──助けて。
その声に
大切な人がいる。帰りたい場所がある。どうしても、叶えたい願いがある。
だから、助けて。
共感できる思いを受け取って、彼女は時代を駆け抜けた。
その身が、深く沈むまで。
取り返しがつかないと自覚しても、なお助けた。
そうして、どうしようもなく取り返しがつかなくなった彼女は。
「……」
シラカミ・ハクアは無言で流れる景色を眺めていた。
彼女が乗車しているのは、
ハクアが着ている服は、セーラー服だ。場違いだとしか言えないのはわかっていても、この制服を脱ぐことができなくなっていた。
用意された食事や飲み物には、手を付けていない。それどころか、睡眠すらとっていなかった。
体が人間離れするにつれて、心も人間らしさを失っていくことに気がついたのは、いつだっただろうか。
半世紀ほど生きた頃だったか、百年を経た時だったか、少なくとも五百年前にはとっくに悟っていたはずだ。
そうして千年
「……笑える」
窓ガラスに映る顔が、自嘲を浮かべる。
これから必要になる記憶だけを補充して、ハクアは人知れず聖地を発った。
その際に大陸の人々の記憶を収納していた施設『星の記憶』は破壊してある。万が一、
二度と、戻るつもりはなかった。
自分と同じ顔をした、自分とは違う人間の顔が思い出される。
この時代に召喚されるアカリと出会い、彼女と過ごすことで自分の器とするために造った、自分の複製体。メノウと名前を付けて活動をしている少女だ。
メノウの肉体でアカリと導力の相互接続を果たして魔導的に同一人物となることで、一人にしか使えない異世界送還陣の条件の裏をかくはずだった。
聖地にたどり着いたアカリの記憶を【漂白】しメノウの肉体を手中に収めかけながら、『
その直前にハクアは自分の複製体であるメノウと会話を交わし、すぐに聖地を出立した。
この世界と日本のある世界をつなぐ『
「あと、少し」
千年の悲願が、ようやくかなうのだ。
明るい未来の展望を思い浮かべようとして、心が少し弱気になる。
「そのはずだよね、
なぜ、廼乃はあの時、アカリの召喚を予言したのだろうか。
千年前に一緒に活動をした少女、
未来を見据える【星】の純粋概念。両眼に星型の導力光を宿したかつての友人の顔を思い出そうとして、できなかった。
ハクアにとって千年前の記憶は、すでに情報でしかなかった。名前は憶えている。情報も知っている。けれども声が思い出せない。顔も
数百年。可能な限り、誰とも交流しないようにして、それでも記憶は摩耗していく。
くしゃりと顔が
助けてと言われて受け入れて、救ってくれと言われて受け入れて、お願いですと
自分と受け入れた誰かの境界があいまいになっても、ずっと、受け入れ続けた。
元の自分が、わからなくなるほど
「大丈夫……この世界でのボクは、ぜんぶ、ここに置いていく」
そうして、帰るのだ。
アカリと一緒に、日本へ。
この世界のすべてを忘れて、自分たちがいなくなったあの日に、戻る。
そのために、生き延びた。
「そのはず──」
ぐるぐると混迷を始めた思考を独り言で締めくくろうとした時に、列車が止まった。
目的地に着いたのだ。
グリザリカ王国。その王都である。
大陸屈指の都市だ。
ひっそりと人通りの多い駅に降り立ったハクアは、迎えに来た人物の姿に
「……はじめまして?」
「いいや、ハクア。直接会うのは、久しぶりだな」
赤みがかった金髪の持ち主が、威風堂々とハクアに笑いかけた。
