魅藍と優希、そして芽衣子は楓が運転する黒いオープンカーで海沿いの道を走っていた。
以前、楓と二人きりでこの開け放たれた車に乗ったときはまだ少し寒かったけれど、いまは春の陽射しに加えて頬を撫でる風もあたたかく、前にも増してドライブ日和だ。
今回の旅行は、魅藍と優希は卒業ではないが、「せっかくだからみんなで行こう」と楓たちが誘ってくれた。
目的地は、海沿いにあるミラクルハナランド。ジェットコースターの種類が豊富な遊園地で、一日じゅう楽しめるという噂だ。
(ミラクルハナランドも、来るのは子どものとき以来)
幼少期はせいぜいメリーゴーラウンドに乗る程度だった。いったいどんな絶叫マシーンがあるのだろう。楽しみでならない。
「よしっ、さっそくあれに乗ろう!」
ミラクルハナランドに到着し、入場ゲートを潜るなり楓が指さしたのは、この遊園地でいちばん目立つジェットコースターだ。
「はい!」
ところが返事をしたのは魅藍だけだった。
優希と芽衣子は顔を青くして、目の前に聳え立つ真っ白なジェットコースターを呆然と見つめている。
「……私は、アレにする」
それから芽衣子が指さしたのは子ども向けと思われる小さなジェットコースターだ。
「じゃあ私も」
すかさず優希が同調して、結局は別行動することになった。
魅藍は楓と二人でジェットコースターの列に並ぶ。
「芽衣子先輩、絶叫系が苦手みたいですね」
「そうだねー。優希ちゃんも、そうみたいだね。遊園地、イヤだったかなぁ?」
思案顔の楓を横目に魅藍は優希と芽衣子の姿を探す。子ども向けのジェットコースターはそれほど混んでいなかったので、すぐに乗ることができたようだった。
「そんなことないと思います。だって、あんなに楽しそう」
優希と芽衣子は緩やかに下降するコースターの上で満面の笑みを浮かべている。
子ども向けコースターから降りたあとは、コーヒーカップのほうへと二人で駆けていった。
「はは、そうだね。二人ともはしゃいでる」
安心したのか、楓の顔に笑みが戻る。
「じゃ、私たちも楽しもう」
右手をギュッと握り込まれ、ついどぎまぎしてしまう。
「あ、あの……?」
「だって、こんなに人がいっぱいいるんだよ。手を繋いでないと、はぐれちゃう」
「そ――そうですね」
魅藍は楓の手を強く握り返した。
――だって、次はいつ先輩の手に触れることができるかわからないから。
(この感触を……ずっと、覚えていたい)
でもきっと、いつか忘れてしまう。
先輩もきっと、いつか忘れてしまう。
忘れたくない。
忘れられたくない。
どうしたら、先輩の心にずっと残っていられるのだろう――。
二人でさんざんジェットコースターを楽しんだあとはお化け屋敷に入った。
「なに、もしかして怖い?」
入り口でそう話しかけられ、魅藍は正直に「はい」と答えた。
「大丈夫、全部つくりものなんだから」
楓は余裕たっぷりにそう言ってお化け屋敷の中へと歩いていく。
「あ、待ってくださいっ」
魅藍は小走りで、慌てて楓を追いかけた。
「――っ、わぁ!」
お化け屋敷に入って数秒の出来事だ。
突然、目の前に現れたミイラ男に大いに驚いたらしい楓が魅藍に抱きつく。
「せ、先輩っ!?」
ミイラ男にも驚いたが、それ以上に先輩だ。
お化け屋敷に入る直前まであれほど余裕綽々だったというのに、いったいどうしてしまったのだろう。
「あぁ、びっくりした! もうっ、心臓に悪いなぁ」
その後も楓は「ぎゃっ!」だとか「わぁっ!」だとか「ひぃッ!」と悲鳴を上げながらお化け屋敷の中を進んだ。
「……先輩、大丈夫です。『全部つくりもの』ですから」
楓のあまりの驚きようが目に余ってそう言った。いっぽう楓は上の空で「そうだね」とだけ呟き、きょろきょろとあたりを見まわしている。
「あ――」
魅藍が急に立ち止まったので、楓は「えっ、なに!?」と取り乱してあたりを警戒した。
「い、いえ……。早く行きましょう」
「ん? うん」
そうして二人はふたたび歩きだす。
(楓先輩の胸……が、当たってる)
右腕に感じる、温かくて柔らかいものの正体は先輩の胸に違いない。
それを過剰に意識して、両手両足が同時に前へ出る勢いで狼狽えた。
魅藍は心を無にしてお化けの巣窟を突き進む。ゾンビに追いかけられても、少しも怖くなかった。楓の胸の存在感に比べればどうということはない。
出口が見えてくると、楓は朗らかに「もうすぐだね」と笑った。
「ひゃっ!?」
叫び声を上げたのは魅藍だ。
もうあと一歩で外へ出られるというのに、楓は魅藍の体を引っ張って角に連れ込んだ。
唇にちゅっと口づけられる。
「お化け屋敷、けっこう怖かったから。キスすると、ホッとする」
暗がりの中で、楓の安心しきった顔だけがぼんやりと浮かび上がっている。
「魅藍ちゃんは? 安心、しない?」
答えを言う前に、ふたたび唇を塞がれた。
「んぅっ……」
安心――というよりむしろ、よけいにドキドキする。
それでも、唇を合わせていられるのは幸せで、気持ちがよかった。
「どうぞ、入って」
これぞ日本、と言わんばかりの立派な旅館の前で、芽衣子が手招きをする。
「お、お邪魔します」
魅藍は上ずった声を出し、靴を脱いで旅館の中へ入った。
この純和風の旅館は芽衣子の実家である。芽衣子の父親が経営している旅館なのである。
「こんにちは、お世話になります。これ、少しですが私たちからです。よかったらみなさんでどうぞ」
楓はカウンターで、菓子折りと思しき箱を受付の女性に渡していた。片手では持ちきれない大きな箱だ。
芽衣子には「私の家に泊まりにくるんだから宿代は要らない」と言われていたが、楓は気を遣って土産を持ってきていたものと思われる。
(私もなにか持ってくればよかった)
魅藍は、優希と芽衣子と別れるなり楓に言う。
「あの、楓先輩。私、なにも持ってきてなくて……」
「うん? ……ああ、私が旅館の人に渡したお土産のこと? 大丈夫、みんなからってことになってるから」
「じゃあ、お土産代を」
「いいって。先輩に甘えなさい」
楓は小ぶりのキャリーケースを畳の上に広げて、荷物の整理を始めた。手を動かしながら、魅藍のほうは見ずに、
「そんなことより、食事の前に……一緒にお風呂、入ろう?」
「おふ、ろ?」
小さな子どものようにカタコトで訊き返してしまい、恥ずかしくなる。
露天風呂付きのこの部屋に泊まるのは、魅藍と楓の二人だけだ。
ゆえに、なんでもできるわけだが――。
(な、なんでもって……私……!)
いったいなにを期待しているのだろう。
(女同士でお風呂に入るのなんて、べつにヘンなことじゃないんだから)
えっちなことをしよう、と誘われたわけではないのだ。意識するほうが『ヘン』だ。
ふと先輩を見やれば、すでに服を脱ぎ始めていた。
魅藍はパッと視線を逸らす。
心臓が、『先輩の存在を過剰に意識しています』と言わんばかりにドキドキと高鳴った。
楓は魅藍の返事を待たずに早々とすべての服を脱いで、ガラス扉を開けて露天風呂へと行ってしまった。
(ど、どうしよう)
一緒に入ろう、と言われたのにあとから一人で入るのは気まずい。
かといって、一緒に入るのも落ち着かない。
(でも……)
こんなチャンスはきっともう、やってこない。
いま、先輩と触れ合っておかなければ、後悔するに違いない。
魅藍はゴクッと喉を鳴らして、白いブラウスのボタンに手を掛けた。
ボタンを外す手が震えてしまうのは、緊張か不安かあるいは期待からか。
おぼつかない手つきでなんとかしてブラウスを脱ぎ、スカートのファスナーを下ろす。
下着もすべて脱いでしまうまでに些か時間がかかってしまった。
一糸まとわぬ姿になった魅藍は手近なところにタオルはないだろうかと探したが見当たらなかった。
胸元を手で隠して露天風呂へ行く。
楓は円形の風呂の中に浸かっていた。岩壁に背を預け、気持ちよさそうに藍色の空を見上げている。
魅藍はつい、その横顔に見惚れて立ち止まった。
「どうしたの? 早くおいで。そんなとこに突っ立ってたら、体が冷えるよ?」
「は、はいっ……」
早足で歩き、かかり湯をしてから岩風呂の中へ足先を浸ける。湯はそれほど熱くなかった。
楓からは少し距離を取って胸まで浸かる。お湯は透明なので、裸体は隠せない。
「月、が……きれい」
ぽつりと楓が言った。独り言のようにも思えたが、魅藍は「そうですね」と言葉を返して空を見上げた。
陽が落ちて間もない薄闇色の空に、白んだ半月がぽっかりと浮かんでいる。
あの月は、これからもっと暗くなって空高く昇れば、黄色く輝くのだろう。
「――っ!?」
突如、肩に重みを感じた。
いつの間にか楓がすぐそばにいて、肩にもたれ掛かっていた。
「か、楓先輩……?」
「んん……こうしてると、気持ちいい……」
いまにも眠ってしまいそうな声音で楓は言葉を紡いだ。瞳が閉ざされているから、よけいにそう感じた。
魅藍は楓が目を閉じているのをいいことに、その顔や裸体をじろじろと見る。
長いまつ毛は湯気に濡れて艶めき、豊かな乳房は湯の中で揺らめいている。
先輩のすべてが魅惑的だった。
秘された脚の付け根は、どんなふうになっているのだろうと興味をそそられる。
少し前の自分ならきっと、そんなところに興味なんて示さなかっただろう。
(楓先輩のせいなんだから……)
先輩に体を弄られ、快楽というものを覚えてしまった。
もたらされる悦びの甘さを知ってしまったからこそ、それを施してくる愛しい人にも同じ悦びを返したいと思う。
先輩の顔を覗き込んだときだった。
急に楓の瞼が持ち上がって、茶色い瞳と視線が絡む。
「あんまり気持ちがよくて、眠っちゃうところだった」
ごく間近で、楓がいたずらっぽく笑う。魅藍の顔がすぐそばにあったことには少しも驚いていないようだった。
「あ、あの――」
これでは、寝込みを襲おうとしていたみたいだ。
顔を離そうとすると、楓の左手にそれを阻まれる。
後頭部を押さえられた魅藍はどうすることもできず、楓と唇を重ね合わせた。
「ふっ……ぅ、う……!」
くちづけは初めから激しかった。
すぐに舌が入り込んできて、口腔を隈なく蹂躙される。
「……っはぁ……魅藍、ちゃん」
切羽詰まったような表情の楓に体を抱き込まれる。ちゅ、と首筋に唇を押し当てられた。
「ん、んく……ぅ」
首筋で舌をなぞられると全身が粟立った。ぞくぞくとした甘い疼きが手足の先から脳天へと駆け上がってくる。
舐められるのは首ではなく胸がいい、などと思ってしまうのは贅沢だろうか。
胸の尖りを舐めてもらいたくて魅藍は身をよじる。すると、先端が楓の膨らみに当たって擦れた。
「自分で擦りつけて、一人だけで気持ちよくなろうとしてる?」
「ちっ、ちが……ちがい、ます」
否定したものの、無意識にそうしようとしていたのかもしれないと思い至って、言葉の最後のほうは消え入りそうだった。
「いいよ、一人で気持ちよくなっても。……ううん、一人じゃ、ない。魅藍ちゃんに乳首を擦りつけられると、私も気持ちいい」
「ほんとう、ですか……?」
楓は大きく頷いた。
魅藍は小さな胸を懸命に動かして、楓の乳房に乳頭を押し当てる。
湯のぬめり気がほどよい摩擦を生み、たまらなく心地がよかった。
「は、ぁう……う、んぅ……っ」
楓はただジッとして、魅藍が体を動かすのを微笑ましく見下ろしている。
魅藍の息遣いだけが荒くなっていく。
(ああ、どうしよう……。もっと、刺激がほしい)
乳首同士を合わせたい。
硬い二つの蕾を突き合わせて、擦り合わせて快楽に溺れたい。
魅藍は楓のようすを伺うためちらりと彼女の顔を見る。
「うん?」
楓は穏やかに微笑むばかりで、自分からは動いてくれそうにない。
魅藍は唇を引き結んでしばし逡巡したあとで、おもむろに楓の両胸を掴んだ。
「あれ、もしかして……乳首同士を擦り合いたいの?」
楓の質問にはただ頷くしかない。
「そうしたほうが気持ちいいって、覚えちゃった?」
魅藍はいまにも泣き出しそうな顔になって、楓の膨らみの先端を揺り動かして自分のいただきに擦りつけた。
「そう、です……っ! だって、楓先輩が……!」
「私が、なぁに」
気持ちよさそうに目を細め、楓は魅藍の頭を撫でる。
「ぁ、あぁ……楓先輩が……こんなふうに、したんです……!」
「そうだね……。魅藍ちゃんの言うとおり」
荒っぽく唇を押しつけられ、ただでさえ呼吸が乱れていたものだからますます息苦しくなった。
「はぁ、私も……気持ちいいよ。魅藍ちゃんの乳首、すごく硬いね」
「楓先輩も、です……っ」
四つの硬い乳首が湯面すれすれで、ぴちゃぴちゃと湯を撥ねながら激しく擦れ合っている。
「ん、んん……なんだか、嬉しいな……。魅藍ちゃんが一所懸命になってくれて。でも――」
「……っぅ、ふぅ……ッ?」
楓はなかなか続きを言わなかった。
どこか苦しげに眉根を寄せて、なにかに耐えるように瞳を潤ませている。
「楓先輩……?」
どうしたのだろうと思って呼びかけたものの、
「なんでもない」
それまでとは打って変わって朗らかな笑みを浮かべられてしまっては、それ以上はどうしようもない。
「魅藍ちゃん、お湯から上がって」
促されるまま、岩風呂の縁に座る。足先だけが湯に浸かっている状態だ。
「見えやすいように、脚を広げてね」
さも当然、とばかりにそんなことを言われたので、魅藍は「へぁっ!?」と驚嘆した。
「だって、薄暗いから。どこになにがあるのか、わからない」
楓は魅藍の両足の先に手を置き、そこから脚の付け根に向かってどんどん両手を這い上がらせた。
「見えなかったら、魅藍ちゃんのイイトコロを弄れないでしょ?」
陰唇に触れるか触れないかのところで楓は両手を引き戻した。ふたたび足先へ向かって下りていく両手にじれったさを感じながら、魅藍は「うぅ」と唸る。
楓はなおも両手を上下に動かして魅藍の脚を撫で摩った。
しだいに脚から力が抜けて、左右に開き始める。
「あ、開いてきた」
楓の口角がクイッと上がる。
「ふっ……う、んぅ、うぅ……っ」
「力を抜いて……リラックスして」
ぬめり気のある湯を潤滑剤にして脚の付け根までマッサージされる。
くすぐったさの中に微細な快感が入り混じり、たまらなくなる。
とうとう両脚は大きく左右に開いてしまった。自らそうしたのか、楓にそうさせられたのかわからない。
「上手にできたじゃない」
褒められると嬉しくなって、ますます顔が熱くなる。もともと、温泉の熱気に当てられていた。楓の手の心地よさとあいまって思考が鈍る。
「あ――」
すらりとした細長い指が秘めた裂け目を手探りする。
花芽のまわりをくすぐるように、指先は小刻みに左右に揺らめきながら秘核を一周した。
「ぁん、ぁ、あっ……」
自然と腰が揺れて身悶えする。
魅藍が身じろぎすることで、小ぶりの乳房が微かに上下する。それを見て楓は愉しんだ。
「いじわるしたいわけじゃ、ないんだけどね」
言いわけをして、楓はなおも花芯のまわりばかり指で辿る。
「魅藍ちゃんが可愛いから、つい焦らしたくなっちゃう」
大きく息を吐き、右手の人差し指を蜜口の浅いところまで沈ませた。
「ひぁあっ!」
指は入り口付近で右往左往するばかりで、奥へは進まない。楓の左手の指も同じで、淫核には触れなかった。
「あぅ、あぁうっ……楓、せんぱ……ぃ、あぁ、あっ」
早く『イイトコロ』に触ってほしい。
じれったくて、おかしくなってしまいそうだ。
「あぁ……すごくいい感じ」
「ふっ……?」
なにが『いい』のか魅藍にはわからない。
「ぬるぬる、とろとろ」
楓が勢いよく隘路から指を引き抜くと、中から蜜が噴き出して風呂の縁に落ちた。
「んぁあっ!」
いましがた空虚になった膣内に、楓の指がふたたび突き刺さる。
「触ってるだけで気持ちいい……」
惚けたようすで言って、楓はようやく魅藍の核心に触れる。
「あ、あっ、ふあぁああっ」
欲しかったところに、突如もたらされた刺激に、魅藍のほうがついていけない。
ぬめった指先で肉粒を捏ねられ、蜜洞の上側を執拗に擦り立てられる。
「ゃっ、だめっ……それ……あ、ああぁ、あっ」
魅藍が首を横に振っても、楓は指を動かすのを止めない。
「だめ、だめっ、なにか――あ、あぁああ、あぁあぁあっ……!!」
絶叫とともに魅藍の中から潮が飛び出る。
楓の顔や髪を濡らして、湯の中に散っていった。
(なに……? いま、の)
魅藍は息を荒げて呆然とする。
快感が瞬く間に膨れ上がったかと思えば、一瞬で爆ぜた。
尿とは違うなにかが噴き出して、楓を濡らしたことが衝撃的だった。なにが起こったのか、まったく理解できない。
「……体、冷えちゃったかな?」
混乱する最中、楓に腕を引っ張られて湯の中に入る。
体は冷えてなどいなかった。むしろ火照って、湯が冷たく感じる。
「魅藍ちゃん」
後ろから抱きつかれた。
いつものことなのに、いつもどおりではないように思えてくる。
柔らかな乳房が背中に当たっている。その先端が尖っているのが感覚でわかった。
「いままでありがとう。楽しい思い出、たくさんできた」
魅藍はなにも言葉を返せない。
――これきり、なの?
背のぬくもりと私の不穏な感情の関係は、計り知れない。