【最終章】悪い吸血鬼じゃなかったはずなのに



『経真ー。おい、経真。ワシのことが分かるか?』

 ──ん? ローラさん? その割には、じいさんっぽい声だな。

『当然じゃ。嫁の声と間違えられてたまるか』

 ローラさんが嫁? ってことは──あっ! ひょっとして、龍真伯父さん!?

『そうじゃ、神浦龍真じゃ。こうやって顔を合わせるのは初めてになるの』

 ふむ、龍真伯父さんに会うってことは──これは夢だな。

『ほっ?』

 じゃあ、もうしばらく寝るか。お休みなさい──。

『待て待て、待つのじゃ! 言っておくが、ワシは本物じゃぞ?』

 本物? そんな馬鹿な。死んだはずの伯父さんの『本物』と、どうやって出会うのさ?

『正確には、本物の神浦龍真の魂じゃ。上手い具合に、お主の夢の中に入れたもんでな』

 やっぱり夢じゃないか。おやすみ──。

『同じボケを繰り返すな! 良い機会じゃから、礼を言おうと思うたのに』

 ──つまり、龍真伯父さんの言葉は、俺が夢の中で勝手に作ってるわけじゃなくて、本物の伯父さんの霊魂が、夢の中で俺に話しかけてるってこと?

『そ、そうじゃ。ちゃんと理解できておるではないか』

 どこまで本当か、よく分からないけどなあ──で? どうしたの、お礼なんて? 俺、生きてる伯父さんとは一度も会ったことないよね? それでお礼って言われても──。

『何を申すか。ローラと美奈の面倒を見てくれておるではないか。お主も既に知っておるようじゃが、あやつらは故郷に留まることができず、追っ手を撃退しながら日本まで落ち延びた身じゃ。お主がおらなんだら、ワシの妻子の運命は、もっと辛いものだったはずじゃ』

 ──そ、そう言われると困るな。俺は一緒に暮らしてるだけだし。そういうお礼は、父さんに言ってあげなよ。伯父さんの弟なんでしょ?

『そうしたいのはやまやまじゃが、ワシも現世にはなかなか降りられぬでのう。こうしてお主と話ができるのも、あの娘がしろを偶然用意してくれたからじゃ』

 ──依り代? 娘? どゆこと?

『まあ、呪符の作り方は我流で、微妙に効能が違ってしもうとるんじゃがの。せっかくじゃから、ワシがサポートしてやることにした。恨むなよ♪』

 うーん、さっぱり要領を得ないなあ。

『案ずるな。恐らくお主も、イイ思いができることじゃろうて♪ それでは、これからも娘と嫁をよろしく頼むぞ──』

 あ、そうだ。ひとつだけ質問。伯父さんって──もしかして、ロリコン?

『ロッ!? ロロロロリコンちゃうわっ!!

 どうして急に口調が変わるの!?


「うーん……そうは言っても……あのローラさんと結婚とか、完全にロリコン確定じゃないかぁ……うーん……んん?」

 ──ゆっくりとまぶたを開く。頭が重い。

 目に映るのは、社務所大広間の天井。ただし、灯りが消されている。

 どうやら俺は、寝てしまっていたらしい。ひょっとして、結構時間が経ってるのか?

 それにしても、身体が重い。手も足も、ピクリとも動かない。そんなに疲れ果てていたんだろうか。

 一方で、背中の下の感触が、畳ではなく──どうやら、敷き布団だ。寝てしまった俺に、恬子が布団を敷いてくれたのかな。

「恬子、近くにいるー?」

 声を上げてはみるものの、返事はない。というより、俺に気を遣って広間から離れてくれてるんだろう。

「悪いことしたなあ……謝らなきゃ。その前に、身体を起こさないと──」

(ザバーンッ)

「…………ん?」

 外から、水の音が聞こえてくる。雨音とは違う、大量の水を一気に流すような感じの音だ。どこから聞こえてくるのか──。

「……古井戸から?」

 この神社の本殿脇には、今も使われている古井戸がある。昔は飲み水としても使っていたらしいが、今はもっぱら境内掃除用水。ただ、今でも夏になると、中でスイカを冷やしてる──なんて話も聞いたな。

「でも、外はすっかり暗くなってるのに……誰が井戸水なんか使うんだ?」

 訝ってる間に、水音は止んだ。誰だったんだろう──恬子か? それとも、恬子のおじさんとかおばさん?

「それより、まだ身体が動かん……どうしたんだろうッ……くっ」

 力を入れても、身じろぎひとつできない。風邪でも引いたのかな──。

「……経真? 起きてる?」

 と、こちらをうかがうような声が、広間の入り口から聞こえてきた。

「おっ、恬子か……ごめんな、話があるっていうのに寝ちまって」

「何よ、今さら。それこそアンタ、この間の勉強会でぐっすり居眠りしてたじゃない」

「ハハハ、そうだっけ。ところで、何だか身体が重くて起き上がれないんだよ。悪いけど、ちょっと熱を測ってもらっていいか? ひょっとしたら──」

「大丈夫、風邪じゃないから」

「…………ん?」

 先回りして答える恬子に、初めて違和感を覚える。

「そのまま楽にしてて大丈夫よ……お札が効いてるだけだから」

「お札? ちょっと恬子、それってどういう──えっ!?

 辛うじて動く頭を左右上下に振り、周りを確認して──俺は初めて、自分が全裸になっていることに気づいた。

 そして、胸のところには、何やら千円札くらいの大きさの和紙が貼りつけてある。角度が悪くてハッキリとは確認できないが、墨のようなもので文字やら複雑な模様やらが描かれているようだ。

「おい、何だよこれ! 恬子がやったのか!?

 ようやく異変に気づき、遅まきながら声を上げる。ただ、それほど慌てる場面でもない。身体が動けない程度なら、犬の化け物に襲われたことに比べれば大したこと──。

「落ち着いて。お札を剥がせば、すぐ動けるようになるから」

「…………うおっ!? な、何だその格好!?

 ──大したことがあった……。

 俺の視界に現れた恬子は何故か、薄くて白い和服のようなものを着ていて──しかも、全身が水でずぶれだった。

 日が暮れていることもあって、大広間の窓から射し込むのは境内の街灯と弱い星明かりだけだったが、それでも髪の毛から水がしたたり落ちる様子や、白い和服がピッタリ身体に貼りついてる様子が見て取れる。

「ひ、ひょっとして……さっき古井戸の方から水の音が聞こえてきたのは、それか!」

「ちょっと、みそぎを済ませてきたの。ノリはどっちかというと、しゅげんどうみずに近いけどね」

「みそぎって……でもお前、その格好はただ事じゃないだろ!」

「そりゃそうよ」と、恬子は薄く笑った。その瞳に、並々ならぬ決意の光がたゆたっていた。

「これからアンタをおはらいしなきゃいけないんだから……生半可な気合いじゃ間に合わないわよ」

「…………俺をお祓い!? ちょっと待て、それってどういう──」

「この間、見たのよ。アンタが犬の化け物に襲われてるところ」

「えっ……!?

 アレを──恬子が見ていただと!? そんな馬鹿な!

「アンタがものすごいジャンプ力で逃げて、あの化け物が追いかけてくところまでしか見てないけどね。あれから、化け物の気配が消えてたから、きっとアンタたちが撃退したんでしょ。どうやって撃退したのかは、想像もつかないけど」

「……アンタ『たち』か……」

 つまり、そこに『美奈』がいたことも見ているのか──そこまで気づいて、俺はハッとなった。

「……恬子、お前まさか……!」

「ねえ経真……アンタどうして、美奈のことを『美奈』って呼んでなかったの?」

(…………やっぱり聞かれてた!)

 少なくとも恬子は、俺が『美奈』をローラさんと呼びかけていたところを、自分の目と耳で確認してるってことか。ということは──。

「アンタってさ、美奈の……いや、美奈の格好をした誰かの眷属になってるんでしょ?」

 ──やっぱり、霊感の強い恬子なら、そういう結論にたどり着くよな。

「この間、首筋に作ってた傷も……あの時はキスマークかと思ってたけどさ。ありきたりな想像で悪いけど、アレ……吸血鬼に噛まれて、血を吸われたんじゃない?」

「…………」

 うわあ──歯がゆい! 『痒いところに手が届かない』ってレベルのニアピンな感じが、すっげー歯がゆい! 確かに今考えれば、アレは『吸血鬼に噛まれて』『血を吸われた』わけだけど! 結果的にはそうなんだけど!!

「……でもアレ、どっちかというとキスマーク寄りだったよなあ……」

「えっ、何?」

「イヤ、何でもないです」

「とにかく……アンタが吸血鬼の眷属っぽい何かになってるのは、確実なのよ。この間のアレは、人間にできる動きじゃない……」

「え、ええとだな、恬子。それについてなんだけど……」

 そこまで恬子が推察しているなら、下手に遠回しな表現で恐る恐る様子を見るより、もうダイレクトに説明してしまった方が早い──俺の判断はそういう方向へ傾きかけていた。

 だが。

「アンタがそのことをどう思ってるかは知らないけど……眷属化の度合いが進めば進むほど、自分の意思はなくなり、最後は廃人同然になると聞くわ……そんなの、アタシは絶対に見過ごせない!」

 恬子はいきなり、俺の顔のすぐそばにしゃがみ込んだ。

「ちょ、恬子……お前、その格好で近づいたら……」

 濡れた白衣が透けて、彼女の乳首がうっすらと見える。目を背けようと慌てて頭を動かしたが、逆に恬子が両手で俺の頭を固定した。

 そして、ゆっくりと顔を近づけて、

「だから……アタシが、お祓いしてあげる……きっちり『浄化』すれば、アンタは吸血鬼の言いなりにならなくて済むわ……!」

「お、お祓いって……? 『浄化』って、何をするつもりだ……!?

「怖がらなくてもいいわ。アンタは痛い思いしないから」

「…………ッ!?

 言ってる意味が分からない──と、思いきや。

「アタシは、プロの霊能者みたいに、ちゃんとしたスキル持ってるわけじゃないからさ。だから、身体を張るしかないワケよ……ありがたく思いなさい?」

 恬子は恩着せがましい口調を装いながら、白衣の前をおもむろにはだけた。

「わっ、馬鹿! 見えるだろっ!」

「み、見せてんのよ! てか、見なさい!」

 はだけた胸元の合間から、年相応に膨らんだ恬子の乳房が丸見えになる。

 恬子はさらに胸元を開き、俺の顔にグイグイと近づける。

「ほ、ほら! 恬子ちゃんのおっぱいを、出血大サービスよ! 興奮した!?

 怒鳴りながらも、顔は暗がりでも分かるほど赤面している。無理をしているのは明白だ。

「こっ、興奮より先に、ビックリするっての! 顔真っ赤にしながら何やってんだ!?

「アタシのことは放っときなさいよ! そんなことより、早くオ……オチ×チンを硬くしなさいっ!」

「……お前なあ!」

 さすがに、この一連の流れで、理解しないわけにはいかない。

「まさかお前、自分の純潔を犠牲にして俺を浄化とか、そんなこと考えてんじゃないだろうな!?

「仕方ないじゃない、それが一番確実なんだから! そのためには、まずアンタに興奮してもらわないと始まらないのっ!」

 ──やはり図星か。

 処女が純潔を捧げて──などというパターンは、確かに神話などでよく出てくる『定番』の除霊・浄化方法と言える。

 だけど、それを唯々諾々と受けるわけにはいかない。

「ちょっと待て! 待ってくれ……そこまでは深刻じゃないから! お前にもいつかは説明しなきゃいけないと思ってたけど、これには何十年単位の深い事情が──」

「何よ、アタシのおっぱいじゃ興奮しないっていうの!?

「言ってねえし! て、てゆーか、暗くてよく見えないし……」

「み、み、見えないなら、これでどう!?(グイッ)」

「わっ……」

 どうにか抵抗しようとする俺の手を取り、恬子は自分の乳房に直接押しつけた。

 途端に、柔らかな感触が手の平全体に伝わってくる。

「や、やわらけー……」

「あああ当たり前でしょ、おっぱいなんだし! ほら、も、揉みたければ、揉めばいいじゃない!」

「揉めるかっ! ていうか俺、手足がピクリとも動かないんだけどさ──」

 と、ここまで反発してから、不意に気づいた。

「……ひょっとして、俺が動けないのも……お前が何かしたから?」

「あ、そうか、うっかりしてた」と、一瞬素の表情に戻った恬子が、答えていわく。

「ちょっと、お札を使ってね」

「えっ、お札?」

「そう。アンタの胸板に1枚貼ったのよ。しばらくの間、手足を動かせないように。そっかあ、このお札を貼ったままじゃ、アンタも指は動かせないわね……」

 うっかりしていたとばかりに、照れ笑いを浮かべる恬子。

 この時、俺の記憶によみがえってきたのは──夢の中での、龍真伯父さんの言葉だった。


『まあ、呪符の作り方は我流で、微妙に効能が違ってしもうとるんじゃがの。せっかくじゃから、ワシがサポートしてやることにした。恨むなよ♪』


(……サポートって、これか! 呪符を依り代にして現世に降りてきた伯父さんが、俺の身動きを止めてるのか!)

「じゃあ、しょうがないわね……アタシが全部やってあげるしかないか」

 恬子はそう言って俺の顔のそばから離れると、足元──というか、俺の脚の間に腰を下ろし、怖々と俺の股間を見つめた。

「……に、肉の塊なのね、改めて見てみると……一応、勃ってるじゃない……フフン♪」

「何を得意げに言ってるんだか……あのな恬子、ちょっと落ち着いて話をしようぜ?」

「いいわよ、お祓いが終わってからね……えいっ!」

「はおっ!?

 ──勃起を始めているチ×コを、いきなりギュッと握りしめられました。

「わっ……感じた?」

「感じるモンか! いきなり掴まれたら痛いよっ! いくら見た目が不気味でも、そいつはナイーブな生き物なのっ!」

「あ、ご、ごめん……ええと、じゃあ、このくらいならどうかな……」

 とっさに謝ってから、恬子は手の力を緩め、イチモツをぎこちなく擦り始めた。

「これでも、痛いかな?」

「そ、そのくらいなら平気だけど……お前、本気なの?」

「文句なら後で聞くから、ちょっとくらい我慢しなさい」

「いや……我慢とかじゃなくてさ……」

 身動きできない俺が見つめる中、恬子は力加減を探りながら、男根をコシコシと続ける。自分がやってる行為の意味は、充分に理解しているんだろう。ただ、未経験だからか、手を動かしながら迷っている感じはある。

「男の子の気持ちいいところなんて……勘で探っていくしかないわよねえ……」

「……おい、恬子……頼むから、一度落ち着いて、俺の話を聞いてくれよ」

「落ち着いてるから、アンタの言葉を無視してるのよ……んしょ……アンタが吸血鬼の眷属として、アタシをたぶらかそうとしてるかもしれないじゃない」

「ああ……そういう理屈か……」

 なるほど──もし、俺が本当に眷属の力の浄化を望んでいないなら、やっぱり口車で恬子を思いとどまらせようとするだろうな。だから、俺を信じる信じないに関係なく、恬子が自分の定めた手順を続けるのは、確かに間違いとは言えない。

「だけどさあ……こういうのは……」

「あっ、また大きくなってきた……それはいいけど、ホントにアソコに入るのかな、こんなの……」

 多少手つきが怪しくても、俺の躊躇ちゅうちょする気持ちとは無関係に、男根は恬子の手コキに応えてムクムクと硬度を増していく。

 こんな時まで反応するなと、自分の下半身を呪いたくなる。でも、白衣の前をはだけたまま、俺の股間の前でしゃがみ込んでシコシコと頑張る恬子の姿を見てしまうと、反応しないでいられるはずもなかった。

 くそっ──子供の頃は、一緒に風呂に入っても全然平気だったのに──。

「こ、このくらい硬くなれば、大丈夫よね……ゴクリ……」

 やがて、恬子の手が止まり、息を呑む音がこちらまで聞こえてくる。

 どうしよう──このままじゃ本当に、恬子は俺に処女を捧げちまう!

「……い、今さらビビってんじゃないわよ、アタシ……これは経真を助けるためなんだから……他に手がないんだから、覚悟を決めなさい、賀茂恬子……!」

 ゆっくり立ち上がり、白衣の下半身部分を後ろにまくりながら、恬子は必死にブツブツと自分へ言い聞かせている。不安な気持ちを必死に奮い立たせているのが、俺にも伝わってきて──心が痛む。

「恬子……やめようって、恬子……畜生、どう言ったら思いとどまってくれるんだろうなあ……」

「な、何よ……アンタ、そんなにアタシとエッチなことしたくないワケ?」

 顔を強ばらせながら、彼女は俺をキッと睨みつけ、言い返してきた。

「そりゃあ、大して美人でもなければ、スタイルも良くないわよ? 幼馴染みの裸なんて、見てもそれほど興奮するものじゃないかもしれないけどさ。でも、一応おっぱいもあるんだし、貴重な処女をあげようって言ってんだから、拒絶するのは失礼な話じゃないの?」

 俺を煽るように、だけど気丈に言い放つ。どうにかして『恩着せがましい』という形で、俺から罪悪感を取り払おうとしてくれてるのかもしれない。だからこそ。

「……なおさら、そんな処女は頂けねーよ……1回きりのことなんだろ? そんな大事なものを除霊道具にするとか、粗末な捨て方をするのはやめてくれよ……」

「…………そッ……粗末って、何よ!?

 屹立した俺のイチモツの上にまたがろうとする姿勢のまま、恬子はカッとなって叫んだ。

「ア、アタシの処女をアタシがどう捨てようと、アタシの勝手でしょ!? アンタは有り難がって、処女を頂いておけばいいじゃない!」

「ヤだよ、そんなの!」と、俺も意地になって怒鳴った。

「お前が信じられなくても、俺の眷属の件は、そんな大したことじゃねーんだよ! 1週間もすれば元通りになるってさ! その程度のものをどうにかしようとして、お前が身体を張る必要なんかないんだって!」

 とにかく、使命感のために俺とセックスさせるなんて、そんなことは真っ平御免だった。

『申し訳ない』とか、『そんなことはするべきじゃない』とかではなく──そんな結ばれ方は、俺がイヤだった。

「だから、どうしても浄化するっていうなら、せめて他の方法にしてくれよ……こんなことのために、お前がつらい思いをする必要は──」

「アタシ、経真のことが好きなの!!

「ッッッ!?

 ──一瞬、息が止まった。

「昔から、アンタのことが好きだったの! いつか、アンタのお嫁さんになりたかったの! だから、お祓いにかこつけて、アンタに処女をあげたかったの!!

「おまっ……て、てんっ…………!?

「だから、やるの! アタシが、こうしたいの!! …………まだ、文句ある!?

「………………」

『無理やりなこじつけ方をするな』──とでも言えた方が良かったのかもしれない。

 だけど──言えなかった。

 一気にまくし立てた後の恬子は、顔を真っ赤にして、目尻に涙を溜めて、フーッ、フーッと肩で息をしていた。

 ──こんな姿が、こじつけであるはずないじゃないか!

 恬子は、俺のことを助けたい一心で、恥をかなぐり捨てて、きっと昔から持ち続けていた気持ちを、全部ぶちまけてくれたのだ。

 そして──きっと、こんな機会でもなければ、本心を口にすることなんかできなかったんだ。

 ──そう。

 今、俺に向かって怒鳴り散らした女の子は──俺の合わせ鏡のような存在だったのだ。

「…………ごめんよ……」

「えっ?」

 気づいたら──俺の目から、涙があふれてきた。

「そんなこと……お前から言わせちまって、ごめんよ……グスッ……本当は、俺が……それも、何年も前に言わなきゃいけないようなことを……お前に言わせて、ごめんな……」

「き、経真……?」

「怖かったんだよ……告白して、お前に振られるのが……お前を彼女にしたいなんて勝手な都合で、『親友』をなくすのが怖かったんだよ……くふっ……」

 震える声で、思いの丈をぶちまけ始める。すると、今まで恬子がどんな気持ちでいたのか、それすらも手に取るように分かった。

「いざ、お前に告白しようとしても……お前はいつものノリで冗談めかしてスルーするし……きっと異性だと思われてないんじゃないかと、諦めてた……でも、今分かった……」

「な……ア、アンタに、アタシの何が分かったって……いうのよ……」

 反発の言葉を口にする恬子。だけど、既に涙声になっている。

「俺も、同じようなことしてたんだよな……お前が、まるで俺に惚れてるような素振りを見せてくれても……俺が自分に都合良く勘違いしてるだけかもって……自分に言い聞かせて、無難な受け流し方をしてたんだよな……『親友』を失いたくなかったから……」

「………………何よ……今さら……」

 大粒の涙が、恬子の目からポロポロとこぼれ始めた。

「分かった風なこと……言わないでよ……アタシが死ぬ気で告白しても……それをアンタはいっつも茶化してさ……言う前は、怖くて……死にそうなくらい怖くて……でも、アンタに告白をスルーされたら……嫌われたワケじゃないって、毎回ホッとしてさ……!」

 俺には分かる──この非難は、俺と彼女自身、両方に向けてのものだ。

「美奈が現れてからさ……分かるわけじゃない、あの子がアタシと同じ目でアンタのことを見てるって……でも、あの子って良い子だからさ……親友だからさ……あの子ならきっと、上手く経真と恋人になれるって……一番大切なふたりが幸せになれるなら、アタシはきっと我慢できるって……ヒック……それなのに、何なのよ、吸血鬼ってさ……!」

「恬子……」

「何さ、除霊道具って……! 何さ、つらい思いって……! きっとね、アタシはこの日のために、今まで処女でいたのよ……今、アンタを助けるために、ここまで意地を張ってきたのよ! アンタなんかに、アタシのこの気持ちが分かってたまるか──あーもう! 違う! どうせ分かってるんでしょ!?

 ──ほとんど悲鳴のような最後の一言が、痛いほど心にしみた。

 ならば、俺が言うべき言葉も、自然と定まる。

「……そんなにくれるって言うなら……もらってやるよ、恬子の処女」

 俺をこれほど想ってくれていた、そして想ってくれている幼馴染みへの、心からの感謝を込めて──吐き捨てた。

「フ、フン! 一生恩に着なさいよ! アンタがアタシに失礼なことをするたびに、グチグチ言ってやるんだから! 見てなさい!」

 恬子は減らず口を返すと、自分のワレメに俺の亀頭をあてがい──ゆっくり腰を沈め始めた。

「……ぁ……ぁああああ……キツイ……っ!」

「恬子……ッ」

 もう、俺は止めようなどとはしなかった。ただ、恬子の微肉が陰茎を呑み込んでいく様を見守るのみ。

「……クッ……」

 その動きが、一瞬止まった。亀頭の先端に引っかかるような感触は、つい最近経験したものと同じ。

 だけど、俺は何も声をかけなかった。全てを、恬子自身に任せた。

 恬子は二度、三度と小さな動きで深呼吸を繰り返した後──一気に全体重を乗せて、俺と繋がった。

「あがあああああっ!!

 ブチッと何かが切れるような感触とともに、彼女の口から悲鳴がほとばしった。

「恬子ッ!」

 さすがに我慢できず、呼びかける俺。恬子はすぐに応えようとせず、一度大きく開けた口を閉じ、痛みを堪えて歯を食いしばる。

 そして──。

「……う、うっ……うわあああああああん!」

 号泣を始めた。

「うわあああああん! 痛いよぉぉぉぉぉ! 痛いよ経真ぁぁぁっ、うわあああああん!」

 誰にはばかることもなく、社務所全体に鳴り響くような大声を上げて、恬子は思い切り泣いた。

 それが、痛みだけによる涙でないことは、俺にもヒシヒシと伝わってきた。

「……馬鹿だなあ……そんなに一気に処女膜破ったら、痛いに決まってるだろ……」

「わぁぁぁぁぁぁん! うるさいわよっ、処女膜ないクセにっ、わぁぁぁぁぁぁん!」

 号泣しながら俺を非難しつつ、恬子は上体を倒して俺の胸板に取りすがった。

 俺は、そんな彼女の身体を、動かないはずの両腕で抱きしめ、ポンポンと背中を叩いてやった。

 ──胸の呪符の中にいるであろう龍真伯父さんが、気を利かせて、俺の腕だけ拘束を解いてくれたんだろう。

「そんなに泣くなって。な?」

「ふえぇぇぇぇ……うるさいわよ、経真のクセにぃ……ふえぇぇぇぇ……」

 ヒドイ言いぐさだが、号泣のトーンは少し収まってきた。それを確認してから、俺は不意に気づいた。

「……あんまり、オマ×コの中が濡れてないな……いろんなことがありすぎて、気持ち良くなるのをすっ飛ばしたからだな。これじゃ、処女膜なくても痛いんじゃないか?」

「クスン……じゃ、じゃあ、何とかしなさいよ、バカぁ……」

「割と無茶振りだな──うわっ!?

 その時、再び俺の腕が言うことをきかなくなり、敷き布団の上にダラリと下ろされた。

「……何とかしろって言われても、俺動けないし……」

 伯父さんの仕業だと分かっているので、俺はシレッと言ってのける。

「だから、恬子の方から何とかしてよ。俺にキスするとか、自分で自分のおっぱいを揉むとかさあ」