第三話

カレントという町は北側地区の中で最も聖王都に近い町でもある。

特にカレントの細工飴は有名で特産品となっている。

ジル達はここで馬と引き換えに路銀を調達した。

ただこちらの地方は北側にあるので非常に寒い。

二人はカレントの町で暖かいビーフシチューを食べ、早速その路銀で雪の寒さに負けないような丈夫なコートを買う。

そこから喫茶店で休み、休んだ後にはすぐに都アリアを目指すことになった。

そして街道を歩く二人。

「ファセット寒くないか?」

粉のような雪がちらほら見える中、茶色い毛皮のコートに身を包んだ二人は、北側地区アリア方面の街道を歩いていた。

アリアに歩き始めて二十分後。

「寒いわジル……特に私の心は」

ファセットはジルに返事をする。

(さっきのか……)

この言葉にジルは思い当たる節があった。

これはそのときの話である。

「ジル! 私と結婚しましょ!」

この言葉が全ての発端だった。

「断る!」

続いてジルはため息のように吐き出す。

「あのな……お前は王女なんだぞ!少しは自覚を持て」

「身分なんて関係ないわ!」

まるでシエラがその場にいるようだっだ。

むしろいたらと思うと……

そこからジルは必要最低限以外のことは話さないようにした。

とりあえずアリアにいる第一王女ラズリ様にファセットを預けることが決まった。

最後までファセットは抵抗したがなんとかカレントの細工飴で説得した。

ちなみにラズリという人物はこのフェリス国第一王女でありながら学術や知略にたけており、現在経済的不安定なアリアをよくしようとしている。

ラズリ王女がアリア側の地区の陣頭指揮をとってからはやっとこの地区の開発と経済的効果が表れ始めた。

作物の育たない地でも育つ果樹や、観光、金融、先ほどの細工飴などの菓子類をメインにした産業に手を出し、今ではラズリ王女がアリアの救世主とまで言われる。

さてあまり話さなくなったジルにファセットは一種の不安といら立ちを感じていた。

もうすぐアリアに着く。

もう二度とルーダーつまりジルに会えなくなるんではないか……

いつのまにかファセットは歩くのをやめてうつむきながら泣いていた。

後ろを振り向くジル。

すると彼はファセット頭をそっと優しくなでた。

「置いてくぞ」

ジルは一言だけ言うとまた歩き出す。

ファセットは隣に並び、笑顔をジルに見せた。

その頃そこから約五百メートル後方には一台の馬車が止まっていた。

「隊長もやるなハハッ」

後ろから怪しげな変装をした者が後を追ってきていた。

ジル達は北の都アリアへと到着した。

経済の都であり、菓子職人の都とも言えるここは街の中から甘いチョコレートの香りやアップルパイのいい香りが街を包んでいる。

そんな北側の小高い丘にある綺麗な装飾の施され屋敷がある。

ジル達はそこへ向かった。

アリアにはちらほら雪が降っている。

人の数は多く、屋敷まで向かうまでにお菓子屋だったり、品のいいコートが売っている服屋だったり様々な店が並んでいた。

通りを抜けるといよいよラズリ王女の屋敷へとたどり着く。

屋敷の前には受付場所が設けられていた。

ラズリ王女との謁見を受け付ける場所だ。

「ジルコニア・バテライトが来たとお伝えください」

ジルは受付嬢にそう言った。

「少々お待ちください」

といい受付嬢はどこかに電話をする。

十分後すぐに屋敷へと通された。

屋敷の中に入ると綺麗な女性が待っていた。

「ジ……ルコニぁ!!! にゃなんでおまにゃがここに!!」

「姫様言葉になっておりませんよ」

初めにジルの名前を呼んだのがラズリ第一王女であり、次に言葉を発したのがラズリのメイドである。

ラズリはまさにファセットをそのまま良い大人にした感じだ。

「どうしたラズリおまえらしくもないぞ」

「いやなんでもない。一瞬取り乱してしまったわ」

ラズリは冷静さを取り戻す。

ファセットはジルと姉の関係を不思議に思いながらメイド達に部屋へと連れられて行った。

それからジルはラズリにこれまでの事を話をした。

「話はだいたいわかったわ。ラピスはこちらで預かる」

ラズリは話の分かる人間で人望も厚い。

「それと今日は泊まっていくといいわ」

ジルはラズリの厚意に甘えることにする。

「ではジルコニア様こちらへ」

メイドがジルを丁寧に案内する。

部屋に通されたジルにメイドは、

「この部屋はジルコニア様が自由にお使いください」

といいメイドは部屋を後にした。

ジルはソファーに座り、暖炉から離れた場所で今までのことを一通り考えることにした。

町のこと、シエラのこと、そして竜のことを……

そんなことを考えてる時だ。

「ジル、寝れないのよ。一緒に寝てくれない?」

いきなり部屋にラズリが入ってくる。

「断る」

ジルはラズリのことを追い返そうとする。

するとラズリが、

「あらっ私たちの昔の関係ばらしてもいいのよ?」

含み笑いをするラズリ。

「……」

完全に困り果ててしまいしかたなくジルは受け入れる。

「勝手にしろ!」

ラズリの方はラズリの方で、

「やった!」

と静かに喜んだ。

「それじゃ入るわよ」

ベッドに入ろうとするラズリ。

ただそこには一匹の可愛い猫がいた。

驚くラズリにジルは近寄ってベッドの中を見る。

「ファセット! お前か!」

驚きを隠せないジル。

ファセットは姉に向かい一言。

「泥棒猫……」

そこからは大変であった姉と妹の喧嘩が始まる。

まさに猫と猫の争いだ。

「この胸無し」

のあとには、

「あんただって同じでしょうが!!」

それを見たジルは呆れかえる。

結局ベッドには三人の姿があった。

右にはファセット。左にはラズリが……

そして二人に腕をつかまれるジル。

「この泥棒年増……」

「まだいうか!! 脳無し妹!!」

結局は仲がいいのだろうかと思うジルであった。

今宵も夜がふけていく。

その頃アリアの街道では、

「すぐに姫様に伝令を」

一人の伝令兵が慌ただしく動いていた。

さて夜が明けまた日が昇る。

それはどこへ行っても変わらないし大自然の掟である。

それは永遠に変わることなく聖王都ができる昔から変わらない。

ただ……そんな掟を破ることができる者がいるとしたら。

ここはとある酒場。

「赤い風のジルコニアを殺せ……」

ローブ姿の男は妙に苛立っていた。

「なあ金のためだからやるけどよ~おっさん。もう百回以上も失敗してるんだろ? そろそろ諦めたらいんじゃね?」

酒を飲んでいたもう一人の男は笑っていた。

「黙れ! あいつだけは殺す」

ローブに包まれた男の怒りは収まらない。

「お前の力には期待している」

冷静さを取り戻した男はそのまま去っていく。

「けっ!! あんなのとまともにやり合えるかよ……」

酒を飲んでいた男はバツの悪い表情をした。

ジルは夜明け前にはラズリの家を出ていた。

ラズリの専属メイドの助けでうまくあの場から脱出に成功し、現在はメイドから紹介を受けた宿屋の一室でコーヒーを飲みながら情報を整理していた。

(屋敷でのことはともかく、何故竜は最近になって暴れ始めた? 契約は破棄されたのか? だったらここも危ないのでは)

南地区と東地区はほぼ壊滅状態と聞く。

ふとジルは聖古書の古い一節を思い出す。

『花咲きし場所に咲く花は契約により』

花咲きし場所とは南の都ダンデライオンのことだろう。

聖王と竜族との契約もそこで行われたらしく聖地としても有名である。

花が咲き乱れ『花の都』とも言われ、そこはとても綺麗な場所だ。

そして現在は竜族との最終防衛線でもある。

「一度聖王都に行くか……」

流石に今回の旅には誰も連れてはいけない。

そう思ったジルは宿屋の椅子で考える。

「日が完全に昇るまで時間はあるな……とりあえずパンでも買ってくるか」

ジルはパンを買いに宿屋を出る。

厚着をしてコートを着て。

宿屋を出るとオレンジ色の電気ランプが街中を淡く染めている。

都の街中を歩くと青いランプだったり赤いランプだったりと夜も人々を喜ばせていた。

それは綺麗な街並みであった。

近くにあるパン屋は夜間も営業している。

パン屋に入ると菓子パンやケーキ。普通の歯ごたえのあるパンまで様々あった。

ジルはハムサンドと買い、外へと出る。

外の温かい暖炉のある夜間営業の休憩所でパンを食べた。

休憩所の中は誰もいない。

実はこの休憩所は失業者のための暖炉でもあった。

至る所にこの休憩所は設けられている。

こういった政策からラズリ王女を慕うものが多い。

ジルが休憩所から出てちょうど日が昇る頃であった。

ドンという鈍い音とともに小高い丘の上の屋敷から煙があがる。

『どうした、どうした』

人が溢れかえる。

「ファセット! ラズリ!」

その爆音の先はラズリの屋敷だ。

パンのゴミを投げ捨て急いでジルは屋敷へと向かう。

風をまとったジルは全速力で走り出す。

人の悲鳴等も聞いたが今は何かしてる場合ではない。

ファセットとラズリが心配であった。

急いで屋敷に到着したジルは唖然とする。

半壊した屋敷、避難した周囲の者たち、その中の一人に詳細を聞いたジルはその場にいたメイド長の元に向かう。

「ファセットとラズリがさらわれたっていうのは本当か!?」

メイド長が答える。

「は……はい! 先ほど爆発が起こってラズリ様の部屋に行ったらこの紙が……」

メイド長はすでに泣きそうであった。

『ジルコニア・バテライト北西の森で待っている』

「北西の森とは?」

ジルはメイド長に聞く。

「聖殿があるところです」

「ありがとう」

ジルは聖殿へと向かった。

メイド長との話が終わるとジルはすぐに全速力で走り出す。

都では雪が積もっている。

まるで白銀の世界のようだ。

ジルは森の中、聖殿近くで休みを取る。

そして視線の先の聖殿をじっと見つめていた。

「さてこれからどうするか……」

ジルは少しの間考えた後、雪玉を三個作りコートの中に忍ばせる。

「まあ子供だましだが……」

彼はここに来る前にあることをメイド長に言っていた。

騎士団を動かさないようにし、アリアの騎士団の隊長に知らせること。

そして、のろしが上がったらすぐに隊長の指示に従うこと。

「まあここの隊長さんは元団長だからな。この情報だけでなんとかやってくれるだろ」

そういってジルは聖殿まで走り、扉を開けた。

「おっせーんだよジルコニア・バテライト!」

(だれだこいつ)

思い当たる節はなかった。いや、正直ありすぎてわからなかった。

「もう遅すぎて着けちまったよ!」

そういって見せられたのは鎖で体を縛られ、爆弾をしかけられている二人の姿だった。

だがジルは冷静だった。

瞬時に状況を把握し、敵の数を調べる。

聖殿の椅子に一人そしてもう一人は……

「後ろ」

ジルは風のように体を反転させ後ろからナイフで襲ってきた男の顔に横から蹴りを入れる。

「カッ!!」

すると聖殿奥で顔を出す男が一人。

「てめえええ!」

「バカ顔を出すな!!」

だがすでに遅い。ジルはコートから雪玉を取り出し高速で投げつける。

二人目も昏倒した。

「チッ!!」

男は煙のようなものを出し逃げようとする、黒煙だ。

数秒後その場から男の姿は無くなっていた。

すぐにファセットとラズリに近づき口の紐を解くと、

「おそい!」

二人から怒られた。

しかしまだ安心してはいけない。

「ジル早くこれ取れないの」

ファセットが言うと一緒に縛られているラズリが口を開く。

「無理ね、この赤と青の線どっちか切らなきゃならないんだけど、まあどっちかが当たりでどっちかが爆発よ」

それぐらいジルでも分かっていた。ただ今は……

「ジル!切るなら青ね」

「何故よラピス」

ラズリが不機嫌そうな顔を見せる。

「だって私の色だし、それにジルとの赤い……」

ファセットの顔は赤くなる。

すると今度はラズリが、

「ジルコニア! 赤を切りなさい!!」

と声を上げる。

その間静かにジルはある人物を待っていた。

「ジルコニアあなた何を考えているの?」

ラズリがジルに質問した時だった。

急に聖殿の扉が開き一人の体つきのいい老兵が現れすぐに叫んだ。

「ジル! 赤を切れ!」

ジルは喜びの声を上げる。

「さすがだよ! ラルド!」

そういうとジルは赤の線をナイフで切ったのだ。

「あっ!」

すると爆弾の不穏な音は止まった。

「どういうことよ説明しなさいジルコニア!」

「ん……ああ騎士団にさっきの奴を捕まえてもらったのさ」

「どうやって?」

「まああとはラルドに聞いてくれ俺は疲れたよ」

その場をあとにするジルであった。