あとがき



 ある女性向け官能小説レーベルの仕事で、担当の女性編集長からいただいたアドバイス。

 それは、奥手なヒロインが流されるように性経験を重ねてゆくというパターンが、読者には好まれるということ。

 セックスに意欲的な肉食系のヒロインでは、読者が反感をいだいてしまうことが多々あるそうで……。

 まあ、そもそもが、決して性的にアグレッシブではない女性読者に刺激的なあれこれを疑似体験してもらい、そんな小説の楽しみ方を知ってもらうというのが、昨今の女性向け官能小説レーベルの役割なのでしょう。そして、そういったレーベルから原稿のご依頼をいただいたからには、私も与えられた条件の中で、読者の皆様に楽しんでいただけるように、自分なりにベストを尽くします。

 とはいえ、自分とはまったく違うタイプの主人公の行動や思考パターンを楽しむのも、読書の悦楽のひとつではあるはず。共感ばかりを作品に求めていたら、せっかく盛りあがりつつあったジャンル自体が、やがて読者に飽きられ(前向きな表現をすれば『読者がそのジャンルを卒業し』)、尻すぼみになってゆく恐れさえあります。

 よって、その女性編集長とは、たびたび、「女性向け官能小説でなんとか新しい境地を開拓できないものか?」と語りあってきました。とりあえずは、肉食系のヒロインが奔放に快楽をむさぼ るような話を、想像の中の性的冒険として楽しむことを、読者の皆様に提案できないものか……。

 普段からそんな思いを心にいだいてきたこともあり、官能コメディということで原稿依頼をいただいた本書では、主人公は性的に積極的なバイセクシュアルの女の子という設定にしてみました。

 しかし、相手役は、オナニストの処女。一見神秘的な美少女である彼女は、ひたすら自分のオナニーライフを充実させることばかり考えています。

 そんな二人の関係にうっかり足を踏み入れてしまった人のよい美少年は、たちまち、この女の子カップルに食い物にされてしまう。しかもこの彼、逃げるタイミングを逸し、完全に二人の世界に取り込まれるという結果に。

 そこにまた、タチのレズビアン美女まで加わって──。

 実際、性とは極めて多様なものであり、愛にも様々な形があります。

 近年、社会には異性愛者だけでなくLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスセクシュアル)などの性的少数派が存在するということを、一部の企業や行政も意識するようになり、社員・職員の研修でもその事実を取りあげています。テレビでも、社会でLGBTが直面する問題をテーマにした真面目な番組が、ちらほら見られるようになってきました。

 時代は、ここまで来たのです。

 社会が変わりつつあるのだから、性的な創作物だって、新しいタイプのものが生まれてきてもいいじゃないか!

 すなわち、様々なセクシュアリティの登場人物が登場し、互いの思惑のすれちがいや勝手な思い込みから、なにやらおかしな展開になる。あるいは、手に手をとって新たな愛の形を発見する。

 対象読者は、性別を限ることなく、また、性的少数派当事者・非当事者も限らず、性の多様性を描いた性愛小説に興味を持ってくれる人たちが、この作品を手にしてくれればいい。

 そんなささやかな夢や希望を胸に、バイセクシュアルの紗絵、オナニストの花野、異性愛者のエイジ、レズビアンの美登里のおかしな(しかし、当人たちは大真面目な)関係を描いてみました。

 一人でも多くの方々にお楽しみいただければ、幸いです。


   二〇一四年五月

森 奈津子