「故郷が欲しいんだ」
アビィが討滅を望んだ魔導兵を全て倒した後に、彼女はそう言った。
「故郷?」
「そう。私たち魔導兵の故郷が欲しいの」
「『
「ここが?」
『絡繰り世』こそが魔導兵の生まれる地だ。そう思ったメノウの問いを、アビィが鼻で笑う。
「知ってるよね。『絡繰り世』は、私たちそのものなんだよ」
空間知性体。
導力でできた空間が高度な知性を持ったのが、彼ら三原色の魔導兵だ。メノウがいまいる場所も、アビィの体の一部にすぎない。人間からしてみれば、胃の中が故郷なんじゃないの、と言われたようなものだろう。
「私たちは、生まれた場所から動けない。せいぜいこうやって端末を派遣するのが限界。しかもね。自分の中にある素材が組み合わさって同じ空間生命体が生まれたら……基本的に、相手を食い尽くすんだ」
それが、三原色の魔導兵の生態ともいうべき特徴だ。
「だからね。私たち魔導兵が、奪わず、争わず、触れ合える。そんな場所が欲しい」
「こうして争ってるのに?」
本末転倒ではないだろうか。そう思うメノウに、アビィはにこっと笑う。
「私より上の兄姉は、もうダメだったんだよ。奪うことに、慣れすぎた」
ダメと言っている対象にはアビィ自身も含んでいるのだろう。
三原色の魔導兵たちにとっては、自分の同族とは最上級の素材でしかない。お互いが食い合う関係であり、アビィもその闘争に参加している。
「だから、つくるしかない。私たちが生まれても、それが誰一人にも批難されることのない、安心できる居場所を」
「それが、あなたの動機?」
「うん。そうだよ」
己の動機を明かしたアビィは、大人びた外見にはそぐわない顔で照れくさそうにはにかむ。
「変かな?」
「変ではないと思うわよ」
メノウは、故郷というものを知らない。それに
「私にはわからないけど、素敵だと思うわ」
メノウにはないものだからこそ、居場所が欲しいというアビィの夢に微笑んだ。
◆
「君の願いは、
聖地でメノウと別れたモモは、
遺跡街は、隠し場所の候補の一つだった。地下深くにある吹き溜まりは、内部に入ってさえしまえば、
そこで出会ったのは、一体の魔導兵だった。
「願いは、叶わない?」
モモは警戒心を滲ませる。
地下深くでモモの来訪を待ちかまえていたのは、明らかに特殊な相手だった。
「モモ君。君は大切な人を守りたいんだろう。けれども、その目的の達成には困難を極める」
ぱん、っと両手を鳴らす。
「なぜなら、彼女は結局、自分自身を犠牲にすることを選ぶからだ」
面識もないはずの相手からの断言だというのに、奇妙なほど説得力がある。
「だから協力したまえ」
モモは敵意をむき出しにしてにらみつける。
ほんの十分前に遭遇したばかりの関係だ。協力するには、お互いのことを知らなすぎる。
なにより、提案者である目の前の
「私には、お前が自分の目的のために私たちを利用しようとしているとしか思えません」
「そうだよ?」
【星】の純粋概念。
未来を見通す女は、モモの言葉をあっさりと認めた。
「ボクは君たちを利用しようとしている。だって、ボクの目には先が見えているからね! 天才美少女たるこの星崎廼乃ちゃんのために、未来を都合よくしようともするさ。君も君の目的のためボクの予言を利用すればいいんだ」
星崎廼乃は、軽快に笑う。
「互いを利用し合うことを、協力と呼ぶんだぜ?」
モモは、目を覚ました。
夢見の悪さと寝起きの不愉快さに、起きて早々盛大に顔をしかめる。
「……いま思い出しても、腹が立ちますね」
星崎廼乃。
黒い瞳に星型の導力光を浮かべた【星】の純粋概念の持ち主。未来を知ることのできる彼女特有の、なにもかもを見通して先回りしてくる話術は非常に苛立たしいものだった。交流もないのに理解者面されるというのは、ああも不愉快なのかと学んだものである。
寝起きの気分の悪さを引きずったもの憂げな瞳のままシャワーを浴び、神官服を身につける。持ち物の中で一番大切なシュシュで桜色の髪を二つ結びにすれば、準備は万端だ。
モモは窓の外に目をやる。
この空間に『朝』という概念はない。『絡繰り世』を閉じ込める太陽は常に一定の高さを保っている。もしも時計がなければ、時間感覚はあっという間にズレていくだろう。
