蛍の肌が、私に触れている。私の胸はすごく騒がしかった。私は蛍に背を向けて、背中を丸める。

 蛍が寝返りを打つのが分かった。蛍の吐息が、私の首筋にかかる。私はぱちぱちと音がなるほど大きく瞬きをする。爪が食い込むくらい強く手のひらを丸めていると、蛍が私の背中に指先を伝わせた。私は肩に必要以上に力を入れてしまう。蛍はくすくすと笑った。

「なんて書いてあるか、当ててみて」

 そう言って蛍は、私の文字に何か書く。蛍の繊細な指先が私の背中を撫でるたび、身体がぞくぞくとして、震えそうになった。声を抑えようとするけど、うまく抑えられなかった。私は白いシーツをぎゅっと掴んだ。雨の音が聞こえる。

「なんて書いたのか分かった?」

 蛍の声が私の耳たぶの裏に触れた。私は目をつむって首を振る。蛍がなんて書いたのか、全然分からなかった。

「そっか。じゃあこれは私だけの秘密」

 蛍は私の背中に額を当てて、幸せそうに笑った。

「なんて書いてあったのか気になる」

「伊吹ちゃんには教えない」

 蛍が少し意地悪に言った。私は蛍の方に身体を向ける。闇の中でも、蛍の目が清く透き通っているのが分かる。蛍は眠たげな顔で微笑んだ。

「思い出せるように頑張るから」

 蛍は、なんて書いたんだろう。すごく気になった。

「もう忘れていいよ」

 布団の中は、私と蛍の体温で温かい。蛍の温もりは春の日向のようだった。蛍の瞬きがだんだんゆっくりになっていく。

「おやすみなさい。伊吹ちゃん」

 蛍が目を閉じる。三角の束になったまつ毛。小さな鼻。白い頬。柔らかそうな唇。

 その唇に触れたい。蛍と、キスしてみたい。湧きだした欲求を慌てて押さえつける。

「おやすみ。ほたる」

 私は祈るように指を組み合わせて目を閉じる。ほたるの寝息を聞きながら眠りについた。

 

 

 次の日の朝、私達は保健室の先生に叩き起こされた。外はよく晴れていて、太陽が眩しかった。鳥のさえずりを聞きながら、先生にこっぴどく叱られた。先生が蛍の親に連絡すると、蛍のお母さんが超特急で迎えに来て、蛍は一旦家に帰った。

 私が先生の携帯を借りて家に連絡すると、お母さんが電話に出た。「心配はしてたけど、年頃の女の子だから色々あるかなと思って」とお母さんは能天気に笑ったので、私は呆れてしまった。お父さんは何の連絡もなしに一晩帰って来なかった私のことを心配して、近所のコンビニや私の行きそうなお店をしらみつぶしに回ったらしい。家に帰ったら、お父さんとお母さんにちゃんと謝らないといけない。

 先生は私達の使ったバスタオルを洗濯機に突っ込むと、近くのコンビニで私に朝ごはんとお昼ご飯を買ってきてくれた。私は先生にギロリと睨まれながら、サンドイッチを齧る。先生はインスタントのコーヒーまで出してくれた。

「確認もせずに鍵をかけた担当の先生も悪いかもしれないけど、あんた達にも落ち度はあるから」

「すみません」

 私は謝るしかなかった。怒った先生はやっぱり怖い。でも、本当は優しいのだ。私は薄っぺらなサンドイッチをかじりながら、今日は授業中に昼寝をしないことを決めた。

朝のホームルームの時間が近づくと、先生は家に寄り付いた野良猫を追い払うみたいに、私を教室へ向かせた。宿題見せてあげる、とプリントを持ってやってきた四辻は、私のプリントの解答欄がすべて埋められていることに驚いていた。

 放課後になって保健室に行くと、とても疲れた顔をした蛍がソファーに座っていた。お母さんとお父さんの心配のしようが半端じゃなかったらしい。愛されすぎるのも大変よね、と先生が大人な表情で皮肉を言った。今回の件で蛍は両親に夜間の外出を禁止されてしまった。