「森カラス見つけました。ここから北東へ百五十歩先です」

 エタンさんの発した警告に、俺たちは小さくうなずき合った。

 りゅうぎょくの宮殿地下八階に足を踏み入れて二十分足らずだが、これで獲物の発見報告は二回目だ。

 木々の合間に巧妙に隠れるカラスを、見通しの悪い中、百メートル以上の距離から見つけ出す。

 熟練の狩人とはいえ、信じがたい観察眼である。

「またですか。すごいですね」

「はい、よく頑張ってくれてますよ」

 まあ、種明かしをすると、実はモンスターを見つけてくれているのは妖精たちだったりする。

 五十歩間隔で展開した妖精の包囲網が、網にかかった獲物の位置を連絡しあっているのだ。

 ただし互いの距離が結構離れているため、発見の報告にはある程度の声量が必要となる。

 けれどもうかつに大声を出してしまうと、物音に敏感な森カラスにすぐに気取られてしまう。

 が、二度とも悟られることなく、あっさりと仕留めることができた。

 その理由は、意外な方法での連絡手段にあった。

「しかし妖精のはねに、そんな便利な機能があったとは……」

「ええ、驚きましたね。たまにチカチカ光っているのは見ていたのですが、あれっておしゃべりしてたのですね」

 エタンさんが教えてくれたのだが、妖精たちは発光する翅を点滅させることで一種の言語として利用しているらしい。

「ボクの生まれ故郷じゃ、夜の水辺で妖精の群れの光を観賞する遊びがありますよ」

「蛍扱いかよ!」

 そんなわけでチカチカと輝く妖精たちの合図をいち早く読み取ったエタンさんが、俺たちを獲物のもとへ案内してくれる。

 そして射程圏内に入ったとたん、音もなく矢をつがえ放ってみせた。

 知覚の外から飛来した高速の物体に首を貫かれ、森カラスは音もなく地面に落下する。

 長年の森暮らしで鍛え上げられただけあって、見事な狙撃の腕前である。

 こうして空から地上を見通す目を失った黒毛おおかみの群れは、逆に広範囲に散らばる多数の妖精から監視されることとなった。

「あそこの五匹は、他とは少しばかり距離がありますね」

「よし、さくっと片付けよう。頼んだぞ、ヨル、クウ」

「がってん!」

「くー!」

 五頭の狼の真ん中に飛び込んだヨルが、鋭い爪で統制をかき乱す。

 注意がれたところへ、急降下したクウが頭をしたたかに蹴りつけた。

 さらにエタンさんの矢で足を射られた一匹が、うずくまって動かなくなる。

 毒のある森カラスの爪を矢尻に使ってあるのだ。

「手前の動きを止めますね、ミア」

「りょかー! 後ろ任せて!」

 〈魅惑〉にかかり立ちすくむ狼の背後では、もう一頭が目のあたりを〈ふうじん〉にたたかれてひるんでいる。

「うん、連携も見事だけど、ミアは魔術を当てるのも上手になったな」

「そ、そうかな。あ、人に教えるとくなるってやつかも」

 集まってきた妖精の〈目くらまし〉や、足元へ巻き付くようにぶつかる青スライムの地味ながら効果の高い攻撃もあり、機動力を封じられた黒毛狼どもはあっさりと地面に倒れた。

 毛皮と牙だけさっと回収して、急いでその場から離れる。

 狼の肉は元から【道具】の覧に収納されないため、基本的に放置である。前に試しにヨルやクウに食べさせてみたが、最後まで無表情でもぐもぐしていたな。

 めちゃくちゃくはないが、喜んでかぶりつくたぐいではないようだ。

 こうやって各個撃破しながら、俺たちは順調に八階の奥の地図を埋めていった。


    


「少し休憩しませんか、みなさん。妖精の子たちがいいものを見つけたみたいです」

「お、またですか? 本当にすごいですね」

 つい十分ほど前にも、白い花を咲かせる迷迭花ローズマリーの茂みを見つけてくれたばかりだ。

 その前には群生した腰掛けたけを発見したり、まだ花もつけていない綿わたばなの木を探り当てたりと、草花に関してだと妖精たちはものすごく優秀な目を持っているようだ。

 迷迭花ローズマリーはそのままローズマリーのことで、濃い目の匂いがうれしい念願の香辛料である。

 すでに回収した葉っぱは〈錬成・枯渇〉で乾燥済みなので、今から肉を焼くのが楽しみで仕方ない。

 腰掛け茸は木の幹に水平に平たく生える変わったキノコで、妖精が腰を落ち着けるのにちょうどいい大きさが由来だとか。そのまま食べるとお腹を壊してしまうが、火を通した食感は歯ごたえがよく、エタンさんいわく鶏肉そっくりらしい。

 最後に黄綿花の木だが、なんと樹皮から待望の皮なめし用の木渋が取れるのだ。虫こぶだけではなめしが追いつかずにまっていた狼の毛皮を一気になめせて、気分もスッキリである。

「そろそろ討伐を始めて三時間ほどか……」

 すでに北にある奥の壁が、立ち並ぶ大木のすきからのぞいている。

 ざっとした計測だが、八階の広さは五階とほぼ同等のようだ。

 時刻はちょうど三時を過ぎたあたりで、小腹もいてくる頃合いである。

 黒毛狼の群れも相当駆逐できたし、ボスモンスターと戦う前に一休みするのも悪くない提案だな。

「それじゃあ、少し気を緩めるとしますか」

 三分と歩かないうちに、みの甲高い笑い声が響いてきた。

 耳に届く数からして、ほとんどの妖精が集まっている気がする。

「だ、大丈夫なんですか?」

 妖精による包囲網が完全にかいしている有り様に、俺は思わず司令塔であるエタンさんに尋ねた。

 これもう気を緩めるってレベルじゃないのでは……。

「はい、たぶん平気だと思います。近くにそれらしい気配はないと言ってましたので」

 可愛かわいらしい顔でキリッと断言されてもあまり安心はできないが、これまでのエタンさんたちの活躍ぶりからすれば安全なのだろう。

 こちらはほぼ無傷のままなのに、すでに黒毛狼どもの駆逐数は五十近くになっていた。

 確実に先制攻撃ができると、戦闘ってこんなに楽なんだなとしみじみ分かった探索だった。

 そんなわけで、エタンさんや妖精たちのレベルも余裕で20に達していた。

 ちなみにエタンさんのステータスだが……。

名前:エタン

種族:樹人種

職業:弓士(レベル:20)

体力:24/24

魔力:20/20

物理攻撃力:26

物理防御力:31

魔法攻撃力:10

魔法防御力:30

素早さ:27

特技:[地形同化]、〈狙撃〉、〈速射〉

 小柄なだけあって物理攻撃力がやや低いのは否めないが、全体の数値は安定している。

 特に素早さと魔法防御力の高さは、崩れない安心感を感じさせてくれる。

 あと特筆すべきは、樹人種特有の[地形同化]である。

 名前の通り気配を消して地形に身を潜ませる特技で、ドラクロⅡでは回避率アップと不意打ち無効がついた人気のスキルだった。

 こっちの世界でも、狙撃手として大いに活躍が期待できそうだ。

「それで今度は何を見つけたんだ? えらくうるさいが」

 騒ぎ声が聞こえてくる茂みに近づくと、青くて小さい実が鈴なりになっていた。

 それを妖精たちは夢中でつまんでは、両手で抱えてむさぼっている。

 おかげで愛らしい金の巻毛が、青い汁まみれという有り様だ。

「お、青すぐりじゃん! こんなとこに生えるんだねー」

 弾んだ声を上げたミアが、駆け寄って青い小さな実をつまむとぱくりと口に放り込んだ。

 そして嬉しそうに口をすぼめてみせた。

「うー、すっぱ! おいしー!」

 青すぐりは正確にはすぐりではなく、見た目も味もブルーベリーそっくりだったはずだ。

 このあたりはローズマリーもそうだが、元となったドラクロシリーズのやたら和名風にこだわる伝統のせいだろうか。

「ほら、ヨルっち、クウっち、しいよ。食べよ、食べよ」

 ミアに誘われた二匹は素直に茂みに近寄ると、下のほうの枝に手を伸ばしプツリと青い実をもぎ取って口に入れた。

 みしめたとたん果汁があふれたのか、目をまんまるに見開く。

 そしてぎゅーと顔をしかめた後、にっこりと会心の笑みを浮かべた。

「かんみー!」

「くぅぅうう!」

「あれ? 甘いものって食わせたことなかったっけ……」

 目を大きく見開いた魔物っ子たちは、小さな実を次々もいでは自らの口へ投げ込みだした。

 その口元はだらしないほどに緩み、みるみるうちに青く染まっていく。

 猛烈なヨルとクウの勢いに、のんに実を摘んでいた少女も目の色を変えた。

「うわぉ! これはあたしも本気だすしか!」

 大人げなく両手を使って、青い実を一気に集めだすミア。

 新参者たちの暴挙に、妖精たちは激しく飛び回って騒ぎだした。

「キヒ! キヒヒヒ!」

「ケヘヘヘヘ!」

「ふふーん、青すぐりは早いもの勝ちって言うでしょ。友達だからって容赦は──うわっ、まぶしっ!」

 近距離で〈目くらまし〉を食らったミアが、両目を押さえて地面に転がった。

 当然、手に持っていた青すぐりの実が、派手にこぼれ落ちる。

 すかさず群がる妖精たちとヨルとクウ。

 そこへ間髪れずにまたも〈目くらまし〉!

 しかしクウも負けてはいない。

 両目を可愛く押さえながら、口から〈芋虫の糸〉を吐き出しては妖精たちを捕縛し返す。

 その隣ではヨルが手探りで実を拾っては、一心不乱に口に放り込んでいる。

 さらに起き上がったミアも、〈水泡〉を繰り出し懸命に自分が採った実を守ろうとする。

「みんな、やんちゃですね」

 柔らかく微笑ほほえむエタンさんだが、そんな一言で片付けていいのだろうか。

 あきれている俺に、戸惑った顔のパウラが尋ねてくる。

「あなた様は、召し上がらないのですか?」

「ああ、ちょっともらおうか。パウラはいいのか?」

「わたくし、こういったものは食べたことありませんので、どういった作法で……」

「普通にもいで食えばいいよ。ほら、こうやって──」

 手本のつもりで青すぐりに触れた俺だが、その瞬間、茂みから全ての実が消えせる。

 ついいつもの癖で、【道具】に回収してしまったようだ。

 そういえばオリーブの実も一括で回収できたなと思いながら、背後の異様な静けさに気づく。

 振り向くと妖精とミアたちが、食い入るように無言で俺を見つめていた。

 さらにヨルとクウにいたっては、その瞳から完全に光が消えてしまっている。

 ちょっとぬいぐるみ感が強くなりすぎて怖い。

「す、すまん」

 とりあえず謝ると、ヨルとクウが足元に駆け寄ってきた。

 いつもの抱きつきかと思ったら、こぶしを握ってポカポカ叩いてくる。

 そして地面に転がって、手足をバタバタしだした。

 妖精たちも集まって、同様の抗議を始める。

「悪かったって。ほら、今出すから」

 手のひらを広げ回収したばかりの青すぐりを取り出すと、跳ね起きた二匹が突進してきた。

 そこへまたも〈目くらまし〉!

「眩しっ!」

 仁義なき戦いは、まだまだ終わらないようだ。


    


 八階の北奥。

 鉄格子が下りた階段の前は、ポッカリと開けた空間となっていた。

 柱のような大木たちもこの手前でいきなり途切れており、下草に覆われた地面だけが広がっている。

 その広場の中央。

 そこに座り込んでいたのは、ひときわ大きな黒い毛の狼であった。

 体高はゆうに俺の胸に届くくらいあり、立ち上がるとおそらくえだつの鹿しかに匹敵するだろう。

 そのきょろうに寄り添うように、三匹の狼が寝そべっている。

 こちらは見慣れたサイズのため、はたから見ると母子のように見えなくもない。

 その四匹へ大勢で襲いかかろうとする俺たちは、なんとなく密猟者の悪党といった風でもある。

 なんとも、やりにくくなる演出だ。

 と、余計なことを思いつつも、俺はあんで胸をで下ろしていた。

「ふう、ボスが枝角鹿じゃなくて助かったな」

 ここで十五匹の妖精たちにボイコットされると、ちょっと面倒だからな。

 周囲を見回してから、飛び回る妖精に視線を戻すと首を縦に振られた。

 どうやら森カラスなどの伏兵も皆無のようだ。

「始めますか? あなた様」

「よし作戦通りでいこう。落ち着いてやれば完勝できるはずだ」

 ボスモンスターのレベルは階層に15を足した固定値であるため、あのでっかい狼だとレベル23となる。

 現在のクウとヨルのレベルは24で、パウラとミアは23。

 青スライムたちでさえ22と、ボスとほぼ差はない。

 むろんボスらしく体力などの数値は底上げしてあるが、それでも心配するような相手ではないだろう。あとはきっちりを強化魔術をかけ直し、万全の態勢で挑むだけだ。

「しゅつじんー!」

 スライムのスーにまたがったヨルが、愛らしい声で叫んだのが開戦の狼煙のろしとなった。

「くー!」

 それに続くように、同じくスライムのラーにまたがったクウが元気よく声を張り上げる。

 そのまま飛び跳ねる青スライムに乗って、二匹は巨狼との距離を一気に詰めた。

 即座に立ち上がった配下の狼たちだが、そこへ宙を貫く矢が連続で襲いかかる。

 エタンさんの〈連射〉で、足を射抜かれた一匹があっさり地面へ伏せた。

 残りの二匹は厄介な弓士へ牙をくが、今度は鋭いむちの音が立ちふさがる。

 さらに要所を狙った〈風刃〉も、巧みに狼たちの動きを邪魔してみせた。

「ふふーん、百発百チュー!」

「素晴らしいですよ、ミア」

 二人の手助けもあり、エタンさんは余裕を持ってづるを強く振り絞る。

 ──〈狙撃〉。

 放たれた矢は狙いたがわず、見事に麻痺毒で動けない狼の眉間を貫いた。

「よし、この調子であとの二匹もサクッと仕留めよう」

 広場の真ん中では、大きな狼を前に小柄なヨルたちが奮戦していた。

 ちょこまかと動き回るヨルと、弾んで転がりまわる青スライムたち。

 そして空中をすいすいと飛び回るクウ。

 目まぐるしく位置を変える四匹に、ボスの巨狼は的を絞れず苦戦しているようだ。

 さらにもう一つ。

 その背後に素早く回り込む妖精の集団が、次々と繰り出していたのは〈妖精のせっぷん〉である。

 鼻も利く狼には、〈目くらまし〉は効果が薄い。

 そこで混乱を付与する〈妖精の接吻〉を、絶え間なく浴びせるようお願いしておいたのだ。

 状態異常の効きにくいボスだが、完全に無効化できるわけでもない。

 それに妖精は、魔法攻撃力がダントツに高いからな。

 魔力の消費量も半端ないが、魔力回復薬をたっぷり渡してあるし安心だろう。

「いいぞ、効いてる。効いてる」

 見ていると時々ボス狼の動きが止まったり、あらぬ方向に噛みついたりしているので、ちゃんと効果は出ているようだ。

 黒毛狼の特徴といえば集団を生かした波状攻撃であるが、それを逆に仕掛けられたボス狼は、なすすべもなく体に傷を増やしていく。

 硬くしなやかな黒い体毛があるとはいえ、手数をあれだけ重ねられたらどうしようもない。

 と、パウラたちも無事に三匹の取り巻きを片付けたようだ。

「よーし、一気に片すか」

「お任せください、あなた様」

「りょかー!」

「うん、あと一息だね」

 側近を倒され血にまみれつつあった巨狼だが、そこで逆転の一手を繰り出すことを決めたようだ。

 不意に四肢を踏ん張り背を反った狼は、空へ向かって口を大きく開いた。

 同時にその喉奥から、激しいえ声が発せられる。

 ──〈遠吠え〉。

 レベル20に達した黒毛狼が覚える特技で、自らのもとに仲間を呼び寄せるという技だ。

 続けざまに、力強く吠え叫ぶ巨狼。

 その声は木々の合間を抜け、階層中のあらゆる場所に響き渡っていく。

 ……が、それだけだ。

 ボスのピンチに駆けつけてくる黒い影は一頭たりとも見当たらない。

 まあ配下の狼は全部、来る途中で倒しちゃったからね。

「ふっ、勝ったな」

 意味もなく勝利宣言してみせた俺だが、直後にそれは言葉通りとなる。

「雷よ、来たれ!」

 うろたえる狼へ、すかさず俺は招雷のつえを天に向けて掲げた。

 呼び出された激しい雷鳴とともに、真っ白な暴力が黒い毛皮を容赦なく貫きじゅうりんする。

「きゃあ! なになに!?

 あ、エタンさんにこの杖のこと、説明してなかったな。

 焦げくさいにおいとともに、巨狼は地面を揺らしながら横倒しとなる。

 その上に飛び乗ったヨルが、いつもの調子で叫んでみせた。

「かちどきー!」

「くー!」

「キヒヒヒ!」

「お疲れ様、よく頑張ったな」

 ご褒美に隠しておいた青すぐりを取り出しながら近づくと、豆をいた公園のはとのごとく妖精たちが群がってきた。

 ヨルとクウも目の色を変えて、俺の体を懸命によじ登ってくる。

 先ほどの戦闘を余裕で超えるかのような妖精たちの猛攻っぷりに、果実は一瞬で消え失せてしまった。

 なくなったことが信じられないのか、ヨルとクウは俺の手のひらを何度も覗き込んではペロペロとめだす。

 くすぐったくて可愛い仕草だが、おねだりされてもないものはない。

「うん? ちょっと待て。何だ、その目」

 比喩表現ではなく本当にヨルの瞳が赤く染まり始めているのに気づき、俺は慌てて二匹を見直した。クウのほうは目の色ではなく、足の先、爪がメキメキと音を立てて伸び始めている。

「こ、これって……」

 目と爪の変化で思い当たるとすれば、魔物っ子たちのステータスの装備項目にあった『大恐鳥の目』と、『大恐鳥の足』だが──。

 詳しく確認しようとしたその時、俺の手のひらから甘みが完全に消え失せてしまったのか、空気が抜けた風船のように、たちまち二匹の姿はもとに戻ってしまった。

「もうちょっと甘かったら、どうにかなったか……。うん、覚えておこう」

 いざという時に使えそうだと心に刻みながら。俺は大人しくなった二匹を地面に下ろした。

 そして狼の死骸をぜんとした顔で眺めるエタンさんへ歩み寄る。

「ご苦労さまでした、エタンさん」

「え、ええ、さっきはびっくりしましたよ」

「言い忘れてすみません。これ、立派な毛皮が取れそうですね」

「そうですね。上は冬だというのに、狼たちはちっとも痩せておりませんし、季節外れの青すぐりもよく実っている。ここは本当に奇妙な場所で……」

 一息置いたエタンさんは、俺を見上げながら言葉を続けた。

「本当に興味深い場所ですね。できればずっとここにいたいような……」

「ええ、よかったらずっと一緒に探索しませんか?」

「……いいのですか?」

「はい、ぜひに」

 俺と目を合わせた樹人種の青年は、静かに頷いてきた。

 差し出されたきゃしゃな手を、がっしりと握りしめる。

 握り返してきた力強さからして、失われた自信を完全に取り戻してくれたようだ。


    


 ボス狼からは大きな毛皮と牙、赤い魔石塊が回収できた。

 取り巻きからも同様に素材を回収して、俺たちは鉄格子が持ち上がった下りの階段へ向かう。

 肉に関してはヨルとクウに食べるかと尋ねたところ、表情が消えたので放置となった。

 妖精の大半とは、ここでお別れである。

 一応、斥候と明かりを兼ねて、ヨーだけ再度、〈従属〉してついてきてもらうことにした。

「じゃあ九階へ進みますか」

「はい、あなた様」

「ふぅ、ドキドキしますね」

「次はどんなとこかな? 楽しみだねー」

「まいるー!」

「くー!」