1 わが青春のオカズ劇場



 十八の春。

 あたしは、はな という名の美しい女の子に恋をした。

 砂糖菓子のように甘く、そして、軽やかな毒とカリスマ性を秘めた美少女に……。



 元々、バイセクシュアルだという自覚はあった。

 なにしろ、高校卒業までに、一人の同性、三人の異性と交際経験があったのだから。

 だけど、異性愛者と同性愛者の傾向、どちらが強いのかと問われたら、あたしは迷わず「レズビアンに近い」ってこたえるだろう。

 中学三年の一年間、つきあっていたクラスメイトの女の子は、あたしの初めての人だった。

 彼女にとっても、あたしは最初の恋人で、あたしたちは幼いながらも互いの体を愛する方法を探り、気持ちいい部分を見つけていった。それはまるで、宝探しのような素敵な経験だった。

 どちらかが主導権を握るということはなく、その愛の行為は、完全に共同作業だった。片方が快感を得られないときには、二人で最良の道を探した。

 初めて知る性の世界は、深い森のようで。

 しかも、それは、レズビアンという少数の人間の愛の形であって。

 だけど、そんな深い森の中も、彼女と一緒なら、怖くはなかった。時折、道に迷いながらも、あたしたちは森の奥へ奥へと進んでゆき、快楽という素晴らしい宝物をたくさん手に入れた。

 結局、彼女とは、別々の高校に通うことになってしまい、あたしたちの関係は自然消滅というしゅうえん を迎えたけれど。

 なんの問題もない、きれいな別れ方ができたのは、あたしたちが互いを尊重しあっていたからだと思う。

 彼女と過ごした日々は、今も大切な宝物として、あたしの心に深く刻まれている。

 だけど、高校時代に交際した三人の異性は、彼女とくらべると、申し訳ないが、正直「いまいち感」がつきまとう。

 三人の内訳は、一年上の先輩、同級生、そして家庭教師の大学生。

 元々、男性と女性は体の生理が違うため、相手が満たされてなくても気づかないという点は、しかたないのかもしれないが。

 彼ら、なんで、自分が出すもの出したら、女に背を向けるんだ? こっちは全然、満足してないというのに!

 ひどいときには、あたしの中に入れてもいないのに自分が射精したら、そこで終わらせてしまう。

 激しくカクカクと腰を動かせば女が快感を得られると信じている男もいた。冗談ではない。そんなぞんざいなテクニックで快感を得られるほど、こっちは単純な体の構造をしてないんだ。

 さらには、いきなり顔射しようとする者まで。それが快感に結びつくものではないことぐらい、自分の顔にかけてみればわかるだろうに。童貞のくせにAVの見過ぎだ。

 一番ひどい奴は、アナルセックスをさせろとしつこくて、実にへきえき とした。しかも「きみの高校卒業記念に」とか言って。

 なにが「記念」だよっ! こっちがそれを望んでいるかのような表現を使うな!

 彼は家庭教師の大学生だったのだが、頭にきたので、卒業記念にすっぱり別れてやった。

 別れたあとに、一度「高校卒業記念に」と言って彼をペニスバンドで犯してやるべきだったと気づいた。ぬかったわ。

 そんなわけで、中学時代の素敵な彼女と、高校時代の間抜けな彼氏たちの思い出を胸に、あたしは上京し、大学に進学したわけだが。

 そこで、出会ってしまったのだ。

 まさに、理想の女の子に。



 必修の英語の授業が始まる前、教室で顔を合わせるなり、花野は──。

、おはよう」

 花がほころぶように、微笑ほほえ みかけてくれた。

 それだけのことで、あたしの心は多幸感で満たされてしまう。

 挨拶を返して隣の席に座りつつ、あたしは花野の横顔を盗み見る。

 色白の肌に、ゆるやかなウェーブのかかった柔らかそうな髪。ちんまりとした鼻に、ピンク色の薄い唇。全体的に小造りな顔立ちに、長い睫毛まつげ にふちどられた大きな目が、まるで絵本に描かれた妖精のようだ。

 愛らしい美少女であることは確かだが、決して親しみやすいわけではなく、神秘的な魅力で人を きつけるタイプだ。本人にその自覚がないらしいことも、好もしい。

 そんな彼女が、突然、口にした報告が──。

「今朝、学校に来る途中、変質者に会っちゃった」

「ええっ?」

ひと のない道で、いきなり、ペニスを見せつけられちゃって」

 ペニス!

 ペニスだとっ?

 そんなけしからん単語が、清らかな花野の口から発せられるとは!

 まあ、そんなけしからん単語が指し示すものを、過去にあたしはくわ えたりしゃぶったりしたものだが、それとこれとは話が別だっ!

 しかも、花野の美しく澄んだ目がそのらち な物体を映した、だとっ?

 まあ、そんな不埒な物体を、過去にあたしは──(略)。

「で、大丈夫だったのっ?」

 もう、いと しい花野が変質者に当該物体を見せつけられただけで、あたしのほうは全然大丈夫ではないのだが、そう問いかけることしかできなかった。

「んーと、ね」

 小首をかしげ、少し考えてから、彼女は続ける。

「あたしは大丈夫だったけど、その変質者は全然大丈夫じゃなかったよ。だってさ、その人、スウェットパンツを穿 いてたんだもん」

「は?」

 なぜ、スウェットパンツだと大丈夫ではないのだ?

「ほら、スウェットパンツって、社会の窓がないじゃない。でも、その人はあたしに、ペニスを見てもらいたかったわけだよね。だから、スウェットパンツを下げて、一生懸命露出してるんだけど、先っぽしか見えてなかったの」

 そうか。

 先っぽだけか。

 先っぽだけなら、まあ、いいか。

 ──って、よくねえよっ! 全然っ!

 だいたい、なんで、あたしの大事な大事な花野が「先っぽ」なんて言葉を口にしなくちゃならないんだよっ!

 ああ、いっそのこと、あたしが花野に代わって「ペニス」だの「社会の窓」だの「先っぽ」だのと口にしてあげたいぐらいだよっ!

 あたしは、心の底から憎悪した。そのスウェット露出男を。

 しかし、花野はくちもと に神秘的な笑みをたたえて続けるのである。

「あの人、露出するのはまったく計画的じゃなかったってことだよね。もし、計画的な犯行だったら、家を出るときからスウェットなんて穿いてないよね」

 おお! なんという名推理!

「たまたま、スウェット姿で近所を歩いてたら、人気のない道で若い女とバッタリ会ったものだから、『そうだ。露出しよう』って、『そうだ。京都行こう』みたいな感覚で出そうとしたものの、社会の窓がなくて、先っぽしか入らなかったわけだよね」

 と、そこで言葉を切り、ニヤリとしてつけ加える。

「あたしの目に」

 ああああ……。

 もう、やめてっ!

 かわいい顔で、清らかな口で、「先っぽしか入らなかった」なんて言うのは!

「いっそ、もも のあたりまで穿いてるものを下げちゃえばいいのに、彼としては、お尻は見せたくなかったんだろうし、動きにくくなって、いざっていうときに逃げられなくなるのも避けたかったんだろうね。それで、中途半端なところまでしか下げられなくて、先っぽしか見せられなかったわけだよ」

 もう、いいからっ。

 そんな、変質者の心理やら事情やらをそんたく してあげなくて、いいからっ。

 しかし、だ。

 一見、神秘的な美少女が、こんなふうに珍妙かつ冷静なトークを延々と続けるという意外性も、彼女の魅力でもあるのだ。

 こうして、日々、あたしの心は花野に惹かれてゆくわけである。

「ああいう露出症の人って、相手にはどう反応してほしいのかな?」

 反応、って……。相手が花野みたいにうるわ しい乙女なら、どう反応されても、変質者的には心が躍るに決まってるじゃないか!

 しかし、そんな変質者の心理を代弁するのもはばかられ、あたしは「うーん」と考え込むポーズをとる。

 すると、花野は続けた。

「あれって、たぶん『きゃっ。いやん』みたいな反応を期待してるんじゃないかな?」

「それはあるだろうね」

「でも、そんな期待をされても、困っちゃうよね。こっちとしては『きゃっ。いやん』なんて気持ちにはなれないんだから」

「うん。わかる」

 いつの間にか、あたしは共感を示していた。

 花野はあたしをまっすぐに見つめて問う。

「紗絵って、美人だから、結構、そういう変な人が寄ってこない?」

 あたし、花野に美人って言われた! ジーン……。

 その感動を隠して、あたしはこたえる。

「まあ、経験はあるけど、あたしは割と性格きつそうに見られるから、あまりそういうのには遭わないほうだと思うよ」

「よかった。紗絵がいやな目に遭いにくくて」

(いや、そんな、あたし、花野に安心してもらうほど、清らかな存在じゃないから! 露出男がいたら、当該露出物に蹴りを入れてやるような女だから! そんな、大切にされてると錯覚しちゃいそうな物言いは、困るよ……。あたし、勘違いしそうだよ……)

 ひそかにろうばい しながらも、あたしがうれし恥ずかしな感動を みしめてる間に、花野は考察を深める。

「やっぱり『きゃっ。いやん』はないよね。そんなもの見せられても、全然、エッチな気分になんてなれないし。自分とはまったく関わりないって点では、道端の石っころを見せられたようなものなんだよね」

「わかる、わかる」

「その性器を有している本体に魅力を感じないのに、性器そのものに惹かれるわけないんだよね」

 性器を有している本体、って──これはまた、斬新かつ珍奇な表現を……。

 そのとき、講師が到着し、あたしたちのおしゃべ りもそこで途切れた。

 性愛にからむ勝手な理想や妄想を一方的に押しつけてくる者に対し、花野は非常に冷ややかだ。

 彼女が処女であることは確かだ。本人の口から、ちゃんとそれは聞いている。

 美しく女の子らしい魅力にあふれた容姿ゆえに、結構、苦労もあったのではないかとも、思われる。

 でも、もう、大丈夫! これからは、あたしが花野を守るからっ!

 高貴な姫を守る女騎士のように!

 おのれの貞操に懸けても!──って、とっくの昔に、そんなもん、なくしちゃってるけどさ。



 昼休みには、花野とあたしは、先に学食に着いたほうが、居心地のよい窓際近くの席を確保することにしている。

 今日、あたしが少し遅めに学食に行ったところ、すでに花野は席を確保し、食事をとっていた。

 その向かい──ランチタイムのいつものあたしのポジションだ──には、一人の男子学生。二人で談笑しているところを見ると、前の講義で一緒だった学生か。

 あたしは券売機でサバ味噌煮定食の食券を買い、配膳カウンターでそれを受け取り、窓際に向かった。

「花野」

 あたしは声をかけながら、彼女の横の席に自分の昼食のプレートを置く。

「あっ。紗絵」

 あたしに向けた明るい笑顔を、そのまま、向かいの席の男子学生に移し、彼を紹介する。

「彼、第二外国語で一緒のエイジ君」

 エイジはペコリと頭を下げた。

 彼の顔を間近で見たとたん、あたしは危機感で胃のあたりがサーッと冷えてゆくのを感じた。

 目がパッチリとした整った顔立ちに、ほっそりとした体型の、アイドルのようなかわいい系美少年だったのだ。

 こんな見目麗しい男子が、愛しい花野に近づいてくるなんて! あたしにとっては、大いなる脅威でしかない!

 続けて、花野はエイジにあたしを紹介する。

「彼女は、あたしと同じクラスの紗絵」

「よろしく」

 ついつい威圧的な口調になってしまい、これではいかんと思い直す。こんな心が狭いところを、花野に見せてはならぬっ!

「ぼく、紗絵さんのこと、お顔だけは存じていました」

 エイジは顔を赤らめ、もじもじと続ける。

「花野さんはかわいいし、紗絵さんは知的でかっこよくて、二人とも目立ってるな、って思って」

「そりゃ、どうも」

 あたしはそっけなくこたえながらも、イライラしていた。

 なんなんだよ、ナチュラルに女にこび を売る、その態度!

 そうやって、花野をたらし込もうってのか? その甘い顔立ちで! 優しげな声で!

(おまえ、自分の顔がきれいだって、わかってるんだろっ? 花野みたいな美少女と自分はお似合いだと思ってるんだろっ?)

 あーっ、気に食わんっ!

 男で花野に近づいていいのは、善良で性的欲望など皆無のブサメンだけだっ!

 どうやら、エイジは食事を終えてはいるようである。彼の前にあるどんぶり の中には、うどんつゆが残るのみ。

(なんだよ。つゆ、残してるのかっ? 乙女かよっ? 若い男なら、豪快につゆも一滴残さず呑み干せよ!)

 エイジのなにもかもが気に食わなくて、あたしは内心で、理不尽に彼を責め立てる。

 ところが、彼のほうは会話の糸口をつかもうとしてか、あたしに言う。

「紗絵さんは、B定食ですか。今日はサバ味噌なんですね」

「まあ、定食なら栄養バランスはとれているからな。ランチをうどんで済ませて炭水化物ばかりとるような愚は犯したくないんでね」

「え……? あっ……」

 自分に対する皮肉と気づいたらしく、エイジは固まる。

 なるほど、結構、気は弱いらしい。

 一方、花野はきゃららっと愛らしい笑い声を立てて言う。

「やだ、紗絵、なに、それ? プレイ? 言葉責め? エイジ君がイケメンだから、意識しちゃってるの?」

「違うっ! 事実を述べたまでだ!」

 プレイだの言葉責めだの、男子の前で言いにくいことを、この子は……。

 しかも、あたしがエイジを意識してるだとっ?

(ああ、確かに意識してるよ。ただし、最大の敵としてな!)

「あ……。あっ……。えっと……」

 小動物のように不穏な空気を敏感に感じ取ったらしいエイジは、新たな話題をひねり出す。

「花野さんって、よく食べるよね。見ていて、気持ちいいほど」

(くそっ。こやつ、知る人ぞ知る花野の魅力のひとつをすでに把握してるっ! 油断ならん奴!)

 そうなのだ。

 小柄でほっそりしてるのに、花野はかなりの大食いなのだ。

 今日だって、スペシャル定食と呼ばれる、体育会男子御用達のフライの盛り合わせを完食しようとしている。しかも、おそらく、ご飯は無料で注文できる大盛りだ。

 そして、ボリュームたっぷりの食事を元気においしそうに食べる彼女の姿は、本当にかわいらしく、気持ちいいのだ。

「あたし、食べても食べても、おなかすいちゃって」

「食べても太らないのは、得だよね。花野さん、褐色脂肪細胞が多いタイプなのかな。あれって、脂肪を燃やすんだよね。首とか肩甲骨のまわりに多くあるっていう話だから、褐色脂肪細胞を活性化させるには、肩甲骨を動かす運動がいいらしいよ」

 ──って、なんだよ、そのダイエットマニアの女子みたいなうんちく は!

 こういう男、油断ならないんだよ。

 女子に同化して、どんどん美しい女の子に近づいていって、最後には心までとらえて。しかも、こやつは、はっきり言って、美少年だ。

 美少年のくせに親しみやすいなんて、けしからんっ! 美少年なら美少年らしく、お高くとまって、女子に敬遠され、見目麗しいゲイ紳士でもたらしこんで、退廃路線を突っ走っていればいいんだっ!



 ワンルームマンションの一口しかないコンロも、ユニットバスも、使い勝手が悪いことこのうえないが、とりあえず、家族の目を気にする必要のない点で、一人暮らしは、自慰には最適である。

 はっきり言って、あたしはオナニーが好きだ。

「オナニーしてるなんて、まるで性的に飢えてるみたい」だの「寂しい女って思われちゃう」なんてよくある女子の見解には、真っ向から異を唱えたい。

 あたしは、たとえセックスで満たされていても、交際相手がいても、オナニーをする。

 オナニーのよろこ びは、セックスの悦びとはまた、別のものである。

 デザートが「別腹」であるように、オナニーは「別まんこ」なのだ!

 そんなわけで、ベッドに転がり、あたしは今日もオナニーにいそしむのである。

 パジャマのパンツには右手を、シャツには左手を突っ込み、それぞれ、性の部分と胸に刺激を与える。

 指先でヘアをかき分け、柔らかなひだ に触れると、じんわりと熱が集まってくる。優しく むように刺激を続けると、たちまち、右手は蜜に れる。

 そして、左手は、自分の胸を揉みしだく。同時に、すでに固くしこっている乳首を指先で転がすと、子宮のあたりにまでキューンと切ないような快感が生まれる。

「あっ……。あ……」

 あたしの口からは、甘い声がこぼれる。

 自分でもわかっているが、あたしは手先が不器用だ。裁縫や彫刻のような細かい作業が苦手だし、芸術的センスもゼロだし、字もきたない。

 なのに、オナニーやセックスとなると、この不器用な手を使い、確実に快感を得て、相手を気持ちよくすることもできるのだから、実に不思議なものだ。

 性というものが持つパワーは、あなどれない。

 想像の中、あたしは花野に言う。

「ねえ。自分以外の女の子の裸、見てみたくない?」

「見たい!」

 と、花野は元気にこたえる。

 あたしの想像なので、とことん、あたしに都合よく。

「じゃあ、あたしの裸、見せてあげる」

「えーっ? 本当? うれしいっ! だから、紗絵って、大好き!」

 ──花野のキャラが違ってる?

 そんなことは、百も承知だ。

 これはあくまでも、あたしのオナニーのオカズなのだから、あたしが好きに想像していいのだよ!

 全知全能の神にだって、文句はつけさせない!

 というか、全知全能の神が存在するのであれば、その神があたしをこのようにお創りになったのではないか? 「オナニーは別まんこ」な女に!

 なのに、そんな全知全能の神が自分の創造物にケチつけるなんてことが、あるものかね?

 それって、自分が脳内でこねあげたオナニーのオカズ用の想像に、「こんなんじゃ たねえよ!(もしくは、濡れねえよ!)」とツッコミを入れるに等しい愚行ではないか?

 そんなわけで、あたしは、現実とは違う反応を示す花野を想像し、オナニーに及ぶのである。

 脳内のオカズ劇場の舞台で、れん な花野を前に、あたしはすっぽんぽんになり、大サービスでM字開脚までしてみせるのだ。

「見て! これがあたしのすべて!」

「ああっ! 紗絵って、すごい! あたしにここまで見せてくれた女の子なんて、ほかにいないよ!」

「そりゃ、そうでしょう。だって、花野を世界で一番愛してるのは、あたしなんだから!」

「おお、なんてこと! 素敵っ……」

「ほら、もっと近くで見ていいよ。かぶりつきで!」

「うれしい! 一度、紗絵の性器、見てみたかったの!」

 と、興味津々で、花野は正座をし、頭を下げて、あたしのそこに顔を近づけ、まじまじと見つめるのだ。

 求められる快感に酔いつつ、あたしは言う。

「ラビアを開くから、その瞬間も、ちゃんと見てっ」

 そして、あたしは性の扉を指先で左右に開く。

 その瞬間、一気にあふれ出る愛液が、さらに脳内オカズ劇場のオカズ劇の感動を盛りあげるのだ!

「ああっ、すごいっ! これが噂に聞く『くぱぁ』なんだねっ! ずっと、見てみたいって思ってたの! 生『くぱぁ』を! それに、こんなに濡れてるなんてっ! エロ漫画よりすごいっ!」

「濡れてるのは、あたしが真剣に花野に欲情してるからだよ」

「おお、なんてこと……! あたしに欲情して、紗絵はこんなことになってるのね……。なんてロマンチック……」

「どんなにあたしが花野のことをかわいいと思ってて、欲情してるか、これからちゃんと見せるからっ」

「あたしのために、そこまでしてくれるなんて……! あたし、まばたきするのも惜しいぐらい!」

 と、両手の指を胸の前で組み、感動に目を潤ませる花野。

 彼女に見守られ、あたしは本腰入れて自慰に及ぶのである。右手では性の器官を刺激し、左手では胸を揉みしだきつつ。

「アッ……。んんっ……」

 人さし指と薬指でラビアを左右に広げ、中指で内側の粘膜部分をくすぐるようにこすると、じれったい快感が生まれる。

 蜜は指を濡らし、伝わって落ちてゆく。糸を引いているのは、見なくてもわかる。

 胸をねっとりと揉みしだくと、それに呼応し、ラビアはふっくらと充血し、さらなる蜜を湧かせる。花のように。

「す、すごいっ……」

  せられたように、あたしの蜜にまみれた器官に片手を伸ばそうとした花野を、あたしは鋭く「だめ!」と制する。

 ビクッと手を引っ込め、花野は悲しげに く。

「なんで? あたし、紗絵にさわりたいよ……」

「あたしもっ……あたしも、花野にさわられたいし、さわりたいっ」

 熱い息をつきながら、あたしはこたえる。

「でもっ、花野には、まだ、清らかな体でいてほしいからっ……」

「でも、あたし、紗絵になら、すべて捧げることができるよ」

「うれしいっ。だけど、今日はだめっ」

「なんでっ? あたし、紗絵の体にさわりたいよ! 紗絵とセックスしたいよ!」

「今日は、あたしのオナニーを花野に見てもらうだけって、心に決めてたからっ……」

 快感で息も絶え絶えになりながら、あたしは訴えるが、花野は首を横に振り、言う。

「ねえ、紗絵、よく考えて。他人に見せるためにするオナニーって、もう、純粋なオナニーじゃないんじゃない? 『自らを慰める』と書いて、自慰と読む! オナニーとは、自分のためだけにするものじゃないのっ?」

(ぐっ……)

 想像の中、あたしは言葉に詰まった。

 オナニー用オカズ劇で、なぜ、こんな神学論争みたいなことをしなくてはならないのか、自分でもよくわからないのだが、確実に快感を得るために、あたしは応じる。

「本来、自分のためにするオナニーを、花野に見せるためにする──それって、花野に身を捧げたことにならない?」

「あたしに身を捧げたのなら、さわらせてくれても、いいじゃない!」

 実は、オカズ劇の花野は、かなり積極的で、一心にあたしの肉体を求めてくれるのだが、あたしは必死に拒絶し、ひたすら花野の純潔を守るというのが、いつものパターンなのである。

 だが、今日のオカズ劇の花野は、いつも以上の粘り強さを発揮している。

 あたしは自らを慰めつつ、応じる。

「花野には清らかなままでいてほしい……。だから、性的な行為に及ぶのも、あたしだけで充分!」

「でも、それって、単に紗絵があたしをオナニーのオカズにしてるってだけのことじゃないのっ?」

 本質を突かれたところで、あたしは一気に快感が高まるのを感じ、叫んだ。

「ああっ! いくっ!」

「だめっ! 一人でいくなんて、ずるいっ!」

 花野に抗議されたが、あたしの下半身の深部で膨張していた快感は、一気にはじけた。

 そして、エクスタシー。

「あああぁーっ!」

 あたしは、切なげな声をあげ、身をこわばらせる。

 全身がガクガク震える。快感を味わいながら。

 つまさき から頭の中まで暴れまわった激しい快感は、ある瞬間に、波が引いてゆくように、ゆっくりと消滅していった。

 あとには、けんたいかん にも似た優しい快感が、全身を支配する。

 オカズ劇場の舞台に花野を置き去りにして、自室のベッドに戻ったあたしは、ホッと息をついた。

(今日のオカズ劇女優の花野は、なかなか手ごわかったな)

 オカズ劇の中で、あたしが花野に食われるのも、すでに時間の問題ではないかと思われる。

 ティッシュ箱に手を伸ばし、ズルズルと引き出したペーパーを下着の中に突っ込んで、濡れた部分をぬぐいながら、あたしは希望的観測なるものをしてみる。

(もしかしたら、本物の花野も、あたしのオナニーを面白がって見てくれるんじゃないかなぁ……)

 その後、あたしの肉体を求めてくれるかどうかはわからないが、最低でも、あたしが「性器を見せてあげる」と言えば、興味津々で応じてくれるのではないか。

 でも、それを申し出るタイミングが、なかなか難しそうだ。

 あくまでもさりげなく、ちょっとした話の流れといった感じで、今思いついたという口調で「性器を見せてあげる」って切り出すのは、かなり難易度が高そうだ。そもそも、どういう話の流れに乗れば、片思いの相手に「性器を見せてあげる」と申し出ることができるのか、皆目見当がつかない。

 かと言って、例のスウェット露出男のような愚行に及んで、花野にけいべつ されるというのは、絶対に回避せねばならない事態であって……。

 あたしの恋は、課題だらけである。