さんぼんあし



 福祉関係の仕事をしている女性からお聞きした。


 その日は朝からどうもやる気が起きなかった。身体がだるく、熱はないが風邪をひきそうな予感がある。念のために仕事は休みをとった。

 昼過ぎぐらいまで寝て目覚めたら、すっかり体調がよくなっていた。

(これなら、今夜は予定どおりいけるかな)

 夫にLINEを送ろうとスマホを探していたら、それの存在に気づいた。

 アイランドキッチンのカウンターの上に、変な人形が浮いている。

 白い人の形で、たっけいのように両腕を横に伸ばして「T」の字を作っている。

 手足が短くずんぐりむっくりしており、砂を詰め込んだ軍手のようなものだった。

 夫が吊り下げたのか。だが、なぜこんな場所に?

 ボージョボーとかブードゥーとか呼ばれる呪術人形のようなものか。

 〇〇成就祈願みたいな効果があるのだろうか? それともドリームキャッチャーみたいな魔除けの効果があるとか?

 夫なりの願掛けなのかもしれないが、あまり趣味はよくない。

 近くで見ようと近づくと、それは横にすーっと滑るように移動し、キッチンカウンターの反対側にいってしまった。

(これ動くんだ? てかなに? どうやって動いてるのこれ?)

 吊り下げる糸のようなものも見えない。どんな仕掛けだろうとまじまじと見つめていると、ぴんと伸ばして閉じている足を、ゆっくり広げた。コンパスのように広げた二本の脚の股の間から、ぴょこっと小さいものが現れる。

 それは、ぴょこ、ぴょこ、とかわいく動いて、アピールしているみたいだった。

「ち×ぽ?」

 声に出したら笑ってしまった。

 真ん中の突起は灰とも緑ともつかぬ腐ったような色になっていく。

 よく見るとそれは性器の形をしてはいない。

 小さな足である。

 股の間から出ているのは、乳幼児の足だ。

 そうだとわかった瞬間、そのへんなものがおぞましく見えた。

 それはやがて、眼鏡のレンズの曇りみたいに白くぼんやりして見えだし、こちらの焦点が合っていないのか、向こうが輪郭を曖昧にさせているのかわからなくなる。

 そして、一瞬だけ目を離している間にいなくなってしまった。

 薄暗い感情だけが胸に残り、それから一度吐いた。

 その時は妊活中だったが、夫とよく相談して時期をずらすことに決めたという。