【プロローグ】
「……あむっ!」
「イテッ!?」
首筋に、予想外の痛み。
──それが、噛みつかれたからだと気づくのに、神浦経真は数秒ほどの時間を要した。
「み、美奈……ひょっとして、俺に噛みついてる!?」
彼が恐る恐る尋ねると、さらに数拍の間を置いて──金髪の少女が首筋から顔を上げる。
「……ご……ごめんなさい……こうでもしないと、声を我慢できないぃぃ……」
美奈と呼ばれた少女は、青い瞳に快楽の艶やかな光を宿し、涙声で謝った。
「それで声を出さずに済むなら、俺の肩とか首に口を押しつけててもいいよ。噛むのは仕方ないけど、できるだけ歯は立てないでね?」
経真は苦笑混じりに応えると、美奈の腰を手で支え、対面座位でつながっている彼女の膣内を再び突き上げ始めた。
「ンフゥゥゥッ!! ンッ、ンフッ、ンッ、ンッ、ンッ、ンッ……」
深夜の寝室に、押し殺しきれない少女の嬌声が響く。
──1年以上同居しながら、なかなか互いに恋心を打ち明けられなかったふたりの、生まれて初めての秘め事。
美奈の小柄な裸身が、経真に繰り返し秘所を掻き回され、淫らに揺れる。
経真の息遣いも次第に激しさを増し、少女の中で初めて射精を迎える、その確かな兆しを見せていた。
「……そろそろ、イキそうになってるな、俺……」
「ンぁあ……ホントっ? きょーまくんも、イキそうなのっ!?」
彼のうめきを聞いた美奈が、急かすようにあえぐ。女性経験皆無の経真だが、彼女もまた絶頂を迎えつつあることは、一目見て分かった。
「最後は、最後はきょーまくんと一緒にっ、ねっ!?」
「そうだな……じゃあ、最後くらいはあまり我慢しないで……よっ!」
経験したことのない媚肉の感触を、ここまで辛うじて耐え抜いた。そこで女の子にせがまれたら、もはや何ひとつ我慢する理由などない──経真はそれまでよりも激しく腰を動かし、子宮口に届けとばかりに、男根を繰り返し膣奥へ向けて貫き続けた。
「やっ、あ、ああっ、きょーまくんのがっ、ナカでっ、どんどんふくらんでるぅぅっ!!」
「うぐっ……ち、違っ……美奈の締めつけが、もっと強くなってんだ、これ……っ!」
快感に酔いしれるふたりの声が重なり、肉を打ちつけ合う音と一緒に部屋の空気を震わせ、それがさらに甲高くなっていき、そして──。
「ああっ! はじけっ……弾けちゃうっ! きょーまくん、もうダメっ! イクからっ! もうイクからっ、ねっ、ねっ!!」
「で、出るっ…………ぐうううっ!!」
「イク、あ、あっ……ンああああああああああっ!!」
お互いに全身を硬直させ、二度、三度と大きく震わせて、一気に昇り詰めた。
美奈の狭いスリットから、白く濁った混合液がドロリとこぼれ落ちた。
初めての──ふたりでの絶頂。
それは、予想よりもはるかに激しく、そして甘美な経験であった。
──忘れられない一夜が明けつつある、早朝。
「おい、美奈……朝だぞ。早いとこ、シャワー浴びた方がよくないか?」
先に目覚めた経真は、そっと声をかけながら、美奈の肩口を揺すった。
「ん……んん……もう、朝……?」
「おう、もう朝だ。まだ、ちょっと薄暗いけどな」
彼の囁きを聞くと、金髪の少女はゆっくりとまぶたを開けた。
そして、不思議なことを言い出す。
「……なんじゃリョーマ……そんな宵っ張りから、またまぐわりたいのか……お主もつくづく好色よの……♪」
「うん? リョーマって……龍真伯父さんのこと?」
それは──今は亡き、少女の父親の名前。
どうして今、その名前が出てくるのか。
いったい、『まぐわる』とはどういう意味なのか。
そもそも──この口調は、経真がよく知る美奈のものではない!
「…………なんじゃ……経真ではないか。夢でも見ておったかの、ワシも…………」
「……呼び捨て? てか、『ワシ』? ……えっ、えっ?」
困惑する経真の前で、美奈は──あるいは、美奈の姿をした何者かは、身体を起こし、ボンヤリと彼の顔を眺めること、数秒。
「……何じゃ!? お主、何故に裸か!? ……ま、まさか、寝ておったワシを部屋に連れ込んで、いろいろとよからぬことを──」
「み、美奈!? どうした美奈! お前、何か変だぞ!?」
「何を言うておるか? お主の方こそ、何やら妙じゃな、ワシのことを美奈呼ばわりするとは──」
驚愕の表情を浮かべる少女。
しかし驚愕は、相対する経真も同様だった。
(この振る舞い、そしてこの時代がかかった口調……これって、どう考えても……!)
信じられないことであったが、経真は確信を持って、名を呼んだ。
──美奈の母親の名を。
「……マジ!? もしかして、ローラさん!?」
「大声を出すな、朝っぱらから。見れば分かるであろうが。というか、ワシのどこをどうみれば、美奈に見えると申すのか──」
金髪の少女は途中までぼやきかけてから、下を向き、自分の身体を見て──絶叫した。
「…………何じゃこりゃあああああああああああ!?」
この物語は、愛しいいとこの中身がおばさんと入れ替わったことで、経真が経験する羽目となった、悲喜劇の記録である。