1 防空戦
『
『シュリシュクの親衛義勇軍艦隊本部から、リヒトル中将以下、上級指揮官四十七名のアバターが赴任するまでの所要時間は、あと十六時間との報告あり。暫定的に残存する指揮官を戦時昇進させる権限を付与するとのことです』
木星軌道上の太陽系防衛軍総司令部にある中央指揮室にいるレキシムのもとに、次々に情報が入ってくる。冥王星軌道上に設置された防衛ラインへの撤収中に粛清者の浸透攻撃を受け、太陽系防衛艦隊の旗艦艦隊が壊滅してから、十三時間が経過していた。
総司令官であるリヒトル中将以下の参謀や司令部要員を失った太陽系防衛艦隊は、生き残ったケイローン軍先遣艦隊の総司令官であるスション少将を総司令官として暫定的な司令部が編成され、総司令官である有坂恵一を失った途上種族連合艦隊は、ライレーン准将が少将心得となって指揮命令系統が起ち上げられており、双方とも戦闘部隊としての体裁は整っていたが、それぞれの艦隊が相互に支援しながら動く機動防御が効果的に行なえるかどうかは未知数であり、喪失艦の補充や戦死者の補充など、戦力の再編が終わっていない現状では、積極的な迎撃行動が取れる状態ではなかった。
太陽系防衛として使える戦力は、レキシムの指揮下にある機動戦闘艇部隊だけであり、それはつまり、太陽系のすべてがレキシムの采配にかかっている、ということでもある。
情報を受け取ったレキシムは、それに対し矢継ぎ早に指示を出していた。
『了解しました。偵察プローブのデータ解析が終了ししだい、転移してきた新戦力の種類と数を報告してください。
シュリシュクからの通達、了解しました。補充艦と新規アバターを受け入れるため、転移ゲートを最大限に使用する必要があります。ゲートの退避計画は一時中止し、稼働を継続するように地球連邦軍に指示してください。今は補給路を確保することを優先します!』
レキシムの前に浮かぶ三次元立体モニターの中には、太陽系外縁部に陣取る粛清者の艦隊と、その後方にある転移点に出現する赤い光点が映し出されているが、その輪郭はぼやけており、以前のように明確な赤い光点ではない。防衛拠点を冥王星軌道上に後退させたために、ロングレンジセンサーの精度が低くなり、粛清者の転移点にどれほどの数の敵が転移してきているのか、詳細なデータが取得しにくくなっているのだ。
確実にわかるのは転移してきた総質量だけで、その総質量のうち恒星反応弾が占める割合はわからない。そのためレキシムはプローブと呼ばれる無人探査装置を波状的に大量に送りこんでいた。プローブは粛清者の警戒網に感知されて次々に破壊されたが、五回目に射出したプローブの一部が粛清者の警戒網をかい潜り、転移点近くに達したのだ。そして、そのプローブが送ってきたデータの分析が終わるのと同時に、冥王星防衛ライン全体に警報が響き渡った。
警報! 警報! 恒星反応弾の発射を確認! 総数およそ千二百五十発!
レキシムの意識の中に、作戦参謀たちの驚く意識が伝わってきた。
『千二百五十発だと? 今までで最大数じゃないか!』
『あの転移点には、どれほどの数の恒星反応弾が転移してきているんだ?』
参謀たちの疑問に答えるように、戦術支援AIのメッセージが流れた。
『プローブのデータにより、粛清者は転移点に戦闘艦約三万二千隻分の質量を送りこみつつあることが判明しました。その総質量のうち、恒星反応弾と思われる数はおよそ五千発。ロングレンジセンサーとプローブのデータを解析した結果、新たに転移してきた五千発の恒星反応弾のうち、千二百五十発が移動を開始していることが判明しました。
加速度から見て、太陽に向けての発射と思われます。恒星反応弾が亜光速に移行するまであと三分十二秒です』
戦術支援AIのメッセージを受けた参謀たちのあいだから
『くそ! 一万六千隻の次は三万二千かよ! 律儀に倍数で攻めてくるつもりらしい』
『こいつを撃退したら次は六万四千か? とてもじゃないが持ちこたえられない。ケイローン軍第三軍の支援はどうなっているんだ?』
その時、レキシムが参謀たちに向かって思念を飛ばした。
『先のことを
参謀たちを一喝したあとで、レキシムは戦術支援AIに聞いた。
『発射が確認された千二百五十発の恒星反応弾は、すべて恒星反応弾なのか? 随伴する護衛艦艇の存在は確認できるか?』
『センサーのデータから、すべて恒星反応弾と判断しました。随伴する戦闘艦は確認できません』
戦術支援AIの答えを聞いたレキシムは考えた。
――今までで最大数の恒星反応弾による攻撃か……おそらくそのほとんどは、迎撃しようとするわれわれの機動戦闘艇を破壊するために、恒星反応弾に偽装した榴散弾弾頭を搭載したものだろう。粛清者はこの太陽系だけでなく、中堅種族の恒星系にも恒星反応弾を送りこんだ。恒星反応弾は粛清者の新兵器であり切り札だ。おそらくその総数はかぎられているはず。そして、その数の少なさをカバーするために作られたのが迎撃用榴散弾だ。外見その他のスペックは恒星反応弾と同じだが、弾頭だけが違う。炸裂して高質量散弾を前方に投射するだけの単純な機能しか持たない迎撃用榴散弾は生産コストも低く、大量生産できるに違いない。この先どれほどの数が送りこまれてくるのか、見当もつかない。だが、飛来してくる恒星反応弾が、まさしく恒星反応弾なのか、それとも偽装した榴散弾なのか、われわれには区別がつかない。すべてを恒星反応弾として対応し迎撃するしかない。
――数には、数を……その単純な結論に帰結するということか。
レキシムは胸の中でそうつぶやいたあとで、冥王星防衛ラインに所属する迎撃型機動戦闘艇部隊に命令を発した。
『先行警戒中の冥王星迎撃部隊のC集団を恒星反応弾の迎撃に向かわせてください。戦力的に不足と思われます。滞空待機中のD集団も迎撃に向かわせ、E集団を発進させて滞空待機に移行させてください。万が一にも恒星反応弾を後逸させた場合は、休養中のA集団B集団を含む全部隊の緊急発進を命じます。確実にここで撃破し、太陽系内部への侵入を防ぐのです!』
レキシムの指示は、戦略支援AIを通じて、ただちに各部門に伝えられた。戦略支援AIの組織内における権限は上級指揮官と同等であり、実際にレキシムのところまで上がらないレベルの案件については、戦略支援AIが専決案件として処理を行なっている。
中央指揮室の中央に表示されている三次元立体モニターには、粛清者の転移空域から太陽系中心部に向かって動き始めたオレンジ色の光点と、それを阻止するように動き始めた緑色の光点の集団が映し出されている。
――粛清者の浸透攻撃を受けて、太陽系防衛艦隊の旗艦艦隊が壊滅したあと、追撃してきた敵艦隊は、応援に差し向けた迎撃型機動戦闘艇部隊で撃破できた。だが、粛清者はその後も転移空域に、次々に増援を送りこんできている。恒星反応弾を撃破すれば、通常艦隊を、そして通常艦隊を撃破すれば恒星反応弾を、と交互に送りこんできたその累計総数は、現在までに戦闘艦が五万隻を超え、恒星反応弾と榴散弾に至っては一万発を超えようとしている。いま現在も、あの転移空域には粛清者が送りこんできた約五千発の恒星反応弾と思われるものがある。
これほどまでに戦力を送りこんでくる理由はなんなのだ? 何が粛清者をそれほどまでに惹きつけるのだ? この太陽系に、そこまでしてこだわる理由があるのか? そもそもこの太陽系への侵攻作戦は、最初から、過去のどの粛清者の侵攻パターンとも違っていた。異例のことずくめだ。シュリシュクにある恒星間同盟防衛機構総本部の分析は、この太陽系への侵攻は、今後の粛清者の侵攻方法を決めるためのテストケースであると判断したらしいが、テストケースとしては大がかりすぎる。
そこまで考えてから、レキシムは小さく首を振った。
――いや、われわれの常識で粛清者の行動を判断してはならない。彼らには彼らのロジックがあり、彼らはそのロジックで動く。オーセタス攻勢のさいに、わがアロイスの母星のある恒星系に送りこまれた粛清者の戦闘艦は百万を超えていた。あの当時の粛清者の戦闘艦は、今のような大型艦ではなかったが、それでも桁はずれの戦力だ。あの時、わがアロイスの母星があった恒星系は、さほど重要性もない、ごく普通の途上星系だった。〝どこの誰が、こんな片田舎の途上種族の星系を襲うものか〟――みんな、そんなふうに考えていたはずだ。なぜ、アロイスの母星星系が侵攻の対象となったのか、粛清者の理由はわれわれにはわからない。なぜ? とか、どうして? とか、その理由を求めても答えはない。ディスコミュニケーションとは、そういうものなのだ。
レキシムは、視線をふたたび三次元立体モニターに表示されている、緑色の光点の群れに向けた。
――あそこで戦っているパイロットたちの心のなかには、なぜおれが? という疑問を抱えている者もいるだろう。だが、その疑問に答えはない。世の中は、答えのないさまざまな疑問に対し、〝そういうものだ〟という諦観を答えの代わりにあてはめて動いている。われわれがなすべきことは、生き延びることだ。すべての答えは生き延びたその先にある。
レキシムの見ている緑色の光点の群れの中のひとつ――D集団の中のひとつが、セルゲイの乗る機体だった。粛清者が送りこんだ恒星反応弾に偽装した榴散弾の攻撃を受けて壊滅的被害を受けた太陽系外縁部機動戦闘艇部隊は解隊され、セルゲイたちはサジタリウス基地を放棄して冥王星軌道上にある機動戦闘艇基地へ転進し、そこで再編成された新しい部隊に配属となっていた。
セルゲイは、部下たちの感応端末データをチェックして、全員が思考
『第二中隊第三小隊長セルゲイから、各分隊員に告げる。われわれD集団は先行するC集団の後方でバックアップを行なう。粛清者の発射した千二百五十発の恒星反応弾のうち、どれが偽装した迎撃用榴散弾でどれが恒星反応弾か、判別がつかない。われわれが訓練していた攻撃距離では迎撃用榴散弾の飛散する高質量散弾を回避できないため、訓練時よりも遠距離から実体弾を発射し、離脱することになった。機動戦闘艇の生還率は上がるが、命中率は七割程度に下がると思われる。迎撃部隊を二段構えにしたのは、この命中率の低さを補完するためだ。バックアップといえどもわれわれの仕事は落ち穂拾いではない、穂の刈り取りである。気を抜くな』
セルゲイの指示を聞いた各分隊長から返答が来た。
『第一分隊長フォンセカ、了解!』『第二分隊長サカモト、了解!』『第三分隊長ランドルフ、了解!』
打ち返しの返答のあとに、フォンセカが、プライベートモードでランドルフに思念メッセージを送った。
『ずいぶん素直じゃないか、ランドルフ。いつものように文句は言わないのか?』
『言わねえよ。おれはもう下っ端じゃねえからな。文句を言えるのは下っ端だけの特権だ』
『下っ端だけの特権ってのは、どういう意味だ?』
『下っ端には責任がねえから好きにできるけど、分隊長にされちまった今のおれには、部下がいる。今までみたいに無責任な文句を吐き散らかすわけにはいかねえってわけさ』
『なるほど、ランドルフの愚痴を封じるには、出世させりゃあよかったのか。それにしても、おまえさんがそんなに責任感がある人間だとは思わなかったぜ』
フォンセカとランドルフの会話を聞いていたセルゲイが答えた。
『いや、ランドルフは、無責任ではない。口では文句を言うが、いちども逃げたことはない。命じられたことはきちんと仕事をして結果を出していた。あの愚痴は一種のストレスの解消手段のようなもので、本質はきわめて優秀な兵士だとわたしは思う』
真面目に答えたセルゲイのメッセージに、ランドルフが焦ったように答えた。
『やめてくれよ、セルゲイ小隊長、そんなお世辞で、おれをおだてても何も出ないぜ?』
『いや、わたしはお世辞とか追従というものがよくわからないので、言ったことがない。わたしは本気でランドルフのことを評価している』
『わかったよ、わかりましたよ! わかったから、もうやめてくんねえかな、こっぱずかしいったらありゃしねえ!』
悲鳴にも似た返事を返したランドルフに、フォンセカが笑いながら言った。
『ひねくれ者のランドルフも、真面目一本槍のセルゲイ隊長にはかなわねえってわけだな。やっぱり、真面目で素直なのがいちばん強いってわけか』
『……ったく、
ランドルフのメッセージと入れ代わりに、サカモトのメッセージがセルゲイのところに送られてきた。
『第二分隊長のサカモトです。接敵まであと八分四十五秒あります。この時間を利用して、いつものように戦意高揚の音楽を流したいのですが、許可していただけますでしょうか?』
『特に問題はない。許可する。今回はなんというアニメの曲だね?』
『あ、いえ、今回はアニメじゃなくて、新しくうちの分隊員になったケイハン二等兵が流してほしいと言うので、《ジェッディン・デデン》という曲を流したいと思います』
『ジェッディン・デデン?』
『ケイハン二等兵の出身地で古くから歌われている歴史ある
『そうか、たまにはそういう曲もいいな、許可する』
『ありがとうございます!』
サカモトのメッセージが終わるのと同時に、リンクを通じて、アジア系の民族楽器の音と、ドラムの音に乗せた勇壮な男性合唱の響きが聞こえてきた。四拍子のスローテンポの曲で、ただ勇ましいだけではなく、どこか哀愁のような雰囲気が漂っている。
――軍楽のリズムというのは、行軍の速度に合わせて作られている、という話を聞いたことがある。長い距離を歩く兵士たちが、景気づけに歌い始めた歌が原型で、最初はゆっくりしたテンポだったが、行進が単なる兵士の移動手段ではなくデモンストレーションの要素を持つようになって、二拍子に変わったのだ、という説だ。だとしたら、この《ジェッディン・デデン》という曲は、原初の形を残している行軍曲なのかもしれない。まさしく、祖先も祖父も、というわけか……。
セルゲイがそんな事を考えていたとき、戦術支援AIから思念メッセージが送られてきた。
『第二中隊長サラトワ少佐より第三小隊長セルゲイ少尉宛にパーソナルメッセージが入っております』
――中隊長が? パーソナルメッセージということは作戦行動とは関係ないプライベートな内容だということだが、いったいなんだろう? この音楽がお気に召さなかったのだろうか?
セルゲイは意識の片隅で、そんなことを考えながら、パーソナルメッセージに応えた。『第三小隊長のセルゲイ少尉です。どのようなご用件でしょうか?』
サラトワ少佐の思念が、即座に打ち返されてきた。
『わたしは元地球連邦海軍の士官だ。艦隊を指揮したこともあるが、すべて地球の海上での経験だ。宇宙戦闘は経験したことがない、今回が
『シミュレーションで教わったことと基本的に違いはありません。ただ、地球上で生きてきたわたしたちは、陣形や攻撃位置、方向などを考える時に平面上で思考する癖が抜けきれていない場合があります。航空機で空中戦を経験したことがあれば、立体機動の概念はわかりやすいかもしれませんが、海軍で立体機動の概念があるのは潜水艦だけですから、難しいかもしれません』
セルゲイの答えを聞いたサラトワ少佐は、嬉しそうに答えた。
『ああ、そうか潜水艦か。言われてみれば潜水艦も三次元空間の中を移動する。わたしはスキューバダイビングが趣味でね。そうか、そう考えればいいのだな、ありがとう、少し気が楽になった』
『あと、これは言わずもがなのことですが、迎撃型機動戦闘艇の戦闘力は艦隊運用される駆逐艦よりも小さく、敵艦に対し有効な武装は搭載している光子魚雷もしくは高質量実体弾のみです。それを発射してしまえば、一目散に戦線を離脱し、その機動力を活かして逃げきるしかありません。戦闘艦で編成された艦隊のように戦場にとどまり、戦闘を継続することは不可能です。そして敵は人類ではありません。価値観が違います。不合理な戦いかた、馬鹿げた戦法、それをごく普通にやってきます。人類同士の戦いなら絶対に取らない方法だからと考えて可能性から排除すると、その虚を突かれます。セオリーとか、こうなって当たり前という常識を捨て、判断に空白を作らないことを心がけてください。戦術支援AIは頼りになりますが、決断は人間がくださねばなりませんから』
『そうか、そうだな。ありがとう、参考になった。総司令官のレキシム殿の意とするところは、一機あたりの戦闘力の少なさを数で補うというものだ。艦隊によって防衛ラインを形成するのではなく、機動戦闘艇を集団で波状的に運用し、侵攻してくる敵の鼻先を反復して叩くことで、敵の損害を積み上げ、いわゆる〝出血死〟を起こさせることを目標としている。訓練コロニーのアルケミスでほかの士官や兵たちと訓練を受けたが、まさか配属されたその日にいきなり最前線に出されるとは思ってもいなかった。きみたちのような古参兵がいてくれて心強い』
『われわれはあなたがたよりも二カ月ほど早く実戦配備されました。その後、補助的な戦闘は経験しておりますが、敵の正面に出たことはこれまではありませんでした。古参兵と呼ばれるほどの経験は積んでおりません』
『あ、ああ、そうか、それはその、なんだな。古参兵というのは少しオーバーな言いかただったかもしれないな。とにかくきみたちの経験を頼りにすることもあるだろう、よろしく頼む』
サラトワ少佐は、セルゲイの答えかたに少し鼻白んだように答えて通信を打ち切った。
――気を悪くさせてしまったようだな、わたしの返答のどこが悪かったのか、よくわからない。特に間違ったことを言ったつもりはないのだが……。
そんなことを考えながら、意識を意識空間の三次元立体モニターに移したセルゲイは、妙なことに気がついた。
『接敵予想時刻が延びているのはなぜだ?』
戦術支援AIが、意識空間に投影されている恒星反応弾のデータの一部を強調しながら説明した。
『恒星反応弾の速度が予測されたものより遅いためです。最初に表示された接敵予測時刻は、今までの恒星反応弾の平均速度をもとにして計算されたものです』
戦術支援AIのメッセージのとおり、今回の恒星反応弾の速度は過去のものに比べると八割程度の速度しか出していない。亜光速と呼べるギリギリの速度だ。
『速度が遅い理由は?』
『判明しません』
――そいつは向こうの都合であって、こっちにはわからない、ということか。
セルゲイがそう考えたその時、粛清者の発射した千二百五十発の恒星反応弾に動きが生じた。ひと塊になって飛翔していた恒星反応弾が、それぞれに二十五発ほどのグループに分かれ始めたのだ。
『恒星反応弾が分離しました、小集団を作り始めています』
三次元立体モニターの中に浮かぶオレンジ色の光点を見つめながら、セルゲイは大きく息を吸って、下腹に力をこめた。
――粛清者の連中が何を企んでいるのかわからないが、われわれにとって楽な結果にならないことだけは確かだ。漫然と見すごすことだけは避けなくては。
セルゲイたちが配属されている迎撃型機動戦闘艇部隊は新しく編成された部隊で、五千機でひとつの軍集団を形成している。以前の軍集団は六千機で編成されていたが、迎撃に赴いたさいに、粛清者の恒星反応弾に偽装した榴散弾の直撃を受けて二万機以上が失われたことで、部隊を再編した時に定数が五千機に変更されたのだ。
セルゲイたちの前を行くC集団も、分かれ始めた恒星反応弾のグループに対応するように部隊を大隊ごとに分けて動き始めていた。
その時、戦術支援AIから報告が入った。
『恒星反応弾が編隊を組み始めました!』
『編隊だと?』
驚くセルゲイの意識の中に、戦術支援AIがセンサーデータを可視化した映像が投影された。そこに映し出されたのは、渡り鳥のようにV字型の編隊を組んで飛翔する恒星反応弾の姿だった。
『さらに敵編隊に動き。二つの編隊が重なりつつあります』
戦術支援AIのメッセージのとおり、セルゲイの意識の中に投影されているV字型の編隊映像のひとつに、横にいた編隊が九十度位置を変え、前から見ると十文字になるように重なり、さながら二つのブーメランをクロスさせたような隊形になった。
二十五発のV字編隊が二つ組み合わさって合計五十発。それが二十五個生まれたことになる。
セルゲイの意識の中に、ランドルフの思念メッセージが飛びこんできた。
『なんだ、ありゃ? 恒星反応弾ってのは、言ってみればミサイルみたいなものだろ? 機動戦闘艇ならいざしらず、ミサイルが編隊を組むなんて、見たことも聞いたこともねえぞ?』
『セルゲイ小隊長は、あの編隊にどんな意味があると思いますか?』
サカモトの質問にセルゲイは、言葉を選ぶようにゆっくりと答えた。
『V字の編隊の利点は、前方に火力が集中できることにある。第二次世界大戦中のドイツ軍の戦車部隊が突撃時に組んだ、パンツァーカイルと呼ばれるフォーメションが有名だ。立体戦闘を考えれば、十字に編隊を組むことで死角がなくなり、防御上の利点も増える。正面からの攻撃を撃退するには理想的かもしれない。飛翔速度が今までの恒星反応弾より遅いのは編隊戦闘を行なうためなのかもしれない。いずれにしろ今のはすべて、わたし個人の推察にすぎない。今ごろ総司令部では、参謀たちがあの編隊陣形の目的と攻略方法を考えている。あの恒星反応弾の編隊をどうやって攻撃すればいいのか、その具体的な指示が、戦術マニュアルの更新という形で司令部から来るはずだ。各自戦術支援AIを通じたインフォメーションに留意しろ!』
『了解!』
部下たちがそう答えたそのころ。セルゲイの言葉どおり太陽系防衛軍総司令部では、恒星反応弾の編隊の目的について、参謀たちが思念空間で意見を飛ばし合っていた。
『あの編隊の目的を推察しろ! あの編隊がすべて迎撃用榴散弾だけで構成された単独タイプなのか、それとも恒星反応弾に護衛用の迎撃用榴散弾が組みこまれた混合タイプなのかを判別するんだ!』
『シミュレーションの結果が出ました。意識空間に映像を投影します!』
戦術支援AIのメッセージと同時に、レキシム以下の太陽系防衛軍の参謀たちの意識の中に、二つのV字が組み合わさった編隊を組んだ恒星反応弾の映像が浮かんだ。
『この五十発の恒星反応弾がすべて迎撃用榴散弾と仮定した場合、炸裂と同時に前方に投射される高質量散弾のエリアを表示します』
戦術支援AIのメッセージに合わせて、V字を組んだ恒星反応弾に偽装した榴散弾が炸裂し、前方にメガホンのような形の半透明の赤い円錐が広がっていく。円錐はたがいに重なり合い、編隊の前方全体を大きく包みこむように広がった。
『散弾の散布界が重なるため、編隊の前方への投射面積は若干小さくなりますが、散弾密度は上がります。以前のような正面からの実体弾迎撃を行なえば、間違いなく壊滅的な損害を受けるでしょう。改定された現在の斜め前方から接近し、敵の未来位置に向かって実体弾を発射する戦法は変更する必要はないと
『問題は編隊を組んだことで、編隊ごと大きく進行方向を変えて来る可能性がある、ということだ。敵の側面から攻撃しようとして近づく機動戦闘艇部隊に向けて、方向を変えて迎撃用榴散弾が向かってきた場合はどうなる?』
『その可能性は捨てきれません。編隊を組む最大のメリットは集団運用が可能になるということです。粛清者は榴散弾の濃密な弾幕を好きな方向に展開できるわけです。その可能性が捨てきれない以上、実体弾の発射地点をさらに手前に変更し、回避距離を大きく取る必要があります。しかし発射地点を遠距離にすることにより、予測命中率は現在の数値より二十パーセント程度下がるものと思われます』
『二割も下がるのか……』
『しかし、たとえ命中率が二割下がったとしても、帰還率が上がれば、何度でも反復して出撃できる。この戦いは持久戦でもある。生還率を高くし戦力を維持し続けることのほうが重要だ』
『一撃ですべてを撃破しようなどと考えるな。それは無理なことなのだ。無理をしようとすれば、そのツケを最前線の将兵が支払うことになる! 防衛陣を通過する恒星反応弾の何割かを確実に撃破することを優先すべきだ。その防衛陣を多重化することで、最終的に敵の数をゼロにすることができる』
『そうだ、この千二百五十発で終わるわけではない。粛清者はこのあと、何度も同じように送りこんでくる可能性がある以上、ここで防御戦力を消耗させてしまっては意味がない』
『戦力は消耗させない。しかし発射された恒星反応弾を一発も逃してはならない。無茶振りをされていることは百も承知だ。しかし、この相反することをやらなけりゃならんのだ』
参謀たちの思念通話を受けていたレキシムが決断を下した。
『敵の恒星反応弾が編隊を組んだ、ということだけに気を取られていてはいけません。確かに今までの、恒星反応弾の単体だけを迎撃することを前提にした戦術では、この恒星反応弾の編隊は破壊できないかもしれませんが、敵がこの二十五個の編隊を戦線に投入してきた事実に留意すべきです。迎撃用榴散弾のみで編成された編隊や、恒星反応弾を含んだ編隊を用いて、編隊単位で作戦行動を取り、われわれの迎撃を無力化して太陽に恒星反応弾を撃ちこむことを考えているはずです。
迎撃に向かっている機動戦闘艇部隊に対し、攻撃開始地点を遠距離に変更し、命中率の低下を補完するため、常に数の優位を持って迎撃を行なうよう戦術マニュアルを改定し、戦術支援AIを通じてすべての機動戦闘艇パイロットに伝達すること! 時間がありません、そのすべての作業を一分以内に行いなさい!』
『了解しました!』
太陽系防衛軍総司令部の参謀たちはレキシムの期待に応えた。恒星反応弾の迎撃に向かっているセルゲイたちのところに戦術支援AIを通じて、戦術マニュアルの更新が告げられたのは、それからきっかり一分後だった。
――主な更新内容は、実体弾の発射地点の変更か。以前よりも遠距離地点から発射して、たとえ迎撃目標の恒星反応弾が偽装した榴散弾だったとしても、炸裂し飛散する高質量散弾の弾幕に突っこむ前に回避行動を確実に行なえ、ということだな。
セルゲイがそう考えたとき、セルゲイの意識空間にある三次元立体モニターの中にいっせいに数字が浮かび上がった。それは粛清者の恒星反応弾の編隊ごとに振られたコードナンバーだった。コードナンバー表示が行なわれるのと同時に、戦術支援AIのメッセージが思念に送りこまれてきた。
『分隊単位で目標とするのは、編隊を構成する恒星反応弾の中の一発です。その恒星反応弾の個別コードは、編隊番号のあとにXもしくはY、そして編隊の先頭から番号が振られています。地球の軌道面を基準に縦に並ぶものをX、軌道面に沿って水平に並ぶものをYとし、編隊の最先端部に位置する恒星反応弾はゼロゼロとなります。一個小隊で反応弾三発を担当しますが、個別の目標は、現時点で確定しておりません。C集団が第一次攻撃を行なったあと、その結果から残存目標が選択されます。C集団の迎撃が終了した時点で、目標が表示されることとなります』
戦術支援AIのメッセージが終わると、中隊長であるサラトワ少佐の思念が送られてきた。
『第二中隊長より各小隊長に連絡する。わが中隊の目標はコードナンバーが赤色で点滅している恒星反応弾編隊である。これより目標の未来位置の側方から交差する位置に進路変更を行なう。C集団の攻撃が終了し、残存目標が判明してからの攻撃となるため、目標選択から攻撃開始までの時間的余裕があまりない。総司令部からの情報では、遠距離からの攻撃に切り替えた場合の命中率は、訓練時よりもさらに二十パーセント下がるそうだ。だがわれわれが撃ち漏らしても後方にE集団が待機している。攻撃終了後はただちに冥王星基地に帰還、必要とあれば実体弾を装填し再度出撃となる。命中を焦って深追いするな。落とせる目標を確実に狙っていけ。進路変更は一分二十秒後、そして先行するC集団が接敵するまであと二分三十五秒。C集団の戦闘状況をよく見て、学習せよ』
『了解!』
セルゲイは短く返答すると、思考チャンネルを自分の隊内系に切り替えた。
『小隊長より、各員に告げる。われわれの目標はコードナンバーが赤く点滅している二十八番の編隊である。目標は分隊ごとに指定されるが、五十発からなる敵編隊の、どの恒星反応弾が目標となるかは、われわれの前に攻撃を行なうC集団の結果により決定される。戦術マニュアルが更新され、実体弾の発射位置が変更された。発射後はただちに回避行動に移行し、基地に帰還せよ。第一分隊から確認を取る。フォンセカ、了解か?』
『第一分隊長フォンセカ、了解』『第二分隊長サカモト、了解!』『第三分隊長ランドルフ、了解!』
『よし、一分十一秒後に攻撃ポイントに向けて変針する。先行するC集団の戦闘状況をよく見ておけ、粛清者の編隊の理由がわかる。おれたちのための露払いご苦労さん、みたいな高みの見物の気持ちは捨てろ。蜂の巣を突っついたあとに飛びこむことになるかもしれないのだからな!』
セルゲイたちに先行するC集団は、それぞれの目標とする恒星反応弾の編隊に狙いを定めて大隊ごとに分かれ、接近を開始した。正面からの正対攻撃は、恒星反応弾の中に入りこんでいる偽装した迎撃用榴散弾が炸裂した時に投射される高質量散弾の弾幕の正面に突っこむこととなり、回避が難しいため、斜め前方から、目標とする反応弾の未来位置に向けて実体弾を発射するという攻撃方法に切り替えられていた。恒星反応弾の編隊に動きがあったのは、その直後だった。自分たちを迎撃する機動戦闘艇部隊が接近していることを感知したのだろう、二十五個の編隊のうち、およそ十個が、大きく方向を変えて、迎撃態勢に入ったC集団へと向かった。
その動きを見たセルゲイは、意識の中に違和感を覚えた。その行動は明らかに今までの恒星反応弾の動きとは異なっていた。
迎撃進路に入ったC集団の機動戦闘艇のほうに向きを変えた恒星反応弾の編隊は、そのままいっきに加速してC集団に向かって突っこんできた。
この予想すらしていなかった攻撃行動を見たC集団の各部隊の指揮官は、とっさに指示を出した。だが、その内容はバラバラだった。
ある部隊の指揮官は、〝方向を変えて突っこんできた恒星反応弾に対して迎撃態勢を取り、正面から実体弾を発射しろ〟と命じ、ある部隊の指揮官は、〝回避するように〟と命じた。
戦闘行動に入ったあとの各部隊の行動は、それぞれの部隊指揮官に任されている。迎撃に適した位置にいる部隊は迎撃を続行し、迎撃に不向きな位置についてしまった部隊はいったん離脱して再度攻撃を仕掛けても構わない。この時も、部隊ごとに判断が異なってもなんら問題はない……はずだった。
だが、戦闘に不慣れな初陣の指揮官は混乱した。人間は社会的動物であり、群れで行動することを疑問に思わない本能を持っている。行動の意味や目的を考えようとはせず、無意識のうちに他者の行動をトレースしてしまうのだ。アクシデントが起きたとき、周りの人が動かないから、という理由で逃げ遅れた人が多く出るのも、逆に逃げようとした人が殺到してさらに犠牲者が増えるのも、この本能のためだ。他者の行動と自分を切り離し、盲目的に他者に従うことなく、自分の判断で動けるようになるには、訓練を繰り返し行なって経験則を積み、本能を抑制しなくてはならない。
迎撃型機動戦闘艇のパイロットの訓練が不足していたわけではない。ただ、このときC集団の指揮官の多くは、この戦いが初陣だった。心理的なストレスは戦術支援AIの介入によって抑制されていたが、すべてを抑えこめるわけではない。
攻撃態勢を取れ、と命じた指揮官は、回避行動を取った部隊を見て、自分の判断を誤ったと考え、回避行動を命じた指揮官は迎撃体勢を取った部隊を見て、判断を誤ったと考えた。指示命令の取り消しと、新たな指示命令が飛び交い、C集団の部隊の多くは、右往左往する混沌の渦の中に投げこまれた。
――いかん!
その混乱を見ていたC集団総司令官のヤクーラン少将は、即座に意識空間に常駐している戦術支援AIに命じた。
『すべての部隊指揮官の意識の中に〝敵の位置を確認せよ〟という具体的な指示を叩きこめ! 理由説明はいらない、ただ、その命令だけを意識の中に叩きこむのだ!』
戦術支援AIは、C集団の分隊長から師団長に至るまでのすべての部隊指揮官の意識の中に、この指示命令を送りこんだ。この強制介入は、浮足立った部隊の群れに、バケツで氷水をかけたような効果があった。〝敵の位置を確認する〟という行為は各指揮官の意識の中に自動的に、〝その敵に対しどういう行動を取ればいいのか〟という疑問と、その答えを与えたのだ。その指示命令は、回避するのか、迎撃するのか、それを思考させることで、状況判断の原点に立ち返らせるための指示だった。ヤクーラン少将は、もとは地球連邦軍の中佐であり、統合戦争で第一線部隊をひきいて戦った経験を持つ、数少ないベテランの将官であり、その経験がものを言った。
指示を伝えて数秒もしないうちに、ヤクーラン少将が見ていた三次元立体モニターの中に映し出されていたC集団の各部隊の動きが落ち着き始め、意識空間の中を飛び交う感情的な叫びは収まった。
――よし、混乱を抑えこめた!
ヤクーラン少将が、そう思った次の瞬間。C集団に向かっていた恒星反応弾の編隊に振られていたコードナンバーのタグが一瞬にして消えた。だが、それは恒星反応弾が消えたことを意味するのではなく、十個の編隊が消えたことを意味していた。
『編隊を組んでいた恒星反応弾が、散開しました!』
『散開しただと?』
戦術支援AIのメッセージのとおり、C集団に向かって方向を変えた十個の恒星反応弾の編隊は、すべて編隊を解き、それぞれが個別に動く五百発の恒星反応弾となって、C集団に迫ってきていた。
今までの恒星反応弾は、回避行動を取ることはあっても、基本的に太陽系の中心部を目指していた。だが、この五百発の恒星反応弾は、太陽を目標とすることを完全に放棄しているかのように方向を変え、明らかにC集団を包囲するような動きを見せていた。
『迎撃は可能か?』
ヤクーラン少将の質問に戦術支援AIは冷酷とも言える答えを返した。
『恒星反応弾が自由行動を取った場合、未来位置を予測した遠距離側方からの迎撃は不可能。迎撃可能な攻撃方法は正面攻撃のみです』
『正面攻撃時の生存率は?』
『二十五パーセント以下となります』
戦術支援AIの回答を聞いたヤクーラン少将は、息を呑んだ。
――生存率二十五パーセント以下だと?
それはつまり、部隊の壊滅を意味する数字だった。
『生存率を上げる方法はないのか? 敵の高質量散弾を回避できるタイミングで実体弾を発射することは?』
『目標の軌道に法則性が見られません。遠距離からの実体弾の命中率は著しく低下すると思われますが、具体的な数字は現在のデータでは検証不可能です』
戦術支援AIの答えを聞いたヤクーラン少将は決断した。
『C集団各指揮官に命ずる! 敵反応弾の動きに太陽を目標とする法則性が見られない。個別に自由行動を取る敵に対し、統制攻撃は不利となる! よって、以後の統制は各大隊長の裁量とし、いまだ太陽系中心部に向かって飛翔を続ける反応弾に対する攻撃を行なう部隊と、自由行動を取る恒星反応弾に対応する部隊に分かれ、各部隊は戦術マニュアルにとらわれることなく、臨機応変に状況を判断し、対応せよ。攻撃を行なうさいは遠距離からの実体弾攻撃のみとし、発射後ただちに離脱せよ! 数の上ではわれわれが有利だ! われわれの迎撃が失敗しても、後方にいくつもの迎撃集団が待ち構えている! 無理な攻撃を行なうことなく、生還することを優先せよ!』
ヤクーラン少将の命令を受けたC集団は、編隊を解いてこちらに向かってくる五百発の恒星反応弾に対応する部隊と、太陽系中心部に向かって飛翔を続ける恒星反応弾を攻撃する部隊とに分かれ、散開した。
だが粛清者は、その分離を待ち構えていた。太陽系の中心部に向かう恒星反応弾を迎撃するために分離した部隊に向かって、粛清者の恒星反応弾の残り十五個の編隊のうちの十個編隊が方向を変え、散開するといっきに速度を上げた。
――これは回避のための行動ではない。この行動は……攻撃のための行動だ!
セルゲイは意識空間に向かって叫んだ。
『気をつけろ! こいつらは今までの反応弾と違う! おれたちを狩りに来ている! 制空戦闘を仕掛けるつもりだぞ!』
セルゲイの言葉は正しかった。
この瞬間に、迎撃型機動戦闘艇は狩る者から、狩られる者へと変じた。
恒星反応弾の動きを見て、機動戦闘艇部隊も散開した。だが、そのタイミングの遅れを、迎撃用榴散弾は見逃さなかった。いっきに亜光速に加速し、機動戦闘艇部隊のど真ん中に針路を向けると炸裂した。
無数の高質量散弾がばらまかれるのを感知したC集団の大隊長たちは、指揮下にある各中隊長に向かって散開命令を出し、回避に移った。
そして、大混戦が始まった。それはまるで、数万の人間が集団で乱闘するような光景だった。高質量散弾を回避する機動戦闘艇と、それを追いかけるように追尾し、炸裂する迎撃用榴散弾。散弾に貫かれ爆散する機動戦闘艇と、実体弾の直撃を受けて四散していく迎撃用榴散弾。五千機の機動戦闘艇と、千発の迎撃用榴散弾が入り乱れ、逃げ、追いかけ、炸裂し、爆散する。
その混乱を見ていたランドルフが、つぶやくように言った。
『すげえ、セルゲイ小隊長の言ったとおりだ。突っつかれた蜂の巣みたいになったな』
『突っつかれた蜂の巣というより、突っこまれた爆竹が破裂した蜂の巣だな』
ランドルフの言葉に、フォンセカが答えたとき、サラトワ少佐からメッセージが来た。
『D集団総司令官ザサラ少将より、D集団の全機に戦闘開始の命令が下った。わが中隊の目標は、いまだ太陽系中心部に向かって進行中の恒星反応弾五個編隊二百五十発である。おそらくこの二百五十発には、恒星に表面爆発を起こさせる恒星反応弾が含まれていると思料される。これを太陽系内部に侵入させてはならない。全機加速開始! 目標を破壊せよ!』
『了解!』
セルゲイは短く答えると、思念通話チャンネルを自分の小隊全員にリンクすると、短く思念を発した。
『戦術支援AIの指定した目標を破壊することがわれわれの任務だ。この二百五十発はすべてが偽装した迎撃用榴散弾ではなく、真正の恒星反応弾がまじっている可能性が高い。おそらく粛清者側はその総力を持って目標を守り抜こうとするだろう。迎撃用榴散弾の弾幕に留意し、それを回避しつつ目標に接近する! 各機加速開始! 行くぞ!』
セルゲイたち第三小隊は、戦闘隊形を作ると、いっきに加速を開始し、混沌の渦の中に飛びこんでいった。