とんがり帽子を取ると、背丈が俺の胸よりもさらに低い。体格的にも小柄──というか幼児体型なので、マントの下から現れたブレザーの制服姿より、ランドセルを背負わせた方がよほど似合う。
それ以上に、美しい金髪のツインテールと、深い青色の瞳が特徴的なのだ。名前こそ普通に日本人だが、血筋は明らかに欧米のそれだった。
(テストは学年上位常連の優等生なんだけどなあ……さすがに体育はどうにもなんないみたいだけど)
『海外の天才少女が、飛び級でウチの学校に転入してきた』──などとまことしやかにウソをついても、事情を知らない人なら簡単に騙せそうな気がする。
「はい、よろしく。箱に入らなかったら、帽子は私がそのまま持って帰るね」
「気にすんなって。一緒に持ってきたんだから、帰りも一緒に持っていけるだろ……それより、外した暗幕を生徒会室に返しに行きたいんだけど、手伝ってもらっていいか?」
「えっ、私が? ……いいの?」
俺の頼みに、美奈は何故か周りをキョロキョロとうかがった。
「……いいのも何も、俺がお願いしてるんだけど……」
「あ、そ、そーだよね! わ、私は別に大丈夫だよ……暗幕を洗濯するんだっけ?」
「洗濯じゃないっ、生徒会室に返しに行くのっ!」
「ご、ごめん、ちょっと舞い上がっちゃっただけだから……」
「…………」
うつむき加減にモジモジする美奈の様子に、俺は言葉を返しようがない。
「ちょっと、そこでにらめっこやってるふたり!」
と、恬子の声が聞こえてくる。クラス単位で行われるイベントの仕切りは大抵、学級委員である彼女の役目なのだ。
「暗幕を返しに行くなら行くで、早くしなさい! まだ、やることいっぱい残ってるんだから!」
「わーかってるよ……じゃあ、行こうか」
「う、うん」
俺たち恬子に追い立てられるようにして、暗幕を持って生徒会室へと向かった。
「重くないか?」
途中、階段を上りながら横を見ると、美奈は重くてかさばる暗幕を両手に抱え、少しよたついていた。体格の問題で仕方ないとはいえ、危なっかしくてしようがない。それでも。
「ん……大丈夫、経真くんの半分しか持ってないし」
美奈本人がそう言っている以上、これ以上の気遣いは失礼になる。
「そっか。まあ、階段にはつまずくなよ──」
「フフッ」
「ん? どうした?」
「いつも一緒にいるのに、こんなことでドキドキする私って、変だなあって♪」
「…………ほら、急ぐぞ」
急に笑みをこぼす彼女に、俺はぶっきらぼうな言葉を返した。
──ちくしょう、可愛いじゃないか。
お昼前──作業は全て終了。
「皆さん、文化祭の後片づけ、お疲れ様でした。明日から通常授業が再開されますけど、くれぐれも文化祭ボケで遅刻したり学校を休んだりしないように……では、解散!」
学級委員・恬子の一声で、クラスメイトは一斉に席を立ち、ぞろぞろと教室を立ち去る。そのまま帰宅する生徒がほとんどだけど、どこかで昼ご飯を食べようかと相談する連中もチラホラ。
「じゃあ、俺たちもファミレスあたりで飯にしようか……恬子、どうだ?」
俺は声をかけながら、レンタル小物の入った段ボール箱を抱え持った。しかし。
「ごめん。アタシ昼から、学級委員の連絡会議があって、まだ帰れないのよ」
「えー、マジか。でも、ちょっと外で食べるくらいの時間はあるんじゃないか?」
つれない返事に、俺は軽く食い下がってみる。美奈も同調してくれた。
「そうだよ。せっかくだし、一緒にご飯食べようよ、恬子ちゃん」
「でも、お弁当用意してきちゃったし」と、しかし恬子は可愛らしい弁当箱をカバンから取り出しながら、苦笑する。
「そんなわけだから、お昼ならふたりで行ってきなさいな。駅前のイタリアンレストランが最近ランチメニュー始めたの、アンタたちなら知ってるでしょ? お勧めよ。ティラミスが絶品!」
「うーん……そうは言うけど……」
「ふたりで食べに行くくらいなら、俺たち素直に帰るぜ?」
美奈と俺は揃って難色を示した。
その理由を、ちゃんと理解しているはずなのだが、恬子はわざわざ顔をしかめて、
「青春真っ盛りの学生が、そんな味気ないこと言ってんじゃないわよ! ほら、お店が混む前に、ふたりでさっさと行った行った! 明日、味の感想聞かせなさいよ」
と、俺たちを手でシッシッと追い払った。
「しょうがねえなあ……じゃあ、また明日な」
「恬子ちゃん、会議頑張ってね」
「はいはい、せいぜい頑張りますよ」
弁当を広げ始めた恬子を残し、俺たちは教室を後にした。
「……ふう、アタシも大概、お節介焼きだねえ……」
「美味しかったねー! 私には量が多すぎたけど」
「ランチメニューは値段も手頃だったな。夜のメニューは、学生にはちょっとお高いけど」
昼食を終えた俺たち、浦斗駅前のアーケード街を歩いた。
秋が深まりつつある中、アーケード両側に並ぶ店先には、カボチャのオバケや魔法使いなどをあしらった飾りつけが、徐々に増えてきていた。
「そうかあ、もうすぐハロウィンなんだよなあ」
「早いよね。2学期が始まったばかりだと思ってたら、もう文化祭も終わっちゃったし」
「だよなあ……あ、でも、ハロウィンの前に中間テストがあるな。厄介な……」
「クスッ。また勉強会しようね、恬子ちゃんも呼んで」
「……お、おう、そうだな」
俺と美奈は他愛もない話をしながら、肩を並べて家路を行く。
ふと、美奈の横顔を見る。
透き通るように白い肌と、ツインテールの鮮やかな金色。確かにクラスの女子が騒ぐように、人形のような美しさだ。
──この少女と初めて出会ったのは、去年の正月。
東ヨーロッパにある故郷を離れ、10年前に亡くなったという龍真伯父さんの遺骨を持って、母親とふたりで俺の家を訪ねてきたのだ。
本人には一度も会ったことがないけど、ずっと外国で暮らしているという話は父さんから聞かされていたし、写真も見せてもらったことがあるが──写真に写っていた龍真伯父さんは、いかにも『昭和の頑固親父』といった感じの、厳つい風貌だった。
だから、まるで人形のような金髪少女が、そんな伯父さんの血を引いているとはとても思えず、最初はある種の詐欺なんじゃないだろうかと、しきりに疑ったものである。
でも、美奈はその時から、流暢に日本語を話していた。伯父さんに習ったという日本語会話は、若干の古めかしさが残っていたものの、充分日常会話が成立するレベルのものだった。
その流暢な日本語で、美奈は『パパの故郷で暮らしてみたいんです』と宣言し、当時の俺や父さん母さんを大いに驚かせた。
おまけに、日本の学校に通うと告げ──なんと、俺と同じ志望校の入試を受け、合格してみせたのである。
いくら父親の祖国とは言っても、日本は彼女にとって、暮らした経験のない異国のはず。『異国』の学校の入学試験を、ロクに準備期間もないままに受けて、そして合格する──どれだけ優秀な子なんだと、俺は合格発表の掲示板の前で、唖然としたものである。
思えば──その時点で既に、美奈は俺にとって『気になる女の子』になっていたのかもしれない。
「……どうしたの?」
「えっ、何が?」
気がつくと、美奈がこちらを見上げて、怪訝そうな顔をしていた。
「だって、私の顔をじっと見てるみたいだったから」
「ああ……ちょっとな、キミに初めて会った頃のことを思い出しちゃってさ」
「そうなんだ……ちょっと恥ずかしいな、あの時は緊張でガチガチだったし」
「アレでガチガチ? 俺にはすげー堂々としてるように見えたんだけど」
「だって、カッコイイ男の子がいたから、何だかドキドキしちゃって」
(えっ?)
それって、もしかして俺のことを言ってる?
「……なーんて! 冗談でした♪ ウフフッ」
「…………」
可愛すぎるだろ! ──照れ笑いを浮かべてごまかす美奈の身体を、ついついギュッと抱きしめたくなってしまう。
だけどもちろん、本当にそんなことをするわけにはいかない。
(血迷うなよ、俺! 美奈とはまだ、恋人でも何でもないんだから!)
俺は自分自身と、下半身の『俺自身』に、心の中で必死に言い聞かせるのだった。
ハロウィンの飾りつけが増えてきた浦斗駅前商店街の中にあって、ひときわ目立つ紫色とオレンジの看板と電飾。
『ホラーハウス・カーミラ』──ホラー映画関連商品や、ゾンビ・ミイラ男などのコスプレ衣装といった、ホラーグッズを専門に取り扱う雑貨店である。
俺たちのクラスのお化け屋敷は、無理を言ってこの店から小道具をレンタルしてもらったおかげで、低予算で実現できたのだ。
そんな『ホラーハウス・カーミラ』の入り口から、
「「ぎゃああああああああああああ!!」」
──いかにもやんちゃそうな男の子がふたり、すごい形相で飛び出してきた。
「やべええええ! マジでヤベエのがいた、この店!!」
「イテッ!? ……ま、待ってよ翔太! 置いてくなよー!」
悲鳴を上げながら全速力で駆け去ろうとし、だけどそのうちひとりが途中で転んでしまった。
「何やってんだよ!? 早く立てって! モタモタしてたら──」
もうひとりが大慌てで手を貸し、転んだ少年を立ち上がらせたところで、
『フハハハハハハ! お主らも吸血鬼にしてやろうか! フハハハハハハ!』
牙を剥き出しにした吸血鬼──のお面をかぶった大人が、店の中から飛び出してきた。
「げえっ!?」
「きゅ、吸血鬼が外に出てきたぁっ! まだ昼間なのにぃ!!」
『太陽だの十字架だのは、ワシには効かぬ!』
吸血鬼のマスクは男なのに、その奥から聞こえてくるこもった声は、明らかに女性のもの。少年たちが冷静ならそこに気づくこともできるだろうが──どうやら、無理そうだ。
『万引きを企む小僧ども相手に、慈悲があると思うなよ! さて、どっちから血を吸うてやろうかのう……』
「「うわあああああああっ! ごめんなさいいいいいいいっっ!!」」
吸血鬼マスクのドスが利いた声に、少年たちはさらに盛大な悲鳴を上げて、今度こそ一目散に逃げ出した。
『うははは! これに懲りたら、二度と犯罪に手を染めようとするでないぞ、小童ども!!』
彼らの後ろ姿を、仁王立ちで高笑いしながら見送る吸血鬼マスク。そこへ、
「ちょっとママ! 何してるの!?」
──当然のツッコミが入った。
『うむ? ……おお、美奈か。おかえり、今日は早かったのう』
「昨日言ったじゃない、午前中までで学校終わるから、早く帰ってくるよって」
『おーおー! そういえば、そうであったの……いよっ』
美奈の言葉に受け答えをしながら、吸血鬼マスクを脱ぐ。下から現れたのは、
「ふう、マスクをかぶっておると、中が蒸れていかん……おお、経真も帰ってきたか」
長い黒髪と肉感的な目鼻立ち、そして妙に勝ち気な表情が印象的な美女。
「ただいま、ローラさん……何やってんだよ、売り物のマスクまでかぶって」
「フン、ワシは未来ある少年たちが悪の道に足を踏み入れようとしておったのを、大人の責任として追い返してやっただけじゃ!」
彼女はそう言い放って、俺たちにニヤリと笑ってみせた。
──神浦ローラさん。美奈の母親であり、俺にとっては義理の伯母さんに当たる。
「そりゃ、万引きはいけないことだし、相手は子供だから捕まえるより万引きさせない方がいいとも思うけど……店に変な噂が立ったらどうするのよ、ママ?」
「何を言うか。『あの店には本物の吸血鬼がおる』とでも触れ回られれば、かえって良い宣伝になるじゃろ?」
「そうかなあ……」
ヤケに古めかしいしゃべり方は、亡くなった夫──龍真伯父さんに日本語を教わったからだという。でも、妙に男らしい性格や言動には、むしろマッチしているとも言えた。
「まあいいや。取りあえず、お化け屋敷で使ったレンタル品、全部回収してきました」
「そうかそうか。ひとまず、倉庫に放り込んでおくのじゃ。それが済んだら、しばらく店番を頼むぞ。美奈は夕飯の準備じゃ」
「はーい、ママ」
「ローラさん、何か用事でもあるの?」
「うむ。この吸血鬼マスクをかぶって、汗を掻いてしもうたからな。今から風呂に入る!」
「……いいんですかね、店長がそんなグータラなことで?」
「構わぬ! 娘と甥っ子が優秀じゃからの♪」
「…………」
神浦ローラさん──『ホラーハウス・カーミラ』のオーナー店長でもある。
「まあ、店番くらい、別にいいんだけどね……居候させてもらってる身だし……」
「今さら気にすることでもなかろう。じゃが、そんなに気が引けるなら、ウチに婿入りしてしまえば『居候』ではなくなるぞ?」
「えっ……?」
「ちょ、ちょっとママ!」
「カカカカカッ、美奈はおぼこいのう! 我が娘ながら、可愛くてたまらぬわ!」
──この人、見た目は20代でも通用するくらい若いのに、中身はオッサンなんだよな。
ローラさんと美奈が一緒に、初めて俺の家にやってきた時──俺はふたりのことを『20代の母親と小学生の娘』だと勘違いしていた。
(ちなみに、ローラさんの本当の年齢は『世の中には、知らなくても良い秘密というものがあるのじゃぞ?』という本人の主張により、未だに教えてもらえていない)
だから、そんな若いお母さんが、『日本の学校に通う』と言った美奈に続いて、『日本で商売を始めたい』と告げた時は、俺は心底ビックリしたものだ。
『もはや、祖国には帰らないつもりで参った。安全な日本で……亡き夫の生まれし国で娘を育て、静かに暮らしたいのじゃ。ただ、蓄えはそれなりにあるが、異国のことは勝手が分からぬ。弟君、どうかお力添えをお願い申す』
まるで時代劇の登場人物のような口調で、ローラさんは俺の父さんに頭を下げた。
それに対して、父さんが言い出した言葉に一番驚いたのは──多分、俺だろう。
『貴方たちのことは、兄貴から話を聞いています。万が一日本に来るようなことがあったら、面倒を見てやってくれとも。そこで……どうでしょう、貴方たち母娘と、私たちの息子との3人で同居するというのは?』
『……はっ? と、父さん!?』
『イヤ、実はな経真。父さんは会社から急な辞令が下って、3年ほど海外赴任することになったんだよ。赴任先では身の回りのことでいろいろ大変らしいから、母さんと一緒に日本を離れることは決めたんだが、お前は学校のことがあるから、どうしたものかなと悩んでいたんだ。そこへ──』
『この人たちが来たからってこと? ……ちょっと、それは無茶すぎないか!?』
『グッドアイデアだろ? お前はローラさんたちに日本のことをいろいろ教えて、代わりにローラさんにはお前の保護者の代わりをしてもらう。親戚同士助け合うのは、普通のことじゃないか。ローラさんが商売を始めるとおっしゃるなら、駅前のアーケード街にいくつか空き物件があったはずだし、父さんたちが日本を離れる前に契約してしまえば──』
『早い! 話が早すぎるよ父さん!!』
──ものの2、3分の間に、もの凄い勢いで生活環境の激変が決まっていき、俺は大慌てで父さんを制止しようとしたものだ。しかし。
『何だお前、ローラさんや美奈ちゃんと一緒に暮らすのがイヤなのか?』
『イ、イヤとは言ってないだろ!? だけど……困るだろ、普通に考えて! それに、この人たちも──』
『そういうことなら、お安い御用じゃ!!』
『……えーっ……ロ、ローラさん……?』
『経真と言ったか? ……案ずるな! ワシらは決して、お主の生活や進学の邪魔をするようなことはせぬ。確かに、お主にはこの先いろいろと助けてもらうことになろうが、ワシらの方でもできる限り配慮致す。のう、美奈?』
『は、はい! あの……私、経真くんと同じ学校に通いますっ』
『いや、通うって言ったって……もう、入試まで何ヶ月もないよ? 日本に来たばかりなのに、今から準備しても間に合うとは──』
『別々の学校より、経真くんと同じ学校に通ってた方が、何か困ったことが起きても、状況の説明もしやすいと思うし……あ、でも、できるだけひとりで何とかするつもりだけど』
『そういうことじゃなくて、受験どうするの? 問題文とか、全部日本語だけど、ちゃんと読める?』
『そ、それは……頑張りますっ』
『…………』
頑張りだけで、どうにかなるものなのか? ──俺の懸念は、数ヶ月後に全て払拭されるわけだけど、それはともかく。
『だけど……女性だけの家庭に、俺が入り込むっていうのは、ちょっと……』
『何じゃ? お主、ワシのようなババアに欲情でもするつもりか?』
『よ、欲情って、そんなとんでもない! てか、ババアってほど歳いってないじゃないですか!』
『ホッホッホッ、良いお世辞じゃな♪ 心配せずとも、お主が夜這いをかけてきたら、キッチリ叩きのめしてやるゆえ、安心せい!』
俺の言葉を一蹴して、豪快に笑うローラさんだった。そして、美奈はというと、
『……パパの甥御さんなら、おかしなことしないと思うから……』
顔をほんのり赤らめながら、伏し目がちにそんな一言を口にする。
──不覚にも、可愛かった。
(うわあ……大丈夫かなあ、俺……いとこって、確か結婚できたよなあ……)
急展開に思考スピードが追いつかず、俺は気の早いことを考え出したものである。
あれから、2年近くの歳月が経った。
神浦家の朝は、早い──とは言えない。
「トーストよし、コーヒーよし、3人分の弁当──よし」
何しろ、朝食の準備をしているのが、俺なのだ。
ローラさんが料理を苦手としているということで、夕食は美奈、朝食とお昼用の弁当は俺が作ることになっている。
「んじゃ、コーヒーが冷める前にっと……」
ダイニングキッチンをいったん後にして、階段を上って2階へ。
二部屋あるうちの片方のドアを、俺は静かにノックした。
「おーい、美奈ー。もう起きないと遅刻するぞー」
「…………ふぁ〜い…………」
今にも消え入りそうな声が返ってくる。
しばらく待って、ようやく寝室のドアが開けられた。
「んー……おはよ、きょーまくん……」
眼をこすりながら顔を出す美奈に、俺は溜め息交じりの一言。
「……パジャマくらい着替えろ。目の毒だ」
「ふえ? ……はっ!?」
普段は制服に着替えてから出てくるのに、今日は寝ぼけたままだったのだろう。俺にツッコまれて、初めてハッと顔を青ざめさせる。
「ごっごごごごごめん、みっともない格好見せちゃって!」
慌てて再び、寝室に引っ込む美奈。
「別に気にしないけど、二度寝しないで下に降りろよー」
何でもない風を装って、俺は一言残してドアの前を離れる。よくあることなので、ちょっとドキドキしてしまったのを隠すのは、慣れたものである。
(アイツ、普段の生活態度も優等生なのに、どうして朝だけは弱いのかなあ……)
これまでの同居生活で何十回となく抱いた疑問を、今日も心の中で繰り返しつつ、もうひとつの部屋の前へ。
(さて、娘以上に朝の弱い、この人はと……)
場合によっては、ノック連打も辞さない覚悟で、ドアの向こう側に声をかける。
「ローラさーん、朝ですよー。そろそろ起きようかー」
「うぬぅぅぅ……起きられぬぅぅぅ……」
──地の底から湧いてくるような低い声が聞こえてきた。この人の寝起きの悪さは、筋金入りだな。
「気の持ちようひとつだって。ほら、もう朝ご飯は用意したから」
「そうは言うが……うぅ〜、自分で身体を起こすことができぬぅぅ〜……」
「……大丈夫?」
俺の呼びかける声も、少しトーンが低くなる。万が一にも、本当に身体の具合が悪い可能性がある以上、あまりぞんざいな言葉を返すわけにもいかない。
「体調崩してるなら、薬を持ってくるけど……」
「そこまでは、要らぬと思うが……ちょっと手を貸してくれぬかぁ〜……」
「……じゃあ、入るよ」
ドアノブをひねり、ローラさんの寝室に入る。
途端に、ローラさんが普段からよく使っている、花のような香水の匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
女の人の部屋だなあ──内心ちょっとドキドキしてくるのを押し隠し、部屋の中央に置かれているベッドに目を向けた。
ローラさんの姿は、頭のてっぺんしか見えない。掛け布団をすっぽりかぶっているのか。
「風邪でも引いた? 頭痛とか熱とか、どう?」
「うぬぅぅ〜……痛いところがあるわけではないが……とにかく、身体に力が入らぬぅ〜……すまぬが、ワシの手を掴んで、引き起こしてくれ〜い……」
弱々しい返答と同時に、掛け布団の中からスラリとした右手が伸びてきた。その手首あたりを掴み、
「それじゃ、引っ張るから、息を合わせてよ。1、2──」
3、のタイミングで引き起こそうとしたところで。
「…………そりゃ!(グイッ)」
「うわあっ!?」
──逆にこちらの手首を掴まれ、いきなりベッドの上に引っ張り込まれた。
「ドッキリ大成功じゃ〜〜っ!! 油断しおったな、経真よ!」
気がつけば、掛け布団は払いのけられ、シルクのキャミソールとショーツしか着けていないローラさんの姿が、俺の視界に大写しとなる。
「うおっ!」
直視しないよう、とっさに目を閉じる俺。しかし、次の瞬間──ふにゅんと柔らかな感触が、俺の顔を包み込んだ。
「なーんじゃ、すぐに目を閉じおって……相変わらず純情じゃのう♪ 長い人生、おなごの下着姿など、この先何度でも見る機会があるんじゃから、そろそろ慣れぬかっ」
「ななな、何をワケの分からないことを……ブフッ!?」
見なくても分かる。俺の頭は、ローラさんに思い切り抱きしめられているのだ。ボリュームのあるおっぱいの感触が、左右から俺の顔を挟み込んでくる。
柔らかくて、温かくて、良い匂いがして──率直に言って、すごく気持ちいい! 何のしがらみもなければ、このままずっと顔を埋めていたくなる。
だが、しかし──思春期の男子を惑わせるトラップに、これ以上ハマっているわけにはいかない!
「お、俺の人生経験のことは、ひとまず放っといてくれよっ! は、放して〜っ!」
「何を言うか。お主の人生経験は、ワシにとっても結構な一大事。早め早めに女体に慣れておかねば、後で苦労するのはお主自身じゃぞ?」
「俺は今苦労してるのっ、ローラさんのパイ圧でっ!」
俺はとにかく、ローラさんから離れようともがく。だが、何故かこんな時、ローラさんはやたらと力が強い。俺の頭を抱きしめる腕を、なかなか引き剥がすことができない。
「うむ? お主、巨乳より貧乳の方が好みと申すか。それはそれで重畳♪」
「な、な、なんだよ、その『ちょーじょー』って……い、息が苦しい……」
「馬鹿者。満足で、喜ばしいことを重畳というのじゃ。日本人であれば、そのくらいちゃんと知っておれっ(ギュウウッ)」
「こ、これ以上口と鼻をふさがないでっ……く、苦し気持ちいいっ、ぐむぅぅぅぅっ!」
「…………ママ! 何やってるの!?」
──救いの神の声が、背後から聞こえてきた。
なかなか俺たちが1階に下りてこないのを気にして、美奈が様子を見に来てくれたのだ。
「また、経真くんをからかって、もう〜……困ってるでしょ!」
母親に説教口調の美奈。しかし、ローラさんは気にした様子もない。
「おお、美奈か。喜べ、こやつは巨乳より貧乳の方が好きらしいぞ」
「ええっ!?」
「き、決めつけんなっ……てか、ホント放してっ……窒息するぅぅっ!!」
「経真くーんっ!?」
悲鳴を上げながら、美奈はローラさんの腕を剥がしてくれる。というより、美奈がやってきたのを見て、ローラさんがようやく腕を緩めてくれたというべきか。
「ぜぇ、ぜぇ……あ、朝っぱらから疲れた……」
「この程度で疲れておっては、おなごが満足できぬぞ♪」
「……あの、一応そーゆーのも、セクハラだからね……」
──娘に叱られても、ローラさんはこれっぽっちも反省するつもりがなさそうだ。
「ふたりとも勉学に励めよーっ!」
朝のイタズラで満足したのか、ローラさんがわざわざ玄関の外に出て、俺たちを見送る。
「ふぅ〜……ローラさんも相変わらずだなあ……」
「ごめんね経真くん。ママには後で改めて、きつく言っておくから」
「美奈が謝ることでもないさ」
バツが悪そうな美奈と肩を並べ、俺たちは学校を目指して歩を進める。
──今でこそ、こうやって一緒に登校するのにも慣れたが、入学したての頃は、照れくさくて仕方がなかったものだ。
当時の美奈は、俺にとって『突然現れた、見た目ガイジンのいとこ』以上でも以下でもなかった。いや、それでも充分にインパクトのある存在ではあったんだけど、何しろそんな女の子と同居暮らしを始めたばかりとあって、どう接していいか分からなかったのだ。
比べて、今──美奈は同居人であり、クラスメートである。気がつくと、俺たちは学校でも自宅でも、ほとんどの時間を同じ空間で過ごすようになっていた。
居心地は、悪くなかった。見た目の幼さに反して、美奈は年相応どころか、もっと年上のお姉さんであるかのように、それとなく細かな気配りを見せてくれる女の子だった。
特定の女の子と一緒にいて、気を遣わずにいられる──それは、数年ぶりに味わう、心休まる時間だった。2年生に進級した頃には、美奈は俺にとって、かけがえのない家族になっていた。
それだけに──最近、俺に生じた心境の変化は、来るべくしてきたものと言える。
「……あ、あのね、経真くん……」
不意に、美奈が俺の顔を見上げた。心なしか、頬が赤い。
「うん、どした?」
「その……今朝、ママが言ってたことって、ホント?」
「ローラさんの? ええと、何言ってたっけか……あっ」
彼女が何について訊いてきたのか、俺はほどなく気づいた。
『喜べ、こやつは巨乳より貧乳の方が好きらしいぞ』
(……どう考えても、他のことじゃないよな……)
自然と、俺の頬も赤くなる。
わざわざ美奈が尋ねた理由は、明らかだったからだ。
「…………」
美奈は、ほとんど膨らみの目立たない胸のあたりに視線を落として、押し黙る。
返答を待っているのだろうが──こんなの、どう答えればいいものやら。
「……いや、まあ……そういうのは個人差があるんだろうけどさ……」
俺はモゴモゴとぎこちなく口を動かして、無理やりに言葉を押し出した。
「何というか……ちょうどいいのが、一番なんじゃないかな」
「ちょうどいい……って、どんな感じかな?」
「えっ? ……ええっと……どう、表現すればいいんだろうな……」
どうにか無難な言葉を選ぼうと、必死に思考を巡らせる。自然と、肩や手に力が入って、無意識にワキワキと動く。
と、それを美奈が見咎めた。
「……その手の形くらい?」
「うん?」
「今、経真くんが両手をお椀みたいな形にしてるけど……その手に収まるくらいが、ちょうどいいのかな……」
「…………はっ!?」
言われて、初めて気づいた。この手の形、そしてわずかに力を込めた指の動き──これじゃあまるで、女の子のおっぱいを揉みしだいてるみたいじゃないか!
「あー、まー、その、なんだ……これは無関係だから、気にするな。ほら、たまにいるだろ。しゃべってる最中に、両手がろくろを回してるみたいな動きをする人。今の俺のも、たぶんそんな感じの──」
「……よかった……そのくらいなら、私もギリギリあるかも……」
「あ、あう……」
言い訳を試みる俺の前で──美奈は自分の胸のあたりに手を当てて、ホッとしたような笑みを浮かべた。
その意味するところは、きっと、そういうこと──なんだろうなあ。
「……ま、まあ、個性は人それぞれだしさ」
全くフォローになってない俺の言葉に、美奈はクスッと笑いながら「うん」と小さくうなずいた。
「はー、やっと終わった! 久々の授業はしんどいなあ……」
「年寄りクサイわねえ、経真は。その程度でバテてたらアンタ、中間テストの準備なんかやってられないわよ?」
「うあー……いきなりテストのことは言うなー……恬子には、あえて正論を口にしないという思いやりはないのかー……」
「ほほう……正論でアンタを叩きのめせるなら、アンタが今までテストでしでかした凡ミス、ひとつひとつあげつらってやろうかしらねえ♪」
「やめろおおおっ! 鬼っ、悪魔っ、恬子っ!」
放課後──隣の席同士での、いつもの漫才もどき。
「クスクス……ふたりともお疲れ様」
少し離れた席の美奈が、笑いながら俺たちのところにやってきた。
「美奈ー、こいつヒドイんだよ? 俺の黒歴史を今さらのようにほじくり返そうと──」
「美奈はコイツのこと、もっとビシビシしごかなきゃダメだよ? 苦手教科の授業になると、ホントやる気なさすぎ──」
同時にまくしたてる俺たちを見て、美奈は楽しそうに指摘していわく、
「相変わらず、経真くんも恬子ちゃんも仲良いよね」
「「腐れ縁なだけだって」」
「ほら、そうやって声揃えちゃうところとか♪」
「「…………」」
「あ、今日は私、美術室の掃除当番だから。経真くんは先に帰ってて……恬子ちゃん、じゃあね」
「お、おう……」
「……あいよ、また明日ね……」
渋い顔をする俺と恬子に手を振って、美奈は一足先に教室を後にした。
「……アイツの無邪気さというか、天然度合いというか……」
「見た目通りの子供みたいなもんね、あの子のは……」
残された俺たちは、何となく互いの顔を見合わせて、小さく溜め息をつく。ああいう美奈の振る舞いが、ちょっと眩しく思えるのは、俺も恬子も同じらしい。
ほどなく、俺と恬子はふたりで校舎を出て、浦斗駅の方へ向けて歩いた。駅までは、同じ帰り道なのだ。
「ふたりで帰るのも久しぶりねえ」
「普段は美奈も入れて3人だからな……そーいや、最近はお前のトコの神社にも遊びに行ってないなあ」
「そりゃ、今のアンタの家からは遠いもん。前の学校の時は、歩いて5分くらいの距離だったけどさ」
「今度の正月には、初詣に行かないとな。結構当たるんだよ、『浦斗賀茂神社』のおみくじ」
「ふーん……ホントは、アタシの巫女装束が目当てなんじゃないのぉ?」
「何で、そんな見慣れた格好を、俺が楽しみにしなきゃならんのよ。どっちかというと、ガキの頃から、お前のお母さんが出してくれるお雑煮が目当てだったなー」
「なんだー、色気より食い気ですか」
「お前の子供の頃に、色気なんかあったかな──(ゲシッ)イッテェ!! 蹴るなよっ! スネをっ!」
──どうということのない雑談に、花を咲かせながらの帰り道。茶化したり、文句を言ったり、軽く恬子の蹴りやパンチが飛んできたり。
思えば浦斗学園に進学する前は、これがいつもの放課後だった。同じ町内に住んでいたこともあって、ほとんど毎日のように一緒に登校し、家に帰ったものだ。
恬子の父親が宮司を務めている神社──『浦斗賀茂神社』は、みんなの遊び場だった。鬼ごっこをしたり、ボール遊びで社務所の窓を割って叱られたり、境内の掃除を手伝って和菓子をご馳走になったり。
ランドセルが学生カバンに変わった頃には、さすがにそういう遊び方はしなくなっていたが、それでも社務所の一室を借りて勉強会を開いたり、演劇祭のクラスの出し物を境内で練習したりと、何をするにも恬子と一緒だった──。
「……経真、あのさ……」
ふと、恬子が少し改まった口振りで何かを言いかけた。だけど。
「うん?」
「……いや、何でもない」
「何だよ、変なヤツだな」
「…………」
何故か恬子は、それきり押し黙ってしまった。
どうしたんだろう。俺、何か気に障ることでも言ったかな──などと考えているうちに、俺たちは浦斗駅の前に到着する。
「ま、いいか。んじゃ、また明日な」
そのまま線路沿いの道へ向かうはずの恬子に軽く手を振り、俺は駅前のアーケード街に向けて歩き出そうとした。
「経真っ!」
──もう一度、恬子が俺に呼びかけたのは、その時。
さっきよりも、さらに硬い声色と表情をしている。何やら、緊張でもしているような。
「どうした? ……何か相談したいことでもあるなら、そこら辺の喫茶店にでも入って聞くけど」
俺は自分でも鈍感な方だと思うが、さすがにこれは何かあると察する。俺で相談に乗れるなら、何時間でも話を聞いてやろう──そんなことを思いながら、もう一度恬子の方を向く。
しかし、それきり俺は固まってしまった。
「アンタさ……告白するつもり、あるの?」
「えっ」
短く声を上げたきり、その場に立ち尽くす俺。突然の詰問に、体内で心臓が跳ね上がり、急速に頭へ血が上り、ノドがカラカラに渇いていく。
「……何だよ、告白って……」
「アンタだって気づいてるんでしょ?」
「きき、気づいてるって…………?」
辛うじて、声を絞り出す。自分の声とはとても思えない。さり気ない風を装おうとはしているのだが、全く上手くいかない。まさかこいつ、俺の本心を最初から知ってて──。
「決まってるじゃない」と恬子が続けた言葉は、俺が今までの人生で受けた中で、最大の裏切りだった。
「美奈の気持ちよ……気づいてないなんて言わせないわよ。あの子がアンタを好きだってこと」
「………………はあっ!?」
「何よ、そのリアクション。毎日顔を突き合わせてるんだから、分かるでしょ。あの子がかいがいしくアンタの世話をすることとか、あの子がアンタを見つめる時の雰囲気とか」
恬子は今にも溜め息をつきそうな表情をして、説教口調で俺に告げる。
「…………そりゃあ……まあ……」
俺は、モゴモゴと口を動かすのが精一杯。恬子が軽く睨みつけてきてることは感じられたが、とてもじゃないけどまともに視線を合わせることなどできない。
──言われるまでもなく、知っていたさ。
思えば、初対面の時から、そんな雰囲気はあった。
そして、俺は俺で最初のうちは『ひょっとしてこの子、俺に一目惚れでもした?』などと自惚れて、だけどすぐ『あるわけないか、そんなこと。初対面で緊張してたんだろうな』と自分の中で打ち消して──それでも、数ヶ月一緒に暮らすうちに、改めて確信めいた思いを抱くようになっていった。
俺と話す時は、いつも楽しそうだった。
俺が喜ぶ時は、いつも俺以上に喜んでくれた。
俺がハメを外した時は、いつも申し訳なさそうに、それでもキチンとたしなめてくれた。
俺が落ち込んだ時は、余計な言葉をかけず、いつもそっと温かい飲み物を淹れてくれた。
俺が礼を言った時の、はにかんだ笑顔も。俺がからかった時の、困ったような赤面も。
美奈の仕草の何もかもが、俺への好意に満ちあふれている。
──そんなこと、知ってるさ。いくら鈍感な俺でも、そのくらい気づかなきゃ罰が当たる。
そして、そんな美奈の気持ちは、素直に嬉しい。俺にとっても美奈はもはや、かけがえのない家族だ。今まで何度、彼女の気持ちに応えるべきかと悩んだことか。
だけど──結果として、俺は今まで美奈の気持ちに、俺はずっと気づかないふりを続けてきた。
「アンタまさか、美奈のことが嫌いだなんて言うつもりはないでしょうね?」
「あ、あるわけないだろ、そんなこと……」
「じゃあ、なんで? どうしてアンタ、美奈の気持ちに応えてあげないのよ?」
「…………ッ」
恬子の追及に、俺は必死で叫び声を飲み込んだ。
(……お前がいるからだよっ!!)
それは、美奈と出会う少し前に、ようやくハッキリ形をなした、俺の本心。
いつ始まったのかも定かではない、初恋の相手こそ──恬子だったのだ。
ただ、やっと気づいたその時、俺と恬子の友達付き合いは、既に10年くらい経っていた。
人生の半分以上にも及ぶ、腐れ縁とも言える恬子との友情。それを、初恋ごときで壊すかもしれないという不安と恐怖は、告白する勇気を俺から奪った。
告白して振られて、今までの思い出を全部捨てるくらいなら、片想いのまま、ずっと今の関係を続けていった方がいい──そう心に誓って以来、俺はできるだけ意識して、今までと同じような振る舞いを続けてきた。
だからと言って──恬子への未練を残したまま美奈と付き合えるほど、俺は器用じゃない。恬子を諦めきれないうちは、とてもじゃないけど美奈の思いを受け容れることなどできなかったのだ。
だけど──。
「本人は口に出さないけど、ずっと寂しい思いをしてるよ? あんな可愛い子をいつまでも待たせるなんて、アンタ責任を感じないの?」
片想いの相手は、この調子だ。どうしてお前が、俺に美奈と付き合うようゴリ押ししてくるんだよ?
「うぐぐ……責任って言っても……本当にアイツがそんなこと思ってるかどうか、分からないじゃないか……」
小さくうめきながら、どうにか抗弁する俺。
すると恬子は、それまでのしかめ面から一転、いつもの快活そうな笑みを浮かべて、
「大丈夫! アタシがフォローしてあげるから。それにアンタって、見た目はちょっと神経質そうだけど比較的イケメンだし、鈍感なりに結構気を遣おうと頑張るタチじゃない。もっと自分に自信持ちなって。絶対失敗しないから。ね?」
「…………」
恬子の言葉は、混じりっ気なしの好意の表れだった──親友としての。
(こんなことを、これだけハッキリ言えるんだから……やっぱり恬子って、俺のことを異性としては見てくれてないよなあ……)
現実に、静かに打ちのめされる俺。心から、俺と美奈のことを案じてくれてる恬子の心情が、なおさらつらい。
果たして俺は本当に、こんな恬子に振られるリスクを冒すために、美奈の気持ちを蔑ろにすべきなのか?
(……もう、けじめつけなきゃダメか……)
ほんの数秒、俺はジッと目を閉じて──そして、恬子を軽く睨んだ。
「……上手くいかなかったら、お前のこと一生恨んでやるからな」
「ホッホッホッ、その時はアタシが責任もって面倒見てあげるわよ♪」
「どうしてそうもエラそうなんだ、お前は……」
「ほら、決心固めたなら、こんなところで時間潰してる場合じゃないでしょ。早く家に帰って、ビシッと告白してあげるのよ」
「何だよ、お前の方から引き留めておいて……じゃあ、また明日な」
俺は、散々けしかける恬子に苦笑いを返しながら、ゆっくりとアーケード街に向けて歩き出す。
「戦果報告、忘れるんじゃないわよ!」
「わーったよ、うるさいな!」と一喝した後、俺は一度後ろを振り返って、
「……ありがとな」
「いいから、とっとと帰んなさい!」
「はいはい」
そして歩みを速めた。恬子への感謝と、ほろ苦い想いを胸に抱いて。
「……ちゃんとくっつきなさいよ。そうしてくれなきゃ、いつまでもアタシの未練が吹っ切れないんだから……フン」
「今夜も、美奈の作ったメシが美味い! のう、経真よ!」
「う、うん……」
「……経真くん、あまりお口に合わなかった?」
「そっ、そんなことないって! 特にこのエビフライとか、衣のサクサク感がプロの洋食屋さんのレベルだぞ?」
「ホント? よかった……明日のお弁当用に少し余分に作ってあるから、お代わりが欲しかったら言ってね」
いつもと同じような、夕食の風景。
ただ、俺ひとりが、言いしれぬ緊張感を身にまとっていた。
(ヤバイ……かろうじて食感は分かるけど、緊張しすぎて、味がさっぱり舌に伝わってこない……!)
「ワシもこのくらい料理が上手ければよかったんじゃがのう……美奈の父親は『ローラは料理ができなくても素敵だから』などと、暗にワシの料理下手を責めてきてのう……」
「……ママ、それってひょっとして、おのろけ?」
「ワハハハ、たまにはよかろう☆」
いつものように、ローラさんは娘の手料理を食べながらご機嫌な様子。一方、美奈は母親の相手をしながら、こちらの様子をチラチラと見ている。やっぱり、俺の様子がおかしいことに気づいているようだ。
なら、あまり平静を装いすぎても逆効果か。
「……美奈、夕飯の後でちょっと時間いいかな?」
「私? ……うん、食器洗ってからなら、大丈夫」
小声でボソボソと言葉を交わす俺たち。と、
「美奈よ、ワシは今夜、店舗2階の倉庫を徹夜で整理するからな。家の方の戸締まりとかは頼んだぞ」
(えっ……?)
今、ローラさんが美奈に用件を伝えながら──俺にウインクしたよな?
(ひょっとして……俺が緊張してる理由まで、バレバレ!?)
普段はいろんなことに無頓着なローラさんだが、時折ピンポイントで勘が良くなるところが恐ろしい。
「じゃあ、お家には戻ってこないの? お布団とか、どうする?」
「念のために毛布だけ持っていく。だから、お主らはワシのことなど気にせず、ゆるりと語り合えばよかろう……経真、そういうことじゃ」
「は、はあ……」
あえてボンヤリした返事をする俺に、いかにも愉快そうな笑顔を返してくるローラさんだった。
「そう警戒するでない! ただの親心に過ぎぬぞ♪」
(その一言で、なおのこと警戒するんだってば……)
3階の俺の部屋に、洗い物を終えた美奈がやってきてから──あっという間に10分が経過した。
「…………」
俺はコーヒーカップを持ったまま、ほとんど身じろぎをしない。
美奈は、そんな俺に何事かと尋ねることもせず、静かに待っていてくれた。
せっかく美奈に淹れてもらったコーヒーも、既にずいぶんとぬるくなっている。でも、それに気づいたのは、全く無意識のうちに口をつけてから。ヤケドしなかっただけ、むしろ良かったのかもしれない。
「あ、ごめんね、ぬるくなっちゃってた? また淹れ直してこようか?」
「いや、いい。悪いな、わざわざ呼びつけておいて」
「ううん、平気」
そう言葉を返して、にこりと笑う美奈。少し身構えてるようにも見えるけど、それは俺の態度の問題だろう。
さらに数十秒ほどひとりで逡巡した後──俺は崖の上から身を投げ出す覚悟で、ようやく口を開いた。
「……あのさ、今日はどうしても、キミに伝えなきゃいけないことがあって……」
「テスト勉強の話? 経真くんの苦手な英文法なら、テストに出そうなところをノートにまとめておいたから、後で見てみてね」
「あ、ありがと……って、いや、そうじゃなくて」
「化学の方なら、恬子ちゃんも苦手だから週末にでも勉強会を──」
「テストの話も大事だけど! あと、ありがたいけど……今は別の話!」
「う、うん」
俺の慌てぶりに、美奈はキョトンとして、青い瞳をこちらへ向ける。そのまっすぐな眼差しが、俺のなけなしの勇気をくじこうとする。
そんなことではいけない──俺は気力を振り絞って、口を開いた。
「美奈ってさ……いつも、俺のことを気にかけてくれるよな」
「ううん、全然だよ? たまたま気がついた時に、勝手にいろいろしてるだけだし」
「でも、たまたまってレベルじゃなくてさ、俺がちょっとでも困ったことがあると、大抵キミが何かしら気を利かせてくれてて。今さらだけど……ホントに感謝してる」
「え……えへへへ……どうしたの、そんな急に改まってぇ」
俺の真面目な感謝の言葉に、美奈は照れくさそうに笑う。だけど、俺は表情を崩さない。
「いや、いつかちゃんと言わなきゃいけないと思ってたんだ。そして……そんなキミに、俺がいつの頃からか惹かれていったってことも」
「…………えっ?」
ポツリと付け加えた一言に、美奈の笑顔が一瞬固まった。
「ひ、ひかれてって……ど、どういうこと、かな……」
「そのままの意味だよ」と、焦り始める彼女の目を見つめて、俺は続ける。心臓が早鐘を打って、今にも破裂しそうだ。
「遅くても、2年に進級した頃にはもう、そういう意識があったと思う。できるだけ顔に出さないよう気をつけてたけど、キミと話してるといつだって楽しくて、キミに見つめられると胸がドキドキして……」
「あ、あの、経真くん、どうしたの急に!? 何かあったのかな──」
「急にじゃないんだ。ただ、言い出せなかっただけで。今まで、ずっと打ち明けようかどうしようか、迷っていたんだ」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待って──」
狼狽する美奈。だけど、もう止まれない。息が詰まりそうになる緊張感を振り払うように、俺は美奈の両肩をとっさに掴んだ。
「でも、もう迷わない……美奈! 俺、キミのことが──」
「ダメっ!!」
──悲鳴のような一喝で、俺の舌が凍りついた。
「美奈……?」
「ダメ……それ以上は、ダメだよ……経真くん……」
俺の手の平に、わずかな肩の震えが伝わってきた。
その顔はうっすらと青ざめ、ショックを受けてることが分かる。
俺、何か失敗しただろうか?
──でも、それなら美奈の、このすがるような眼差しの理由は、何だ?
「どうして? 頼むから、続きを言わせてくれよ」
焦らず、声が震えないよう心掛けて呟く。だけど。
「だって、経真くんには……恬子ちゃんがいるじゃない……」
「………………はっ!?」
まさか美奈は、俺が恬子に片想いしていたことに、気づいてたのか!?
「い、いや、そんなことはない。確かに、俺と恬子は幼馴染みだけど──」
とっさに、言い訳を試みる俺。でも、その舌が再び動きを止めた。
「だって恬子ちゃん、経真くんのことが好きだもん……」
「はあっ!?」
──一瞬前とは比べものにならない、大きな驚き。
「恬子が俺を好きだって!? そんな馬鹿な……だってアイツ今まで、そんな素振り見せたことなんか──」
「私、分かるよ? 女の子だもん……経真くんのこと、いっつも私と同じような目で見てるもん……!」
「…………ッ!!」
「恬子ちゃん、親友だもん……経真くんも、恬子ちゃんのこと、女の子として見てるもん……それなのに、私が経真くんの彼女になるなんて、無理だよぉ……今のままが一番いいよぉ……」
まず──恬子が俺のことを好きだというのが、全く想像外だった。アイツ、いつだって俺のことを手荒に扱ってたじゃないか! 腐れ縁というか、年の近い兄妹みたいなものというか──とにかく、いくら仲が良くても、俺のことを異性として捉えていたとは、とても思えなかったぞ!?
それ以上に──そこまで俺や恬子のことに気づいていて、それでも自分の本心をひた隠しにしてきた美奈の気持ちが、俺にはつらく──そして、愛おしかった。
「キャッ……」
小さな悲鳴を聞いて、俺は初めて、自分がいつの間にか美奈の小さな身体を抱きしめたことに気づいた。
「だ、だからダメだってば──」
「ダメじゃない」
俺は声を張り上げるでもなく、ポツリと断言した。
美奈は俺を好いてくれてるのに、恬子も含めた3人全員のことを考えて、今こうやって拒絶しようとしてる──。
「ダメなのは……このままにしておくことだ……俺の好きな女の子が、そんな風に自分の気持ちを無理やり押し殺そうとしてるのを見て、そのまま引き下がるなんて……許されない……!」
「経真くん……」
「好きだ」
──ハッキリと告げた。
「俺、美奈のことが好きだ。だから、美奈にそんな寂しい思いをさせるのはイヤだ……今までごめんな。俺、美奈が好きだ」
抱きしめたまま、『好きだ』の一語を繰り返す。余分な言葉は要らない。一番伝えなきゃいけない言葉を、何度も何度も美奈に届けた。そして。
「だ、だけど──」
「それとも美奈は、俺のことが嫌いか?」
先回りして、美奈の言葉を封じた。
「キミが俺のことを嫌いなら、仕方ない。変なこと言ってごめん──」
「……ずるいよ……」
と、不意に美奈の声がわなないた。
「経真くんが嫌いだなんて……そんなわけ、ないよぉ……グスっ……」
「美奈……」
「私だって……私だって経真くんのこと、好きだよぉ……大好きだよぉ……!」
俺を見上げる青い瞳が、涙で潤んでいた。
「だけど……私だけ、そんなイイ思いをするなんて……恬子ちゃん寂しい思いをさせてまで、経真くんと付き合うなんてできないよぉ……」
それでもなお、恬子のことを案じる美奈。このままでは埒があかない。一歩踏み出してしまった以上、もう後戻りはきかない。引き下がれない。
何か、突破口はないか。有無を言わせず、俺と自分自身の気持ちを美奈に受け容れさせるための、決定的な言葉は──。
「でも、エッチできないじゃん」
「…………えっ」
「付き合わないと、美奈とエッチできないだろ………………」
「………………」
「………………」
「ええぇぇぇーーっ!?」
(ええぇぇぇーーっ!?)
聞いた美奈と、言った俺が、同時に仰天した。
「そそっそんなきょ、きょーまくんっ!? わたっ、わたしとエッチって……えーっ!?」
(何言ってんだ、俺!? そりゃ確かにそうだけど! そうだけど!! そんな言い方、女の子はドン引きするだろ普通っ!!)
『付き合わなきゃできないこと』を必死に頭の中で探って、とっさに出た言葉が──この、品性も何もない一言。
出した言葉は引っ込めることなどできない。自分の迂闊さを呪いたくなる。
「い、いや、ええとだな……ちょっと言葉のチョイスが悪かった! そそそんな品のない話じゃなくてだな──」
それでも何とかして、その場を取り繕おうと無駄な努力を試みる俺。
しかし。
「でも、でも私、見た目ガイジンだよ? ていうか、見た目コドモだよ? おっぱいもこんなに小っちゃいよ? ほ、本当に大丈夫なの!?」
「いや、おっぱいなんて大きさの問題じゃなくてだな、いろいろあるだろ、柔らかさとかさ……えっ、俺ナニ言ってんの!?」
「えっ、ナニって……ええっと、私のおっぱいでも大丈夫って言ってくれてるのかな」
「やめて! 自分の間抜けな言葉にツッコミ入れただけの一言に、真面目に答えるのはお願いだからやめて!!」
──ふたりして、狼狽しまくる。それまで全く意識になかった、だけど一度話題に出た以上意識せずにはいられない『重大事』に、俺も美奈も心の備えがまるでなかった。
いや、それでも、ここまで来たからには、俺がちゃんとリードしてやらないと。俺は意を決して、目線の高さを美奈に合わせ、顔と唇を前に突き出した。
「ンッ……!?」
一瞬の、戸惑ったようなうめきを最後に、美奈の声が止んだ。
それは、お互いの唇が、初めて触れ合った瞬間──。
「ん……ンン……」
ただ、唇を押しつけ合っただけの、自分でもぎこちないと分かるキス。
だけど──美奈の唇の温もりが、潤いが、俺の唇に伝わってくる。
ふわりと甘い体臭が、俺の鼻腔をそっとくすぐる。
抱きしめたことで身体が密着して、トクン、トクン──と、美奈の胸の鼓動が、俺の身体をかすかに震わせる。
「ンフッ……ん、ん……」
拒絶の様子がないことに、内心大きく安堵する。だけど、ドキドキは止まらない。
身体中が熱くなる。まるで、高鳴る心臓に肺が圧迫されてるかのように、息が詰まり、苦しくなる。
子供のように小さな身体は、だけどこうやって抱きしめてみると、意外なほど柔らかかった。男のゴツゴツした筋肉とは違う、ふっくらとした感触が俺を戸惑わせる。
ついつい息を止めてしまったのか、俺はあまりの息苦しさに耐えかねて、静かに美奈から唇を離した。
「ンあ…………」
「美奈……」
ささやく俺の声に、緊張感が隠せない。いきなりキスをしたことに対して、今さらながらに不安が湧いてきたのだ。もしかして美奈、怒ってたりしないよな──。
「き……経真くん……」と、だけど美奈の見せた反応は、怒りではなかった。
「もう一度……いい?」
省かれた主語を、俺は尋ねなかった。そのまま、再び唇を重ねる。
「んんっ……」
最初よりちょっとだけ甲高い声が、美奈の唇から漏れた。
気がつくと、上下の唇がわずかに開かれている。
俺はまさかと思い、恐る恐る舌先を伸ばし──ノックのように軽く突いてみた。
「ンフ……」
美奈の唇が、さらに開く。その間を分け入り、そっと舌を挿しこんでいくと、奥からわずかにざらつきのある肉が、こちらへおずおずと伸びてきた。
「ふ……んちゅ、ちゅっ……」
どちらからともなく、吸いつくような水音を立て始めた。まるで相手の舌先を吸い込もうとしているかのように、何度となく密やかな響きを繰り返す。
「ちゅ……あふっ、だ……ダメ……ダメなのにぃ……ちゅちゅっ……」
その合間に、責めるようなあえぎが二度、三度と差し挟まれた。俺ではなく、自分を責めているんだろう。
しばらく舌同士で戯れた後、もう一度ゆっくりと唇を離す。
もう一度見つめると──美奈の顔には、先ほどまでとは明らかに異なる、火照ったような赤みが浮かんでいた。
「……はぁ……信じられない……」と、美奈の声が、熱い吐息に乗って漏れた。
「キスって……こんなに気持ちいいものだったんだ……ドキドキして、心臓が壊れちゃいそう……」
「俺もだよ……美奈……」
彼女の様子を見て、俺はいよいよ次の勇気を振り絞った。
「……俺、美奈とひとつになりたい……」
ちょっと気取った言い回し。直接的な表現は気が引けたからだけど──正直、恥ずかしい。
そんな俺に、美奈は少しうつむき加減で、申し訳なさそうに、
「……おっぱい見ても……ガッカリしないでね……?」
部屋の灯りは消したけど──窓から射し込む月明かりは消せない。
「綺麗だ……」
暗闇の中、青白く浮かび上がった美奈の身体に、俺は感嘆を禁じ得なかった。
日本人とのハーフとは思えぬ、その真っ白な肌は、一糸纏わず、俺の視界に全てさらされていた。
「あまりジッと見つめないで……どうしていいか、分からなくなっちゃう……」
美奈は恥ずかしそうに顔を背けた。だけど、青い瞳はこちらの様子をうかがっている。
「大丈夫。やめてって言ってくれれば、何をしててもやめるから」
俺は言葉を返しつつ、交差させて胸を隠している彼女の両腕を、そっと左右に開いた。
「あンッ……わ、分かってたけど……思ってた以上に恥ずかしいよう……」
半ベソのような声を上げながらも、拒絶はしない美奈。
腕の下から現れた光景に、俺は軽く息を呑んだ。
あまりくびれの目立たないウエスト周りとおへそから視線を上に移すと、美奈が繰り返し恥ずかしがっていた胸の部分が視界に入ってくるが──。
「……あるじゃん、おっぱい……」
確かに、小さい。それはとても小さいけど、冷ややかな月光が照らしたそこには、わずかながらも陰影がくっきりと映し出されていた。
真っ白な肌の下に、ごく薄く青い静脈が透けて見える。
さすがに『双丘』とまでは言えない、わずかな盛り上がりの頂に、薄いながらもハッキリ周囲とは色彩の異なる突起がある。
「お……おっぱいだよな、普通に……ゴクリ」
緊張のあまり、自然と生唾を飲み込んだ。こんなに間近で、女の子の胸を──そして乳首を見るなんて、初めてだ──。
「うぅぅ……ホント? ホントに普通?」
恥ずかしそうに、それでも俺の反応が気になって仕方ないのか、美奈はチラチラと俺の顔を見つめながら言う。
「普通だよ……ていっても、他に比較のしようもないけど……おかしくは全然ないと思うぞ、俺は」
俺がモゴモゴと言葉を返すと、彼女の顔に安堵したような笑みがそっと浮かんだ。
「……よかったぁ……経真くんが普通って言ってくれるなら……それでいい」
「そ、そか……触るよ……?」
「ん…………」
わずかにこくりとうなずく美奈。そのなだらかな胸に、俺はそっと手を伸ばして──。
「……きゃっ」
「わっ……」
そして、同時に声を上げた。
美奈はすぐさま、俺が手を引っ込めたのを見て、慌てて言葉をかける。
「ご、ごめんね! そうじゃないの、ちょっとビックリしただけだから……」
「い、いや、俺こそ、ちょっとビックリしちゃってさ……」
「えっ……経真くんが?」
「あ……う、うん……思った以上に柔らかくって……」
そう──どれほどサイズが小さくても、乳房は乳房だったのだ。指が触れた瞬間、その柔らかな肉が俺の指をそっと包み込んできたのだ。
「……クスッ、ちっちゃくてもおっぱいはおっぱいなんですっ。さっきは普通だって言ってくれたのに、経真くんったら……」
抗議するように言って、美奈は小さく笑った。今ので、少し緊張がほぐれたんだろうか?
だが、俺はまだそういうわけにもいかない。指の筋肉が強ばって、ちょっと震えてるのが自分でも分かる。
「じゃ、じゃあ、もう一度……」
それでも気を取り直し、今度は指ではなく手の平を、乳房を下から上に押し上げる感じで置いた。
「んっ……経真くんの手、あったかい……」
「そっか……美奈の心臓、すごくドキドキしてるな」
「そりゃ、そうだよ……破裂しちゃわないかな……」
「ハハ、みんな同じようなこと思うんだな」
そして、両手で円を描くように、そっと撫でさする。
「あっ、ンン……ッ」
美奈が軽く、眉をひそめた。乳首が俺の手の平に当たって、その表面でこすられてるからだろう。
「痛いか?」
「い、痛くはないけどっ……ん……何か、変な感じ……身体の奥も、くすぐられてるみたいな……ンフッ……」
「そ、そーゆーモンなのか……」
不思議な感覚は、俺にもあった。
手の平を、乳首の先で軽く引っかかれるような感触は、くすぐったさと同時に、背筋にゾクゾクと未知の感覚を俺にもたらした。
「ン……あはっ……か、身体がポカポカ……あったかくなってきたかも……わ、私、興奮してるのかな……?」
「ど、どうなんだろーな……でも、俺に触られて興奮してくれてるなら、俺は嬉しいかな」
「そう? ……えへへ、恥ずかしいよぉ……あふっ……こ、こんな風に、勝手に声が出ちゃうし……」
照れ笑いを見せながら、モジモジと身をくねらせる美奈。
──可愛い。
「美奈が可愛いなんて、前から分かってたつもりなのに……まさか、こんなに可愛いとは思わなかった……」
「そっ、そんな……ンンッ! こんなっ、エッチなことしてるタイミングで、言われたら……ありがとうって言いにくいよう……!」
どう反応して良いのか分からないのか、美奈は嬉しいような困ったような、微妙な表情を作った。
それを見ながら、俺は片手を美奈の胸からそっと外し、下半身の方へと伸ばした。
「…………やっ!?」
直後、美奈の声のトーンが上がった。
俺の指が、おもむろに彼女の股間をまさぐりだしたからだろう。
「や、ダメ、経真くんっ……あうぅぅ、ダメじゃないけど、ダメぇ……!」
「ええっ!? ど、どっち!?」
難しい注文に、俺もついオウム返しで訊いてしまったが──落ち着いてみれば、彼女の気持ちも分かる。
「だ、大丈夫、あまり激しいこととかしないから」
「あ、うん、経真くんならヒドイことしないって信じてるけど……理屈じゃなくって、その──」
「分かってる! 分かってるから、肩の力を抜いて。何してても、美奈がやめてって言ったらすぐやめるから、そんなに緊張しないで」
「う、うん……ごめんね……」
美奈は申し訳なさそうに呟き、ゆっくりと下半身の力を抜いていく。緊張していた太ももの筋肉も弛緩し、俺が手をかけると、抵抗なく押し広げられた。
俺は太ももの上に手を滑らせ、その根元にそっと触れた。
「ひんっ……」
小さな悲鳴に続いて、くちゅり──と、あまり耳になじみのない水音が、彼女の股間から聞こえてきた。
そして、俺の指には、初めて触れる液体が──。
「もう、濡れてる……」
「うぅぅ、口に出して言わないでぇ……!」
「ご、ごめん、デリカシーなくて……これ、気持ち悪かったりする?」
「そんなこと、ない……けど、自分からは言えないよぉ……」
「ごめ──」
「別にイヤじゃないから! イヤじゃないから、そんなに謝らなくても大丈夫……」
お互いに初めてのことだからか、どっちも気を遣いすぎて、ぎこちなくなっている。
「……後で思い出したら恥ずかしいんだろうな、今夜のこと」
「クスクス……しょうがないよ、初めてだもん」
それでも、緊張感を共有してると思うと、少し気が楽になる。
「経真くんも、力を抜いてね? 大丈夫、私だってそれなりに覚悟を決めてるから」
「そっか」
何の覚悟か──などと無粋な問い返しはしなかった。
「よし……じゃあ、もっと思い切って、エ、エッチなことするからな──」
「だから、力を抜こうよ」
「……しまった、力んじゃった」
俺は一度深呼吸をしてから、ベッドの上をもそもそと移動して──美奈の両脚の間に腰を下ろした。
「あ、恥ずかしがっちゃうのは許してね……」
「分かってる……うん……」
二度、三度とうなずいてから、身体を前に倒し、美奈の股間に顔を埋める。
初めて見る、本物の女の子のアソコは──毛が、全く生えていなかった。
「おお……」
「……ううっ……経真くんが何を考えたか、言われなくても伝わってくるよぅ……」
「き、気にするなって! この見た目でモジャモジャの方が、違和感すごいだろ?」
「フォローが、あんまり嬉しくないぃ〜」
ツルツルのそこは、既にほんのりと充血していた。しっとりと湿って見えるのは、俺の指にまとわりついたのと同じ液体だろう。
あまり宣言しすぎて、本人に返事を強いるのも可哀想だ。俺は黙ってそこに顔を寄せ、舌を伸ばした。
「……ひうッ!!」
瞬間、美奈の腰がビクンと波打った。一瞬だけ動きを止めて、様子をうかがうと、
「だ……大丈夫……自分で触るのと全然違って、ビクッとしただけ……」
(自分で触る……ってことは……)
ちょっと意地の悪い発想になってしまったが、特に反応しないであげることにして、舌をチロチロと動かし始める。
「あっ……ンン……ヒン……ザ、ザラザラしてるぅ……」
美奈の声に、切なげな響きが混じってきた。さっきまでとは、反応の強さが違う。
やっぱり、おっぱいよりもこっちの方が感じるものなんだろうか──我ながら、いかにも童貞っぽい確認をしつつ、俺は熱い柔肌を、熱心にねぶった。
味はあまり感じられない──というか、興奮しすぎて、味覚が麻痺してる気がする。
ただ、舌先のぬめりは、割れ目から滲み出してきた愛液に違いない。唾液とは明らかに異なる感触が、俺の心臓をさらに激しく鼓動させる。
女の子のアソコは、もっと形状が複雑かと思っていたけど、間近で見るとそうでもなかった。ちょっと肉厚な大陰唇の間から、形の整った肉ビラが少し顔を覗かせてる感じ。ただ、これは美奈の幼児体型と関係があるかもしれない。
「んあ、あ……熱いっ……! かっ、身体の奥からっ……熱いのが、どんどん出てくるぅ……!」
声がどんどん上ずり、甘い体臭が次第に強く立ちこめ、幼いスリットから樹液が絶え間なく湧き出てくる。
これが──感じているってことなんだろうか。知識としては知っていても、いざ現実に目の当たりにすると、自分の判断が合ってるかどうか自信がない。
「あ、やっ……! ご、ごめんっ……力が、抜けな、いぃ……ッ!」
不意に美奈が謝ったのは、両の太ももで俺の頭を挟み込んできたから。しきりにビクビクと筋肉が痙攣する様子が、ハッキリと伝わってくる。
「平気だよっ……ちゅ、ちゅぅっ……これって、感じてくれてるって……んちゅ……ことだよね……ぴちゃ、ぴち……」
左右の頬に圧迫感を覚えたまま、俺はしゃにむに彼女の秘肉を舐め続けた。
「うっ、うんっ……し、舌で舐められるのって……すごいっ……! ごめんねっ、汚いのにぃ……あ、ああっ!」
よかった──感じてるのは間違いなさそうだ。美奈の声には戸惑いの響きが含まれているが、拒絶の雰囲気はない。
と、俺の頭を挟む彼女の太ももが、ひときわ強烈に引き絞られた。
「あ、ごめ、イ、イッちゃ──あ、ンあぁああああっ!!」
そして、唐突に腰が浮き上がり、股間が俺の顔に押しつけられたと思ったら──一瞬でドスンとベッドに沈んだ。
「うおっぷ!?」
頭を上下に振り回され、軽く面食らう。ただ、悪い気はしない。
「…………イッちゃった?」
「はぁ、はぁ……もう、経真くんの意地悪ぅ…………」
うっとりと放心したような声色での抗議が、耳に心地良い。
美奈を初めてイカセた──その言いしれぬ達成感と高揚感は、血液に乗って全身を駆け巡り、そして最も血の集まる股間にどんどん力を与えていった。
「うっ……イテテ……前が突っ張ってきた……」
俺は、美奈の太ももを押し開いて自分の身体を起こすと、ズボンと下着を脱ぎ、パンパンに勃起したイチモツを取り出した。
「……わぁ……は、初めて見る……」
息を整えていた美奈が、横たわったままこちらに視線を向けて、驚きの声を上げる。
「そんなにおっきくなるんだ、男の子のオチ×チンって……」
「ま、まあな……でも、大丈夫かな……小柄な美奈に、ちゃんと入るのかな……」
「うぅーん……赤ちゃんの出てくるところだから、たぶん大丈夫なんだと思うけど……アハハ、私より先に経真くんが心配するのって、ちょっとオカシイよね」
「な、何だよぅ! 美奈のことを心配して、何が悪い」
「ううん、ありがと……嬉しいよ」
照れる俺に向かって、美奈は上気した顔に、ふんわりと優しい笑みを浮かべてくれた。
「で、でも、ゆっくりお願いねっ! 初めてのことだから、私もどんな風になるのか、全然見当もつかないからっ」
「わわ、分かってる……ううっ、俺もおっかないよ……」
本や映像で今まで見てきたものと、さほど大きな違いがあるわけじゃない。それは分かっているつもりでも──ひとつひとつの『初めて』に、俺たちはいちいち緊張を隠せなかった。
やっぱり、女の子の初めては痛いんだろうか。男の方は、初めてだと気持ち良すぎて腰が止まらなくなるんだろうか、そしてすぐイッてしまうんだろうか、射精はどのタイミングでしたらいいんだろうか、それからそれから──。
(……ええい! ままよ!)
強引に迷いを断ち切り、ゆっくりと腰を突き出して、美奈のスリットに先端をあてがう。
既にすっかり濡れそぼったアソコは、一応『受け入れ態勢』ができているように見える。
あとは、このいかにも狭そうな穴の中に、俺の屹立したモノを問題なく挿入できるかどうかだけど──。
「痛かったら、無理しないで言ってくれよ?」
「う、うん……」
息を呑む美奈。緊張の一瞬なんだろう。それは俺も同じだ。
神様、どうか無事にエッチができますように──宗教を特定することもなく祈ってから、俺は意を決して亀頭をスリットの間に押し込んだ。
「あ、はっ……!!」
押し入った亀頭の体積分だけ息を吐き出して、美奈は全身を硬直させる。
「む、難しいだろうけど……できるだけ、力を抜いて……く、くっ……」
声をかけながら、なおも腰を前へ突き出す俺。今の時点で、既に痺れるほどの快感が先端から伝わってくる。
(お……女の子のオマ×コの中って……こんなに気持ちいいのか!?)
その気になれば、今すぐにでも射精できそうだ。もちろん、そんなに簡単に果ててたまるか。俺は歯を食いしばって、カリ首の部分から陰茎へと、少しずつ美奈の秘所に埋め込んでいった。
「すごっ……ウ、ウソでしょ……1? わたっ……私、初めてなのに……ホントは、こういうものなの……ッ!?」
──美奈の口からは、何やら驚きに満ちたあえぎ声が漏れてきていた。何だか、すごくビックリしているのは伝わってくるが、驚きの中身は俺にはピンと来ない。
ただ、痛そうだったり苦しげな様子はないので、かまわず挿入を続ける。そして。
「……くはっ……! よ、よかった……全部入った……」
どうにか、男根の根元まで美奈とつながることができた。
後は、美奈の様子が気になる。痛みを我慢していたりしないだろうか。
「大丈夫か、美奈──」
「あ、ダメ、動かないでッ……あ、あはああぁぁっ……!!」
──俺が声をかけるのとほぼ同時に、美奈の小さな上半身が、ベッドの上で勢いよく跳ねた。
「えっ、美奈……?」
そして、全身から一気に汗が噴き出る。真っ白な肌がじんわりと汗ばみ、真っ赤に火照っていく。
「……カハッ……はぁ、はぁ……」
美奈は視点の定まらない眼差しを天井に向け、浅く激しい呼吸を繰り返しながら、
「…………っちゃった……」
「え?」
「イッちゃった……オチ×チン、挿れられただけなのに……私、それだけでイッちゃったよぉ……エッチって、こういうモノなの……?」
「ええっ!? ……い、いやぁ、エロい漫画とか映像でも、そういうのはあまり見たことないけど……そうなの?」
「うん……オチ×チンが入ってきた瞬間から、もう身体中がビクビクいって……目の前がどんどん真っ白になって……ビックリしたよぉ……」
それは──美奈だけではなく、俺にとっても予想外の展開だった。
何しろ初体験だし、俺も慣れてないし、最初はすごく痛がるものだと思ってたんだが。
「……じゃあ、痛くはないんだな?」
「うん……どうしてかな……」
「ま、まあ、痛くないなら、それに越したことはないさ。じゃあ、そろそろ動くよ──」
「待って!? ちょ、ちょっとだけ、深呼吸させて!」
「えっ? いいけど……」
俺が応えると、美奈は仰向けのまま、ゆっくり息を吸い、そして吐いた。
「スーッ……ハーッ……うん、覚悟できた」
「覚悟って。何か、大事になってきたな」
「経真くんとの初めてのエッチだもん、そりゃ大事だよ」と、美奈は小さく笑う。
「じゃあ、動いていいよ……できるだけ、ゆっくり目でね……」
「お、オーケー。じゃあ、いくぞ……」
俺は彼女に言われた通り、スローで、それでいて長いストロークで腰を動かし始めた。
「くぅぅ……ッ!!」
途端に、俺の理性に、未知の快感が大波のように押し寄せてきた。
抽挿のたび、美奈の膣肉が柔らかな圧迫感を伴って、俺の快感器官に絡みつき、こすりあげてくる。摩擦の痛みは一切なく、ただただ快楽だけが男根を経由して、俺の体内を駆け抜けていく。
(マジか、これっ……!? じ、自分の手でやるのとじゃ、全然別物だ……!!)
あまりにも気持ちが良すぎて──かえって、射精をこらえることが苦痛に感じる。そのくらいに圧倒的な快感が、俺の腰遣いを自然と速めていった。
「ダメッ……だからダメだってばっ……あ、あ、あ、また、すぐイッちゃうっ……きょ、きょーまくんダメぇ……ッ!!」
俺の身体の下で、美奈は全身を左右によじりながら、悲鳴のようなあえぎ声を漏らし続ける。
「うぐ……ごめんっ……こ、これ以上っ……遅くできないっ……!」
「きょっ、経真くんも……あひっ……そんなに、キ、モチいいの……っ!?」
「ああ……まさかこれほどとは思ってなくて──」
「ま、待ってッ……またイク……ダメ、イッちゃ…………くはあああっ!!」
──再び、美奈の身体が大きくバウンドした。
挿入してからものの数分で、早くも2度目の絶頂──女の子の『イク』という感覚が男とどう違うかは分からないけど、それでもさすがに不安になる。
「……大丈夫か?」
「見ないれっ……はぁっ……はぁっ……わらしの顔、あんまし見ないれっ……よだれ、垂れちゃうからぁ……!」
言われて見てみると、美奈の顔は泣き笑いのような表情が浮かんでいて、確かに口の端から涎が一筋漏れ出していた。『快感に蕩ける』って、こういう表情のことをいうんだろうか。
「大丈夫だよ。美奈が気持ち良くなってくれると、俺も嬉しい。気持ちいいって顔を、俺が嫌がったりするもんか」
「れもっ、れも女の子の恥じらいがぁ……!」
──ああ、プライドの問題か。実感は湧かないけど、そのくらいは察してあげなきゃ、彼氏としての度量が問われる。
「分かった、あんまりジッと顔を見ないでおこうな……あと、何かしてほしいこととか、してほしくないこととかあるか?」
せっかくの機会なので尋ねてみると、
「ええと……えと……ギュッてして?」
「ギュ?」
「私の身体、ギュって抱きしめて……勝手に身体がビクンビクンいうから、落ち着かないの……」
なるほど。確かにこれだけ派手に身をよじってたら、安定性には欠けるよな。
「じゃあ……初めてだけど、試しにこういうコトしてみようか」
俺は、以前エッチなインターネットサイトで見た画像を思い出しながら、上体を一度前に倒した。
「俺の首にしがみついて」
「え? ……こ、こう?」
そして、美奈がギュッと抱きついてきたのを確認して、再び上体を起こした。
自然と、美奈の上体も俺と一緒に引き上げられて──。
「きゃっ……あはあっ!? も、もっと深く刺さるぅっ!」
「ええと、対面座位っていったかな。ふたりでベッドに座って向かい合った状態で、エッチする体位なんだって」
説明の通り、俺の腰──というか男根の上に、美奈が向かい合って腰を下ろしたような格好になった。
「これなら、俺の身体にしがみついたままでいられるだろ?」
「う、うん……でもっ、経真くんのオチ×チンが、奥の方に当たってるよぉ……」
美奈は俺の首筋に抱きついたまま、ブルブルと全身を震わせている。どうやら彼女は、感じやすい体質ってことらしい。今にもイキそうなのが、震えという形で俺に伝わってくる。
「イヤじゃなかったら、何度イッても大丈夫だからさ……じゃあ、動くぞ」
「ひぃぃん……何か、怖くなってきたぁ……!」
俺の呼びかけに、半ベソのような声を返す美奈。これはむしろ、多少は状況に慣れてきたということか。
俺は美奈の背中に腕を回し、しっかりと支えてやりながら、ユサユサと前後に身体を揺すり始めた。
「やはっ、あっ、あっ、あっ……あ、頭のてっぺんまでっ、気持ちいいのが来てるっ!!」
さっそく美奈が、派手にあえぎ声を上げる。よほど気持ちいいんだろうか──そう思うだけで、胸と股間が熱くなるような気がした。
体勢が体勢だけに、あまり大きくは動けないかと思っていたが、美奈の小柄さが幸いして、結構好きに動くことができた。ベッドのスプリングの反動も利用して、俺は思うさまに、下から膣内を掻き回す。
「あっ……ああっ! あああっ!! らめっ! 声が、我慢、れきないぃっ!!」
「我慢しなくていいよ。もっと俺に、美奈のあえぎ声を聞かせてよ」
「らめぇ! お外にまれ、聞こえちゃうよぉぉ!」
確かに、美奈のあえぎ声はどんどん大きくなってきていた。本人が危惧するのも分かる。
でも、実際どうなんだろう。いくらなんでも、外に漏れるほどの大声じゃないとは思うんだけど──などと思っていた、その時。
「……あむっ!」
「イテッ!?」
首筋に、予想外の痛み。
何やら、硬くて鋭い、だけど刺さるほどは尖っていない何かが、結構強い力で首に食い込んでいるような。
前方に視線を向けると、美奈が何やら、俺の肩に顔を押しつけてるように見えた。
ええと──これってもしかすると──。
「み、美奈……ひょっとして、俺に噛みついてる!?」
即答はない。ただ、美奈が頭を動かしながら、「ふぐっ、ふぐっ」とくぐもった声を出している。これって、うなずいてるのかな。
我慢できないほどではないけど、噛みつかれるというのはそれほど軽い痛みでもない。
やがて、何やら沁みるような疼痛も加わってきた。
「えーと、美奈さん? ……ひょっとしてアナタ、血が出るほど噛みついていらっしゃる……?」
我慢できるとはいっても、ガッツリかじられるのはさすがに気持ちの良いものではない。ただ、俺が恐る恐る浴びせた問いかけに、美奈はようやく口を離してくれた。
「……ご……ごめんなさい……こうでもしないと、声を我慢できないぃぃ……」
「ああ、それで」
今にも泣きそうな美奈の答えに、俺はつい苦笑いを漏らしてしまった。なるほど、そういう声の押し殺し方もあるのか。俺が痛いけど。
まあ、あえぎ声をどう我慢するかは、この先改めて考えるとして、この場は──。