疑問を投げかけようとして、俺は再びローラさんの異変に気づいた。

「これだけ間近でザーメンの匂いを嗅いだからかのう……もう、身体の火照りが止まらぬのじゃ……」

「え? ……えっ、えっ?」

 ローラさんが何を言ってるのか、一瞬理解できなかった──否、一瞬で理解できてしまったことを、俺の理性がとっさに拒絶していた。

「のう、経真よ……『もっと先』まで、イッてみぬか?」

「…………だーから、マズイってば! 俺たち、美奈にどんな顔して会えばいいのさ!?

「そんな先のことは、後で考えれば良いではないか♪ 人間、あまり辛抱ばかりしておっても、良いことなどないぞ♪」

 などと言いながら、ローラさんは俺の腰の上にまたがる格好で、膝立ちとなった。

「見るがよい……から、おつゆが垂れてきておる……ほほ、昨夜のお主のザーメンも混ざっておるの」

「うわ……」

 とっさに視線を外さなきゃと思い──だけど、逆に釘づけとなってしまう。

 金髪少女の狭いスリットから、しずくが糸を引いてこぼれ落ち、射精したばかりの俺の股間を濡らす。それは確かに白みを帯び、昨夜の初体験の名残を感じさせた。

「見ての通り、身体の奥底から火が着いてしもうた状態での……このまま、ワシの身体の疼きをほったらかしにするほど、お主も殺生な男ではあるまい?」

「でで、でも……その、身体は……ローラさんのじゃなくて、美奈の……」

 どうにか抗弁しようとするが、舌がもつれて上手く言い返せない。俺がローラさんの色香と迫力に呑まれてしまっていること、そして何より、目の前の非常識な光景に興奮してしまっていることは明らかだった。

「そう、つれないことを申すな! な? ちょっとだけなら、良いじゃろ? ちょっと、2、3回腰を振るだけなら……それも無理なら、先っぽだけ──」

「アンタ、俺なんかよりよっぽど童貞くさいな!」

 ローラさんの妙な懇願で、ちょっとだけ勢いを取り戻すことができたけど、それでも俺は濡れそぼったアソコから目を離すことができない。

「ほれ! お主とて、ヤリたそうな目をしておるではないか! 四の五の抜かさず、己の欲望のままにワシとまぐわらぬか!」

「い、いつだって欲望に忠実でいいなら、理性なんか必要ないじゃん! 男のやせ我慢くらい、大目に見てよぉ!」

「今回ばかりは聞けぬ話じゃ! ワシの身体の疼きを鎮められるのは、お主のこのそそり立った珍棒だけ! それでは、いくぞ──」

「わあああああ! 勘弁してええええ! 今オマ×コに挿れたら、マジで歯止めが利かなくなるううううっ!!

 いくら頼み込まれようが、いくら見た目が美奈そのものだろうが、いくら俺自身がヤリたくてしようがなかろうが──そう簡単に肉欲に屈してしまっては、美奈に申し訳が立たない!

 俺は、射精したばかりなのにあっさり復活したチ×コを、ローラさんの魔の手から守ろうと、必死にずり下げようと努力する。一方でローラさんは、俺を逃すまいと腰骨あたりを両手で押さえつけてくる。

「ぐへへへ……上の口ではイヤだイヤだ言うても、下の口は正直ではないか……いや、男の場合は下のと言うた方が良いか?」

「下品だよローラさんっ! 美奈の顔と声でそーゆーこと言うのやめてくれーっ!!

 ドスンバタンと、ベッドの上で情けなくも切実な攻防戦。

 ──この騒動で、部屋の外の物音が聞こえなかった結果。

「(バンッ)経真くん! 私の身体が、ママの身体になっちゃった──えっ?」

「…………えっ?」

「おっ?」

 気がつくと、俺の見慣れた長い黒髪の美女が、開け放ったドアのそばで、立ち尽くしていた。

 彼女の視線の先は、素っ裸でチ×コをギンギンにして、ベッドの上で後ずさる俺。

 そして、俺のチ×コにつかみかかり、必死で自分のオマ×コの中に納めようとする、美奈の身体。

「「「………………」」」

 一瞬、3人の動きが止まった後──真っ先に我に返ったのは、俺だった。

「……中身、美奈だよな!? ローラさんじゃなくて!」

「うおっ!?

 俺は怒鳴りながら上半身をベッドの脇に投げ出し、ローラさんから逃れた。

「ほえっ!? ……う、うん、そうなんだけど、どうして一目で──」

「お前からも言って、思いとどまらせてくれ! アレ、中身はローラさんだぞ!?

「え、えっ?」

 そして、戸惑うローラさん──の姿になった美奈の後ろに身体を隠した。美奈を盾に取るのはちょっとみっともないが、この状況では他に取る手立てがない。

「あっ、こら経真!? ……おのれ、隙をかれてしもうたか……美奈を盾に取るとはお主、女々しいぞ!」

 俺に逃げられて、ローラさんはすっぽんぽんの姿でベッドに仁王立ちになってえる。

 ──全ての状況を理解したわけではないだろうが、俺がされていたこととローラさんがしようとしていたことを、美奈が把握するには、これで充分だった。

「ちょ……ちょ……ちょっとママー! 私の身体で、何しようとしてたのよーっ!?

 出会ってから2年近く──俺が初めて見る、美奈が本気で怒鳴り声を挙げる瞬間だった。

「おお、とりあえず美奈よ、処女卒業おめでとう。それにしても、経真はベッドの上だと、意外に細かいことを言うヤツじゃのう──」

「何でもいいから、服着て! ていうか、ふたりともシャワー浴びてよ!!


「いやーははは……いろいろと嬉しゅうて、ワシもついテンションが上がってしもうてのう……」

 リビングでは、身体の汚れを洗い流してさっぱりしたローラさんが、正座して愛想笑いを浮かべていた。

「…………」

「…………」

 そんなローラさんを、同じくシャワーを浴びた俺は、美奈と一緒に睨みつけていた。

 しかし、母娘の中身が入れ替わっているので、見た目には『正座している美奈を、俺とローラさんが睨んでいる』という光景に見えるのが、何ともややこしい。

「でも、その……何というか……悪気があってやったワケじゃないんじゃぞ? お主らふたりとも、エッチはこれまで経験なかったじゃろ? そんな未熟な状態のまま事に及べば、何かの間違いで怪我をするかもしれなかったワケじゃし……そういう不幸な事故を未然に防ぐためにも、まずは経真に女体の何たるか、セックスの何たるかを教えてやろうと……思って、じゃな……」

「…………」

「…………」

「…………済まなかった。反省しておる……」

 やっと、しおらしく頭を下げて見せたローラさん。

「全く……」と溜め息をつきつつ、俺は説教じみた言葉を彼女にかける。

「大人はローラさんひとりなのに、そのローラさんがハメを外して、どうするのさ」

「そんなことを言うても……今の身なりは、ワシが一番幼いではないか……」

「ブツブツ言わないっ」

「うひっ! ……そんな、じゅうとじゃあるまいし、もう過ぎたことをそこまでクドクド言わずとも良いのに……」

(……どーも、不満そうだな。さては、あんまり反省してないな?)

 俺から言うより、娘が直々に説教した方が効き目もありそうだ。状況が状況だけに、あまり頼るのも可哀想だが、ここは美奈にこってり搾ってもらおう。

「美奈……キミから、何かある?」

「…………ママ……」

 ここまでジッと黙っていた美奈が、ローラさんの顔を正面から見据える。『自分の顔』と相対するのはやりにくいかもしれないけど、それはローラさんの方もきっと同じこと。いくら母親相手でも、言うべきことはキッチリと言ってもらって──。

「……順番が逆になっちゃったけど……経真くんとお付き合いしても、いい?」

「「はっ?」」

 ──俺とローラさんの声がハモった。

「えーと、美奈さん?」

「お主……いま言うことが、それかえ?」

「私、真剣なの。決して、一時の気の迷いじゃないの! 私、ずっと経真くんのことが好きだったから……だから……」

 そして、ローラさんの前に座り、三つ指ついて頭を下げる。

「お願い、ママ! 私たちの交際、認めてください!」

「「…………」」

 こんなことをされてしまっては──俺もただ傍観しているわけにはいかない。

「……お……お願いします。お嬢さんとの交際を許してください……」

 俺も美奈の隣に膝をついて、深々と土下座をする。ものすごくに落ちないけど、自分の感情はあえてスルーした。

 俺たちが頭を下げるのを見て、ローラさんは、

「……お、おお……ふたりとも、仲良くな……」

 毒気を抜かれた調子で、そう答えるのみ。途端に。

「…………よかったぁ! 経真くん、私たち付き合ってもいいって!」

 美奈はすかさず俺の両手を取って、普段はイタズラっぽい笑みの浮かぶローラさんの容貌に、いつもの美奈らしい晴れやかな笑みを浮かべた。

「反対されたらどうしようかと思ったけど……グスッ……こんな日が来るなんて、ホント夢みたい……!」

 涙ぐむほど大喜びの美奈。一方の俺とローラさんは、どちらともなく、お互いに顔を見合わせる。

「……アンタの娘さん、良い子に育ちましたねえ」

「ホントにこやつ、ワシと血が繋がっておるのかのう……」

「…………あっ、そうだ!」

 と、不意に美奈が、目尻の涙を拭きながら叫んだ。

「どうしたんだ、急に──」

「学校!」

「うむ? 学校とな……?」

「学校、どうしよう? 私がこのまま学校に行ったら、さすがにマズイよねえ……」

「「……ああー」」

 またしても、同時に声を上げる俺とローラさん。確かにそれは、見過ごせない問題だった。

「美奈がワシの姿で登校すれば、そりゃあみんな驚くじゃろうなあ……」

「だよねえ……今日のところは、風邪を引いて休みってことにしておくか?」

「でも、今日はそれでよくても、明日とか明後日あさってとか、その後もずっと休むってワケにはいかないでしょ? だって──」

 そして改めて、俺たちの間に発生した問題を口にする。

「だって、私とママの中身が入れ替わっちゃったわけだし」

 ──そうなのだ。

『美奈とローラさんの人格が、入れ替わってしまった』──現状は俺たちに、それ以外の解釈を許さなかった。

 何故そうなったのかも、どうすれば元に戻るのかも分からない。

 そんな状況では、確かに『この先もずっとこのまま』という可能性も考えておかなきゃいけない。

「ならば」と、ローラさんはおっかない、だけど俺たちが今思いつく唯一のアイデアを口にした。

「当面はワシが美奈のフリをして、学校に通うしかないのう」

「……ママ、大丈夫?」

「なに、経真がフォローしてくれるじゃろ」

「簡単に言うなあ」

 軽くあきれ顔で言う俺に、ローラさんはニカッと笑って言葉を返すのだった。

「深刻に悩むのは、性に合わぬ!」


「ところで美奈……結局、ローラさんがハメを外したことには何も触れなかったけど……いいのか?」

「だって……考えてみて? 自分の親と自分の恋人がエッチなことしてるシーン」

「…………うわ…………」

「私、そんなことを話題にするなんて、恥ずかしくてできないよぉ……」

「そ、そりゃそうだ……」



「行ってらっしゃーい! いろいろと気をつけてねー」

 ──すっかり大きくなった美奈に見送られて、俺とローラさんは学校に向かう。

「ふわ〜っ……朝から外を歩くなぞ、しばらくぶりじゃな……おかげで、眠くてかなわぬ」

「相変わらず、朝が苦手だよね。言っとくけど、しばらくは毎日こうだから」

「ぐぬぬ……学校に行くのは構わぬが、早起きを強いられるのだけは厳しいのう……うおっとっとっとっ」

 俺の隣を歩くローラさんが、急にバランスを崩した。何となく振り回していた学生カバンに、逆に振り回されてしまったのだ。

「ほら、危ないって。身体の大きさが違えば、物の大きさや重さの感覚も変わるんだから、注意しないと」

「わ、分かっておるわっ」と、たしなめる俺に食ってかかるローラさん。

「口惜しい……こんなくだらぬことで、経真にツッコまれるとは……」

 普段はおとなしそうな表情ばかりの『美奈の顔』で、恥ずかしそうに頬を染め、ちょっと唇を尖らせる。

(……あれっ? これはこれで、結構可愛い……?)

 ──意外な新発見。しかも多分、あまり気づかない方が平和なたぐいの。

 ついつい、今朝ローラさんにフェラチオされた光景がフラッシュバックする。

(おおお落ち着け俺、中身はローラさんだからな? 美奈じゃないからな?)

 こりゃしばらくは、自分自身にもしつこく言い聞かせないと、今に大変なことになるぞ。くれぐれも、いろいろ自戒せねば──。

「……のう、経真よ」

「うわっとぉ!? ななな何だいローラさん!?

「驚きすぎじゃ……それより、その首筋はどうした?」

「えっ?」

 不意にローラさんに指差され、俺は何気なく自分の首筋を撫でる。途端に。

「イテッ……あ、そーいえば」

 ヒリヒリとした痛みが、昨夜の記憶を呼び覚ました。

「噛まれたんだっけか、美奈に……」

「……噛まれた?」

「うん、口をふさがないと声が漏れちゃうからって……な、何を言わせるんだよ、こんな朝っぱらから!」

 思わずポロリとこぼしてしまって、俺は照れ隠しにちょっと声を荒らげる。

 しかし。

「美奈に、噛まれたとな……ふむ……」

「……ん? ローラさん?」

 ローラさんが急に思案顔になる。何か引っかかることでもあったのかな?

「ちょっと痛かっただけだよ。別に、吸血鬼みたいに血を吸われたわけでもないし」

 冗談めかして言うと、ローラさんは意地の悪そうな笑みを浮かべて、

「フフン、それはどうかの? おなはみんな魔物ぞ?」

「えー? 美奈に魔物成分なんてあるかなあ」

「男は誰しも、そうやって油断して女子に喰われるものじゃて……ほれ、これでも貼っておけ」

 と、学生カバンの中から絆創膏を取り出した。

「美奈のことじゃから、この手の非常用グッズも用意しておるかもと思うたら、案の定じゃわい。あやつに感謝して使うんじゃな」

「へえ、アイツって本当にマメだなあ──うん?」

 受け取った絆創膏を首筋に貼りながら、俺は道の前方に視線を移した。

 ──そろそろ、学校が近づいてきたな。登校する他の生徒の姿も、チラホラと視界に入ってきた。

「ローラさん、そろそろ頼むよ」

「おお、美奈のフリじゃな。まあ、任せておけ」

 ローラさんは、美奈の小さな胸をドンと叩いてみせ、ついで軽く顔をしかめる。

「ゲホッ……乳のサイズが変わったことを忘れて、強く叩きすぎたわ」


「おう、おはよう、神浦兄妹!」

「おはよう。誰が兄妹だ」

「美奈、おはよー! 経真くんもねー!」

「お、おはよー」

 ──学校昇降口のげた箱で上履きに履き替えている間、クラスメートたちが俺や『美奈』に次々と声をかけてくる。

『美奈』はそれなりに無難に挨拶を返しているようだが──さすがに、ちょっとぎこちない。

(大丈夫?)

(うむ……顔と名前が一致しないのは、困りものじゃの。早急に、覚えるよう努めねば)

(あー、そうか。まあ、そこら辺は俺も協力するから、上手くやってよ?)

 コソコソと耳打ちを交わし合い、再び離れて、普段通りに振る舞う俺と『美奈』。

 それにしても、俺も緊張するな。いつまでも、ローラさんの一挙手一投足を見守ってるのも不自然だし。まあ、ローラさんも大人だし、めったなことで大失敗はやらかさないだろうと、信じたいところだけど──。

「やっ、色男くん♪(ポンッ)」

「ドキィィィッ!?

 ──いきなり後ろから肩を叩かれて、妙な声を上げてしまう。

「な、何だ、恬子かよ! おどかすなよ……」

「おはよー、経真クン。何か後ろめたいことでもあったのかなー? んー?」

 振り向いた先に、ニタニタと笑う恬子の姿があった。

「それとも、アタシにちゃんと報告することでもあった? あったなら、ここで聞かせてごらん? おねーさん、全部聞いたげるから♪」

「あ、あのなー……」

 グイグイと隙間をこじ開けるようにして、俺から話を聞き出そうとする恬子。面食らいつつ、俺の脳裏には昨夜、美奈から聞かされた一言がよみがえった。

『だって恬子ちゃん、経真くんのことが好きだもん……』

(……とても、そうは見えないんだが……かといって、本人に確かめるのもなあ……)

「あっ、ちょうど良いところに……おーい、美奈ー!(グイッ)」

「お、おいおいっ、俺の腕を引っ張るな!」

 恬子は『美奈』の姿を見つけると、俺を引きずりながら駆けよっていく。

「あ……おはよう、恬子ちゃん」

『美奈』──ローラさんも、何度かウチまで遊びに来た恬子のことは覚えていたらしい。問題なく、名前を呼んでいる。

 むしろ、問題はここから。

「ところで美奈、アタシに何か言いたいことがあるんじゃない?」

「へっ? 恬子ちゃんに?」

「またまたー♪ そんなに照れなくていいから〜♪」

 恬子に肘で小突かれると、『美奈』は俺にそっと耳打ち。

(……この娘と美奈の間に、何かあったのかの?)

(美奈とっていうか……こいつ、美奈に告白しろって俺をけしかけてきたんだよ……)

(ほっ? お主、他人にせっつかれて告白したと申すか!? 何ともはや、主体性に欠ける男よのう……)

(そんなにあきれないでよ、こんなところでっ! いろいろあったんだよ、それまでにっ)

「……どしたの? ふたりでコソコソと」

「えっ!? あ、ああ、別に大したことじゃねーよ」

「その、えっと……どこまで話していいのかなって──」

「まあ! ここから先は話せないー、なんてケシカラン展開でもあったのかしらっ!?

 うわぁ──めちゃめちゃ食いついてきたよ、こいつ。

 どうやって話題を逸らせばいいか、ちょっと真剣に対策を練らねば──。

「……ん? その絆創膏、どしたの?」

「えっ?」

 と、強ばった感じの声が出た──『美奈』から。どうして、俺より先にローラさんが反応してんだ?

「虫さされだよ。季節外れの蚊がいてさ」

 俺は慌てず、無難な答えを恬子に返す。しかし。

「……最近の蚊って、すごいねー……歯形がついてる」

「…………ッ!?

 ──思わず、手で絆創膏の貼ったあたりを隠してしまった。

 そして、一瞬で後悔する。

(しまった……これじゃ、完全に図星じゃん……)

「ふーん……ずいぶんと大胆な蚊がいたもんねー。まるで、派手なキスマークじゃん」

 案の定、恬子はかなり真実に近いところを突いてきた。

「どういうことなんだろうね、美奈?」

 そしてなおも、しかめ面で『美奈』に話を振る──コイツ、わざと顔をしかめて、俺たちをからかってるな?

 チラッと横目で見ると、

「え、ええっと……すごいよね、最近の蚊は秋になっても湧いてくるから。地球温暖化のせいかな?」

 ──あれっ?

 話をごまかすのはいいとして──妙に反応が薄いな? まあ、過剰に反応するフリをした挙げ句、ボロが出ちゃうよりはいいんだろうけど。

「…………んー?」

 恬子も一瞬、不思議そうに首を傾げた。まずいな、このまま話を続けると、何か感づかれるんじゃないか──。

(──キーン、コーン)