空間の穴を抜けると、そこは三つの色が散らばる荒野だった。

 視界が開けたメノウの眼前に、生命の気配がない砂と岩の荒野が広がっている。三色の鉱石が無秩序に落ち、ところによっては生物の形を真似まねて変性している鉱石から、気化しているかのような煙が立ち上っていた。

 無色なはずの空気にすら色が渦巻く世界。北大陸の中央部にあった空間の穴を抜けた先にあるのは、人の世界とは違うと一目で思い知らせる三色の光景だ。

 一歩踏み出すと、メノウの足裏で、ぱきんと硬質な音を立てて色が砕ける。

 このもろくも美しい鉱石が、原色の輝石だ。

 第一身分ファウストによって、大陸では禁忌とされている素材が当たり前のように存在している。世界をつくれるという原色概念の基本素材が、ここでは自然発生するからだ。

絡繰からく』。

 単色として発生した原色の輝石は気体となって混ざり合うことで二色になる。ごくごく稀に三色が混ざり合うことで、新たに世界が広がる。世界の災厄さいやくとして魔導兵を生み出し続ける【器】の人災ヒューマン・エラーが生んだ世界では、その末端ですら色に満ちている。

 呼吸をためらいそうなほど色に満ちた中、大きな深呼吸をする人影があった。

「ぷっはー!」

 褐色の肌をした抜群のプロポーションの女性である。縦縞模様のスラックスに短いジャケットを羽織った服装は、グラマラスな体つきの彼女によく似合っていた。

 アビリティ・コントロール。

 アビィという愛称で呼ばれている彼女は、遺跡街いせきがいでの戦闘直後で汚れた状態のメノウたちの中にあって、大きく深呼吸してイキイキとひとみを輝かせている。

「あーっ、久しぶりに息をしたよぉ!」

 両手をバンザイして天を仰ぎ、全身で喜びを表現している。成熟した外見とは裏腹に稚気ちきのある彼女の行動にメノウが苦笑をらす。

「大げさね。いくらなんでもそこまでじゃないでしょう」

「本当、それ」

 メノウが栗毛のポニーテールを揺らしながら指摘すると、胸元に三つの穴を空けたワンピースに白い着物を羽織った幼い少女が賛同する。

「息しなかったら死ぬでしょ。こうして生きてるんだから、そこまでのものじゃなかったのよね? いちいち大げさなこと言って、かまってちゃんよね」

「わかってないなぁ、このお子ちゃま」

 舌鋒ぜっぽう鋭いマヤの指摘にアビィはやれやれと肩をすくめる。

「それくらいの差があるってニュアンスを伝えたかったの。私たちからすればさ、いままでいた世界って食事の文化が違うようなものだよ? 故郷の味なんだよ、ここは! 空気が違うの、空気が!」

 ぐっとにぎこぶしを作ってアビィは力説する。メノウたちにはさっぱりわからないが、魔導兵なりの感覚があるのだろう。

「あ、ちょっと空気に色がついてるけど害とかないから、気を楽にしてね。特に妹ちゃん!」

うそだぁ」

『絡繰り世』に入るなり口元に手を当てて呼吸を浅くしていた銀髪の少女、サハラがまゆをひそめる。

「私、ここと似たようなとこで色を吸いすぎて頭おかしくなったわ。絶対に有害のはずよ。騙されないわ」

 修道服を身につけているサハラは、ほんの一年前までは立派に神官の一歩手前である修道女をしていた。第一身分ファウストになるための一環で『絡繰り世』での戦闘に従事していた彼女だが、精神汚染を受けて第一身分ファウストを裏切り、メノウに襲いかかって返り討ちにあったという過去を持つ。

「あははは。大丈夫大丈夫。入ってくる人類を片っ端から精神汚染してた魔導兵、もういないから。基本的に、原色魔導って人体には無害なの。のべつまくなしに侵食する原罪概念とは違うんだよ!」

 引き合いに出されたマヤが口元を引きつらせる。

「そりゃさ。やろうと思えばもちろん呼吸で体内に蓄積した原色に干渉して精神汚染はできるけど、そんなことしないよっ。あはははは!」

 いつもよりテンションが高いアビィが、無意味に笑い声を響かせる。残念なことに、メノウから見てもサハラの懸念が解消した様子はなかった。

 大陸東部にある出入り口と接していた『絡繰り世』の境界で人類を襲い続けていた三原色の魔導兵は、もういない。数ヶ月前にグリザリカ王国にいた頃に、メノウがアビィと協力して討伐した内の一体である。

 基本的に人類に友好的なスタンスのアビィは、白夜の空を背景にして、ばっと両手を広げる。

「ようこそ、我らが生まれ故郷『絡繰り世』に! ここが十三区の外縁部。つまり私の空間の端っこだよ!」

「ふーん」

 適当に相槌あいづちを打ったマヤが、そこらに落ちている原色の輝石を拾い上げる。小さな手の中に収まったさおな石は、マヤがただ触っただけで変質してなぞの肉塊になった。

「ぎゃー!? なにやってんのなにやってんの!」

「べっつにー? あたしはただ綺麗きれいな石を拾ってるだけよ?」

 奇妙な肉塊はマヤの手の中でもぞもぞと動いて小さな魔物へと変質する。それを確認したマヤは、ひょいっと次の石を拾う。

「魔導使わないでも魔物増やせて、すごくお得だなーとか考えてないもん。……そう考えると、案外いいところね、ここ」

「やめてよ! 私たちにとっては魔物って人間でいうガン細胞みたいなものなんだからっ。変なもの増やさないでよぉ!」

 悲鳴混じりのアビィの訴えは大袈裟ではない。

 原色の素材は、原罪概念に触れただけで魔物に変化してしまう。このまま放っておいたら魔物が際限なく増えて、空間の維持すらできなくなる。割と致命的である。

「はいはい。そのあたりにしときましょ」

 アビィに構わずひょいひょいとそこらに転がっている三原色の輝石を拾い上げていくマヤを、サハラが抱える。

「むぅ、せっかくの生贄いけにえ確保の機会なのに」

 不満げなマヤの足が宙に浮く。分類不明の小さな魔物は、てこてこ歩いてマヤの影の中に入っていった。世界をつくれると称される素材も、原罪魔導にとってみればあまりにも一方的な侵食対象でしかないという、絶対的な魔導相性を感じる光景である。

「このお子ちゃま……! ていうか、あんまりゆっくりしていられる状況でもないからふざけてる時間ももったいないよ。そうでしょ、メノウちゃん」

「そうね……」

 アビィの言う通りである。

 メノウたちは、北大陸で獲得目標としていた『星骸せいがい』の管理者権限を得るために必要なものを手に入れた。

 だが同時に、追い立てられてここに逃げ込んだのだ。

 間もなく追撃してくるだろう人物の名を、マヤが口にする。

「……ミシェル」

 その名前が出ただけで、場に緊張が走る。

 ハクア直轄ちょっかつの部下であり、最強の敵だ。何度か交戦したものの、いまだに力の底すらつかめていない。

「そうよそうよ。とりあえず、早く逃げましょうよ!」

 拳を振り上げて強弁しているサハラは危険から遠ざかりたい一心で急かしているのだろうが、実際問題としてミシェルはまともに戦ってはいけない相手だ。これまでも、正面戦闘は避けてきた。できるだけ相手が力を発揮できない場所を選び、その上で逃げの一手を選び続けた。

 だが今回は逃げるにしても問題がある。

「待ち伏せたほうが、よくない……?」

 サハラとは逆に迎え撃とうというマヤの意見にも一理ある。

『絡繰り世』という土地柄、ここはアビィが本領を発揮できる。【器】の人災ヒューマン・エラーが生んだ彼女たち魔導兵ならば、古代文明が生んだ【龍】の模倣であるミシェルとも対等に戦える可能性もある。

 延々逃げるよりも、ここでミシェルとの決着をつけるというのも手だ。

「待ち伏せねぇ。そりゃ、『絡繰り世』はおねーさんのホームグラウンドだし、それに加えてメノウちゃんが純粋概念をフルに使えば勝算はあるかもしれないけどさ……これ、守りながら戦うのは無理だよ」

 アビィが軽くこんこんと巨大な建築物をたたく。

 千年前の超文明に作られた古代遺物、環境制御塔の一部だ。

 近距離では全容が視界に収めきれないほど大きいこれこそが、北大陸でメノウたちが苦労して獲得した戦果であり、四大人災ヒューマン・エラー『星骸』の管理者権限を得るために必要なものである。

 ミシェルは間違いなく環境制御塔を壊しにかかる。下手をすれば、メノウたちの命よりも『星骸』に干渉できる環境制御塔の破壊を優先するだろう。

 それにゲノムや万魔殿パンデモニウムとの戦闘から、ほとんど連戦になってしまう。向こうは万全に近い状態であることを考えると、あまりにも不利な要素が重なっていた。

「でも、逃げるにしても、こんなの持ってけないでしょ」

「捨てる? ここに置いておけば時間稼ぎにもなるわ」

「なんのために遺跡街で苦労したと思ってるのよ……」

「大丈夫だよ。ここが誰の空間だと思ってるのかな?」

 マヤの懸念を解決するために話し合っている中で、ふふーんとアビィが胸をそびやかす。

「心配ご無用。年長者のクズどもを駆逐くちくしたいま、『絡繰り世』はもはや私のホームグラウンだよ! この空間内部だったら、大概のことは可能だからね!」

「ごめん。そもそも空間が誰かのものっていう意味が、もうよくわかんない」

「ああ、そっか。普通の人にとっては、わかんないんだっけ」

 感覚で原罪概念を扱えてしまうからこそ魔導にうといマヤの疑問にアビィが、ぽんと手を打つ。

 わざわざマヤの疑問を解く気がなさそうなアビィに代わり、メノウが説明を引き継ぐ。

「三原色の魔導兵っていうのは、原色魔導で構築された、意思のある魔導空間のことを指すのよ。誰かが所有している空間、っていう意味じゃなくて、この空間そのものに意思があるの」

「それって、つまり……」

 嫌そうな顔をしたマヤがアビィを指差す。

「いまあたしたちって、アビィの中にいるっていうことなの?」

「そういうことよ」

「え? じゃあ、あたしたちの目の前にいるのは?」

「意思疎通、もしくは遠距離用の端末。本体じゃないのよ、ここにいるアビィは」

「だよー。体ないと、人間とコミュニケーション取れないでしょ? だから空間の中にある原色の輝石を使って精神だけつなげる端末を作るんだよ、私たちは」

 本質的には端末でしかないアビィは何度壊されようが、すぐに体を補充できるのである。『絡繰り世』を分ける区とは、すなわち、三原色の魔導兵の本体である空間生命体がいる場所を示すのだ。

「あー……メノウがなんかアビィに冷たい理由がわかった」

 目の前で話をしていても、本人はそこにいないのだ。よそよそしくなっても仕方ないとマヤが納得する。

 ちなみにメノウはシンプルにアビィのことを信用できなかっただけである。

「そんなことないもん。メノウちゃんの信頼は、この間に獲得したもんね」

「うん、まあその通りなんだけど……改めて言われると、ちょっとうっとうしいわね」

「うっとうしくないよっ。それに妹ちゃんは別に冷たくないよね? ね?」

「…………」

「妹ちゃん!?

「いいから早く移動して、アビィ。サハラはほら、あれよ。恥ずかしがり屋だから、照れているのよ」

「むう……わかったよぉ。いまいる場所を中心部に切り替えるね」

「……」

 サハラから目をらされているアビィが、メノウの要請にしぶしぶ魔導行使をする。

『導力:素材併呑──三原色ノ理・原色擬似概念──』

 導力光が、周囲の空間から発生して三次元の幾何学模様を刻む。目の前のアビィではなく、メノウたちがいる空間そのものが魔導構成を編み込んでいく。

『起動【十三区:接続:中心区】』

 メノウたちの周囲の景色が、切り替わった。


 モモが空間にできた導力のトンネルを抜けると、丁度、先行しているミシェルが舌打ちしているところだった。

「逃げたか」

 ここ半年のモモの上司であるミシェルは、誰もいない風景に苛立ちを吐き捨てた。

 メノウたちを追って、モモたちも空間の穴を通って北大陸から『絡繰り世』に入ったのだ。

 背後を振り返ると、景色が円形にゆがんだ穴がある。導力光がかたどる穴からモモに続いて出てきたのは眼鏡をかけた緑髪の神官、フーズヤードだ。

「わぁっ、ここが『絡繰り世』か。すごいすごい。すっごい不完全な世界だなぁ!」

「逃げた、というのはいくらなんでも早すぎませんかぁ?」

 さっそくかがんで原色の輝石を掲げて目をきらきらさせているフーズヤードは無視して、モモはミシェルに意見する。

「『陽炎の後継フレアート』が遺跡街でゲノム・クトゥルワと戦ったのは、『星骸』の管理者権限に接続する環境制御塔を手に入れるためだったはずですぅ。撤退するにしても、あれだけ大きなものを運び出せる時間はありませんー。近くに隠れている可能性は検討しないのですかぁ?」

「考慮に値しないものを検討しても時間の無駄だ」

 モモの危惧はバッサリと切り捨てられる。

「『絡繰り世』は導力で構成された特殊な魔導空間だ。物理法則が通常の空間より、だいぶ緩い」

 ミシェルが足元にある原色の輝石を、つま先で踏み砕く。

「原色概念で構成された空間に、通常の常識を持ち込むな。【器】の純粋概念から生まれた原色魔導の真髄しんずいは、異空間を創り出して操作することにある。事実、純粋概念【器】の持ち主だった方の『自室』は、まさしく別世界。魔導学的に見て芸術的とすら言えるものだった」

「自室……?」

「いいよね、夢だよね、自分の魔導空間」

 いぶかしむモモとは逆に学者肌であるフーズヤードが、うっとりとした口調で口を挟む。

「魔導空間って物理法則も導力で設定できるから、理論上は構築者の好きな原理で動く世界ができるはずなんだよ」

 魔導空間に関しては、人類の魔導体系では実用化されていない机上の理論に近い。せいぜい古代文明期には使われていたという程度であり、戦闘に従事しているモモにはとっては疎い領域だ。

 それをいいことに、フーズヤードはモモが口を挟む間もない早口になる。

「ただの小規模空間をつくる理論はできてるんだけど、原色概念は禁忌指定されてるから実験できないんだぁ……昔、論文出そうとしたら、エルカミ様にものすっごく怒られたんだよね」

「誰だか知らんが、真っ当な怒りだな。一個人が研究するものではないぞ。亜空間を扱う魔導は、失敗したらなにが起こるかわかったものではないからな」

「そうかなぁ。結構、いけそうなとこまでいったんだけどなぁ……」

「いっちゃいけないとこまでいったから怒られたんじゃないですか?」

 仮にも禁忌を取り締まる立場にいるのが第一身分ファウストの神官だ。こいつの倫理観はどうなってるんだとモモが半眼になっている中で、フーズヤードが眼鏡めがね型の導器に導力を通す。

『導力:接続──眼鏡・紋章──発動【導視】』

 目視できないレベルの導力まで可視化する紋章魔導【導視】を発動する。

 導力光を発する眼鏡をかけたまま周囲を確認していたフーズヤードが、不意に視線を固定する。

「あそこ」

 フーズヤードが色の渦巻く風景の一点を指差す。

「空間が、切り替わった痕があるよ。切り捨てたね、ここ。魔導兵の本体に繫がってない、ただの亜空間になってる」

「そうか。貴様が言うなら、そうなのだろう」

 ミシェルが鷹揚おうように頷く。フーズヤードの導力に対する捉え方は彼女も一目置いている。魔導的な分野に関して、彼女が言うのならば批判なしに受け入れるほどに評価しているのだ。

 モモも目をこらすが、フーズヤードが示した空間を見てもなにもわからない。ただ原色が渦巻いているだけだ。

「よく見抜けましたね。その観察眼、まるで変態みたいです」

「ふふっ、モモちゃんさんもまだまだ……んんん? 変態って、それはちょっとおかしい評価じゃないかな? ほら、これかけてよモモちゃんさん。そうすればモモちゃんさんにも視えるから! ほらほらっ」

「……やっぱりわからないんですけど」

 フーズヤードから渡された眼鏡をかけてみるが、やはり空間の切れ目とやらはわからない。

 そもそも気化した原色の素材が満ちている空間で、導力の流れなど見えない。天然には天地を走る龍脈ぐらいしかまとまった【力】がない普通の空間と違って、ここ『絡繰り世』では大気中にまで導力が満ちている。【導視】を通しても、ちかちかとした光で視界がいっぱいになるだけである。

「えぇー? じゃああとで、この中にある導力の流れと性質の違いを教えてあげるね。モモちゃんさん、センスあるから三日で簡単な見分けくらいはできるようになるよ!」

「とんでもなく余計なお世話なんですが。なんですかその使い道なさそうな技能は。そんなことに時間費やしてるからお前は変人なんですよ」

「え? いやいやいやいや、わたしモモちゃんさんとかミシェルちゃんに比べてずっと常識人だよ?」

「お前は黙って知識と感覚だけを働かせていろ。アビィとかいう魔導兵があそこで空間を切り替えて移動をしたのだな」

「空間の切り替え……魔導兵は、そんなことまでできるんですかぁ」

 モモはフーズヤードに眼鏡を返しながら、ミシェルの言った言葉に驚愕する。

「原色概念で構築された空間の機能を掌握しょうあくしているのならば、その内部に限り可能だ。なにせ、やつらの本体はこの『絡繰り世』という世界の空間そのものだからな。その支配権を争って随分と長い間、『絡繰り世』内で闘争していたようだが、決着がついたのだろう」

 説明しながら、ミシェルの視線が上向きになる。現状からどうするべきかの分析を脳内で進めて、ほどなくして答えを出した。

「……いったん、戻るぞ」

「戻るというと、北大陸にですかー。追いかけないんですかぁ?」

「『絡繰り世』という空間の中で魔導兵を追い回しても無駄だ。環境制御塔を抱えているうちに追いつけばなんとかなったかもしれんがな」

 メノウたちの影を踏むところまで追いつきながらも、未練を見せずに深追いはしないと言い切る。

 守るべきものがあるのならば、敵も足を止めざるを得ない。

 だが敵は早々に籠城を決めこんだ。『絡繰り世』の発生地、【器】が居座る中心部にまで逃げたはずだ。

「そうですかー。ミシェル先輩がそー決めたなら、モモは従いまーす!」

「そうしろ。そもそも空間として完成された魔導兵を相手に、端末をちまちまつぶす虚しさがわかるか?」

 ミシェルが不機嫌な表情で吐き捨てる。

 魔導空間を掌握している存在との戦いは、小さかれども『世界』を相手にするような途方もなさだとミシェルは実感している。

「『絡繰り世』から北大陸の中央部に戻るとして、次はどうしますー?」

「お前ならどうする」

 逆に問い返された。

 試されている。それを直感したモモは、頭の中で慎重に案を選ぶ。

「簡単なのは、原罪概念ですねー。適当な悪魔や魔物を召喚して送り込んで、このあたりにある素材を潰していきますぅ」

「問題が三つあるな」

 モモの案に対して、ミシェルが即座に問題点をあげる。

「一つ。原色を餌に魔物を増やしすぎれば、そちらの対応ができなくなる。二つ。いくら相性がいいとはいえ、これほどの規模の原色を相手にする原罪魔導を使うとなれば相応の生贄が必要になる。そしてこれが最大の理由だが」

 ミシェルが三本目の指を立てる。

「向こうにはマヤ様がいる。原罪概念で歯向かうのは論外だ」

 マヤ。

 メノウたち一行で一番無力そうに見える幼女だが、四大人災ヒューマン・エラー万魔殿パンデモニウム』の一部だった彼女はもっとも危険な存在でもある。いまのマヤは戦闘力こそ低いが、取り扱いを間違えると『万魔殿パンデモニウム』に戻りかねないという危険性があるのだ。

 ただでさえ南方諸島を食い尽くして肥大化した【魔】の純粋概念が『絡繰り世』までかてにして膨れ上がった場合、この世界に存在する魔物の総量が、いま残っている大陸文明を圧倒する数になる可能性すらある。

 そうすれば、人類の破滅は待ったなしだ。

「それで? 簡単ではないほうの案は、なんだ?」

「手間がかかりますが……北大陸の街から『絡繰り世』の手前まで線路を引き、儀式場を作るための資材を運べるようにしまーす」

「正解だ。空間そのものを相手にするには、ただの力押しでは効率が悪い。相応の準備が必要だ」

 モモからの答えが満足いくものだったのか、ミシェルがきびすを返す。歩き出した先には、北大陸とつながる導力の穴がある。

「準備の指揮はお前がとれ、モモ」

「はーい。承知しましたぁ」

 大規模な魔導儀式の準備だ。

 二人の視線がフーズヤードに集まる。

「お前の腕の振るいどころだな。死ぬ気でやれ、フーズヤード」

「え?」