ボンファイヤーは赤々と燃え、井桁に組まれた中では、薪が時折ぱちりとぜている。体育館から聞こえてくるボレロを聞きながら、ぼくはその炎を、ただ見ていた。

 古城さんは、ものの三分も経たないうちに戻ってきた。息を切らし、膝に片手をつき、もう一方の手でぼくにトングを差し出す。

「持って……来ました……」

「ありがとう」

 金属製のトングを、ぼくはカチカチと鳴らしつつ開閉させる。これなら申し分ない。顔も上げられない古城さんを横目に、マシュマロが散らばる地点からまっすぐ、ボンファイヤーに近づく。

「なにかを隠すのにどこよりも目立つ場所を選ぶのは、常套手段と言っていい。それだけに、あまり有効とは言えないだろうね。ほんの少し気がまわる相手なら一秒で見つけられる場所にものを隠すのは、意外性を狙うにしてもリスキーだ」

 熱がひたいに、頰に吹きつけてくる。そうだ、思えば、水がこぼれていたバケツがあった。あれは水を汲むときにこぼしたのか。

「だけど、その一番目立つものが炎で、隠すべきものが可燃物だったら、話は別だ。燃えるものは火の中に隠せないから、捜そうとすら思わない。昔、水に浮くものをうっかり水の中に隠して、ここぞってときに全部浮いてきちゃう映画を見たことがあるよ。恰好いい映画だった」

 火の中を覗き込むと、組まれた薪のあいだに隙間があるのが見えた。熱風が吹きつけ、ぼくは薄目になる。炎の奥に目指すものを見つけ、思わず、口の端に笑みを昇らせてしまった。体育館から流れてくる音楽は、いよいよ最高潮だ。

「そして逆に考えれば、燃えない、少なくともしばらく燃えないものであれば、火の中にも隠せるってことだ。まして、CDは温度変化には強いからね」

 肩で息をしながら、古城さんが訊いてくる。

「だけど……ものには限度が……」

「そう。限度がある」

 振り返って、ぼくは微笑んだ。

「三百度、四百度の中に放り出すのは無謀だ。じゃあ、最高でも百度だったら? CDは水にも強い」

 百度と水という言葉を聞いて、古城さんが顔を上げた。

「そうか、それで、ニューヨーク……」

 察しがいいね。いや、やっぱり、ぼくがにぶかっただけかな?

 ニューヨークチーズケーキを焼くときバットに水を張るのは、熱の伝わりを抑えるために他ならない。オーブンの中が何度であっても、何千度であっても、水に触れている部分はおおよそ百度を超すことはない。気圧次第だけれど、水はだいたい百度よりも熱くはならないからだ。

 丸太の隙間からトングを差し込んでいく。

 手応えがあった。ゆっくり、引き出す。……そうか、と気づくことがあった。現場からはもう一つ、竹串も消えていた。小佐内さんは、これを火の奥へと差し込んでいくために竹串を使い、そして使い終わった竹串は火に投じたに違いない。

 ボンファイヤーからトングを引いていく。その先端で確実につかんでいるのは、もちろん、マシュマロの箱だ。煤がついて黒ずんでいる。

「ミトンもお願いすればよかった」

 そう言いながら、ぼくは箱を地面に置き、防火用水が入ったバケツを持ってくる。一気にぶっかけては、温度差がどんないたずらをするかわからない。水を手ですくい、少しずつ箱にかけていく。

「紙の箱なのに……火の中に……」

「火は下の方ほど温度が低いし、紙の発火温度は意外と高いからね。華氏四百……何度だっけ。まして……」

 もどかしいような冷却作業に見切りをつけ、服の端をつまんで手袋がわりにし、箱に触れる。

「箱が水で満たされていれば、その中は百度を超えない。ニューヨークチーズケーキと同じ理屈だ」

 箱の中には水がたたえられている。さっきまで火の中にあったのだ、熱湯になっているだろう。そしてその底では、プラスティックケースに入れられたCDが、火と太陽を反射して虹色に輝いていた。トングでケースをつかみ、水の中から引き上げる。

「間違いない。やっと見つけた」

 マシュマロの箱を防火バケツに沈めて水を汲み、そこにCDを沈め、火の中に入れる。これが、CDを隠すために小佐内さんがやったことだ。

 古城さんが長く深い溜め息をつく。

「……ゆきちゃん先輩、たった九十秒ほどでこんなことを考えて、ぜんぶ用意して、実行したの……?」

 もう一度、荒い息をして、呟く。

「信じられない……」

 小佐内さんのことを話すとき、古城さんの目はいつも興味と好意に輝いていた。

 しかしこのときは、そうではなかった。ぼくの思い違いでなければ、そこに浮かんでいたのは、おそれに近いものではなかったかと思う。