藤倉はベッドに仰向けに寝転がりタバコをふかしていた。一時期「不能になる」という真偽のわからぬ噂で吸わなくなったメンソールだったが、このスっとする感じが好きだった。
冴木はシャワーを浴びている。冴木はことが終わればさっさと支度を済ませ、先ほどベッドで乱れたことなど微塵も見せずに早変わりするのが常だった。最初のうちこそ驚いたが、もとから情の薄い女なのだろう。藤倉にしてみれば、他の女と違うその猫のようなところが、わずらわしくなくて丁度よかった。むしろ好んでいる部分だ。
身支度を整えた冴木がベッドサイドに立った。背中が大きく開いた白いワンピース姿だ。藤倉がスマートフォンをいじりながらちらりと顔を見ると、相変わらず乱れた様子を微塵も残していない。それどころか、甘えもしなければ、物をねだったりもしない。冴木は藤倉にとって都合のいい女たりえた。
さて、これからどの女と遊ぼうか。スマートフォンをいじくりながらそればかり考えていた藤倉は、なんとはなしに冴木の足を撫でた。ストッキングを挟んでひんやりとした感触が手のひらに伝わる。
「ねぇ、藤倉くん」
メールで女を呼び出していた藤倉は、冴木の方を向きもせずに答えた。
「なに、冴木。これから朝飯でも食いに行く?」
その後俺は用があるけどね。メールを送信しながらそんなことを思った藤倉は、冴木の放った言葉に愕然とした。
「別れて欲しいの」
「え、ちょっ、なに言ってんの?」
「別れて欲しいの」
慌てて起き上がる藤倉に冴木は冷たく言い放つと、ソファに置いてあったバッグを取り、すたすたと部屋を出て行った。
「おい、待てよ、冴木ぃ!」
藤倉が慌てて追いかけようとしたが、裸のままでは外には出られない。ベッドから起き上がったものの、ドアが閉まる乾いた音と共に力がぬけ、ベッドに仰向けに倒れた。部屋には藤倉だけが残された。
今まで自分には関係ないと思っていた言葉。むしろ自分から女に言い放っていた言葉。藤倉は頭が真っ白になっていた。彼の不敗神話はもろくも崩れ去った。
その瞬間、藤倉は、運をなくした。