ぼくとないさんは、どうしようもなく引き起こされる厄介事からお互いの身を守りあい、それぞれが心に誓ったことを破らないために相互に見張り合う約束をしている。しかしそれは、学校という限られた場所の中、平日という限られた時間でのことであって、休日に学外で小佐内さんと会うというのはこれまで先例がなかった。だから、十月の涼しい金曜日、昼休みの廊下で小佐内さんに呼び止められ、「こんどの日曜日、つきあってくれない?」とかれたときには、驚かざるを得なかった。

 昼休みの廊下は同級生たちが数多く行き来していて、その中のいくらかはぼくたちに興味深げないちべつをくれていく。ぼくと小佐内さんが一組である、もっと言えば交際をしているという理解が広まることは都合がいい。問題が深刻で秘密を要する場合も考慮に入れて、ぼくは、声を殺す。

「厄介なの?」

 しかし小佐内さんは、ふるふると首を横に振った。

「それほどじゃない。文化祭に行くから、いっしょに来てほしいだけ」

 もちろん、ぼくたちが通うふな高校の文化祭ではない。近くの高校で、日曜日に文化祭をやるところがあっただろうか。あまり深い関心を寄せている分野ではないだけに、思い当たるところがない。

「文化祭って、どこの?」

れい中学」

「あ、中学校なんだ」

 どこかで聞いたことがある校名だ。確か剣道だか柔道だかが強いんじゃなかったろうか。市内の学校ではなかったはずで、そうなると遠出になるだろう。

「どうしてそこに行きたいのか、いま訊いてもいいのかな」

 場所を変えて話を聞く選択も視野に入れてそう訊くと、小佐内さんは少し考え、きっぱり答えた。

「話せば長いことながら、一言で言うと、模擬店でパティスリーが出るから」

 ははあ。

 少し気に掛かるのは、市外の中学校までケーキを食べに行くことは、ぼくたちのけい関係にかなうことなのかということだ。単におしようばんにあずかるというだけのことなら断るしかない。小佐内さんが何らかの言い訳を必要とし、ぼくの存在がそれに役立つ場合のみ、ぼくたちは日曜日に一緒にケーキを食べに行く。

 そのあたりのことを、端的に尋ねる。

「ぼくが行く意味はあるの?」

「あるの」

 即答された。それならしょうがない。小佐内さんは「一人じゃ恰好がつかないから」などという理由でぼくを呼び出しはしない。なにか事情があるのだろう。

「わかった。いいよ、日曜日だね。詳しいことはメールで決めようか」

「うん」

 教室に戻ろうときびすを返すと、背中越しにもう一言飛んできた。

「あの、ばとくん」

 振り返ると、小佐内さんは、きっと喜んでもらえるに違いないという期待を満面にたたえていた。

「あのね、文化祭ではね。……ニューヨークチーズケーキが、出るからね!」

 微笑ほほえみ返すぼくの脳裏には、血も涙もないウォール街の鬼たちが、チーズケーキ相場のさきもの取引でしのぎを削り合うさまが浮かんでいる。きっとたぶん、そういうものではないのだろうけれど。