ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ──。

 不思議なことに私のスマートフォンが写真を連写していました。はて何故なぜでしょう?

「撮るなよ!!

 ひとしきり撮影したあとでシーラを引っこ抜いてあげました。


 二つ目。

すけを呼びましょう」

 私たちだけでは解決できないと早々そうそうあきらめた私は外部にいる仲間に連絡をとりました。

 ところで助っ人とは一体どなたでしょう?

「そう、私です」

「おい何でこいつ普通に入ってきてんだよ」

 がらがらがら、と普通に入ってきたのは灰色はいいろの髪の女子生徒。イレイナでした。

「イレイナは優秀ゆうしゅうな生徒ですのできっとこの状況を打開だかいする策を考えてくれるはずです」

「どうも、優秀な生徒です」

 髪をなびかせながら得意げな表情を浮かべるイレイナ。

「どうでもいいけど何でこいつ普通に入ってきてるんだよ」外はどうした外は、と突っ込むシーラ。

「お二人とも大変だったようですね」

 無視むししました。

 イレイナは都合つごうの悪い言葉をすべて聞き流す都合のよい頭をしているのです。

「とりあえずいい感じの案を出してもらえますか?」

 たずねる私。

 彼女は「ふっ」としたり顔を浮かべながら言いました。

「二人とも。いいですか? こういう時は堂々どうどうとしていると意外とバレないものなんですよ! 私も実はここに至るまで堂々としながら体育館を通ってきましたけれども、まったく問題ありませんでしたし」

 つまりイレイナはこう言いたいのです。

 堂々と出ていけば案外怪しまれない──と。

「なるほど……一理いちりありますね」

 感心かんしんしました。

 では早速イレイナに試してもらいましょう。

「まあ見ていてくださいよ。お二人とも──」

 というわけで。

 物は試しとばかりにイレイナは堂々と体育倉庫から出ていってみせました。

 直後です。

「イレイナ。私たちの勝負を邪魔しないでくれるか」「悪いが僕たちはいま真剣なんだ」

 …………。

 普通にバレました。

 バレた上にロザミアさんとロベルタ君の二人から叱られる始末しまつでした。

「…………」

 がらがらがら。

 扉を閉めるイレイナ。

 彼女は肩をすくめてこちらに向き直り。

 言いました。

「じゃあもう私にもわかんないです」

「クソの役にも立たねえじゃねえか!!

 シーラの叫び声が体育倉庫にこだましました。


 三つ目。

「私でも解決不可能な難事件なんじけんなので強力な助っ人を呼びました」

 私の代わりに今度はイレイナが助っ人を呼んでくれました。

 それは一体誰でしょう?

「カビくせえのです」

 アヴィリアさんでした。

 例によって普通に体育倉庫に入ってきました。もはやシーラは何も突っ込みませんでした。

 ともあれ事情を説明するイレイナ。

 アヴィリアさんは頷きました。

「なるほど。事情はよくわかったのです。ならばこいつを使いましょう」

 言いながらアヴィリアさんが取り出したのはだんボール。

 ……段ボール?

「それを使ってどうするつもりですか?」

 単純な疑問を口にする私。アヴィリアさんは「ふっふっふ」と得意げな表情をこちらに向けます。

「いいですか? 皆さん。この段ボールをかぶってみんなで逃げるのです」

「ふむ。なるほど……」

 私は頷きました。

 つまり彼女はこう言いたいのです。

 四人でそれぞれ段ボールを被って出ていくことで背景に溶け込み、自然と脱出することができるのではないか──と。

 私は拍手しました。

「素晴らしい案ですね!」

「そうか……?」怪訝けげんな顔のシーラ。

「早速試してみましょう。きっとうまくいくはずです」

「そうか……?」

 疑念を抱くシーラを先頭に私たちはそれから段ボールを被ったまま整列して出ていきました。

 直後です。

「きゃあああああああああっ!! 段ボールですわ!!

 叫ぶショコラさん。

「邪魔をするな! 段ボール!」

 そして視界に収めるなりバスケットボールを投げつけてくる殺意むきだしの他二名。

「ぐああああああああああああああああああああっ!!

 吹っ飛ぶシーラ。

 まあ大変。このままでは私たちもボールを投げつけられてしまいます。

 結局私たちはそそくさと倉庫へ退散たいさんすることにしました。

「なあ。さっきから何であたしばっかり被害にうんだ?」

 不服ふふくそうな顔のシーラはさておき私たちは再び策を練りました。


 そして四つ目。

「どもー」

 サヤさんが来ました。

「いやいやいや」

 彼女が入ってくるなり首を振るシーラ。「だから何でお前らそろいもそろって普通に入ってくるんだ……?」

「ま、細かいことはいいじゃないっすかシーラ先生」

 ぽん、と軽く肩を叩くサヤさん。

 ともあれイレイナが事情を説明しました。

 サヤさんは頷きます。

「なるほど。事情はよくわかりましたよ!」

 ご理解いただけてなによりです。

「それで、何か案はありますか?」

 尋ねる私。

 サヤさんはそれから「はいっ!」と元気よく頷き。

「ないです!」

 と答えました。

 …………。

 以上。

「何しに来たんだよ!!

 シーラの叫び声が再び体育倉庫にこだましました。


 というわけで案は出尽でつくしました。

 ありとあらゆる手を尽くしても私たちは狭い体育倉庫から出ることもかなわず、ただただ人数を増やすばかり。

「どうすんだよこれ……」

 途方とほうにくれるシーラ。

 少し開けた扉の向こうでは依然としてロザミアさんとロベルタ君の二人がフリースロー対決をしていました。

 早い者勝ちと言っている割には二人ともバスケットボールがあまり上手じょうずではなかったようです。

 後ろで眺めることにきたショコラさんが眠そうにあくびをしているのが見えました。

「結局あいつらが飽きるまであたしたちはここに閉じ込められたまま、ってことか……」

 大きくため息をつくシーラ。

 生徒がみている手前、露骨ろこつ愚痴ぐちはこぼしたくなかったのでしょう。けれどもその表情は「今日は早く帰りたかったのに」とねているように見えました。

 私は笑います。

大丈夫だいじょうぶですよ、シーラ」

「何がだよ」

 ため息交じりにこちらを見返す彼女。

 私は教えて差し上げました。

 それは五つ目の案。

「たった今、準備は整いましたから」

 この状況に陥ること自体が私が考えていた華麗なる脱出案だったのです



 それから私とシーラはイレイナ、サヤさん、アヴィリアさんの三名を連れてごく普通に体育倉庫を後にしました。

 五人で仲良く、体育倉庫から出て、何食わぬ顔でフリースロー対決をしているロザミアさんたちの真横を通り過ぎていきました。

 何なら「遅いのでほどほどにしてくださいねー」と私から声をかけてあげるほどの余裕があったほど。

 彼女たちは私に対して頷くことはあっても、疑うような真似まねはしませんでした。

 一体何故でしょう?

「シーラ。やましいことというのは少人数でこそこそするからやましく見えるのですよ」

 説明して差し上げました。

 体育倉庫から人が二人出てくる──おそらくこのようなシチュエーションに遭遇そうぐうした者の多くがよからぬ想像を働かせるはずです。

 では体育倉庫から生徒三名を引き連れた教師たちが出てきた場合はいかがでしょう?

 恐らく多くの方が、中で何らかの作業をしていたのだと判断してくれるはずです。

「最初からそれが狙いで人数を増やしていたってわけか」

 納得するシーラ。

 その通りです。

 結果として私たちはそれから難なく体育倉庫から出ることができました。少々遅くはなってしまいましたが、まあ許容範囲内でしょう。

 夕暮ゆうぐれに染まる校舎こうしゃを眺めながら、私は口を開きます。

「ところでシーラはこれからどうするつもりで?」

「どうするって」怪訝な様子でシーラは答えます。「予定通り、とりあえず帰って一人で飯でも食うつもりだけど」

「あらまあ」

 私は露骨に眉根まゆねを寄せて見せました。

 せっかく生徒たちと一緒に窮地きゅうちだっしたというのに、元々の予定のまま過ごすおつもりなのですか?

「シーラ」

 呼びかける私。

「何だよ」

 首を傾げる彼女。

 余計なおせっかいかもしれませんが、一つ提案させてもらいましょう。

「よければこれから食事でもいかがですか? イレイナたちと一緒に」

 そして私は微笑ほほえみかけながら、言うのです。

「人数が多いほうがにぎやかでよいでしょう?」



 すぽっ──。

 い込まれるようにボールがリングの中を通っていく。

 奇妙きみょうな流れで始まったフリースロー対決は、あっけない幕切まくぎれとなった。

「ま、負けた……!」

 その場で項垂うなだれるロベルタ。

 勝負は彼の敗北はいぼくまくを下ろした。容姿端麗、運動神経抜群かつ王子と呼ばれている彼であっても、手に入らないものはある。

「ふっ……どうやら、ショコラの心は私のもののようだな……!」

 ロザミアの執念しゅうねんを前に、彼は敗れた。

 喜びと興奮を胸に彼女は振り返る。

「ショコラ! 見ていたか? 私の勝利だ!」

「すぴー……」

 寝てた。

 退屈たいくつな戦いが長すぎて普通に寝てた。

「起きろショコラ。起きて」

 体をゆすって起こすロザミア。

 ほどなくしてショコラは「んん……」と鬱陶うっとうしそうに目を開けた。

「ふぁあ……おはよう……、ロザミア」

「さあ、帰ろう。ショコラ」

「あ、うん。終わりましたのね……」

 眠いですわ……とあくびをするショコラ。ロザミアはそんな彼女の手をとった。

「…………」

 二人の仲睦なかむつまじい姿を眺めるロベルタ。

 敗者である彼が二人に掛けられる言葉は、ない。

 ただ見送ることが彼に唯一ゆいいつ残された役割。

 しかし二人の背中せなかを眺める彼に、天啓てんけいが降りてくる。

 ──人数が多いほうが賑やかでよいのでは?

 ロベルタは思った。

 あ、その手があったわ。

「待ってくれ!」

 早速とばかりにロベルタは二人を呼び止め。

 言った。

「三人で付き合うのってどうだろう?」

 提言ていげんだった。

 この際だから三人で仲良くすればいいじゃん! 名案! はい解決! むふんと鼻息はないきを荒くするロベルタ。

「…………」

 そんな彼にロザミアは笑顔のまま振り返り。

 それから言った。

「いや普通に無理」

 そうしてロザミアとショコラは仲良く手を取り合いながら帰っていった。心の底から愛し合う二人の女子生徒。なんとなくとうとい光景だった。割って入ってはいけない気がした。

「女の子同士って、いいな……!」

 ついでにロベルタが何かに目覚めた。