第二章 若葉マーク 

『デートしない?』
 おはようだとか、いまなにしてるだとか、そういう前置きはなく突然、そのメッセージがスマートフォンに届いた。
 布団の中、寝ぼけまなこで楓からのメッセージを読んだ魅藍は『喜んで!』と送ってしまったあとで目を見開いて布団から飛び起きた。
「デッ、デート!?
 ひとごとを紡ぎながらライムのメッセージを再確認する。ちょうどまた、メッセージがきた。
『じゃあ、迎えに行くね。三十分後で大丈夫?』
「さ、三十分後!?
 あわてふためきながら、クローゼットの扉をバァンと開いてデート服を物色しつつ、『大丈夫です』と返信した。
(あれっ、でも……『迎えに行く』って、どういうこと?)
 電車でどこかへ行くわけではないのだろうか。
(電車でないのから……歩いて?)
 このあたりは住宅街だ。デートスポットと呼べる場所は一つもない。
 そもそも、女の子同士で『デート』が成り立つのだろうか。
(ただ道を歩くだけでも、楓先輩と一緒なら嬉しいから、まぁいっか)
 魅藍は先週、購入したばかりのワンピースを手に取り、素早く着替えを済ませて洗面台へと急いだ。
 三十分後、マンションのエントランスから駐車場へ出ると、楓はすでにそこにいた。
「おはよう、魅藍ちゃん。急にごめんね」
「いっ、いえ……!」
 楓は黒い大きなオープンカーの前に立っていた。エンジンはかかったままだ。
「楓先輩の車……ですか?」
「うん、まぁ。実家のだけどね」
「そうなんですね。免許、いつ取ったんですか?」
「さて、いつでしょう」
 楓はニッと笑って、助手席のドアを開ける。
「ほら、乗って」
「は、はい。よろしくお願いします」
 ペコリとお辞儀をして魅藍は助手席に乗り込んだ。自分の家の車よりも座席が低いところにあるので少し乗り込みづらかったが、座ってしまえば助手席のシートは弾力があり、居心地がよかった。
 楓は運転席に乗り、サングラスを掛けた。ブロロロ、と大きな音を立てて車が走り出す。
「今日は天気がいいから、オープンでも問題ないね。すがすがしい」
 風は冷たいけれど車に天井がないぶん頭上からの陽射しがあるし、思いのほかエアコンが効いているので寒くはない。
「どこへ行くんですか?」
「さて、どこでしょう」
 運転免許の取得時期をいたときと同じ調子で返して、楓は前を向いたまま笑う。
 魅藍は家から駅までの道しか知らないので、楓がどこへ向かっているのかさっぱりわからなかった。
 オープンカーで軽快に走ること一時間。
 着いた先は郊外の水族館だった。
「ここ、来たことある?」
「はい、子どもの時に何度か。でも最近は全然」
「そっか」
 楓は早足でエントランス脇のカウンターへ行き、二枚の入館チケットを持って魅藍の元へ戻る。
「はい、魅藍ちゃん」
「ありがとうございます」
 魅藍がハンドバッグから財布を取り出すと、楓はその手を無理やりバッグの中へと押し戻した。
「いいのいいの、いきなり誘っちゃったんだし。私、バイトしてるからそこそこ小金持ちだし」
「でも――」
「もうすぐ卒業だから……先輩面せんぱいづらさせて?」
「……!」
 悲しげに笑って小首を傾げられれば、こちらはなにも言えなくなる。
 瞬時に込み上げてきた涙をなんとかして目の中に留めて、魅藍はふたたび「ありがとうございます」と礼を述べて頭を下げた。
 子どものころに何度か来た、という記憶はあったが、館内がどんなふうになっていて、どんな水槽があるのかということはまったく覚えていなかった。
 エントランスホールから入ってすぐ、背丈の何倍もある大水槽が出迎えてくれる。魅藍は「わぁっ」と声を上げてはしゃいだ。
 深海魚やペンギンの水槽を見てまわっていると、イルカショーの時刻を知らせる館内アナウンスが聞こえてきた。
「ショー、見よっか」
「はい!」
「行こう、こっち」
 左手を取られる。すると、先日の出来事が脳裏にパッとよみがえった。
 この柔らかな手が、胸や足の付け根の秘めたところに触れたのを思い出してしまい、顔が熱くなる。
 半屋外にあるイルカショーの会場はすでに人であふれ返っていた。
 魅藍と楓は水色の椅子の端に並んで座り、ショーの開始を待つ。
「ここ、水しぶきが飛んでくるかもね?」
「ええっ!? ど、どうしましょう!?
 あわてる魅藍を見て楓は口元を押さえて「ふふっ」と笑った。
「ウソウソ、たぶん大丈夫」
 魅藍は両手に作っていた握りこぶしを力なく膝の上に戻す。
「も、もうっ……楓先輩ったら」
 唇を尖らせていると、ポンッと軽く頭を叩かれた。
「水族館って、こんなに楽しかったっけ」
 魅藍の黒髪を、楓の指先がそっとく。
「……魅藍ちゃんと一緒だからかな」
 そうして微笑ほほえみを浮かべるものだから、魅藍は頬を赤らめずにはいられない。
 ――私だって、楓先輩と一緒だから……すごく楽しい。
 そう言葉を返したかったのに、気恥ずかしさが邪魔をしてきてなにも言えなかった。
 日がな一日、水族館を満喫したあと、二人は海をのぞむ高台へ向かった。
 陽が高くなる前に家を出たはずなのに、もう沈みかけている。
 オレンジ色の夕陽は海の下へと、早足で消えていく。
 楓は高台の柵に手をつき、沈む夕陽を眺めている。そんな楓を魅藍はチラリと盗み見る。
 夕陽に照らされた楓の横顔はきらめいて見えた。ライトブラウンの髪の毛が海風にそよぎ、陽光をきらきらと反射している。
「ん……? なぁに」
 楓がこちらを振り返る。
 見惚みとれていたとは言えず、魅藍は「あの、その」と口ごもった。
「きっ、今日は――なにからなにまで、ありがとうございました」
「ううん、こちらこそありがとう。付き合ってくれて」
 楓は微笑したまま視線を前へと戻し、ふたたび夕陽を見つめた。
 魅藍もそれにならって、半分以上沈んでしまった太陽を眺める。夕陽というのは、見ているとなんだか物憂げになる。
「はぁ……夕陽を眺めてると、なんかこう……ムラムラしてきちゃうな」
「へぁっ!?
 魅藍は頓狂な声を上げて楓を仰ぎ見る。
「魅藍ちゃんは? どう?」
「え、ええと……。よく……わかりません」
「そっか」
 楓がなにを考えているのか、いつもながらわからない。
(夕陽を見て……っていうのは、よくわからないけど)
 夕陽に照らされた楓をジイッと凝視していたのならばきっと、そういう気分になることだろう。
「そういうわけだから、ちょっとだけ……さわらせて?」
「えっ!?
 ――いったいどういうわけなの!?
 魅藍はあからさまに狼狽うろたえて、きょろきょろとあたりを見まわす。
「こっ、ここで、ですか……?」
 楓に『さわられる』のが嫌なわけではない。
 いまはこの高台には二人きりだが、いつだれが来るかわからない。
「じゃあ、車の中に行く?」
 楓の提案に、魅藍は小さくうなずく。
 車に戻ると、楓は運転席でなにやら操作をしてオープンカーの屋根を閉めた。
「どうぞ、中へ」
 後部座席に乗るよううながされたので、そのとおりにした。
 魅藍が車に乗ると、その後ろに楓も続く。
「……っ、ひゃ!」
 思いがけず声を上げてしまったのは、楓に押し倒されたからだ。
 陽はすっかり落ちて、あたりはいっそう暗くなっていた。
 薄暗闇の中、楓の顔が間近に迫る。
 目を完全に閉じるいとまもなく、楓に唇を塞がれる。ちゅ、ちゅっと、柔らかな唇が触れては離れていく。
(な、なんか……恋人同士みたい……?)
 ――実際、私と先輩はどういう関係なのだろう。
 学校の先輩後輩という関係からは逸脱いつだつしている。
 ただの先輩と後輩は、車の後部座席でこんなふうにキスを交わさない。
「……んっ」
 楓の右手が服の上から左の乳房をつかんだ。ワンピース越しに胸を揉まれる。
「ねぇ、薄暗いから……おっぱい、外にだそっか」
 唇が離れるなりそう提案されたものだから、魅藍はぶんぶんと首を横に振った。
「暗くて見えないから、ね?」
「見えないなら、隠したままでも……」
「だってそれだと、魅藍ちゃんの乳首を舐められない」
「な、舐め……っ!?
 目を白黒させる魅藍に、楓は何食わぬ顔で懇願こんがんする。
「うん。舐めたいの。……おねがい」
 白いワンピースの裾をゆるゆると引き上げられる。
「あ、あのっ、待ってください」
「んん……待てない。だって、早く舐めたいの。魅藍ちゃんの乳首」
「……っ!!
 中に着ていたキャミソールごと、首の下までまくり上げられる。
「ワンピースとおそろいの白いブラだね」
「みっ、見えてるじゃないですか……!」
「色くらいなら、なんとなくわかるよ」
 クスッと笑って楓は魅藍の白いブラジャーの下端をまんで、引っ張り上げる。
「あっ……!」
 ブラジャーの、背のホックは外れていない。無理やり押し上げられてしまった。
 魅藍はとっさに両手を前に持ってきて胸を隠した。小さな胸なので、隠すのは簡単だ。
「魅藍ちゃん。暗くてはっきりとは見えないから、腕を退けて?」
 優しい声音だ。でも、抗えないなにかをかもし出している。
「ね……? 魅藍ちゃん」
 両手首をそっとつかまれ、左右に開かされる。自分の意思では腕を動かせなかった。胸の高鳴りは最高潮に達し、息遣いまでも荒くなってくる。
 魅藍の手首を車のシートの上にはりつけにすると、楓は後輩の乳房を間近で凝視ぎょうしした。
「み、見ちゃ……イヤ、です」
「それほど見えてないよ?」
「ほ、本当に……?」
「ホントホント。うーん、魅藍ちゃんの乳首は、どこかなぁ。暗くてわからない」
 ふくらみの表皮ひょうひを手探りされる。
「ゃっ、くすぐった……ぃ、ですっ……!」
「だって、よく見えないから」
 先ほどから先輩の語調がいやにわざとらしいような気がするが、「よく見えない」と断言されてしまった以上、言及できない。
「はぅ、ん……んっ、んぅ」
 楓の指先は胸のいただきに、触れそうで触れない。この、むずむずとしたくすぶるような感覚はなんなのだろう。
 胸を撫でまわすのに飽きたのか、楓は頭を低くして赤い舌をのぞかせる。
「ふっ……あ、あぁ……っ」
 脇腹のほうから、熱い舌がふくらみの稜線りょうせんを上り始める。薄桃に色づいた部分までやってくると、忘れ物を思い出したようにまた脇腹のほうへと戻っていった。
 楓の舌は乳輪の際まで這うものの、ピンッと尖った胸飾りには触れてくれない。
(ああ……そっか)
 この感覚は『れ』だ。楓の舌が乳頭に触れないものだから、じれったくてたまらない。
「ねぇ、魅藍ちゃんの乳首はどこ? 教えて」
 湿った肌を熱い吐息が撫でる。
「こっ……ここ、です」
 魅藍は涙目になって、指で乳首の位置を示した。早く触れてもらいたくて仕方がなかった。
 楓の口が大きな弧を描く。
「ふふっ、魅藍ちゃん……かーわいい」
 舌先が薄桃色のトゲの根元からてっぺんまでをベロリと舐め上げる。
「ふあぁあぁっ!」
 すさまじい衝撃だった。雷を落とされたような、というのはさすがに言いすぎかもしれないが、体の隅々までビリビリと快感の波が伝わって、うねりを伴って甘くしびれる。
 楓はなおも魅藍の乳頭を下から上へと舐めた。たまに舌先が左右に蛇行だこうする。それがまた気持ちいい。
「ぁっ、あっ、ふぁ……んん、んぁっ……!」
 口から出てくるのは、自分のものとは思えない高い声ばかり。恥ずかしいのに、制御できない。
 楓が口を大きく開けた。そのようすを見て魅藍はビクッと全身を弾ませた。
 ちゅぷっと水音を立てて、胸の先が楓の口の中へと吸い込まれていく。
「ひぁああ、ぁあっ! ゃう、うううっ……!」
 乳首を吸われるのがこんなにも気持ちのいいものだなんて、いままで知らなかった。
 自分で自分の乳首は舐められない。胸が大きな人ならば可能かもしれないが、貧乳の自分には無理だ。
 もぎ取られてしまいそうなくらい強く吸われると、「あぁぁああっ!!」と大きな声が出る。下半身には触れられていないのに、脚の付け根がヒクヒクと震えているのがわかった。
 ちゅぽっと大きな水音を奏でながら楓は魅藍の乳頭を解放し、舌なめずりをする。
「ねぇ、魅藍ちゃんはさ……自分の体がどうなってるのか、ちゃんとわかってる?」
「ふっ……ぇ?」
 ワンピースをめくり上げられたせいでむき出しになっていた白いショーツに、細長い指先がトンッと乗る。
 ショーツ越しに茂みの上をくるくると踊ったあとで、指先は割れ目へ下りた。
「この小さな豆粒――おしっこが出るところね。これ、こすると気持ちいいよね」
 そう言って楓は指先を小刻みに動かして、秘めやかな肉粒を探り当てた。
「ぁ、あふっ……」
 指先でグリグリと秘核を押される。
「ねぇ、違う?」
「ち、違わない、です……!」
 はっきりと肯定しなければ楓は手を退けてしまうのではないかと思った。
 必死な形相の魅藍を見て楓は嬉しそうに笑む。それから、魅藍の反応を見ながら指を上下に動かして快楽の粒を刺激した。
「ぁん、あぁっ……ふはぁっ……」
 気持ちがよくて、息をするのを忘れそうになる。少し苦しくなって、つい呼吸を止めてしまっていたことに気がついた。
「魅藍ちゃん……直接、触ってもいい?」
 そんなの、いまさらだ。
 すでに恥ずかしい姿をさらしているのだから、じかにそこに触れられたとしてもどうということはない。このときは、そう思った。
 魅藍は首を小さく縦に振った。
 同意を得ると、楓はたのしそうに口角を上げてショーツの端から内側へと指をくぐり込ませた。
 楓の指が花芽をトントンッと素早くノックする。ショーツ越しにされるのとはまったく異なる刺激に、魅藍は驚いて「ひゃっ!」と叫んだ。
(や、やだ、どうしよう……!)
 隔てるものがないというだけでこんなにも快感に差が出るものなのか。
 それまでだって気持ちがよかったのに、もっと上があるなんて――。
 魅藍の乳房の先端を左手で丹念たんねんねながら、楓は右手の中指で蜜口を漁った。
 そこはよく濡れていた。あふれ出た蜜をすくい取って、花核に塗り込める。
「ふはぁっ、ああぁあっ……!」
 魅藍が色好いろよく反応するのを見て、楓は何度も愛液をすくっては、肉粒にぬめり気を足していった。
「ど、どうして、こんな……ヌルヌル……ッ?」
 えに魅藍が言う。
 もう、気持ちがよすぎてわけがわからない。
「えっちな液体があふれてきてるんだよ。魅藍ちゃんの中から」
「えっちな、液体……? ん、んんぅっ……」
「そう……。これがあふれてるってことは、すごく気持ちがいいってこと」
 さとすような声音だ。耳元に唇を寄せられる。
「どんどん出てきてるね。……嬉しい」
「……っ!!
 下腹部がきゅうっと締まったような感覚に見舞われた。
 楓の指が速さを増す。胸と花芯をいじる指の動きが、どんどん激しくなっていく。
「あっ、あぁっ……せんぱ……ぃ、あん、あぁあぁあっ……!」
 魅藍は瞬時に高みへと昇りつめた。
 体は下半身を中心に大きく脈打ち、そのあとに脱力感が襲ってくる。
 瞳には涙の膜が張っていた。
 ぼんやりとした、暗い視界の中で、どこか哀愁あいしゅうを漂わせて先輩は笑う。
 その姿は、なによりも鮮烈せんれつだった。