自分を「守る」ことからはじめよう

 果てしなく広がる大きな心、常に温かい人柄を標準装備している人なんて、存在しません。

 

 そう見える人は、身に付けただけなのです。

 

 狭く強張った自分の心への対処療法的なものを、何らかの方法で。

 

 

 「オーナーママに上り詰めるホステスは、太平洋レベルの広い心を持った大きい人間でないとなれないのだわ」

 

 

 と、新人ホステスの頃に思ったものですが、そんな考え方をしていると、逆に遠ざかるのだと、私は気付きました。

 

 ついイライラしてしまう短気な自分、いい思いをしている人を妬んでしまう自分、白黒はっきりさせたくなる自分、正義を振りかざしたくなる自分、たまにズルしてみたくなる自分。

 

 

 みんな、いていいのです。

 

 それが当たり前なのです。

 

 そういう気持ちを感じていなくては、人間らしくない。

 

 逆に、成長できないのです。

 

 

 人の心を開かせたいのに、自分に心を閉ざしていては、遠まわりしてしまうだけ。

 

 結論から言いますと、心を開き開かせるポイントは、

 

 

 まずは、自分を守る。

 

 

 です。

 

 では、それを、どうやるか。

 

 誰でもラクに取り入れられる方法、転換の技術を一つずつお伝えしていきましょう。

 

 

 ものの見方を変えることで、感じ方はガラリと変わることがありますよね。

 

 ヨシタケシンスケさんの絵本『りんごかもしれない』のように。

 

 そんなふうなことを、日常的に意識していくのです。

 

 

 私も、ホリエモンにほぼ完全無視(ほぼと付けたのは、最後に一言だけお言葉を頂戴したから)を受けた時には、ずいぶんと自分を責めました。

 

 接客業なんて、もうやめたいと落ち込みました。

 

 

 でも…………やめてどうするのよ?

 

 

 人間は考える生き物です。

 

 そして、超えたくなる。

 

 より良い方向へ向かおうとするのが、本能としてあるのです。

 

 

 神様、ありがとう!

 

 

 そう、自然にしていても、人は立ち上がろうとする、転換しようとするのです。

 

 捨てる神あれば拾う神あり(大袈裟)。

 

 

伝説の編集者との邂逅

 私は、ホリエモン完全無視事件の数ヵ月後、幻冬社の社長である見城徹氏に、初めてお会いする機会に恵まれました。

 

 その時の彼の姿勢から、私は救われるとともに、大いなる発見があったのです。

 

 

 銀座七丁目に、多くの大御所作家たちに愛されてきた文壇バーがあります。

 

 〈クラブ数寄屋橋〉。

 

 三島由紀夫や松本清張、渡辺淳一、宮部みゆき、東野圭吾と言った小説家、手塚治虫、赤塚不二夫に藤子不二雄らの漫画家と、名を連ねきれないくらい多くのスーパースターたちが足しげく通い、伝説となるエピソードがいっぱい。

 

 私のような、駆け出しの物書きが行けるような場所では到底ないだけに、憧れの場所でした。

 

 そこへ、お客さんだった政治家の故・中井洽先生が、ご親切で連れて行ってくださったのです。

 

 

 編集者の方とヒット作をぶら下げて行くのが夢だったけれど、そんなことを言っていたら、一生行かれないかもしれない。

 

 どちらかと言うと、その線の方が濃厚なわけです。

 

 

 土曜日の夜ということで、休日を返上して、私は出かけました。

 

 伝説の園田静香ママに、「この子、ホステスだけど、本を書いているんだよ」と中井先生に紹介されると、

 

 

 「あら、そうなの。どんな本なの?」

 

 

 静香ママは興味を持った風に、丁寧に耳を傾けてくれた。

 

 

 私のデビュー作は、幻冬社から出版された『ダイエット・パラダイス』です。

 

 美しく着飾るホステスたちは、じつは毎晩飲み食いして、太ってしょうがない。

 

 「いかにして、お客さんと飲食をともにしながら、ダイエットに成功するか?」がテーマになった抱腹絶倒のコメディエッセイです。

 

 

 そんな内容をざっくりと説明していると、静香ママは目を丸くして言いました。

 

 

 「あなた、もってる……タイミングが凄いわ。見城社長がいらしたわよ」(!!!)

 

 

 静香ママはするりと席を立って行ってしまった。

 

 

 * * *

 

 

 わぁ、見城社長だ、本物だ!

 

 (私は有名人を見ると、いつも同じ反応デス)

 

 

 中井先生と私は、お店の一番奥のソファ席に座っている。

 

 見城社長は定位置らしく、入り口のすぐ脇にお一人で腰を掛けられた。

 

 淡い照明のお店は縦に長くて、顔がよく見えるわけではないけど、なんだか存在感が凄い。

 

 逆光なのか? 後光が射しているように見える。

 

 

 わぁ、見城さんと同じ空間にいるなんて、なんだか光栄。

 

 しかも、この偶然、運命を感じる。

 

 遠くからになっちゃうけれど、

 

 

 「本を出させてくれてありがとうございまーす。感謝してまーす!」

 

 

 心のなかで叫ぶ私。

 

 デビュー作には、特別な思いがあります。

 

 幻冬社は、最後にGOサインを出すのは社長であり、原稿のすべてに必ず目を通されると聞いていました。

 

 私が作家(の端くれ)になれたのは、間違いなく、この方のおかげなのです。

 

 けれど、他のクラブのホステスであり、売れっ子作家でもない私が、こちらからおエライ方に声をかけるのはどうか。

 

 また、お客さんと一緒でもあるのです。

 

 私は何もアクションを起こせずにいましたが、気になってしょうがない。

 

 

 しばらくすると、私はトイレに行きたくなりました。

 

 見城さんのお席の近くを通るので、すごく近くで見ることができそう! 見たい!

 

 

 でも、いざとなると人間て固まるしかないものですね。

 

 緊張はもちろんですが、人からジロリと見られたら嫌な気がするんじゃないか?

 

 とかいろいろ考えてしまい、私は顔も目も、真っ直ぐに入り口方向に固定されたまま、通り過ぎてしまったのでした。

 

 

 「檀さん」

 

 

 「檀さん」

 

 

 ん?

 

 確かに、檀さんと誰かが呼んでいる。

 

 私は、〝檀れみ〟だけど、夜の銀座では、ほぼ〝れみ〟で、〝檀さん〟とはあまり呼ばれたことがない。

 

 ハっとして声のした方を振り返ると、

 

 

 「幻冬社の見城です」

 

 

 おおおお。

 

 後光を背負ったまま見城さんがそこに立っているではないの!

 

 なんだかわからないけれど、かっこい!

 

 

 そして、名刺を差し出された。

 

 幻冬社のお名刺は何枚かいただいているが、そのまん中に〝見城徹〟と書かれているのは見たことがなかった。

 

 当たり前なのだけど、それだけで「凄い」と思ってしまった。

 

 

 「その節は、当社に原稿をいただき、ありがとうございました」

 

 

 と、頭を深々と下げられる。

 

 えーと、えーと。

 

 

 「こちらこそ、書かせていただきありがとうございました」

 

 

 と、またもや蚊の鳴くような声しか出ない私。

 

 

 「なかなか大胆な作風で、大変おもしろく読ませていただきました」

 

 

 見城氏はどこまでも腰が低く、優しく穏やかな口調で敬意をはらってくださる。

 

 こんな雲の上のような方が、こんな、私にまで……。

 

 

 この夜のことは、大事な思い出として残っています。

 

 見城氏との出会いは、時間にするとほんのわずかな立ち話だったけれど、幸せな気持ちになったものでした。

 

 

苦手アンテナが立ったときの対処法

 恐縮するほどに丁重に扱われることもあるけれど、その真逆もある。

 

 同じ一流レベルに居る人でも、初対面はこうも違う。

 

 だって、私はほぼ一言も喋っていないも同然です。

 

 何か、相手を嫌な気にさせたとなると、〝コイツの顔が嫌い〟くらいの理由しか思い当たらない。

 

 

 要するに、コミュニケーションを取りたい気持ちがあるのになんかうまくいかないという場合は、基本、自分が社交下手とか、人見知りするとかはあまり関係がなくて、たんに相手の事情にあるだけなのです。

 

 

 ホリエモン「完無視事件」は、彼が有名なのと、〝無視4時間〟がコミュニケーションがうまく取れないケースのトップクラスの状況ですので、分かりやすい例としてご紹介したのですが、正直、銀座のクラブで「初対面で意気投合!」なんてほとんどありません。

 

 完全無視は珍しくても、ちょい無視はしょっちゅうだし、まずプチケンカを売ってきますよ。

 

 

 ホステスが「いらっしゃいませ」と挨拶しながら、お客様の向かいの椅子に腰掛けると、「お、ホステスきたな」みたいな表情で軽く頷くだけ。

 

 「れみです」と、自己紹介をしたら、お酒を作って出す。

 

 そのあと、いよいよフリートークタイムの始まり! となるわけですが、その第一声が、「今日はいいお天気でしたね」なんて言ったら、

 

 

 「オマエ、天気の話題しかないの?」

 

 

 とまず返ってくるし、「そのネクタイ、素敵ですね~」なんて言ったら、

 

 

 「ネクタイの話しかできないホステスは無能だよ」

 

 

 という調子。

 

 

 「この店、ブス集めてるの。ママはブスの大会でも開こうとしているのか」

 

 

 が第一声のお客もいる。

 

 ごめん! 確かに、何話して良いかわからないのよ、私。

 

 という感じなのですが、

 

 

 でも。

 

 それってフツウだよね?

 

 

 じゃあ、あなた、何かおもしろいこと喋ってみなさいよ。

 

 とは、もちろん言わないけれど、そういう人ほど、やはり会話はおもしろくない。

 

 人にサービスなんて、している場合じゃないのです。

 

 

 誰でも少し考えれば分かることなのに、歩み寄ってあげないのもまた、気持ちの問題でしょう。

 

 その人には、素直になれないワケがある。

 

 人に、優しくできない過去があるのです。

 

 

 この人は暗い闇を抱えている!

 

 じつは可哀想なやつなんだ!

 

 

 苦手アンテナ(この人、苦手! と瞬間的に察知してしまう感情のアンテナ)が立ったら、すぐに、このように転換することで、自分の心を守るのです。

 

 そして、事実です。

 

 人間、思い通りの人生を歩めていたなら、今日という日が穏やかなものであれば、会うなり3秒で、性格やひねくれていることをさらけ出してしまうワケがないのです。

 

 

 イヤなやつは、むしろ素直な性格なのです。

 

 

 順風満帆とはいかないのが人生であり、それもまた当たり前のこと。

 

 付き合いやすい人だけ集めて、コミュニケーションが得意! なんていうのも、まったく狭い話です。

 

 人生のチャンスを減らしてしまう。

 

 

 心のなかの暗い闇は、その人の弱点です。

 

 そこに、何があるのかを見出していくと、可愛げみたいなものを感じる時が来る。

 

 そうして、心に寄り添う瞬間を持つことが、本当のコミュニケーションになるのです。

 

 心の扉は、あきらめなければ必ず開かれるし、ものすごーく仲良くなれたりもしますよ。