」
「まともな作品は見たことないですの」
他の三人がバッサリと作品を切り捨てる。さすが一緒に行動しているだけあって容赦がないな。
「みんなが僕のセンスを理解してないだけだ! 見てみろ、この無駄のないフォルム! つぶらな瞳! 今にも走り出しそうな躍動感」
ダミアンさんが興奮気味に解説するが、俺からすれば、
無駄どころか必要なところまで削りすぎて動物の種類を判別できないフォルム。
白目と黒目の区別がないからどこを見ているか分からないつぶらな瞳。
ダミアンさんの脳内フィルターで大部分が補われた躍動感。
としか思えない。絶対言わないけど。
当然、他の人もダミアンさんの熱弁に微妙な反応をし続けた。
「ふん、それならみんなもやってみればいいさ!」
「え、できるんですか?」
ダミアンさんによれば、水に魔力を込めれば粘土みたいに他の人にもいじれるらしい。
「じゃあ、私がやってみますね」
サラが立候補した。座って水粘土を床に置きながらコネコネ作業をする。
「ひんやりしていて気持ちいです」
「俺も触ってみていい?」
サラに少し触らせてもらうと、確かに冷たい肌触りが心地いい。べたつかない堅めのスライムって感じかな。
待つこと十分、
「出来ました! 粗削りですけど」
サラが出来上がった作品を抱える。
「上手だな」
サラが作った馬は、体のバランスがしっかり整えられていて、背中の毛や、
そして足の筋肉まで大まかではあるが表現されているので、本当に原っぱを走っているような姿だ。
「これは見事な作品だ」
「すごーい! サラってこういうの得意なんだね」
「これならダミアンのと違ってずっと見てられますの」
パーティーの三人も褒めてくれた。
「ありがとうございます」
サラも嬉しそうだ。ただ、ダミアンさんだけは、
「なかなかだね! まあ僕にはかなわないけど」
とやや上から目線の褒め言葉を言っていた。
こうして馬車の旅は最初にアクシデントがあったけど、それ以後は平和に過ぎていった。
先のことは不安だけど、ずっと気を張り詰めるのは良くないからね。いい息抜きになったと思う。

馬車での旅は順調に進んだ。
夜になったら街の宿場で休息をとって、日中は移動する。
ソルーンを出発して二日後の夜、マイマイ村から最も近い街に到着した。
街といってもソルーンのように大きくはなくて、宿場町のような場所だ。
マイマイ村に近づいたこともあって、天気もあまり良くない。
着いてさっそく俺たちは地元の人にマイマイ村の状況について話を聞いた。
「マイマイ村ね、レインドラゴンがシュッツガルの森に出たってんでこの街でも騒ぎになったんだ」
酒場のマスターが教えてくれた。
「幸いレインドラゴン自体が何かをしてくることもなかったし、怪我人とかは出てないみたいだよ。でも、雨の影響でこの街からマイマイ村へ行くために渡る橋が崩れてね。村が孤立しているんだ」
孤立は心配だけど、ひとまず怪我人がいないみたいでよかった。
話を教えてくれたお礼として、酒場で夕飯を食べながらみんなで相談をする。
「できることなら夜も進みたいのですが」
サラがそんなことを言い始めた。
「ダメだ。俺たちだけなら問題ないが、今回はサラとリュウ、二人の命を預かっている。無茶なことはできない」
ロンドさんがその提案を否定する。
「そうですか……」
サラが残念そうな顔をする。
俺もその意見には賛成だ。
魔女の
の人たちはこういう場所にも慣れているだろうけど、俺たちは素人だ。
こっちが災害に巻き込まれたら元も子もないからね。
「大丈夫だよ。君の姉さんも無事なはずなんだから安全に行こう」
アミルさんがサラのことを励ます。
「そうですね、分かりました。無理なことを言ってすみません」
「いやいや、大丈夫だよ。僕だって身内がいるってなったら心配になるよ」
ダミアンさんもフォローを入れる。
「その代わり明日は早く出ような」
俺に言えることはそれぐらいだ。
「さて、話は戻るが明日は徒歩で村へ向かう」
この先、雨によるぬかるみが激しく、馬車で進むのは難しいらしい。
ロンドさんによれば、遅くとも夕方までに到着するだろうとのことだ。
「あの、橋についてはどうするんですか?」
確か橋が落ちて村に行けないって話だったけど。
「それは問題ないですの。私が解決しますの」
ユフィさんが自信たっぷりに答える。それなら大丈夫なのだろう。
「とにかく、今日は早く寝ることだ。明日の早朝出発する」
俺たちは夕食を済ませると、宿に戻って明日に備えた。
「よし、出発だ」
翌朝、全員が集まったことを確認してからマイマイ村へ向かう。
外は雨みたいだな。
街を出て俺たちはひたすら歩いた。雨で道がぬかるんでいるからだいぶ疲れるな。
「水の流れる音がする! 川が近いよ!」
昼過ぎ、アミルさんが声をあげた。
アミルさんは獣人ということもあって全体的に身体能力が高いのと、聴覚、嗅覚が優れていると言っていた。
だから誰よりも早く気づいたのだろう。
しばらく進むと、川幅が二十メートルほどの大きな川に行き着いた。
対岸には森が見える。
雨の影響でかなり水位が高いし濁っている。泳げるような水の流れではないことは明らかだ。
橋も木製の土台以外は流されてしまっているみたいだし。
これじゃあ進めない。そう思っていると、
「私の出番ですの」
と、ユフィさんは川べりに座って何かを地面にばらまいた。
そして目の前で両手を合わせて目を
すると、地面からものすごいスピードでツタに似た植物が生えてきた。
あっという間にアーチ状の橋が完成した。
「すごい……」
俺は思わず声を漏らす。こんな巨大なものを一瞬で作るなんてまるで魔法のようだ。
いや、魔法なんだけどね。
「こんな感じですの、さあ、行きますの」
ユフィさんが先頭になって植物の橋を渡り始めた。
初めは少し戸惑ったけど、俺たちが乗ってもびくともしない。
それに手すりまで作られているから落ちる心配もないし。
こうして無事に対岸までたどり着いた。
その後も俺たちは森の中を進む。そして歩くこと二時間、ついに目の前が開けてきた。
「ここがマイマイ村か」
目の前に広がる光景はいわゆる田舎、という感じだ。
一面の畑で、のどかな場所だ。
晴れた日に見ればとても綺麗な景色のはずだが、今はそうも言っていられないようだ。
畑は水浸しになっているし、道にまで水があふれているところもある。レインドラゴンが近くにいることでずっと雨が降っていたんだろうな。
これでは作物がダメになってしまうのも無理はない。
「早く姉のところに向かいましょう」
サラの言う通りに俺たちは村の中心部へと向かった。
近くにあった農家の人に話を聞いて、俺たちはこの村の領主の家を訪ねた。
「ここか」
村の中心付近にあり、敷地は高さ三メートル弱の土壁で囲まれていた。
正面には木製の門があったので、そこから中に入る。
入るとまず庭のような場所があった。ここに村人たちが集まることもあるのだろう。
今は雨が降っている影響で誰もいないみたいだけど。
そして、そのまままっすぐ進んだところにレンガ造りで平屋の屋敷が建てられていた。
もちろんセレド様の屋敷よりは小さいが、村の領主としては立派なものだと思う。
「ごめんくださーい!」
玄関で俺は大きな声を出した。誰かはいるはずだよな。
「はーい!!」
奥から大きな声が聞こえて、一人の女の人が小走りでやってきた。
「どちら様でしょうか」
俺たちの前にやってくるとそう言う。
「お姉ちゃん!!」
サラがその女の人に抱きつく。
「ちょっとサラ! なんであなたがここに!?」
どうやらサラのお姉さんのようだ。
「無事で本当によかった!!」
サラが
「会えてとても嬉しいわ! ……そちらの方々は」
サラの背中越しに女性が聞いてきた。
「申し遅れました。私、サート商会会長のリュウです。商人ギルドの依頼を受けてここにやってきました。サラさんにはいつもお世話になっています」
俺は自己紹介をしながら今回のことについて説明をする。
一緒に魔女の
のメンバーも自己紹介をした。
「サラの姉のルナです。マイマイ村の領主ジャスティンの妻です」
ルナさんはサラとよく似た顔だちだが、ルナさんのほうが目がキリッとしている。
「どうぞあがってください、夫に紹介させていただきます」
ルナさんに連れられて俺たちは屋敷の奥へと進む。
「よく来てくださいました」
奥の部屋でジャスティン様が俺たちのことを迎えてくれた。
「私がここの領主のジャスティンです。もともとは王都で聖騎士を務めていましたが、怪我をして引退することになりました。そして国王様から男爵位とこの土地をいただいて、今はここで暮らしています」
「サート商会会長のリュウです」
「サート商会副会長のサラです、お久しぶりです。ジャスティンさん」
「ルナの妹のサラちゃんかい? これは驚いた」
遠方なこともあって結婚式以後はサラとは会えていなかったらしい。
「久しぶりに話がしたいところだが、今は村のことを優先させてくれ」
「分かりました」
そこからは村の状況を聞いた。
畑がダメになってしまった。
そして、低い土地の部分に水がたまってしまい、一部の家は浸水してしまっている。

主にそのような内容だった。
日本だったらもともと雨が多く降るから対策がなされていることも多い。
でも、この土地はそこまで雨が降らないみたいだから対策をしていなかったのだろう。
これは元通りになるまでに時間がかかりそうだな。
そう思っていると、
「了解した。それぐらいの被害ならば三日ほどで改善できるだろう」
ロンドさんがそうジャスティン様に言った。
三日? いくらなんでも早すぎじゃないか?
「うん、僕たちがやればそれぐらいだね。ユフィも準備してるでしょ?」
「はい、問題ないですの」
ダミアンさんとユフィさんも頷いている。
「三人はね、災害支援でもすごい力を発揮するんだよ」
アミルさんが説明をしてくれた。これまで依頼で魔物の被害にあった村の復興をいくつもやってきたらしい。
確かに、村の復興っていう大規模なことをする割には、一緒に行く人の数が少ないなとは思っていた。でもそういうことなら何か考えがあるんだろうな。
「うちは戦闘要員だけどね」
それならばと、アミルさんには三人が作業している間は俺たちの手伝いをしてもらうことになった。
こっちも人手は欲しいからね。
「では、今度はサート商会のほうの話をさせてもらいますね」
サラとジャスティン様が中心となって物資についての話し合いがなされた。
保存の観点から、通常は家ごとに三日に一度食料を渡していくこと。
時折、炊き出しとして村人への食事の提供。
これが主な仕事となった。
「本当に感謝します」
ジャスティン様が俺たちに向かって頭を下げる。備蓄をしていた倉庫の一部も雨でやられたみたいだから
「それじゃあ明日から作業を始めますね」
今日の話し合いはこんな感じでまとまった。
なんだかんだ夜も遅くなってきたから、用意してきた簡単な食事をとって寝ることになった。
「まさかあのサラが商会の副会長になるなんてね、びっくりよ」
夕食中、ルナさんが感慨深げにサラから話を聞いていた。
「副会長になれたのもリュウさんのおかげです」
サラがしていたルナさんへの説明が、なぜか途中から俺の褒め殺しにシフトしていたからもどかしかった。
「いやいや、サラ自身の活躍のおかげだよ」
今度は俺がルナさんにサラの活躍を説明することになった。
サラがいなかったら俺の素人会計で経営することになっていただろうし、本当に頭が上がらないよ。
「妹のことをこれからもよろしくお願いします」
ルナさんからそんなことを頼まれた。
もちろんそのつもりだ。
次の日は幸運なことに晴天だった。
ルナさんによると久しぶりの晴天だそうだ。
「それでは、村の人たちに配ってきますね」
ジャスティン様から村の住人の家の場所を教えてもらったので、俺、サラ、アミルさんの三人で手分けをしながら配達することになった。
「どうやって配るの?」
アミルさんが聞いてきた。そういえば詳しく説明してなかったな。
「今から教えますね」
俺は屋台召喚を使って屋台を取り出した。
「これ、ここの部分が収納スペースになっています」
ここでアミルさんに、サラと相談して書いたメモを渡す。
「中に手を入れたら、ここに書いてある食材を思い浮かべてください。そしたら、手に物が当たる感触があると思います」
俺の指示に従って、アミルさんが収納魔法の中に手を突っ込んだ。
「じゃあ、試しに玉ねぎを出してみるね……わっ!! 本当に玉ねぎが出てきた! 他人も使えるアイテムボックスなんて初めて見たよ!」
アミルさんが手を収納魔法から取り出すと玉ねぎを持っていた。
うん、成功したみたいだね。
「今の感じで取り出してください」
「分かったよ。でもこの食パンって何?」
「これはうちの商会のオリジナルの商品なんです」
説明がてら、俺はひとつを取り出してアミルさんに渡した。
「食べてみてください」
せっかくだから試食してもらおう。
「ありがとう! いただきます! ……うん、柔らかくて美味しいね! 前に貴族の屋敷で食べたパンみたいだよ」
よかった、気に入ってくれたみたいだ。
「こんな高そうなパンも配るの? 予算大丈夫?」
なかなか鋭い質問が飛んできた。
「その点については安心してください」
あいまいな言い方になったけど、秘密を明かすわけにもいかないし、ここは察してもらおう。
「ふーん。あと屋台は一台ってことはここで食材を取り出してから、みんなバラバラに配りに行くのかな?」
あ、そこについても説明しなきゃな。
俺は屋台増殖を使って屋台を三つにした。
「これで問題ないですよ」
「……リュウのスキルってさ、目立ちにくいけど知れば知るほどかなりすごいものなんじゃない?」
「ありがとうございます」
自分のスキルを褒められるとやっぱり嬉しいな。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
「うん! 任せて! うち脚力には自信があるから!」
アミルさんは屋台を引く体勢を整えると、駆け出した。
そしてあっという間に遠くまで行ってしまった。
村の中でも遠いところを任せて正解だったな。
「私たちも行きましょうか」
「そうしよう」
俺たちも作業を開始した。
「ごめんください」
俺が担当する家のドアの前で大きな声を出した。
少ししてから扉が開いた。
「あの、どちら様でしょうか?」
三十代ぐらいの女性が少し不安そうな表情で聞いてくる。
「サート商会会長のリュウという者です。今回マイマイ村に支援物資を届けに参りました」
俺は事情を説明した。説明を聞くうちに女性は安心した表情になった。
「これが今回の食材です」
ドーム状のパンや食パン、肉、野菜などを人数分渡した。
これで三日間ぐらいは大丈夫だろう。
「わぁ!! 美味しそうなパンだ!!」
後ろから女の子がやってきた。五、六歳ぐらいかな。
「ほらクレア、あなたもお礼を言いなさい」
「おじちゃん、ありがとう!!」
うん、一点の曇りもない眼差しでおじちゃんと言われると少し傷つくな。
「また来ますね。あと時々領主様の家で料理を作ったりするのでぜひ来てください」
連絡を伝えて俺は家を出た。
「おじちゃんまたねー!」
……大人げないし否定するのは諦めよう。
こうしていろいろな家に配っていたところ、人が集まっている場所があったから
「あれ? ロンドさん。何をしているんですか?」
その中心にはロンドさんとジャスティン様がいた。
「ああ、リュウか。今ジャスティン殿と相談して用水路の整備をしようとしているところだ」
この村では、来るときに渡ってきた川から水を引いてきているらしい。
ただ、今回は処理能力を上回る水が流れ込んできてしまったみたいだ。
「だから、ここに新たなため池を作ろうと思ってな」
ロンドさんが計画を教えてくれた。
「なるほど、でも時間がかかりませんか?」
確かに、水をためる場所をつくると洪水対策になるけど、かなりの大仕事になるんじゃないかな。
「問題ない。今から作業に入る」
ロンドさんは
すると、徐々に地面から振動が伝わってきた。
そして、ロンドさんの前方の地形が変化する。
最初は中心部分がくぼみ、土が脇へと移動していった。
そして、五分後にはかなり深くて広い穴が完成した。
横には小山が出来ている。穴の部分にあった土だろう。
周りに集まっていた村人たちも驚いている。これ本当に人間にできることなのか?
「あの、ロンドさんのスキルって」
「ああ、周囲の土や岩を自在に操れる。それに自分の体も岩にすることができるぞ」
Sランクパーティーのリーダーなだけあって、やっぱりロンドさんはすごいな。
「あ、池の基礎が完成したみたいだね」
ダミアンさんがやってきた。
「ああ、ここに運んでくれ」
「了解、ロンドは他のところを頼むよ」
「分かった」
ロンドさんとダミアンさんが相談をしている。何の話をしているんだろう。
配る作業も順調に進んでいたので、少しだけ見学させてもらうことにした。
ダミアンさんは近くにある畑で足を止める。
水がたまっていて池みたいになっていた。
「よし、まずここだね。ちょっと離れてて」
俺が距離を取ると、ダミアンさんが畑の前で片手を上げる。
すると、畑にあった水が少しずつダミアンさんのほうに集まっていった。
まるで掃除機で吸い取るように水を吸収しながら、集めたもので球体を作っていく。
馬車で見せてもらった水球と違い、泥や葉、木の枝などゴミが混ざっていて濁っている。
数分後には巨大な水球が完成していた。
「それじゃ、僕はこれをさっきロンドが作った池に運ぶから行くね」
なるほど、こうやって水を処理するんだな。
「ありがとうございます、頑張ってください」
ダミアンさんは頷くとさっきの場所へと歩いていった。
よし、俺も次の家に行こう。
次に食料を届けようとした木造の家にはユフィさんがいた。
「ユフィさん、どうしたんですか」
ちょうど家の住人と相談しているところだったので声をかける。
「家の雨漏りを直そうと思ってますの」
なるほど、雨漏りか。
いろいろな場所が傷んだりするし、大変なんだよな。
「では、始めますの」
ユフィさんは家の中に入って雨漏りをしている場所をチェックすると外に出てきた。
そして近くの地面に種をまくと祈り始める。
すると、橋を作ったときと同じようにツタが生えてきた。
ただ今度は橋ではなく
ユフィさんはその梯子を使って屋根へと登った。
気になったので俺も梯子を使ってよじ登る。
ユフィさんは雨漏りしているポイントまで行くと再び祈り始める。
すると屋根に開いていた穴があっという間にふさがった。
え、どうなったんだ?
「屋根に使われている木を成長させて穴を埋めましたの。これで雨漏りの心配はありませんの」
ユフィさんの植物を操るスキルは生きている植物だけでなく、木材に対しても通用するらしい。
万能だな。
魔女の
の人たちはスキルがシンプルであるがゆえに応用が利くんだろう。
だから幅広い依頼をこなしてSランクに上り詰めたんだと思う。
その後、俺も食料を配る作業に戻った。
俺は俺のできることをやらないと。
夕方、無事に食材を配り終えた後、ジャスティン様の屋敷に戻って今度は食事の準備を始めた。
「うちも手伝うよー、パーティーの食事担当だし」
アミルさんが手伝いを買って出てくれた。
「それで、今日は何を作るんですか?」
サラが聞いてきた。確かにそろそろ作業に取りかからないと。
うーん、そうだな。
「豚汁作ろうか」
大きな鍋で大量に作れるし、豚汁が苦手って人はあまりいない気がする。
「豚汁……あのミソを使ったスープですね。確かにいいと思います」
サラには前に作ったことがあったので味は知っている。サラが問題ないと思うのならここで作っても大丈夫なはずだ。
「そういえば、魔女の
のみなさんは料理したりするんですか?」
調理中、ふと気になったことをアミルさんに聞いてみた。
「それがさ。パーティーが出来たころ、一回それぞれ持ち回りで作ったんだよね。で、ユフィが作った料理が倒したオークを使ったスープだったんだけど……」
アミルさんが思い出すだけでも嫌、といった顔をする。
「実はそれ以後の記憶が曖昧なんだ……」
めちゃくちゃ苦かったということを断片的に覚えているだけらしい。
そのときのことを後からユフィさんに聞いても絶対教えてくれないんだってさ。
まあ、黒歴史確定だもんね。
その後、俺たちは村の人たちにも協力してもらい調理を進めていった。
フォルムチェンジでいくつかキッチンを出して、俺の指示に従ってもらいながら豚汁を作っていく。
村の人たちは初めて
それと白米炊き作戦を決行した。こっちも不思議そうな顔をしていたけど、俺が米のとぎ方や鍋での炊き方を丁寧にレクチャーしたから無事に完成する。
「いい香りだな」
ロンドさんたちが作業を終えて戻ってきた。
よし、みんなで夕食を食べよう。
「「いただきます」」
村の人たちに配り終えた後、俺とサラ、魔女の
、ジャスティン様とルナさんの八人で一つのテーブルを囲むことになった。
「これが豚汁……味噌とやらの風味が豊かで素晴らしい! 肉との相性も最高だ」
ジャスティン様が勢いよく食べる。気に入ってくれてよかったな。
「それにこの米って食べ物も腹持ちが良さそうで夕飯にはピッタリです」
ルナさんも美味しそうに白米を頬張る。
ここの世界の人たちは白米に対して抵抗感が少ないのがありがたいな。
まあ、豚汁と白米をスプーンで食べているところはちょっと見てて見慣れないけどね。
パーティーの人たちもお腹が
アミルさんなんてもうおかわりしてるし。
頑張って作ったかいがあったよ。