第六章 最深部からの呼び声
一
ピラミッドの内部は、ほとんどの場所が真っ暗な闇であった。そのため皆が協力しあい、ある者は足元を、ある者は前方をという具合に懐中電灯の明かりを振り分けながら、慎重に少しずつ前進していった。
突然、安藤由紀は激しい頭痛に襲われた。フェリーの中で襲ってきた頭痛とは比べものにならないほどの激痛に、由紀はいても立ってもいられずに頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
「由紀さん、大丈夫ですか」
古田隊長が由紀の前にしゃがんで声をかけてきた。
「あうっ!」
とても答えられない。頭全体が何かで締め付けられているような痛みなのだ。
「由紀さん!」
由紀は、肩に掛けられた古田の手を乱暴に振り払っていた。少しでも不要な感覚を取り除かないことには激しい痛みに耐え切れず、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。
由紀はついに回廊の石の床に転がってしまっていた。
「痛いっ、痛いっ!」
ガンガンするというのは適切ではない。グイグイと締め付けてくる感じなのだ。
だが、なぜか不思議な感覚がその痛みのなかに少しずつ混じってくるのを感じた。痛みと同時に、わずかな快感を感じ始めているのだ。
そして、時間とともにそれら痛みと快感の比率が入れ替わってゆく。
最後に残ったのは至福の歓喜であった。話す声さえも明るいものになっていた。
「もう大丈夫です。ご心配をお掛けしましたね」
爽快感が由紀の全身に満ちていて、これから先に進むことへの不安など一切が
しかし、由紀は感じた。最深部から呼んでいる者の声を。
「古田さん、ここからは私ひとりで行かなくてはなりません」
「いや、しかし……」
「皆さんの行ってみたいというお気持ちはわかります。けれども、中からの呼び声が一人で来いと言っているのです」
「その声は我々の調査を拒んでいるのですか」
「いえ、拒んではいません。が、最初に私だけに伝えたいことがあるらしいのです。あとで呼びにきますから、ここで待っていてください」
「わかりました。でも、本当に大丈夫なんでしょうね?」
「ええ」
由紀は確信していた。激しい頭痛に襲われたのは、最深部から由紀を呼んでいる者があまりにもおぞましい姿なので、由紀の恐怖心を取り除いてくれたのだろうと。
由紀は立ち上がると、足元を懐中電灯で照らしながら進み始めた。
三〇メートルほど行ったところで、また上り坂になっていた。さほど急ではなく、車椅子の人でも昇れるほどの緩やかな斜面だ。
昇りきったところには木製の扉があった。石材ばかりのピラミッドの内部で、木製の扉を見つけたのはこれで二度目である。
鍵が掛けられている様子はなく、由紀が押すとギィーッという音を立てて開いてくれた。
ところが、突然の光の洪水に由紀は思わず目を覆ってしまっていた。
「ううっ! まぶしい」
おそらく昼間の外と同じ明るさなのだろう。闇に目が慣れてしまっている由紀はしばらく立ち止まり、少しずつ手をずらして徐々に光を受け入れていかねばならなかった。
もういいと判断したところで目から手をどけると、目の前には一〇メートル四方ほどの台が置いてあった。台の上全体が古代の世界を表わしたと思われる立体地図になっている。
「アフリカと南米がくっついて!」
何かの本で読んだ記憶があった。昔は大西洋がなく、両大陸はひとつだったと。
そして、北アメリカは横倒しになっていて、メキシコの南部が西を向いていた。
「ええと、日本は……」
巨大な大陸の東側に、日本は上下二つに分断された島として存在していた。
「ああ、このずっとあとに二つの島が一緒になったのね。静岡と
由紀の故郷である沖縄県や
この立体地図によれば、沖縄はムー大陸の水没しなかった部分であった。
それよりも、ムー大陸の大きさこそが立体地図の一番言わんとしているところだろう。
ムー大陸は、北はカムチャツカ半島から南はニューギニアまでをスッポリと包む大陸だが、ハワイ諸島やタヒチは見当たらない。
もっと驚いたことに、フィリピンやインドネシアといった多島地域が完全に大陸の一部であったことだ。
「古田隊長がこれを見たら、何と言うでしょうね」
早く感想を聞いてみたいところだが、それにはもっと最深部まで行かなくてはならない。
まだ立体地図を見ていたいという気持ちを抑えて、由紀は部屋の反対側にある扉のところまで歩いていった。
そして、なぜか誇らしいまでの気持ちを抱きながら扉を一気に押し開いた。
二
敵の旧式戦艦部隊を壊滅せしめたところで、イージス艦『はくば』から戦艦『大和』へ連絡員として派遣されていた浅田一尉は、気になっていたことを切り出してみた。
「伊藤長官。坊ノ岬沖での空襲の折りに、アメリカ軍のパイロットを捕虜として収容していたと思うのですが」
「うむ、尋問は神君に任せてあるのだが、作戦会議のあとすぐに戦闘になったからね。ほとんど情報を得ていないと思うが……」
「でしたら、私に尋問させてもらえませんか」
「英語は達者なのかね?」
「ある程度でしたらわかります。自衛隊での通信は半分ほどが英語ですので」
「だったらかまわんよ。いや、神君は作戦の立案で忙しいだろうから、こちらからお願いしたいほどだ」
「捕虜は今どこに?」
「口で言ってもわからないだろうから、今度も神君に案内させよう」
浅田が捕虜の尋問をしてみようと思ったのは、敵の情報が欲しいからではない。その捕虜が停戦の橋渡し役にならないものかと考えたのである。
菊水部隊は別として、自衛隊や沖縄県が旧アメリカ軍と戦う理由など本来はないのである。タイムスリップという事象を、捕虜を通じてスプルーアンス大将に理解さえしてもらえば、すんなりと一件落着するのではないかと思ったのである。
捕虜は、後部艦橋下の船倉最下層の部屋に押し込めてあるという。
そこまでの道中、浅田は勇壮な『大和』の艦上建造物を見上げながら、神大佐に言った。
「実に素晴らしい艦ですね。六隻の敵戦艦相手に戦えるとはさすがです」
すると、神大佐が喜色を浮かべながら答えた。
「そうであろう。『大和』は日本の造艦技術の集大成であるからな」
「艦名も実にいいですね。奈良県のことだけでなく、日本国そのものを表わしているとも言えるわけですから」
「ははは、海上自衛隊の艦もなかなかのものではないか。ああいう護衛艦が開戦前から二〇隻もあったなら、ミッドウェー海戦も負けなかっただろうな」
そうだと思う。『はくば』なら、敵機の接近をかなり手前で察知して撃墜できるのだから、主力の空母四隻を失うことなどまずあり得ない。
後部艦橋からタラップを四階分降りると、ようやく船倉の最下層だ。
捕虜を閉じ込めてあるのは士官室だった。名前はスターク軍曹だという。
「私がついていなくても大丈夫かね?」
神大佐が士官室の前で心配そうに言った。
「はい。衛兵の方が二人おられますから、何事もないでしょう」
浅田としては、神大佐にはそばにいてほしくなかった。神大佐がいると単なる尋問に終始してしまいそうだからだ。
「後ほど報告しますから、お忙しい神大佐は任務に戻ってくださってけっこうです」
「わかった。必ず報告するようにな」
浅田は衛兵に鍵を開けてもらった。そして浅田の護衛のために一緒に入ろうとする衛兵を制し、部屋の外で警護するよう伝えた。
スターク軍曹は黒人と白人のハーフだった。筋肉質の身体は浅田よりふた周りほど大きい。頭髪は縮れ毛で坊主頭に近いが、大きな目と分厚い唇が印象的である。
「浅田大尉です」
ベッドに腰掛けてじっと見詰め返してくるスターク軍曹に、浅田はこの時代での階級で自己紹介した。
スターク軍曹は浅田の英語力に驚いたのか、捕虜にしては雄弁に自己紹介を返してくる。
「空母『ベニントン』第一戦闘機隊のスターク軍曹です」
いきなりタイムスリップのことを持ち出しても信用しないだろうから、浅田はスターク軍曹の故郷のことを話題にしてきっかけを待つことにした。
「出身はどこですか」
「南部のテキサスです。ペコスという小さな町でしてね、森や山の美しいところですよ」
スターク軍曹には戦勝者に
「最初に言っておきますが、あなたを尋問しに来たのではありません。協力をお願いに来たのです」
浅田は、スターク軍曹から警戒心を消しておく必要を感じた。雄弁な者ほど肝心なことを
「協力を?」
「はい。それはあとで言いますが、もっとスターク軍曹のことを知りたいと思っています。私のことも聞いてくださって結構ですよ」
スターク軍曹の気持ちも少しはほぐれたようだった。硬かった表情が緩んでいる。
「じゃあ、ミスター浅田。あなたの軍服は他の人と違うようですが、理由を教えていただけますか?」
ありがたいことに、相手のほうから核心に迫ってきてくれた。今が話すチャンスだ。
「ええ、私はスターク軍曹が知っている日本兵とは違うからなのです」
「え? どう違うのです?」
「実は、私は七〇年後の未来から来ているのですよ」
途端に、スターク軍曹がキョトンとした。不思議そうな顔で浅田を観察している。
「信じられませんか」
「信じろというほうが無理でしょう」
もっともである。この程度で信じられたらこちらが困ってしまう。浅田は、しかし諦めずに説いた。
「我々の兵器を見たはずです。あなたの機を撃墜したものは、どんなものだったか覚えていますか」
「覚えていますとも。後ろから火を噴きながら飛んで来る筒のようなもので、方角を変えても追ってきて……」
「そんなものが今の日本に造れると思いますか。合衆国でも不可能でしょうね」
「え、ええ……」
「スターク軍曹も薄々は感じていたはずです。今までの日本軍とは根本的に違うと」
「はい……」
「でしたら、私を信じてください。もしもまだ信じられないのでしたら、七〇年後の沖縄を見せてあげましょう。もう戦争を続ける意味はなくなっているのですよ」
三
中国海軍潜水艦の王艦長は、信じられないものを見た。晋級原子力潜水艦の潜望鏡から王艦長の目に飛び込んできた光景は、火災炎上しているアメリカ軍空母の群ればかりだったのだ。
「クソッ。日本の自衛隊が手柄を奪いやがった!」
沈没しそうな空母こそ見当たらなかったが、使用に耐えられそうな空母は残っておらず、いずれもが飛行甲板がめくり上がって内部から炎と黒煙を噴き出している。
炎上中の空母には駆逐艦が寄り添って消火活動に励んではいるものの、空母に備蓄されている魚雷や爆弾それに航空燃料などへの引火があれば、駆逐艦ごと吹き飛んでしまうであろう。
上空では、帰るべき母艦を失った航空機が悲しげに旋回を続けている。場合によっては核攻撃も辞さない覚悟だった王艦長は、すっかり拍子抜けしてしまった。
副潜望鏡を覗いていた副官が、王艦長に知らせてくる。
「艦長、一〇時の方角に無傷の空母がおりますぞ」
「おおっ、それぞ求めていた獲物だ!」
すでに魚雷は六門とも装塡済みだ。艦の向きを変えるだけで発射できる。
敵駆逐艦は空母の火災騒ぎのために聴音機が役に立たないらしく、晋級原子力潜水艦がここまで接近しているのに気づいた様子もない。
「微速回頭!」
発射管を目標に向ける。
「五番六番、発射!」
二発だけでは不充分かもしれないと思った。王艦長は、すかさず三番四番の発射管からも魚雷の射出を命じた。
四発の魚雷は勢いよく飛び出した。
その直後には、副官が別の無傷な空母を発見する。
「あれはエセックス級だな」
この当時では最新鋭だろうが、二一世紀では航空隊の訓練用として数隻が残されているだけの旧式艦である。晋級が搭載している魚雷の火薬性能であれば、六発食らわせば充分であろう。
全門装塡の完了を待ちながら、王艦長は狙いを定める。敵空母はほとんど停止しているような状態で、たとえ新米の艦長であっても撃沈できるだろう。
「全門発射!」
射出してから命中までの間、王艦長は残っている魚雷の数を報告させた。
「残存魚雷は一二発です!」
こんなことなら定数一杯に積んでくるのだったと、少しばかり後悔した。だが、よもや戦うことになろうなどとは思ってもいなかっただけに、後悔というよりも残念に思っただけだ。
とはいえ、未練をいつまでも残していたら身体に悪い。
王艦長が他にも獲物はいないかと潜望鏡をなおも回転させたところ、執念のうちにもう一隻を発見した。
「魚雷装塡!」
「全門発射!」
これでいい。残る六発はいざというときのために残しておくのが常識だ。
いざというときとは、どうしても敵駆逐艦から逃れられないときであり、戦わなければならない場合である。
やがて、三つの方角から次々と命中音が伝わってきた。潜望鏡で確認してみると、どの目標もかなり傾いていて、航空機が海中へ滑り落ちていく様子が見える。
「急速潜航! 深度は一二〇!」
長居は無用だった。潜航してから二五ノットの速力で那覇港へ向かう。
深度が一二〇メートルに達したとき、頭上で爆雷の炸裂音が幾重にも重なりながら轟いてきた。
「フン、馬鹿め。そんな旧式な爆雷で撃沈できるような我が艦ではないわい」
撃沈した敵空母の総数は九隻だ。
那覇港で絶大な歓迎を受ける場面を想像し、自然とニンマリする。
三〇分ほど水中を二五ノットの高速で走り抜けた。駆逐艦の爆雷攻撃の音は次第に見当違いの方向へと移り、今ではまったく聞こえない。
「もういいだろう。外の空気を吸いたい」
潜水艦の中というのは、機械の油の匂いと乗員の体臭が沈着してしまっているため、とてもご婦人方をお招きできるような環境ではない。
ことに長期間潜っていられる原子力潜水艦だと、食事の匂いまでが混じってしまうので、新規着任する兵士の大半は食欲がなくなったり吐いたりする。眠れない者も
「浮上せよ」
念のために潜望鏡深度で周囲を確認してから完全浮上するのがセオリーだったが、聴音員が何も言ってこないので、王艦長は安心し切っていた。旧式の敵にやられるはずがないとの
それが失敗だった。
原子力潜水艦が浮上を終えて王艦長が司令塔のハッチから外へ出ようとしたとき、いきなり砲撃を受けたのである。
それも駆逐艦の豆鉄砲ではない。周囲に林立する巨大な水柱の群れは、紛れもなく戦艦の砲撃であった。
「ハッチを閉めろ! 急速潜航!」
しかし、王艦長の命令は間に合わなかった。敵戦艦の放った巨弾が晋級原子力潜水艦を直撃する。
王艦長がこの世で最後に見たものは、二一世紀になってもまだ現役を続けていた最新鋭のアイオワ級戦艦四隻であった。
四
今日も二一世紀の世界で見ていたのと同じ太陽が水平線から昇る。
海風が吹く時刻になると、真っ白な海鳥たちが朝食の餌を求めて活動を始めた。
今朝の波は穏やかだった。前日のやや荒れた海原とは違って、
浅田はスターク軍曹との会見を終えて、神重徳首席参謀にいきさつを報告した。もちろん、停戦の仲介を頼んだことは口が裂けても言うつもりはない。
なぜなら、停戦は二一世紀の沖縄が旧アメリカ軍と戦う理由がないからこその発案であり、神大佐たちのようにもともと戦っている旧日本軍と大日本帝国には適用されないからだ。
しかも、菊水部隊に対して沖縄防衛の協力を願い出たのは自衛隊のほうからだった。
いくら菊水部隊の作戦任務が沖縄侵攻中のアメリカ軍を排除することにあったにしても、停戦後はそちらだけで戦ってくれとはとても言えないだろう。
「スターク軍曹は、いろいろ話してくれました。敵機動部隊が壊滅したことは信じてくれませんでしたが、いずれは判明することです」
「そうだよな。あと少しでスプルーアンス艦隊を全滅させられる。自衛隊の諸君には感謝しておるぞ」
神大佐が何やら意味ありげな口調で言った。
「あと少し……」
とは、何回かの海戦という意味なのだろうか。
浅田は疑問に感じたが、スターク軍曹との会見内容を詳しく聞かれると困るため、逆に詳しく聞くことができなかった。
艦橋に伊藤長官の姿はなかった。森下参謀長の話だと、仮眠を取っているのだという。有賀艦長の姿もなかった。同じく仮眠中だそうだ。
森下が浅田に話し掛けてきた。
「向こうはいいのかな?」
イージス艦『はくば』に戻らなくても支障はないのか、という問いかけである。
「一応、津島司令の許可は得ておりますので」
森下の口調もどこかおかしかった。森下にしても神にしても、何かを隠していて、浅田に知られるのがまずくて早く追い返したいというような意図が感じられる。
「お邪魔でしたら、これにて退散いたしますが」
停戦の案が
「そうか。津島海将補にはよろしく伝えてくれたまえ」
一〇分後には、浅田は連絡用のヘリに乗っていた。
上空へ舞い上がったときにあらためて見てみると、戦艦『大和』はまったく美しい艦であった。弱点であるはずの長大な艦首も、重厚なだけの巨艦のイメージを払拭して均整の取れたスタイル美をかもしだしている。
なにより、艦体の大きさに比べてこぢんまりとした艦上建造物群は、機能美もあわせ備えている。
浅田は以前に『大和』の設計に携わった松本
「戦艦『大和』のすごいところはね、大きさじゃありませんよ。七万トンという巨艦なのに、そう見えないほど小さくまとめたところが唯一の自慢ですかね」
そのとおりだった。松本が著書で述べているように、戦艦『大和』の本当の大きさは上空から見てみないとわからないのだ。
二〇キロ後方に位置している『はくば』まではほんの一〇分足らずだった。名残り惜しく振り返る充分な時間を与えられないまま、浅田はイージス艦『はくば』の後部甲板にあるヘリポートに降り立った。
すぐさま津島司令へ帰還の報告をするとともに、浅田は最後に感じた疑問を津島司令へぶつけてみた。
「というわけで、まるで追い出されたような格好だったのです」
「なるほど、それはおかしい。スターク軍曹やらとの密談内容を盗聴されていたのかもしれんな」
「盗聴ですか」
そうかもしれなかった。だから、神大佐も森下参謀長も会見内容を詳しく尋ねなかったのかもしれない。
「まあ、無事に戻ってきてくれてよかった。砲撃戦は充分に堪能できたかな?」
「はい。身体の芯まで熱くなることができました。この艦が貧弱に見えてなりません」
「おいおい、そこまで言ってくれるなよ」
津島司令が珍しく笑った。
五
安藤由紀は、一切の恐怖心を取り除かれたまま扉を押し開けた。
「えっ?」
この場所にこそ、由紀を呼ぶ者が待っているはずであった。
だが、二〇メートル四方の部屋の中には何もなかった。ただ、石版を発見した部屋と同様な正体不明の灯りに照らされた石の床が広がっているだけである。何かが置かれているわけでも誰かがいるわけでもなかった。
「でも、間違いなくここなのに……」
由紀は敏感に感じていた。呼び声の主の気配が大きくなっていることを。
壁も天井も丹念に見回してみたが、どこにもスイッチやレバーのようなものはなく、これまで通ってきた回廊をただ広くしただけの造りだった。
「おかしい。絶対におかしい!」
出入口も由紀が入ってきたところだけだった。つまり、ここが突き当たりの部屋であって、最深部であることに間違いはないのである。
由紀が
由紀は部屋の中央まで進んだ。中央の床に座って瞑想し、呼び声の主の気配をもっと感じてみようと考えた。
そのとき、中央の床にうっすらと何かの模様が描かれているのに気がついた。
模様はあまりにも大きく、石の床と同色なので入口付近からは見えなかったが、たしかに何かが描かれている。
由紀は予感した。描かれているものの中心部へ立ったなら、何かが起こるのではないかと。
予想は的中した。模様の中心部とおぼしき場所へ進んだとき、周囲の石壁がエメラルドグリーンに輝き始めたのだ。
そして、正面の壁に何かが投影されたのである。
それは人影のようでもあり、未知の獣の姿のようでもあった。ただ、由紀の心の中へ直接語りかけてきたのは言語という概念からは到底理解できないもので、いわゆるテレパシーとでもいうべきものだった。
由紀はひざまずいて、それを一言残らず素直に受け入れる。
「ええっ!」
ただし、最後の部分は由紀にも誰にも受け入れがたい内容だった。
「待って!」
メッセージが終了すると同時に投影されていた幻影も消え失せ、周囲の壁面の輝きが元の地味な色彩へと戻ってゆく。
由紀の叫びもむなしく、メッセージをくれた主は二度と現われなかった。
いつの世のどの地域でも、戦争がなくなることはない。人と人との争いは、いかなる場所でも続けられ、この先もなくなることは絶対にないだろう。
戦争という直接的な命の奪い合いでなくとも、人々は常に勉学や仕事の上で争っている。いや、争わされているといってもいい。
戦いに負けた会社や組織は倒産し、その社員や構成員は路頭に迷う結果となる。これも言ってみれば戦死のようなものかもしれない。
狭い地球上で数が増えすぎた人類は、絶えず食料が豊富に採れる土地を奪い合ってきた。過去に一度も戦争がなかったとしたら、二一世紀の世界人口はどれほどになっていただろうか。
現実の二一世紀ですら、年間に一五〇〇万人もの餓死者がいるのだ。
由紀は絶望感にさいなまれた。
「なぜ、あんなメッセージが……」
呼び声の主は由紀にこう告げていた。
「戦いの先頭に立て!」
その意味と意図は不明だった。ジャンヌダルクのように、戦場へ赴けという意味にも取れるし、戦争を止めさせるための戦いを始めよ、とも取れる。
後者のほうであってほしかったが、自分などにそのようなことができるとは思えない。明らかに伝える相手を間違えていた。そもそもこれは自衛隊の幹部に伝えるべき言葉ではなかろうか。
もちろん、由紀が自衛隊の幹部へ伝えることは可能だ。戦闘機のパイロットとして殉職した夫の上司へ伝えるのであれば、できなくはない。
しかし、こんな話を誰が信じてくれようか。古田隊長でさえも半信半疑になるのではないかと思う。
由紀が皆のところまで戻ったときには頭が混乱していて、気が変になる一歩手前の状態だった。
「どうでした、由紀さん?」
古田が待ちきれずに報告を促した。由紀は信じてもらえなくてもともとという気持ちで、すべてを話してみた。
「そうでしたか。それではとりあえずその地図の部屋まで行きましょう。暗いところばかりにいると、心まで沈んでしまいますからね。それに、古代の世界地図には興味があります」
皆で地図の部屋へ移動した。
そこには目を見張るものが待っていた。
「おおっ!」
「へえーっ!」
古田も藤崎も、皆に混じって感嘆の声を上げる。由紀が受け取ったメッセージのことなど、すっかり忘れてしまったかのようだった。
六
「レーダーに反応です!」
レーダー員が津島司令に大声で報告した。
アメリカ軍旧式戦艦部隊を撃破してから二時間あまり経っていた。
「新たな敵艦隊か!」
「いえ、反応は北方です! 航空機の大群と思われます!」
だとしたら、南九州の基地から飛んできた旧日本軍機の編隊だと思われる。
「援軍か。頼もしいな」
津島がそう思ったのは、ほんの一瞬だけだった。
その編隊が特攻隊だと確信するまでに、一秒も必要としなかったからだ。
「まさか! カミカゼは実行しない約束だったはずだぞ!」
ここに来て、神大佐たちが浅田一尉を『大和』から追い出したがった理由がわかった。津島司令と約束を交わした張本人である神大佐が、一方的にそれを破ったのである。
たしかに敵空母部隊が壊滅した今であれば、成功率は格段に高かろう。これまでは敵艦隊の姿も見えないうちにほとんどの特攻機が撃墜されていたことを考えると、約束を破りたくなる気持ちもわかる。
しかし勝ち目が見えてきた今になって若者たちに自殺攻撃を実行させる必要などありはしない。
まだ特攻隊と決まったわけではないが、『大和』へ問い合わせたとしても、神大佐は魚雷や爆弾を投下する通常攻撃だと言い張るであろう。
津島司令が沖縄の防衛に際して菊水部隊を利用したのと同様に、神大佐も自衛隊を利用して有利な展開へと持ってゆき、一気に戦局の挽回を図ったに違いない。
さすがに海軍一の切れ者といわれた人物だった。浅田の報告によれば、伊藤長官が仮眠中に浅田を追い出したというのだから、神大佐は津島司令も伊藤長官も手玉にとって、勝利を拡大するための戦略戦術を実行したに違いない。
井原情報参謀が津島司令の心情を理解してくれた上で言った。
「たとえ特攻隊だとしても、抗議することはなりません。それでなくとも、我々は七〇年前の戦争に関与しすぎたのです」
井原の言はもっともだった。これは自衛隊だけの戦いではなく、この時代の日本はもっと以前から戦っていたのだ。
沖縄戦で多くの特攻機が投入されたのは事実であり、その史実を完全に塗り替えていいのかどうか、井原情報参謀はそのことを津島に問題喚起していた。
「そうだな、彼らの戦いにまで口出しすべきではないのかもしれん。沖縄へアメリカ軍が上陸するという危機がほとんどなくなったからには、我々自衛隊は傍観者になるべきなのだろう」
最初からそうであるべきだったかもしれない。そういう意味では、与那城沖縄県知事の降伏論のほうが正しかったのかもしれない。
しかし、七〇年前の戦争にこれだけ関与してしまった後である。再びタイムスリップ現象が発生して二一世紀に戻れたとしても、それが以前と同じ世界であるとの保証はないのだ。
もしも三日前に戻れるものなら、津島はためらわずに与那城知事の降伏論に全面賛成したことだろう。
さらに、七〇年前の戦争に自衛隊が関与しすぎたせいで、二一世紀にはもう戻れなくなってしまった可能性もあるのだ。
「私が間違っていた。我々の攻撃で命を失ったアメリカ兵だって大勢いただろうな」
「それは司令のせいではありません。すべてはタイムスリップを引き起こした地震のせいなのですから」
井原の慰めも、津島にはむなしいものに聞こえた。誰に何と言ってもらおうと、沖縄県民と自衛隊員を二一世紀に戻れなくしてしまった責任は、津島にあるのだ。
「井原よ、私は自らを解任する。後任は石垣基地にいる航空自衛隊の
井原があわてて言った。
「何を申されます。このように沖縄は無事だったではありませんか!」
「いや、与那城知事の降伏論を受け入れていれば、多くの血を流さずとも済んだはずだ」
「ですが、ハワード准将がスプルーアンス大将へ説得に赴いても撃墜されたのですから、戦うしか選択肢はなかったでしょう」
津島は思わず苦笑した。辞任すると言い出してからというもの、井原の発言は明らかに矛盾を含んだものになっている。
津島の苦笑の意味を悟った井原が、途端に顔を赤らめていった。
「申し訳ありません。司令を混乱させていたのは私のほうでした」
「いや、いいのだ。おかげで決心がついたからね。今から『大和』へ打電する」
津島は、やってくる編隊が特攻機であった場合には帝国海軍と決別する、という
決意を聞いた井原情報参謀も、津島司令を止めようとはしなかった。
七
それに続いて、洋上航法を持たない陸軍の一五〇機が、海軍航空隊を先導役にして従っている。
総計三二〇機というのは、基地航空隊としてはこれまで最大の出撃数だった。
敵空母の壊滅という嬉しい知らせによって、今度こそはとの意気込みがエンジン音にも反映されているようだった。基地で見送る人々はこのうえない期待を込めて、離陸してゆく一機一機に手を振ったことだろう。
部隊は二時間弱の飛行の末に目標海域へ到達した。わずかに敵戦闘機の出迎えを受けたが、パイロットたちにとっては、それがかえって敵空母の壊滅という情報の正しさを証明しているように思えたに違いない。
部隊は目的海面の直前で散開し、数機ごとの小隊に分散しながら敵艦へと迫る。
眼下に見えるのは、巡洋艦以下の小型艦艇ばかりであった。戦艦や空母の姿はどこにも見当たらない。
「
互いに約束を交わしたのは、一撃必殺と書き込まれた日の丸の鉢巻をしめた、まだ二〇歳にもならない若い飛行士たちだった。
彼らは、めいめいが思い思いの目標を選び、天皇陛下万歳の言葉を残して機体ごと敵艦へぶつかってゆく。
陸軍機のほうは双発の爆撃機が中心だったから、命中された敵駆逐艦は途端に大爆発を起こして大破した。
ある軽巡には二機がほぼ同時に突入した。その軽巡は艦橋などの艦上建造物を一掃されて、ただの
日本の航空隊に向けて
何機かが対空砲火の
大型揚陸艦からロケット弾が次々と撃ち出され、炸裂煙のために青い空が真っ黒に染まってゆく。
めぼしい目標を選べなかった機は、狙いを揚陸艦や輸送船に絞った。輸送船上の上陸兵員たちの悲鳴の中へ、特攻機が容赦なく躍り込む。
次々と炎上爆発する輸送船に続いて、護衛の駆逐艦らも大破炎上していく。
すべての特攻機が攻撃を終えたとき、上空に残って見届けていた数機の教導機によって戦果は戦艦『大和』へともたらされた。
八
古田は驚いた。大きな台の上に山の高さまでが忠実に盛り上げられた巨大な立体地図が目の前にある。南アメリカとアフリカがくっついていて、北アメリカが横を向いているのだ。
いわゆるパンゲア大陸と呼ばれているものだった。この状態は恐竜の全盛期だったジュラ期あたりまで続き、それ以後に現在の配置へと大陸が移動したと考えられている。
「まさか!」
古田はこの立体地図が重大なことを告げていると感じた。
「なぜ古代人がこのような地図を作る必要があったのか」
人類が出現したとされている時期よりも、はるか以前の地図である。
「そんな時代の地図が古代人に必要だったということは……」
答えはひとつしかなかった。回廊の壁画にあったように、恐竜と人類が共存していたと考えるしかない。
もちろん恐竜と人類の化石が同じ地層から発見されたことなどないのだから、仮に共存していたとしてもムー大陸に限られていたのかもしれない。
これだけでは証明にならないかもしれないが、ピラミッドそのものも含めて、これは世紀の大発見に違いなかった。
しかし、皆の興奮をよそに安藤由紀はひとり浮かない表情をしていた。
「ああ、そうか。戦いの先頭に立てということでしたね」
興奮のあまり、古田はすっかり忘れていた。
「言葉どおりに受け取れば戦場へ行けということになるのですが、そんなことは私にはできませんし、それだけでわざわざ呼んだりはしないと思うのです」
「そうだろうね。もっと深い意味があるはずですよ。ともかくその部屋まで行ってみて、そのときのことを再現してみるしかないでしょう」
調査隊の一行は、最深部の部屋に足を踏み入れた。
「真ん中に立ったとき、周囲の壁がエメラルドグリーンに光り始めて、正面に何かがぼんやりと浮かんだのです」
由紀が皆に説明した。
「何かといいますと?」
「生き物でしたけれど、人間のようでもあり獣のようにも見えました」
「絵に描けますか」
「ええ」
由紀は思い出しながら簡単なスケッチを描いた。
古田は完成したものを見て、再び驚く。
「これはスフィンクスですよ!」
スフィンクス。いうまでもなくエジプトにあるギザのピラミッドを守護しているという、人間の顔とライオンの身体を持つ神獣である。
だが、ピラミッドとスフィンクスとの関係は今もって謎のままであり、スフィンクスが造られた目的と年代もわかっていないのだ。
しかし、ここもピラミッドである。スフィンクスが関係していたとしてもおかしくはなかった。
「古田隊長、ちょっといいですか」
藤崎が口を挟んだ。軽い感じの青年だと軽蔑気味に見ていた古田だったが、ときに鋭い指摘をするので見直していたところだった。
古田がうなずくと、藤崎が意見を述べた。
「ギザのスフィンクスの足には大洪水の跡があると、この前テレビの番組で言っていましたよ。隊長はこのピラミッドが、大切なものを水没から守るために造られたって、前におっしゃいましたよね」
古田は、藤崎がみなまで言わないうちに悟った。
「そうだよ、それだよ!」
戦いの先頭に立て、の意味がわかったのだ。
古代人にとっての戦いとは、人類を洪水から守ることだったのだ。
とすれば、先頭に立てというのは、水没していた状態から浮上させることを意味するのではなかろうか。
だが、地震によって遺跡とピラミッドはすでに浮上しているのだ。ムー大陸全体ではないものの、一部は実際に浮上しているのである。
どこか整合性に無理があった。ムー大陸全体を浮上させるなど、由紀はおろか誰にもできようはずがない。
考えがそこでストップしたとき、藤崎がまた言った。
「何か古代人にとって大事なものが、付近の海に沈んだままなのでは?」
「おお、そうかもしれないな。由紀さんは何か感じないかね?」
由紀がかぶりを振った。もう何も感じないのだという。
古田は困った。付近の海といってもこの調査隊では何もできないし、だいいち何を探せばいいのかわからない状態で海中捜索をしても、意味がない。
「待てよ」
藤崎がつぶやいた。
「どうした?」
「いえね、予言なのかもしれないとふと思ったので……」
なるほど、と古田は思った。
大事なものは太古の時代に沈んだのではなく、これから沈むものをどうにかせよと言っているのであれば、先頭に立ての意味がより強くなる。
古田はますます藤崎を見直した。だてに大学を卒業してからも考古学研究会に出入りしていたわけではなかったようだ。
とはいえ、阻止すべきものは不明なままであった。こういうときこそ頼りになりそうな巫女も、今は普通の女性である。
「一度ピラミッドから出よう。体を休めてから考えようじゃないか」
古田の提案に、全員が賛成した。途中の回廊で二時間ほど仮眠を取っただけで朝の時刻を迎えているのだから、誰もがクタクタのはずだった。
どうにか最初のところまで戻ってくると、回廊には外からの光が差し込んでいた。
「やっぱり開いているな」
ピラミッドの主が由紀にメッセージを伝え終えたのだから、開いているはずだと思っていた。
外へ出た途端、藤崎のラジオ内蔵の懐中電灯から、琉球放送のニュースが流れてきた。
「今日未明、核弾頭数発を搭載していると思われる中国の原子力潜水艦が、アメリカ軍によって撃沈された模様です」
ニュースを読んでいるのは、若い男性アナウンサーの声だった。
「航空自衛隊の偵察機からの報告によりますと、核爆発の形跡は確認されておらず、弾頭は同海域に水没しているものと思われます」
アナウンサーが、淡々と続ける。
「陸上自衛隊爆発物処理班の話では、核弾頭は常に爆発の危険に
九
「司令、『大和』から返電です!」
横田作戦参謀が、通信士から受け取った電文の発信者を確かめてから言った。
「読み上げてくれ」
津島司令は艦橋の窓から、穏やかな春の日差しに照らされた海原を眺めていた。こうしていると戦場にいるのが現実のこととは思えなかった。
「では、読み上げます!」
日本軍機の編隊が特攻隊だった場合、菊水部隊と決別するという電文に対しての返電である。
「貴艦よりの電文を受理せり。心残りなるもいたしかたなし。健闘を祈る」
ただそれだけだった。約束違反の謝罪もなければ、決別を引き止めようともしていない。
「おそらく、伊藤中将はこちらの電文をまだご覧になっておられんのだろう」
「では………」
「神大佐だよ。この返電を送って寄越したのは」
「まあ、空母部隊を壊滅させたのですから、あとは独力で戦えますって言いたいのでしょうね」
「そんなところだろうね。こちらも助かったのだから、これ以上の文句を言うつもりはない。そもそもが、利害が一致しただけの関係だ」
「別々の世界にいるべき関係でもありました」
「すべてはタイムスリップのせいか……」
「そうですよ。我々や沖縄県民が戦うことになったのは、タイムスリップのせいです」
「いや、少し違うかもしれんぞ。七〇年前に日本が戦争をしていなかったなら、戦わずに済んだともいえる」
津島は、どうにもできないことに心を砕くのはこれでやめることにした。考えても考えても、解決するとは思えないからだ。
それよりも、津島司令にはひとつ大切な任務が残されていた。
「ところで横田、井原、それに須貝も聞いてくれ」
津島は三人の幕僚にこれからのことを告げた。
「この先どう扱うかは別として、中国の原潜が搭載していたと思われる核弾頭を引き上げて回収しなければならない。しかし、もしものときには沖縄本島が吹き飛びかねん」
核弾頭はデリケートなものだ。数発が一度に炸裂すれば、沖縄海域が放射能汚染されるばかりではなく、唯一二一世紀の世界である沖縄本島にも直接の被害が及んでしまう。
「それで、具体的にはどのような方法で?」
横田作戦参謀が代表して尋ねた。
「爆弾処理班とダイバーが必要だ。自衛隊のダイバーは沖縄にも我が艦隊にもいないから、海上保安本部に頼まなくてはならないな」
「沈没箇所を特定するには、高性能の潜水艇も必要ですよ」
言ったのは須貝三尉だった。
「そうだな。ならば海上保安本部への協力要請は不可欠事項だ。三人で手分けをして、数日のうちに実行段階まで漕ぎつけてほしい」
もしかしたら海上保安本部でも引き上げ回収の必要性を論じているかもしれなかったが、今のところ自衛隊への協力要請はない。
「あ、ちょっと待て。在日米軍への協力要請も忘れるな」
艦橋を去ろうとする三人を呼び止め、津島は協議相手に在日米軍を追加した。核弾頭の処理は、核保有国の軍隊のほうが詳しいと思われるからである。
津島司令は再び海面を眺めた。
戦艦『大和』を旗艦とする菊水部隊が水平線の向こう側へ消えて行ったとき、戦争していたのは本当に現実だったのかとあらためて感じた。