とおせん棒
私は「ザア」というものについて調べている。
沖縄県宮古島地方に伝わる怪異である。
男に強い愛憎を持つ女が
次の話はカンカカリャ(宮古島で霊能力を持つ者のこと)の方からお聞きした「ザア」の一種と思われる話で、現在、相談を受けている建設業・三十代男性の体験である。
男性の働いていた現場から自宅までの道に、
廃墟であるが、廃墟というほど建物の痕跡はなく、扉も窓も門もない。
ただコンクリの外郭だけが残った箱が、ボオボオの草むらの中にポツンとある。
元は喫茶店だったらしいが詳細は不明である。
その建物の前を通る時は、いつもなぜか嫌な感じがした。
廃墟の中にはたまに線香を焚いた跡や、なにかを燃やした痕跡があり、それも不気味であった。
だから廃墟の前は足早に通り過ぎているが、それができなかった時がある。
その日。
男性は仕事を終えて帰途についていた。時刻は二十二時をすぎていた。
いつもの廃墟の前に差し掛かろうという時、男性は足を止めた。
廃墟の中がぼんやりと明るいからである。
注意深くうかがったが、そこからでは廃墟の側面しか見えず、中の様子はわからない。
若者たちが中でたむろっているのか。いやだ、いやだ。絡まれてはたまらない。
道を変えようと
すると、廃墟から人が出てくる気配があったので振り返ると、道に女性が立っている。
服を着ているようには見えず、股間のあたりがなぜか鈍い光を放っている。
両手には一メートル半ほどの棒を持っており、それを横にして道を塞ぐようにしていた。
顔をよく見ると知っている女性によく似ている。
勤め先の元事務員で四十代後半。暴言や奇行が目立ち、他の社員とのトラブルが絶えなかったので解雇されていた。
男性は何度も食事に誘われており、明らかに好意を持たれていたが、きっぱりと断っていた。
「やめなさい、やめなさいよ」
男性は女性を説得したが反応はない。
しばらく女性とにらみ合うようにしていたが、急に恐ろしくなって、男性はその場を走り去った。
その後、男性は原因不明の体調不良が続き、病院の検査で深刻な病が見つかった。
あの女に呪われたのだと男性はたいへん怯えていたという。