死んでほしい
あかりさんが高校時代の話である。
同じクラスに加藤という危険人物がいた。
見た目はどこにでもいる普通の男子高校生。子供が大好きで、夢は保育園の先生。
ここだけ聞くと好青年のイメージだが、彼は若くして「恋愛対象は幼稚園児」だと公言してはばからない異常な人間であった。
あかりさんは彼の斜め後ろの席で、たびたびその偏執的な部分を垣間見ていた。
授業中に先生がなにかの流れでミヤザキツトムの名前を出すと、加藤は自らの口を手でふさぐと肩を震わせ、こみあげる笑いを抑えていたという。世間を震え上がらせた幼女誘拐殺害事件の犯人の名前のどこに笑う要素があるのか、あかりさんには理解できなかった。
幼児が好みというだけで要注意人物だが、加藤は嗜虐的な欲求の対象としても見ている節があった。こういう性癖を彼は一切包み隠そうとせず、あまりに明け透けに周囲に語るので、はじめは誰もがふざけているのだと思うのだそうだ。そして、彼が本気なのを知ると、避けるようになる。
加藤はそう遠くない日、絶対に性犯罪で捕まるだろうとあかりさんは思っていた。
幸い、卒業後もそんなニュースは聞かず、彼のことも忘れたまま数年が経った。
あかりさんは専門学校を卒業後、夢の海外留学のために実家暮らしを続けながらバイトの日々を送っていた。
ある日、バイト帰りに高校時代の同級生と偶然会い、思い出話が尽きなかったので、そのままあかりさんの家で続きを話すことになった。
卒業アルバムや修学旅行の写真を見ながら学生時代を懐かしんでいると、
「うえっ、加藤いんじゃんよ」
友達が修学旅行の写真の一枚をあかりさんに見せてきた。
あかりさんと数名の女子が揃ってポーズをとっている一枚。その後ろにいる男子生徒の顔だけが、なぜか指でこすって伸ばしたみたいにブレている。でも、加藤だとわかった。
「うーわ、ほんとだ。なんで気づかなかったんだろ」
「こいつ写ってるの、全部こんなんじゃなかった?」
そうだ。加藤の顔だけこんな風にブレて写っていて、女子からは心霊写真だと気味悪がられていた。
「これ、わざとだよ絶対」
きっとカメラを向けられたら、シャッターを切る瞬間に顔を大きく振っていたのだろうと、友達は言う。そうでなければ、全部がこんな写真になるわけがないと。
歪んでいる男だな、あかりさんは思った。
みんなの思い出の中にまで、こんな気持ちの悪いものを残していくなんて。
友達の言うように、これは嫌がらせだ。
本当に陰険で気持ちが悪い男だ。あかりさんは吐き気を覚えた。
「早く捕まって死刑になってほしいわ」
友達は顔をしかめ、加藤への嫌悪をむき出しにし、続ける。
「どうせそのうちなんかやるし、あいつ。子供生まれて、あんなのに目ぇつけられたらと思うとゾッとするよ。この写真見てるだけでムカついてきたんだけど」
「じゃあさ、こうしたらよくない?」
あかりさんはハサミを持ってきて、自分と友達のところを写真から切り抜いた。
他は丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「あかりっ」
その晩、眠っていたところを激しくゆすり起こされた。
友達が慌てた様子で何かを伝えようとしている。
部屋の中が、薄く白く煙っている。
かじぃ、かじぃ、と友達が叫んでいるので、「火事!?」と起き上がった。
火は出ていなかった。
煙に気づいて友達が開けたのか、窓が全開になっている。そこから煙が逃げていた。
煙が外に吸い出されると、煙はゴミ箱から発されていることがわかった。
手近にあるペットボトルを掴むと、飲みかけのお茶をゴミ箱の中にシャバシャバとかけ、洗面所からもコップで水を汲んできて何度かかけると煙は立たなくなった。
火元は不明だが、写真から切り抜いた加藤の顔が焼けていた。
あかりさんと友達は泣きながら抱きあった。
気づかずに寝ていたら、二人とも死んでいた。
「加藤だよ。あいつが私たちのこと殺そうとしたんだよ。この写真から私たちの話を聞いてたんだよ、あいつに焼き殺されるところだったよ」
信じられないようなことを、友達は唇を震わせながら訴えてきた。
確かに、煙草を吸わない自分たちの部屋から火が出た理由がわからない。
思い出の中から蘇った加藤は、以前にも増してさらに不気味な存在になってしまった。