「よい美術品が出来上がりました。当家の主も喜ぶでしょう」
古い城を改装した美術館の一室で、執事は紅茶を用意していた。広い豪奢な造りの居間だった。椅子には、質素な白いシャツと黒のロングスカートを合わせた冴木が座っている。傍らには銀のワゴンが置いてあり、蒼いビロードの小袋から出されたコインが乗せられていた。
新品のように輝くそのコインには、不気味とも思える細工が施されていた。コインの表面には、ただれた卵のような泡状のものが描かれていた。その手前には触手の生えた黒い枯れ木のような何かとともに、男の叫ぶ顔が刻まれている。裏面にはどこか異国の文字が刻まれていた。
「お茶をどうぞ。私がブレンドいたしました。先日ヨーロッパから輸入した茶葉を使用してございます。お口にあえばよろしいのですが」
「ありがとう。相変わらず執事さんはなんでもできるのね」
冴木は無表情のまま執事が用意した紅茶に口をつけた。血のように赤い色をしており、どことなく花のような香りと、甘い中に渋みを残した濃厚な味が咥内に広がった。
執事は一度部屋を後にすると、銀製のワゴンを押して入ってきた。上には黒いショルダーバッグと白い手袋が置かれている。
「冴木様。どうぞご確認ください」
執事に促され、冴木は席を立つと、白い手袋を手にはめた。ショルダーバッグを開けると、手を差し入れる。重い音と共に中から金のインゴットが数本現れた。一本数百万はくだらない。
冴木はインゴットの数を確認すると、にこやかに微笑んだ。バッグを閉じると、帰り支度を始める。
「冴木様。この後ワインでもいかがですか。とびきりの逸品を入手いたしましたが」
執事が話しかけると、冴木は少し考え込み、頭を横に振った。
「昨日は少し飲みすぎちゃったの。また今度にしておくわ、執事さん」
「そうですか。残念ですが」
「ちゃんととっておいてね」
「承知しております」
冴木はまた微笑んだ。ショルダーバッグを愛おしそうに撫ぜると、執事に手を振った。
「では、またのご来訪、お待ちしております」
出口まで見送った執事はうやうやしく頭を下げる。
冴木が外に出ると、夕焼けが赤から蒼に染まり始めていた。もうすぐ夜が始まるのだ。冴木は夜が好きだった。特に夏の、暑苦しく寝苦しい夜が。
冴木は口元に笑みをつくると、闇の中へと消えた。