第一話

 

ジルコニア・バテライトという青年はこの町の相談役に回ることが多い。

町の人たちからは『ジル』と呼ばれ、慕われている。

この物語はそんな青年の物語である。

『コンコン』

誰かがジルの部屋のドアをノックする。

「ジル、起きてる? 部屋入るわよ」

彼はその女性の声を聞いて、ベッドの布団の中で動き出す。

部屋のカーテンは閉まっている。

この時期は春夏秋冬に分けると、春に差し掛かっておりまだ肌寒い。

今日はフェリス国で定められている祝日であり、聖王誕生日でもある。

言わば町は祭の状態で騒がしい。

しかし、普段から寝起きの悪いジルは今もベッドの中にいる。

今日、彼の部屋に来るような女性は一人しか思い浮かばない。

幼馴染のシエラだ。

シエラの家族には子供の頃から世話になっているのでジルは頭が上がらない。

ジルはベッドからゆっくりと起き上がる。

ボサボサの黒髪を掻きながら、

「数分だけ待ってくれ!」

ジルは朝一番の声を出した。

薄暗い部屋のカーテンを開き、ジルは着替えと身を整え始めた。

歯を磨き、顔を洗い、黒い髪を整え、いつものジャケットを最後に着る。

「まだなの!」

シエラはどうやら少々不機嫌な様子だ。

女性は『待つ』ことがあまり好きではない。

シエラもそんな普通の女性の一人だ。

少しばかり鈍感なところがあるジルは『まあいつものことか』と思い、着替えると部屋を出た。

「遅い!!」

「わ……悪い……」

今日は予想以上に怒られた。

『ムスッ』とした表情でシエラは腕を組んでいる。

ジルは予想以上に彼女を待たせてしまったらしい。

彼はシエラの機嫌を良くしようと楽しい会話を目指しながら、二階にある自分の部屋から一階に降りた。

ジルはテーブルに向かいシエラが用意した食事を見る。

シエラはたまに来てはこうして食事を用意してくれる。

彼女の家は宿屋を営んでおりとにかく料理も美味い。

今日の朝食はベーコンエッグにパンとクレソンで取れる新鮮な野菜のサラダだ。

ちなみにこの家は彼女の父の借家であり、シエラもジルの家の鍵を持っている。

ジルとシエラは椅子に座り、サラダを皿に盛りながらある話をする。

「あれからもう五年も経つのね」

シエラはどこか嬉しそうな顔をした。

「まだそんな話を信じているのかよ……」

ジルはパンを一口サイズに千切る。

五年前のこの日、フェリス国前聖王は亡くなり新たな聖王が誕生した。

その際、時機を狙って聖王国を乗っ取ろうとする反聖王派の計画がまことしやかに噂として流れた。

そして、この計画を阻止したのが『ルーダー』と名乗る男だったという話だ。

彼は万の敵を撃退したという。

力を使い敵を薙ぎ倒す。

言わばこの国の英雄だ。

だがこの話はウソであるというのがフェリス国の常識である。

それ程の人数を壊滅させる程の出来事だったら目立つはず。

さらに地方の人間が王都に行ってこの話をしても鼻で笑われた。

これが理由であろう。

ジルとシエラはそんな話をしながら食事を終える。

この後は町のバザー会場に向かう予定をたて、一度別れることにした。

ジルは家のキッチンを見てはとりあえず石鹸や食材が切れかかっているのを知り、一足早く町へと出ることにする。

ジルの家は町の北側に位置する。

そこから彼は南にある中央商店街に向かい歩き始めた。

ジルは少し傾斜のかかった道を下りながら人々の賑やかさと気持ちのいい青空から『今日も平和だな』と思った。

ジルは商店街に向かう坂を下りていると、配達物を届けている郵便屋さんと出会う。

「よっ! ジル。今日は奥さんと一緒じゃないのかい? ははは」

この町の郵便局の配達員である彼は、ジルのことを子供の頃から知っている。

ここでの『奥さん』とはもちろんシエラのことだろう。

シエラのことだがジルは、特別好きだとは思っていない。

彼女は確かにいい娘なのだがそれは長年一緒にいた結果、彼の中で家族という存在になっていたからだ。

そんな話を配達員としていると突然事件は起きた。

「このクソガキ! なんてことしやがる!」

中央商店街から近くにあるバザー会場。

そこからざわざわとした物々しい雰囲気が伝わってくる。 

バザーが開催されている会場から怒る声が聞こえた。

ジルはその雰囲気の原因を探りに人だかりの中をかき分けて行く。

別に興味があるわけでもなかった。

それが彼の仕事であり、さらに言えばその人だかりの原因となっている中心人物の姿に見覚えがあったからだ。

「まさかとは思ったが……」

そこには割れた銅像と体格のいい大男、もう一人は十代後半であろう赤のベレー帽が似合う全身赤色の服装に身を包んだ女性がいた。

違うところといったら栗色の長い髪の毛と白のソックスくらいであろう。

今更だがこんな場面に出くわすくらいなら家で二度寝でもしていればよかったと後悔するジルであった。

隣にいた男性に話を聞くとどうやら女性が男の売っていた銅像を壊したらしい。

『いきょうと』と彼女は何度も呟いていた。

すぐにその女性の姿を理解したジルは行動に移る。

「いや~すみませんうちの姪がそちらの銅像を壊してし……」

ジルは睨み合うその女性と大男の間に入っていく。

だが間髪入れずに彼女は無言で銅像の頭を踏みつける。

「てめえ!」

大男は女性の頭をつかもうとするが一瞬でそこにいた女性の姿が消える。

そこには壊れた銅像と大男と人だかりだけが残った。

ジルは息を切らしながら女性の手を引き、北側にある自分の自宅に向かって走る。

数分後たどりつくとすぐに自分の家の中に女性を入れた。

「大胆」

「ふざけんな!」

女性は息を切らした様子もなく、むしろジルの方がよほど疲れた様子だった。

それはジルの使用する魔法の力である。

走る速度を上げる力、ジルは風の魔法をよく使う。

「ところで私に魔法で何かした?」

そんな言葉を女性が自分の帽子を元の位置に戻しながら話した時だった。

『ガシャン!!』

物が落ちる音が家中に響く。

その音の先を見ると衝撃的な表情をしたシエラが立っていた。

どうやら笑みを浮かべてはいるが目は笑っていない。

「ねぇどういうこと……詳しく聞きたいわ」

ジルは何故女性を自宅に連れ込んでしまったのかと後悔した。

もう一度女性の手を握りジルは入ったばかりの家を出る。

まだ外には大男は来ていない。

とりあえずジルは呪文を言うと彼女の手を引き、また走り出した。

この時ジルは家に魔法で鍵をかけた。

女性は彼に対し何も言わない。

「まて! ジル!」

ジルの家の中シエラは壊れた食器をそのままにし、逃げた彼を追いかけようとする。

そして、シエラはドアを思い切り開けようとした。

しかし何故かドアは開かない。

「あれ開かない? また魔法! 馬鹿!!」

シエラはその場で叫んだ。

そんなシエラをおいて、ジルと赤い服装の女性は町の外へと逃げ出した。

何度も人とぶつかりそうになりながらもジルは女性の手を決して離しはしなかった。

「どこまで走るの?」

女性は口にする。

いつのまにかジルと女性は町と草原が一望できる丘の上まで走っていた。

「あ~疲れた」

後悔の念と共にジルは草原の大きい平らな岩の上に胡坐をかきながら下を向いた。

これからどうするかを考える。

「なあ君は……王……」

ジルは後ろにいるであろう女性に尋ねようとする。

だがジルの後ろで女性は草原の一点を見つめていた。

「何か向かってくる……」

(今度はなんだ)

ジルは女性の方を向く。

彼女の視線の先を見ると、一匹の凶暴そうな魔物がこちらに向ってきているのが分かった。

大型のリザードだ。

リザードとは聖王都から南西にいる凶暴な魔物である。

普段はここにいる魔物ではない。

何故ここにいるかは分からなかった。

「君の名前は?」

唐突にジルは女性の目を見て名前を聞く。

「えっ?」

「きみのなまえ!」

ジルは女性にもう一度聞き直す。

「私の名前は……ファセット」

「わかった俺はジル。ジルコニア・バテライトって名前だ」

ジルの顔は真剣だ。

「ファセット少し離れていてくれ」

ファセットはすぐにその場から離れる。

「一瞬だからな。」

ジルは小さく呟く。

するとバザー会場の時と同じ風が走った。

瞬間彼は二本足で立つ数メートル先にいたリザードの背後に回り込み、蹴りを一撃横腹に入れる。

リザードは一瞬で昏倒した。

ファセットは信じられない者を見たかのような顔をする。

続いてファセットはこう言った。

「ジル……お見事」

さてリザードが昏倒している間、ジルとファセットは町よりの方に移動した。

『ふう……』

ジルとファセットは一息ついた。

ファセットはあまり表情を表に出さなかった。

ジルは少し尋ねようとした。

しかし、それより先にファセットが驚いた表情で近寄ってくる。

「驚いた。人間ってあそこまで速くなれるのね」

ジルの顔を覗き込む。

「それよりその服装はなんだ? 全身真っ赤だぞ」

ジルはファセットの服装が気になった。

「この国を救った英雄部隊、赤い風の服装よ」

(またこの話か)

「全く馬鹿げた話だ。ところで君は王……」

ジルは先程から言おうとしていたことを伝えようとするが、また彼女に途中で遮られる。

「ところでさっきの娘はいいの?」

「あ……」

同じ頃、ジルの家の前は騒がしかった。

「先生に姪だってよ」

ジルの家の周りはやけに騒がしい。

「ジルに恋人が?」

「二股? シエラかわいそう」

町はこの話題で持ちきりである。

「んじゃあ何かい? 嬢ちゃんはこの家に魔法で閉じ込められたってのかい?」

銅像を売っていた大男はシエラを心配していた。

「ジル!! シエラを返せ!」

隣に住むシエラの父親も大声で叫ぶ。

親身になって聞いている大男は突然大きなハンマーを持ち出した。

「ちょっとまってな嬢ちゃん! 今ハンマーでぶち破ってやるからな」

大男はとうとうハンマーを持ち出し扉を壊そうとする。  

「待った! 待ってくれ!!」

ジルが先ほど銅像を壊した女性と現れる。

彼は急いで鍵を取り出すと家の扉を開けた。

その時ジルはまた一言だけ小さく呪文を唱える。

周りはジルとファセットに白い目を向けた。

扉を開けるとそこには泣き顔のシエラがいた。

手には包丁が握られている。

「ジル? 誰ソノ子……」

(あれシエラさん先ほどまで泣かれていたのでは……)

様子を見てた人達は焦り始めた。

シエラの父親は額に汗を垂らしながら自分の娘に恐怖を覚えた。

父親は初めてだった。

シエラがこういう行動を取る子だと知るのは……

「シエラまずはジル君の話を聞こう……」

「嬢ちゃん俺もその方がいいと思うぜ……」

大男までもが焦り出す。

そして今回の関係者は皆、町会議場に行くことになった。

ここは町会議場の会議室。

会議室にはこの町の代表達が集まっていた。

「ファセット、話を合わせろ」

ジルはファセットに小さく呟く。

彼らはことのいきさつを町長たちに説明した。

ファセットのこと、壊した銅像はジルが弁償すること、そしてリザードがでたことを説明する。

「リザードが出たのは本当だろう。昨日目撃が何件かでている」

町長のシグルドは言う。

シグルドはこの町の町長であり、歳は四十である。

「すまない、この話はこれで終わりにしてもらいたい。次に皆に聞いてもらいたいことがある」

シグルドはいきなり話を変える。

「町長! その話はまだ!」

町長の秘書官が慌てる。

「いやどうせわかる事だ……」

「しかし!」

秘書官は止めようとするがシグルドはその場にいた皆に厳しい眼差しを向ける。

ジルは表情を曇らせた。

「竜の報告がきている……それも二体だ」

その場にいた全員が固まった。

「王都に知らせは?」

「とっくに出している」

ジルの問に真剣な表情でシグルドは答える。

物腰静かなジルであったが、内心は焦っていた。

(竜……一体で町を破壊できるほどの魔物だっていうのに……)

「この町の衛兵と騎士団を合わせて何人だ町長?」

ジルはシグルドに今戦える戦力を聞く。

「五十人だ」

シグルドは椅子に腰かけながら息を吐く。

「たったの五十だと! それでどうやって、竜二体を追い払うっていうんだ!」

別の代表からシグルドは怒鳴りつけられる。

「隣町のウェンガーからの支援は?」

ジルはシグルドに質問する。

ウェンガーとは隣町の名前である。

そこへ会議室の開いていた窓から一羽の伝書鳩が入ってきた。

「……」

「どうした町長?」

シグルドはただ一人不気味な笑みを浮かべていた。

「ウェンガーはもうない……おまけに王都は騎士団も出さないらしい」

どうやらウェンガーの町は竜に襲撃され崩壊。

まさにクレソンは最悪の状態に追い込まれていた。

竜とは何か……それは太古の昔から存在しており、初代聖王の竜殺しがこの世界では『聖古書』と言われる歴史書に載っているほど有名な伝説だ。

時に竜族とも言われる。

竜の鱗は鋼よりも固く、体長は五メートルのものから三十メートル近くのものまでいる。

何より竜の強靭なあごは、力があり、体内から毒ガスや火を噴くものまでいる。

非常に危険な魔物だ。

そのため初代聖王と竜族との間ではある契約が結ばれている。

聖古書では『平和の契約』と書かれていた。

だが一年ほど前から南の地方で竜が人間を襲う事例が発生しており、初代聖王と竜族との契約はどうなったのか不思議に思う者もいる。

「おい! 竜が来るぞ!」

いきなり会議室の外は慌ただしくなる。

「誰だ! 竜が来ることを言ったのは!」

会議室の外がうるさくざわめき始めた。

近くの代表と騎士が戸惑う。

勿論その部屋にいた誰もが外に話が漏れたことへの危機感を抱いた。

これにより町が混乱してしまうからだ。

「どうするつもりだ町長! これは非常にやばいぞ……」

ジルは町民に竜の情報が漏れたことが非常に苛立たせた。

「しかたないすぐに町に知らせを出せ!! この町に留まるようにと」

「まさかこの町を戦場にするつもりか!?」

ジルはシグルドの問いに必死になって答える。

「ジル頼みたいことがある……」

「まさか町長……戦う気か?」

ジルは顔をしかめる。

「ああ……あとは頼んだぞ」

シグルドはそう言うと会議室を出て行こうとする。

「町長どこへ!」

皆がシグルドの顔を見る。

「これより竜族の撃退を始める!」

シグルドは声を上げた。

「町の民を北側のマドリード広場へ誘導しろ! 一人残らずだ。それと隊を二つに分けろ」

シグルドは会議室を出ていく。

先程までバザーが開催されていた中央広場。

ここに集められた騎士団にシグルドは号令をかける。

「町や家族の為に死んでもいいというやつだけ来い!! 話はそれだけだ。他はジルコニア・バテライトに任せる」

シグルドはその場を後にする。

周りの衛兵と都から来た騎士団は慌ただしかった。

「俺はいかねえからな! あんな化け物と戦ってられるかよ」

逃げようとする者。

「家族のためなら……」

そういう者まで様々だ。

実際皆の心は平常ではなかった。

そしてジルも……

「ジル……大丈夫?」

シエラが心配そうにジルの顔を見る。

「ああたぶんな。それじゃほかの商店街の人に連絡頼むぞシエラ」

「う……うん!!」

ジルの判断は早かった。

すぐに商店街の人達に今までの話をする。

ジルは商店街を取り締まっていることで有名だ。

まずはその人たちに手伝ってもらうことにした。

とにかく誘導に協力してくれる人が少なかったためだ。

そして避難誘導へと移ることになる。

まず町の南側からマドリード広場へは三つのルートがある。

一つは中央通りルート。

二つ目は川沿いのルート。

三つ目は酒屋が並ぶ裏通りのルートだ。

この町を知り尽くしているジルだからこそできることがある。

避難誘導は早く進んだ。

ジルは慎重に呼びかけ南からくる人達を速やかに誘導する。

「慎重になってください!」

シエラもファセットも順調に事を運ぶ。

「よしこれで全員だな……騎士団は安否確認を……」

その時、遠くから大声で叫ぶ者がいた。

「おい竜が来たぞ!!」

町の人達だけでなくその場にいた騎士たちも怯え始める。

とうとう竜が町へ入ったらしい。

「くそ……悪いシエラ。ファセットと町の人を任せた」

「ジル!!」

ジルは町の南側へと走りだそうとする。

シエラは心配になった。

その時……

「ジル……」

ジルはふとファセットの方を振り向く。

「むっ!」

(キス……)

「ファセット……お前」

「聖王のご加護がありますように」

「キス……」

シエラ頬を上気させへたり込む。

「ま……まあ、あとは頼んだ」

そういうとジルは南広場へと走り出した。

ジルコニア・バテライトという人間はこの町の相談役という特殊な役職を与えられている。

主に町長の目が届かないようなことを解決する職だ。

ジルはよく『あのクソ町長め』と愚痴を言うことが多い。

言わば町の面倒事にはジルがよく関わっている。

「シエラ~ジルさんは?」

「シエラ?相談役は?」

人は不安になると上の人間に頼りたくなるものだ。

それは仕方がないことである。

「皆さん落ち着いて!」

「ファセット! あなたも少しは……あれ、いない」

近くにいたはずのファセットの姿はなかった。

その頃ジルが向った南広場では、戦闘が始まっていた。

「騎士団、弓を引け!!! 狙うのは竜の眼だ!!」

町長であるシグルドが指揮を執る。

「すぐに守備を固めさせろ! 次の隊あとに続いて槍を持て!」

しかし指示はしているが肝心の騎士団の矢は竜の眼には当たらない。

おまけに士気も上がらず状況はきわめて危険な状態であった。

南広場の周りは二階建ての家が囲んでいる。

近くには花壇があるのだが今や竜に踏みつけられ、見る影もない。

おまけに家も瓦礫と化していた。

竜は騎士を尾で振り払ったり爪で攻撃する。

騎士の中には戦意喪失してる者までいた。

そこにジルがやってくる。

「あんなんじゃだめだ!!」

ジルは息を吐く。

「二十メートル級一体だけか、なら!」

叫ぶと、すぐに喪失している騎士から弓と矢を取る。

「ごめん! 借りるよ」

騎士に語りかけ、ジルは急いで弓を引き竜の眼に矢を放つ。

「当たってくれよ……」

ジルの放った矢は真っ直ぐに飛ぶ。

まるで風の抵抗を受けていないかのように。

「ぐるるるるああああ!!」

竜が吼える。

見事に矢は竜の眼をとらえた。

「今だ!! 全員槍に持ち替えよ、狙うは関節だ! 私に続け!」

シグルドは叫ぶ。

するとシグルドは先陣を切り、走りだした。

槍で竜の足の関節を狙う。

その槍は見事に竜の関節を突く。

竜とシグルドが互いに叫んだ。

続いて全部隊の槍が一斉にシグルドの名指しした箇所をつく。

勝てるかもしれないい。誰もがそう思った。

話は変わる。

町の北側避難所では、ある話題で騒然となっていた。

シエラや大人たちが数名が集まって何かを話し合っている。

突然シエラが声を上げる。

「本当なの? 東地区の孤児院にまだ子供たちが残されているって!」

シエラとその場にいた全員が固まる。

「シエラ! 声が大きいぞ!」

シエラの父が叱責する。

シエラは静かに、

「すみません」

と顔を赤くした。

「東地区孤児院といえばセント孤児院だな」

シエラの父が地図を地面の上に広げた。

「院長はどうした! 何故避難してこない!」

意見が飛び交う中、シエラの近くにいた数人が困っている。

「もしかして、あれが原因じゃねえのかい?」

「ああ……あれのことね……」

数名の大人たちは何かを知っている様子だった。

「あれとは何んだ?」

シエラの父が訝しげな表情をする。

「ほら……この前ジルさんともめてたじゃない? 孤児院のことがどうたらこうたらって」

「そんなことで……」

どうやらジルと院長の間で一悶着があったらしい。

(町長もジルもいない中どうすれば)

シエラは考える。

「シエラねえちゃん……」

「ん? どうしたの? リート」

リートはジルのことをいつも慕っている子の一人だ。

リートは妙なことを口にする。

「あの……俺見ちゃったんだ。あの赤い服の姉ちゃんが東地区の方向に行くのを……」

シエラは驚いた表情をする。

「それほんと! リート!?」

「そんな頭ゆらさないでよ~」

シエラはリートの頭を揺さぶる。

リートの話はこうであった。

町の子供たちの間で孤児院のことを話していたところ偶然ファセットに聞かれたらしい。

そのままファセットは南に走っていった。「もう!! ファセットもジルも何なのよ!!」

シエラは怒っていた。

話はまた南広場に戻る。

「ちょ……町長! 二十メートル級……二体目が!」

一人の衛兵が叫んだ。

「ちっ! どうした!!」

シグルドは叫ぶ。

「は……はい! 竜一体が東門を破壊!! 東地区に入り込んだようです!!」「ちっ、なんだってこんな時に!!」

その時である、竜が咆哮をあげる。

「やばい全員盾に持ちかえろ! 竜の火焔がくるぞ!!!」

その数十秒後南地区は竜の火焔につつまれることとなる。

東地区孤児院内部。

「ああ聖王様……我々をお守りください」

院長である老人は祈っていた。

「先生逃げましょう! ここも危ないですよ!!」

「なりません。誰があのような者達のところになんか」

「しかし子供たちが!」

突然、孤児院のドアが開く。

そこには赤いベレー帽をかぶった女性が立っていた。

赤い女性は院長の近くまでやってくる。

そして口を開いた。

「なにをやってるの? このままだと全員死んでしまうわ」

「それが聖王の御心ならば」

院長はただ一言だけ呟いた。

「なら私もここに残るわ」

ファセットはそういうと孤児院の子供たちにポケットから大量の飴玉をとって一人ずつ子供たちに手渡した。

「ぐるるるあああ!!」

遠くで竜の鳴き声がする。

もうだめなのだろう、ファセットは思い返していた。

優しい父と母のこと、姉のことや弟のこと、一人一人の顔が出てくるそして『あの方』の姿も。

ファセットは目ゆっくり閉じて眠る……

それから数時間たったのであろうか。

「ファセット大丈夫!!!」

目の前にはシエラがいた。

「竜は?」

ファセットはいつの間にか眠っていた。

「それがね……この孤児院近くまで来た形跡はあるのよ。ただ……」

「ただ?」

「竜がいないのよ……」

シエラは不思議そうに言う。

ファセットも孤児院から外に出て不思議そうにその爪痕を眺めていた。

確かに竜がいた痕跡はあった。

誰かが倒したのであろうか。

「そういえば南地区は?」

「そっちは全焼よ……竜は逃げたみたいだけど……」

「ちなみにシグルドさんも無事、あの人運だけは強いから」

シエラは苦笑いをした。

「ところでジルは?」

ファセットはシエラに質問する。

「知らないわよ、あんなやつ……」

シエラは泣きそうになっていた。

「よっと、大丈夫だったか二人とも!?」

笑いながらジルはファセットの後ろからやってきた。

「最低! いったいどこいってたのよ!」

シエラはジルに怒鳴る。

「私も聞きたいわ」

ファセットも内心怒っていた。

「誘導だ誘導、町の人達のな」

こうして彼らは一度家に帰ることにした。

ジルは家に着くと苦痛の表情を浮かべる。

帰ってきた彼は、

「ははは……いてぇな」

とボソッと口にする。

服を脱いだ彼の背中は血で染まっていた。

さてこの話は東門でのできごとである。

ジルは東門に向かう裏通りを走っていた。

「クソ! あっちは誘導か!」

ジルは風の微妙な流れを読み、竜が東門かからくるのを感覚的に察知していた。

塀を飛び越えるジル。

走ったその先には門を破壊され、竜の雄たけびと共に衛兵が何人も倒れていた。

「ちっ!! 二十メートル級か……」

ふいに周りに使えそうなものはないかと見る。

だがそこにはこの場にいてはならない人物がいた。

孤児院に赤い女性が入っていくのが見える。

「ファセット! クソ!!」

ジルはただ一人、竜に戦いを挑んだ。

竜は尾を振り落す。

それを避けるジル。

だが竜の尾は家の壁に当たりその瓦礫がジルの背中を襲う。

「チッ!!」

瓦礫の下敷きからジルは何とか這い上がる。

そこには年端もいかない少女が血まみれで倒れていた……

ジルの中で何かが切れた。

「何故お前達はこんなことをする!」

ジルは竜に大声で叫ぶ。

すると竜は、

「にんげん!! 欲深いな! 欲深いな!」

竜には知性があった。

人の言葉を理解しそして話す。

「いい加減に……しろよ……」

ジルは拳を強く握る。

竜はさらに雄叫びを上げる。

「ぐぅるるるああああ」

「来い……グングニル」

ジルは小さく言葉にすると周りの風が結晶となり一本の槍となる。

「こいつだけはゆるさねえ……」

竜はジルに向けて火炎を出す。

ジルはグングニルと言う槍の先を火炎に向ける。

すると火炎の軌道が簡単にずれた。

一瞬ジルは一息入れ、次にはその槍を竜に向けて思い切り投げつける。

投げた槍は全ての瓦礫を巻き込み竜に向かっていく。

竜は避けられなかったいや避けようがなかった。

竜と瓦礫は槍に飲み込まれ、はるか彼方へと飛んでいく。

その場には血まみれの少女とジルだけが残った。

ジルはすぐに少女に近づく。

「ケホッケホッ」

どうやら少女は生きている。

ジルはすぐに少女を抱き救護班の元へと向かった。

そのころ南広場では竜が出した火炎により、大変なことになった。

しかし、竜は火炎をまき散らした後、その場にはもう姿はなかった。